皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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斎藤警部さん |
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| 平均点: 6.69点 | 書評数: 1443件 |
| No.1443 | 8点 | 真実の檻- 下村敦史 | 2026/03/08 02:16 |
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| “間に合わなかった……”
いきなり真相暴露のような悪夢のクライマックスが、不躾に出迎えてくれた。 冒頭の異例の熱さには、緊張の口笛で応えたくなる。(思わせぶりなプロローグをも凍らせる勢いだ!) 主人公の青年は大学生。 母は重い病で入院し、看病に疲れたと言う父とは離婚。 やがて母は亡くなり、遺品整理に実家を訪れた青年の目の前に、自らの出生の秘密を暴露するような一枚の写真が現れる。 暴露の射程は自らの出生にとどまらず、亡き母の人生を根本から激変させた、遠い昔のスキャンダラスな殺人事件にまで及ぼうとする。 過去いくつかの “冤罪疑惑案件” が補助線となり、ストーリーは深堀りされるが、補助される掘り起こしターゲットが何なのか、なかなか見えて来ない。 割り切れないもどかしさがうねり続ける謎探りは、一見もったいぶって不思議な小説構造の中をボブスレーのように潜入滑降し続ける。 中盤の揺さぶりは激しく、結末はちょっと凄い。 『犯人かもしれない人間を知っている。 罪を認めさせるつもりだ』 表立った “社会派” 切り口を、むしろブラウン神父スピリットでギンギンの意外性溢れる逆説が包み込む形のミステリ、と言って良いかも知れない。 構成の妙も確かに光るが、それは “目次” を一見して感じるほど露骨なものではなく、意外とシームレスにスムーズに、飽くまで長篇小説の中を擬似(?)オムニバス短篇が長篇の構成要素として流れて行くといった体のようである。 「不自然なものを枠の中にいびつに押し込もうとしたら、必ず反発があり、はみ出します。 それを見つけて摑むことができれば、全てを引っ張り出せます。 白日の下に晒せるんです」 ホワイダニットの視点では、"無実を訴えない” 理由も相当に深いものがあったが、 “離婚” の理由となるとより狭いレンジの中に更なる深みを覗かせた。 これには足元をすくわれた。 「◯◯◯かどうか、試してみる度胸があるか?」 或る人物への逆説的、致命的疑いが消えない。 だがその動機に見当が付かない。 そんな魅力的な煙幕も長きに渉って張られた。 おお ・・ そうだったのか ・・・ だがしかし、一つの大きな謎が解けて、更に巨大な、しかもより暗黒の沼に沈んでいそうな、それまで巧みに隠蔽されていた、新たな謎が、ま、まさか ・・・ “想像したとたん、思い出が走馬灯のようにあふれてきた。” 最後にもたらされる、あまりにも実務的でありながら高熱を発する、最高のロジック実用の輝き!! これほどまでエモーショナルな “損得勘定” があってたまるか!! なんたる、ミステリの色ツヤに包まれた、玄妙で巧みな “助け舟” ・・ ダメ押しのロジック後日談(?)も旨み溢れて熱過ぎる!! “シャツの上から自分の胸を握り締めた。” たとえ当てられたとしても、当てやすかったとしても、実際わたしも当ててしまったけれど、それでもなお、これほどまでに尊い “意外な犯人” の設定、あり様、隠蔽術、更に未来像は魂こもったレアケースとして充分に珍重すべきと思いました。 最重要(?)な伏線の襲い掛かり具合には、のされてしまう勢いがありました。 チェスタトン×連城のような激し過ぎる逆説畳み掛けと、小説構成の妙とが、これほどまで宿命的に絡み合っていたなんて、思いも寄りませんでしたね。 ちょっとした、ブルージーでヴィヴィッドな情景描写、即物心理描写、光や音、所作や気配の表現等、グッと来るフレーズがそこかしこに見られました。 正義や真実を把握せんとする物言いは、言わずもがなの陳腐な言い草に果てず、人生の鮮やかな指針として目の前の山頂に聳え立っていました。 いっけん蛇蝎キャラのような人物が、仄甘い展開で実は存外にやさしい良い人だった、みたいなちょっとした叙述トリック展開から始まって最後まで続くその要素が、ちょっと浮き上がってアンバランスを醸し出している気もしていましたが、読了してみると、それもちょっと不思議な味わいの大事な演出になっているように見えて来ます。 上記の人含め、魅力的な登場人物群の鮮やかな配置も特筆すべき素晴らしさです。 振り返れば、二つの激熱な不等辺三角関係(点二つは共通)がミステリの場を大いに鼓舞した物語だったと言えましょうか。 社会派と成長小説の要素は確かに存在感を見せ付けます。 ですが(本格)ミステリの力がその二つを程よく上回った作品だと思います。 タイトルに偽り無し! 「私は自分の “病” をこじらせないように心掛けながら、これからも自分にできることをしていくと思います」 【ちょっとネタバレ】 エピローグは、最高に素晴らしい意味で、肩透かしだった! 上記にも通じますが、HORNETさん仰る > それを裏切るもう一枚があってもミステリとしては面白かったのでは、と思う。 これは私も同感で、やっぱり 「もう一枚」 を期待して読んでしまいましたね。 本作の場合、残り頁数のミスディレクション(!?)もあり、いかにも 「もう一枚」 ありそうで実は無い、という逆・意外性がミソなのかな、とも思ったりします。 やり過ぎると社会派と成長小説の熱い側面が見えなくなってしまう、というトレードオフがあるかも知れません。 |
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| No.1442 | 5点 | おしどり探偵- アガサ・クリスティー | 2026/03/04 22:15 |
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| 「真珠は、まだこの家にあるか、すでにこの家にはないか、そのどちらかです」
↑ 小泉進次郎議員に真剣な顔で語っていただきたい、銘台詞が発見されました。 小手調べが延々と続く掌・短編集、かな、と思ったら、本当にそうでした。 トミタペことトミー&タッペンス夫婦の二冊目。 クリスティでは初期の作。 「投げ縄で捕まえましたよ。 暇な時間に投げ縄を練習していたんです。」 意外と兇悪犯罪組織が登場します。 名家に巣喰う悪意を暴きます。 軽い浮気の虫がうずきます。 おっぺけ失踪事件にずんどこアリバイ勝負。 偽の××に振り回され危機一髪。 時にキラキラ不可解興味(見せ方が巧い!)。 なんちゃって国際スパイにソ連の影。 そげなこげなにお気楽メタ趣向が散りばめられ、ブルボンプチパーティーのような、なんともオヨヨでオチャッピーな本が出来上がりました。 ミステリの本気度は低いですが、すっとぼけユーモアの遍在とパロディ精神とでまんまと乗り切った一冊と言えましょう。(どちらもちょっと弱いんですが(特に後者)、弱いならではの弱い味わいがあります) 「本名をスミスという人は、ほとんど実在しないんですな。 ぼくは個人的にもスミスという人を一人も知らない」 パロディ(というかパスティーシュ)の事で言えば、言及されている方もいらっしゃる様に、現代(日本?)人から見ると 「その元ネタの人、誰ですか?」 となってしまう場面も多く、そのへんはムニャムニャ近代考古学の味わいとするのが吉でしょうか。 よく分からない探偵役を検索してみたら “ちょっとだけクリスティの短篇に登場する人物” だったりもしました。 これには笑ったなあ。 「次回の事件は、ロジャー・シェリンガムふうにいきたいな。 タッペンス、きみがロジャー・シェリンガムになるんだ」 だとよ(笑)。 |
