海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

kanamoriさん
平均点: 5.88点 書評数: 2481件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.2481 5点 消えた犠牲(いけにえ)- ベルトン・コッブ 2026/06/15 10:00
人気ミステリ作家のリチャーズが出版社を訪ねると、いつもの話し相手で経営者のウィルキンズは不在で、共同経営者のスカーブリックから気分転換な執筆に彼の別荘を勧められ鍵を渡される。翌日その別荘を訪れたリチャーズが部屋で目にしたのはウィルキンズの刺殺死体だった。
身代りの犯人にされるのを恐れたのか、リチャーズは隣家の管理人夫婦宅に公になっていない本名で間借りし、事件の動向を見守り、ミステリ作家の本性で、その様子を小説形式の手記にしていく……と、ここまでが第一部で、「探偵物語」と題された第二部に入ると、視点人物がロンドン警視庁のバーマン警部に変わり、典型的な捜査小説になります。

大昔に読んだときには、少ない関係者ながらも、アリバイと動機の両面で仮説を立てては崩れていくバーマンの捜査過程が面白く感じたことを覚えていますが、オチを知って読むと、なんか核心部分をあえて避けてモタモタした展開が、やや退屈に感じられますw
植草甚一セレクトのクライムクラブ叢書では、確かにネタとしては面白いミステリと言えますが、前半に出てくるある人物の心理描写など普通にアンフェアな部分が気になり、先行作の劣化版ぐらいの評価、絶版のまま文庫化されなかった理由も分かるような気がします。

No.2480 6点 魔都シカモア- イアン・ロジャーズ 2026/06/11 11:46
吸血鬼や人狼などの怪物が棲む異世界「ブラックランド」につながるポータル(出入口)が各地に出現するようになった世界線。カナダのトロントで超常現象を扱う事務所を開いている私立探偵のフィリックス・レンは、「血まみれの現場から消えた、夫の遺体を探してほしい」との依頼を受けて、事件があったオンタリオ州中部の都市シカモアへ向かう。
その地では六件の連続殺人が起きており、依頼人スーザンの夫ダグラスも、被害者であるとともに、逃げた犯人と見なされていた…………。

オカルト版の「私立探偵スペンサー」とも書かれているが、元妻でアシスタントのサンドラとの漫才風のやり取りや、ワイズラックとジョークを連発する主人公のフィリックスがなかなか魅力的です。
基本的にはモンスター・ホラー(またはダークファンタジー)と私立探偵小説のハイブリッドと言えますが、前半は作者のジョークや遊び心が目立つ。ボストンのフェンウェイ球場近くに出現したポータルの怪物というのはレフトスタンドの「グリーン・モンスター」のことなんだろうw
超常現象情報局(PIA)の捜査官アリスとの捜査が続いたあとの、残り100ぺージを切ってからの急展開が一番のクライマックスで読み応えがあり、ミステリ的な意外性も用意されています。フィリックスを主人公にした短編集もあれば読んでみたい。

No.2479 6点 猫鳴く森で謎解きを- 楠谷佑 2026/06/07 14:48
全寮制の男子校・霧森学院高等部2年の「オレ」兎川雛太(ヒナ)と鷹宮絵愛(エチカ)は寮のルームメイト。夏休みに二人はボランティア部の亜蓮に誘われて、”猫に会えるキャンプ場”にボランティアに行くことに。他校からも生徒が参加しており、高校生計10人でボランティア活動をしていたが、何人かは初対面ではなく、不穏な人間関係が見え隠れしていた。そして、キャンプ2日目、一人の生徒が何者かに殺害される事件が起きる。頭脳明晰な”エチカ”こと鷹宮は、春に起きた寮の事件に続き再び消去法推理で殺害犯人を突き止めようとするが…………。

