皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
ぷちレコードさん |
|
---|---|
平均点: 6.31点 | 書評数: 252件 |
No.252 | 7点 | キョウカンカク- 天祢涼 | 2025/01/23 21:48 |
---|---|---|---|
被害者の死体を燃やすことからフレイムと呼ばれる連続殺人鬼に妹を殺された山紫郎。彼が出会った銀髪の美女は、探偵・音宮美夜と名乗った。音声に色がついて見えるという共感覚の体質である彼女は、人の声の「色」を手掛かりに犯人を追う。
探偵役の特殊な能力・体質に加えて、犯人の奇想天外な動機が忘れ難い。だが、本書は決して探偵の設定や動機の意外だけに頼った作品ではない。本書の驚きの土台は、大胆極まりない伏線の仕掛け方にある。あまりに大胆なので、それが犯人に繋がる話だと気づく人は少ないのではないか。物語の根幹から細部に至るまで、伏線とその回収が見事。 |
No.251 | 5点 | 誰も死なないミステリーを君に 眠り姫と五人の容疑者- 井上悠宇 | 2025/01/23 21:39 |
---|---|---|---|
人の死期が判る志緒と人が死ぬミステリが許せない佐藤のコンビが、推理によって誰も死なないうちに事件を終わらせようというシリーズの第三弾で、二人が高校生時代に初めて手掛けた事件を描く。志緒が好きな歌手と幼馴染たちの間で起きた殴打事件の真相を突き止めることで、歌手に現れた死の兆候を消そうというのだ。
物証や証言から犯人特定に至る流れが堅実で、そこに人を死から救うドラマが深く織り込まれていて良い。 |
No.250 | 7点 | 炎に絵を- 陳舜臣 | 2025/01/12 22:01 |
---|---|---|---|
辛亥革命の資金の拐帯犯と烙印を押された父の汚名を晴らすため、調査を神戸で行ってくれと病床の兄に頼まれた青年が、同僚の女性社員の協力を得て父に関わる過去を探っていくうちに、産業スパイ問題も絡んでくる。
スピーディーで躍動感あふれる展開が、意外性に富んだ結末まで一気に読ませる。一風変わったタイトルもその意味が明らかになった時、心の内に余韻を響かせる。 |
No.249 | 5点 | 血の季節- 小泉喜美子 | 2025/01/12 21:57 |
---|---|---|---|
ある死刑囚の話から始まる。死刑囚は少年時代の戦前の東京で、外国人の少年たちと出会う。彼等との交流を通じて揺れ動く少年の心理が描き出され、ドラキュラの存在をほのめかすような描写が重ねられ、想像はいやがうえにも刺激される。
日本を舞台にヨーロッパの乾いた空気を持ち込み、独特の雰囲気を醸し出している。ミステリとホラーの要素がうまく溶け合った余韻を残すラストは味わい深い。 |
No.248 | 5点 | ものがたりの賊- 真藤順丈 | 2024/12/28 22:48 |
---|---|---|---|
歴史の有名人と小説の有名人が入り乱れ、開戦前の昭和初期までを映し出す冒険活劇。荒唐無稽な設定も、大杉栄の粛清や九州帝大の生体解剖、「青鞜」の刊行など史実を忠実に織り込むことで、パロディ炸裂の壮大な物語に仕上がっている。
二転三転しながら、ニヤリとさせられるラストへ連れて行ってくれる風刺とアイデアが詰まった作品。 |
No.247 | 7点 | 爆弾- 呉勝浩 | 2024/12/28 22:43 |
---|---|---|---|
酒屋の自販機を蹴って止めに入った店員を殴り捕まったスズキタゴサク。実はこの男、爆弾魔だった。彼の予告通りに爆発が起こる。そしてさらなる爆破をめぐって、取り調べに当たる刑事たちを相手にゲームを始める。
読みどころは、捜査陣とスズキタゴサクの息詰まる対決の行方なのだが、彼は追求をのらりくらりのかわしていく。目的も何なのか分からない不気味さがある。まさに前代未聞のテロリストで、相対する警視庁コンビや現場の野方署のコンビなどもいいキャラクターで、捜査小説として読み応えがある。不公平感が蔓延する日本の現状を穿つ、破壊度十分の社会派小説である。 |
No.246 | 9点 | 吸血の家- 二階堂黎人 | 2024/12/16 21:57 |
---|---|---|---|
恐るべき因縁を秘めた旧家で起こる連続殺人の謎に探偵役の二階堂蘭子が挑む。心霊術師、ポルターガイスト、神がかりの少女など、オカルティズムを散りばめ、しかも三つの不可能犯罪が起こるというから驚かされる。