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| No.1441 | 5点 | 腐蝕の街- 我孫子武丸 | 2026/02/28 01:58 |
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| “俺以外に生き残る価値のある人間などいるとは思えなかったが、誉められて悪い気はしなかった。“
平成レトロフューチャー東京冬の陣。 時代は現在より少し前の2024年。 1995年の刊行だから、四半世紀を超えて約三十年後を描いた作品という事になる。 現実歴史との答え合わせは、通貨のインフレ以外はだいたい合っている。 通信関係で、目立たないが微妙な根本的相違があったかな。 社会やテクノロジー進化へのきめ細やかな考察など、光っていたと思う。 そんなレトロフューチャー2024年の東京で、連続猟奇殺人事件(謎の違和感付き)が起こる。 殺し方も悍(おぞ)ましいが、何より奇怪なのは、その犯人が、数年前に処刑された連続猟奇殺人鬼その人としか思えない状況を呈していること。 その殺人鬼を捕獲した警部補が本作の主人公だ。 彼は街の喧嘩の仲裁(?)で知り合ったナイフ使いの売り専少年を家に匿い、連続殺人の捜査で若い女性刑事等と知り合い、肉体派や頭脳派の悪党どもに狙われ、処刑された筈の殺人鬼らしき人物からも命を狙われる。 ここまで6点。 「アフリカか。 楽しそうだな」 仮説のダミーながら、なかなか目からイルカが落ちるすごい殺人動機が語られた。 それだけで7点の蜃気楼が見えた。 しかしながら、一方で芳しくない文章傾向も目立つ。 渋い敵対関係が続くと思われた二人があれよあれよとなし崩しに仲良くなっちゃったり、妙にイージーで雑な進行がスリルを殺ぐ。 深夜アニメのような萌え要素配置もちょっと鼻に来た。 荒廃した大都市のイメージは付け焼き刃でイメージ広がらず定着せず。 ふやけた、可愛らしい下ぶくれのハードボイルド。 甘~~い警察小説。 葛藤の無い、お手軽な冒険譚。 戯言臭いボーイズなんとか。 妙に安定した、安心の犯罪ストーリー。 だが、それが愛おしい、、 と言ってみただけ。 3点かな。 そんなんでありながら(?)滲み出す、或る、あの、ありがちな疑惑。。 “私は裸じゃないとよく眠れないんだ。 …… いいか。 誰にも言うなよ” ところが、終盤クライマックスでは打って変わって … この ”特殊心理描写” はちょっと凄い。 “不自然な演技” の妙味が熱い … 「そいつのことは考えるな!」 … 映画にしたいような燃える名シーンが襲った! … 「普通にしていればいいんだ。 そうだろう?」 … そこでさん付け(ちょっと違う)か … “しかしどうやら、すべては本当のことだったらしい” … なんだおまえ、分かってるんかーー … 「…… 助けに?」 … (たぶん)最高の死に様、死に際で魅せてくれた。 … 「何があったのか説明してもらえますね」 7点かな。 ところがどっこいドンタコス。 この激熱にして狡猾なクライマックスから、極楽地獄の甘々クロージングへと、そんなん聞いてない、あきれた瞬殺のダイヴには唖然とさせられちまった。 やっぱり5点。 “古くさいトリックだった。” だが ・・・・ このエンドだ!!!! オリジナル劇画版 「オールドボーイ」 のような甘酢で引き締める終結と予断したが、違った ・・・・ ・・・・ しかし、物語の評価としては既に時遅し。 ストーリーバランスも崩した。 面白かったから、いいんだけどね。 5点の上の方。 5.3くらい。 “夜は不気味な廃墟のようにしか見えない街だが、朝日の中では引退した老女優のように哀れを誘う。” ← 絵が浮かぶねえ |
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| No.1440 | 9点 | 奇術師- クリストファー・プリースト | 2026/02/24 23:45 |
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| “書き出して早々だが、ここでいったん中断する。”
この結末はちょっと … 沸き上がっちゃうよ。。。 瞬間移動、双子、作中作◯◯、隠し事、抜けの多い日記、ニコラ・テスラ、これ見よがしのいやらしさ。 作中作には更にいやらしい注釈まであった。 “重要な情報を省いたのである。 そしていま、あなたは間違った方向を見ている。” 主人公の男はジャーナリスト。 或る日、見知らぬ女から一冊の本が送られた。 女の話では、この本は、ヴィクトリア朝末期から二十世紀初頭にかけて花形奇術師であった、男の先祖が書き記したものという。(幼くして養子にもらわれた彼にはそんな先祖の憶えは全く無い) 更には、その先祖の不倶戴天の敵と言うべきライヴァルだったもう一人の花形奇術師が、女の先祖だという。 男は本を読み始める。 物語は霧の中へと迷い込み、封じ込められる。 “あのようなものを目撃したわたしほど悲惨な人間は滅多にいないだろう。” “どんな問題であれ、全盛期を迎えている奇術師の能力を超えるものではない!” “この秘密を守っていくために、わが人生がどれだけゆがんだのか、××には想像もつかないだろう。” ライヴァル奇術師の二人を縛り付けたものは “瞬間移動” のイリュージョン。 二人の “瞬間移動” は、根本的に異なる原理に則っている(ようである)。 あまりにも余裕を持った、異様に大きく間隔を取った、同一事象の別視点叙述が現れて、ふわっと心を掬われた。 おいおい、この日記はいったい誰が書いているのだね・・ “われわれは友人であるべきだったのに。” 史実から虚構へのタッチアンドゴー、これが実に巧みで、引き出すエネルギーもやたらと大きい。 幅広い奇術のトリック要諦が絶妙にネタバレを避けて敷衍されている逆説的華やかさも本作の美点だ。 だがしかし、いやいや、それどころではないのだ!! この小説の巧緻な企みの行きつく先は!! こんな罪作りな小説構造、読了後、少し間をおいて(すぐに、ではない所が重要)、読み返さずにいられないではないか!! ごく短い最終章の重いこと! 何なんだ、この遠大なる気持ち悪さは・・・・ “空気は驚くほど甘く、表よりもはっきりわかるくらい温かかった。” 叙述ギミックとアレとがこれほどまで強固に深遠に結び付いていたとは!! これはもう、世にはびこる数多の叙述ギミックやアレが甘ったるい戯言に見えてしまいかねないではないか!! むしろ、あまりに堂々とした小説態度が、アレの方までは気付かせないという線までもありそうだ。 窒息させないでくれ・・ そしてアレもナニも軽々と跳び越える、遥かなる、おぞましい真相。 この小説の決め技はいったい幾つあるのだ。 “わたしは独りで最後へ向かうのだ。” .. じわじわと .. 打ちのめされました。 SFミステリというより、幻想サスペンスの傑作だと思います。 『世界幻想文学大賞』 1996年受賞作との触れ込みで、確かにそれも納得ですが、サスペンス型ミステリ小説としても最高の出来なのではないでしょうか。 |
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| No.1439 | 7点 | きまぐれ学問所- 評論・エッセイ | 2026/02/21 00:30 |