「ルームメイトと謎解きを」に続くシリーズの第2弾。
多数の学生が集うキャンプ場で発生した殺人事件を、緻密なロジックを駆使して解明するプロットですから、自然と閃いたキャッチ・コピーは、”令和の「月光ゲーム」”wです。とは言っても、埼玉県北部には活火山はないので派手なクローズドサークルとはいかず、ダイイングメッセージも出てこない。ましてや今どき手がかりがマッチの軸はないでしょうし。読み進めるにつれ見当違いが分かって来ました。(また、本家は高校生じゃなく大学生だし)。でもひとつ、作業用の軍手というひとつのアイテムだけでなされた中盤のロジック展開は圧巻です。ミステリとしては外連味は乏しく地味ですが、端正な作風は評価されるでしょう。そういえば、最後の最後に夜空に月が出てきました。

No.2478 6点 ハレー彗星の館の殺人- ロス・モンゴメリ 2026/06/04 11:28
1910年の英国。75年ぶりにハレー彗星が地球に最接近しているニュースが流れている最中、少年院帰りの前科者「ぼく」スティーブンは、謎の手紙に導かれて、英国南西端コーンウォール地方の孤島に建つタイズ館で従僕として仕えることになった。
当主の子爵コンラッドは、彗星による有毒ガスなどのデマ的な被害予測をまともに信じ、屋敷中の扉や窓を密閉させ、さらにスティーブンには嫌われ者の老令嬢”大叔母”ことデシマの世話を任せる。そして、彗星が到達するその夜が明けて、密封された書斎で顔面にクロスボウの矢が刺さった子爵の死体が発見される。

満潮時には本土から切り離されるクローズド・サークルなお屋敷で起きる密室殺人、腹に一物を抱える男女三人の一族親族、怪しげなドイツ人科学者、広大な領地にある迷路などなど、黄金時代の”クラシック・ミステリあるある”な設定とギミックを全部盛りしたような愉しい作品です。
探偵役の車椅子の老嬢デシマと、その手足となって動くスティーブンと探偵小説好きの若いメイド・テンペラスの探偵トリオも注目です。証拠や証言の収集方法にはやや疑問が有りますが、解決編に入る直前の(水力発電機の停止工作による)暗闇の中のサスペンス溢れる展開と轟く雷鳴など雰囲気作りはなかなかです。
作者は児童向け小説の書き手でもあったからか、ライトで読みやすい文章はリーダビリティがあります。

No.2477 5点 花嫁と殺し屋- 石持浅海 2026/06/01 10:00
上場企業の平均年収を目安とした報酬で殺人を請け負う、冨澤充を一応の主人公とした殺し屋探偵シリーズの第5弾。標的の人物の奇妙な行為や、依頼内容に付いたオプションなどの謎に対して、ついつい「推理」をしてしまう、異色な”日常の謎”ものとも言える連作短編集です。
このシリーズを読んでいて連想したのはアメリカ産の二つの連作ミステリ。殺し屋の何でもない日常や殺人の準備と実行シーンを淡々とした語りで描くローレンス・ブロックの「殺し屋ケラー」、もうひとつは請け負うのは殺しではなく盗難ですが、奇妙な依頼対象のホワイと、巻き込まれた事件の謎解きを行うホックの「怪盗ニック」。こちらはシリーズの途中から女性の同業者を登場させマンネリ化を避ける手法も本シリーズと共通していますね。
収録作中のベストは、同業者のシングルマザーの殺し屋・鴻池知栄と冨澤が、新婚夫婦の夫と妻の殺害を各々が同時に請け負う表題作で最終話の中編「花嫁と殺し屋」ですが、作者の作品で時々感じる点ですが、動機に納得感がないのが気になりました。

