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ぷちレコードさん
平均点: 6.27点 書評数: 271件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.271 6点 プールの底に眠る- 白河三兎 2025/05/28 22:06
高校最後の夏休みに裏山に出かけた僕は、そこで自殺しようとしていた美少女と出会う。死に場所へ導かれるイルカの話をしたところ、彼女は僕をイルカと呼び、僕は彼女をセミと名付けた。今、留置所の中にいる僕は、十三年前にセミと過ごした七日間を振り返る。
幼馴染で同級生の由利が絡んだ四角関係に悩まされ、彼女の頼みでおかしな野球対決に巻き込まれるなど、青く甘く面倒くさい学園ラブストーリーが次々に展開する一方で、なぜ今、彼は殺人容疑で檻の中にいるのか、という謎が最後で明らかになっていく。奇想めいた逸話が印象深く、散りばめられた細かい企みに驚かされるほか、心を痛める者たちの哀切さが響く小説である。

No.270 5点 ブラック・ローズ- 新堂冬樹 2025/05/28 21:56
欺き、出し抜き、裏切り、寝返り、でっち上げなど、あらゆる手段を使った復讐劇。
舞台はテレビ業界。葉山孝史を死に追いやった仁科真一は、十年連続でドラマ視聴率トップを守り、ドラマ界の帝王と称されている。亡き父・孝史の無念を晴らそうとする女性プロデューサー梨田唯が仁科を追い詰めていく。
その過程で、テレビの内幕を目の当たりにすることになる。ストーリー性のある面白いドラマを書ける脚本家がいなくなり、ドラマ原作を映像化したものばかりになっている。大手芸能プロダクションの人気タレントを順番に主役にするキャスティングの生で、物語無視のドラマが氾濫している。「いまは嘘でも、最後に本当にすればいい」という唯の考え方、口八丁手八丁ぶりには、妙に感心させられてしまう。

No.269 6点 ばくうどの悪夢- 澤村伊智 2025/05/17 21:49
人に害をなすゴーストハンターもので、敵は夢魔である。第一章から登場する語り手の僕は、小説家の父を持つ中学生。彼とクラスメイトが「夢で見たとおりに傷つけられている」被害に遭い、やがてクラスメイトの一人が命を落としてしまう。眠れば殺される悪夢を恐れる僕のため父は野崎夫妻の力を借りる。「見える」妻・真琴は僕に悪夢に対抗するための巾着袋を渡してくれるが。
物語の中盤で大きな転調を見せ、読み手の想像力を凌駕する意外な形でそれを投下する。サプライズと共に凶悪性増してくる。夢魔「ばくうど」の力をいかにして鎮めるかという未知なる命題は、知的好奇心を高ぶらせる。

No.268 5点 60%- 柴田祐紀 2025/05/17 21:40
舞台は杜の都・仙台で、まずは粕谷一郎を始めとする暴力団・山戸会系田臥組の面々の紹介から始まるが、主役は若頭の柴崎純也。柴崎は、経済・金融に通じており、県警暴力団対策課の高峰岳を通じて後藤真一をスカウトし、マネーロンダリング専用の投資コンサルタンティング会社を立ち上げようとしていた。その社名が「あなたの資産を60%増へ」を謳った「60%」という次第。
扱うのは麻薬マネーで、柴崎たちは中国マフィアと組むことになるがやがて破局が。犯罪小説にはよくあるパターンで、闇の哲学で誘う柴崎のキャラにしてもとりわけ斬新というわけでもない。やり過ぎ感はあるが、終盤の捻りには唸らされた。

No.267 6点 黒真珠 恋愛推理レアコレクション- 連城三紀彦 2025/05/03 21:20
わずかなページ数の中で転調を複数盛り込む表題作、たった二人の会話シーンでプロットが二転三転する「裁かれる女」、妻の轢き逃げ事故に意外な真相が浮かぶ「紫の車」、旅館にまつわる道ならぬ恋の人生模様に、尖った構図を捻った書き方で持ち込む連作「ひとつ蘭」と「紙の別れ」。
愛憎を中心に捉え、伏線や符丁に支えられた論理性と意外性を備えた短編集。

No.266 6点 グッドナイト- 折原一 2025/05/03 21:13
三階建てのアパートを舞台に、様々な住人の異様な人間模様が描かれる。息子の不眠症に対処するためにアパートの一室で心理研究所を営む女性のもとを訪れる小説家でもある母親が事件巻き込まれていく「永遠におやすみ」は、作中作と現実が入り乱れる作者の得意とする多重文体サスペンスの典型。以降、小説家を目指す人間の鬱屈とした心理、集合住宅において壁を隔てた隣人に抱く不審、夜の闇に跋扈する正体不明の怪人物といった折原作品に頻出するお馴染みの構成要素が虚構と現実のあわいで再構築された複雑怪奇なストーリーを形成していく。
異様な捻じれたプロットがサプライズを演出するだけでなく、一筋縄ではいかない人間存在の歪さを暴いていく。最終段階に至って浮かび上がらせる人間の業は作者ならではで、唯一無二の読み心地である。