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| “若さが希薄になれば、抵抗もへるせいか、なかを進む時間の動きも早くなる。”
古き良き時代、昭和と平成の境目に綴られた、思索と提案に古今の “書評” を絡めたエッセー。 幹も枝葉もよく伸びる。 軽いようで重厚洒脱。 常に明るく前向きで、時に驚くほど攻撃的。 ミステリ好きのSF作家である氏が、もう一人の自分とアイデアの短いパス回し(足元でよく変化する)公開練習を見せてくれる。 屡々タッチラインを越えたかと思えば、そこはもう隣のコートだったりする。 特殊なようで実は普遍的な話題を掘り起こすのが上手い。 深いところに手を伸ばす魅力の一冊。 でもまあ、軽い気持ちで読んでくださいな。 つぎの未来は/ジプシーとは/『文章読本』 を読んで/凧のフランクリン/ファシスト人物伝/人生について/エスキモーとそのむこう/老荘の思想/発想法、あれこれ/李白という人/フィナーレ “もっと書いてみたいが、から回りの見本になるばかり。” |
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| No.1438 | 7点 | クロスファイア- 宮部みゆき | 2026/02/15 20:56 |
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| 「さっきまで換気扇を掃除していたもんですから」
ジャングルの熱波を走る毒矢の如き、暴力的リーダビリティ。 殺人を厭わない悪質不良少年群を焼殺・圧殺するいきなりのクライマックスシーンは、その復讐嗜虐テンションの綱が少しでも緩む事を、長きに渉って許さなかった。 “彼はこう叫んだ ―― こんなことをしてただで済むと思うなよ!” 隔世遺伝により念力放火能力(パイロキネシス)を持つ若きヒロインの “実力行使” と、連続放火?虐殺事件の犯人と真相を追う警察とのカットバック。 これがいきなりの大きなすれ違いを見せつける。 おかしなくらい手の早い展開。 信長を思わせる躊躇無い制裁の連なりは陶酔を誘う。 ヒロインはやがて彼女を ”獲得” しようとする特殊地下組織からの接触を受け、その渦中で不器用な恋愛ドラマも生まれる。 サブ主役含む重要人物とその人生や過去が次々と登場し、複雑化したカットバックは色彩を滲ませ大いに盛り上がる。 “この女の蒔く種がどれほど大きな邪悪の樹木に成長するか、考えてみなくていいのか。” “この女のせいで誰かが死んだとき、おまえは後悔せずにいられるか。” 物語の進行もまだ浅いうちに、妙に尚早な、或る落ち着きへの布石が見えた。 これはその先に待っている空怖しい何かの、底知れない深さを暗示してるのだろうか、指が震える。 それでも尚、刃向かうもの無くズイズイと傍若無人進行するストーリーの斜め前に、睨みつけられるような違和感が、とうとう、なすりつけられた・・・・ “―― あんたは独りぼっちになってしまうよ。” 不可解な混乱と危機感のど真ん中、滾る復讐への血盟が聳え立つ。 やさしさと暗黒の甘苦いマリアージュ。 物語も後半に入ったあたりから、作者の分身のような中年女性刑事の、やさしさと包容力を抱き込んだ存在感が勢いを増し、それがまるで “まだ見ぬ” 主人公の心まで、物語の中で遠隔操作で解きほぐして行くかの様に見え始める。 このなし崩しの変容は、いったいどうしたことか・・・ “温かな “恋” だ。 ああ、もう見えなくなってしまった。” と・こ・ろ・が・だ! そっちから来るか! ルール違反じゃないのか! と驚きの(しばらく前に読んだ白井智之の某作をはっきり思い出した!)大きな反転。 そこから始まる、内なる大きな展開。 憤怒と勇気と哀切の、最後の××シーン。。。。 誠実な事後処理と、ささやかなクロージング。 「幸せというのは、いつだって点なんです。 なかなか線にはならない。 それは真実も同じですがね」 |
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| No.1437 | 6点 | デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士- 丸山正樹 | 2026/02/11 00:30 |
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| <今まで、本当にありがとう>
<でも、これでお別れじゃありません> <私たちは、いつまでも家族です> 熱いぜ .. 冷たいぜ .. 熱いぜ ... 狭山の公園で発見された刺殺死体は、聾児施設 「海馬(うみうま)の家」 の理事長と判明した。 奇しくも十七年前、被害者の父である、同施設の前理事長も(こちらは施設内の一室で)刺殺体で見つかっている。 十七年前の事件の際、当時事務員として勤めていた警察署内で、臨時に容疑者取調べの手話通訳者として苦々しい仕事をしたのが、本作の主人公。 彼はCODA(聾者の親・家族のもとに育った健聴者)である。 警察事務員を辞して後は夜間警備員として勤める主人公だったが、少しでもペイの良い仕事を求めて手話通訳士の資格を取り、エージェントを通して、クライアントである聾者に銀行や病院へと付き添う仕事をこなしていた。 ある日、裁判所での手話通訳を依頼され、不如意な結果ながらも、或る大きな信頼を得た主人公は、これをきっかけに、聾者とそれを支援する者たちのコミュニティから接触を受ける。 また昔の警察同僚と再会し、その対話の中で、二代に渡る 「海馬の家」 理事長刺殺事件真相解明への意欲を掻き立てられる。 初代事件の犯人とされたのは、主人公が “取調べ” に手話通訳で立ち会った、聾児である娘を同施設にあずけていた、自らも聾者である中年の男だった。 既に釈放されているが、現在行方知れずであるこの男は、今回の事件と何らかの関係を持っているのではないかとの疑いに晒されている。 主人公を取り巻くのは、聾者たちと支援者たち、警察の元同僚に加え、別れた元妻、再婚を考え始めた女性とその一人娘、その元夫、認知症を患う聾者の母、厄介な聾者の兄とその家族、初代事件の “犯人” とその家族、と多岐にわたる。 やがて厄介な謎の壁が立ちはだかる。 十七年前の “取調べ” の際、主人公に向かい強烈な一言を ‘手話で’ 吐いた、容疑者の娘(施設にあずけられていた姉ではなく、健聴者である妹のほう)が、何故か、存在しないことになっている。 死んだとか失踪したのではなく、元からそんな人物はいませんでしたと。 これはいったい何のイリュージョンか。 不可解な謎に悩まされ、私生活のトラブルを抱え、過去からの苦悩を背負いながらも ‘二つの’ 事件の真相解明に心を燃やす主人公。 本作、一方に社会問題提起(あるいは社会の一側面紹介)という要素があり、一方にはもちろんミステリ小説の要素があるが、その二つががっちり嚙み合って “社会派ミステリ” を成しているかと言えば、そこはちょっと微妙な気はする。 だが、社会派の風がミステリ文脈に少しでも吹き込むだけでスリルとサスペンスが段違いに締まっている事実は否めず、どことなく距離があるも結果オーライな共存関係を見せているのではないかと思う。(まあどうでもいいことですかね) 大きな減点対象は、ミステリの核心を成すと思われる ‘◯◯の操作’ に関わる諸々が、その中心的関与者の置かれた立場に照らして、あまりに簡単に行き過ぎているように見えるのと、それとやっぱり結末が、いくらなんでも突発性キラキラのお花畑に過ぎませんかという違和感。 この結末では、せっかくの物語の深い余韻残響にフタをされてしまうような気がします。 結末に至る直前の◯◯◯シーンは、ミステリ的にも文芸的にも誠に意外性と感動に溢れた、トリッキーにして激熱無比の貴重な逸品なのですがね。。 だからこそ、残念! 本作ならではの美点としては、聾者と手話を取り巻く環境の一枚岩でないことがあらためて紹介・確認されていたり、手話の描写が上手く、親しみが自然と湧いたり、その ‘手話’ ならではのちょっとした ‘トリック’ やら泣かせどころ、時にユーモラスなシーンなどが意外性たっぷりな登場をする所が挙げられると思います。 二つの事件の真犯人像とその周辺事項には一捻りした熱さがあり、過去と現在のクロスオーヴァー案件は心に楔を打ち込んで来る。 主人公と元同僚刑事とのラギッドな友情は沁みる。 そもそも警察を追われた理由が凄まじい。 それやこれやで読みどころの豊富な意欲作。 リーダビリティが高すぎて長篇感がやや削られているきらいもありますが、とりあえずササーッと一気読みしてみてはいかがでしょうか。 私のようにNHKドラマで観ちゃったよという人も、臆せずGOしてみましょう。 |
