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ぷちレコードさん
平均点: 6.23点 書評数: 301件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.301 6点 一八八八 切り裂きジャック- 服部まゆみ 2025/11/22 21:19
世紀末のロンドンを舞台に、二人の全く生まれも育ちも違う若き日本人留学生が切り裂きジャックの正体を追って推理を巡らす物語。
コンプレックスの塊であった主人公の柏木薫が「光の君」と呼ばれる美貌の貴族・鷹原惟光と出会い、反発しながら心を通わせ、いかにして自己を解放していくかが一番の読みどころとなっている。歴史伝奇ミステリであると同時に、優れた青春小説でもある。

No.300 6点 弁護側の証人- 小泉喜美子 2025/11/22 21:14
元ヌードダンサーの漣子は、八島財閥の息子と結婚し玉の輿に乗った。そんなある日、当主の龍之助が屋敷の離れで殺されているのを、彼女が発見してしまう。夫を疑惑から助けるべく奮闘するが、裁判長の「死刑に処する」という判決を聞く羽目になる。
各章ごとに過去の回想と現在が交互に語られる構成で、その平易な語り口は終盤での衝撃度をより高めている。法廷ものとしても読み応えがあるが、数々の伏線の上に感動的なラストが待っている。

No.299 5点 「死霊」殺人事件- 今邑彩 2025/11/07 21:35
妻に殺意を抱いていた経営者が密室状態の自宅の一階で変死、そこには彼の共同経営者の他殺死体が転がっていた。さらには二階で妻の死体も発見される。どうやら殺された妻が蘇って二人の男を殺したらしいという具合で、出だしはカーを彷彿させる。
そこにアリバイ崩しや展開仕掛けを加味させたり、シリーズキャラクターの貴島柊志にピント外れな現代娘刑事を組ませたりもしているのだが、せっかくの多彩なミステリ趣向も、謎解きが真っ当すぎて、いささか拍子抜け。

No.298 6点 リア王密室に死す- 梶龍雄 2025/11/07 21:28
「私」は行きつけの飲み屋で常連の金谷から、かつて推理小説になるような事件があったと教えられる。本書は金谷の旧制高校時代の日記体で描かれている。
金谷の友人・堀分が睡眠薬自殺した。金谷は自殺に疑問を抱いていたところ、金谷の疑惑を聞き入れる刑事が現れた。堀分の死に端を発した事件は、考古学者・大平先生の家を舞台に禍々しく展開していく。本格ものとして目新しい仕掛けはないが、いかにも高校生らしい感傷が全編に満ちている。

No.297 6点 わたしを離さないで- カズオ・イシグロ 2025/10/19 21:38
弁護人の仕事をしているキャシーの長い独白が綴られる。彼女が語るのは、孤児院のような学校で共に過ごした仲間たちの日々。恵まれた環境で成長し、読者の共感を誘う青春物語は、やがて社会に翻弄される若者たちの残酷な物語へと変貌する。
真実が明かされた終盤、提供者としての宿命から逃れられないと知り、泥にまみれて荒れ狂う青春の描写が胸に迫る。

No.296 6点 愚か者死すべし- 原尞 2025/10/19 21:32
渡辺探偵事務所に訪れた伊吹啓子は、父親の伊吹哲哉が横浜の銀行で起こった暴力団組長への銃撃事件の犯人として警察に出頭したが、父は誰かをかばっているに違いないというのだ。横浜へ護送されるところだった伊吹哲哉は肩に銃弾を受け、警護の警官は頭部に受けて重態にに陥ってしまう。
全てがわかってみれば、ハードボイルドの典型的なものだが、情報という手札を切る順番を巧みにコントロールして、容易に全貌を悟らせないテクニックには唸るところがある。世間への関心を取り戻す引きこもりの青年をはじめとした、脇役たちの造形のおかげで読み応えのある作品に仕上がっている。

No.295 6点 蛇影の館- 松城明 2025/09/30 21:33
人間の身体と記憶を乗っ取る人工生命体「蛇」。空らの独特なルールが複雑に絡み合った特殊設定、館もの本格ミステリ。
本作が新鮮なのは、襲われる人間を主人公とせず、女子高生に寄生した「蛇」の視点から描いていること。全ての伏線がきれいに一つに回収されていく怒涛の解決編が心地良く、そのロジックは美しい。青春小説としても魅力的で、結末にも驚かされた。

