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怪奇文学大山脈Ⅱ
荒俣宏編
アンソロジー(国内編集者) 出版月: 2014年06月 平均: 8.00点 書評数: 1件

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東京創元社
2014年06月

No.1 8点 おっさん 2014/11/23 12:50
知の巨人(あるときは学者、またあるときは作家、そしてまたあるときは翻訳家――ときどきTVタレントw)荒俣宏氏の、怪奇者としての編集・執筆活動の集大成ともいうべき、巨大アンソロジーの第二巻は、前巻の【19世紀再興篇】を受けて、副題に「西洋近代名作選【二〇世紀革新篇】」と謳われています。
二〇世紀前半の、編者こだわりの未訳作品を中心としたセレクトで、怪奇小説黄金時代を追体験させる試みで、例によって、豊富な図版(モノクロなのが残念ですが)とヴォリュームたっぷりの「まえがき」(今回は、“怪談”から“怪奇小説”へという、我国におけるジャンルの呼称の変遷をめぐるエピソードが興味深い)、そして詳細な「解説」(長年の蓄積に裏付けられた、個々の作家・作品をめぐる情報の厚み! あえて難を云えば、近年の邦訳状況への言及が不足していること)が付されています。
収録作品は――

ヒチェンズ「未亡人と物乞い」、クロフォード「甲板の男」、ホワイト「鼻面」、マイリンク「紫色の死」、エーヴェルス「白の乙女」、ボッテンペッリ「私の民事死について」、ベリズフォード「ストリックランドの息子の生涯」、コッパード「シルヴァ・サアカス」、ハートリー「島」、マッケン「紙片」、デ・ラ・メア「遅参の客」、オニオンズ「ふたつのたあいない話」、ハーヴィー「アンカーダイン家の信徒席」、メトカーフ「ブレナー提督の息子」、ウォルポール「海辺の恐怖―――瞬の怪談」、ウエイクフィールド「釣りの話」、ウォーナー「不死鳥(フェニックス)」、サーフ「近頃蒐めたゴースト・ストーリー」

前巻から通して読むと、素朴な――という表現が悪ければ、ストレートな――怪談が、技巧的な怪奇小説に変化していったさまが、如実に窺えます。
巻頭に置かれた、ロバート・ヒチェンズの「未亡人と物乞い」は、その意味で象徴的。恨みを残した魂魄がこの世にとどまり、原因となった未亡人の前に幽霊となって現われる――わけですが、作話上の仕掛けで、当の彼女にはそれが幽霊であることが分からない、しかし、幽霊を見ることの出来ない視点人物(読者代表)には、彼女の“見ている”それが、まぎれもない幽霊であることが分かってしまう。そして怖くなる。“透明怪談”(作者ヒチェンズには、「魅入られたギルディア教授」という、同テーマの正攻法の作例もあります)のヴァリエーションとして、まことに巧妙で、筆者としては本巻のベスト3に入れます。

こうした技法がさらに洗練されると、解説のなかで荒俣氏も指摘されているように、そもそも怪異があったのかどうかすら判然としない、ウォルター・デ・ラ・メア流の“朦朧法”になるわけですが・・・
その、すべてを暗示にとどめる行きかたは、ときにもどかしいw
編者絶賛の(しかし荒俣氏は、ストーリーの解釈上、ひとつ明らかに大きな勘違いをされています。なぜ編集者はチェックしない?)、ジョン・メトカーフの「ブレナー提督の息子」などは、怖さの対象が、本来の怪奇現象(?)から、それを受け取った側にスライドする見事な試みで、なるほど確かに傑作といって差し支えないとは思うのですが、でもミステリ者としては、回収されない(思わせぶりな)伏線の数かずにイライラしてしまうwww
幾つかの収録作では、“進化”した怪奇小説の孕む問題点(フツーのエンタメ読者からの乖離)も、同時に浮き彫りになっている気がします。

チマチマした話ばっかりなの? もっとこう、幽霊や怪物がバーンと出てきてゾクゾクさせられるようなのが読みたいんだけど――という向きにお薦めなのは、マリオン・クロフォードの「甲板の男」(強い南風の夜、外洋航海船から消えた水夫は、海の藻屑となったはずだったが・・・)やE・L・ホワイトの「鼻面」(謎めいた富豪の屋敷に押し込んだ、三人組の前に次々と現われる異形の部屋。その最深部に待ち受けていたものは・・・)でしょうか。

そうした重厚感のある力作とは別に、筆者の好みで、スタンダードな怪談路線からひとつ選ぶとすれば、H・R・ウエイクフィールドの、切れ味鋭い「釣りの話」になります。怪しい状況(絶好の釣り場に思えるのに、なぜかガイドが「あそこでは釣れません」と案内をしぶる、深い淵の存在)が設定され、クライマックスへ向けて展開し、ついに主人公の前に人外のものが出現するわけですが・・・短いセンテンスを畳みかけ、一瞬の、しかし激しい遭遇を、コマ送りのように読者の脳裏に焼き付けます。結びの一行も、至芸というしかありません。“最後の怪奇小説作家”と称される、ウエイクフィールドの噂は、かねてから耳にしていましたが、実作を読むのは今回が初めて。なるほど、さすがの筆力です。創元推理文庫から出ている、個人短編集『ゴースト・ハント』も是非読まなければ。

英米作家にまじって、オーストリアのグスタフ・マイリンク、ドイツのH・H・エーヴェルス、イタリアのマッシモ・ボンテンペッリといった異色の顔触れが競演しているのも、ジャンル・アンソロジーの愉しさですね。このヴァラエティは、往年の『新青年』の、欧米エンタメ小説の取り込みの再現であり、あらためて同誌の目配り、その先進性に思いがいたります。

そうそう、異色といえば、また違った意味で、シルヴィア・タウンゼンド・ウォーナーなるイギリスの女流作家の、「不死鳥(フェニックス)」にも触れておかねば。鳥の飼育が趣味の資産家が、アラビアで見つけた本物のフェニックスをめぐる騒動記で、これはどう考えても怪奇小説じゃない。人それをファンタジーと呼びますw 偏愛の作品をしれっと本巻に紛れこませ(第三巻に収録予定だったものが、繰り上がったその事情はさておき)、ニヤリとしている荒俣さんの顔が目に浮かぶようです。でも、面白いでしょ? と言わんばかり。ハイ、面白うございました。ユーモアに富んだ語りくちに乗せられ――急転直下の結末に、思わず口あんぐり。怪奇小説の変遷だとか、技法の進化だとか、み~んなどこかへ行ってしまいましたwww
(ここで声が小さくなる)本音をいえば、こういう、肩の力の抜けた良い作品を、怪奇小説のほうからもっと拾って欲しかった、かな。


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