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| No.1436 | 6点 | タルト・タタンの夢- 近藤史恵 | 2026/02/09 23:02 |
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| 連作短篇の中に一つ、人情派数学トリックとでも呼びたいちょっとした仕掛けの一篇があった。 まるで島荘人情派バカ物理大規模トリックの “なんちゃって物理” を “ガチ数学” に置き換えて、体感規模を小さくし知的に仕立て直したかの様。 先行評を読むと本作の評価が頭一つ抜けているみたいですね。
タルト・タタンの夢/ロニョン・ド・ヴォーの決意/ガレット・デ・ロワの秘密/オッソ・イラティをめぐる不和/理不尽な酔っぱらい/ぬけがらのカスレ/割り切れないチョコレート キッチン二人、フロア二人(一人は兼ソムリエ)で構成される町の小さな人気ビストロを舞台に、一見とっつきにくそうなシェフがなにげなく解決するのは、客が持ち込んで来る、日常の謎というより、非日常の懐深く迷い込んだ人生上の謎と言うべきもの、が多くを占める。 人生と言っても決して大上段に構えたり、哲学の沼に潜らないのが良いところ。 健康な食欲に訴えるカラフルなフランス料理(バスク含む)披瀝の合間に、シェフが披露する謎解きは、演繹推理というより人生経験からの帰納的解答導き出しの色合いが強いゆえ、少々本格ミステリ性を犠牲にしているとは思うが、その分自然なリアリティが気品高くにじみ出ている。 中には 「え、そんなことをわざわざミステリにするの?」 と思う作もあったけれど、その解決篇では食材や料理の有用な知識に人情の機微がうまく絡められ、決して悪い出来ではなかった。 もちろんミステリ性の高い作もある。 或る一篇では、小さな手料理を舞台に大きな人生上の皮肉が描かれており、結末へのなだれ込み含め、なかなかに胸を打つものがありました。 (そうそう、ちょっと胸糞ファッキンバッドな物理トリックエピソードのやつも一篇あったな!) だがやはり、ミステリとして且つ人情譚として最も響くのは、前述した数学トリックの一篇。 これはもう言っちゃって構わないと思うのだが( 薄 ~ い ネ タ バ レ で も 嫌 う 方 は こ こ か ら 後 を 読 み 飛 ば し て く だ さ い ) “素数” なる、数学的感動以外の感動とは全く縁の無さそうな存在が、こんなにもハートウォーミングなエピソードの中核を成すことが出来るなんて! それもイメージではなく極めて具体的な形で!! 目からイクラが落ちました!!! |
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| No.1435 | 7点 | 最悪のとき- ウィリアム・P・マッギヴァーン | 2026/02/07 00:52 |
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| 「元気を出すんだ。 銃を拾え」
このエンディングには唖然 ・・・・・・ なんて照れ隠しを隠して言えば、この結末には、溶かされたよねえ ・・・ してみると、この少し前の、エンディングと同じ二人を主軸とした、センチメンタルな伏線抱えつつハードボイルド風に刺さる名シーンは、ダシに使われた前フリだったって事か! なんたる騙し絵か!!(ちょっと違う) 「覚えていますか。 あんたは、好きな男がめくらで、どうしても気づいてくれないんで、キャバレーに勤めるんです。 そして、すっかりおめかしをすると、その男は大学で知っていた女とは知らないで、あんたにほれこんでしまうんです」 ニューヨーク・シティは冬。 ハメられてシンシンに五年も喰らい込んだ元刑事は、出所するや自分をハメた真の殺人犯を追いつめる仕事に着手する。 矢先に、重要な証人たる友人や、尊敬を集める町の長老格までが殺害された。 港湾労働の現場を背景に、悪事の構造が見え始める。 市警元上司や同僚の協力や訓諭、反目に対立、中には不逞な悪徳刑事もいる。 妻にはアンビヴァレントな感情で離婚を願い入れた。 男臭いギャング社会に息づく女たちがいる。 間借りするアパートには優しいおかみさん。 幾人ものプレーヤーが各其ミステリの持ち場で躍動する全員野球っぷりが盤石のストーリー展開を見せてくれる。 “ケリーはアイルランドの民謡を口笛で吹いた。 そのメロディーが、寒い風の夜のなかを、はっきりともの悲しく聞えてきた。” ↑ 端役ケリーまでが最高のプレゼンスを見せるこのシーン。 好きだなあ。 物語の中には、miniさんご指摘の “日本の時代劇によくあるような人物配置” も感知できるし、クリスティ再読さん仰る “ハードボイルドというより、ヤクザ映画” はまことその通りかと。 直接心理描写まみれの文体のみならず、物語の流れがハードボイルド流儀とは少し違うし、狭い意味で言えばミステリーでもない、だが不思議な事にこれはハードボイルド・ミステリーである ・・・ なんて逆説的に言えてしまうわけでも勿論ない。 しかしこの苦いようで甘いような殺伐人情物語は実に能く読ませる。 人並由真さんの言及された “大家のおかみさんから深酒をすぎした入居者の元郵便局員の世話を頼まれ、その老人の孤独な心情にそっと触れる描写” などは、苦さと甘さのハグし合う本作の象徴的シーンではなかろうか。 なんと言うか、藤沢周平を思い出しちゃいました。 “人はみんな孤独なのだと、考えていた。 そのことを早く悟れば悟るだけ、人間はうまくやって行ける。 しかし、それは悟るに苦しい真理であり、人は、それに刃向おうとする。” |
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| No.1434 | 7点 | ジェリーフィッシュは凍らない- 市川憂人 | 2026/02/05 01:15 |
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| 「地球の半径が約六〇〇〇キロメートルですので」