No.294 6点 悪人- 吉田修一 2025/09/30 21:28
出会い系サイトで知り合った女性を殺した男が、同じくサイトで出会ったばかりの別の女性を道連れに逃亡する。
この作品では、三人の主要人物が辿ってきた人生だけでなく、彼らの家族や友人、職場の上司などの脇役たちが、どのような人生を背負っているかということまで描いている。舞台が都会とは程遠い九州の田舎である点も大きい。決して脚光を浴びることのない一般市民の孤独な人生が、いっそう浮き彫りになっている。田舎の独特な閉塞感や風土、そこに暮らす人々の精神性の描き方がうまい。

No.293 9点 人狼城の恐怖- 二階堂黎人 2025/09/16 21:28
国境の巨大渓谷を挟んでドイツとフランスにそびえる双子の城(人狼城)を舞台に、壮絶な殺戮劇が展開する。
第一部(ドイツ)第二部(フランス)のどちらから読み始めてもいい構成になっており、人狼伝説にまつわる様々な意匠に魅了される。閉じ込められた城内で起こるのは殺人の連続。事件はやがてサバイバルの様相を呈し、登場人物は逃げ惑う。これでもかと連発する不可能犯罪の数々、多くの謎を散りばめて第三部で蘭子が登場する。続く第四部で謎の解明に多くのページを割いた構想に見合う、度肝を抜く驚愕のトリックが披露される。まさに傑作である。

No.292 6点 Rommy- 歌野晶午 2025/09/16 21:21
ROMMYというロックシンガーの伝記という体裁をとったもので、その肖像が関係者の証言や手紙、自作の菓子などを元に描かれる。一方でROMMYを襲った狂気の密室殺人事件が記述され、両者はラストで劇的に結びつくという構成。
感動的な真相もさることながら、この伝記パートの凝りようが尋常ではない。

No.291 6点 續・日本殺人事件- 山口雅也 2025/09/06 21:30
アメリカ人が書いた、日本を舞台にする探偵小説の翻訳という趣向の作品で、描かれる場所はその設定からして現実の日本ではない。
相模半島にあるカンノン・シティーの草庵を事務所に私立探偵業を始めた東京茶夢を主人公とする中編二編のうち「巨人の国がリヴァー」では、スモウ・レスラーの珍妙な連続殺人事件がチェスタトン風のロジックで解決され、論理を捨てるという禅の世界を論理至上の推理小説の世界に持ち込んだ「実在の船」では、新本格派風にメタレベルのオチがつく。ジャパネスクな世界が楽しめる一冊。

No.290 5点 グロテスク- 桐野夏生 2025/09/06 21:24
一流企業のエリートOLでありながら、夜は街角で体を売る和恵。和恵と同級生であった区役所勤めの主人公。その妹で美貌を持つ娼婦ユリコ。階級社会を縮小したような一流女子高校での鬱屈した日々とその後の人生が、それぞれの独白や手記という形で綴られていく。
空気の読めない言動で学校でも職場でも居場所を失っていく和恵と、美しさで男たちを翻弄してきたユリコ。全く違う個性の二人が、最後は同じ場所で下層の娼婦として殺される。何より恐ろしいのは事件よりも、美しすぎる妹への嫉妬心と、同級生への悪意を肥大させ怪物化していく主人公の心の闇である。

No.289 7点 777 トリプルセブン- 伊坂幸太郎 2025/08/27 21:15
不運な殺し屋・七尾が請け負ったのは簡単な仕事だった。超高級ホテルの一室にプレゼントを届けるはずが、勘違いで殺人劇に。そのホテルには驚異的な記憶力を持つ紙野結花が身を潜めていて、彼女を狙う同業者たちが押しかけてくる。
殺しの同業者13人のほか政府高官らがホテル内で交錯し、殺人と逃走の合間に任務と人生の片鱗が、物語を予想外の方向に進めながら、サスペンス色豊かに語られていく。死亡率が高いのに全く血なまぐさくなく、節々でユーモアを味わうことが出来る。