本書は一つの密室と二つの足跡のない殺人テーマに挑んでいるが、そのうちでも雪上で殺された復員兵の謎は、心理的・映像的な迫力を相まって鮮烈な印象を残す見事なトリックである。 |
No.245 | 6点 | 倒錯の死角−201号室の女−- 折原一 | 2024/12/16 21:52 |
---|---|---|---|
アルコール中毒から退院したばかりの大沢の手記と、その向かいのアパートに住む清水真弓の日記と母親宛の手紙、そして母親の手紙で語られていく。
幾重にも読者を欺く話の入れ子構造を、様々な人物による叙述で作り上げていくので混乱してくる。過去と現在の移動も激しく、なかなか現在に辿り着かないのだが、そこに辿り着くまでの時間のトリックも巧妙に仕掛けられている。 |
No.244 | 5点 | アリスの国の殺人- 辻真先 | 2024/12/04 22:00 |
---|---|---|---|
児童文学出版社の社員である主人公・アリスを愛する青年が、心ならずも漫画は雑誌の編集をやらされている現実界の編集長殺害事件と、彼が夢想世界で念願のアリスと結婚する間際、嫌疑を受ける密室でのチェシャ猫殺害事件が交互に展開する。
現実界、ふしぎの国それぞれの事件に大胆なトリックが工夫されているが、両方のストーリーをつなぐ仕掛けにも抜かりがない。現実界、ふしぎの国の確証の題名も徹底して日本語で言葉遊びが行われていて作者のこだわりを感じる。 |
No.243 | 6点 | スケルトン・キー- 道尾秀介 | 2024/12/04 21:55 |
---|---|---|---|
恐怖を感じない性格を活かして、雑誌の調査を支援する仕事をしていた坂木錠也のもとに、かつての児童養護施設の仲間がある報せをもたらした。その報せは、幾人もの死者を生みことに。
錠也の境遇に同情しつつも、その暴力に感情移入は出来ず、それでも物語の展開に惹かれていく。後半になると作者の仕掛けに気付いて驚くことになる。さらにその仕掛けが生むサスペンスにしびれ、そして最後の言葉でわずかではあるが希望を感じる。 |
No.242 | 5点 | 本格的 死人と狂人たち- 鳥飼否宇 | 2024/11/21 22:16 |
---|---|---|---|
興奮すればするほど、頭脳が明晰になるという数学科助教授の増田は、若い女性の性行動を統計学的に研究するために、隣室の女子大生の性生活を覗き見る日々を過ごす。彼女の絶頂に至るまでの時間を計測することで、男女の恋愛パターンを数値化しようという試みだったが、折しも彼が近所で起きた殺人事件の容疑者となり、中断せざるを得なくなる。自らの容疑を晴らすためにも、そして研究を続けるためにも、この事件を解決せねばならない。
基本的に変態ミステリなのだが、主人公も奇人ではあるが真摯な学者ゆえの知性が滲み出てくる。グラフ、図版、レジュメ、地図を本文中に駆使し、アカデミックなミステリの可能性を模索しているところも楽しい。 |
No.241 | 6点 | 命に三つの鐘が鳴る Wの悲劇’75- 古野まほろ | 2024/11/21 22:10 |
---|---|---|---|
左翼革命組織の一員だった過去を持つ若きキャリア警察官、二条実房の前に、かつての友人であり革命組織のリーダーである我妻雄人が恋人を殺したと出頭してくる。その自白の裏に見え隠れする不可解な矛盾。彼の真意とはいったい何なのか。真実を追い求め、二条はかつての友に警察官として取り調べに望む。
取調室の中で動機を巡って行われる言質を賭けた壮絶な攻防は圧巻。その聴取を通して二条が警察官として成長していく姿を描いた小説であり、そのセンチメンタルで衝撃的な結末は忘れ難い。 |
No.240 | 6点 | 夜の声を聴く- 宇佐美まこと | 2024/11/10 22:36 |
---|---|---|---|
知能は高いが集団生活に馴染めないため、不登校を続ける「僕」こと堤隆太は、目の前で自殺未遂をした加島百合子に惹かれ、彼女と同じ定時制高校に通い始める。
そこで知り合った級友と隆太がリサイクルショップを手伝いながら、遭遇する不思議な出来事を解決していくのが前半の展開。だが十一年前に起きた殺人事件の存在が次第に大きなものとなり、彼らの運命を狂わせてしまう。 青春小説プロットとミステリの謎を合体させたような読み味の作品。 |
No.239 | 5点 | ドレス- 藤野可織 | 2024/11/10 22:32 |
---|---|---|---|
SF的設定のものもあれば、いわゆる日常の謎が舞台のものもある。どれも母娘、親友、恋人などの二人組の関係が中心に置かれていて、その中で人の記憶の危うさや他者を理解することの難しさが探究される。