舞台は米国。 「そして何とかもいなくなった」 のガッツあるパラフレーズであり、 「なんとか角館の殺人」 インスパイア案件でもありましょうか。 悪天候と不時着飛行船に閉ざされたクローズドサークル内で、或るミッションを帯びた六人の乗組員が、一人また一人と殺され、とうとう誰もいなくなってしまいます。 中過去(’80年代)パラレルワールドにて、ささやかなSF特殊設定のもと、“事件現場(リアルタイム)” と “捜査現場(事件発覚後)” との時間差カットバックで熱いミステリが展開します。 そこに “犯人の独白” めいたインタールードが何度も挿入され、事件の背景・遠因と取れる過去事象を掘り下げて行きます。 頻出する傍点には、ありがちなハッタリとは訣別済みの、実質への確信的予感が宿っています。 「七人目などいないという結論にならんか」 広い意味でホワットダニットの見えそで見えない、まるでオーロラが旋回する様な全体像隠匿技巧にはずいぶん引っ張られました。 清冽な新機軸ミステリ建造物の中、不意の風穴にベタなミステリワードが吹き抜けて行き、続いてベタな疑惑露呈が追いかける、ナニな展開がありました。 意外なタイミングでの “視点逆転” に、付随する地の文が上々のアシストを見せるくだりも魅せてくれました。 もしやそこに、大きな盲点の “隠れ場所” があるんじゃないのかい 。。。 なんてふわっと考えていたら、、 いやいやそう来ましたか ・・・・ 「言う必要はないぜ、ウィリアム」 派手な叙述ギミックを、一見渋い(?)叙述トリックが、内側から侵食し尽くしたかのような構造の物語と言えましょうか。 すぐに記憶頼みの仮想再読を迫られ、あのシーンやあれやこれに 「そう言やあ確かに。。」 と天を仰いで膝を打たざるを得ません。 主役のバトンタッチ(?)をも手に掛けた真犯人隠匿技はなかなかのものです。 思いのほか重層的な真相は誠に興味深い。 被害者たちはもとより、警察側の人物描写・人間模様もカラフルでなかなかよろしい。 犯人と或る人物の関係性、そしてそれが明かされるタイミング、熱い(冷たい?)ですよねえ ・・・・ 死んだ順番のナニやら、”偽装思惑” の機微の上をトリッキーに綱渡りするあたり非常に面白いけれど、アレ工作がうまく行き過ぎではないかとのリアリティ欠損感は少しあります。 "悪党たち" の謀略と行動にしても、カッチリ納得して吞み込むとは行き難い残留気泡がなめし切れていません。 犯行の道筋に気持ちよくないデッドスペースが感じられると言うか。。 何気に目立つ欠点はそのあたりでしょうか。 それでもなお、四捨五入して7点でもかなり上の方(7.4超)は間違いないですね。 |
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| No.1433 | 7点 | 青春の証明- 森村誠一 | 2026/01/30 01:40 |
|---|---|---|---|
| 「あら、ジョン・デンバーが来日するらしいわね」
「なに、ジョン・デンバーだって!?」 ウーン熱いぜ森誠。 語るぜ森誠。 澄ました顔してギラギラだぜ。 三家族、大戦を挟み二世代、それぞれの理由で青春を奪われた者たちの復讐劇によるカットバックは、早々に激しく絡み合い、予断の轍をキリキリと逸脱する。 キーワードは 「卑怯者」 。 ミステリの場では◯つの殺人と、◯つの××が発覚。 戦争、病、歌、バイク、車、山、川魚に山菜、老刑事、不良少年、築地の料亭。 ××動機を巡るミスディレクションには振り回されたが、独特にも程がある結婚動機には驚いた。 流石の森村誠一だ。 ◯つの、全く意趣の異なるダイイングメッセージと、それぞれが果たすストーリー上の役割は興味深い。 ジョン・デンバーの◯や◯◯の件は、面白いけど、実際どうなんだかなと思いますが・・ 「今は日本が、国の歴史はじまって以来の暗黒の時代にある。 こんな時代に死んではならない。 いつまでもトンネルはつづかない。 いつかは必ず抜けられる。 それまで生きのびるんだ」 中盤からふつふつと奔出し始め、終盤に至ってあからさまな暴走を仕掛ける偶然という名の運命(デスティニー)。 だが、意外な線から物証を繋いで真相暴露に至るシンプルなパス切りが気持ちよく、そんな筆の無茶をも許してしまわざるを得なかった。 一見意味不明風な最終章タイトルの意味が赤々と明かされる足早のくだりは熱かった。 それにしたって、最後の対話シーンで、まさかの大オチが暴露されるとは ・・・・ なんたるイリュージョン ・・ そのイリュージョンの浮力で頭が宙を舞ってしまうではないか。 結末の切なさに、別角度からトドメの一撃 ・・ のように見えて、その一方で熱い◯◯と、やはり切ない◯◯ ・・ やってくれるではないか。 “その後は、どんなに語りかけても、夫の返事は戻ってこなかった。” |
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| No.1432 | 7点 | 巷塵- 石川達三 | 2026/01/24 17:08 |
|---|---|---|---|
| “取急ぎ右の如く追加御報告申し上げます。 計らずも調査に相当の日数を要したことを、改めて御詫び申します。 以上。 (××探偵事務所)”
巷塵 表題作は以下の掌篇・短篇全十篇から成る連作中篇。 日蔭の家族/被害者は誰か/執念/金の卵を産む鶏/生きることのむずかしさ/破談になった理由/人間の土地/旧悪/たわむれ/復讐 全篇、私立探偵が依頼人に提出する報告書の体裁を取っており、文体は極めてドライだが、行間から勢いよく飛び出して来る愚かで哀しい其々の人間ドラマはどれも呆れるほどウェット。 読書が進む。 洒落を言えば、これぞ本当の 「探偵小説」 となる所だが、趣は少し異なる。 パラミステリの一種とは言えるだろうが、(濃淡はあるものの)ミステリに化けそうな要素が小説の表層にもどかしく現れると言うよりは、突(つつ)けばミステリに成長しそうな要素が小説の奥まった核心に留まったまま 「俺は、ミステリには成らない道を敢えて選ぶが、読者側で、俺がミステリに成った場合の様子を勝手に妄想する分には、一向に構わないぜ .. 」 との意味を込めた低い口笛を吹いているかの様である。 とは言ったものの、実は中に一篇だけ、ストレートなミステリ小説と呼ぶべき作品が入っている。 真犯人と事件全体像の意外性はナカナカで、ミステリ心を唆るちょいトリッキーな構成もニクい。 さて、それはどの作か? 更に言えば、それぞれの案件に対し、一体どこの誰が、如何なる目的で探偵に調査依頼などしたのだろう、というミステリ的興味もひっそりと宿る。 “事件は解決した。 しかし事件が解決すれば万事が解決するという訳ではなかった。” 偽手紙 中年夫婦の夫のもとに、一通の、女性名での封書が届いた。 妻には中身が見えないこの手紙が、夫婦両人に淡いポジティヴ・ヴァイブをもたらす。 短篇小説の見本の様な展開と結末が、何を隠そう悪くない。 タイトルが見た通りの出落ちネタバレか否かは ・・・ 言わずにおきましょう。 手切れ 愚かで容貌の醜い夫婦の間に、突風が吹き抜ける。 余所の女が介入したからである。 日常のサスペンス性はあるがミステリ性は無い、だが心熱くする人情話。 “だが、それとは別に、どうです、あいつに、たった一遍でいい、菓子の一折、うなどんの一鉢、それだけでいいから差し入れしてやってもらえないだろうか。” 生活の智恵 女が独歩で生きるのが難しい時代。 決して男を遠ざけはせず、ちょっとした女の智恵の積み重ねで、街角のパン屋としてささやかな成功を手にする主人公は、早くに夫を事故で亡くし、腕の良い不愛想なパン職人の若い男に頼る。 だが或る日 ・・・ 何かを一変させた重大事を契機に、心の謎が解かれる結末は◯◯◯感動を運ぶ。 誘惑 料亭強盗事件の容疑者は若い男。 本人、被害者側ともに、供述に微妙な違和感が漂う。 掛け値なしのミステリと呼べる一篇。 ラストシーンは、決してスケベというわけではない、と信じたい(笑)。 時の流れ これは ・・・・・・ ! 昔の恋人に産ませた実の息子と、初めて対面する初老の男。 息子のつかみどころ無き塩対応に失望した男は、それならむしろと、昔の恋人の方に会おうとする。 そもそも成人した息子を差し向けて来たのは彼女なのだ。 そこに何らかの愛情が籠っていないという法があろうか。。 「母は馬鹿ですから、案外よろこぶかも知れません」 張り巡らされた理論を、感情の毒が徐々に侵食し、無謀な行動に至る物語。 ラストシーンのような人生経験のある方はいらっしゃるだろうか。 “××はだんだんに自分が収拾がつかなくなって行くような気持に悩まされていた。 ××は事件の解決のために、何をしたか。 何もしなかった。“ |
