皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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斎藤警部さん |
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| 平均点: 6.69点 | 書評数: 1457件 |
| No.1457 | 7点 | 権力の墓穴- リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク | 2026/05/08 06:12 |
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| “おれはツイているんだ。 ためらうことはない。”
L.A.はサンセット・ブールヴァードにて “怪盗ベル・エアの星” が暗躍。 殺人も傷害も犯さない “星” が、今回ばかりは強盗殺人事件を起こしたと推定された。 窃盗課と殺人課がタッグを組んで捜査に当たる。 ところがこの事件(いちおう断っとくけどネタバレじゃありませんよ)、本当はコロンボの上司(と言っても相当に上の人)が、その近隣に住む彼の友人に巻き込まれる形で起こしたもので、その経緯と展開には、結構なミステリ上の/文芸上のひねりがいくつもある。 第二の殺人も起こった。 tider-tigerさん仰る “交換殺人の亜種” は言い得て妙ですね。 「コロンボ警部、入念に調べてくれ。 何か手がかりが残っているかもしれないから」 (← これはその上司の台詞) 言うだけ野暮だが、起承転結の転がいい。 いたってシンプルな聞き込みシーンが、どうしてこんなにスリリングなんだろう。 転中の転、更に良し! “憎悪をバネにして日常的な会話を打ち壊し、錯乱と狂気の一瞬を手に入れろ!” (← 凄い地の文!) 押してはすぐ引かず、不意に引くと斜め下から突き上げる、すかさず真正面から一撃また一撃、最後は真上から .. コロンボの揺さぶり、人たらしならぬ犯人たらし(?)っぷりにはいつもながら感服です。 殊に、今回の事件のように自分の属する組織内の上役を追いつめるなんて高難易度のヤマとなると、そのスキル発揮も半端でなく黒光りの艶を見せてくれるわけです。 「たしかに令状ですな」 「ああ、コロンボ君」 小道具使いでは “黒い手帳“ が良い仕事をしました。 ポーカーの隠喩も効いた。 最後の劇的なクラッシュには、映像でも文章でも、忘れ難いスリルと一種の怖さとが沁みています。 そして、退職間近の老刑事とコロンボと二人の、ささやかなラストシーン。 浸っちゃうねえ。 |
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| No.1456 | 6点 | 度胸- ディック・フランシス | 2026/05/06 21:15 |
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| 「なぜ知りたいのだ?」
「うまいやり方だと思ったから」 冒険ミステリとしては、破綻なくまとまった手堅い作り。 好漢小説としては、何かを突き崩しており、心の炎収まり難し。 土と草と馬の匂いや良し。 衆人環視パドックのど真ん中、主人公の目の前で有名騎手の拳銃自殺という(かの 『樽』 にも通じる)衝撃的オープニング。 その割にどこかしら緩く、ほんわり感さえ漂う前半。 但しそこには主人公や仲間の騎手たちが様々な要因 .. 不正疑惑 .. 遅刻常習 .. レース不調 .. 大怪我 .. 等で、現役騎手の第一線から退かされる事態が連発している。 この事象に不審を抱き、思い切った行動に出る主人公の、不屈の戦いの物語である。 (← 微かな叙述欺瞞入った?) 「○○しながら○○できるのは、なにもきみ一人だけではない」 ストーリーの真ん中に差し掛かり、不意の短いミスディレクションから襲いかかる急カーブのあたりから、物語の発熱が始まる。 じっくりと罠の包囲網を仕掛け、ささやかなホワットダニット興味を引き連れて、本気のじっとり復讐中継をたっぷり堪能させてくれるまでの流れは、なかなかのいやらしさと男気とが入り混じったエンタテインメントの光のアヴェニューである。 熱いぜ。 <駄馬ならフィンに乗らせればいい、恐れをぜんぜん知らない男だ> 黒幕特定がイージーに行き過ぎるようであったり、諸々意外性ってやつに背を向けていたり、E-BANKERさんおっしゃる通り、予定調和の圧が強過ぎる感はあります。 一方、そこに楔を打ち込むように、動機心理の際どい共有やら、そこからの離脱宣言?やら、何より、結局お互い大義名分を振りかざしての嗜虐実行発動ぶつかり合いなんじゃないかと訝しませてくれたり(と実は他にも一つ)、単純に割り切れない、重く引き摺る要素が睨みを効かせていると思います。 ちょっとだけほろ苦いようで本当は甘い家族関係と、なんだか甘すぎのようで特殊な葛藤もある恋愛関係(更にはこの二つが ‘○と○’ という点で繋がっているのも)ストーリーに良い意味での安全網を与え、また殊に後者は事件解決と冒険突破に大きな貢献をも果たしました。 いい感じです。 本当にちょっとした ‘こども’ 登場シーンや、最後におとなしく大活躍する可愛い ‘おうまさん’ もグッド。 四捨五入6点でも上の方(6.35超)ですね。 ラストシーン、そして最後の二行、特に最後の一行の響くこと響くこと。 これはちょっと、深いよね。 |
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| No.1455 | 8点 | アミュレット・ホテル- 方丈貴恵 | 2026/05/02 19:43 |
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| Episode 1:アミュレット・ホテル
Episode 0:クライム・オブ・ザ・イヤーの殺人 Episode 2:一見さんお断り Episode 3:タイタンの殺人 犯罪プロフェッショナルが活用する 『アミュレット・ホテル別館』 のオーナーは諸岡。 隣接の本館は一般向け。 警察を寄せ付けない本ホテル内での殺人・傷害事件はご法度だが、それでも起きてしまった事件の真相解明を担うのが 「ホテル探偵」 の桐生。 犯人が特定されたら、 ”同じ殺害手段” で速やかに処分され、事件は闇に葬られるのが鉄則となっている。 「いや、全然違うよ」 諸岡があまりにあっさり否定したので、私はぽかんとした。 「違うんですか」 ストーリーの感触はあたたかく、締まりが良い。 (まるで・・ おっと、下ネタは厳禁だ) と思えば氷水を浴びせられたりもする。 ××探知機を出し抜くための、大小巧みに噛み合わせたスーパートリック。 思わず顔を顰めてしまう、××隠蔽トリック。 五年もの時を越えた××並びに××トリック。 死体××にまつわる、目の醒めるロジック。 密室を作った理由には(ミステリとして)感心 &(現実として)大笑い。 叙述のタクラミに唸らさせるオ話もありました。 ダミー解決が、読者に向けただけでなく、小説内現実世界の中で、事件関係者間で切実な重みを持って取り交わされる構造。(← これは効いた!) その後の手堅いサポートを担った、文字通り “時を越えた” 或る物証。 地味ながら心理と論理の襞に深く入り込む、或ることを “否定せず” のホワイダニット。 いちいち唸ります。 ブラウン神父の影や足跡がホテル内そこかしこに見つかりました。 「私のホテルを利用しておいて何のつもりだ、ふざけるな!」 本当は大きな大きな容積を持て余すミステリの盲点、ならぬ盲立体(時に盲四次元立体)を巧妙に爽やかに掬い出して白日のもとに並べ立てるその卓越した手腕は、ミステリの近未来を易々と探り当て、またミステリ遠未来のぼんやりした肖像画を虹の後方に浮かび上がらせる現実的期待感をシラッと引き連れています。 藤井風流儀です。 「なるほど …… 今後はそういった可能性も考慮に入れるようにします」 連作短篇集全体の中で、いったいどの方向に(どの)駒が進んでいるのかな、と所々惑わされる流れが良い。 読後の、全部で4エピソードしかないとはとても思えないような、ストーリーたくさんたっぷり浴びました感が素晴らしい。 直球複雑系。 だが変化球も良し。 みりんさん仰る "二重リングのもたらす効果" には私も心が動きます。 早いうちから8点以上確定オーラに包まれる本でした。 蝶ネクタイ、直しちゃいますよね。 “次にこの扉が開かれるのは …… 何年後のことだろう?” |
