海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

斎藤警部さん
平均点: 6.69点 書評数: 1482件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.1482 8点 シンデレラの罠- セバスチアン・ジャプリゾ 2026/08/07 00:24
“海からあがってくると、額のうえの濡れた髪をかきあげようともせず、彼女のそばに近づき、ズボンのポケットに煙草をさがした。”

いったい、どういうことなんだ!
火災の被害者は、幼なじみの若い女性二人。 一人(ド)は死に、一人(ミ)は大火傷を負って記憶喪失。 生き残った(とされる?)方の叔母(ミドラ)は事業で成功を収めた億万長者だ。 それがどうした。 莫大な遺産でも転がり込むってのか。。

「あいつはトコトンまでやるぜ」

冒頭から漏れ出るムードが教えてくれた通り、ありきたりの展開に雪崩れ込むつもりは無いようだ。
幻覚ゴン攻めでフラフラ。 時系列行き来の中に仕掛けられた強い惑わし。 何人もの人物があらわにする不安定な情緒。 揺れて被さりモアレが動く。
当然のように、混乱に次ぐ混乱。 章を跨ぐたび、また章の中途でも容赦なく。

「七月四日はあなたの誕生日ね」

“◯◯”とは誰だ? そもそも ” ◯” とは。。?  
平常時(?)から自然な人格撹乱が行き渡り、いざとなったらとんだ大仕事を見せてくれそうだ。

現れ出でたるフィクサーだか何サーだか、スパイだか、インフォーマーだか、ムーチャーだか、なんなんだろう、この人たちは。
ラス前々章の不穏な、不安なエンディングとか。 いきなり読者を振り回しに掛かる、癖強の序章とか。
クライムノヴェルとサスペンス型ミステリとがバチバチにやり合うような、独特の薫りを放つ作品だ。
それにしても、各章の表題。

“彼をあれほど熱中させている、この事件のなかには、私だけしかいないのだ。 私は探偵であり、殺人犯人であり、犠牲者であり、目撃者である。”
↑ レトリック性が強いこの地の文から、件のキャッチコピーが編み出されたのかと思うが、 ( や っ ぱ り 以 下 略 )

で、もう一人(ラ)は ・・・

虫暮部さん
> 安部公房『他人の顔』と併読したらえらいことになる。
本当です。 やめておきましょう。

No.1481 8点 求婚の密室- 笹沢左保 2026/08/04 00:00
何よりタイトルが魅力的だ。

「では最後に、密室のトリックについて説明をお願いします」

終わり8分の1を読むのがこれほど怖いミステリもなかなか無い。
クリスティ諸作の様に企画のくっきりした明瞭形式で進む不可能犯罪ストーリーだ。

“第一回ジャーナリスト大衆賞” を受賞したばかりの主人公、天知。
夏の軽井沢別荘にて、養女の結婚相手を決めるパーティーを開いた、著名な仏文学教授。
養女は有名女優。 彼女は密かに、天知に思いを寄せている。

パーティーを主催する教授は、半年ほど前に或る重大な性的スキャンダルに襲われた。 天知は教授をその窮地から救った経緯がある。
パーティーには、スキャンダルの際の陰謀者と想定される者や、直接の関係者数人が、夫妻やカップルの形で “敢えて” 招かれている。
彼らの中心に置かれるのが、花婿候補の医者と弁護士二人。
他に、教授の秘書や親戚筋。

先のスキャンダル火消しで教授の信頼を得た天知は、幼い息子と共に是非ともと招待を受けた。
教授夫妻には、養女とは二十歳以上も離れた実子の娘がおり、天知の息子とは仲が良いようだ。

その教授夫妻が、敷地内にある地下倉庫内で、服毒自殺を図ったような死体で見つかった。 実質的に密室状態だ。

花婿候補の医者と弁護士が、求婚の権利を賭けて、夫妻の死の真相に対する、それぞれの推理合戦を繰り広げる。
先攻の弁護士は、心中説。 後攻の医者は、他殺説。
だが、養女から見たら本命の花婿候補である天知には、東京に留まった雑誌編集長の田部井という、情報収集の専門家たる、強い味方がいた。

「それ以上に、残酷なことを聞かせよう」

真犯人暴露の前に置かれる際どいワンクッションは、難しいマルチタスクを見事にこなした。(この筆力!)
しかしこの意外な真犯人像、そして深い深い動機、更には◯◯手段、全てエグ過ぎました。 本作は ×× である、という思い込みを見事に乗っ取ったミスディレクション、に操られたのかも知れません。

恐るべき密室トリックに物理的違和感無し。 心理的にも ‘さほどの’ 違和感は無い。 しかし、何故 ‘さほど’ 無いのかを語ったら、途端にネタバレ水域へと飛んで行ってしまう。

「このことを承知していたら、悲劇はもっと違ったかたちになっていただろう」

人間ドラマに加勢しミステリを邪魔しない良質のベッドシーン、ラヴシーンも効いた。
ゲーム性と意外性と熱い/冷たい人間性とが最適で最高の角度でぶつかり合った意欲作。 まるでYMOだ。

そこに、愛は無かったのか・・・ あったのか・・・


蟷螂の斧さんのコメントされた
> もっと登場人物(生前、女性スキャンダルを仕組んだ教授、助教授、女本人、その恋人)を活かしながら、アリバイ崩しに重点を置き(ページを増やし)、そこから浮かび上がってくる犯人像!とした方がインパクトがあったように思います。
には同感です。 良作と思いますが、作品ポテンシャルをあたら活かしきれていないのかも知れませんね。

> どのように二人が水を飲んだのか(飲ましたのか)が本作では白眉でした。
こちらも同意いたします。 色々あるけれど結局このトリックゲーム(あの本ではない)要素が本作のミステリ主役のような気がします。 色々あってもYMOのNo.1キラーチューンは "Rydeen" で鉄板、という事象に似ています。

それと、このトリックは、微妙にある意味 '爽やか(?)' な要素を含んでいる所がまた、何とも割り切れない不思議な印象を残すわけでしてね。

No.1480 8点 兇人邸の殺人- 今村昌弘 2026/07/31 02:09
死に様。

「分かりません。 もしかしたら、やっと家族を見つけられたのかも」

真犯人はミステリ半生の土地カンで当てた。 迷い無しだ。 しかしながら、(以下略)。

「私を見なさい! あなたたちはこうなっちゃ駄目なのよ!」

出だしの学生会話は最高にかったるい。 その後すぐのミステリ進行はムード満点で言うこと無し。
現在どうしの小さなカットバック、そして現在と過去(これが大いに怪しい..)との大きなカットバックが併走する構造。 中には、意外な組み合わせ・順番のカットバックにオッと足許すくわれる所もある。
文章もまずまずだ。

人気の猟奇テーマパーク内、立ち入り禁止の 『兇人邸』 に深夜不法侵入する者たち。 彼らの目的は、かの “班目機関” 禁断の研究資料を奪取する事。(いやいや本当は、とてもそんな単純な構図ではないようだ。) 広大で複雑構造の邸内にはテーマパークを経営する社長と、男女二人の使用人が住む。 (これも、実際は少し違う。) そこへ来てもう一人の不法侵入者が加わり、話は複雑になる。 不法侵入者たちの中には本シリーズ探偵役/助手役の二人も含まれるが、肝腎の探偵役は邸の ”離れ” に閉じ込められてしまった。 これに加えて、悪いことに隻腕巨躯の “首斬り殺人鬼” が邸内を跋扈していると言うではないか。

「もっと正直に、悩みを打ち明けていればこんなことにはならなかったんだ」

クローズドサークルの、メカニズムがちょっと複雑な、だがその意図するところはシンプルな、斬新な構造が光る。
物語に潜む奇妙な非対称と対称の併存も、引きずるものがある。
カットバックの使いよう、流石の大爆発。 しかも、最後には ・・
もはや、ミステリに於ける真犯人とは何だ?! と来ちゃうわけだ。(この感覚、すこぶる重要)
一体、キーパーソンは誰なんだ!!