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| No.1431 | 6点 | 怪盗レトン- ジョルジュ・シムノン | 2026/01/20 23:09 |
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| レトンは怪盗ではない。 国際詐欺組織の長だ。
レトンは名前ではない。 詐欺犯罪界の大物 「ピートル・ル・レトン」 の 「レトン」 とは、 「清水の次郎長」 の 「清水」 や 「レオナルド・ダ・ヴィンチ」 の 「ヴィンチ」 同様、出身地を表す固有名詞である。 季節は冬。 いくつもの国境を越え、パリに到着した列車の中で、タイトル・ロール 「レトン」 の射殺死体がいきなり発見される。 ところがもう一人、同じ列車から降り立った青年が、やはり 「レトン」 と違わぬ容姿を持っていた。 タクシーを拾った青年は近くの豪奢なホテルに入り込み、そこには著名な米国人富豪夫妻が滞在している。 青年は夫婦と繋がりがあるらしい。 ホテルではいっぱしの紳士然と振る舞う青年だったが、外出して場末の酒場に入ると突如として下卑たロシア風の酔っ払いに豹変した。 そして二人の女性との、大いに謎を含む関わりが検知された。 尾行、対決、冒険が続く。 仕事中も酒を飲み、決して飲まれないメグレ。 海が苦手なメグレ。 帽子を飛ばされたメグレ。 間一髪で死を逃れたメグレ。 昏い大過去への旅。 閃光放つ近過去の発掘。 真相追究の炎はじわじわと追い上げ、やがて暗闇の中で燃え盛る。 いやあ、この小説は思いのほか深い。 反転角度の控えめさなど問題にならない。 何だか軽そうな邦題に騙されてはいかんのです! 「火酒(グロッグ)でやしょうな? …… それにご馳走をたっぷりとね」 「それから巻たばこだ。 ゴロワーズ・ブルーをな!」 夥しく挿入される、様々な酒のシーンが良い。 安い酒の肴に食い物がまた良い。 凍える空気の中、何かとストーヴにあたるメグレが良い。 味わいと癒しと柔らかな光を含んだ最終章は最高だ。 メグレ長篇第一作。 小説世界に後年作とのギャップは感じます(特に前半)。 ですがメグレには違和感ありません。 メグレは不変で、周りの小説世界が変わった、あるいは著者シムノンがメグレに振り回される形で変わったのでしょうか。 |
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| No.1430 | 7点 | 祈りの幕が下りる時- 東野圭吾 | 2026/01/18 01:14 |
|---|---|---|---|
| “いいセンはいっているが、加賀は何もわかっていない。”
加賀恭一郎自身の事件。 冒頭、加賀恭一郎とは切っても切れない縁を持つ人物の、仙台での過去エピソードが語られる。 その人物と、疎遠になっている加賀恭一郎とを細い糸で結び付ける、第三の人物が存在した。 一方、東京某所にて発見された年配ホームレスの焼死体と、同じく某所のアパート一室で発見された、部屋の住人男性とは無関係と見られる女性の絞殺死体。 女性は本作の一方の主役である舞台演出家(元舞台女優)の旧い友人だ。 男性の方は目下行方不明だが、ホームレス案件との連関が疑われた。 “小学生の頃、同級生の男の子が同じようなことをしていたのを××は思い出した。” ミステリ小説として、ミッシングリンク(&アンミッシングリンク)の置き場所が絶妙だ。 今宵の東野は先ずそこから攻めてきた(かのように見せて来た?)かと期待が高まる。 ちょっとした経緯が大きな影響をもたらしたDNAトリック(アレじゃなくてアッチの方)。 併行して ’物が少なすぎる’ 部屋の違和感の正体明かしも鮮やかだ。 過去と現在と(きっと、未来も..)を繋ぐ、幾つもの悲惨な離婚案件を含む人間関係や事件の錯綜はミステリ興味を強烈に後押しする。 事件の真相を巡って明かされた人間ドラマは相当なものである。 何より、加賀恭一郎の一生に関わる或る謎が解かれた(or これから解かれる?)という所に、限りない重みがある。 “それでもやはり小さな波紋さえ生じないのか。” 「時は金なり常盤橋」 ・・・ 暗号めいた “月別橋づくし” の件、暗号的なものとしては小味な真相だが、そこには充分に泣かせる、明るく切ないドラマ性が秘められていた。(ちょっとした惑わせ叙述も..) しかし、或る人物、いくら深くて強い動機に突き動かされてとは言え、チョット簡単に人を殺し過ぎでないかとの違和感はある。 ソコを上手に小説地馴らししきれなかったのは減点対象。 HORNETさんのコメントで、明記されている通り、はっきり書くとネタバレになりますが ・良心の呵責の件 ・ダミー伏線の件 私もこの二点がちょっと、うまく小説に溶け込んでいないなと感じます。 Tetchyさんご指摘の > 実は私にはここに書かれなかったもう1つの真実があると思うのだ。 なぜ加賀の(以下略) ですが、これには膝を打ちました。 気付かなかった・・ 或る人物が口にした 「幕が下りた後が心配」 なる台詞。 結末を迎えて深い意味を持つかも知れないと思っておりました。 |
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| No.1429 | 6点 | 愛人岬- 笹沢左保 | 2026/01/15 23:45 |
|---|---|---|---|
| “Xとは、永遠の別離であった。 そう思うと、ある種の感慨とともに、Xだけに対する愛着が湧く。”
主役は若いOL。 妻子ある男性(先輩エリート社員)と恋愛関係にある。 その男性の親友(金持ちの風来坊)が或る日、京都府は奥丹後半島、犬ヶ岬の海上にて死体で発見される。 同じ場所で同時に、愛妻家で知られる人気文化人タレントの妻が死体で発見された。 密室とアリバイと愛人関係。 愛人関係が密室を生成し、密室がアリバイを生成した。 三位一体トリック。 そこへ “指輪” の謎が悩ましく絡みつく。 瞬殺で偽装心中 “ならず” の不穏と違和感を捲って、意外な容疑者がミステリの場に登場する。 遠方からの証人も現れる。 あちらのアリバイ、こちらのアリバイともに綱引きの手を緩めない。 喉に引っ掛かる際どい物証。 ごく自然に咄嗟の機転、そこで読者に新たな疑惑。 二つの事件(?)の絡み合いは、どちらか一方に集約されるのか、されないのか。 二人の探偵役候補(?)の奇妙に微妙な擦れ違いのような、相反し合いのような、対立に至るような、信頼が息づくような、興味深い関係性。 「 ( 前 略 ) 当然なんじゃないかな」 そこで、わだかまりは消えた・・・ 本当にそれでいいのか・・・ 読者にしてみたら、思わせぶりな疑惑の鈍い光は留まり続けているじゃないか・・・・・・ 最終章で明かされたアリバイ/密室トリックの肝となる部分に向かって、小説の冒頭部から既に大伏線が張られていたのには、唸りました。 だが、仮にこのトリックを(殺人等でないにせよ)実際に実行してみたら 「ほほう、君もやるねえ」 と感心されるだろうが、これが推理小説の根幹トリックと思えば、どこかちょっと弱い。 アリバイと密室が不可分という所に折角のアピールポイントがあるのに、これではいかにも勿体ない。 また、執拗なエロス描写(エロではない、エロスです)が実は上記トリックを成立させる重要な鍵(!)に繋がっているのだが、それにしたって夥しいセ◯クスシーンはさすがにトゥーマッチ、ちょっとしつこい、ミステリ領域から逸脱していると感じます。 「簡単で単純な仕掛けではあるけど、人間の習性と心理をごく自然に応用しているだけに、下手をすると崩すことが不可能なアリバイになったかもしれない」 ↑ 独白文での自画自賛(?)、ちょっと笑いました。 そんなこんなで小説の惜しいアンバランスが結末で露呈された形になったのがナントモで、7点の壁(6.5以上)は惜しくも越えませんが、6点でもかなり上のほう(6.4以上6.5未満)という評価です。 読む価値は充分にあります。 |