No.288 6点 永遠の仔- 天童荒太 2025/08/27 21:09
主人公三人は、幼年時代に小児病棟の精神病棟で出会う。三人はそれぞれに虐待された過去を持ち、そこから逃れるために霧の霊峰の中、罪の道へと走る。
三人の幼年時代と、成人し看護婦、弁護士、刑事となり再会を果たした後の物語が交互に語られ、彼らの人生が有機的に描かれている。そこには生きていくことへの不安と絶望、そしてそれに反比例するかのように生々しい「生」への欲望が渦巻いている。
いかなる苦境や逆境にあっても自分、あるいは他者である「あなた」がそこに生きていること、それは価値あることだと全編を通じて諭してくれるのだ。そこの安易な慰めや、偽りは一切ない。最後の文章にそれは凝縮されている。

No.287 5点 デッド・ディテクティブ- 辻真先 2025/08/17 21:14
死後の世界へ向かう究極のトラベルミステリ。
フーダニットにしてハウダニット、さらに絶対に嘘がつけない、生前に見たものを再現させられるという状況下にもかかわらず、殺人事件の犯人が判明しないのはなぜなのか、というのが最大の読みどころ。
あの世のシステムを逆手に取って意表を突くところが作者らしく、見せ方の巧さに唸らされた。

No.286 6点 私が殺した少女- 原尞 2025/08/17 21:10
天才ヴァイオリニストの少女の誘拐事件で、身代金の受け渡し役を依頼された沢崎が、事件解決のための調査を依頼されるところから事件は動き出す。舞台設定自体は、いわゆる正統派ハードボイルドである。
やがて悲惨な結末を迎える誘拐事件の真相、少女の死への引き金となったのは誰か。二転三転するサスペンスは読む者を飽きさせない。直木賞受賞作でもある。

No.285 8点 メルカトルと美袋のための殺人- 麻耶雄嵩 2025/08/05 21:33
推理の腕は確かながら、性格が悪く自分の利益のためには他人を犠牲にすることなど、なんとも思っていない探偵メルカトル鮎の非情さと論理性を愉しめる短編集。
メルカトルの活躍を作家でありワトスン役の美袋三条が語る。幽霊や作中作が出てくるなど、趣向を凝らしているが基本は正統的な本格ミステリであり、見事なロジックとトリックが堪能できる。

No.284 7点 OUT- 桐野夏生 2025/08/05 21:29
主婦たちの家族関係からくる鬱屈した気持ちと暗い情念が作品全体を覆っている。
一つの心の闇が引き起こした犯罪が次の犯罪を引き起こす。その闇が生まれた抑圧の背景をリアルに描かれいている。四人の女性が様々な事情から死体解体の作業に参加していくが、きっかけはほんのわずかなお金が必要だったため。
お金が人格を与える影響というのは、作者の作品全体に通底している。

No.283 7点 スクランブル- 若竹七海 2025/07/26 22:41
一九八〇年の新国女子高を舞台に、六人の少女が関わる六話の短編集。
一話ごとに語り手と探偵役が交代するロンド形式で、さらには十五年後の現在と過去とが交互に描かれて、やがて物語冒頭に起きたまま解決されなかった殺人事件の真相に辿り着くという入り組んだ構造。
しかも一話ごとに殺人事件の推理も繰り広げては否定される。苦さと爽やかさが強い作者らしい青春ミステリ。

No.282 4点 すべてがFになる- 森博嗣 2025/07/26 22:35
大学の工学部の助教授である犀川と教え子の萌絵が、徹底した理系思考で事件の謎を解明していく。
コンピュータ用語やバーチャルリアリティーに関する難解な用語が次々と飛び交い、理系ならではの想像を絶するトリックと結末が用意されている。しかし、犯人の動機が重要視されていないので、殺人の動機が弱いというか理解が出来ない。

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ひとこと
中学生の頃、ミステリにはまった。でも続いたのは3年間ぐらい。今また、ミステリにはまりつつある。やっぱりミステリは最高だ。
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