「皆が一緒にいられるように、たった一人で!」

或る、色んな意味で重要な人物の様子が中盤からにわかにおかしな様相を晒し続け始めるのがなんとも、今時ダミーと捉えるべきか、疑うべきか、とりあえず騙される事を第一とすべきか、こりゃ迷わせてくれる。
いかにも “ソコ” に叙述トリックが潜んでいるんじゃないでしょうかと匂わせ芬々なのは、実は本当にそうなのか、或いはやっぱり違うのか、全く方向の異なる第三、第四の意外性なのか、こっちも実に迷わせる。
最高に束縛される。

複雑系特殊設定と複雑系一般設定との容赦ない重なり合いはチョイとアタマを酷使させてくれるが、複雑系特殊設定の中でも特に大事な所はキャッチーで分かりやすい(そして最終的には特に大事な役割を果たす!)という美点は認められた。
まさかの、物理的にはあまりにも短い、人情心情アクションシーンの大爆発。 それに続く、重大な推理のダメ押しには更なる熱い塊が隠れていた。 この一連の流れ、参ったなあ。。
なあーーんか甘っちょろいナニなのかと訝しんでたアレが、いやいやナニナニ、ふむ、そうなんですか。。

『魔眼の匣』 みたく一線を超えちゃったミステリSOWに襲われたわけではないけれど、これだけやってくれりゃあもう、充分S級合格ですよ。
読んでて所々こっぱずかしくなる青臭さの沼も、まあ構わんのですよ。

「これからなにが起ころうとも、あなただけは彼女を責めないでください」
「なにをーー」

それにしても、最後に明かされたあの “トリック” の、心の激しさには、流石にやられました。 誰かと語り合いたい。

“おやすみ、みんな。 そして母さん。”

No.1479 6点 月は幽咽のデバイス- 森博嗣 2026/07/27 00:34
“こうまでして音楽を聴く必要があるのか”

特に最初と最後のあたり、言葉の遣り取りの面白さが、面白さのレベルで言えば調子のいい時の島田一男級だ。 面白さの方向性はもちろん明後日の方向だ。

「キス以外の方法で・・・・・・」

極端なオーディオマニアである富豪の邸宅にて、パーティーの最中、密室状態のオーディオルーム内に客人の一人が死体となって発見される。
言うまでもなく、絵に描いたような違和感、不自然な状況でいっぱいである。
風変わりな意匠で知られる邸宅には、狼男が出没するとの噂もあった。 それがどうした。。 ってが。。。

「私ね、田中と加藤の区別ができないの。( 中 略 ) 清水と斎藤も駄目」
分かる(笑)! 何を隠そう、拙者も清水と斎藤(と林だったか?)の区別が付けられなくて、克服するために自ら斎藤を名乗るようになったという側面もあるのだ。

勝負を賭けた準複雑系バカトリック(?)も、できることなら島田荘司流の正面突破力で、まとわり付くノイズ発信源を全破壊してくれたら、もっと輝いて見えたかもなあ。 弘法も刎頸の交わりとはこのことだなあ。
密室構成の古典的 “アノ要素” を上手に使ったものだなあと感心したのだが、如何せん、前述のバカトリック(?)の見せ方における思い切りの悪さに踏みつぶされて目立たなくなってしまった。
楽器演奏の手掛かりとか、そもそもの思わせぶりな人物配置とか、惜しいというか、もったいないなあ。 猫にブルース・コバーンだよなあ。

“何故なら、私が、保呂草潤平だからだ。”  ← こ、これ・・・・・・

No.1478 7点 星の王子さま- アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ 2026/07/24 12:07
“王子さまが、戻ってきたよ”

さびしさ、ありがとう。
出会いと別れと逆説オムニバス。

宇宙の様々な星に立ち寄り、七番目の地球に辿り着いた ‘王子’ と、地球の砂漠で飛行機を不時着させた ‘おいら’ とが出遭う。
‘王子’ は、飛行機修理のメドが立たず生命の危機が現実味を帯びる ‘おいら’ に、自らの小さな星と、地球に来るまでの六つの星で見聞き体験したプチ寓話ストーリーを語って聞かせる。

SF魂を棄てた純粋ファンタジーのようであるが、コミック風に短く戯画化されたSOWの素のようなものも散見される。
“帽子の絵” や、各星の住民たちに纏わるミステリ的逆説スケッチも目を引く。

責任感の強い ‘王子’ により最後に実行された或る ‘トリック’ が心に深く沈降します。

有名な箴言のようなものを数多く生み出した小説ですが、私は何と言っても、ラスト近くの、寂しい物言いから一気にポジティヴ反転する、ちょっと長い某台詞がいちばん沁みますね。
◯◯を◯◯◯からかも知れません。

“あれからもう、六年になる……。”

No.1477 7点 目には目を- カトリーヌ・アルレー 2026/07/19 21:38
“時限爆弾の準備はすっかり整っていた。”

ちょっと読み出したらもう、たまらないぜ。 目次をチラッと見たらもうたまらん。 登場人物表を覗いたらもうたまらねえ。

ジャンは裕福な貴族。 事業を営んでいるが、破産の危機に陥った。 妻アガットとの贅沢な暮らしを続けるには、起死回生の手が必要だ。
そこで目を付けたのが、市民階級の同業者で、自身は小金持ちだが、フィクサー的信用力で巨額のカネを動かす事ができる、十も年上のマルセルだ。
独身の彼は、やはり独身の姉マルトと共に、ジャンの家へと招待される。 マルセルはアガットを一目見るなり、恋に落ちた。

“男にとって、理想は、戦死だわ。”

ほうら来た、シンプル極まりない(?)目次をあらためて追ってみると ・・ 嗚呼、ストーリーへの妄想が勝手に走り出して止まりません。
しまいにゃ各章ページ数のゆらぎにさえ、憶測と疑惑の手が伸びる。

きちがいと、馬鹿と、邪悪な切れ者がいたとして、淘汰される順番はどうなるだろう。

あまり書くとネタバレに繋がるが、二つ目の◯について或る人物が ( 中 略 ) ってのがやっぱり、ミステリとして、ドラマとして、犯罪物語として一番のツイストであり、肝腎のミソだろうねえ。

「あんたも仕合わせにはなれない。 ほんとうの喜びっていうのは、喜びを与えることにあるのに、あんたは、まるでかちかちにかわいた果物だもの」

ちょっとした風景描写良し。
地味なようで凄まじいドラマを含んだアクションシーンもたまらない。
ほんのささやかな叙述の戯れが、最高のカタストロフ結末を導き出す。
スリル良し、サスペンス良しのヴァカンス小旅行でありました。

「あなたはこれから毎晩、この秘密の夢を見るわ」

No.1476 7点 十和田湖殺人事件- 中町信 2026/07/16 22:26
妻を失った夫、四人。 おっと、五人。 うち一人はミステリ作家。 ミステリ作家は他にも二人。
夫を失った妻、一人。
命の危険を冒して探偵役をやりたがる奴、次から次へとあふれ出る。
そこで、前述の死人数にも常にアップデートが必要な、まっこと葬儀屋さんも書き入れ時の(いくらミステリとは言え)とんだ非常事態となるわけだ。

「私はただ、単純な引き算の結果を言ってみただけですよ」

ストーリーを数行に纏めるのはとても無理な話だが、とにかく前述の通り死人が続出する。 但し、うち少なくとも三人は飛行機事故死。
エピローグでも曰くありげに描かれるこの墜落事故をまたぎ、連続殺人事件が発生する。 表題にある ‘十和田湖’ への仲間たちの旅行が、その背景にはある。

中町信力あふれる肉厚のダブル・エピローグからいきなり猛攻開始。 強引なツカミの強烈さは、知的興味を惹く整理された複雑性としっかり連れ立っている。
荒れ狂う違和感、不安定感と叙述ギミック。 中町信ならではの、どこかデコボコ・グラグラ・素っ気なさの残る文章はもちろんサスペンス、というよりスリルの味方だ。