No.2476 6点 兇悪の浜- ロス・マクドナルド 2026/05/29 10:08
”ミラー夫人のあのパッとしない亭主”wこと、ケネス・ミラーが何度か筆名を変えて最終的にたどり着いたペンネーム「ロス・マクドナルド」名義で出した第1作で、1956年の作品です。この年には、マーガレット・ミラーは前年に出した「狙った獣」でエドガー賞(MWA最優秀長編賞)を獲っており、翌年にはMWA(アメリカ探偵作家クラブ)の会長に就任しています。今で言うところの格差夫婦?
ロスマクの初期作はほぼ創元推理文庫で出ていて、これらは本国・日本ともにハードボイルド小説としては評判がイマイチらしいということは知っていましたが、このたび創元推理文庫の”名作ミステリ新訳プロジェクト”の一環として田口俊樹訳で復刊されたので読んでみました。
記憶が曖昧ですが、たぶん瀬戸川猛資の「夜明けの睡魔」のロスマク論に感化されたのか、ロスマクは1950年代末にブレイクした内省的で家庭の悲劇をテーマにした謎解き興味の強い作品を中心にハヤカワ版しか読んでいなかったので、初っ端から”拳と拳銃”の暴力・アクション・シーンが続いて出て来てやはりと思いつつ、新訳でも”リュウ・アーチャー”ではなく”リュー・アーチャー”表記なのも違和感がありました。
物語は、マリブ・ビーチにある会員制クラブを中心にしたセレブとヒスパニック系の人達の関係や、ハリウッドを目指し内外から集まる男女などが絡む複数の殺人にアーチャーが関わる話。表面的な構図はよくある内容で、最終盤までは本当に”パッとしない”。重要人物なハリウッド撮影所オーナーのセレブ夫人イゾベルの造形などに、2年後に書かれたブレイクのきっかけと言われる「運命」を連想させるところが有り、またマーガレット・ミラーの影響も窺えます。

No.2475 6点 倫敦スコーンの謎- 米澤穂信 2026/05/25 13:24
”小市民”というスタンスを守り互恵関係にある、高校生の小鳩くんと小佐内さんの二人が出会う”日常の謎”もの4篇から成る連作短編集。
前作の「冬期」で一応シリーズは完結したようですから、今作は番外編になるのかな。時代を遡って高校一年の冬から二年の夏前の時期のエピソードが並んでいます。熱心な読者ではないので、ピントが外れた感想かもしれませんが、以前と比べてライトな学園ミステリ風で、二人のやり取りや、小佐内さんの反応に対する小鳩くんの心の声など、どことなくユーモア成分が目立って来た感じがします。

各編は一応独立していますが、1話目と4話目は、ともに船戸高校の卒業生である芸術家(現代アート作家)のオブジェを巡る騒動で、同じような学園ミステリの似鳥鶏の”市立高校シリーズ”に作風が近づいてきた感じがします。
2話目の「羅馬ジェラートの謎」が個人的には良くできている思う。最初は北村薫の「砂糖合戦」を連想しましたが、それとは違って、これは”伏線回収の美学”という感じで、そこに感心しました。
表題作の「倫敦スコーンの謎」は、いわゆる”チェーホフの銃”である伏線が明白で、真相まで一直線でした。

No.2474 5点 中山七里 短いお話ほぼ全部- 中山七里 2026/05/22 11:40
まさにタイトル通りの作品集で、著者の作家生活15年周年を飾って、今まで本に纏まっていなかった文章を集大成したものです。小説類は、中・短編にショート・ショートを合わして20作品、あとエッセイに他作家作品の解説文と、雑多な内容になっています。
小説のジャンル的には、警察小説、クライムストーリー、歴史モノ、SF、ホラー、社会派、青春小説など、まあこのミス大賞出身作家らしい多彩な内容で、宝島社主宰のアンソロジーに収録されていた作品が多い印象があります。作者の長編のレギュラー・キャラクターの外伝またはスピンオフのような作品があるようですが、それはあまり読んでいないので、よくわかりません。
個別に取り上げていたらきりがないので、以下印象に残こった作品のみを寸評していきます。

