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[ サスペンス ]
血の季節
小泉喜美子 出版月: 1982年02月 平均: 6.20点 書評数: 5件

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早川書房
1982年02月

文藝春秋
1986年05月

宝島社
2016年08月

No.5 6点 斎藤警部 2022/08/14 23:28
戦争、狂気、変態、裁判、●●●・・・大きなテーマいくつもの並走を巧みに捌いた技能作。 犯人回想と警察捜査、二つのカットバックを軸とした思わせぶりな構造。こいつが読書中はかなり愉しいが、警察捜査側が最終的にミステリとしてガツンと攻めきらなかったのは、残念!

●●●話の常時ほのめかしの果ては、合理的解決の意気は買うが、説得力強かったり弱かったりデコボコタペストリーの講釈を経て、無難な軟着陸に過ぎる感がある。 また別種の或る事のほのめかしは不発というより、置き去りもいいとこ。

などと思いはしましたが、探偵役による解決大演説は言ってもなかなか熱いし、エピローグというかエンディングにはちょいとやられました。最後の最後にまさかの再登場を果たしたあの人の行為と気持ちを考えると、やはり●●●の線を残すオープンエンディングなのかな。「原●」や「鏡」の件もあるし。(あるいは、あの人こそ、思い込んでいた?) 

それにしても、裏の主役は東京●●●そのものか?

No.4 6点 2020/09/02 08:25
 昭和五十×年早春のかぐわしい朝、青山墓地の中央道路からずっとそれた裏手の暗がりで、五歳になる幼女の死体が発見された。昨夜から捜索願いの出されていた子供で、性的暴行の形跡はなかったが被害者の頸部には二カ所、咬傷とおぼしき痕が残されていた。また少女が家から持って出た筈の古いドイツ製人形が紛失していたのも、事件の異様さに拍車を掛けていた。
 それからほどなく犯人は逮捕されたが、鑑定でも心身喪失は成立せず、まもなく死刑が確定しようとしていた。だが彼にどこか正常でないものを覚えた弁護士は、ある大学の医学部教授に被告人の再鑑定を懇請する。本人も自分がなにゆえに犯罪に及んだのか、そのすべてを、〈本当に聞いてくれる人〉に伝えたがっていた。
 ――そして囚人はひめやかで冷たい精神科病棟の奥の一角で、白髪の院長に語り始める。遠い遠いあの頃、四十年前の幼年期にまでさかのぼる告白を・・・
 『ダイナマイト円舞曲(ワルツ)』の約八年後に書き上げられ、昭和五十七(1982)年二月に早川書房より刊行された著者の第三長篇。シンデレラ(Cinderella)・青ひげ(Blue beard)など西洋三大ロマンのBCDを踏まえた長篇三部作の最終篇で、本書ではドラキュラ(Dracula)伝説をモティフにしています。
 作者のあとがきに〈日本の風土には受け入れられにくい題材〉〈まったくの幻想小説としてならともかく、現代の日本を舞台に一応はリアリズムの手法を守ってこれを登場させるとなると、たいそうむずかしい〉とある通り縛りがキツかったようで、"東京のドラキュラ"を現在の形に落とし込むには、かなりの苦労があったものと思われます。そのせいか流麗・奔放な第一、第二長篇に比べて仕上がりはやや地味。
 著者が採ったのは主人公のバックボーンを太平洋戦争初期から末期に設定し、クライマックスに昭和二十五年五月二十五日の東京大空襲を持ってくる構成。各章前半では幼年時代からの回想、後半では『青山霊園内幼女殺人事件』の捜査の過程が記述され、全三部に分かれたそれを序章と終章が挟み込んでいます。
 合理と非合理のあわいを彩るリドル・ストーリーめいた結末が特色ですが、内外の同趣向作品と比べても鮮やかさに欠けるのが難点。"ちび"の頃のいじらしさから成長するに従い一転、残酷さや小悪魔性を見せつけるヘルヴェティア公使の娘・ルルベルの描写や、全篇に影を投げかけるオルツィ夫人『紅はこべ』の扱いなど、プラス部分を入れても読後感はどこかモヤッとしています。
 宝島社の「復刊希望! 幻の名作ベストテン」企画で第2位を獲得し、連城三紀彦『夜よ鼠たちのために』等と共に2016年に復刊された作品ですが、大仰な惹句とは裏腹にゆったりとした筆致で読ませるタイプの小品。〈吸血鬼が訪れてきそうな真夏の宵に〉じんわりと触れてみるのが良いでしょう。