「相手は推理作家だからねえ」

混乱と定まらない憶測を抱えたまま、薄明かりの前方へと押し出される感覚。
“記憶喪失” なる事象の切り込んで来た角度が凄い。 グッジョブマイフレンドしか言いようがない。
込み入った “盗作” 事情が放つ閃光。 “身体的特徴” が放つ閃光。 手紙の “宛先” と “盗難” と “◯◯(← これ!!)” の機微。 それらの間を雲のように漂う誤解や憶測の連なり。 最後は◯◯◯なる決定打! やられました。

「その裸の女の体には大きな特徴があったはずなのです。 目には見えない、大きな特徴がです」

しかしまあ、よく人が死ぬことだ。 それも白昼堂々オープンサークル内でのあわや “そして誰もいなくなった” を危惧させる趣向の暴風が、リアリティ欠損ギリギリの座標で荒れ狂っている。
難解な数式のように、理解はしづらくとも何かしら整理されているような美的感覚を受ける構造のストーリーだ。

見せ方の上手い、必然性があって自然と導かれて行く “多重解決” 趣向も光る。
最後に或る意外な人物が意外な存在感とミステリ上の働きを見せつけるが、その在り方の何とトリッキーなこと! 一瞬の快い混乱は大歓迎である。

「同じようなこと? なにをしていたんですか?」

ギラギラした叙述ギミックの嵐が、ささやかな叙述トリックの葦を薙ぎ倒した形かと思うが、葦にも強い毒素が残留していた。
あれこれミステリを詰め込んで、やり過ぎ海峡をわざわざホバークラフトで渡っちゃった感はあるが、それの何が悪い。
空虚な幻ならではの栄養をたっぷり摂取させていただきました。

No.1475 6点 特報社会部記者- 島田一男 2026/07/14 01:11
「水落カオリってんです。 エヘヘ・・・・・・、 色気たっぷりの名前だ」

昭和百一年。 いよいよ二世紀目に入った昭和の夏も島田一男で万全だ。

■山手線ならではのちょいとヒネったアリバイトリックが光る某作。
■乱歩さん某代表作のメイントリックにインスパイアされて、ちょいとズラしてみた様な某作。
(しかしタイトルが、いくらなんでもネタバレだぜ?)
■ハードボイルド風錯綜人間関係に、死体移動&アリバイトリック複雑系を真正面からぶつけて来た。 そこをシマイチ文章の濃厚なところでずーーっと囃し立てるもんだからちょっとトゥーマッチな感もある。 ともあれ最後は衝撃波に耐えきれず飛び出して来た意外な犯人と、盲点突きまくりのシンプルなトリックにびっくりする、入魂の一篇たるチョイ長の某作。
(でもやっぱ短篇~中篇でコレはごってりし過ぎかなあ。 これこそ長篇にすれば良かったのに。。 と思わなくはない。)

題名を伏せた(とは言えバレバレ)上記三作以外も、手堅い普通ミステリながら、非凡なシマイチ文体シマイチ会話文の横溢で実に魅力溢れる昭和の夏の伴走者になってくれている。
(正月が舞台の話もいくつかあったりするが、それすら島田一男の夏だ)

環状線の女/人形地獄/空中花嫁/双面獣/白銀仮面(シルバー・マスク)/猫と指輪/恐風  (青樹社文庫)

No.1474 5点 プレード街の殺人- ジョン・ロード 2026/07/09 21:43
「話も大分長くなって飽きられはしないか?」
「いや、どうして!」

なーんか、ネタバレ横丁をうろうろするよな物言いになっちゃいそうだけど
本作のフーダニット的なアレで読中(ある地点以降)思ってたのが、aさんとbさんとは同一人物なのか? 仮に違うとしたら、違うにも関わらずその◯◯を継いで苦しい道を歩き続けた強いモチベーションの源泉はいったい何なのか? むしろ、仮に後者(同一人物ではない)であった方が、ホワイダニットのミステリ興味は上回ったよな。。 但しその場合、◯◯を継いだ者はやはり登場人物一覧にデーンと載っているべきなわけで・・ 実は二周ほど回ってワルが真犯人ではないかと疑いもしちゃったりして・・(流し目)。 プリーストレイ博士はどこまで本当に騙されていたのか? ってのもちょいと疑惑の対象でしたけどね、読了してみるとそこんとこの真相はちょいとおかしなアンバランスの要因になっていた気がします。

「まあまあ、わしもまだ当分自殺はしないことにしておきましょう」

さて、ちょっとあらすじ書きます。
ロンドンの割と貧しいプレード街にて、予告ありの連続殺人事件発生。 はじめの数人こそ薄い知り合いどうしの被害者だったが、やがて縁もゆかりも無さげな人物が標的とされる。 中にはそこそこの有名人もいた。
『前篇 犯罪』では、被害者がかなりの人数にまで登った謎の連続殺人が、二人の友人どうしの会話を中心に描かれる。
『後篇 犯罪者』開幕と同時に俺達のプリーストレイ博士が登場し、半年間も没頭した著述の仕事を終えて世間との交渉を再開するに当たって、プレード街での事件を選び、その解決に積極的な姿勢で乗り出す事となる。
博士はいきなり意表を衝いた過去事件掘り起こしに着手し(周りの者はチンプンカンプン)、その帰結としてまさかの(!)危険な冒険(!!)に乗り出すハメとなる。

「君だけは、とっくに事件の動機を観てとっていいはずだった。 どうして、そこへ気がついたか、聞きたいものだ」

モリシ先輩の訳文は、文法、慣用、呼応(≒係り結び)から内容に至るまでちょっとオカシイぞと気が付く所が目立ちましたが、にも関わらず(!)読みやすく独特の風格がありました。 ありがとうございました。 でも “タキシ” や “ヂック” はともかく “カベント・ガーヅン” は何のことか4秒ほど迷って3秒ルール違反でした。 大和言葉かと見紛う “ひいす” の頻出にもちょっとクスクスしました。 本当にありがとうございました。

No.1473 8点 本棚探偵の冒険- 喜国雅彦 2026/07/06 09:50
「雑誌に手を出したら人間おしまいよオゥオゥオゥオゥ」
"モーニング娘。の新曲の一節にもあるとおり( 後 略 )"

うィっぷ! 寝食フォゲットで激烈の面白さだぜ。 恋はヤング・フィーリングだぜ。 今年のW杯は喜国が優勝だぜ。 勢いで三決にも闖入して荒稼ぎ得点王だぜ。

戦前日本の探偵小説を主戦場とし、日英米の本格/新本格を偏愛(←説明不足)、周辺ジャンルの話題にも手を伸ばす、ギャグ漫画家・装丁/装画アーティストでロックミュージシャンのキクニこと喜国雅彦氏が、たしか婦巨漢とか呼ばれるアイドル女優(字面からすると、まさかマ◯◯・◯◯ックスの事か?)と古本と古本屋と古本野郎が大好きだという事が身に沁みてファクトチェックできる一冊(シリーズ一作目)である。 平成真っ盛りの頃の刊行だが、♪令和レモンの世~~ にも輝きとポジティヴヴァイブとを失わない奇蹟の珍約聖書と言えよう。

「だからそういうときは、後ろの本の下に台を置いて、少し高くしてやればいいんですよ」
「なるほど、でも適当な台なんてないし」
「本でいいんですよ。 もう二度と読まない本。 文庫の台には文庫、ノベルスの台にはノベルス」

ミステリ誌への連載エッセイだが、内容もスタイルも、適当にばらかしてあるのが良い。 だが芯は(二本半くらい)通っており、芯を支えているのは生き様という名のセレンディピティだ。
本とミステリとその他諸々への愛と興味に溢れ、楽屋落ちにも魂が籠っている。 思いつきとフォロー修正とを撒き散らし、派手に脱線して機敏にすぐ戻る機敏さも最高に機敏だ。

“( 前 略 ) そうなっていくのが古本マニアの性(さが)なのだから仕方ないのだ。 性という字を見ると世良公則が浮かんでしまう。 何も思いついたことを全部書かなくていいんだぞ。”

