皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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斎藤警部さん |
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| 平均点: 6.69点 | 書評数: 1464件 |
| No.1464 | 8点 | 恋文- 連城三紀彦 | 2026/06/08 03:03 |
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| ああ、これはいいですね。 とてもいい。
恋文 待ってくれないか ・・・ 少し待ってくれないか ・・ 反則密会に、秘密といくつかの告白。 妙に幼さの残る夫を逆頂点に置いての切実な三角関係と、風変りな隣人愛または友情。 人間、◯が懸かるとこれほどまでに大胆な日常オデッセイを演出できるという事か。 どこか微妙にトンチキな空気を醸しつつ、泣かせる言葉の最適所配置は本当にずるい。 循環小数。 18円の思い。 絵が上手い。 幼いキーパーソンが冷静に見守る中で、何なんだこの人たちは本当に。 ファンタジーのようで、寓話のようで、人間派ミステリのようで、捻り過ぎた恋愛ミステリのようでそれとは違うようで、わかりません。 結末は最高に熱い。 余白ありつつ早足の展開は本当に泣ける。 ラストシーン、最後の台詞+ラストセンテンスと急カーブが続いて最後まで揺さぶられた。 「一日一日を大事にしてください」 8点 紅き唇 「アレ、やってたんだ」 「アレ?」 それは恋そのものではない。 だからこそ未来にあかりが灯っている。 肝腎な点である。 男は早くに妻を失い、義母は腕力と気が強くガサツなトラブルメイカー。 目下再婚前提で交際中の女性と早くも諍いを起こしている。 実の長女とも折り合いが悪くさびしい老後の義母だが、愛着ある亡き次女と連れ添った義息とはウマが合い、一緒にパチンコを打ちに行ったり、時には戦中の泣かせる話を聞かせてくれたりする(いいじゃないの)。 そんな中に浮かび上がる玄妙な四角関係+普通の(?)三角関係。 さり気ない “日常のトリック” とその◯◯には泣かされた。 ミステリ的にも熱かった。 印象的な “蛍” のシーン、殊にその真意真相が分かってみると、また違った感慨に襲われる。 リドルっぽい “焼け残った写真” の件もあれこれ想像して気が遠くなる。 結末はじんわり。 繰り返しになるが、それは恋 “そのもの” ではない。 この感覚を熱く描ける連城は凄い。 8点 十三年目の子守唄 もうタイトルからして泣ける。 出だしからして複雑な家族関係を晒している。 おっとその複雑さは予想以上だ。 しばらくツンデレ落語のスクリューボールかと思わせといて、結局何処に収束させるつもりやら。 主人公の母親は料亭の女将。 旅行先で捕まえて来た、息子の自分よりも若い身元不詳の男を再婚相手に迎えると言う。 彼は抜群な人たらしの才で職人たちや周りの者たちを惹き付けて行く。 主人公は断固として彼を父親と認めないが、年の離れた(複雑な関係の)弟は年が離れているだけにややもすると彼を新しい父親として迎え入れてしまいそうだ。 「友達かなんか?」 「他人だよ、赤の、真っ赤の他人!」 本作には、言葉そのものというより、言葉のパケットの捌き方に独特なポップさを見せる峠の茶屋が数カ所あり、文体に強い魅力を注入している。 物語はやがて多重層の真相暴露を踏み台にして、更に最強反転の領域に解き放たれる。 まさかこれほどまでの人情最強特殊部隊が襲い掛かる結末とは、鼻先にかすりもしなかったワケである。 終盤はもう SUPER BEAVER “人として” が流れて止まらないのである。 ラストパラグラフが最高じゃないか。 “本当はこれで終わりにしたいんだけど、もう一つ話しておかなきゃならないことがあるんだ。” 9点 ピエロ あからさまな伏線に見え透いた反転、だが感動的な奥深さがあるから問題無し、と気を抜いた途端に、これですよ! どこまでもオープンな、真相は朝靄の中エンディングは、その美しさとも相俟ってチョット多摩蘭のです。 妙に物分かりのいい、呑み込みのいい、優しすぎる亭主と、浮気に踏み切れないその妻。 美容師である妻が髪の毛を切るシーンの象徴性に泣かされました。 「◯◯るよ、俺」 やたら映像的で象徴的意味合いを背負わされた交通事故のシーンはちょっと浮いているかな。 でもいいさ。 それより、当初、轢かれたのは別な人物にするつもりで、やっぱりやめたってことはないのかな。(なんと残酷な!) 8点 私の叔父さん 冒頭の衝撃的台詞。 次いでいきなり “本当は◯◯ではない” との明言。 ところが、このあたりが、何気に化けるわけです。 少し読んだだけで、巨大な切なさ襲来への予感に俺は耐えられるか、と怖れてしまうわけです。 名の知れたフォトグラファーである男と、その親戚である若い女の子の話です。 本当は、名の知れたフォトグラファーである男と、その親戚である若い女の子◯◯の話です。 こんな気持ち悪い設定の話をまんまと日常の謎ファンタジーに仕立ててしまう連城はやばい奴です。 「女誑しの面目躍如だもんな」 まさか、アッチ(とソッチ)は巧妙なダミーで、まさか本当のアレはあの人だったりして、なんて、それはそれでおぞましい仮説も立ててみました。 まさか “不可能妊娠トリック” なんてものが .. なんて夢も見ました。 例のアレ、法的には問題無いって、そうなのか、盲点でした。 ドリームズカムなんとかの代表曲二つに共通で出て来る有名なフレーズを連想させるシーンにはちょっと笑いました。 でも、とてつもなく重みのあるシーンなんですよね、ソコ。 まして、一人じゃないわけでしょう。。 「だったら俺のこと一生忘れるな……」 ああ、時の流れと、時の流れずと。。。。 ラストシーン、まさかそこで、××同士のサドゥンオープンエンドとはなあ。 残響グワーーーーンですよ。 よしておくれよ たまらない 8点強 いつもながら連城本人のあとがきはどういうわけだか本当に泣かせます。 本作へのあとがきは、収録作のインスパイア元になった実体験なども記されており興味津々なのですが、特に自らの母親や父親とのエピソードには不思議と感動させられます。 それにしても自分のお母さまをまさかあのような人物のモデルにするとは、ちょっと笑いました。 |
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| No.1463 | 7点 | 飢えて狼- 志水辰夫 | 2026/06/06 17:30 |
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| 「片想いの解消に役立つことでしょうね」
