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[ 本格/新本格 ]
日本探偵小説全集(5)浜尾四郎集
浜尾四郎 出版月: 1985年03月 平均: 8.00点 書評数: 2件

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東京創元社
1985年03月

No.2 8点 斎藤警部 2025/09/15 23:19
まず短篇たち、どれを取っても結末に重みがあり、オチなどと軽くは呼ばせない厳粛さがある。 しかもその厳粛に苦いだけでない味わいがあり、そこが良い。
独特の語り口で、トリッキーでディープな “法律” の振る舞いや在り方を俎上に載せた、素敵な作品が並びます。

彼が殺したか  8点
際どく転がるんだよ、結末が。 叙述なんとやらまるで不要の深みには感じ入る。 若き実業家の夫と、名家出身の若妻とが殺害された。 死の淵の夫は、或る男の名前を口にし、息絶えた。。 現代の俺たちにしたら見え見えの真相だぜ、などと思いきや、更に二重底で、しかも高速展開の直感地獄絵図。 何が二重のナニじゃいこのくそ主人公が! しかし本作の麻雀戦記は旨いわ。 むかし流の言葉遣いと表記がまたたまらない。 にしても、清三の面前で清一とは、此レ如何ニ。

悪魔の弟子  7点
紙面を騒がした殺人事件の真犯人は ‘たぶん’ 私ではない、と旧知の地方検事におかしな告白をする ・・・ バランス悪いなー でもすごく面白れー 男色の恨みの顛末はどこいった? 中途から急にシンデレラの罠っぽくなったのはいいが、真相の底、そこまででおしまいか? なのにトータル読後感はすこぶるアッパー。 これはやはり、作品の、ってより作者の気品ってやつの賜物かな。

死者の権利  8点
一代で成り上がった大実業家の息子が、恋愛事件の末に落ちた陥穽。 告白犯罪実話の面白さで推進力抜群。 ミステリらしい捻りもあるが、これがむしろ作者らしい法律論への拡がりを見せる。

夢の殺人  7点
レストランに勤める真面目一方の青年の前に、やはり真面目な性質の恋敵が現れた。 ただ彼は非常な美男子だった。。 作者にしてはちょっと軽いな、と油断しているとその軽みのまま深淵に落とされる、そんな物語の終わり。

殺された天一坊  8点
タイトルの通り、或いはタイトルがネタバレ、なのでしょうか・・・? これは清冽を極めた社会的心理探索劇。 大反転など無くとも充分。 実は主人公二人が完全なるハードボイルド文体で描かれているのが凄味の源泉。 短篇の中ではこれがハイライトか。

彼は誰を殺したか  7点
妻の従弟に殺意を抱く男。 彼もまた或る人物から殺意を抱かれる。 或る地点から法律論に流れこむかと思いきや、殺人論?らしきものにぐいっと引き戻され、そこから先は熱い心理劇の公開。 こんな残酷話にいたずら心が見える。 最後の、小粋な?オチがなんとも言えねえ。 しかし本作冒頭の十二文字、Jリーグファンなら思わず噴き出すかも知れません。  

途上の犯人  7点
列車の中で奇妙な文学的因縁をつけて来る男。 思えば彼には一昨日の夜も市電で遭遇していた。 告白と告発が絡み合い、メタ味もあって躍動する筋運びの末、舞台は警察へ。 余りにエモーショナルな事象を示す、ラストセンテンスの意味する所は何か。


長篇「殺人鬼」は個別に書評済み(9点)。
戦前日本の誇り。 黄金期米英本格推理(中でもヴァン・ダイン)の、意義ある換骨奪胎に成功した巨篇。 読んでみてはいかがです。

巻末の解説に編集後記、さらには付録の、夭逝した氏を悼むエッセイの数々。 どれも素晴らしい。

No.1 8点 クリスティ再読 2023/09/22 14:00
「殺人鬼」というと中学生の頃に桃源社の単行本を図書館で借りて読んだんだなあ....やたらと懐かしい。70年代の「異端文学」ブームの中で、評者みたいなガキでも乱歩・正史から始まっていろいろ耽読していたわけで、親は心配した?のかもしれんがねえ(苦笑)

でまあまずは「殺人鬼」。改めて読み直すと、やはり戦前の「グリーン家ショック」と呼ぶべきものが、いかに凄かったかというのを彷彿とする。ブルジョア家庭内で起きる連続殺人が暴き出す家系の旧悪と因縁。悪鬼のような真犯人は家族の一員か?それを解き明かす立役者としての名探偵....こんな構図が、戦前の日本での好みにハマって、今に至るまで「ニッポンのミステリ」を呪縛し続けていると思うと、やはりちょっとした感慨めいたものも感じてしまう。洋館やら音楽趣味やら「モダン」を前面に打ち出して、「浴槽の花嫁」みたいな海外実話と海外ミステリのブッキッシュな興味もしっかりと。評者だと(それなりの)中二病が合わさって、しっかりミステリにハマったものなんだよね(苦笑)
もちろん内容的にはしっかり・手堅く書かれたパズラーのわけで、逆に言えば「グリーン家」がパズラーとしてはわりといい加減なところを勘案すれば、ここまで「一生懸命論理的なパズラーを実現しようとしている」あたり、結構感動するものがあるんだ。「黒死館」はもちろんグリーン家の「魔改造」だったわけだけど、本作の粘着質なまでの論理性も、充分魔改造のうちだと思う。
評者パズラーの評価基準で、「探偵がどの情報で真犯人を指摘できるようになったのか?」というのは大事なことだと思っているんだ。小説の最初から「名探偵は真犯人をお見通し」といった態度を取られると、実は評者はシラケる。本作あたり「意外なくらいに名探偵じゃない」藤枝真太郎は試行錯誤しながら時には事件の意外な展開に翻弄され、迷路に入りながら、それでも最後には正しく事件を再評価して真犯人を指摘することになる。この紆余曲折のプロセスを丁寧に描いているのを評者は評価したい。

創元のこの全集に収録した他の短編でも窺われるのだけど、作者は法律家で法律を逆用したような犯罪計画をいろいろ紹介していて、法と正義に対する実務家らしい穏当な範囲での懐疑を持っている。だからこそ「神のごとき名探偵」というものに、最初から懐疑的だったんだろう。実話並みのリアルで皮肉な真相やら「プロビバリティの犯罪」やら、そういう「法と悪意」を巡る短編は興味深いけど、小説としては「殺された天一坊」と「途上の犯人」以外は、あまり完成度が高くない。小説家としては「小説が上手ではない」人だか、その分篤実に書いているのが「殺人鬼」は成功している。でも短編は切れ味が鈍い。それでも「殺された天一坊」は政治家大岡越前の「法と正義」を巡って、ミステリをはみ出す興趣があって世評通り短編のベスト。
「途上の犯人」は作者と目される弁護士兼作家が、汽車で出会った男の「プロビバリティの殺人」に関する告白を聞いて、それを助長したのは自分ではないかと自責する話。だから「グリーン家ショック」の如実な「殺人鬼」であっても、単純に「先駆的なパズラー」として片づけられないような陰影感が出てると見るのは、やや評者がひいき目に見過ぎている、のかな。
8点はちょっとヒイキな点だと思う(苦笑)


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浜尾四郎
2004年04月
浜尾四郎探偵小説選
平均:6.00 / 書評数:1
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鉄鎖殺人事件
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