ツイストの 「性(さが)」 は 「銃爪(ひきがね)」 と 「燃えろいい女」 に挟まれた4枚目シングルで、本作からバンド名が ‘世良公則&ツイスト’ から ‘ツイスト’ に変更された。 ’ソニー&シェール’ が ‘シェール’ に変わった様なものかと言えば、それは違う。 だがソニーが亡くなって以降シェールが大ブレイクした事を考えると、結果的にはアタトー(当たらずとも遠からず)なのかも知れない。 ( 中 略 ) 前後のシングル 「銃爪(ひきがね)」 「燃えろいい女」 はどちらも派手な代表曲で今も時々オンエア等される様だが、「性(さが)」 もまたたまらなくファビュラスな音圧スローナンバーで当時は大ヒットした。 これほどラウドなロックバラードがあるものかと驚いたものである。 歌詞が絶妙な所で下世話なエロに流れ落ちない抑制美も光る。 アルバムではピアノとスキャットでゆったり始まるが、対照的に衝撃のシャウトが口火を切るシングルバージョンの方が、どちらかと言うと私は好きだ。( 長 い 後 略 )

先行のお二人も言及されておられるが、私も “ポケマラ” には胸熱くも笑かしてもらった。 三笘の逆一ミリみたいな?エピソード込みのノーサイド人情エンドも最高だ。
乱歩亭で胸いっぱいになり、古書市の常連を警戒しながら感化され、函ナシ本の函を手作りし(おいらも帯ナシLPの冗談帯を作った事があったような無かったような)、角田喜久雄の生原稿に疑惑と推理とを巡らし、’俺のパノラマ島(俺ラマ)’ に妄想の限りを尽くし(鮎川さんを閉じ込めて『白樺荘』を完成させる! ミニスカポリス一万人!)、あとがきやら巻末対談やらの附録部分にほぼ100ページを充てて来る、サラっと官能小説もどきをはさんで来る、時々あからさまなdisで敵も作る、そんな忙しなくキュートなキクニさんは田中麗奈(モー。のれいなではない)も大好きらしいのですが、私は全く賛同出来ません。 前述した婦巨漢の方が、好きとまでは言いませんが、まだしもです。

“まず漫画家を目指してみるのもいいかも知れない。 「急がば回れ」 のたとえありだ。 そして間違って大ヒット作でも描いた日にゃ ( 中 略 ) その前に函入り本が買えちゃうぞ。” ← ここ大笑いだったぞなもし

お酒は一滴も飲めないそうですが。。。 昔 「宝島」 かなんかのインタビュー(喜国氏がそこそこ売れ出したけどまだまだ貧乏な頃?)で、知り合いの売れてるバンド(たぶんZIGGY)の打ち上げに同席してタダ酒を固め飲みするとか言ってた気がするんだが、あれはまさか、蜃気楼ドリームと言う名の、夢のミラージュだったのか。。?

“充分実現可能な夢(ロマン)なのだ。 そう、夢(ロマン)はいつも僕らが摑まえるのを待っている。”

No.1472 7点 犯罪総合大学- 佐野洋 2026/07/03 00:15
“彼女が、五反田署に出向いたのは、もう少し陰険な目的のためだったのだ。”

某作 ・・・二度も足許すくわれた! このミスディレクションは狡(ズル)い! 思うに、佐野洋馴れした読者に騙しの照準定めて来たな。 この流れじゃ、◯◯を落とした◯◯はてっきり、甘く切ないアレだと思うよな。。 まさかの◯◯案件提示だけでも度肝を抜かれたのに、そこからああ行って、更にアレで、しまいにゃソレしちまうのかよ。。 ディープ佐野洋にぶん回された一篇。  8点

某作 ・・・ ( 前 略 )◯◯を見つけたと主張する女。 斜め上を行く展開と過去事象深堀りの末、身勝手過ぎる意外な殺人動機には虚を突かれた。 かなり奥の方から反転×反転を引っ張り出して来たな。 物語の鍵となる◯◯案件はどうにも不快だが。。 複雑な味わいの、広がりゆくエンドから目が離せない。   7点強

某作 ・・・ 違法/合法◯◯◯の際どい隙を突き、多彩な仮定で魅せる多重解決趣向が花開く。 何気に意外な犯人と、パズル的に奥深い真相は熱かった。 分かり易かったり後出しだったりもあるくせに、どこか丁寧な手掛かりの置き場所も良い。  7点

「やること? それは何だい?」
「そうね、例えば人殺しとか …… 」

某作 ・・・ 文字通りの◯◯◯◯兇器が、実は◯◯◯◯◯兇器だった。。 計画犯罪とその◯◯に包み込まれた、大きな反転が光った。 脆弱すぎる被害者が哀れなり。  6点強

某作 ・・・ 或る◯◯を背景に、バカな◯◯が騙される話。 悪あがきで悪事を重ねた挙句。。 最後、真相が一発で明かされたシーン。 びっくりしただろうねえ、お互い。  6点  

某作 ・・・ 事件に至る経緯の、◯◯調査を活かしたチャッチャカ具合も妙に面白いが、世故知らずが爆発しちゃった感じのやわらかい反転が何とも言えない。 青春だ(?!)。 罪状はソッチじゃなくアッチのほうって、まあなんとなく見えちゃうんだけど、憎めない。  5点

ミスタ・ヨー・サノが得意とするタイプの連作短篇集。
各タイトルは、わざわざ揃えた感もありますが、それなりに内容と合致しています。

文献学的事件/医学的事件/薬学的事件/心理学的事件/生物化学的事件/教育学的事件

「おかしなことになってしまったよ。 あんたの場合は、◯◯◯なんだな」
「◯◯◯? それ、どういうことです?」

No.1471 7点 出版禁止- 長江俊和 2026/06/30 23:50
さあ、何処の誰を疑って行こうか。 しかし、誰の何が何処に在るというのか? 綻びの端緒はいくらでも在りそうだが、話の態度が正々堂々とし過ぎて、どこに欺瞞看破の仮基地を建てて良いやら分からない。 こいつはいい。

有名女優を妻に持つ著名ドキュメンタリー映像作家が、その秘書の若い女性と心中事件を起こし、亡くなった。 生き残った女性へのインタビューに臨むのが、本作の主人公たる若いライターの男だ。
映像作家にはその過激な作風で権力筋の敵も多かったと噂され、心中を装った謀殺ではないかとの疑いも出た。 一方で、明らかに心中である証拠映像が残されていると言われており、だがその映像は警察が握ったままであるとの説もある。
真相の深層はどうやら闇の底である。

「あらかじめお断りしておきますが、非常にショッキングな映像です。 よろしいでしょうか」

いやいやいや、そりゃあ禁止になるわなあ、納得だ。 新潮社さんも頑張ってくれたじゃないの。
空白の一ページにドキリとしたり、思わずスマホで××辞典やそれに準ずるモノを当たってみたりしてね。 まあ、正解はアレのアレでいいのかな?
そうこうしてるうちに、インタビュアーの主人公と、インタビュイーの女性との間に、新しい微妙な関係性が芽生えて来るわけです。

“もしかしたら、騙されているという可能性はないですか?”