4-3=1 .. 何から話そう。 ちょっと時間をください。 そうだ、この小説は言葉がいちいち良い。 最初の一文良し、つかみ良し。 良いフレーズ、面白い言い方いっぱい。 緊迫途切れず。 中身も濃いが、表層がまた強い。 いずれその二つは同じだ。 「言わずもがな」 順子のイントロデューシングが上手い。 しかしながら順子とは何だ。 いや、彼女に限らず新しい登場人物が何気なくふつふつと沸いてくるのを次から次へと捌くのが上手い小説だ。 味方だか敵だか決め打ち出来ないが妙に愛い(うい)相手との、いちいち意表を突いて面白い会話イコールストーリー推進など、大いに刺さった。 湘南でマリンスポーツ界末席の商売を細々と営む主人公は、元登山家。 過去それなりに名を馳せた彼の元に、疑惑まみれの男たちが来訪し、ツワモノ登山経験者ならではの或る仕事をオファーする。 彼は断る。 続いて彼や若い従業員に甚大なダメージが与えられた。 気付けば、国境を跨いでいるのか/いないのか、微妙な人間サルヴェージの冒険に勤しむ他ない状況に置かれている主人公。 更に二転三転の黄金陰謀進行。 こいつはエレキの様にシビレるぜ。 4-3=1 .. “わたしは狩りの獲物になった。” 故郷と祖国。 死者と生者。 嗚呼。。。 何しろ風景・情景描写の卓抜なこと! その描写が天一ラーメンのスープの如く濃厚であるため速泳で渡るわけにも行かないが、その旨味があるからこそゆっくりじっくり味読の領域となる。 回想の中に時系列の落とし前が付き、戸惑い解消でぐいぐい前に進むターンがあった。 渋かった。 全三部ある中の第二部も終盤となり、自暴自棄のキナ臭さ舞う心理のドタバタには愉しく眉を顰めた。 またしても命知らずの冒険だ。 陳腐なものは何も無い。 「××の心がおまえなんかにわかってたまるか」 “炙り出し” の二重構造はなかなかに熱かった。 これぞ本作の抱き込んだ主題的感情の白眉、或いはそこへと繋がる導火線ではあるまいか。 真犯人(?)に纏わるさりげない人間関係トリックと、そのリーチが長い有効性には オッ と思ったね。 最後に明かされた ‘或る虚しさ’ は、ハードボイルド(と呼ぼうじゃないか)ミステリ小説として最高だ。 全てを語らぬラスト一文のドライな余韻には 頑張れよ と無言の声を掛けた。 「これから泣きます」 「飢えて狼」 1981年、「揺れて湘南」 1982年、「裂けて海峡」 1983年。 本作のベースとなる土地の一つが神奈川湘南であることを考えると、志水辰夫と石川秀美の間に同志的ヴァイブのキャッチボールがあったのは間違いないだろう。 なお’80年代のこの流れは 「背いて故郷」 1985年、「泣いてチンピラ」 1987年と、綿々と続いている。(後者は長渕剛 「ろくなもんじゃねえ」 の後続シングル) おっと、秀美ちゃんのデビュー曲は正しくは 「ゆ・れ・て湘南」 だった。 すみません。 |
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| No.1462 | 6点 | 見えない敵- F・W・クロフツ | 2026/05/30 00:30 |
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| “住民たちは、戦争が許すかぎりの平和な生活に落ちついた。”
大戦下のイングランドはコーンウォールの海岸にて、動機不明の老人爆殺事件が発生。 現場の状況から、犯人の本当のターゲットは、老人の近くを歩いていた “嫌われ者” のもう一人の老人ではなかったかとの疑いが持たれる。 同時に “嫌われ者” の老人自身が犯人ではとの指摘も出た。 そんな状況の中、戦時らしい純然たる物理トリックの可能性が綿密に論じられ、上質な退屈の靄が立ち込めるが、物語はやがて玄妙にして緻密なご近所心理分析へと移り、ここで一気にミステリの熱が上がる。 更には過去深掘りの意外な震動が唸りを上げた。 「けしからん、あんちきしょうですね、わたしも、あなたに賛成しますよ」 フレンチが試行錯誤を繰り返す中、なかなかに真犯人決め打ち、事件構造仮決めとは行かない壁の厚さが心地よい。 ミステリとしてこの見通しの利かなさは甘い夢を見るようである。 船も、電車も、自動車や自転車さえ絡まないアリバイトリック、と呼ぶのかさえ怪しい或る犯罪トリック暴露への道には味わいがあった。 「スリラーは、まったく別ものです。 スリラーでは、目的はスリルです」 意外なタイミングと内容で “転” が来たのはスリリングだった。 いいぞもっとやれと物語を鞭打つ気分だ。 偶然の空圧も適時襲い掛かるわけだが、致し方なし。 その分だけ評価は低くして、許しましょう。 タイトル “ENEMY UNSEEN” の思わせぶりや、何気に活発なミスディレクションの最終処理が豪快放り投げっぱなしな感もあるが、その豪快さに免じよう。 最後は、再び泰然と純粋物理トリックの場に立ち返り、考察と行動が場を満たし、落ち着いた捕物シーンで犯罪劇は幕を閉じる。 エピローグ的最終パラグラフも良し。 ごく狭いエリアで起こった小さな事件の筈なのに、謎に大きな物語感覚に包まれる。 これはやはり◯◯がその背景に幻のように蔽いかぶさっている所為でしょうか。 良い意味で、中身は小ぶりでも器がやたら大きい推理小説なのかも知れません。 |
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| No.1461 | 6点 | 南アルプス殺人事件 暗殺回路- 梓林太郎 | 2026/05/24 14:16 |
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| <電線株は公共投資の恩恵を受け、業績が回復している。光ファイバーという夢があるからだ。>
おゝ序盤から意外な××発見は熱い。 起承の習いを破り、起から転へとつんのめって突進。 おセンチのアンネンポルカも踊ったが、何が悪い。 1970年代の光通信実用黎明期、そのキーマンの一人と目される “旭通信工業” の若き技術者が、南アルプスにて消息を絶つ。 親友である主人公が、関係筋の力も借り捜索に乗り出す。 やがて山中や市街地にて、業界とその周辺に属する者たちの屍体が続々と現れる。 併せて不法侵入や放火の被害も出た。 “光ファイバーは、ビルの谷間の日陰の住宅にも太陽の恵みを与えた。” 早いタイミングから、思わぬ熱い人情ドラマをぶっこんで来る。 ズルいねえ、良い意味で。 だが中盤少し前あたりから、チョイと書き分け不徹底で紛らわしい登場人物群が奔出し、リアリティの演出とも言えようが、混乱気味になりました。 それはまあ置くとして、中盤から “お山さん” の匂いが希薄となり、街というか業界のガヤガヤにばかり傾いて行ったのは残念であった。 しかし、それはむしろタイトルで山押し一本みたいに思わせるのが悪イんであって、一定の山好き層へ確実に売るための業界方便なんでしょうが、それならいっそ 『光の回廊 ~南アルプス殺人事件~』 とかなんとか、山の方をサブタイトルに持って来たらいいのに? 令和以降の重版は多分その方が売れますよ? なんていい加減な事を思ったりもするのです。 あ、本作実際は 「暗殺回路」 なる副題付きですね。(おっと、今は本題の一部扱いらしな) さて前述のような混乱やら小さな不満はあったものの、総じてスリリングな良い犯罪捜査物語でした。 華々しい殺人トリックや巧妙なアリバイ偽装などとは縁が無いものの 或る意味切実とは言え身勝手で独特な殺人動機には目が開いたし 或る狡猾な “情報探知トリック” の逆説には、ちょいとヤラレたと思いましたね。 「彼らは、知っていたら絶対に喋らせます。 喋ったからといって、その場で警察に身柄を渡したりはしない」 これ言うとネタバレになるのかな ・?・?・?・ 最後はなんだか 『日本の黒いなんとか』 みたいな足早大団円?に雪崩れ込んだ感がありますが、本作の(社会派)ミステリとしての主眼がそっちにあるわけじゃあないですよね(たぶん?)。 それでもこのエピローグ的後日談が明瞭に記されたことで、小説の締まりが一、二段上がったのは間違い無いでしょう。 ラストシーンと、最後の一文、ニヤリと、沁みました。 |