「オシフィエンチム駅へ」は、最初に読んだのでインパクトがあった。列車で移動する家族たちのその行く末は?、時代も国名も明記されないのが効果的。
「アンゲリカのクリスマスローズ」は、タイトルから想像できない凄い作品、クリスティの「ABC……」に感化された大量殺人鬼が行き着いたのはチェスタトンのアレという話。ネタバレですが、なんと時代背景は上記作品と共通する。
「ZQN再生」は、バイオ・ホラー+パンデミック・パニック小説と言うような内容で、短いながら中身の濃い作品。
「被告人R365」は、殺人の嫌疑を掛けられた介護ロボットをめぐるSF風の法廷劇で、ロボット工学三原則の抜け穴が意表を突きオチが鮮やか。
最後の中編「ポセイドンの罰」は、東京湾のクルージング船という限定空間モノのフーダニットで、またもやクリスティ・ネタかと思いきや………おっとそうきたか。

No.2473 6点 法月綸太郎の不覚- 法月綸太郎 2026/05/19 13:28
法月綸太郎シリーズの連作短編集としては「〜の消息」以来、7年ぶりぐらいの出版のようで、まあ「消息不明」にならなくて良かった。本作には短編3篇と書下ろしの中編が収録されています。

消去法推理なり伏線の回収なり、ロジック展開を重視する作風なので、まわりくどい説明や、短編の割には複雑な人間関係のものが多く、中にはなかなか本題に入らない作品もあって、初期の頃のキレはあまり感じません。
始めの2編「心理的瑕疵あり」と「被疑者死亡により」は、共に他のアンソロジーで読んでいたので、かえって作者の技巧を再確認する事が出来て良かった。後者の隠されていた構図はなかなかお目にかからないパターンなのでは。
初読の「次はあんたの番だよ」は、ホラーテイストの味付けが効いていて、個人的には好みの作品です。
作者の「あとがき」にも、それらしき趣旨の言及がありますが、長編の「キングを探せ」の影響なのかどうかは分かりませんが、同じミステリ趣向を色々とひねくり回したり、別のアプローチで改変した仕掛けがあって、それが収録4作のうち3編に出てくるのは、さすがに気になります。

No.2472 6点 カーラの選択- ニック・ハーカウェイ&ジョン・ル・カレ 2026/05/15 14:12
1963年のロンドン。モスクワ・センターが送り込んだと思われる暗殺者が、任務を途中放棄し警視庁に逮捕される未遂事件が起きる。同時に、標的だった初老の文芸エージェントが姿を消した。
英国情報部「サーカス」を指揮するコントロールは、この事案に対処すべく、ベルリンの壁を挟んだ熾烈な諜報戦の、あの悲劇的な結果を受けてサーカスを去ったスマイリーを呼び戻す。

ジョン・ル・カレによるスパイ小説の古典的名作「寒い国から帰ってきたスパイ」の続編的エスピオナージュ。息子のハーカウェイによる作品で、ジョージ・スマイリーとその仲間たちをわりと忠実に再現していて、往年のファンなら楽しめる。(なお、表紙やAmazonのデータは二人の共著のような連名表記ですが、ル・カレは設定の原案者であって、本作の執筆には関与していません)
先に作者ハーカウェイの怪作・特殊設定のSF私立探偵モノ「タイタン・ノワール」を読んでいたので、不安がありましたが、物語の滑り出しの数ページを読んで、文体にはほとんど違和感がなく、しっかりとル・カレしていたので安心しましたw 、 あと「寒い国から~」の主人公アレック・リーマスの運命を始め、同作の核心部分に触れた描写が頻繁に出てくるので、未読の場合は先に読んでおくことをお勧めします。
さて、プロットのほうですが、後年の「ティンカー、テイラー」の時の、ソ連の諜報指揮官カーラの工作によるサーカスの深刻な事態とは違って、今回は引退したスマイリーを呼び戻す状況にそれ程の説得力がないのが気になります。まあ、途中からはピーター・ギラムに任せば良いのでは?という感がありますね。
消えた男、ハンガリーからの移民でソビエトの昔の諜報員ローカの行方を追って、残された手掛かりと元秘書の証言を元に、ベルリン、ウィーン、ブタペストと東欧諸国を飛び回る活動的なスマイリーが新鮮でした。ところで、ウィーンのホテルでアンが会っていた相手は誰だったのでしょうね。