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| No.1454 | 7点 | 日本の黒い霧- 松本清張 | 2026/04/30 23:54 |
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| 清張の小説は、心が先走っている。 定められた結末を見据え、筆致こそハードボイルド的に冷静を保っているが、どうしても冷静の壁を乗り越えて先に進んでしまう一種の ‘オーラ’ が、言外の言として機能してしまう。 これが、清張特有の強烈な ‘嫌な予感畳み掛けサスペンス’ のメカニズムではないかと思う。
一方、よく誤解される様ではあるが、本作の様なノンフィクション或いはセミノンフィクションの場合、清張は最初から結論を決め付けず、手にした情報を解析した結果として結論を導こうとするので、小説の場合の様に心が先走らず、前述の ’オーラ’ が発生しない。 飽くまで個人の見解だが、私が清張のノンフィクション系作品に小説ほど乗り切れない理由はそこにあると思っている。 “しかし、今でも私は、当時の疑問に対する情熱を捨ててはいない。” それでも内容の熱さは充分に感じるし、冒頭と掉尾を飾る 「下山事件」 「朝鮮戦争」 には相当なスリルが宿っている。 これらに挟まれた他の作には中田ルミさんもときどき姿を現すが、全体を通して見れば誠に立派で危険な大仕事を成し遂げやがったものだと総括すべきであろう。 まして、その歴史的意義や時代の中での立ち位置に思いを馳せればなおさらその価値は輝いて見えよう。 (実際に真相を暴いたかどうかより、真相を暴こうと尽力努力して、その結果を世に問うたことが一大事なのだと思う) 本作が結果的に山田風太郎の某連作短篇を髣髴とさせなくもない作りになってしまっている現象は、やはり本作に対する根強い “こじつけ” “思い込み” 批判の源泉近くに位置しているのではないかと考える。 清張の主張によれば、結果的にそうなっただけで、最初からそのような構造を狙っていたのではない、ということの様だが、本当のところ、どうなのかは分からない。 下山国鉄総裁謀殺論/「もく星」号遭難事件/二大疑獄事件/白鳥事件/ラストヴォロフ事件/革命を売る男・伊藤律/征服者とダイヤモンド/帝銀事件の謎/鹿地亘事件/推理・松川事件/追放とレッド・パージ/謀略朝鮮戦争/なぜ『日本の黒い霧』を書いたか “私はアテ推量ながら以上のことを書いたが、これとてもどこまで事実に迫っているか、自信がない。 これが本当の謀略というものの姿であろう。” (← むやみに使いたくない言葉だけど、深いねえ..) |
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| No.1453 | 9点 | おやすみ人面瘡- 白井智之 | 2026/04/29 18:28 |
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| “人間” だとよ 笑
十七年前、事件があった。 それを踏まえて… 仙台市と、近郊の腐った街とを中心に、実写映像化は控えるべき “特殊異形風俗店” を巡る企みと、腐った環境なりにポップな中学生たち(と腐った教師たち)の生活とが、微妙につながったカットバックで描かれる。 その背景には、タイトルからぼんやりと想像は付くが、その想像を大きく超えるであろうオッヅォマシイ医学的特殊設定がある。 まっことゲロ吐き注意である。 「商売のコツっていうのは、みんなが欲しいものを、楽に仕入れて売るってことなんだ」 心のメモを取る暇も許されない謎/暴力/疫病の重戦車進行。 箍と書いてタガが外れた暴走リーダビリティ。 ギラギラ多重解決の嵐がいったん過ぎ去ったあと、むしろ一呼吸置くような熱い物思いと行動、からの、、 ここは書かないでおきますね。 「すげえ根性だな。 おれだったらそこまでして生き延びる気にならねえよ」 正直、もう誰が何で何を誰に何処のドイツで西ドイツなんだかモミクチャ判別不可の袋小路に追い込まれる流れもありました。 危うく脱出しました。 正々堂々の後出しドッチ向いてホイに文句が付けられない要所要所もありました。 褒めています。 「お客さんのためにも、女の子たちのためにもね」 異常まみれの叙述の森にあからさまな手掛かりの木片をシレッと置いといて全く気付かせないやり口にはもうお腹いっぱいのようで別腹がいくらでも列をなして待っているようです。 諸々のネーミングセンスも相変わらず絶妙。 「ロコリン」 には笑かしてもらったとです。 「メメタロウは●●の●●じゃなくて、●●を入れ替えたんだ」 (← 全体に傍点) ← これにはたまげた 特殊設定の底力に突き上げられて、ラスト数十ページ解決篇の濃密最恐なことと言ったら! 大中小トリック/ロジックの噛み合わせも、スイス高級時計のように手に手を取って精緻に輝いています! “双子” の斬新なミステリ調理、来たーーー!!(これは凄かった) 目からウロコが何枚、イクラが何粒、オカラが何百グラム、イルカが何十頭落ちたことか。 ← ほんのちょっとだけ言い過ぎ 多重解決、最終解決、探偵役配置の、複雑だが何故だかスッキリ見渡せる(ような気になる?)工夫と閃きに満ちた、知的暴れ馬のような奇跡の黄金設計構造にはガッツリ肩をつかまれました。 人並由真さんおっしゃる “手数の多さ” に私も感服です。 作者はミステリ界のフランク・ザッパかテリー・ボッジオではないかと思います。 何にせよ、ブラウン神父スピリットがドックドックと脈打つ様子が聞こえて来るわけです。 「気宇壮大なことを考えましたね」 普通だったら充分に叙述トリックの衝撃となるであろうアノ要素さえ、この小説のミステリ暴力の前にはほとんど意識の外。 むしろ、いくつかの(しっかり伏線込みの)叙述欺瞞小(?)ネタのほうが記憶に鮮やかなほど。 グロは次元を一つ突き抜けた。 エロなんざ霧の彼方に置き去りだ。 ナンセンスは追い縋ったかも知れん。 ルッキズムと反ルッキズムとが相対して睨み合った挙句、バチンと裂けて、美しいミントブルーの膿が飛び出し、次の瞬間には虚空に消えてしまいそうだ。 にしても、結局は純愛だの兄弟愛だのがしゃしゃり出て来るわけだ。 それがまた実に泣かせるのだ。 “雲の切れ目から月明かりが差し、ツムギの目尻に涙が浮かんでいるのが見えた。” “喋りながら陰茎を弄る癖は四か月経っても直らなかった。” 参りました。 エピローグにて、またしても、複数回にわたる恒星大爆発が観測されたんですよ。 そして全てを受けて、締めの一文ですよ。 この前のめりの余韻たるや。 ところで、みりんさん > 意外な犯人 って、誰なんでしたっけ? それ以前に、いったい何に対しての。。 おっと、すっかり忘れていたが、プロローグってやつがあったじゃないか! 今すぐ読み返すんだ!! 「もし別の女を抱きたくなったら、仙台まで遊びに来いよ」 ← 泣かせた台詞 |