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| No.1428 | 8点 | マークスの山- 高村薫 | 2026/01/13 00:25 |
|---|---|---|---|
| 「楽しいマークス! 人殺しのマークス! 明るいな、今日は!」
熱いな。 寒いな。 やっぱり熱いな。 冒頭からワクワクだ! 魅力的な殺人容疑者(毎晩一升瓶を空ける山岳労務者)の日常と勾留、取調べ。 そこから物語が歩き出す先は意外性の起伏に揉まれ、やがて警視庁捜査一課を中心とした警察・検察・××の沼へとたどり着く。 主役は一課七係の刑事合田。 犇めくケイサツ達も個性と魅力と台詞とにマミレている。 「後々先生ご自身のお立場が有利になるだろうという私どもの配慮だったつもりですが」 昭和クロージングサードから平成初頭へ掛けての、もどかしき犯罪ミッシング・リンク探求物語。 雪の南アルプスは “北岳” 周辺。 無関係な悲劇と悲劇とを結び付け、新たな惨劇の種子を仕込んだのは、あの××。 山中にて親子無理心中の生き残りとなった少年は、親戚の養子にもらわれ、その経営する豆腐屋で働き、生きるために心を病み、入院し、刑務所に入り、地を這う紆余曲折を経、看護師の大柄な女に際どく養われる形となる。 一方、都内数か所にて、淡い繋がりが検知される複数の殺人事件が発生。 そこには凶器の謎で引っ張る展開がある。 その奥には通念では考えられない特殊過ぎる恐喝の形態が垣間見える。 恐喝を受けているのは××関係の紳士サークルらしい。 捜査には上層部からの牽制が入る。 ≪知ってるぞ、知ってるぞ、ずっと前から知ってるぞ≫ 組織の黒い霧に抱きかかえられながら捜査はじりじりと進行し、終盤、或る人物への容赦無い追い込みと、やはり容赦無い返しから、それまでもどかしく遮られていた真相の洪水が堰を切って場を満たし始めた。 振り返れば、××の人物が思いのほか多かったのは驚きだ。 寡黙にバッサリした終結良し。 だがその後に、身を隠した大いなる考え落ちが、オープンな形で潜んだままでいる。 この凄みこそ、本作の見えないクライマックスではないだろうか。 いや、やはり目に見えるラストシーンに収められた巨大な哀しみこそが、一番のクライマックスだろうか。 鉱物を穿つ様な硬質の独特文体。 だが間歇的にだだ漏れとなる戯けに悪ノリの心も見える。 主役、裏主役ともに心の揺れがヴィヴィッドに血を通わせているのが良い。 捜査側の熱い人間関係やら組織間/内の戦いやらに読みどころの重きが置かれ過ぎのきらいはあるけれど、そこが面白いんだから仕方ありません。 大きく息を一つ吐いて、読了とします。 |
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| No.1427 | 7点 | 螺旋の底- 深木章子 | 2025/12/31 22:31 |
|---|---|---|---|
| つらつら夢のように読めてしまうサスペンス。 舞台はナチスとレジスタンスの噴煙いまだ燻る、20世紀中盤のフランス片田舎に建つ名家の豪邸と、時々パリ。
豪邸の地下室には xxxxxxxx との、事実上事実のような噂が沈降している。 田舎のスキャンダラスな視線に晒された “夫婦” の視点交替で進行する、ホワットダニット+ホワッツゴーイングオンの、微妙にずれる二刀流。 夫婦はお互い腹に一物。 二人の出逢いは或る交通事故を通じての事。 そこでは死人が出ている。 さて二人の “腹に一物” には(ミステリ的に素敵な)重みの不均衡があるようだが。。 “一つのことにあまりにも神経を集中させていると、宇宙に放り出された恒星のように、まわりが見えなくなる。” やがて邪悪な行為がエスカレートする。 物語のなかば、絶妙なタイミングでサスペンスの向かう標的がチェンジする、あるいは分散の上で再構築、特定される。 なんと、主役級人物と読者とのすれ違い! これは効いたよなあ。 おっと、何かがクロスした。 直後、意外過ぎる暴風展開に、次々と場を掻き乱す死体また死体。 “彼らはふたたび気を引き締めたが、その意気込みは、続いて起きた大騒動の前に吹き飛ばされることとなった。” 呆気なく突入したエピローグは、混乱と整理収束の場となった。 意外な所で解説が入る、ヴィジュアル鮮やかな物理トリックは、或る意味タイトルと鮮烈に切り結んだ。 目次に明記されている通り、この小説はエピローグではまだ終わらないのだ。 真相には、思い至らなかったな ・・・ さて、頭から読み返しますか。 |
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| No.1426 | 7点 | メインテーマは殺人- アンソニー・ホロヴィッツ | 2025/12/30 17:00 |
|---|---|---|---|
| 「あたりまえだろう、相棒。 ほかの作家にゃ断られたんだ」
おいおい今度はどういう作中作だよ? 登場人物表にアンソニー・ホロヴィッツさんがいるじゃん? ん、作中作とは違うの? いやいや(以下略)。 資産家のマダムが葬儀屋を訪れ、自らの葬儀を予約して行った。 マダムは即日殺害された。 彼女の息子は有名な俳優。 息子には見栄えの良い黒人の恋人と、その間に娘がいる。 事件捜査への協力を警察から依頼された “名探偵” 元刑事ダニエル・ホーソーン(迷惑系大変人)は、彼の事件解決ぶりを “ワトソン” として一篇の小説に仕立て上げるよう、作家のアンソニー・ホロヴィッツ(意外と常識人)に依頼する。 “レストレイド” 役のメドウズ警部(ホーソーンとは犬猿の仲)はかの有名なコップほどダムではないとの声もある。 「ほら、あんたがいなくなっちまったら、誰がこの本を書いてくれるんだ?」 殺されたマダムには、交通事故で見ず知らずの幼い双子の一人を殺し、もう一人を不具にさせ、裁判に臨み無罪放免となったダークグレイの過去があった。 今回の殺害事件との関連が疑われた。 葬儀の場では、場違いな音楽に縁取られた前代未聞の不祥事が展開した。 その直後、明らかに密接な関連が窺われるもう一つの殺害事件が発生した。 “ふと後ろをふりむくと、ホーソーンはいまださっきの場所に立ち、じっとこちらを見ていた。 まるで、捨てられた子どものように。” 流石のホロヴィッツ、真犯人や真相に繋がる大事な伏線を、いかにも “その他の情報” めかした箸休めの場所に仕込んでおく巧みさがエグい。 天晴なのは、殺人動機とその構造! ごもっともな動機2はともかく、感情を知略が圧倒した動機1には不意を突かれたな。 だけど、大掛かりなミスディレクション技こそ大したものだが、その核心が真相と直接リンクするのが比較的小さな “或る事件” だけというのがちょっとね。 サプライズが少ないとか反転が淡いとかの問題じゃなくて、小説全体のバランスを結構崩していやしませんか、とあたしゃ思うのでしてね。 蟷螂の斧さん仰る > 鰊をぶら下げ遠回りし過ぎた感じ 当方もこれを強く感じます。