No.2471 6点 ゲノム・トーカー- 林譲治 2026/05/11 10:00
2034年、日本の無人探査機「かいせい」は木星圏近くで奇妙な電波源を発見する。カメラに映り込んだ巨大な黒い影は、人類が始めて遭遇する異星種族の宇宙船だった。彼らは1万6000年前に放たれたホモ・サピエンスの全遺伝情報(ゲノム・データ)を受信し、その発信源を辿って太陽系を訪れたのだという。ゲノムを他星系に送ったのは未知の超古代文明なのか? それとも…………。知的興奮を呼び起こす、人類史✕宇宙SF。

異星人との「ファースト・コンタクト」がテーマという点ではクラークの「地球幼年期の終わり」、1万6000年前の地球(旧石器時代?)からのデータ送信の謎という壮大なアリバイ崩しは「星を継ぐもの」を想起させる側面もあります。
ただ後者の謎については、物語の中盤で海洋調査船がNUMA(海底の金属性物体)を発見してからは、上位レベルの技術知識を持つ異星人(ゲノムトーカーと称される)と日本人科学者たちの交渉が中心になって続いて、ハードSFをあまり読んでいない身には、やや退屈に感じました。作者の持論なのか、ダンバー数を持ち出しての組織論を展開、宇宙空間と海底が主な舞台な割に、地に足がついた展開は「日本沈没」を代表とする和製のハードSFの伝統なんだろうか?
しかし、終盤のある一人の人物による行動が意外な事態に発展する部分は衝撃的ですし、エモーショナルなエピローグも印象的です。

No.2470 5点 降り止まぬ雨の殺人- 床品美帆 2026/05/06 09:34
京都の中京区にある「六角法衣店」の若い店主・六角聡明は、失せもの探しの他、どんな相談にも乗ってくれる辻占い師で名探偵。知り合いの駆け出しカメラマン・安見直行をワトソン役にして過去に幾つか謎解きを行ってきた。
雨の降るある日、森沢レミと名乗る若い女性が店を訪れる。彼女の依頼は、七年前に自動車の転落事故で死んだ妹・聖奈の遺品である青い日傘の「本当の持ち主」を探すことだった。ところが、調査を始めた二人が関係者と思われる人物に接触を試みたところ相手が不審死を遂げ、続いて密室状況下で起きた殺人事件に巻き込まれる。

京都辻占い探偵六角シリーズの第2弾。
デビュー作の前作は同じ主人公ながら連作短編集だったようですが(そちらは未読)、今作は長編です。
辻占い師という探偵役の設定から、てっきり安楽椅子ものの、日常の謎系のもっとライトな作風のものを考えていましたが、犯行動機や事件の裏の構図などは結構ヘビィで、また探偵たちも行動派で、北は福井県の港町から、西は神戸の三宮まで、手掛かりを求め動き回ります。ただ、読み進めるにつれ、気になる点が多々出てきます。まずは現場や先々で目撃される”白いワンピースの女”の正体、これはどう見てもダメでしょう。密室状況下の殺人の大技トリックも物語の流れから浮いている感じがします。作風は、どちらかというと連作短編集のほうがむいているのかな。

No.2469 6点 サプライズ・エンディングス 嘘- ジェフリー・ディーヴァー 2026/05/01 10:12
先に翻訳出版された「サプライズ・エンディングス 罠」と同じく、電子版でのみ発表されていた作品を日本で独自に編集した中編集で、8編のうち残りの4編が収録されています。
個人的に、最近のディーヴァーの長編は書き込み過多と言うか、長尺を読んでいて疲れてしまう感じがあるので、ある程度物語性があって、意外な展開を楽しめる中編が丁度いい。