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| No.1452 | 8点 | モダン殺人倶楽部- アンソロジー(国内編集者) | 2026/04/28 01:30 |
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| 死体昇天 角田喜久雄
「水筒は?」 北アルプスを舞台に、三角関係と遭難死。 “血痕の位置” なるあまりに劇的な物証を引き連れ迫り来る、不可解事象の突風。 雰囲気たっぷり。 管轄老署長の意外な閃きと、自然の力が関与する大型物理トリックが、泣かせ所を見事に突いた。 包み込むようなエンディングが良い。 妙に絵解きマンガチックな(新青年掲載時の)挿絵も良い意味で気が抜けて、良い。 7点 精神分析 水上呂理(ろり) いくつもの恋模様が重なり合った襞の奥から光を放つ、手を変え品を変え連続◯◯妨害事件の真相の深層。 端正にして濃密無比な文体に、あっけらかんとしたエンド。 憎めない一篇だが、 三つの謎事象への推理と解決が鮮やか。 偉大なるアマチュアリズムを感じる。 7点 人間灰(にんげんかい) 海野十三 特殊工場を舞台に、スパンの長い連続失踪事件と、謎の血まみれ男。 脳内映像が映える。 動機の不可解さを単なる◯◯の二文字で片づけてしまったのはいかにも・・・ ちょっと××過ぎる感のあるタイトルといい、物理興味ばかり全面に出てしまうのは、やはり人間ドラマ的な綾は得意でなくて良しとする割り切りか。 7点 睡り人形 木々高太郎 医学を縦糸、異常××を横糸に、奇譚中の奇譚が織りなされる。 主人公の敬愛する “先生” は、妻を病で亡くし、意外にも早く再婚し、医大の要職を辞し、行方を晦ました。 落ちどころが、薄々どころか、かなりくっきりと見えつつも、この、控えめに意外な挿話を交えた結末の熱さには打たれる。 8点 秘密 平林初之輔 妻に挙動に疑いを持つ男は、自らも昔の恋人との再会に赴く。 不実のフの字が絡み合うあたりから展開する物語は、ある地点で唐突にその顔付きを変える。 全くもって予想外の人物の登場、その後の展開の歴史を見据えた機微。 半分ギャフン、半分怒涛、更に半分しみじみ(計算が合わない!)の結末は、なんとも珍重すべき後味。 6点 四次元の断面 甲賀三郎 ちきしょう、沁みるじゃねえか。 罪深い懸賞写真と、証拠不十分で放免になった男。 誤解と幻想が手に手を取って、狂気に迫る。 「だが、おれは悔やみはしないぞ」 最高に良い話と、最悪にクソファックシットな話とが天空の何処かで反射反響し合う。 ゆるやかで意地の悪い、道義的不穏を二つも抱えた反転には、麻◯◯◯スピリットをちょっとだけ感じなくもない。 7点 閉鎖を命ぜられた妖怪館 山本禾太郎 本業で窮地に立たされ、趣味に逃げた弁護士は、趣味に救われ、本業の落とし前を付ける。 デパートから墜落した女が通行人の男を圧死させた事故または事件。 入り組んだようで意外とひねりのない真相が、独特の楽しい語り口で洒脱に明かされた。 6点 陰獣 江戸川乱歩 乱歩さん、これですよ 。。。。 川面に浮かんだ実業家 “小山田” の屍体。 彼の妻 “静子” は、昔の恋人から脅迫を受けていた。 恋人とは、今を時めく猟奇探偵作家 “大江春泥”(本名:平田一郎)。 彼のライヴァルで理知的探偵作家の私 “寒川” は “静子” にせがまれ、出版社の友人 “本田” の力を借り、 彼女の身辺警護に当たる。 その矢先の “小山田” 殺害(?)事件だった。 いやいやいや、そんな単純な筋書きの物語じゃあありませんや。 数十年ぶりに再読しましたが、そこかしこの会話、フレーズ、シーン、ストーリー展開を意外なほどはっきりと記憶しておりました。 それだけ印象深かったのでしょう。 一方、初読時は思いも至らなかった後期××問題めいた要素にガツンとやられました(当時はそんな言葉もなかったと思いますが)。 伏兵のような “記憶の中の物証” がガラガラと、真相を取り巻く壁を崩しに掛かるあたり、最高にスリリングですね。 最後は、数段階に渉ってようやく開示される、結末の底なし沼。 まさか、あの人物が実は ・・・ なんて、初読時には頭をかすりもしなかった妄想さえ膨らみました。 9点 解説・「新青年」こぼれ話 中島河太郎 貴重な歴史証言を、簡潔に活き活きと詳細に渉って披露してくださいました。 どうもありがとうございます。 |
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| No.1451 | 5点 | アリス殺し- 小林泰三 | 2026/04/23 23:41 |
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| “●●も●●も●●も●●●で、誰が誰かもわからなくなりつつあった。 ●●はなおも続いた。”
ぶーーぶっぶぶーーぶっぶ ルイス・キャロル拡張本歌取りは愉しく巧みに大成功だと思うけど、これを長篇ミステリで延々やるのかよ ぶっぶぶっぶぶー とは思ったものでありますよ。 つかみなんて視界は良好加速は順調で、数十ページはシュルシュルと糸のように、また数十ページはシュワシュワと泡のように読めてしまうのに、気が付きゃ何だか同じ調子ばかり絶望的に続き続けて、けだるい退屈と睡魔にはばまれ結局読破に数日も掛かったのはまさかの予想外でしたよ ぶっぶー。 でもまあ、ミステリ史に足跡残した一篇ですよね。 奇想中の奇想をモノにしたんじゃないか、とまで思ったりします。 ある意味、◯辻行人と◯栖川有栖とを正面対決させて(◯やすがわ◯りと?)レフェリーは西澤保◯、のような作品かもね。 それと、これは断じてネタバレにならないわけですが、RCサクセション “スローバラード” の一節を思い出す作品構造だったりするわけでしてね。 やっぱ斬新な作品だよねえ。 本気の惨殺ジャンボリーが二度も繰り返されたのはちょっと凄かったね。 物理的にグロいだけでもなくてね。 苦手な人もいましょうね。 最後の短い一文(!)の、 なんとも爽やかで強引で(?)広がりのある締め、いいですねえ。 「次の●●がいい●●でありますように」 頭のおかしい小林泰三さん! 好みからは外れたけれど、偉業にずっしりと重みを感じましたよ。 |
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| No.1450 | 7点 | 魔術師- ジェフリー・ディーヴァー | 2026/04/18 01:08 |
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| ミステリ作家とイリュージョニスト、小説外に溢れる対決。 こりゃあグラグラさせる。 面白い。