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| No.1460 | 8点 | 寝ぼけ署長- 山本周五郎 | 2026/05/20 00:07 |
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| 「汚れたものは早く洗わなくちゃあいけない、洗ってきれいになるんだ」
いちいち引用するのも躊躇うほど、あたかも佐野元春か若元春と見紛う名言連射の寝ぼけ署長。 ごく一部の人の人生のごく一部しか救わない事件真相解明など眼中の外、多くの人の人生を大きく救う問題解決ないし事態鎮静に手腕を振るう寝ぼけ署長は、社会不安を催す大事件が発生した後から登場しては市井の血を流して派手なヒーローの名を残すのではなく、社会不安を最小限に抑える事に腐心し、目立たぬ治安維持の捨て石となる事を旨とする。 言わば金田一耕助のアンチテーゼの様な実力派である。 後年のおとぼけ課長とは肚が違う。 転任が決まった際には別れを惜しむ多くの市民たちから慰留の声が上がった。 「それより手が揃ってるなら引越しの手伝いでもしてやるがいい。 そのほうが物事が早く片付く訳じゃないか」 終戦から間もない地方都市を舞台に、いい意味で隙のあるアンクル・アブナーのような愛され名士、寝ぼけ署長。 扱われる事象としては個人レベルの .. だが社会全体への拡がりに繋がっている .. 一見ささやかなトラブルだったり、一方ではいかにも大きな社会問題に火を付けそうな有力者の悪どい計画だったり。 ちょっと見には日常の謎短篇集のようでもあるが、実はそうでもない。 “係りの者が出てゆくと、署長は明けてある窓へいってながいこと外を見ていました。” 滋味溢れる丁寧な作品が並ぶ中、これはちょっと筆滑り過ぎでは?と思うピースも一つあったが、異色作として珍重したい。 逆説人情が薫るやら、署長の手の内見せないサスペンスが走るやら、ちょっとした確信犯叙述トリックが映えるやら、ちょっと凄い異色のフーダニット解決に絆(ほだ)されるやら。 最後の一篇はもう、表題からして熱い。 熱くて涼しい顔した、稚気走る本格ミステリ。 著者の訳知りっぷり、ここに極まった忘れ得ぬ名花。 ちょっとホームズっぽいのはやはり洒落か。 「寝ぼけ署長を筆誅してやろうと思ってさ」 中央銀行三十万円紛失事件/海南氏恐喝事件/一粒の真珠/新生座事件/眼の中の砂/夜毎十二時/毛骨屋親分/十目十指/我が歌終る/最後の挨拶 予想を上回るミステリと小説の分厚さに押し切られました。 |
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| No.1459 | 7点 | ビブリア古書堂の事件手帖5- 三上延 | 2026/05/15 00:23 |
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| 目次の一部省略には、意味があった。
これに倣い ‘プロローグ’ と ‘エピローグ’ へのコメントを省く。 “みんなが鶏の雛(ひな)でも売って、ただ静かに日々を送ることができればいいのだが。” ■第一話 『彷書月刊』(弘隆社・彷書舎)■ この人のホームズ譚がそんな単純なわけねーよな、と思っていたら。。 無闇に使いたくない言葉だが、深い。 『彷書月刊』 なる古書を扱う雑誌バックナンバーの不自然な売り買いを繰り返す婦人と、それに呼応するような謎の老人がビブリア古書堂に現れる。 この洞窟は奥深い。 シリーズも五巻目に入り、内容が薄まるどころか益々ヤバくなっている事を実感させる。 “厳しさに甘える” って、あるよねえ。 “栞子さんが振り返り、まぶしそうに目を細めた。 はるか遠く、山を超えた先にある海を見つめているような気がした。” ■第二話 手塚治虫 『ブラック・ジャック』(秋田書店)■ 揃って 『ブラック・ジャック』 マニアの夫婦。 妻は病気で先立った。 夫の蔵書である 『ブラック・ジャック』 の或る一巻を、出張での留守中に、仲の悪い息子が盗み出したという。 本の蘊蓄とトリックと人間ドラマとミスディレクションとがガッチリ隙無くはまった力作だ。 言わば 「第三の◯◯」 の存在が熱かった。 そこに泣かせるホワイダニットが真正面からぶつかるわけだ。 だが或る “奇矯な行為” の理由を、何故ずっと(強引にでも)話さなかったのか ・・・ そこがちょっと穴かな。 “最後に聞こえたその言葉がいつまでも耳の中で響いた。 一体、なにに気を付けろと言うんだろう?” ■第三話 寺山修司 『われに五月を』(作品社)■ 寺山修司マニアの長男から、その死の間際に激レアコレクション 『われに五月を』 を譲ると言われたと主張する三男。 だが一家の問題児である彼の言い分を誰も信じない。 うむ。 或る誤解を生むに至った大胆行為の心理トリックこそ見え透きやすくササヤカなものだが、その誤解が解かれる経緯を含む大きな人間ミステリドラマがまるっと素晴らしい。 そして、そこにあのキーパーソンが絡んで来るとは・・ トボケたふりしたラストシーンと、何より最後の一文が、深い余韻を残すのです。 晩年の我が父がシリーズ途中でやめられなくなった気持ちがよく分かりました。 「こっ、今後ともよろしくお願いします!」 目次の一部省略には、意味があった。 何たるチートだ ・・・ |
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| No.1458 | 5点 | 黄金流砂- 中津文彦 | 2026/05/13 23:27 |
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| よく喋る男は、狂言回しか、容疑者か、両方か。
「いや、◯◯◯そのものではなく、それによって◯◯◯◯◯◯、という意味ですよ」 ← 最後の◯◯二文字に傍点 第一の被害者は、盛岡を訪れていた日本史の教授。 専門とする古代奥州史と、殺人事件との繋がりが匂わされる。 周囲には学問上の、或いは他の理由から(?)彼への恨みや反感を抱く者が幾人もいた。 もろ二サス風軟いミステリ進行への甘い寄り掛かりは、第二の殺人の鮮烈な意外性によって破られた。 更にその思わせぶりな謎が深い。 と期待したのだが呆気なく 。。。 いやいや、ふつふつと沸き上がったミステリ興味はそうそうたやすく鎮まりはしませんでした。 捜査側(主に新聞記者と学校教師)の主役収束が緩いせいか、小説内情報開示・把握の時系列に妙な乱れが生じ、どうも情報俯瞰図が見えづらい流れが所々あります。 ですがこの遠距離バックパス連鎖の感覚こそ、本作ならではの独特な味と言えるかも知れません。 うん、ここは本作の得難い美点として珍重したいと思います。 タイトルが暗示する古代奥州の “或る重大要素” と現代の連続殺人事件とが聯関する構造は思った以上に有機的でドスッと来ました。 意外な◯◯を媒介とする暗号の存在とその読解にも相当の訴求力がありました。 が、読了してみると、何とも口惜しい、詰込み諸要素のバランス悪い押し合い圧し合いが強い印象として残ってしまいます。 空さんの仰る > 前半の地味な展開を最後まで続けてもらいたかったように思いました。 には私も同感です。 ずっと完成度の高い、渋い作品になれたのではないでしょうか。 堅実に追い詰めるかと見えた、地味ながら知的スリルに訴えるアリバイトリック破りは、最後の所で唐突にアレッて感じです。 人間ドラマに歴史ドラマもそれぞれ明後日や一昨日の方向に行っちゃって、、 本格ミステリとしてはまだともかく、小説として収拾が付いていないと思われます。 「八百八十通りもの組み合わせがあるんだそうですよ」 巡り巡って最後はやはり、ニサス流儀に戻って来たのかと思ったら ・・・・ 八方丸く収める(?)手段が無理矢理かつなかなかに不謹慎。 悪い唸りが出ました。 ん~だども面白いことは面白い。 その面白さが勝って、四捨五入で5点は5点でも5.3超の堂々合格点を献上しようと思うのです。 |