最初の「被害者クラブ」は、地方の名門大学で起きた女性教授を被害者とする、性的画像拡散事件をベテラン保安官補が追う捜査小説&フーダニット。作者にしては地味な展開が続くが、保安官補のルーティンワークを伏線にして、最後に現れる裏の構図は独創的で意外性がある。
「忘れられし者」は、懸賞金ハンターのコルター・ショウが登場し、麻薬密売人殺しの罪で逮捕・収監されている青年の冤罪を晴らす。シリーズ長編のプロモーション版のようですが、あまり読んでいないシリーズの主人公の造形を知るのに丁度良かった。
「帰任報告」は、国境の街エルパソ市の麻薬捜査課の刑事たちとメキシコの麻薬組織との攻防戦を背景にして、どんでん返しの連続技が繰リ出される編中で最も作者の本領が発揮された作品です。
最後の「ターニングポイント」は、マトリョーシカ人形を現場に残す連続殺人犯と、家族も標的にされかかる捜査班のネヴィル刑事の視点で語られる物語の、登場人物の立ち位置が終盤に劇的に変転する正に作者のお家芸の作品です。

No.2468 6点 探偵物語- 小鷹信光 2026/04/27 12:16
「私立探偵の工藤俊作さんだね?」………下北沢の雑居ビルにある事務所で受けた電話の内容は、失踪した17歳の少女の捜索依頼だった。相手の低い威圧の入った声と、四日間の期限つきという奇妙な条件はあるものの、高額な報酬にひかれ工藤は依頼を引き受ける。だが、調査を始めて間もなく、少女を誘拐したという何者かの脅迫電話を端緒に、事件は複数の人物が関わる複雑な様相に変わる。(本書裏表紙の内容紹介文を一部抜粋)

昭和54年から55年(1979~80年)にかけて日本テレビ系列で放映された、松田優作主演の伝説的な連続ドラマ「探偵物語」の原案者は、確かに小鷹信光ですが、このたび復刊された創元推理文庫版の巻末の小山正の解説(ドラマ制作の裏話)によると、小鷹は主に探偵のキャラクター設定を提示したものの、ドラマのプロット作りには関わってはいなかったようです。企画打合せ時に、突如として小鷹が小説版を書くと宣言し、TV放映と小説の出版が同時に実現したという経緯があった。このエピソードには驚いた。だから本作はTVドラマのノベライズではなく、小鷹のオリジナル小説になります。匿名でポルノ小説を書いた経験はあったようですが、初めて書いたハードボイルド小説とは思えない完成度の高さを感じます。
ドラマの方は、良くも悪くも松田優作の個性というか存在感が大きく、ハードボイルド探偵のパロディとまでいかないにしても、戯画化した造形が目立った作品。
小説版は、女性弁護士などTV版のサブキャラなどの設定をそのまま活かしながら、翻訳モノで培ったと思われる洒落た比喩表現の多用と、ロスマク風の複雑な家庭環境、「マルタの鷹」を思わせる裏の筋立てなどが、なかなかやるなと思わせます。書かれた時代性も多少関係する違和感が多々あり、昭和の国産ハードボイルドあるあるな浪花節的な展開は、個人的には気になった。

No.2467 6点 勝機- フェリックス・フランシス 2026/04/22 15:26
元騎手のシッド・ハレーは、旧知の調教師から、今競馬界で密かに行われているレースの不正行為に関して命がけの告発の電話を受ける。
一方、義手を外し他人の手を移植手術した左手に馴染めず今でも違和感を感じていて、それが原因で妻マリーナとの関係にも暗雲が立ち込めていた…………。

不屈の男、シッド・ハレーが登場するシリーズの通算6作目です。父ディック・フランシス名義で4作(ただし4作目の「再起」はフェリックスが代筆)、版元が文春文庫に移り、フェリックス名義の新競馬シリーズとしては「覚悟」に続く2作目になります。
原題は”Hands down”、文句なしでとか、問題なくといった意味ですが、もともとは競馬レースで、騎手が手綱を強く引くことなく余裕で勝利することから転じた慣用句です。本作の内容とは微妙にずれている感じもありますが、おそらく、「ハンド」の複数形(両腕)が入る競馬用語をタイトルに使いたかったのではと思います。
さて、内容についてですが、家族が事件に直接巻き込まれた前作「覚悟」が明確ですが、「家族愛」がテーマのひとつになっているのがフェリックスの個性と言えるでしょう。本作のラストシーンが顕著です。ただ、スリラーとしてはどうでしょう、探偵社時代の同僚チコ・バーンズに協力を頼んでからの、中盤の関係者から情報収集の過程がテンポが悪く平板に流れていて、往年のフアンはともかく、新しい読者には冗長に感じるのではないかと思います。本作の中心となる舞台、北ヨークシャーにある廃墟、ミドルハム城跡における終盤の対決が唯一の山場と言えるでしょう。