だが、もしや、それもまた誤導なのか? と疑わせてくれるのが良い。 ライムたちは今度こそ最後まで真相に気づかず終わってしまうんじゃないか? と危惧させるほどの文章推進力、ミステリ構築力が素晴らしい。 まさか本当に、作者自身、作中人物である真犯人に一杯喰わされることを望んで書き進めているんじゃ ・・・? もしや、後期なんとか問題を大いに膨らませた挙句、一気にねじ伏せたつもりか ・・・? 「いまの質問全部の答は、 “イリュージョン” です」 マジックの心得があり、マジックのプレゼンテーションに長けていると推定される犯人の手による、連続殺人事件。 ライム&サックスは、偶然知り合った見習いイリュージョニストの若い女性のアドバイスを味方に付け、真相解明の、トラップだらけの旅へと乗り出す。 (彼女の師匠に当たる元有名マジシャンは、そのことを快く思っていないらしいが) 導入部、いつもの仲間たち(以外も含めて)みなさん妙に和気藹々、峰不二子が普通にルパンたちの仲間になっちゃってるような馴れ合いのテンダネスが少し鼻についたが、、 じき本来のタイト且つユーモラスな空気感に戻った。 やはりディーヴァーは明るくも厳しく、厳しくも明るくでなくてはね。 マジシャンとしては致命的と思える或る小さな後天障碍が、果たしてミステリ文脈でどう化けるのか、化けないのか、気になった。 こっそり電話を掛けるトリックは面白かった。 脱獄トリックの分厚過ぎる全貌とか、もう参っちゃいましたね。 残りページ数の××については、複数段階で次々と落とし前を付けてくれました。 ××で嗜虐的一安心とか、もうほんと、罠には事欠きません。 いったい誰が真犯人なのか真黒幕なのか、ストーリーが直接手を伸ばして激しい揺さぶりを掛けて来ます。 ホワイダニットの裏切りに打たれつつ、ハウダニットの暴風旋回から目が離せません。 多重反転ミステリのパロディかと見まがう流れもありましたが、本作の堂々たるミステリ骨格には、安易な多重反転など相手にしない堅固な力強さがあります。 事件捜査から派生して意外な展開を含みながらも、落ち着いてふくよかなクロージング。 そして、最後の一文。。(なんですか、これ?) というわけで、さんざん褒めのコメントばかり並べましたが、実は本作には大きな不満が一つあります。 私は、ディーヴァーの長篇は現状、リンカーン・ライムシリーズのみ第一作から順番に読んで来ているのですが、どの作も最後の大反転が(意外性の強弱は若干あれど)正々堂々真っ向勝負でぶつかって来た感覚があり、それが著者への大きな好感とリスペクトにつながっています。 ですが、本作の反転は、たしかに大きな反転ですが、真っ向からぶつかりはせず、相撲で言う ‘変化’ に逃げたように思えるのです。 たしかに真犯人(の正体)は意外ですが、意外なだけでさほど驚けない、なぜなら物語の真ん中に位置する盲点から襲い掛かる意外性ではなく、中途半端に横にずれた、良くない意味でミステリ安全地帯のような所から飛び出して来た意外性に感じられて、その驚きも簡単に振り払えてしまうからなのです。 などと貶してはみたものの、大いに減点してなお四捨五入で7点上位(7.4以上)に踏みとどまる底力と魅力は充分にあると思います。 ジェフリー・ディーヴァーさん、これからもよろしくお願いいたします。 |
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| No.1449 | 8点 | 涙流れるままに- 島田荘司 | 2026/04/12 00:24 |
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| 「ちきしょう! 憶えてろ! 地獄で会ったらただじゃおかない!」
度を越したお馬鹿さんには同情も出来ません。 って、一体誰のことを言っているのかな、自分は。 一体の首無し屍体、一体の行方不明の首が、その後長きに渉っての混乱、幻想、苦悩、裁判をもたらした。 事件の全貌剥がしに手間を掛ける味わいの妙。 ぼかされた死因の妙味。 小手調べをじっくりと煮詰め、人間ドラマの濁流へとバトンが渡される。 酷い奴、馬鹿な奴、困った奴、哀れなる者、激し過ぎる奴、形容に困るような奴らが次々と登場。 「●●が?」 ××は聞きとがめた。 ●●――。 そんな話は今がはじめてだった。 「●●がない? ちょっと詳しく教えてもらえませんか?」 ごく初期段階で晒される、変則こども視点で語られる、重苦しい陰鬱の塊。 更には畳み掛け。 主役の過去は蹂躙される。 やがて深い哀しみへと変容。 そして恐怖と絶望の波動が、狂気の淵を跨ぎ越させんとする。 世に言うイヤミスのイヤが如何に甘いものかと思い知らされる。 加納通子は、過去に全面対峙させられた事件・境遇・虐待のトラウマに苛まれていた。 その中には、事件性のある首無し屍体の幻影が含まれ、暗い性的ファクターが沁み渡り、死刑判決をもたらした或る裁判が直接関わる。 彼女は幼い女の子を連れている。 その元夫で警視庁捜査一課の刑事・吉敷竹史は、経緯あって冤罪を信じる事となった、或る死刑確定事件の再審を目指している。 “最後の仕事だ、もうやりたいようにやらせてもらう。” 釧路、盛岡、天の橋立、大阪道頓堀、東京某所&某所& ・・ それぞれの舞台がそれぞれの痛みと手掛かり、希望を抱えている。 これはもう、楕円渦巻きの半径が大き過ぎて、引き込まれる事××の涙の如しである。 叙情あふれるタイトルが向き合う対象はいったい何なのか、自然と探りを入れてしまって仕方が無いのである。 時系列操作は、或る目的地への接近を暗示し、また別の目的地から離れることを明示しているようであったが・・ “芝生の庭があって、その真ん中に赤い電話ボックスが立っているのがいい。” 絶妙な、時の流れの、心の中での乱れが効いている。 心打たれる、 ”意外な” 再会シーンもあった。 何かが壁にぶつかるまでの道筋が見えない、もどかしい心理戦が効く。 あたかも連携プレーのように次々と現れる高い壁。 だがそこに、錆びついた扉はきっと在る。 “これが自分の警察官人生最後の事件になるかもしれないなと考えた。 それなりに長かったが、悔いはない。” 幼子と呑み屋の食事で過ごす、目のくらむような幸せ。(だがそれは..) 悲しき親子喧嘩、重篤篇と軽微篇の甘苦い取り合わせ。 “感動と絶望が、脳裏で渦を巻いた。” 俺達の吉敷が青く、弱く、揺れ動く。 それにつられて、あろうことか物語の一部までが弱々しい揺らぎに身を任せようとする流れもあった。 (これが御手洗だったら・・・) 青いままで朽ち果てようとする(?)吉敷。 あな、もどかしき初動吉敷。 敵と味方と、四方八方に強い、時に脆い苛立ちを抱く吉敷。 光に向かって、痛々しい匍匐前進を続ける吉敷竹史。 “吉敷はこれを、自分に対する最後のはなむけにしようと考えた。” 上巻下巻とあり、突如希望の光を放つ上巻エンドの熱いこと!! 「●・・・・・・」 「ええ●ですよ」 ●、●、●―― そんな言葉が××の脳裏で渦を巻く。 「これ●?」 最終局面、首斬り首持ち去りプラスαの斬新なホワイダニットを起爆剤に、真相を暴かんと緊急出口を求めもがく吉敷。 そこからのまくりが爆発だ。 見せ場も泣かせどころも推理もミステリ解決も、思慮あって充実の居並びを見せつけてくれた。 “刑事として、よい最後が飾れた。 これをひそかな勲章にしよう。” 恩田事件の大事なところがミステリとして置き去りにされた感は確かにある。 しかし恩田事件再審請求に向けての実直でスリリングな “物証” 発掘と、そのフォローアップに相当する激しい展開には強烈な読み応えがあった。 「神様はすごいな、一番いい日を選んでくれた」 吉敷さんよ、いつか十条の斎藤酒場で会おう! 「たった二年の間だったけど、いろいろどうもありがとう。 短かったけど、とっても楽しかった」 ↑ 振り返れば、この台詞がいちばん心に沁みました |
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| No.1448 | 8点 | 四季 春- 森博嗣 | 2026/03/28 10:56 |