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| No.1457 | 7点 | 権力の墓穴- リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク | 2026/05/08 06:12 |
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| “おれはツイているんだ。 ためらうことはない。”
L.A.はサンセット・ブールヴァードにて “怪盗ベル・エアの星” が暗躍。 殺人も傷害も犯さない “星” が、今回ばかりは強盗殺人事件を起こしたと目された。 窃盗課と殺人課がタッグを組んで捜査に当たる。 ところがこの事件(いちおう断っとくけどネタバレじゃありませんよ)、本当はコロンボの上司(と言っても相当に上の人)が、その近隣に住む彼の友人に巻き込まれる形で起こしたもので、その経緯と展開には、結構なミステリ上の/文芸上のひねりがいくつもある。 第二の殺人も起こった。 tider-tigerさん仰る “交換殺人の亜種” は言い得て妙ですね。 「コロンボ警部、入念に調べてくれ。 何か手がかりが残っているかもしれないから」 (← これはその上司の台詞) 言うだけ野暮だが、起承転結の転がいい。 いたってシンプルな聞き込みシーンが、どうしてこんなにスリリングなんだろう。 転中の転、更に良し! “憎悪をバネにして日常的な会話を打ち壊し、錯乱と狂気の一瞬を手に入れろ!” (← 凄い地の文!) 押してはすぐ引かず、不意に引くと斜め下から突き上げる、すかさず真正面から一撃また一撃、最後は真上から .. コロンボの揺さぶり、人たらしならぬ犯人たらし(?)っぷりにはいつもながら感服です。 殊に、今回の事件のように自分の属する組織内の上役を追いつめるなんて高難易度のヤマとなると、そのスキル発揮も半端でなく黒光りの艶を見せてくれるわけです。 「たしかに令状ですな」 「ああ、コロンボ君」 小道具使いでは “黒い手帳“ が良い仕事をしました。 ポーカーの隠喩も効いた。 最後の劇的なクラッシュには、映像でも文章でも、忘れ難いスリルと一種の怖さとが沁みています。 そして、退職間近の老刑事とコロンボと二人の、ささやかなラストシーン。 浸っちゃうねえ。 |
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| No.1456 | 6点 | 度胸- ディック・フランシス | 2026/05/06 21:15 |
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| 「なぜ知りたいのだ?」
「うまいやり方だと思ったから」 冒険ミステリとしては、破綻なくまとまった手堅い作り。 好漢小説としては、何かを突き崩しており、心の炎収まり難し。 土と草と馬の匂いや良し。 衆人環視パドックのど真ん中、主人公の目の前で有名騎手の拳銃自殺という(かの 『樽』 にも通じる)衝撃的オープニング。 その割にどこかしら緩く、ほんわり感さえ漂う前半。 但しそこには主人公や仲間の騎手たちが様々な要因 .. 不正疑惑 .. 遅刻常習 .. レース不調 .. 大怪我 .. 等で、現役騎手の第一線から退かされる事態が連発している。 この事象に不審を抱き、思い切った行動に出る主人公の、不屈の戦いの物語である。 (← 微かな叙述欺瞞入った?) 「○○しながら○○できるのは、なにもきみ一人だけではない」 ストーリーの真ん中に差し掛かり、不意の短いミスディレクションから襲いかかる急カーブのあたりから、物語の発熱が始まる。 じっくりと罠の包囲網を仕掛け、ささやかなホワットダニット興味を引き連れて、本気のじっとり復讐中継をたっぷり堪能させてくれるまでの流れは、なかなかのいやらしさと男気とが入り混じったエンタテインメントの光のアヴェニューである。 熱いぜ。 <駄馬ならフィンに乗らせればいい、恐れをぜんぜん知らない男だ> 黒幕特定がイージーに行き過ぎるようであったり、諸々意外性ってやつに背を向けていたり、E-BANKERさんおっしゃる通り、予定調和の圧が強過ぎる感はあります。 一方、そこに楔を打ち込むように、動機心理の際どい共有やら、そこからの離脱宣言?やら、何より、結局お互い大義名分を振りかざしての嗜虐実行発動ぶつかり合いなんじゃないかと訝しませてくれたり(と実は他にも一つ)、単純に割り切れない、重く引き摺る要素が睨みを効かせていると思います。 ちょっとだけほろ苦いようで本当は甘い家族関係と、なんだか甘すぎのようで特殊な葛藤もある恋愛関係(更にはこの二つが ‘○と○’ という点で繋がっているのも)ストーリーに良い意味での安全網を与え、また殊に後者は事件解決と冒険突破に大きな貢献をも果たしました。 いい感じです。 本当にちょっとした ‘こども’ 登場シーンや、最後におとなしく大活躍する可愛い ‘おうまさん’ もグッド。 四捨五入6点でも上の方(6.35超)ですね。 ラストシーン、そして最後の二行、特に最後の一行の響くこと響くこと。 これはちょっと、深いよね。 |
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| No.1455 | 8点 | アミュレット・ホテル- 方丈貴恵 | 2026/05/02 19:43 |
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| Episode 1:アミュレット・ホテル
Episode 0:クライム・オブ・ザ・イヤーの殺人 Episode 2:一見さんお断り Episode 3:タイタンの殺人 犯罪プロフェッショナルが活用する 『アミュレット・ホテル別館』 のオーナーは諸岡。 隣接の本館は一般向け。 警察を寄せ付けない本ホテル内での殺人・傷害事件はご法度だが、それでも起きてしまった事件の真相解明を担うのが 「ホテル探偵」 の桐生。 犯人が特定されたら、 ”同じ殺害手段” で速やかに処分され、事件は闇に葬られるのが鉄則となっている。 「いや、全然違うよ」 諸岡があまりにあっさり否定したので、私はぽかんとした。 「違うんですか」 ストーリーの感触はあたたかく、締まりが良い。 (まるで・・ おっと、下ネタは厳禁だ) と思えば氷水を浴びせられたりもする。 ××探知機を出し抜くための、大小巧みに噛み合わせたスーパートリック。 思わず顔を顰めてしまう、××隠蔽トリック。 五年もの時を越えた××並びに××トリック。 死体××にまつわる、目の醒めるロジック。 密室を作った理由には(ミステリとして)感心 &(現実として)大笑い。 叙述のタクラミに唸らさせるオ話もありました。 ダミー解決が、読者に向けただけでなく、小説内現実世界の中で、事件関係者間で切実な重みを持って取り交わされる構造。(← これは効いた!) その後の手堅いサポートを担った、文字通り “時を越えた” 或る物証。 