(上手い言い回しですね!) 「ここを出よう」 やがて、ホーソーンがつぶやいた。 これちょっとネタバレになるかも知れませんが、現代ならではの世話焼きテクノロジーがダイイングメッセージに干渉するあたり、面白いトリックですね。 過去の事故?事件?現場であるディールの街を訪れた長めの風景情景描写は、ややもするとそれなりの退屈ブレーキが掛かりそうなところ、適度にスムーズ且つ適度な引っ掛かりもあり、誠にリーダブル。 浸ることができました。 叙述トリックでなく叙述ギミックの中に核心的伏線が潜んでいたのは、最終盤まで来てやっと気付いて驚きました。 更には、叙述トリックならぬ著述トリック?の熱い暴露、動揺、決意で締めるエンディングにはシリーズ次作への期待もかぶさり、実にいい感じでしたね。 ♪ Love comes quickly whatever you do ♪ You can’t stop falling, oooh.. Pet Shop Boys ‘Love Comes Quickly’ Music & Words by Neil Tennant, Chris Lowe and Stephen Hague “この本の全体像が見えてきたいま、もっと背景を掘り下げる必要があると、わたしは思いあたった。 そろそろチャールズ・メドウズ警部に連絡をとってみる頃合いということであろう。” |
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| No.1425 | 8点 | 東京結合人間- 白井智之 | 2025/12/25 02:40 |
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| 「どうせもう死人は出ねえだろうし、気楽にいこうぜ」
後期クイーン問題をブッ飛ばさずに、抱き溶かしてしまえ! 違う、幻の中で悶死させろ! ってな冗談だ、安心しろ!! “おれは唸り声をあげていた。 真相を知っている自分が聞いても、頭が痛くなりそうな理屈だ。” 白の字智の字ここまでやるか! 「結合人間」 「オネストマン」 「羊歯病」 を主軸三本柱とした特殊SF(?)設定のもと、特殊AV制作から特殊売春斡旋に転業した鬼畜三人組が、やむを得ぬ事情の暴風に押され、特殊求人で特殊俳優を調達の上、南の孤島での合法特殊ドキュメンタリー映画制作に乗り出す。 孤島には画家とその娘が住む。 連続殺人らしきものが起こるが、容疑者達の置かれた特殊条件ゆえに、摩訶不思議な論理的事象が発生する。 ミステリ展開の黒光りが凄まじく頼もしい魁作である。 ディープ偽装のディープな論理には溶かされた。 「全F」 「容X」 を連想させる大きなトリック群には大いに目を瞬いたが、そこで終わらせないのが白の字智の字の本領発揮ダンディズムだ。 「テレビで見てびっくりしたよ。 大変だったんでしょ?」 「生きて帰ってきてくれてありがとう。 ねえ、なにか言ってよ」 言うだけ野の字暮の字だろうが、メイントリックス(どれ?何?)も特殊設定ズもサブトリックスもバックパスを繰り出し疾走しながらガッツリ繋がって読者に大きく手を振っている。 このような生殖条件下でもしっかり◯◯◯◯◯◯+的ゆらめきと併存とをササヤカながら(?)叙述しているのは熱い。 言うまでもなく(以下略)。 何より構成の妙が爆発している! 愉しい酔いでヨタヨタしてしまう。 最後まで緊迫の手綱を緩めないその心意気ったら無え。 内包された叙述トリック(の片方!)さえ彼方に霞んで見える。 (もう片方のは ・・ ディープ過ぎてしばらく心臓つかまれたままだ) 更には、真犯人が誰かのみならず、真探偵が誰になるかの趣向、どちらも凄まじく意外でリンパ液の循環に良いに違いない!! 「あはは、そりゃあ殺すね」 まだあるのです。 こんだけ充実した動的ショート・エピローグがそうそうあってたまるか!! それでいて、このエピローグのお蔭でそれ以前のストーリーが虚しくなることなど全く無い、むしろ輝きを更に増す結果になってるってんだから、あきれてモノもステレオもASMRも言えませんや。 「実はあたしの知り合いにもう一人、事件の関係者がいるんだよね。」 ただ、多重解決の畳みかけは内容・形式とも充分に素晴らしいのですが、いわゆるダミー解決の途上で、こんだけぶっ飛んだ小説のくせに、妙に気安く容易く、甘い常識頼りの緩い(セコい)ロジック展開が幅を利かせる部分が目立ち、そこんとこ唐突にスリルを殺いでました。 最後にはそのへんの緩みもしっかり粛清されて見違える締まったボディに変身するんだけどね。 最後にちょっと減速したのが惜しかった処女作 「カオヅラ(人間の顔は食べづらい)」 とは減点要素の潜む場所が正反対でしたね。 こんだけぶっ飛んだパラレルワールドながら、その世界の人達が普通に赤羽に飲みに行きましょうとか言ってるのがおかしかったです。 まあ、こりゃ色々と映像化不可能な小説ですな。 して欲しいけど。 ネーミングセンスも(今回は特に色んな意味で)凄いんだけど、もしかして、スペイン系の名前の構造から(アレを逆にして)その先にアレをインスパイアされてたりして? あとやっぱ古代ギリシャのアレを逆にしてみたり、とかあるんですかね。 英語タイトルが “HONESTMAN” なのは、やはりあのオネストマン(嘘を付けない人)四すくみロジック展開に自信があるからでしょうか。 日本語タイトル “東京結合人間” の “東京” は “東京ディズニーランド” や “千葉県東東京市構想”(そんなものはない)的なアレでしょうか。 「重要証拠を落っことしちまった。 拾いにいくか」 「もういいですよ」 エンディング・テーマ曲はアイナ・ジ・エンド 「革命道中」 で決まりだと思います。 |
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| No.1424 | 5点 | 高校入試- 湊かなえ | 2025/12/21 18:22 |
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| 「この学校には、良くも悪くも、通過できてない連中が多すぎる」
古豪になりかけの名門県立高校入試当日、厭な不手際が顕在化、複数のトラブルが起こり、手痛い不祥事の発覚に至る。 見ようによっては些細なような、だが試験当事者にとっては甚大無比ないくつものトラブルを弾けさせた犯人はそれぞれ誰か。 同一人物なのか。 それらを悪意あるWeb掲示板で包括的にリアルタイム中継する犯人は誰か。 これも同一人物なのか。 冒頭から見得を切った、シンプルな叙述ギミックが、イヤミス流儀で淡々と、空気を蒸すように積み重ねられる。 校長教頭含む先生方、受験生とその家族、うるさいOB会長、ただ一人の在校生を巻き込んで展開するストーリーには過去の入試トラブル関与疑惑も絡み、大いに深堀りがなされる。 (おっと、例外的な登場人物も二人いた。 彼らが意外と。。) 真犯人像に真相展開図はそれなりに意外だが、本当はさして意外でもない。 重い側面を持ちながら最後まで軽い扱いのサブストーリー落としを含め、もっさりした結末だ。 これだけの社会問題を俎上に載せつつ、社会派パワーも弱い。 これを言うとストーリーネタバレの一種だが、これから(も)苦しい人生を送るであろう数人を忘れて置き去りにしたような、唐突なお花畑エンディングはどうにかならなかったのか。 湊さんの小説には時々これがある。 個人的に当たりはずれの大きい作家さんだ。 四捨五入で5点ですが、4.7相当。 5.0は切りますので、惜しくもサクラ散りました。 |
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