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| 「貴方が殺したことは、内緒にしましょうね」
素晴らしい。 叙述の力強い揺らぎとサトルティ。 抑制ある時系列スクランブル。 文章自体がミステリ溶液にぐっしょりと浸されている。 意外な登場人物の妙があり、登場人物混乱の味がある。 AI深化の原理を覗かせるような、予言書の一面がある。 良い言葉のクリアウォーター・ファウンテン。 思い返すたび、深まる叙事詩。 「君は、既に君を支配している」 「いいえ」 殺人事件の謎周りとなると急に話が俗っぽくなったり 大事なところで駄洒落さんが闖入したりもあるが それくらいの小さな疵があって、むしろ良し。 主役の真賀田四季も同様。 その ‘疵’ は 「夏」 以降の謎解きに直接繋がるようである。 「でも、私にはブレーキの必要はない。 周辺との摩擦、そして時間、肉体的な限界、これらがもう充分な抵抗なんだから」 森博嗣の良い所が凝縮された一篇と言えましょう。 |
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| No.1447 | 4点 | ペルシャ猫の謎- 有栖川有栖 | 2026/03/24 23:45 |
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| 表題作には期待も高まった。
tider-tigerさんがプロフィールで仰っている > 「双子」 を斬新な手法で料理している作品 (←ちょっと省略あり) だといいなあ、とそれなりに弥生式ドキがムネムネもしました。 でもなあ、終わってみれば他の作品たちにスネ毛が生えた程度の凡庸作だったなあ。 もっと上手く、巧みに、セクシーにミステリをプレゼン出来ていれば、同じメイントリック題材を扱うにしても、ずいぶん違っていたと思う。 せっかく物議を醸すほどインパクトある◯◯(?)トリックなだけに、モッタイナイ。 アカラサマな非ミステリオーラを放つ二作の(片方はそうでもないか・・)日常スケッチには非ミステリ的にフムフムもしたけれど ミステリ枠の作品たちはドレモコレモ押しも捻りも中途半端に弱くって、かと言ってその弱さにこそ深みが在るようでもなく とにかく結末に驚きが無く、話が躍動するでもなく なーんだっかなっ って石ころ蹴っちゃう感じです。 まこんなファンブッキッシュなアリスアリスもアリでしょう。 |
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| No.1446 | 6点 | 三月は深き紅の淵を- 恩田陸 | 2026/03/20 12:39 |
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| “「三月は深き紅の淵を」 もいよいよ最終章。”
『三月は深き紅の淵を』 なる表題の、四部構成による小説の稀覯本を巡る、四章構成の物語。 いえ、少し違います。 『三月は深き紅の淵を』 なる表題の、四部構成による(とは限らない?)小説の稀覯本(とは限らない!)を巡る、四章構成(これは間違いない)のブッキッシュなストーリー。 鼻につくようで絶妙に鼻につかない(個人の感覚です)、魅力的なフレーズや考察、想像シーンがそこかしこに溢れています。 四章の長篇という体でいながら、実際は四つの連作中篇といった内容。 が、それだけでもありません。 全ての章に、小説 「三月は深き紅の淵を」 が、それぞれの在り様で登場します。 以下、ストーリーネタバレを少しでも嫌う方は、第二章以降のコメントは読まない方が良いでしょう。 第一章 待っている人々 大邸宅の中、「三月は深き紅の淵を」 の隠し場所を捜す話。 若いサラリーマンと会社の会長、その友人たち。 明るいユーモアミステリ。 第二章 出雲夜想曲 匿名作 「三月は深き紅の淵を」 の作者を明らかにし、出版の秘密を探るため、寝台列車で旅に出る物語。 編集女子二人。 酒盛り旅情篇と、人情・人間派ミステリ。 第三章 虹と雲と鳥と 「三月は深き紅の淵を」 の誕生前史(?)。 高校生を中心に繰り広げられる、陰鬱な恋愛と因縁のイヤミス。 第四章 回転木馬 「三月は深き紅の淵を」 執筆を前にしての、心の準備と心の乱れ(?)。 登場人物は不定(?)だが、謎まみれの寄宿舎(?)で暮らす若い男女が中心(??)。 幻想と現実が流れて入り乱れる構造(?)。 ラストスパートで過激少女漫画風になるのはいかがなものかと、最初は思いましたが、まあ面白いからいいんじゃないですか。 ミステリとしての着地もあったし(但し、第四章としてだけの(?))。 “これはなんだ? 『三月は深き紅の淵を』?” やはり、物語全体の着地点がどうにも見当たらないのは、これだけミステリ匂わせが強い小説としては(実は、個人的には何気に心地よくだが)モヤモヤする。 |
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| No.1445 | 5点 | ダブル・ショック- ハドリー・チェイス | 2026/03/15 20:45 |
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| 安いスリルが最高さ ・・・ な~んて上手いこと騙してくれたぜ。
ポリス泣かせのケチな男が生ぬるい完全犯罪を企て、気が付きゃアンビヴァレントな綱渡りに胸焦がす。 1950年代末の米国カリフォルニア。 金持ちの家に最新TVセットを売りに来た男は、車椅子暮らしの初老男性と、その魅力的な若妻とに出遭う。 疑惑が残る事故で不具となり、ウィスキー中毒の夫は、陰険に妻を虐待している。 見かねた営業マン兼エンジニアの男は、そのスキルを活かして初老の夫を殺害しようと決意する。 熱心なボクシングファンの夫は男の口車に食いついて来た。 近所のLPレコードマニアをダシに、アリバイもバッチリだ。 肉欲より恋愛。 お色気ではない恋愛シーン。 この緩さが吉と出たか凶と出たか。 おっと、このワイフも相当やばい奴らしい ・・ 絶妙なタイミングで受け取った、或る “郵便物” の機微。 明白な “違和感” を無視したい勢と、きっちり掘り返したい勢。 思慮の浅い “偽証言” が無責任に創り出す、不可解と混乱。 グラグラのフォローアップも最低の愚かさをまき散らす! そこへ、皮肉な “状況証拠” の突風が体当たりを喰らわす!! 警察と保険会社とが睨み合い、その隙間に真犯人が潜り込む、期待と魅力に溢れた、クライマックス・シーン、のような ・・ 本当の山場はその後に来た。 いちおうの反転はあった。 ヒロインや敵役?はともかく主役の魅力が極薄なのは痛い。 これがミステリの軟さとズルズルの角度で傷つけ合い、さほど芳しくない結果となった。 とは言え、つまらないわけではない。 軽い気持ちでの読み捨てに良い。 |
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| No.1444 | 7点 | medium 霊媒探偵城塚翡翠- 相沢沙呼 | 2026/03/14 16:17 |
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| 「本当に、苦して苦しくて・・・・・・」