地味ながら心理と論理の襞に深く入り込む、或ることを “否定せず” のホワイダニット。 いちいち唸ります。 ブラウン神父の影や足跡がホテル内そこかしこに見つかりました。 「私のホテルを利用しておいて何のつもりだ、ふざけるな!」 本当は大きな大きな容積を持て余すミステリの盲点、ならぬ盲立体(時に盲四次元立体)を巧妙に爽やかに掬い出して白日のもとに並べ立てるその卓越した手腕は、ミステリの近未来を易々と探り当て、またミステリ遠未来のぼんやりした肖像画を虹の後方に浮かび上がらせる現実的期待感をシラッと引き連れています。 藤井風流儀です。 「なるほど …… 今後はそういった可能性も考慮に入れるようにします」 連作短篇集全体の中で、いったいどの方向に(どの)駒が進んでいるのかな、と所々惑わされる流れが良い。 読後の、全部で4エピソードしかないとはとても思えないような、ストーリーたくさんたっぷり浴びました感が素晴らしい。 直球複雑系。 だが変化球も良し。 みりんさん仰る "二重リングのもたらす効果" には私も心が動きます。 早いうちから8点以上確定オーラに包まれる本でした。 蝶ネクタイ、直しちゃいますよね。 “次にこの扉が開かれるのは …… 何年後のことだろう?” |
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| No.1454 | 7点 | 日本の黒い霧- 松本清張 | 2026/04/30 23:54 |
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| 清張の小説は、心が先走っている。 定められた結末を見据え、筆致こそハードボイルド的に冷静を保っているが、どうしても冷静の壁を乗り越えて先に進んでしまう一種の ‘オーラ’ が、言外の言として機能してしまう。 これが、清張特有の強烈な ‘嫌な予感畳み掛けサスペンス’ のメカニズムではないかと思う。
一方、よく誤解される様ではあるが、本作の様なノンフィクション或いはセミノンフィクションの場合、清張は最初から結論を決め付けず、手にした情報を解析した結果として結論を導こうとするので、小説の場合の様に心が先走らず、前述の ’オーラ’ が発生しない。 飽くまで個人の見解だが、私が清張のノンフィクション系作品に小説ほど乗り切れない理由はそこにあると思っている。 “しかし、今でも私は、当時の疑問に対する情熱を捨ててはいない。” それでも内容の熱さは充分に感じるし、冒頭と掉尾を飾る 「下山事件」 「朝鮮戦争」 には相当なスリルが宿っている。 これらに挟まれた他の作には中田ルミさんもときどき姿を現すが、全体を通して見れば誠に立派で危険な大仕事を成し遂げやがったものだと総括すべきであろう。 まして、その歴史的意義や時代の中での立ち位置に思いを馳せればなおさらその価値は輝いて見えよう。 (実際に真相を暴いたかどうかより、真相を暴こうと尽力努力して、その結果を世に問うたことが一大事なのだと思う) 本作が結果的に山田風太郎の某連作短篇を髣髴とさせなくもない作りになってしまっている現象は、やはり本作に対する根強い “こじつけ” “思い込み” 批判の源泉近くに位置しているのではないかと考える。 清張の主張によれば、結果的にそうなっただけで、最初からそのような構造を狙っていたのではない、ということの様だが、本当のところ、どうなのかは分からない。 下山国鉄総裁謀殺論/「もく星」号遭難事件/二大疑獄事件/白鳥事件/ラストヴォロフ事件/革命を売る男・伊藤律/征服者とダイヤモンド/帝銀事件の謎/鹿地亘事件/推理・松川事件/追放とレッド・パージ/謀略朝鮮戦争/なぜ『日本の黒い霧』を書いたか “私はアテ推量ながら以上のことを書いたが、これとてもどこまで事実に迫っているか、自信がない。 これが本当の謀略というものの姿であろう。” (← むやみに使いたくない言葉だけど、深いねえ..) |
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| No.1453 | 9点 | おやすみ人面瘡- 白井智之 | 2026/04/29 18:28 |
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| “人間” だとよ 笑
十七年前、事件があった。 それを踏まえて… 仙台市と、近郊の腐った街とを中心に、実写映像化は控えるべき “特殊異形風俗店” を巡る企みと、腐った環境なりにポップな中学生たち(と腐った教師たち)の生活とが、微妙につながったカットバックで描かれる。 その背景には、タイトルからぼんやりと想像は付くが、その想像を大きく超えるであろうオッヅォマシイ医学的特殊設定がある。 まっことゲロ吐き注意である。 「商売のコツっていうのは、みんなが欲しいものを、楽に仕入れて売るってことなんだ」 心のメモを取る暇も許されない謎/暴力/疫病の重戦車進行。 箍と書いてタガが外れた暴走リーダビリティ。 ギラギラ多重解決の嵐がいったん過ぎ去ったあと、むしろ一呼吸置くような熱い物思いと行動、からの、、 ここは書かないでおきますね。 「すげえ根性だな。 おれだったらそこまでして生き延びる気にならねえよ」 正直、もう誰が何で何を誰に何処のドイツで西ドイツなんだかモミクチャ判別不可の袋小路に追い込まれる流れもありました。 危うく脱出しました。 正々堂々の後出しドッチ向いてホイに文句が付けられない要所要所もありました。 褒めています。 「お客さんのためにも、女の子たちのためにもね」 異常まみれの叙述の森にあからさまな手掛かりの木片をシレッと置いといて全く気付かせないやり口にはもうお腹いっぱいのようで別腹がいくらでも列をなして待っているようです。 諸々のネーミングセンスも相変わらず絶妙。 「ロコリン」 には笑かしてもらったとです。 「メメタロウは●●の●●じゃなくて、●●を入れ替えたんだ」 (← 全体に傍点) ← これにはたまげた 特殊設定の底力に突き上げられて、ラスト数十ページ解決篇の濃密最恐なことと言ったら! 大中小トリック/ロジックの噛み合わせも、スイス高級時計のように手に手を取って精緻に輝いています! “双子” の斬新なミステリ調理、来たーーー!!(これは凄かった) 目からウロコが何枚、イクラが何粒、オカラが何百グラム、イルカが何十頭落ちたことか。 ← ほんのちょっとだけ言い過ぎ 多重解決、最終解決、探偵役配置の、複雑だが何故だかスッキリ見渡せる(ような気になる?)工夫と閃きに満ちた、知的暴れ馬のような奇跡の黄金設計構造にはガッツリ肩をつかまれました。 人並由真さんおっしゃる “手数の多さ” に私も感服です。 作者はミステリ界のフランク・ザッパかテリー・ボッジオではないかと思います。 何にせよ、ブラウン神父スピリットがドックドックと脈打つ様子が聞こえて来るわけです。 「気宇壮大なことを考えましたね」 普通だったら充分に叙述トリックの衝撃となるであろうアノ要素さえ、この小説のミステリ暴力の前にはほとんど意識の外。 むしろ、いくつかの(しっかり伏線込みの)叙述欺瞞小(?)ネタのほうが記憶に鮮やかなほど。 グロは次元を一つ突き抜けた。 エロなんざ霧の彼方に置き去りだ。 ナンセンスは追い縋ったかも知れん。 ルッキズムと反ルッキズムとが相対して睨み合った挙句、バチンと裂けて、美しいミントブルーの膿が飛び出し、次の瞬間には虚空に消えてしまいそうだ。 にしても、結局は純愛だの兄弟愛だのがしゃしゃり出て来るわけだ。 それがまた実に泣かせるのだ。 “雲の切れ目から月明かりが差し、ツムギの目尻に涙が浮かんでいるのが見えた。” “喋りながら陰茎を弄る癖は四か月経っても直らなかった。” 参りました。 エピローグにて、またしても、複数回にわたる恒星大爆発が観測されたんですよ。 そして全てを受けて、締めの一文ですよ。 この前のめりの余韻たるや。 ところで、みりんさん > 意外な犯人 って、誰なんでしたっけ? それ以前に、いったい何に対しての。。 おっと、すっかり忘れていたが、プロローグってやつがあったじゃないか! 今すぐ読み返すんだ!! 「もし別の女を抱きたくなったら、仙台まで遊びに来いよ」 ← 泣かせた台詞 |