マジックの××を逆手に取った風の先手必勝トリックとか、連城に太宰のアレもアレよアレよと置き去りにして。。 最後、読者に向かってナイフ両手に突進するが如くの大反転にはやられました!! 怖かった!! 最後の最後で◯◯の◯◯が最前面に顔を出して来るとはな。。(← この理解で合ってますよね?) 数行前に大ヒントの地ならし(または単に暴露)をしておいたのは、あたら反転の衝撃を湿らせるのではなく、一発理解のための補助としての役割ですね。

派手な叙述ギミックは、まあそんなもんでしょうと言った所でしたが、叙述トリックの方は、見せ方こそちょいと(読了して振り返ると)乱暴だったりぎこちない所があるにしても、その内容というか、意図する所はちょっと凄いと思います。
あの渋い “会談” のシーンなんか、読み返しながら何度もアゴを撫でてしまいます。
物語にもっと分厚いリアリティ、ヒリヒリする当事者感覚が備わっていたら、軽く8点行ったと思いますね。

No.1470 8点 雨の殺人者- レイモンド・チャンドラー 2026/06/28 15:05
今日の俺は疲れているんだ。 とっとと済まそうぜ。

雨の殺人者 … 雨の夜には打って付けの短篇だ。 事件と心の起伏。 快い痛みと震動。 抉り出される腐敗。 カーメン .. 俺の好きじゃない方だ .. そのカーメンが、ヤヴァい猥褻写真家 ‘兼’ 裏出版業者に心身を絡め取られ、その写真家の屍骸が、時宜悪く “私(≒ マーロウ)” に発見された。 複雑に熟したミステリ臓腑をじんわり追い巡って、放り出された先はたまらないエンディング。 好きだ・・・・    「滓(かす)みたいな人間どもには用はなかったし、いまだって同じことです」

カーテン … 腐れ縁の悪党との再会から、財界の大物老人との出会いへ。 老人の愛する “娘婿” の捜索を任されたマーロウ。 “気の合ったふたりの男が、世智がらい、敵意に満ちた世の中を仲よくやっていっている感じだった。” おお、意外な犯人と、おなじみの愛すべき真相、という意外な取り合わせだ。 ハヤカワの書評でもチッと書いたが、この真犯人意外性をミステリ(殊に長めの短篇)の中で文句無く成立させるために、ハードボイルドなる堅牢な枠組みが誕生せしめられたのだと、ガース・ハドソンかニール・ヤングあたりに言われたら、信じてしまいそうだ。 にしても、その意外な犯人に向けての伏線もバカ正直なほどに晒されていたんだよなあ。。 素晴らしき終わりの二文、たまらねえです。

流石に 『大いなる眠り』 を再読してみたくなる。 バナナとカフィミルクでちょっと元気になった。

ヌーン街で拾ったもの … 「指紋は痛がらねえからな」  明らかにマーロウではない探偵(と言っても警察所属)がハリウッド界隈で活躍。 汚れた空気がたまらなくイイ。 俳優人気は陰りつつも婦女子殺傷力はマーダマダの二枚目がヤバい脅迫を受けた。 クソヤバい巨漢ファッキンニガーも場を熱く乱す。 磁力抜群の紛糾ストーリーに、またしても最高のエンディング。 俺達は男だ。。  「拳銃にも休養が必要だからな」

やっとビールが飲めた。 人生は上々だ。

青銅の扉 … 「いや、どうも。 朝っぱらからもう三杯もいただきました ・・・・・・ お言葉に甘えて、もう一杯だけちょうだいしますかな」  異色作に破綻無し。 ファンタジーに呆れる程のスムーズネス。 古道具屋にて、ある意味最強のガジェットと邂逅。 オットこれ以上、あらすじテンダネス的なものはやめておきましょう。 素晴らしき惑わしの一篇です。 「ご婦人方ぬきで、はじめてふたりきりになれたじゃないか」 ← なんですか、これは  

そろそろスコッチソーダの時間だ。

女で試せ … なんも言えねえ..  “声もなかなか捨てがたい響があった。 いまだにときどき想い出すほどだ。“ そうなのか.. 今夜の君(マーロウ)はまだら人間臭いぜ。 いいじゃないか。 出所したばかりの巨漢白ん坊が、昔馴染みの酒場と女を懐かしんで再訪し、絶望し、新たな罪を犯す。 「女に手をだすな。 この女もあいつが好きだったんだろう」 ← この台詞で、あいつの男がぐっと上がった、チキショウめ。。 ラストシーン、音を殺した残響、、 沁みるじゃねえか。  

やぱぁ、アノ長篇を再読したくなるのである。 参ったな。

スコッチソーダおかわりで、お願いします。

No.1469 7点 汚職ーさんずい- 梶山季之 2026/06/27 14:30
警察用語で 「氵(さんずい)」 。
「氵尼棒」 でも 「氵㸒行」 でも 「氵孚気調査」 でもなく
「氵亐職」 を取り巻く、戦後昭和前半の事件史インスパイア案件(が大半を占める)短篇集。

俺が殺した
きょええーーー、この駆け足の急カーブ連続反転結末には撃ち抜かれただよ。 乱歩さんの某短篇思い出したよ。 そっかー、どうして ‘ソコ’ だけ普通にしないんだ? と若干訝しんだのだが、そういう事でしたか(思うに)。 戦後まもなくの某有名事件を巡り、監獄内の二人が交わす灼熱のダイアローグと、零れ落ちた暴力。 ‘原因’ は◯◯って! 「恐ろしい顔で、ノウ! と叫んだよ。 ノウ! とな ……」 まさか某作家をディスる、と言うよりくすぐるのが目的だったんじゃあるまいな。。 なんちてな。。(葉巻)  8点強

黒子人生
週刊誌記者が行き倒れの老紳士を拾って始まる、回想と現在進行でめくるめく政界悪行人間模様。 “これは、純粋な友情からです。” いっけん紛らわしいラストセンテンスの、ちょいとした深み。いいですよ。  7点

陰謀と札束
<政治とは、全く儲かるわい> ミステリをかなぐり捨てた面白事象列記だが、ロマンがある。 何より面白い。  6点

ゴロツキ新聞
・・・・・ だが、ラスト五行は、流石に響いた。 起伏ある悪党メディア暗躍ストーリー。 良い意味で悪い昭和の見本市。  7点

疑獄の発生
“近ごろの若い者は、性病の恐ろしさを知らない。” 話者は何かを恨んでいるようだが。。 「赤線疑獄」 が周囲の諸々を振り回した物語。 ささやかな(主役にとっては甚大な)反転も光る。 最後の謝罪三連発。。。  6点強

小説 防衛庁
ドラマティックな演出のオープニングは期待を持たせる。 呼応する形のエンディングはむしろ凡庸。 はさまれた中身は、登場人物を絞り切ってない事もあり、若干、ドキュメンタリー色トゥーマッチかな。 じゅうぶん面白いけど、本短篇集の中では弱いかも。  5点

悪徳政商
タイトル通りのしぶとく悪賢い男が、来し方を独白演説に乗せて振り返る。 “次の俺の舞台は、新東京国際空港だ。” 本作も頭と尻が呼応する形だが、このオープンなエンディングは、、どちらかと言うと、あっちの方を暗示しているような、、 ?  6点強

君たちは、揃いも揃って、バカだなあ。 それでいい。
(おっと、一人ある意味例外が。。?)

No.1468 5点 殺人は容易だ- アガサ・クリスティー 2026/06/24 21:26
でなに、コレが麻耶雄嵩さんだったらアノ人が真犯人だったりするわけ? ← ズレたこと言ってます

“ルークはベイコン・エッグズがどっさり盛られた皿の前に座って、さっそく話を切り出した。”

こりゃ巻き込まれもいいとこサー。 南洋某所の警察勤務から英国に戻ってきた青年が、ロンドンへ向かう列車の中でタマタマ居合わせた老嬢の地元である “小さな村” での連続殺人事件(?)告発談話に絆され、色々あって、自らその村へと出向いて調査に当たる。 何しろ先の老嬢が早速、ロンドン市内で自動車に轢かれて死亡という体を張った模範演技を示してくれたものだから、青年への訴求は抜群だ。 やはり人の命は重い。

「人命尊重の観念はありません。 進歩のさまたげになるようなやつは排除すべきだ」

お話はスタスタ進んで、クイクイ行きます。 手の早いウェルカムドリンク二杯目で早くも核心追求の小旅行へと突入。
気付けば、村の閉鎖的人間模様タペストリーに、軽い恋愛紙芝居もちらほら。 長いがきちんと整理されユーモアも遍在の基礎捜査篇である “承” を経て、”転” また “転” の “転” の展開へ。

ですがね、こんだけ深くおぞましい(?)心理劇に連れ添われた真相と、いい意味で軽いノリが際立つスタスタ捜査劇と、やっぱりそれなりに大きなアンバランスを最後には感じるのでありましてね。 パズルかドラマかどちらかに大きく振るか、出来るんなら高いレベルで両立するか、すりゃいいのにって思っちゃいます。
あとまあ、真犯人は、或る地点から急にわかりやすくなっちゃいますね。

だけど ◯◯◯◯ に纏わる反転告白は刺さったよねえ。 同じく ◯◯◯◯ の心理的手掛かりからめくるめく展開を見せる推理と疑惑膨張の道筋にも迫力があった。
ちょっと呆気ないかと思われた真相暴露が、その裏打ちとなる “隠されていた思索” によって、一気にその価値を取り返した。

何というか、逆◯◯?(ちょっと違うな..)みたいな趣向が光ったね。 コイツがアガさんの、本作における中心企画なのかな、と思いますよ。
探偵役が “素人二人”ってのもメタなヒントになってたな。

そうそう、或る殺人(そのものではなく、他の者に疑惑を向ける)トリック、まるでカードマジックの様な、さり気ないその心理の戯れには膝を打ちましたよ。

「これはすてきであるとかいう問題ではないよ。 そんなくだらない話はよしてくれ。 わたしは忙しいのだ」

主役級のみなさんは、其々これからどう生きて行きますか?