最終話タイトル、そういう意味だったか! はっはっ、なんなんだよあんたら! にしても “あの” ホワイダニット意外性と、その意外な重さにはびっくりしましたよ!! (と思ったら、あれ、違うの? 無理してソッチに持って行かなくても ・・ それはミステリ的には ‘更に深い’ ってのと違うと思うぞ ・・) 「お約束通り、殺人鬼は引き渡しましたよ」 それまで日常の謎専門だったっちゅう著者にとっては初めての、殺人事件が起きる連作萌え短篇集であります。 美少女霊媒 「城塚翡翠(じょうづか・ひすい)」 は ”霊感” で事件の真相を導き出す。 ミステリ作家 「香月史郎(こうげつ・しろう)」 は後付けの ”論理” を構築し、推理で真相を暴いた体で、真犯人を警察に引き渡す(多少の変化手あり)。 こりゃあ斬新な探偵分業制ではありませんか。 ホームズ&ワトソンではないし、××ダニット毎に探偵役を分けるのとも違う。 必然性の高い、ダミー解決の高難易度ヴァリエーションと呼べるかも知れません。 実際、この珍重すべき解決分業には非常に興味深いものがありました。 ××の向きとその順番を巡る(霊感サポートあってこその)名推理とか、もうちょっとでSOW領域だったかも。 … などと、幾分美化してコメントを書いてみたわけですが、本当のところ、第一話~第三話の事件解決物語は凡庸で退屈であくびの妖精が飛び出しました(前述の準SOW案件は除く)。 そんなでありながら、やたらな高評価を得ている作品ってことは、、 自ずと真相の方向性にメタな予測も立つわけで、でもその方向ってだけでは五冠も獲るには大いに不足なわけで、更に何か、巨大な仕掛けをドラマティックに見せつけてくれないと ・・・ もしかして山田◯太郎の明訓高校殺人事件じゃなくてメイなんとかいう名作に通じるどんでん返しが、長い時を超えて待っているのではとの予感が(或る人物の名前と、そもそもアレのこともあり)走りました。 「真の奇術師は、時間すら支配するものです」 終わってみれば ・・ 安易な叙述トリック風潮を鼻で笑殺する、大胆きわまりない挑戦作でした。 存外に深みと弾みのあるエピローグも光っています。 そこには積み残しの謎も同行しました。 インタールードのアレが、物語の尺的にまあまあ途中参戦というタイミングの妙も、有効な目眩し要素だった気がします。 前述したように、霊感で解決(への近道ヒント等)+ 論理で裏付け(表向きには推理で解決)という組合せで犯人を追いつめる探偵役二人です。 ところが ・・・ 【【 ここから同パラグラフ内はネタバレ±αになります 】】 ・・・ 大真相を明かされてみると ・・・ ダミー解決と見せていたものは、それとは絶妙に異なる、謂わば、偽ダミー解決だった!? こりゃあファビュラスな趣向だ。 重層を成すミスディレクションについてメタ的にセリフで語らせる大胆さ。 駄目押しに、その根幹にまで揺らぎを投与して去って行くって、どういうことよ。 そういったこういったで、探偵役二人(?)がどちらも胸糞(?)というのはなかなかのいやらしさだ。 今まで他の書評でも書いたり敢えて省いたりしたことだけれど、あの ”大反転” と双璧を成す売りであろう “ロジック構築” の披露は確かに流れるようだが、構築に使われた建材一つ一つの単価が安くて、出来上がった真相完成体にいまいち心ゆくまで圧倒され得ない、という無念さはある。 大規模にして緻密ハチミツなミステリの伏線回収はたいしたものだが、前半三分の二強のつまらなさ補償回収までは手が回りきらなかった感がある。 それこそ、山田◯太郎の筆だったら、どうだったろうか。。 なんてディスってはみたものの、やはりミステリ小説としてエポックメイキングな里程標である事は間違いないでしょう。 大したものです。 「もう会うことはありませんが、お見知りおきを」 【【 最後に、致命的ネタバレ 】】 読了後、表紙絵の見え方が全く変わってしまいました ・・・・ |
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| No.1443 | 8点 | 真実の檻- 下村敦史 | 2026/03/08 02:16 |
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| “間に合わなかった……”
いきなり真相暴露のような悪夢のクライマックスが、不躾に出迎えてくれた。 冒頭の異例の熱さには、緊張の口笛で応えたくなる。(思わせぶりなプロローグをも凍らせる勢いだ!) 主人公の青年は大学生。 母は重い病で入院し、看病に疲れたと言う父とは離婚。 やがて母は亡くなり、遺品整理に実家を訪れた青年の目の前に、自らの出生の秘密を暴露するような一枚の写真が現れる。 暴露の射程は自らの出生にとどまらず、亡き母の人生を根本から激変させた、遠い昔のスキャンダラスな殺人事件にまで及ぼうとする。 過去いくつかの “冤罪疑惑案件” が補助線となり、ストーリーは深堀りされるが、補助される掘り起こしターゲットが何なのか、なかなか見えて来ない。 割り切れないもどかしさがうねり続ける謎探りは、一見もったいぶって不思議な小説構造の中をボブスレーのように潜入滑降し続ける。 中盤の揺さぶりは激しく、結末はちょっと凄い。 『犯人かもしれない人間を知っている。 罪を認めさせるつもりだ』 表立った “社会派” 切り口を、むしろブラウン神父スピリットでギンギンの意外性溢れる逆説が包み込む形のミステリ、と言って良いかも知れない。 構成の妙も確かに光るが、それは “目次” を一見して感じるほど露骨なものではなく、意外とシームレスにスムーズに、飽くまで長篇小説の中を擬似(?)オムニバス短篇が長篇の構成要素として流れて行くといった体のようである。 「不自然なものを枠の中にいびつに押し込もうとしたら、必ず反発があり、はみ出します。 それを見つけて摑むことができれば、全てを引っ張り出せます。 白日の下に晒せるんです」 ホワイダニットの視点では、"無実を訴えない” 理由も相当に深いものがあったが、 “離婚” の理由となるとより狭いレンジの中に更なる深みを覗かせた。 これには足元をすくわれた。 「◯◯◯かどうか、試してみる度胸があるか?」 或る人物への逆説的、致命的疑いが消えない。 だがその動機に見当が付かない。 そんな魅力的な煙幕も長きに渉って張られた。 おお ・・ そうだったのか ・・・ だがしかし、一つの大きな謎が解けて、更に巨大な、しかもより暗黒の沼に沈んでいそうな、それまで巧みに隠蔽されていた、新たな謎が、ま、まさか ・・・ “想像したとたん、思い出が走馬灯のようにあふれてきた。” 最後にもたらされる、あまりにも実務的でありながら高熱を発する、最高のロジック実用の輝き!! これほどまでエモーショナルな “損得勘定” があってたまるか!! なんたる、ミステリの色ツヤに包まれた、玄妙で巧みな “助け舟” ・・ ダメ押しのロジック後日談(?)も旨み溢れて熱過ぎる!! “シャツの上から自分の胸を握り締めた。” たとえ当てられたとしても、当てやすかったとしても、実際わたしも当ててしまったけれど、それでもなお、これほどまでに尊い “意外な犯人” の設定、あり様、隠蔽術、更に未来像は魂こもったレアケースとして充分に珍重すべきと思いました。 最重要(?)な伏線の襲い掛かり具合には、のされてしまう勢いがありました。 チェスタトン×連城のような激し過ぎる逆説畳み掛けと、小説構成の妙とが、これほどまで宿命的に絡み合っていたなんて、思いも寄りませんでしたね。 ちょっとした、ブルージーでヴィヴィッドな情景描写、即物心理描写、光や音、所作や気配の表現等、グッと来るフレーズがそこかしこに見られました。 正義や真実を把握せんとする物言いは、言わずもがなの陳腐な言い草に果てず、人生の鮮やかな指針として目の前の山頂に聳え立っていました。 