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| No.1452 | 8点 | モダン殺人倶楽部- アンソロジー(国内編集者) | 2026/04/28 01:30 |
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| 死体昇天 角田喜久雄
「水筒は?」 北アルプスを舞台に、三角関係と遭難死。 “血痕の位置” なるあまりに劇的な物証を引き連れ迫り来る、不可解事象の突風。 雰囲気たっぷり。 管轄老署長の意外な閃きと、自然の力が関与する大型物理トリックが、泣かせ所を見事に突いた。 包み込むようなエンディングが良い。 妙に絵解きマンガチックな(新青年掲載時の)挿絵も良い意味で気が抜けて、良い。 7点 精神分析 水上呂理(ろり) いくつもの恋模様が重なり合った襞の奥から光を放つ、手を変え品を変え連続◯◯妨害事件の真相の深層。 端正にして濃密無比な文体に、あっけらかんとしたエンド。 憎めない一篇だが、 三つの謎事象への推理と解決が鮮やか。 偉大なるアマチュアリズムを感じる。 7点 人間灰(にんげんかい) 海野十三 特殊工場を舞台に、スパンの長い連続失踪事件と、謎の血まみれ男。 脳内映像が映える。 動機の不可解さを単なる◯◯の二文字で片づけてしまったのはいかにも・・・ ちょっと××過ぎる感のあるタイトルといい、物理興味ばかり全面に出てしまうのは、やはり人間ドラマ的な綾は得意でなくて良しとする割り切りか。 7点 睡り人形 木々高太郎 医学を縦糸、異常××を横糸に、奇譚中の奇譚が織りなされる。 主人公の敬愛する “先生” は、妻を病で亡くし、意外にも早く再婚し、医大の要職を辞し、行方を晦ました。 落ちどころが、薄々どころか、かなりくっきりと見えつつも、この、控えめに意外な挿話を交えた結末の熱さには打たれる。 8点 秘密 平林初之輔 妻に挙動に疑いを持つ男は、自らも昔の恋人との再会に赴く。 不実のフの字が絡み合うあたりから展開する物語は、ある地点で唐突にその顔付きを変える。 全くもって予想外の人物の登場、その後の展開の歴史を見据えた機微。 半分ギャフン、半分怒涛、更に半分しみじみ(計算が合わない!)の結末は、なんとも珍重すべき後味。 6点 四次元の断面 甲賀三郎 ちきしょう、沁みるじゃねえか。 罪深い懸賞写真と、証拠不十分で放免になった男。 誤解と幻想が手に手を取って、狂気に迫る。 「だが、おれは悔やみはしないぞ」 最高に良い話と、最悪にクソファックシットな話とが天空の何処かで反射反響し合う。 ゆるやかで意地の悪い、道義的不穏を二つも抱えた反転には、麻◯◯◯スピリットをちょっとだけ感じなくもない。 7点 閉鎖を命ぜられた妖怪館 山本禾太郎 本業で窮地に立たされ、趣味に逃げた弁護士は、趣味に救われ、本業の落とし前を付ける。 デパートから墜落した女が通行人の男を圧死させた事故または事件。 入り組んだようで意外とひねりのない真相が、独特の楽しい語り口で洒脱に明かされた。 6点 陰獣 江戸川乱歩 乱歩さん、これですよ 。。。。 川面に浮かんだ実業家 “小山田” の屍体。 彼の妻 “静子” は、昔の恋人から脅迫を受けていた。 恋人とは、今を時めく猟奇探偵作家 “大江春泥”(本名:平田一郎)。 彼のライヴァルで理知的探偵作家の私 “寒川” は “静子” にせがまれ、出版社の友人 “本田” の力を借り、 彼女の身辺警護に当たる。 その矢先の “小山田” 殺害(?)事件だった。 いやいやいや、そんな単純な筋書きの物語じゃあありませんや。 数十年ぶりに再読しましたが、そこかしこの会話、フレーズ、シーン、ストーリー展開を意外なほどはっきりと記憶しておりました。 それだけ印象深かったのでしょう。 一方、初読時は思いも至らなかった後期××問題めいた要素にガツンとやられました(当時はそんな言葉もなかったと思いますが)。 伏兵のような “記憶の中の物証” がガラガラと、真相を取り巻く壁を崩しに掛かるあたり、最高にスリリングですね。 最後は、数段階に渉ってようやく開示される、結末の底なし沼。 まさか、あの人物が実は ・・・ なんて、初読時には頭をかすりもしなかった妄想さえ膨らみました。 9点 解説・「新青年」こぼれ話 中島河太郎 貴重な歴史証言を、簡潔に活き活きと詳細に渉って披露してくださいました。 どうもありがとうございます。 |
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| No.1451 | 5点 | アリス殺し- 小林泰三 | 2026/04/23 23:41 |
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| “●●も●●も●●も●●●で、誰が誰かもわからなくなりつつあった。 ●●はなおも続いた。”
ぶーーぶっぶぶーーぶっぶ ルイス・キャロル拡張本歌取りは愉しく巧みに大成功だと思うけど、これを長篇ミステリで延々やるのかよ ぶっぶぶっぶぶー とは思ったものでありますよ。 つかみなんて視界は良好加速は順調で、数十ページはシュルシュルと糸のように、また数十ページはシュワシュワと泡のように読めてしまうのに、気が付きゃ何だか同じ調子ばかり絶望的に続き続けて、けだるい退屈と睡魔にはばまれ結局読破に数日も掛かったのはまさかの予想外でしたよ ぶっぶー。 でもまあ、ミステリ史に足跡残した一篇ですよね。 奇想中の奇想をモノにしたんじゃないか、とまで思ったりします。 ある意味、◯辻行人と◯栖川有栖とを正面対決させて(◯やすがわ◯りと?)レフェリーは西澤保◯、のような作品かもね。 それと、これは断じてネタバレにならないわけですが、RCサクセション “スローバラード” の一節を思い出す作品構造だったりするわけでしてね。 やっぱ斬新な作品だよねえ。 本気の惨殺ジャンボリーが二度も繰り返されたのはちょっと凄かったね。 物理的にグロいだけでもなくてね。 苦手な人もいましょうね。 最後の短い一文(!)の、 なんとも爽やかで強引で(?)広がりのある締め、いいですねえ。 「次の●●がいい●●でありますように」 頭のおかしい小林泰三さん! 好みからは外れたけれど、偉業にずっしりと重みを感じましたよ。 |
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| No.1450 | 7点 | 魔術師- ジェフリー・ディーヴァー | 2026/04/18 01:08 |
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| ミステリ作家とイリュージョニスト、小説外に溢れる対決。 こりゃあグラグラさせる。 面白い。