No.1467 8点 父からの手紙- 小杉健治 2026/06/20 22:43
言いたい事が多すぎて、何からどう纏めてよいのか分からないのです。

自分より年上の( 長 い 中 略 )って、一体どういう気持ちなんだろう。 まして、そんな特殊な状況下に置かれながら。
あ、読み返して気付いたけど、上記については、冒頭の方に切なく優しい伏線が織り込まれているんですね。

“夢” とは何だ。。 その答えは、序盤でもしやと思い、中盤でほぼ確信した通りだったが、ここまで心を揺さぶられる事になるとは予想外。 本作を貫く大トリックがあればこその感動。

「その信頼に応えなければ、私たちは地獄に落ちます」

ストーリー1
主役は若い女性。 父の親友である零細企業経営者を助ける目的で、彼女は、好きでもない、一回りも年上の、確信犯で女癖の悪い経営コンサルタントと婚約中である。 ある日、彼の古い愛人と、彼自身の死体が相次いで発見される。 あまつさえ、結婚に反対していた彼女の弟が殺人容疑者として逮捕されてしまう。
彼女と弟には、毎年の誕生日に一度も欠かさず、母と離婚して行方知れずの父から手紙が届いている。

ストーリー2
主役は、 ’まだ’ 若い男性。 自らの殺人ホワイダニット核心が記憶から欠落したまま9年も服役し、出所したばかりである。 彼には恋人がいたが、去ってしまった様だ。 殺した相手は恐喝を嗜む悪徳警官。 殺しの背景には、腹違いの兄の、零細会社の経営難と妻の不徳とを苦に図ったと見られる焼身自殺事件(と、ある謎と疑惑と)が深く関与している様だ。 悪徳警官が最後に放った一言がトリガーになった事は憶えているのだが。。 ホワッツセッド興味の牽引力は強い。
彼は、恋人が離れて行った哀しみと共に、兄亡き後の義姉へのこだわりにも苛まれている。

「それはどんな障害があってもやり遂げなければならないことでした」

上述の二つのストーリー、最初はお互い知らんぷり、途上から探り合い、やがて、或る核心的部分のみ “非対称で” ぶつかり合う、カットバックで進行。 一度ぶつかって、再び離れて、別の場所でまたぶつかり合う。 そこまで全て、オフホワイトの大きなフィナーレへの御膳立てでしかなかった! 何というか、ゴール前でのクロスの上げ方で、相手を試してる感じがありましたね。

“この事件を終結させるのは自分しかいないのだという思いで、◯◯は◯◯◯の扉を開けた。”

回想の中で時系列のランフリーは解き放たれるが、やがてやさしく回収される。
そんな時系列の、優しい惑わし操作は、確かにあの “大きなトリック” をぼやかすのに効いた。
(あからさまに言っちゃうと、、 目につく冗長部分が、、 いや、やっぱり言いません。)
解き明かされる “精神分析” は、その意外な角度の故に、相当の熱さと、その後日談そそのかしの余力とを持っていた。
誰が誰を騙したか。 誰のために。

「なぜ、今になって父親に会いたくなったんだ?」

なるほど、そこで “冷静さ” をつぶしたってことか。
髪の毛の色が手掛かりになった。 そこは確かにリスクだったね。(他にも色んなパターン、大喜利風に考えちゃいますよね、あんまり引っ張るとネタバレ一直線だけど)
ヒール役の、がたついて冷たいバトンタッチは目を引いたね。 ただ、その強力な二人の悪行晴れ舞台と顚末がなんだか、モニャモニャと紛れて終わったのは、やはりミステリ上のツブシが足りないと言うべきかも知れない。

なーんだか誰かがこのあと自殺しそうないーやーな予感の流れとか、心が乱れたねえ。
同じ読みの漢字を敢えて使い分ける、心が動かされる一文もあったねえ。
折角の渋い隠喩が、妙に硬く説明的だったりする所があったけど、いいんですよ、もう。

まだらボケならぬ ”まだら” 信頼出来ない語り手と、(行動はともかく)叙述的には信頼出来そうな語り手。
盛りだくさんなミステリ要素、恋愛要素、人間ドラマ要素。 拘束力の強いミスリード。
大真相のドロップ・ザ・ボム地点は、二つの意味で、何処になるのだろうかと興味津々。
或る “施設” での偶然の出遭いが、おそるべき人生物語を紡ぎ出すに至ったのだなあ。

微妙にミステリとしては足場が柔らかそうな予感も、ある地点でよぎった。 だが違った。 ラストクウォーター中盤に至ってもなお吠え盛る新たな謎と疑惑の胸突きは驀進力の鬼だ。
最後の最後で絞り出されるように溢れ出すミステリ渦中の熱過ぎる人間ドラマ、人間ドラマどうしのぶつかり合い、そのもたらす震動と、降り始める切ないダイヤモンドダスト。

「よく覚えている。 井上靖の 『氷壁』 だ」

回想、夢、想像、過去、現在。
過去から未来へ、いやそれは違おう、現在から未来へ、そして、現在から現在へ、だ。 (← 正しいか?)

真相暴露の核心部分で唐突に沁み渡った本格/新本格心には悪い違和感を少しばかり背負わせてもらったが、たいした事ではない。
前半あたりは、ミステリの様式をトイチで借りた人間模様ドラマかと思って読んでたんだけど、後半の途中から、これが実は逆で、人間ドラマの心をトゴで借りた、覚悟の決まったミステリ小説である事が分かる。

何しろ、二つのメイントリックスが、どちらも熱過ぎるのだ!!
が、その行為の重さと、もたらされる効果のドラマチックな光映えとのコントラストを思うと、やはりメイントリック2(アイデアの論理・時系列的には、そっちが2 ..?)に持って行かれるかな。
いくつもの堂々伏線、ちょっと笑えるやら泣けるやら、参ったなあ。
最後に、或る行為を断罪するところ(ここ重要)まで含めて、素晴らしい結末だ。
実務的フォロー、心理的フォローも、想像させる部分含め、細やかだ。

「そうだ。 君のお父さんのことは俺がはっきりさせる。 それまで時間をくれ」


これ言っちゃうと、ミステリ神経の鋭い人にはネタバレ・ニアミスになるかも知れないが ・・・・・・・・ 人気映画 「ニュー・なんとか・かんとか」 エンディングの流儀、または原理で ◯◯◯◯◯(≒◯◯◯◯)に残された "◯◯の◯" が一気に◯を◯◯◯ ・・・ なんて妄想も走ったけれど、そっちへの展開にはならなかったね。 それでも、最後に明かされた "◯◯の◯" が見せる風景は前述の妄想にほど近い方向を向いていたし、それを踏まえてのラストセンテンスでは、映画のラストシーンのようなヴィジュアルが一気にあふれ出た。 語り草だよねえ。

やっぱり、あの映画にインスパイアされたエンディング、というかメイントリックの明かし方なのではないか、などと思ってしまいますねえ。



最後に、これはちょっと流石にネタバレ火遊びが過ぎるかも知れないけれど ・・・ RPGのアテレコを担当する声優さんは腕の筋力が発達するそうですねえ ・・

もう一つ、時々目にするあの話題、◯◯◯の某サービスね、これは流石に(本作のトリックはそれに決定的ヒネリが加えられているとは言え)核心突き過ぎなので、伏字を使わせていただきました。