どの作品も想像できない方向に展開し、ラストでは背筋が凍ることもある。作品が提示する様々な問いは簡単に解消されず、読後も脳裏に響き続ける。 |
No.238 | 5点 | 柘榴パズル- 彩坂美月 | 2024/10/28 21:58 |
---|---|---|---|
主人公の美緒は、祖父と母、兄と妹、そして猫と共に暮らしている。そんな一家のひと夏を5つの短編によって描いた本書では、写真館での人間消失事件などが、美緒たちなりの温もりの中で解かれる様を楽しめる。
だが本書は、それだけでななく各編の間に陰惨な事件を報じる記事が挟まれているのだ。最終話で記事の意味を理解した時、この物語の全貌を知り切なくなった。 |
No.237 | 6点 | 紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人- 歌田年 | 2024/10/28 21:52 |
---|---|---|---|
ジオラマが手掛かりの失踪人探しという難題に、紙鑑定士がプラモデル作りのプロと組んで挑む。
探偵役の二人の異能が新鮮であり、彼らが見出す新情報が次々に連鎖していく展開も刺激的。物語が進むにつれ、事件の闇が深まりアクションが加速する構成も秀逸。デビュー作とは思えない仕上がり。 |
No.236 | 6点 | 怪談小説という名の小説怪談- 澤村伊智 | 2024/10/17 22:59 |
---|---|---|---|
夜の高速を走る車の中での怪談披露、散歩する親子が遭遇した奇妙な家屋、田舎町の奇妙な風習に、夕暮れの学校で起きる陰惨な事件。現代らしい怪談を語るシチュエーションと、語りに仕込まれた小さな違和感を回収する手際で読ませる。
物語が存在すること、そして語ることの意味を浮かび上がらせる趣向が目立つ。特に筆を折った先輩作家から知らされた、存在も定かではない読んではならない小説を語る「涸れ井戸の声」、ある夏の海辺の出来事を多人数の証言から再構成する「怪談怪談」の2編は、ホラーでもありミステリでもあり、そして物語を論じた小説でもある。 |
No.235 | 6点 | 喜劇悲奇劇- 泡坂妻夫 | 2024/10/17 22:53 |
---|---|---|---|
主人公が奇術師であり、奇術趣味を横溢している。だが、それ以上に言葉遊びの趣味の方が勝っており、奇術が見えないもどかしさを感じさせない。回文こそは、まさしく活字でしか表現できない趣向で、作者は小説の制約を逆手に取って遊びに徹している。
表題、小見出しはもとより、書き出しも結びの一行も回文になっている。そして物語は、回文名をもつ芸人ばかりが犠牲者となる奇妙な連続殺人で、回文づくしの趣向も極まった感がある。 |
No.234 | 6点 | いけないII- 道尾秀介 | 2024/10/05 22:24 |
---|---|---|---|
各編の最後に収められた写真によって、それまで記されてきた物語に潜む、表立って語られなかった部分が浮かび上がる。
写真は一枚であっと言わせるような仕組みではなく、写真と本編の文章とを突き合わせて、読者が読み解いていく必要がある。ただし、次章の中で前章の事件について語られて、隠された部分がある程度示されているため、前作に比べると親切な作りになっている。 難易度は下がった一方、個々の人物や背景の描写は前作以上に掘り下げられて、人間関係の歪みと残酷さ、そして悲しみが心に刺さる。 |
No.233 | 6点 | 陽だまりに至る病- 天祢涼 | 2024/10/05 22:18 |
---|---|---|---|
「困っている人がいたら何かしてあげなさい」と常日頃、母親からそう言われていた小学五年生の上坂咲陽は、同級生の野原小夜子を家に連れ帰った。小夜子は近所のアパートで父親の虎生と二人暮らしだったが、失業中の虎生がいなくなってしまったからだ。だが帰宅した母親に言いだしかねた咲陽は、小夜子と二階の自室に住まわせる。おりしも町田のラブホテルで若い女性の殺人事件が起きていた。そのニュースを見る小夜子の様子や、彼女を捜しているという刑事の訪問などから、咲陽は虎生が事件に関わっているのではないかと疑問を抱く。
人間として大事な要素を欠落させたまま、無定見な「正義」を肥大させてしまった虎生。貧困によって身を売る女性と、彼女らを買う男たち。コロナ禍によってより鮮明にされた現実が、事件の背後から浮かび上がる。さらに咲陽と小夜子に培われたはずの「友情」の揺らぎと反転が、驚愕と感動を呼ぶ。 |