No.265 5点 マッチメイク- 不知火京介 2025/04/21 22:42
大手団体のレスラーが試合中に急死したことを受け、事件の真相を追う新米レスラーの姿を活写した作品。
誰がどうやって殺したのか、そんなオーソドックスな骨組みを斬新な舞台で転がし、同時にプロレス興業の現実的な仕組みについても解明するという情報小説的な趣味を持っている。ミステリとしてはたいしたことはないが、主人公が自らの肉体を作り上げるトレーニング・シーンで、全身の筋肉の脈動が伝わってくるかのような動的な表現力は、格闘技ミステリの新たな可能性を感じさせる。臨場感あふれる迫力の描写はお見事。

No.264 8点 向日葵の咲かない夏- 道尾秀介 2025/04/21 22:34
主人公は、小学四年生のミチオ、幼い妹のミカ、ミカだけを溺愛する母親。ミチオが住んでいるN町では、犬や猫を殺しては足を折り、口に石鹸を押し込むという事件が頻発していた。
夏休みの前の終業式に、ミチオは担任の岩村先生から宿題とプリントを届けるように頼まれ、欠席したクラスメイトのS君の家を訪問するが、そこで発見したのが首を吊って死んでいるS君の姿。ところが岩村先生と警察が駆け付けると死体が無くなっていた。
ミチオとミカは真相を探り始めるという本格ミステリの死体消失ものに、生まれ変わりというオカルトネタを絡めた異様な物語が展開していく。真相を解明していく中で、何度か論理のひっくり返しを見せながら驚きの結末に持っていく。
導入部における謎の提案、途中におけるサスペンス、ラストの意外性と全てに渡って魅力にあふれていて素晴らしい。

No.263 7点 涜神館殺人事件- 手代木正太郎 2025/04/09 21:59
イカサマ霊媒師のエイミー・グリフィスは、帝国心霊学協会の心霊鑑定士・ダングラスとともに、探偵家ソーンダイクが住む館を訪れた。前の所有者が閉ざされた中庭から消えたというこの呪われた館に、心霊考古学者や心霊写真家などの面々が集結する。だが、彼らは次々と何者かに殺されてゆく。
本書の読みどころは、濃密な怪奇趣味が醸成する個性的な作品世界。アクの強いキャラクター造形、最後に明かされる事件の背景や動機も異形そのもので素晴らしい。

No.262 5点 蜘蛛の牢より落つるもの- 原浩 2025/04/09 21:54
渇水によってダム湖の底から姿を現わそうとしている村のキャンプ場では、かつて互いを埋め合って死に至らしめた不可解な集団生き埋め事件が発生した。事件関係者や旧村民たちは渇水と、あの時と同じ蜘蛛の大発生に、村に祀られていた比丘尼の祟り再びと恐れおののく。そんな中、奇妙な黒い影が出現し、新たな異常死が。
村人に惨殺された比丘尼の怨霊譚と、不条理な生き埋め殺人の謎を生理・心理的ディテールで忌まわしく肉付けしながら、人間が怪異を生み出すというテーゼで結びつけている。

No.261 6点 あの日、君は何をした- まさきとしか 2025/03/27 21:49
水野大樹は、ある晩自動車事に遭い死亡してしまう。彼が深夜に外出した理由が不明だったため、未解決事件への関与を疑う風評が流れ、母親のいづみの心は深く傷ついた。
わが子を喪った哀しみにいづみの精神が崩壊していくさまが描かれるのが序盤の展開で、やがて十五年の時が経過して別の殺人事件が発生する。本書の特異さが際立ってくるのは、新旧二つの事件を結び付ける糸が見え始める中盤からで、捻じれた心理の描き方に戦慄させられる。

No.260 5点 秋雨物語- 貴志祐介 2025/03/27 21:44
「餓鬼の田」は、風光明媚な立山連峰を望む避暑地という舞台設定が効いている。愛する人をなぜか得られない呪いに憑かれたっ青年の驚くべき独白の物語。
「フーグ」は、解離性遁走という精神医学用語を手始めに、蜘蛛合戦や瞬間移動といったオカルト的でSF的な趣向が連続する。
「白鳥の歌」は、主人公の小説家が、作中作にも登場し無名な歌手が遺した絶唱に隠された秘密に肉薄する。
「こっくりさん」は、お馴染みの召霊儀式に秘められた忌まわしい謎が明かされる。
総じて怪奇小説に通ずる、レトロな味わいがある作品集。

No.259 6点 逆転正義- 下村敦史 2025/03/14 21:52
いじめを教師に報告した高校生、家出中の女を保護した男、自宅で人を殺してしまった女、罪なき子供を殺された父親。
自分には自分の、他人には他人の物差しがある。そして自分の基準が絶対正しいとは限らない。どの話もディテールが騙し絵のように構成され、攻守、善悪、男女、それまでの設定が終盤で一気に覆される。読めば読むほど自分の偏見、頭でっかちな正義感、価値観がひっくり返される。今、自分の前に映る光景が本当に正しいのか、読みながら迷宮に入り込む。景色が反転するどんでん返しミステリ集。