それと、あの事件の真相、まさか某物議作の ・・・ いえなに、流石にもう言えませんや。

No.1466 6点 陽気なギャングが地球を回す- 伊坂幸太郎 2026/06/14 23:23
「思い出のスナップ写真だ。 人生の一ページだな」

風や竜巻と会話する人たち。 こいつらスカパラと共演したらきっと楽しいぞ、と思わせる銀行強盗四人組。

「やったけど、どうかした?」

銃は使うが決して人を傷つけない、正義のヒーロー善人強盗代表の爽やか四人組が、首尾よく済ませたある日の犯行後、トクリュウを思わせる地獄の暗黒極悪髑髏軍団と意外な所でぶつかり合う。
そこからトンチャカポンチャカ色々あって、スピーディーに色々やる物語。 意外な展開と意外な言葉遣いが持ち味。
四人の中には意外と屈託を抱えたメンバーもおり、また四人の周辺にも適量数の重要人物が陣取る。 前述の敵方も登場するし、他の邪悪な奴や馬鹿もいる。

「ということは、この部屋の鍵は犯行時にはすべて掛けられていたというわけですね。 問題の鍵はそこにあります」

何しろドンスカボンスカ読ませるもんで、あっという間にラストクウォーターに差し掛かり、このままずっと直線爆走で充分なんだけど、どっかできっと伊坂の変が待ち受けているんだろうなあと、分かりきった事を期待しちゃう。
第四章のタイトルとサブタイトルはいったいどういうつもりなんだ? と引っ掛かって仕方がないわけです。

“たとえ話を織り交ぜて、熱弁をふるった。” ← それまで散々具体的に書いてたのを、ここで唐突に省略。 つんのめって、前の例から自然に想像できて、笑わせてもらいました。 相当に手練れの技巧と思います。

中田留美によく似た人情給水タイムもあったが、それがいい。
ラストクウォーターも後半に突っ込み、転の見本市みたいな転だらけの本作でも転の中の転が襲い、あわや ‘聖域’ を揺り動かさんとする。 おっと、これ以上は言えねえ。

「A型だからね。 両親ともAA型だから僕もAA型でね。 純粋なA型なんだよな」

ラインマーカーを引いた上に復唱までしたような見せつけ伏線とかいくつかあったが、勢いに呑まれて許しちゃいますよ。
何しろ、クライマックスの形勢逆転シーン(って言っちゃって別にいいですよね?)にはその伏線の ‘あ~あ~、やっぱり、アレね!’ 感が盛り上げ役の一端を買って出ているわけでもあるわけでね。

最後、ある人物に対する、冷たく突き放したような、生ぬるく見守るような、大いに微妙な距離感がほんのわずかな苦みを残してくれたかね。 それでも大甘スウィート砂糖漬けの結末だね。 それでいいのよ。

「そりゃ、そう、そんな感じ」

No.1465 7点 銀と青銅の差- 樹下太郎 2026/06/12 00:18
「課長らしい貫禄がついてからにしようと思ってね」

オープニングのさり気ない衝撃で一気に引きずり込まれた。

出世を望むが意に反し降格させられた男と、出世 ‘しない’ ことを望むが意に反し昇格させられそうな男。
同期で同じ部署に配属された二人は、性格や価値観こそまるで正反対なものの、ウマが合う。
そんな二人がホニャホニャやる昭和中期サラリーメンのトラジコメディかと最初は見えたが、そんな筆の戯れで済まされる筈がない。
何しろ、プロローグでいきなり二人もの人間が死んでいるのだ。

“決して恐ろしいことではない。 ちょっとした決意と勇気がいるだけのことだ。”

前述した同期の二人は、ある目的に向かって共闘するに至る。
彼らにはそれぞれ、妻と恋人がいる。
一方では悪役を引き受けた形の専務と、その高慢ちきな愛人がいる。
上記の都合六人を中心に、それぞれが社内外で置かれたサスペンスフルな立場の収束先は、冒頭に示された二つの屍体によって、そのミステリ的方向性が担保されている。

“応接室のドアをあけると、タイプライターの音が潮騒のようにきこえてきた”  
↑ いいねえ、この昭和のオフィス描写 ..

一種のセミ叙述トリックめいた、意外な近過去に中過去の様々なイキサツ .. いや、こいつはやはり鮮やかな叙述ギミックの成功、並びに構成の妙というべきであろう。
現代なら、いかにもイヤミスでございと最後でやっと明かされがちな類の真相暴露かも知れない。 この前のめりの(?)フェアプレイがスリルを減速どころか加速させているのだからたまらない。

「あんたをやっつけるためにはそれが一番いい方法だってことに気がついた」
「専務から与えられた侮辱へのお返しとしては、ほかに方法がなさそうですからね」

一見素朴過ぎるようで、どっこい斬新大胆不敵な殺人トリックの発露。 そして適度に込み入った、死への道筋。 こりゃあ効いた!
“バッジ” 出生の機微もしっかりと語られた。 たしかに、銅(青銅)、銀と来て、肝腎の(?)金が無いってえのは、何気な違和感があったからね。

最後のカタストロフィでササヤカな唐突感が忍び込んだ感が無くもなく、そこに本作を無理にでも本格ミステリに仕立てようとした作者の心が透けて見えもしたが、だがこのシーンの重大さ、劇的さ、ミステリとしての大見得切りっぷりの前には何の障害にもなりゃしねえと思う。

エピローグ、ラストサブ章、ラストシークエンス、最後の台詞、ラストセンテンス、どれもこれも、知的興味を纏ったにこやかさで迫り来る素晴らしさだ。
興味を惹きつつスッキリした構成で瞬殺的に読ませながらも、最後は謎めいた深みを工夫たっぷりと心に沁みさせる、そんな素敵な小説でありました。

現代の視点で見ると相当なコンプライアンスをぶっ飛ばせ大会で盛り上がっているような台詞や地の文も目立ちます。 けしからんことですが、何とかミステリ的に許していただけないものでしょうか。

「全くだな。 ほんとにあの頃が恋しい」

No.1464 8点 恋文- 連城三紀彦 2026/06/08 03:03
ああ、これはいいですね。 とてもいい。

恋文  
待ってくれないか ・・・ 少し待ってくれないか ・・  反則密会に、秘密といくつかの告白。 妙に幼さの残る夫を逆頂点に置いての切実な三角関係と、風変りな隣人愛または友情。 人間、◯が懸かるとこれほどまでに大胆な日常オデッセイを演出できるという事か。 どこか微妙にトンチキな空気を醸しつつ、泣かせる言葉の最適所配置は本当にずるい。 循環小数。 18円の思い。 絵が上手い。 幼いキーパーソンが冷静に見守る中で、何なんだこの人たちは本当に。 ファンタジーのようで、寓話のようで、人間派ミステリのようで、捻り過ぎた恋愛ミステリのようでそれとは違うようで、わかりません。 結末は最高に熱い。 余白ありつつ早足の展開は本当に泣ける。 ラストシーン、最後の台詞+ラストセンテンスと急カーブが続いて最後まで揺さぶられた。 「一日一日を大事にしてください」    8点

紅き唇  
「アレ、やってたんだ」 「アレ?」   それは恋そのものではない。 だからこそ未来にあかりが灯っている。 肝腎な点である。 男は早くに妻を失い、義母は腕力と気が強くガサツなトラブルメイカー。 目下再婚前提で交際中の女性と早くも諍いを起こしている。 実の長女とも折り合いが悪くさびしい老後の義母だが、愛着ある亡き次女と連れ添った義息とはウマが合い、一緒にパチンコを打ちに行ったり、時には戦中の泣かせる話を聞かせてくれたりする(いいじゃないの)。 そんな中に浮かび上がる玄妙な四角関係+普通の(?)三角関係。 さり気ない “日常のトリック” とその◯◯には泣かされた。 ミステリ的にも熱かった。 印象的な “蛍” のシーン、殊にその真意真相が分かってみると、また違った感慨に襲われる。 リドルっぽい “焼け残った写真” の件もあれこれ想像して気が遠くなる。 結末はじんわり。 繰り返しになるが、それは恋 “そのもの” ではない。 この感覚を熱く描ける連城は凄い。   8点