だが、もしや、それもまた誤導なのか? と疑わせてくれるのが良い。 ライムたちは今度こそ最後まで真相に気づかず終わってしまうんじゃないか? と危惧させるほどの文章推進力、ミステリ構築力が素晴らしい。 まさか本当に、作者自身、作中人物である真犯人に一杯喰わされることを望んで書き進めているんじゃ ・・・? もしや、後期なんとか問題を大いに膨らませた挙句、一気にねじ伏せたつもりか ・・・? 「いまの質問全部の答は、 “イリュージョン” です」 マジックの心得があり、マジックのプレゼンテーションに長けていると推定される犯人の手による、連続殺人事件。 ライム&サックスは、偶然知り合った見習いイリュージョニストの若い女性のアドバイスを味方に付け、真相解明の、トラップだらけの旅へと乗り出す。 (彼女の師匠に当たる元有名マジシャンは、そのことを快く思っていないらしいが) 導入部、いつもの仲間たち(以外も含めて)みなさん妙に和気藹々、峰不二子が普通にルパンたちの仲間になっちゃってるような馴れ合いのテンダネスが少し鼻についたが、、 じき本来のタイト且つユーモラスな空気感に戻った。 やはりディーヴァーは明るくも厳しく、厳しくも明るくでなくてはね。 マジシャンとしては致命的と思える或る小さな後天障碍が、果たしてミステリ文脈でどう化けるのか、化けないのか、気になった。 こっそり電話を掛けるトリックは面白かった。 脱獄トリックの分厚過ぎる全貌とか、もう参っちゃいましたね。 残りページ数の××については、複数段階で次々と落とし前を付けてくれました。 ××で嗜虐的一安心とか、もうほんと、罠には事欠きません。 いったい誰が真犯人なのか真黒幕なのか、ストーリーが直接手を伸ばして激しい揺さぶりを掛けて来ます。 ホワイダニットの裏切りに打たれつつ、ハウダニットの暴風旋回から目が離せません。 多重反転ミステリのパロディかと見まがう流れもありましたが、本作の堂々たるミステリ骨格には、安易な多重反転など相手にしない堅固な力強さがあります。 事件捜査から派生して意外な展開を含みながらも、落ち着いてふくよかなクロージング。 そして、最後の一文。。(なんですか、これ?) というわけで、さんざん褒めのコメントばかり並べましたが、実は本作には大きな不満が一つあります。 私は、ディーヴァーの長篇は現状、リンカーン・ライムシリーズのみ第一作から順番に読んで来ているのですが、どの作も最後の大反転が(意外性の強弱は若干あれど)正々堂々真っ向勝負でぶつかって来た感覚があり、それが著者への大きな好感とリスペクトにつながっています。 ですが、本作の反転は、たしかに大きな反転ですが、真っ向からぶつかりはせず、相撲で言う ‘変化’ に逃げたように思えるのです。 たしかに真犯人(の正体)は意外ですが、意外なだけでさほど驚けない、なぜなら物語の真ん中に位置する盲点から襲い掛かる意外性ではなく、中途半端に横にずれた、良くない意味でミステリ安全地帯のような所から飛び出して来た意外性に感じられて、その驚きも簡単に振り払えてしまうからなのです。 などと貶してはみたものの、大いに減点してなお四捨五入で7点上位(7.4以上)に踏みとどまる底力と魅力は充分にあると思います。 ジェフリー・ディーヴァーさん、これからもよろしくお願いいたします。 |
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| No.1449 | 8点 | 涙流れるままに- 島田荘司 | 2026/04/12 00:24 |
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| 「ちきしょう! 憶えてろ! 地獄で会ったらただじゃおかない!」
度を越したお馬鹿さんには同情も出来ません。 って、一体誰のことを言っているのかな、自分は。 一体の首無し屍体、一体の行方不明の首が、その後長きに渉っての混乱、幻想、苦悩、裁判をもたらした。 事件の全貌剥がしに手間を掛ける味わいの妙。 ぼかされた死因の妙味。 小手調べをじっくりと煮詰め、人間ドラマの濁流へとバトンが渡される。 酷い奴、馬鹿な奴、困った奴、哀れなる者、激し過ぎる奴、形容に困るような奴らが次々と登場。 「●●が?」 ××は聞きとがめた。 ●●――。 そんな話は今がはじめてだった。 「●●がない? ちょっと詳しく教えてもらえませんか?」 ごく初期段階で晒される、変則こども視点で語られる、重苦しい陰鬱の塊。 更には畳み掛け。 主役の過去は蹂躙される。 やがて深い哀しみへと変容。 そして恐怖と絶望の波動が、狂気の淵を跨ぎ越させんとする。 世に言うイヤミスのイヤが如何に甘いものかと思い知らされる。 加納通子は、過去に全面対峙させられた事件・境遇・虐待のトラウマに苛まれていた。 その中には、事件性のある首無し屍体の幻影が含まれ、暗い性的ファクターが沁み渡り、死刑判決をもたらした或る裁判が直接関わる。 彼女は幼い女の子を連れている。 その元夫で警視庁捜査一課の刑事・吉敷竹史は、経緯あって冤罪を信じる事となった、或る死刑確定事件の再審を目指している。 “最後の仕事だ、もうやりたいようにやらせてもらう。” 釧路、盛岡、天の橋立、大阪道頓堀、東京某所&某所& ・・ それぞれの舞台がそれぞれの痛みと手掛かり、希望を抱えている。 これはもう、楕円渦巻きの半径が大き過ぎて、引き込まれる事××の涙の如しである。 叙情あふれるタイトルが向き合う対象はいったい何なのか、自然と探りを入れてしまって仕方が無いのである。 時系列操作は、或る目的地への接近を暗示し、また別の目的地から離れることを明示しているようであったが・・ “芝生の庭があって、その真ん中に赤い電話ボックスが立っているのがいい。” 絶妙な、時の流れの、心の中での乱れが効いている。 心打たれる、 ”意外な” 再会シーンもあった。 何かが壁にぶつかるまでの道筋が見えない、もどかしい心理戦が効く。 あたかも連携プレーのように次々と現れる高い壁。 だがそこに、錆びついた扉はきっと在る。 “これが自分の警察官人生最後の事件になるかもしれないなと考えた。 それなりに長かったが、悔いはない。” 幼子と呑み屋の食事で過ごす、目のくらむような幸せ。(だがそれは..) 悲しき親子喧嘩、重篤篇と軽微篇の甘苦い取り合わせ。 “感動と絶望が、脳裏で渦を巻いた。” 俺達の吉敷が青く、弱く、揺れ動く。 それにつられて、あろうことか物語の一部までが弱々しい揺らぎに身を任せようとする流れもあった。 (これが御手洗だったら・・・) 青いままで朽ち果てようとする(?)吉敷。 あな、もどかしき初動吉敷。 敵と味方と、四方八方に強い、時に脆い苛立ちを抱く吉敷。 光に向かって、痛々しい匍匐前進を続ける吉敷竹史。 “吉敷はこれを、自分に対する最後のはなむけにしようと考えた。” 上巻下巻とあり、突如希望の光を放つ上巻エンドの熱いこと!! 「●・・・・・・」 「ええ●ですよ」 ●、●、●―― そんな言葉が××の脳裏で渦を巻く。 「これ●?」 最終局面、首斬り首持ち去りプラスαの斬新なホワイダニットを起爆剤に、真相を暴かんと緊急出口を求めもがく吉敷。 そこからのまくりが爆発だ。 見せ場も泣かせどころも推理もミステリ解決も、思慮あって充実の居並びを見せつけてくれた。 “刑事として、よい最後が飾れた。 これをひそかな勲章にしよう。” 恩田事件の大事なところがミステリとして置き去りにされた感は確かにある。 しかし恩田事件再審請求に向けての実直でスリリングな “物証” 発掘と、そのフォローアップに相当する激しい展開には強烈な読み応えがあった。 「神様はすごいな、一番いい日を選んでくれた」 吉敷さんよ、いつか十条の斎藤酒場で会おう! 「たった二年の間だったけど、いろいろどうもありがとう。 短かったけど、とっても楽しかった」 ↑ 振り返れば、この台詞がいちばん心に沁みました |
