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クイーンの定員Ⅱ 各務三郎編 |
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アンソロジー(国内編集者) | 出版月: 1984年06月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 2件 |
光文社 1984年06月 |
光文社 1992年03月 |
光文社 1992年04月 |
No.2 | 6点 | 弾十六 | 2018/12/30 22:23 |
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1951年出版のEQコメント付き傑作リスト。日本版はそのリスト(1969年改訂の#125まで。EQコメントは一部のみの翻訳、各務 三郎による解説付き)と、リストに挙げられた短篇集からセレクトした短篇を収録。(ハードカヴァー1984年、全3巻; 文庫1992年、全4巻)
Ⅱ(文庫版)の収録作品は、 ⑴外務省公文書(クリフォード・アッシュダウン)、⑵千金の炎(アーノルド・ベネット)、⑶緋色の糸(フットレル)、⑷当世田舎者気質(O・ヘンリー)、⑸英国プロヴィデント銀行窃盗事件(オルツィ男爵夫人)、⑹モアブの暗号(フリーマン)、⑺折れた剣の看板(チェスタトン)、⑻ドイツ大使館文書送達箱事件(ホワイトチャーチ)、⑼ナイツ・クロス信号事件(ブラマ)、⑽シナ人と子供(トマス・バーク)、(11)ナボテの葡萄園(ポースト)、(12)偶然の一致(J. ストーラー・クラウストン)、(13)チョコレートの箱(クリスティ)、(14)文法の問題(セイヤーズ)、(15)ウィルスン警視の休日(コール夫妻)、(16)ベナレスへの道(ストリブリング)、(17)ドアの鍵(アンダースン) アンソロジーを一気に読むのは無理。暫定評価を6点として、各作品を読了後に更新してゆきます。なお初出はFictionMags Index調べ。 (2018-12-30記載) ⑴ The Adventures of Romney Pringle[2] The Foreign Office Despatch by Clifford Ashdown (Cassell’s Magazine 1902-7 挿絵Fred Pegram) 深町 眞里子 訳: 評価5点 ロムニー・プリングルもの。ルーレットの場面から始まる話。前段でカモの情報を仕入れるところから描くとさらに良かったと思う。 p11 八十ポンド: 英国消費者物価指数基準1902/2020(123.72倍)で£1=17554円。£80は140万円。 p27 ゴルゴンゾラ・ホール: Gorgonzola Hall 大理石の模様がゴルゴンゾーラチーズに似ていたらしい。昔のカラー写真がWebに見つかりませんでした。 (2020-3-29記載) ⑵ The Loot of the Cities. No. I.—The Fire of London by Arnold Bennett (Windsor Magazine 1904-6 挿絵John Cameron) 山本 光伸 訳: 評価7点 シリーズ第1作。これはやられた。文章が上手くて、展開が良い。続きも読みたいですね。 現在価値は英国消費者物価指数基準1904/2020(122.39倍)、£1=17365円で換算。 p44 九シリング六ペンス: 8248円。小道具の値段。 p44 二ポンド十五: 47754円。従業員への手間賃。 p45 イギリス銀行の千ポンド札: 1737万円。Bank of England Noteの最高額面だが非常に高額。White Note(白地に黒文字、絵なし。裏は白紙)、サイズは211x133mm。1945年廃止。 (2020-3-29記載) ⑶The Scarlet Thread by Jacques Futrelle (多分Boston American紙が初出 1905) 別題Mystery of the Scarlet Thread 宮脇 孝雄 訳: 評価5点 思考機械もの。新聞記者ハッチを手先にして推理します。並みの作品ですね。キャベルの行動がいまいち理解出来ないのですが、隠された意味があるのでしょうか。格闘シーンで教授がぶっ飛ばされたら面白いのに、と思いました… p61 バックベイ地区 (the Back Bay): 19世紀の立派な建物が並ぶボストンの高級住宅街 p62 照明はガス又は電気が選べる: 高級住宅街らしく電化が進んでいます。 p71 時間記録機がありまして… (There’s a time check here): タイムカードは1900年ごろの発明らしい。 p86 月200ドルのアパート代(I pay two hundred dollars a month): 消費者物価指数基準1905/2018で28.53倍、現在価値63万円。間取りはバス付きの2、3部屋。すごい高級住宅ですね… (2018-12-30記載) ⑷Modern Rural Sports by O. Henry (短篇集1908)「当世田舎者気質」小鷹 信光 訳: 評価5点 ジェフ・ピーターズもの。当時からノスタルジアを掻き立てるのが上手な作者。最後の遊びを知ってるとなお面白いだろう。某Tubeにアップされてるので知らない人は是非見てください。 (2022-10-2記載) ⑺The Innocence of Father Brown: The Sign of the Broken Sword (Saturday Evening Post 1911-1-7) 深町 眞理子 訳: 評価5点 評は『ブラウン神父の童心』を参照のこと。 (2018-12-30記載) ⑻The Affair of the German Dispatch-Box by Victor L. Whitechurch (多分Pearson‘s Weeklyが初出か。単行本Thrilling Stories of the Railway 1912) 浅倉 久志 訳: 評価5点 ソープ・ヘイズルもの。ややメカニカルな解決なので趣味に合わず。変テコな属性たっぷりの探偵にも魅力なし。この車両は通路なしのコンパートメント独立式(進行中は他のコンパートメントに移れない。直接コンパートメントのドアから地上に出入りする車両)なので、車両の両側の窓のどちらでやるか、が重要なポイントだった。 (2020-2-16記載) ⑼The Knight’s Cross Signal Problem by Ernest Bramah (News of the World 1913-8-24と翌号(2回連載) 連載タイトルThe Mystery of the Signals) 池 央耿 訳: 評価7点 マックス・カラドスもの。謎の解明やトリックには感心しないが、意外にも社会への切り込みがしっかりしていてビックリ。流石カイ・ルンの作者。 p240 指で印刷インクを読む: 本当に可能なの? p259 スズメの叉骨(メリーソート)を象った金のブローチ: merrythoughtはラッキーアイテムとして使われているようだ。 (2020-2-16記載) (10)The Chink and the Child by Thomas Burke (Colour 1915-10) 大村 美根子 訳: 評価5点 ロンドンの裏の顔。英国人にはエキゾチックな話として面白いかも、だがアジア人たる我々にとっては違和感を覚えざるを得ない。でもエキゾチックってそんなものだろう。リアリティが感じられるのは作者がチャイナタウンの近くで育ったからか。 初出のColour誌は現代アートが天然色で掲載された52ページのタブロイド。1シリング(=734円) p288 ファン・タン: Fan-Tan、広東語で「番攤」Wikiに「ファンタン」として記載あり。 (2020-2-18記載) (12)Coincidence by J. Storer Clouston (初出不明 単行本Carrington's Cases 1920) 池 央耿 訳: 評価8点 キャリントンもの。これは面白い。上手な語り口と構成。人に話したくなるような話。 p325 矢じりマークの囚人服: broad arrowは1870年代から1922年まで英国囚人服のマークとして採用されていた。Wiki “Prison uniform”に画像あり。 (2020-2-18記載) (13) The Grey Cells of M. Poirot XII. The Clue of the Chocolate Box by Agatha Christie (初出Sketch 1923-5-23) 深町 眞理子 訳: 評価6点 『ポアロ登場』参照。翻訳は深町さんのがずっと良い。特にp382「俗世との縁を切った(no longer of this world)」、ただしp376「錠剤はチョコレートでできている(tablets were of chocolate)」は「チョコレート色」だと思います。(スーシェ版TVドラマを観たらチョコレート「糖衣」で正しいようだ。薬にチョコレートを使うとは思わなかった…) (2020-3-1記載; 2020-3-9訂正) (14)The Entertaining Episode of the Article in Question by Dorothy L. Sayers (Pearson’s Magazine 1925-10) 宇野 利泰 訳: 評価5点 ウィムジイもの。ネタはつまらないが、ピーター卿の会話が楽しい作品。バンターとのコンビ技や公爵夫人のキャラも良い感じ。原文ではフランス語に英訳はついていない。ここに出てくるアテンベリーがピーター卿最初の事件「エメラルド(或いはダイヤモンド)事件」の関係者、という設定なのかな? p393 姉のメアリー(his sister Mary): もちろん「妹」が正解だがここの文章だけではわからない。五歳年下、と『雲なす証言』に出てきます。 p407 トリ(bird): 英俗(魅力的な)若い女、と辞書にあり。「小鳥ちゃん」でどう? p407 少年刈り(shingled head): 1920年代に美容師Antoni Cierplikowskiが流行らせたらしい。Webで検索すると辞書には出てくるが美容用語として「シングル・カット」は通用していないようだ。 (2020-2-18記載) この作品、セイヤーズが1920年ごろにSexton Blakeものとして書いた習作を元にしてる、という。それなら犯人逮捕時の見得もわかる。あれは有名な犯人(多分、オリジナルではLeon Kestrel)じゃないと効果が上がらない。 (2020-3-1追記) (15)Wilson’s Holiday by G. D. H. & M. I. Cole (初出不明 単行本1928) 深町 眞理子 訳: 評価6点 ウィルスン警視もの。リアリスティックな設定と構成が良い。淡々と捜査してても過程が良いので飽きない。足跡付きの図面もあります。 p417 モリス=オクスフォード: 1913年からのブランド。1926年からFlatnoseになった。作中の「新型」は、それを指してるのか。 p461 拷問みたいなやりかた… アメリカの警察の専売特許: 英国人のイメージ (2020-3-1記載) (16)A Passage to Benares by T. S. Stribling (初出Adventure 1926-2-20) 田村 義進 訳 ポジオリ教授もの。単行本でまとめて読むつもりなので、今回はパス。この最終話だけ読んでもねえ… (2022-10-2記載) (17)The Door Key by Frederick Irving Anderson (初出TheSaturday Evening Post 1929-12-28 挿絵Hubert Mathieu)「ドアの鍵」浅倉 久志 訳: 評価5点 パー&アーミストンもの。のんびりした米国の田舎の情景。牛の乳搾りとかナマズ釣りの描写が良い。飼い猫が乳牛の番をしているのが面白い。 ミステリ的には乱暴な話。ベルティヨン式がまだ有効だった時代なんですね。 (2022-10-2記載) |
No.1 | 6点 | kanamori | 2011/01/03 12:07 |
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各務三郎氏による「クイーンの定員」からのセレクト・アンソロジーの第2集は、1900年から30年黄金時代前期の作品。
フットレル、フリーマン、オルツイ、チェスタトン、ポースト、セイヤーズ、クリスティなど、選ばれるべき作家が洩れなく揃っています。逆にいえば他でも読めるので書誌的目新しさはないですね。 ストリブリング、F・アンダースンなどその後に元本の連作短編集が出るとは思わなかったですが、このあたり日本の翻訳状況は世界一マニアックじゃあないでしょうか。 |