No.3 7点 kanamori 2016/09/12 18:12
昭和12年の秋、父親の事業の失敗で、その街に引っ越してきた小学生の〈ぼく〉は、某国公使館の屋敷に住むフレデリとルルブルの兄妹と運命的な出会いをする。彼らと夢のような日々を過ごす一方で、兄弟の母親の死や怪奇な事象の目撃、そして戦争の爪痕が、〈ぼく〉の精神を徐々に現実から引き離していく--------。

3年前の「このミス」の特別企画、”復刊希望アンケート投票”で国内部門第2位に入った小泉喜美子の第3長編で、「弁護側の証人」から18年ごしの3部作完結編でもあります。このたび版元が責任を取って?宝島社文庫でめでたく復刊となったので再読してみました。
青山墓地近くで発見された幼女の殺害犯として収監されている死刑囚のもとに、弁護士からの依頼を受けた精神科医が訪れるシーンで幕を開けますが、小説の大部分は死刑囚が語る戦前の少年期の物語で占められています。ドラキュラ伝説がモチーフになっていることは早めに分かるのですが、記憶していたような怪奇性は今回あまり感じられません。外国人の兄妹ら一部の人物を除き、主人公の〈ぼく〉をはじめ、捜査をする警部、精神科医など、主要登場人物の名前が一切明示されない趣向が特徴的で、この小説をメルヘンチックで幻想的な作品にしていると思います。(作者は、のちに別の長編でも同じような趣向を使っています)
以下ネタバレぎみになりますが、最終章での、精神科医による分析結果が、本作を幻想ホラーから合理性のある”謎解き”に反転させたかと思うと、さらに・・・という(ディクスン・カーやヘレン・マクロイの某作を想起させる)多重反転プロットが印象的で、余韻を残すラストと併せて個人的には評価します。ただ、このリドル・ストーリー的な仕掛けは、読者によっては好みが分かれるかもしれませんね。

No.2 5点 蟷螂の斧 2012/02/09 15:01
ドラキュラ伝説に絡めた物語には、耽美的な雰囲気を感じることができました。最後の一行には、あまり感心はしませんでしたが、従の事件(大使館夫人の死亡、書記官の自殺)の真相は面白いと思いました。

No.1 7点 こう 2008/11/03 00:03
 小泉喜美子第三長編で弁護側の証人がシンデレラをモチーフにした作品なのに対しこの作品はドラキュラをモチーフとした作品です。(第二長編ダイナマイト円舞曲は青ひげをモチーフとしています)
 幼女殺人で死刑の判決を受けた囚人に精神鑑定するために医師が訪れ接見するところから始まり、次の章より囚人の回想と幼女殺人事件の捜査が交互に描かれてゆきます。
 弁護側の証人と違いこの作品はモチーフとなった「ドラキュラ」を全面に押し出した作品で怪奇小説じみているところがありますが医師が実質探偵役を務め一連の謎を説明しております。ただラストの判断は読者に委ねられており、個人的にはすっきりした読後感が得られないのが少し不満です。少し海外作品の「首つり判事」に似たラストでした。
 個人的には長編五作しか残さずお亡くなりになったのが残念な作家だと思いますがやはり「弁護側の証人」の方が上かなと思います。


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小泉喜美子
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