No.2466 6点 封鎖館の魔- 飛鳥部勝則 2026/04/17 10:00
人里から隔離された僻地に立ち、増改築を繰返し、多くの開かずの間を持つ歪な形態の「封鎖館」。持ち主や居住者を変えながら、過去、昭和平成の時代に妖しげな殺人や、不可解な事件が起きていたが、令和になって再び血塗れた連続殺人が起きる………。

昨年出たばかりの乱歩の通俗スリラー風の大作「抹殺ゴスゴッズ」に続く作者の復活作の第2弾は、一転して割とオーソドックスな”舘もの”の本格ミステリです。芸術家探偵・妹尾悠二が登場するシリーズの3作目になるのかな。
館の形態からして、いかにも”斜め屋敷”系のトリックが予想出来てしまうのがアレですが、出入り可能な部屋の中での餓死という不可解な事件や、密室の首切断死体、容疑者全員が部屋に封印された逆密室状態の殺人など、魅力的な謎の連打が読ませます。
関係者が画家や彫刻家・画廊オーナーと、絵画教室に来た高校生で、エキセントリックで個性的な人物が揃うのも作者らしい。なかでも車椅子の美少女の豹変ぶりには笑った。
狂言回しというか、二人の語り手がいて、屋敷に長年住み込んでいる物語の中心人物でもある洋画家・館真一と、高校生の小玉正に関して、それぞれ「恣意的な語り手」と、「客観的な語り手」と見抜く妹尾の洞察力がなかなか面白い。

No.2465 4点 粘膜大戦- 飴村行 2026/04/13 15:53
大戦下、戦況が膠着し苦境を強いられる帝国陸軍。起死回生を図るべく軍部が画策したのは、首都が占領下にある東南アジアの小国「ナムール」の王族アロ族の王女マルテ姫を使い、民衆に一斉蜂起の号令を掛けさせることだった。
だが、マルテ姫は常に黄金の仮面を被っており、それを外すには”久遠ノ爪”という鍵が必要。密命を帯びた大尉の堀川美樹夫は、鍵の捜索を開始するが…………。

2008年に日本ホラー小説大賞を受賞した「粘膜人間」でデビュー、2作目の「粘膜蜥蜴」が評判を呼び、日本推理作家協会賞をとった作者の、「粘膜」シリーズの6作目です。
パラレル・ワールドの戦時中の帝国陸軍を中心に、顔が蜥蜴で体が人間の”爬虫人”が多数登場する、エログロ・バイオレンス・ホラーに、ナンセンス・ギャグを交錯させ、秘境冒険小説や戦争小説の要素もある、ジャンル・ミックスというより、支離滅裂な作風が特徴的です。
ただ、このシリーズを久々に読みましたが、初期の頃の圧倒的な熱量が感じられず、かなり期待外れな出来になっています。主人公を置かず、三人称多視点の群像劇風の構成はいいとしても、どのキャラクターも活きていない感がある。内地編で登場する12歳の孤児の少女キノブが面白いキャラですが、後半になるといつの間にかフェードアウトしてしまうのが不思議です。雑誌連載の関係か事情が分かりませんが、物語の進行がギクシャクしていて、短編をつなぎ合わせた様な感じを受けました。

No.2464 6点 愚者たちの箱舟- 綾崎隼 2026/04/10 10:46
新潟県北部、本土から35キロの沖合に浮かぶ翡翠島に、ひとりの青年が帰ってきたーーー過去に島を襲った連続放火事件の、すべてを明らかにするために………。

