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[ SF/ファンタジー ]
刑罰0号
西條奈加 出版月: 2016年08月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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徳間書店
2016年08月

徳間書店
2020年02月

No.1 6点 斎藤警部 2025/10/20 23:40
“―― その達観に磨きがかかり、こうして向かい合うと、娘を通り越して孫になった気分だ。”

死刑に代わり、被害者/加害者双方にとってより実際的な贖罪をもたらすことを目的に開発された、仮称 “刑罰0号” なるテクノロジー。
死んだ被害者の記憶データを脳から吸い出し、加害者に本当の意味でのヴァーチャル・リアリティ(事実上現実)として追体験させる仕組みだが、政府のバックアップによる人体実験の結果、被験者たる死刑囚の心身に予想外の激烈な副作用を及ぼす事が明るみに出(死人も出た)、実用化は頓挫した。 ところが ・・・・・・ ところが ・・・・・ ところが ・・・・ というお話。

【次パラグラフ内は、本作の内容そのものについては、ネタバレではありませんが・・・】
裏表紙の解説を読んで、長篇小説だと思ったわけですよ。 ところが、目次を見るとなんだか短篇集っぽい。 実際 「刑罰0号」 「疑似脳0号」 と読んで行くと、連作でもない短篇集のようだ。。 いや違う、どうも各作つながった連作のようだな。。 いやいや違う! 中盤から、まるで開き直ったように、露骨な長篇の体に化けているではないか! この不思議な構造が実は、仮称 “刑罰0号” なるテクノロジーの在り様と密接に、ミステリ的に繋がっているわけですが、あまり詳しくは言えません。

文体はラノベ風、且つ一定の重みがあり、SFミステリたるストーリーのど真ん中を貫く人間ドラマの大いなる推進力となっています。

しかしながら、肝腎の結末部分に至り、ラノベ力の暴走が悪い方に向かった感があります。 クライマックスとなる “世界一平和な核爆弾投下” (急に何ですか、って感じですが)の手法にしても、核心となる “アレ” についての技術的説明が端折り過ぎでファンタジー領域に入ってるし、その後のややこしくも人間味あふれる心の交流シーンにしても、急に楽観お花畑が広がっちゃあいませんか。

とは言え・・結末は決して詰まらないものではないし、序盤~中盤にも 「兇悪少年犯罪」 「キャンパスライフ」 「ファミレスバイト」 「ヘリコプター事故」 「NPO」 「CIA(!)」 「国際xx(!!)」 等、時に普通の/時に異常な物語要素がカラフルに躍動してくれて、実に興味津々プルプルでリーダビリティも高値安定です。
 
そうそう、クライマックスで、ある重大な問題解決を引き出した “豹変” のくだり、SFミステリならではの熱さ全開で、頭カーッと来ましたね。 いろんな意味でオープンなエンドも、やっぱしみじみします。  


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西條奈加
2016年08月
刑罰0号
平均:6.00 / 書評数:1
2015年02月
睦月童
平均:7.00 / 書評数:1