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日本探偵小説全集(5)浜尾四郎集
浜尾四郎 出版月: 1985年03月 平均: 8.00点 書評数: 1件

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東京創元社
1985年03月

No.1 8点 クリスティ再読 2023/09/22 14:00
「殺人鬼」というと中学生の頃に桃源社の単行本を図書館で借りて読んだんだなあ....やたらと懐かしい。70年代の「異端文学」ブームの中で、評者みたいなガキでも乱歩・正史から始まっていろいろ耽読していたわけで、親は心配した?のかもしれんがねえ(苦笑)

でまあまずは「殺人鬼」。改めて読み直すと、やはり戦前の「グリーン家ショック」と呼ぶべきものが、いかに凄かったかというのを彷彿とする。ブルジョア家庭内で起きる連続殺人が暴き出す家系の旧悪と因縁。悪鬼のような真犯人は家族の一員か?それを解き明かす立役者としての名探偵....こんな構図が、戦前の日本での好みにハマって、今に至るまで「ニッポンのミステリ」を呪縛し続けていると思うと、やはりちょっとした感慨めいたものも感じてしまう。洋館やら音楽趣味やら「モダン」を前面に打ち出して、「浴槽の花嫁」みたいな海外実話と海外ミステリのブッキッシュな興味もしっかりと。評者だと(それなりの)中二病が合わさって、しっかりミステリにハマったものなんだよね(苦笑)
もちろん内容的にはしっかり・手堅く書かれたパズラーのわけで、逆に言えば「グリーン家」がパズラーとしてはわりといい加減なところを勘案すれば、ここまで「一生懸命論理的なパズラーを実現しようとしている」あたり、結構感動するものがあるんだ。「黒死館」はもちろんグリーン家の「魔改造」だったわけだけど、本作の粘着質なまでの論理性も、充分魔改造のうちだと思う。
評者パズラーの評価基準で、「探偵がどの情報で真犯人を指摘できるようになったのか?」というのは大事なことだと思っているんだ。小説の最初から「名探偵は真犯人をお見通し」といった態度を取られると、実は評者はシラケる。本作あたり「意外なくらいに名探偵じゃない」藤枝真太郎は試行錯誤しながら時には事件の意外な展開に翻弄され、迷路に入りながら、それでも最後には正しく事件を再評価して真犯人を指摘することになる。この紆余曲折のプロセスを丁寧に描いているのを評者は評価したい。

創元のこの全集に収録した他の短編でも窺われるのだけど、作者は法律家で法律を逆用したような犯罪計画をいろいろ紹介していて、法と正義に対する実務家らしい穏当な範囲での懐疑を持っている。だからこそ「神のごとき名探偵」というものに、最初から懐疑的だったんだろう。実話並みのリアルで皮肉な真相やら「プロビバリティの犯罪」やら、そういう「法と悪意」を巡る短編は興味深いけど、小説としては「殺された天一坊」と「途上の犯人」以外は、あまり完成度が高くない。小説家としては「小説が上手ではない」人だか、その分篤実に書いているのが「殺人鬼」は成功している。でも短編は切れ味が鈍い。それでも「殺された天一坊」は政治家大岡越前の「法と正義」を巡って、ミステリをはみ出す興趣があって世評通り短編のベスト。
「途上の犯人」は作者と目される弁護士兼作家が、汽車で出会った男の「プロビバリティの殺人」に関する告白を聞いて、それを助長したのは自分ではないかと自責する話。だから「グリーン家ショック」の如実な「殺人鬼」であっても、単純に「先駆的なパズラー」として片づけられないような陰影感が出てると見るのは、やや評者がひいき目に見過ぎている、のかな。
8点はちょっとヒイキな点だと思う(苦笑)


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浜尾四郎
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