No.258 6点 恋する殺人者- 倉知淳 2025/03/14 21:47
主人公は大学生の高文。彼は従姉の真帆子の死に疑問を抱いていた。高文は真帆子から「最近、つけられている気がする」と聞いていたのだ。警察に言ったのだが反応は薄く、自分で捜査を始めることに。その助手は、フリーターの来宮が務める。この素人コンビがアポを取った人が次々と凄惨な手口で殺されていく。
この二人がどうやって真帆子の死と、それに続く殺人事件に迫っていくかが読みどころだが、女心が分からない高文と、内心では高文のことが好きな来宮の関係性がいい。
「恋する殺人者」というこのタイトルが頭にあるから、すっかり騙された。ラストですべてのピースがはまった時に作者が仕掛けた罠に気付いた。

No.257 5点 遠い旋律、草原の光- 倉阪鬼一郎 2025/03/03 21:51
長い歳月を背景とする一族の因縁の物語であり、崇高なトーンの芸術家小説にして恋愛小説、そして精緻そのものの暗号ミステリでもある。
作者の作品では時にして物語が印象に残らないほどの強烈な存在感を放つ暗号が、本書では物語と融合している。
アクの強さをあまり感じさせない点で、倉坂作品の入門書として最適でしょう。

No.256 5点 UNKNOWN- 古処誠二 2025/03/03 21:47
航空自衛隊のレーダー基地、隊長室の電話に盗聴器が仕掛けられていた。密かに捜査を進めるため、防衛部調査班の朝倉二尉が基地を訪れる。野上三曹は、彼の指揮下で働くように命じられた。
基地という閉ざされた空間に加え、自衛隊という閉ざされた組織が舞台。誰がどうやって盗聴器を仕掛けたのかという謎とその解決を通して描かれるのは、自衛隊という官僚機構の姿、ひいては日本の国防である。そんな真摯なテーマを扱いながらも、野上の軽妙でユーモラスな語りと、シンプルな展開で一気に読ませる。

No.255 6点 チルドレン- 伊坂幸太郎 2025/02/18 22:14
銀行強盗事件に遭遇した大学生の鴨居と陣内。二人はそこで目の見えない青年・永瀬と知り合い、共に無事に解放されるが。
目が不自由だからこその鋭敏さで強盗事件の真相を鮮やかに解き明かしてしまう永瀬と二人の友情の芽生えを示唆して終わる「バンク」。家裁調査官をしている「僕」が語り手の表題作と「チルドレンⅡ」。永瀬の彼女である「わたし」が学生時代に永瀬の彼女と自分と陣内が偶然巻き込まれた事件を回想する「レトリーバー」。陣内が父親超えする瞬間のエピソードを永瀬が語り起こす「イン」。
五つの小さな物語は独立して楽しめるのだが、それぞれの中に仕込まれている挿話が別の物語のテーマになっていたりと、ひとつの長編小説を読んだような構成になっている。笑いあり、じんわりするところあり、というナイーブで温かな小説。

No.254 6点 デカルトの密室- 瀬名秀明 2025/02/18 22:01
ここで扱われるのはフレーム問題。無限の可能性を持つ現実の事象をふるいにかけ、有限解として収束させることは可能かという問題であり、これは我々がいかにして世界を認識するか、意識とは何かという謎に直結する。
ロボットに意識を持たせるためには、意識自体の定義が必要となる。そしてロボットと開発者の関係は、登場人物と作者の構図と相似である。「探偵が論理的に辿り着いた真相が真実か否かは作中からは判断できない」という後期クイーン問題はそのままフレーム問題へと繋がっていく。難易度は高いが、ロボットミステリを語る上で外せない一冊。

No.253 5点 - 白石一文 2025/02/05 22:01
最愛の娘を交通事故で失った男が、過去に飛んで事故を未然に防ぎ、娘の生まれた時間を過ごすというタイムトラベルもの。未来の記憶を持ったままで過去に飛び人生をやり直す話と言えば、いろいろな名作があるが、佐藤正午の「Y」のように人生の分岐点を捉えてあり得たかもしれない人生を模索する話に近い。
中盤以降、さまざまな冒険を経て、最終的に「僕たちはそのそれぞれの世界で別々に生き続ける無数の自分でもある」という世界観を得る。改めて生きるとは何かを力強く問いかける作品だ。

No.252 5点 川崎警察 下流域- 香納諒一 2025/02/05 21:54
一九七〇年代の川崎の工業地帯を舞台にした警察捜査小説。
川崎の経済を支えた京浜工業地帯とその暗部を背景に、川崎の街で日々を暮らす人々の心象を活写する作者の濃厚な筆致が冴えている。
捜査の過程で現れる人物たちに共通するのは無常観だ。全てが激しく変化していくその地にあって、誰もが不確かな日常に抗いながら生きている。そしてのその変化を受け入れられない者が罪を犯す。この時代、この土地だから起きた事件の真相はあまりにも切ない。

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ひとこと
中学生の頃、ミステリにはまった。でも続いたのは3年間ぐらい。今また、ミステリにはまりつつある。やっぱりミステリは最高だ。
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