いっけん蛇蝎キャラのような人物が、仄甘い展開で実は存外にやさしい良い人だった、みたいなちょっとした叙述トリック展開から始まって最後まで続くその要素が、ちょっと浮き上がってアンバランスを醸し出している気もしていましたが、読了してみると、それもちょっと不思議な味わいの大事な演出になっているように見えて来ます。 上記の人含め、魅力的な登場人物群の鮮やかな配置も特筆すべき素晴らしさです。 振り返れば、二つの激熱な不等辺三角関係(点二つは共通)がミステリの場を大いに鼓舞した物語だったと言えましょうか。 社会派と成長小説の要素は確かに存在感を見せ付けます。 ですが(本格)ミステリの力がその二つを程よく上回った作品だと思います。 タイトルに偽り無し! 「私は自分の “病” をこじらせないように心掛けながら、これからも自分にできることをしていくと思います」 【ちょっとネタバレ】 エピローグは、最高に素晴らしい意味で、肩透かしだった! 上記にも通じますが、HORNETさん仰る > それを裏切るもう一枚があってもミステリとしては面白かったのでは、と思う。 これは私も同感で、やっぱり 「もう一枚」 を期待して読んでしまいましたね。 本作の場合、残り頁数のミスディレクション(!?)もあり、いかにも 「もう一枚」 ありそうで実は無い、という逆・意外性がミソなのかな、とも思ったりします。 やり過ぎると社会派と成長小説の熱い側面が見えなくなってしまう、というトレードオフがあるかも知れません。 |
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| No.1442 | 5点 | おしどり探偵- アガサ・クリスティー | 2026/03/04 22:15 |
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| 「真珠は、まだこの家にあるか、すでにこの家にはないか、そのどちらかです」
↑ 小泉進次郎議員に真剣な顔で語っていただきたい、銘台詞が発見されました。 小手調べが延々と続く掌・短編集、かな、と思ったら、本当にそうでした。 トミタペことトミー&タッペンス夫婦の二冊目。 クリスティでは初期の作。 「投げ縄で捕まえましたよ。 暇な時間に投げ縄を練習していたんです。」 意外と兇悪犯罪組織が登場します。 名家に巣喰う悪意を暴きます。 軽い浮気の虫がうずきます。 おっぺけ失踪事件にずんどこアリバイ勝負。 偽の××に振り回され危機一髪。 時にキラキラ不可解興味(見せ方が巧い!)。 なんちゃって国際スパイにソ連の影。 そげなこげなにお気楽メタ趣向が散りばめられ、ブルボンプチパーティーのような、なんともオヨヨでオチャッピーな本が出来上がりました。 ミステリの本気度は低いですが、すっとぼけユーモアの遍在とパロディ精神とでまんまと乗り切った一冊と言えましょう。(どちらもちょっと弱いんですが(特に後者)、弱いならではの弱い味わいがあります) 「本名をスミスという人は、ほとんど実在しないんですな。 ぼくは個人的にもスミスという人を一人も知らない」 パロディ(というかパスティーシュ)の事で言えば、言及されている方もいらっしゃる様に、現代(日本?)人から見ると 「その元ネタの人、誰ですか?」 となってしまう場面も多く、そのへんはムニャムニャ近代考古学の味わいとするのが吉でしょうか。 よく分からない探偵役を検索してみたら “ちょっとだけクリスティの短篇に登場する人物” だったりもしました。 これには笑ったなあ。 「次回の事件は、ロジャー・シェリンガムふうにいきたいな。 タッペンス、きみがロジャー・シェリンガムになるんだ」 だとよ(笑)。 |
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| No.1441 | 5点 | 腐蝕の街- 我孫子武丸 | 2026/02/28 01:58 |
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| “俺以外に生き残る価値のある人間などいるとは思えなかったが、誉められて悪い気はしなかった。“
平成レトロフューチャー東京冬の陣。 時代は現在より少し前の2024年。 1995年の刊行だから、四半世紀を超えて約三十年後を描いた作品という事になる。 現実歴史との答え合わせは、通貨のインフレ以外はだいたい合っている。 通信関係で、目立たないが微妙な根本的相違があったかな。 社会やテクノロジー進化へのきめ細やかな考察など、光っていたと思う。 そんなレトロフューチャー2024年の東京で、連続猟奇殺人事件(謎の違和感付き)が起こる。 殺し方も悍(おぞ)ましいが、何より奇怪なのは、その犯人が、数年前に処刑された連続猟奇殺人鬼その人としか思えない状況を呈していること。 その殺人鬼を捕獲した警部補が本作の主人公だ。 彼は街の喧嘩の仲裁(?)で知り合ったナイフ使いの売り専少年を家に匿い、連続殺人の捜査で若い女性刑事等と知り合い、肉体派や頭脳派の悪党どもに狙われ、処刑された筈の殺人鬼らしき人物からも命を狙われる。 ここまで6点。 「アフリカか。 楽しそうだな」 仮説のダミーながら、なかなか目からイルカが落ちるすごい殺人動機が語られた。 それだけで7点の蜃気楼が見えた。 しかしながら、一方で芳しくない文章傾向も目立つ。 渋い敵対関係が続くと思われた二人があれよあれよとなし崩しに仲良くなっちゃったり、妙にイージーで雑な進行がスリルを殺ぐ。 深夜アニメのような萌え要素配置もちょっと鼻に来た。 荒廃した大都市のイメージは付け焼き刃でイメージ広がらず定着せず。 ふやけた、可愛らしい下ぶくれのハードボイルド。 甘~~い警察小説。 葛藤の無い、お手軽な冒険譚。 戯言臭いボーイズなんとか。 妙に安定した、安心の犯罪ストーリー。 だが、それが愛おしい、、 と言ってみただけ。 3点かな。 そんなんでありながら(?)滲み出す、或る、あの、ありがちな疑惑。。 “私は裸じゃないとよく眠れないんだ。 …… いいか。 誰にも言うなよ” ところが、終盤クライマックスでは打って変わって … この ”特殊心理描写” はちょっと凄い。 “不自然な演技” の妙味が熱い … 「そいつのことは考えるな!」 … 映画にしたいような燃える名シーンが襲った! … 「普通にしていればいいんだ。 そうだろう?」 … そこでさん付け(ちょっと違う)か … “しかしどうやら、すべては本当のことだったらしい” … なんだおまえ、分かってるんかーー … 「…… 助けに?」 … (たぶん)最高の死に様、死に際で魅せてくれた。 … 「何があったのか説明してもらえますね」 7点かな。 ところがどっこいドンタコス。 この激熱にして狡猾なクライマックスから、極楽地獄の甘々クロージングへと、そんなん聞いてない、あきれた瞬殺のダイヴには唖然とさせられちまった。 やっぱり5点。 “古くさいトリックだった。” だが ・・・・ このエンドだ!!!! オリジナル劇画版 「オールドボーイ」 のような甘酢で引き締める終結と予断したが、違った ・・・・ ・・・・ しかし、物語の評価としては既に時遅し。 ストーリーバランスも崩した。 面白かったから、いいんだけどね。 5点の上の方。 5.3くらい。 “夜は不気味な廃墟のようにしか見えない街だが、朝日の中では引退した老女優のように哀れを誘う。” ← 絵が浮かぶねえ |