うーむ、これはミステリ小説としては、内容を事実を曲げずに(ネタバレなしで)詳しく紹介するのがちょっと難しい作品。(結果的にアンフェアな説明になっていてもご容赦を)
2014年にYA系の文庫の二部作で出版されていた作品を、大幅に加筆修正し改題し単行本化したものです。
主な登場人物は、同い年の三人の若い男女、島に住み続ける「僕」レンと幼馴染みの”姫”、本土から転入してきた「ノア」で、淡い青春小説の味わいとともに、当初は中学生時代に遭遇した連続放火事件が語られていきます。戦時中から島に住み着いたアメリカ人の意匠建築家の手になる複数の建造物を標的にした、放火事件の犯行動機の説明など色々とモヤモヤした不満点がありますが、
「sid.A」と「sid.B」に分けられカットバック方式で過去と現在が語られる構成や、主人公たちをニックネームで表記する点などで、どうしても30年ぐらい前の新本格系の某作品を想起してしまうのが残念です。帯でアピールされている様な凄い作品とは思えなかった。

青春の輝き、雨の日と月曜日は、トップ・オブ・ザ・ワールド、イエスタデイ・ワンス・モア………物語のBGMとして流れるカーペンターズが印象な、ノスタルジックな青春小説としては及第点。

No.2463 5点 犯人はキミが好きなひと- 阿津川辰海 2026/04/06 11:48
タイトルが表すように、毎回、好きになった女性が実は殺人犯だったり、犯罪を計画している人物だったりする「悪女レーダー」のような”特異体質”を持つ隆一郎と、幼な馴染みの女子の同級生で名探偵を志す・花林のコンビが六つの事件の謎ときに挑む連作短編集です。

まあ一応の特殊設定モノとも言えますが、隆一郎の動向から花林が事件の犯人を察することができてしまうことで、偽の手掛かりやアリバイ崩しなど、一種の倒徐形式のミステリに似た読み味の話もあります。
最初の2編を読んだ時点では学校が事件現場ということもあり、学園ミステリのようなライトな作品集かと思いましたが、途中からは、結構ガチガチの本格モノが続きます。夏の浜辺とリゾート別荘を舞台にした複雜な構図の「海岸通りでつかまえて」と、雪の山荘が舞台の最終話「あなたの愛を……」がまずまずの出来かなと思います。面白い特殊設定を思い付いたものの、それを充分に活かせ切れなくて中途半端になった作品集と言う感じがします。

No.2462 5点 意外な犯人 犯人当て小説傑作選- アンソロジー(国内編集者) 2026/04/03 12:16
創元推理文庫版の「犯人当て小説傑作選」シリーズ最終の第3巻です。
シリーズ各巻は発表年代順に作品が収録されており、本巻は新本格ムーヴメント以降に発表された近年の作品が対象になっていますが、正統な犯人当てミステリの収録があまりなく変化球ばかりで、バカミス風の物やショートショート、パロディ作品などが目立つ残念なセレクトになっています。序文で編集者が”犯人当て小説の奔放な広がり”と書いていますが、何か言い訳じみた感じさえ受けます。犯人当て小説の系譜をたどることを意図したアンソロジーならば、「傑作選」なるタイトルはピント外れな気がします。

そういった中で、比較的良かった下記の3作品を寸評しておきます。
標題作の綾辻行人「意外な犯人」は、いかにも新本格らしい犯人当てミステリで、新本格を象徴する2つのガシェット”クローズド・サークル(社会性の排除)”と”徐述トリック”を体現した作品です。
白井智之「「少女」殺人事件」は、ノックスの十戒を消去法推理のネタにするというバカミスながらも、発想が面白くて作者らしい作品。
最後の北山猛邦「竜殺しの勲章」は、第二次大戦時のナチス・ドイツに侵攻されたフィンランドが舞台の物語性豊かな作品。ハウダニットが主軸ながらも、意外な犯人を設定した良作です。ちなみに、もともと本作が収録されていたアンソロジー「推理の時間です」(講談社)は、佳作揃いの作品集でお薦めです。

キーワードから探す