十三年目の子守唄
もうタイトルからして泣ける。 出だしからして複雑な家族関係を晒している。 おっとその複雑さは予想以上だ。 しばらくツンデレ落語のスクリューボールのようだが・・・いったい何処へ収束させるつもりやら。 主人公の母親は料亭の女将。 旅行先で捕まえて来た、息子の自分よりも若い身元不詳の男を再婚相手に迎えると言う。 彼は抜群な人たらしの才で職人たちや周りの者たちを惹き付けて行く。 主人公は断固として彼を父親と認めないが、年の離れた(複雑な関係の)弟は年が離れているだけにややもすると彼を新しい父親として迎え入れてしまいそうだ。 「友達かなんか?」 「他人だよ、赤の、真っ赤の他人!」 本作には、言葉そのものというより、言葉のパケットの捌き方に独特なポップさを見せる峠の茶屋が数カ所あり、文体に強い魅力を注入している。 物語はやがて多重層の真相暴露を踏み台にして、更に最強反転の領域へと解き放たれる。 まさかこれほどまでの人情最強特殊部隊が襲い掛かる結末とは、鼻先にかすりもしなかったワケである。 終盤はもう SUPER BEAVER “人として” が流れて止まらないのである。 ラストパラグラフが最高じゃないか。 “本当はこれで終わりにしたいんだけど、もう一つ話しておかなきゃならないことがあるんだ。”   9点

ピエロ
あからさまな伏線に見え透いた反転、だが感動的な奥深さがあるから問題無し、と気を抜いた途端に、これですよ! どこまでもオープンな、真相は朝靄の中エンディングは、その美しさとも相俟ってチョット多摩蘭のです。 妙に物分かりのいい、呑み込みのいい、優しすぎる亭主と、浮気に踏み切れないその妻。 美容師である妻が髪の毛を切るシーンの象徴性に泣かされました。  「◯◯るよ、俺」 やたら映像的で象徴的意味合いを背負わされた交通事故のシーンはちょっと浮いているかな。 でもいいさ。 それより、当初、轢かれたのは別な人物にするつもりで、やっぱりやめたってことはないのかな。(なんと残酷な!)  8点

私の叔父さん
冒頭の衝撃的台詞。 次いでいきなり “本当は◯◯ではない” との明言。 ところが、このあたりが、何気に化けるわけです。 少し読んだだけで、巨大な切なさ襲来への予感に俺は耐えられるか、と怖れてしまうわけです。 名の知れたフォトグラファーである男と、その親戚である若い女の子の話です。 本当は、名の知れたフォトグラファーである男と、その親戚である若い女の子◯◯の話です。 こんな気持ち悪い設定の話をまんまと日常の謎ファンタジーに仕立ててしまう連城はやばい奴です。 「女誑しの面目躍如だもんな」 まさか、アッチ(とソッチ)は巧妙なダミーで、まさか本当のアレはあの人だったりして、なんて、それはそれでおぞましい仮説も立ててみました。 まさか “不可能妊娠トリック” なんてものが .. なんて夢も見ました。 例のアレ、法的には問題無いって、そうなのか、盲点でした。 ドリームズカムなんとかの代表曲二つに共通で出て来る有名なフレーズを連想させるシーンにはちょっと笑いました。 でも、とてつもなく重みのあるシーンなんですよね、ソコ。 まして、一人じゃないわけでしょう。。 「だったら俺のこと一生忘れるな……」 ああ、時の流れと、時の流れずと。。。。 ラストシーン、まさかそこで、××同士のサドゥンオープンエンドとはなあ。 残響グワーーーーンですよ。 よしておくれよ たまらない  8点強


いつもながら連城本人のあとがきはどういうわけだか本当に泣かせます。
本作へのあとがきは、収録作のインスパイア元になった実体験なども記されており興味津々なのですが、特に自らの母親や父親とのエピソードには不思議と感動させられます。 それにしても自分のお母さまをまさかあのような人物のモデルにするとは、ちょっと笑いました。 

No.1463 7点 飢えて狼- 志水辰夫 2026/06/06 17:30
「片想いの解消に役立つことでしょうね」

4-3=1 .. 何から話そう。 ちょっと時間をください。 そうだ、この小説は言葉がいちいち良い。 最初の一文良し、つかみ良し。 良いフレーズ、面白い言い方いっぱい。 緊迫途切れず。
中身も濃いが、表層がまた強い。 いずれその二つは同じだ。

「言わずもがな」

順子のイントロデューシングが上手い。 しかしながら順子とは何だ。 いや、彼女に限らず新しい登場人物が何気なくふつふつと沸いてくるのを次から次へと捌くのが上手い小説だ。
味方だか敵だか決め打ち出来ないが妙に愛い(うい)相手との、いちいち意表を突いて面白い会話イコールストーリー推進など、大いに刺さった。

湘南でマリンスポーツ界末席の商売を細々と営む主人公は、元登山家。 過去それなりに名を馳せた彼の元に、疑惑まみれの男たちが来訪し、ツワモノ登山経験者ならではの或る仕事をオファーする。 彼は断る。 続いて彼や若い従業員に甚大なダメージが与えられた。 気付けば、国境を跨いでいるのか/いないのか、微妙な人間サルヴェージの冒険に勤しむ他ない状況に置かれている主人公。 更に二転三転の黄金陰謀進行。 こいつはエレキの様にシビレるぜ。 4-3=1 ..  

“わたしは狩りの獲物になった。”

故郷と祖国。 死者と生者。 嗚呼。。。 何しろ風景・情景描写の卓抜なこと! その描写が天一ラーメンのスープの如く濃厚であるため速泳で渡るわけにも行かないが、その旨味があるからこそゆっくりじっくり味読の領域となる。
回想の中に時系列の落とし前が付き、戸惑い解消でぐいぐい前に進むターンがあった。 渋かった。
全三部ある中の第二部も終盤となり、自暴自棄のキナ臭さ舞う心理のドタバタには愉しく眉を顰めた。 またしても命知らずの冒険だ。 陳腐なものは何も無い。

「××の心がおまえなんかにわかってたまるか」

“炙り出し” の二重構造はなかなかに熱かった。 これぞ本作の抱き込んだ主題的感情の白眉、或いはそこへと繋がる導火線ではあるまいか。
真犯人(?)に纏わるさりげない人間関係トリックと、そのリーチが長い有効性には オッ と思ったね。 
最後に明かされた ‘或る虚しさ’ は、ハードボイルド(と呼ぼうじゃないか)ミステリ小説として最高だ。

全てを語らぬラスト一文のドライな余韻には 頑張れよ と無言の声を掛けた。

「これから泣きます」


「飢えて狼」 1981年、「揺れて湘南」 1982年、「裂けて海峡」 1983年。
本作のベースとなる土地の一つが神奈川湘南であることを考えると、志水辰夫と石川秀美の間に同志的ヴァイブのキャッチボールがあったのは間違いないだろう。
なお’80年代のこの流れは 「背いて故郷」 1985年、「泣いてチンピラ」 1987年と、綿々と続いている。(後者は長渕剛 「ろくなもんじゃねえ」 の後続シングル)

おっと、秀美ちゃんのデビュー曲は正しくは 「ゆ・れ・て湘南」 だった。 すみません。

キーワードから探す
斎藤警部さん
ひとこと
昔の創元推理文庫「本格」のマークだった「?おじさん」の横顔ですけど、あれどっちかつうと「本格」より「ハードボイルド」の探偵のイメージでないですか?
好きな作家
鮎川 清張 島荘 東野 クリスチアナ 京太郎 風太郎 連城
採点傾向
平均点: 6.69点   採点数: 1482件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(60)
松本清張(58)
鮎川哲也(51)
佐野洋(41)
アガサ・クリスティー(40)
島田荘司(39)
西村京太郎(36)
島田一男(30)
エラリイ・クイーン(27)
F・W・クロフツ(26)