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| No.1448 | 8点 | 四季 春- 森博嗣 | 2026/03/28 10:56 |
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| 「貴方が殺したことは、内緒にしましょうね」
素晴らしい。 叙述の力強い揺らぎとサトルティ。 抑制ある時系列スクランブル。 文章自体がミステリ溶液にぐっしょりと浸されている。 意外な登場人物の妙があり、登場人物混乱の味がある。 AI深化の原理を覗かせるような、予言書の一面がある。 良い言葉のクリアウォーター・ファウンテン。 思い返すたび、深まる叙事詩。 「君は、既に君を支配している」 「いいえ」 殺人事件の謎周りとなると急に話が俗っぽくなったり 大事なところで駄洒落さんが闖入したりもあるが それくらいの小さな疵があって、むしろ良し。 主役の真賀田四季も同様。 その ‘疵’ は 「夏」 以降の謎解きに直接繋がるようである。 「でも、私にはブレーキの必要はない。 周辺との摩擦、そして時間、肉体的な限界、これらがもう充分な抵抗なんだから」 森博嗣の良い所が凝縮された一篇と言えましょう。 |
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| No.1447 | 4点 | ペルシャ猫の謎- 有栖川有栖 | 2026/03/24 23:45 |
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| 表題作には期待も高まった。
tider-tigerさんがプロフィールで仰っている > 「双子」 を斬新な手法で料理している作品 (←ちょっと省略あり) だといいなあ、とそれなりに弥生式ドキがムネムネもしました。 でもなあ、終わってみれば他の作品たちにスネ毛が生えた程度の凡庸作だったなあ。 もっと上手く、巧みに、セクシーにミステリをプレゼン出来ていれば、同じメイントリック題材を扱うにしても、ずいぶん違っていたと思う。 せっかく物議を醸すほどインパクトある◯◯(?)トリックなだけに、モッタイナイ。 アカラサマな非ミステリオーラを放つ二作の(片方はそうでもないか・・)日常スケッチには非ミステリ的にフムフムもしたけれど ミステリ枠の作品たちはドレモコレモ押しも捻りも中途半端に弱くって、かと言ってその弱さにこそ深みが在るようでもなく とにかく結末に驚きが無く、話が躍動するでもなく なーんだっかなっ って石ころ蹴っちゃう感じです。 まこんなファンブッキッシュなアリスアリスもアリでしょう。 |
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| No.1446 | 6点 | 三月は深き紅の淵を- 恩田陸 | 2026/03/20 12:39 |
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| “「三月は深き紅の淵を」 もいよいよ最終章。”
『三月は深き紅の淵を』 なる表題の、四部構成による小説の稀覯本を巡る、四章構成の物語。 いえ、少し違います。 『三月は深き紅の淵を』 なる表題の、四部構成による(とは限らない?)小説の稀覯本(とは限らない!)を巡る、四章構成(これは間違いない)のブッキッシュなストーリー。 鼻につくようで絶妙に鼻につかない(個人の感覚です)、魅力的なフレーズや考察、想像シーンがそこかしこに溢れています。 四章の長篇という体でいながら、実際は四つの連作中篇といった内容。 が、それだけでもありません。 全ての章に、小説 「三月は深き紅の淵を」 が、それぞれの在り様で登場します。 以下、ストーリーネタバレを少しでも嫌う方は、第二章以降のコメントは読まない方が良いでしょう。 第一章 待っている人々 大邸宅の中、「三月は深き紅の淵を」 の隠し場所を捜す話。 若いサラリーマンと会社の会長、その友人たち。 明るいユーモアミステリ。 第二章 出雲夜想曲 匿名作 「三月は深き紅の淵を」 の作者を明らかにし、出版の秘密を探るため、寝台列車で旅に出る物語。 編集女子二人。 酒盛り旅情篇と、人情・人間派ミステリ。 第三章 虹と雲と鳥と 「三月は深き紅の淵を」 の誕生前史(?)。 高校生を中心に繰り広げられる、陰鬱な恋愛と因縁のイヤミス。 第四章 回転木馬 「三月は深き紅の淵を」 執筆を前にしての、心の準備と心の乱れ(?)。 登場人物は不定(?)だが、謎まみれの寄宿舎(?)で暮らす若い男女が中心(??)。 幻想と現実が流れて入り乱れる構造(?)。 ラストスパートで過激少女漫画風になるのはいかがなものかと、最初は思いましたが、まあ面白いからいいんじゃないですか。 ミステリとしての着地もあったし(但し、第四章としてだけの(?))。 “これはなんだ? 『三月は深き紅の淵を』?” やはり、物語全体の着地点がどうにも見当たらないのは、これだけミステリ匂わせが強い小説としては(実は、個人的には何気に心地よくだが)モヤモヤする。 |
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| No.1445 | 5点 | ダブル・ショック- ハドリー・チェイス | 2026/03/15 20:45 |
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| 安いスリルが最高さ ・・・ な~んて上手いこと騙してくれたぜ。
ポリス泣かせのケチな男が生ぬるい完全犯罪を企て、気が付きゃアンビヴァレントな綱渡りに胸焦がす。 1950年代末の米国カリフォルニア。 金持ちの家に最新TVセットを売りに来た男は、車椅子暮らしの初老男性と、その魅力的な若妻とに出遭う。 疑惑が残る事故で不具となり、ウィスキー中毒の夫は、陰険に妻を虐待している。 見かねた営業マン兼エンジニアの男は、そのスキルを活かして初老の夫を殺害しようと決意する。 熱心なボクシングファンの夫は男の口車に食いついて来た。 近所のLPレコードマニアをダシに、アリバイもバッチリだ。 肉欲より恋愛。 お色気ではない恋愛シーン。 この緩さが吉と出たか凶と出たか。 おっと、このワイフも相当やばい奴らしい ・・ 絶妙なタイミングで受け取った、或る “郵便物” の機微。 明白な “違和感” を無視したい勢と、きっちり掘り返したい勢。 思慮の浅い “偽証言” が無責任に創り出す、不可解と混乱。 グラグラのフォローアップも最低の愚かさをまき散らす! そこへ、皮肉な “状況証拠” の突風が体当たりを喰らわす!! 警察と保険会社とが睨み合い、その隙間に真犯人が潜り込む、期待と魅力に溢れた、クライマックス・シーン、のような ・・ 本当の山場はその後に来た。 いちおうの反転はあった。 ヒロインや敵役?はともかく主役の魅力が極薄なのは痛い。 これがミステリの軟さとズルズルの角度で傷つけ合い、さほど芳しくない結果となった。 とは言え、つまらないわけではない。 軽い気持ちでの読み捨てに良い。 |
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