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幻想小説神髄 東雅夫編 |
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アンソロジー(国内編集者) | 出版月: 2012年08月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
国書刊行会 2012年08月 |
No.1 | 7点 | おっさん | 2013/01/21 10:49 |
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全3冊よりなる、ちくま文庫のアンソロジー<世界幻想文学大全>の、本書は幻想(ファンタジー)篇。なんですが・・・う~む、俺の知ってるファンタジーとはだいぶ違うw
収録作は――①「天堂より神の不在を告げる死せるキリストの言葉」ジャン・パウル ②「ザイスの学徒」ノヴァーリス ③「金髪のエックベルト」ルートヴィヒ・ティーク ④「黄金宝壺」E・T・A・ホフマン ⑤「ヴェラ」ヴィリエ・ド・リラダン ⑥「アウル・クリーク橋の一事件」アンブローズ・ビアス ⑦「精」フィオナ・マクラウド ⑧「白魔」アーサー・マッケン ⑨「光と影」フョードル・ソログープ ⑩「大地炎上」マルセル・シュウォッブ ⑪「なぞ」W・デ・ラ・メア ⑫「衣裳戸棚」トーマス・マン ⑬「バブルクンドの崩壊」ロード・ダンセイニ ⑭「月の王」ギヨーム・アポリネール ⑮「剣を鍛える話」魯迅 ⑯「父の気がかり」フランツ・カフカ ⑰「沖の小娘」J・シュペルヴィエル ⑱「洞窟」エヴゲーニー・ザミャーチン ⑲「クレプシドラ・サナトリウム」ブルーノ・シュルツ ⑳「アレフ」ホルヘ・ルイス・ボルヘス 格調高いなあ。剣と魔法の物語――いわゆるヒロイック・ファンタジーは一切オミット。ジャック・フィニイやレイ・ブラッドベリら、SFよりの(筆者的には一番好みの)作品群も、はなから編者の眼中になし。入門書としては敷居が高すぎませんか、これ? いきなり、宗教的な夢物語の巻頭作で挫折しかけましたよ ^_^; この機会に、ノヴァーリス、ホフマンら有名なドイツ・ロマン派を初体験したり、カフカ、ボルヘスといった苦手な巨匠の噂に聞く短編を読了できたりしたのは、ジャンル・アンソロジーの有難味として素直に感謝しますが、さてそれらが面白かったかというと・・・長すぎるw あるいは、読みにくいww または「訳がわからないよ」www 結局、筆者は、どんでん返しや謎解き/種明かしで、結末にいたり全体の意味が明らかになるタイプの話が好きな、根っからのミステリ者なんですよね。 だから集中、もっともよくわかるのが、⑥「アウル・クリーク橋の一事件」や⑰「沖の小娘」だったりする。どちらも再読ですが、しかしオチがわかっていても、語りくちとイメージの鮮やかさで、充分読み返しがききました。単なるワン・アイデア・ストーリーではない。ことに前者は、広義のミステリ・ファンなら一度は目を通しておくべき傑作です。以降、さまざまなジャンルで流用されたサプライズ・エンディングのパターンの、原点にしてこれが決定版ですから(島田荘司が、某長編で臆面もなくこの○番煎じをやっていたのには、唖然とした憶えがあります)。 そんなわけで、「訳がわからないよ」タイプのお話は苦手なんですが、好みはさておき、凡作と傑作の見極めくらいはつくわけで、本書収録作のレヴェルが無茶苦茶高いであろうことは、わかります。 ⑯「父の気がかり」や⑳「アレフ」は、それでも素直にホメてあげたくないのですがw 七人の子どもたちが、いっしょに暮らすお婆さんの屋敷から、一人また一人と消えていく⑪「なぞ」となると・・・完全降伏、マイリマシタと言うしかありません。 影絵というモチーフを通して、幻想が現実を浸食する怖さを親子の世界に凝縮した⑨「光と影」も、集中、一、二を争う傑作でしょうね。サイコ・ホラーを思わせる結末は、曽野綾子の名作「長い暗い冬」に通じるものがあります。そのどっちも好きじゃないけど、まあ、認めざるをえないw <世界幻想文学大全>を通読してあらためて思うのは―― 東雅夫さん、このかたは確かにすぐれたアンソロジストなんですが、筆者とは相性が悪いんだよなあ。まったく感性が違う。 文芸よりの東さんと、もうひとり、エンタメよりの誰かがいないと、ジャンル普及のバランスがとれないのじゃないか。 とくに幻想(ファンタジー)篇は、誰か頑張ってトライしてほしいなあ。異世界で活躍する美少女の冒険とか、時を超えたロマンスとか、是非、傑作を読ませてくださいwww |