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| No.1440 | 9点 | 奇術師- クリストファー・プリースト | 2026/02/24 23:45 |
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| “書き出して早々だが、ここでいったん中断する。”
この結末はちょっと … 沸き上がっちゃうよ。。。 瞬間移動、双子、作中作◯◯、隠し事、抜けの多い日記、ニコラ・テスラ、これ見よがしのいやらしさ。 作中作には更にいやらしい注釈まであった。 “重要な情報を省いたのである。 そしていま、あなたは間違った方向を見ている。” 主人公の男はジャーナリスト。 或る日、見知らぬ女から一冊の本が送られた。 女の話では、この本は、ヴィクトリア朝末期から二十世紀初頭にかけて花形奇術師であった、男の先祖が書き記したものという。(幼くして養子にもらわれた彼にはそんな先祖の憶えは全く無い) 更には、その先祖の不倶戴天の敵と言うべきライヴァルだったもう一人の花形奇術師が、女の先祖だという。 男は本を読み始める。 物語は霧の中へと迷い込み、封じ込められる。 “あのようなものを目撃したわたしほど悲惨な人間は滅多にいないだろう。” “どんな問題であれ、全盛期を迎えている奇術師の能力を超えるものではない!” “この秘密を守っていくために、わが人生がどれだけゆがんだのか、××には想像もつかないだろう。” ライヴァル奇術師の二人を縛り付けたものは “瞬間移動” のイリュージョン。 二人の “瞬間移動” は、根本的に異なる原理に則っている(ようである)。 あまりにも余裕を持った、異様に大きく間隔を取った、同一事象の別視点叙述が現れて、ふわっと心を掬われた。 おいおい、この日記はいったい誰が書いているのだね・・ “われわれは友人であるべきだったのに。” 史実から虚構へのタッチアンドゴー、これが実に巧みで、引き出すエネルギーもやたらと大きい。 幅広い奇術のトリック要諦が絶妙にネタバレを避けて敷衍されている逆説的華やかさも本作の美点だ。 だがしかし、いやいや、それどころではないのだ!! この小説の巧緻な企みの行きつく先は!! こんな罪作りな小説構造、読了後、少し間をおいて(すぐに、ではない所が重要)、読み返さずにいられないではないか!! ごく短い最終章の重いこと! 何なんだ、この遠大なる気持ち悪さは・・・・ “空気は驚くほど甘く、表よりもはっきりわかるくらい温かかった。” 叙述ギミックとアレとがこれほどまで強固に深遠に結び付いていたとは!! これはもう、世にはびこる数多の叙述ギミックやアレが甘ったるい戯言に見えてしまいかねないではないか!! むしろ、あまりに堂々とした小説態度が、アレの方までは気付かせないという線までもありそうだ。 窒息させないでくれ・・ そしてアレもナニも軽々と跳び越える、遥かなる、おぞましい真相。 この小説の決め技はいったい幾つあるのだ。 “わたしは独りで最後へ向かうのだ。” .. じわじわと .. 打ちのめされました。 SFミステリというより、幻想サスペンスの傑作だと思います。 『世界幻想文学大賞』 1996年受賞作との触れ込みで、確かにそれも納得ですが、サスペンス型ミステリ小説としても最高の出来なのではないでしょうか。 |
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| No.1439 | 7点 | きまぐれ学問所- 評論・エッセイ | 2026/02/21 00:30 |
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| “若さが希薄になれば、抵抗もへるせいか、なかを進む時間の動きも早くなる。”
古き良き時代、昭和と平成の境目に綴られた、思索と提案に古今の “書評” を絡めたエッセー。 幹も枝葉もよく伸びる。 軽いようで重厚洒脱。 常に明るく前向きで、時に驚くほど攻撃的。 ミステリ好きのSF作家である氏が、もう一人の自分とアイデアの短いパス回し(足元でよく変化する)公開練習を見せてくれる。 屡々タッチラインを越えたかと思えば、そこはもう隣のコートだったりする。 特殊なようで実は普遍的な話題を掘り起こすのが上手い。 深いところに手を伸ばす魅力の一冊。 でもまあ、軽い気持ちで読んでくださいな。 つぎの未来は/ジプシーとは/『文章読本』 を読んで/凧のフランクリン/ファシスト人物伝/人生について/エスキモーとそのむこう/老荘の思想/発想法、あれこれ/李白という人/フィナーレ “もっと書いてみたいが、から回りの見本になるばかり。” |
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| No.1438 | 7点 | クロスファイア- 宮部みゆき | 2026/02/15 20:56 |
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| 「さっきまで換気扇を掃除していたもんですから」
ジャングルの熱波を走る毒矢の如き、暴力的リーダビリティ。 殺人を厭わない悪質不良少年群を焼殺・圧殺するいきなりのクライマックスシーンは、その復讐嗜虐テンションの綱が少しでも緩む事を、長きに渉って許さなかった。 “彼はこう叫んだ ―― こんなことをしてただで済むと思うなよ!” 隔世遺伝により念力放火能力(パイロキネシス)を持つ若きヒロインの “実力行使” と、連続放火?虐殺事件の犯人と真相を追う警察とのカットバック。 これがいきなりの大きなすれ違いを見せつける。 おかしなくらい手の早い展開。 オダ・ノブナガを思わせる躊躇無い制裁の連なりは陶酔を誘う。 ヒロインはやがて彼女を ”獲得” しようとする特殊地下組織からの接触を受け、その渦中で不器用な恋愛ドラマも生まれる。 サブ主役含む重要人物とその人生や過去が次々と登場し、複雑化したカットバックは色彩を滲ませ大いに盛り上がる。 “この女の蒔く種がどれほど大きな邪悪の樹木に成長するか、考えてみなくていいのか。” “この女のせいで誰かが死んだとき、おまえは後悔せずにいられるか。” 物語の進行もまだ浅いうちに、妙に尚早な、或る落ち着きへの布石が見えた。 これはその先に待っている空怖しい何かの、底知れない深さを暗示してるのだろうか、指が震える。 それでも尚、刃向かうもの無くズイズイと傍若無人進行するストーリーの斜め前に、睨みつけられるような違和感が、とうとう、なすりつけられた・・・・ “―― あんたは独りぼっちになってしまうよ。” 不可解な混乱と危機感のど真ん中、滾る復讐への血盟が聳え立つ。 やさしさと暗黒の甘苦いマリアージュ。 物語も後半に入ったあたりから、作者の分身のような中年女性刑事の、やさしさと包容力を抱き込んだ存在感が勢いを増し、それがまるで “まだ見ぬ” 主人公の心まで、物語の中で遠隔操作で解きほぐして行くかの様に見え始める。 このなし崩しの変容は、いったいどうしたことか・・・ “温かな “恋” だ。 ああ、もう見えなくなってしまった。” と・こ・ろ・が・だ! そっちから来るか! ルール違反じゃないのか! と驚きの(しばらく前に読んだ白井智之の某作をはっきり思い出した!)大きな反転。 そこから始まる、内なる大きな展開。 憤怒と勇気と哀切の、最後の××シーン。。。。 誠実な事後処理と、ささやかなクロージング。 「幸せというのは、いつだって点なんです。 なかなか線にはならない。 それは真実も同じですがね」 |
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