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クリスティ再読さん
平均点: 6.46点 書評数: 1081件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.1081 5点 一杯の珈琲から- エーリヒ・ケストナー 2022/11/29 10:58
ケストナーのユーモア三部作も最後。ちょっとした策略めいたものはあるけども、上機嫌なファンタジータッチの恋愛劇。ミステリ味はほぼなし。ザルツブルク音楽祭を背景として、古き良きウィーン趣味な優雅さがある。

ザルツブルクと言うと評者の世代はカラヤンだけど、そのずっと前。パウムガルトナーが音楽祭を仕切っている頃。ロッテ・レーマンが「薔薇の騎士」に出てる(オクタヴィアン?)。
主人公のゲオルグは親の遺産で裕福に暮らす青年。ザルツブルク音楽祭に友人が招待されたので、それを頼ってザルツブルクへ。しかし為替管理の問題があって、ゲオルグは金持ちなのにザルツブルクでは一文無しの境遇。カフェで偶然知り合った「女中」と名乗る女性コンスタンツェとゲオルグは恋に落ちた....

いやいやヒロインの名前からしてモーツァルト夫人。詳しくは述べないがモーツァルト「レクイエム」の成立事情(田舎貴族がモーツァルトに代作発注)を下敷きにしたような、伯爵一家総出のプラクティカル・ジョークみたいな「お芝居」にゲオルグは巻き込まれつつも、恋愛成就!

あっさり軽めのお話。吹き出すようなところは随所にあるが、小洒落たヒロインの言動によるところも多いなあ。「雪の中の三人男」みたいにプロットが辛辣ではない分、サクッとした味わいに留まる。

No.1080 7点 火よ燃えろ!- ジョン・ディクスン・カー 2022/11/25 22:13
さてこれはカー時代ミステリの佳作という評判があるのでどうかしら?

シンプルな話である。殺人事件は1件だけ。それでも事実上の決闘が2回、大捕物もあって、前半ややもたつく印象があるけども、後半に向けてドライブがかかってくる作品。「ニューゲイトの花嫁」が前半が面白いのとちょうど逆。

ミステリとしてのトリックは、タイムスリップ物でないと成立しない話、かもね。やや小粒感はある。恋愛描写はヒロインのフローラが、時代柄仕方ないとはいえワガママに男を振り回すタイプなので、あまりノレない。
一番の面白味は、出来立てホヤホヤのスコットランドヤードに主人公が志願する話、というあたり。「民主警察のお手本」みたいなスコットランドヤードでも、出来たときにはまったく信用がない組織。それまでのボウ・ストリート・ランナーズのような「お金を貰って捜査する」私立探偵というか岡っ引き風の組織に代わって、軍隊風の規律を持った警官隊として組織されたという背景がしっかり描かれる。

そこに現代のスコットランドヤードのCIDの警視の主人公がタイムスリップ。同じ立場で出来立てのスコットランドヤードに奉職する。「紳士は働かないもの」だから、主人公の現代風の職務に対する忠誠心を、愛人のフローラは意外に感じたりする。で主人公のチェビアト警視、実力で部下の警官隊を掌握し、現代の科学捜査をいろいろ工夫して実現しようと奮闘するし、この出来立てのスコットランドヤードの活躍を社会にアピール。こうやって近代警察に対する市民の信頼が築かれていった...という話。

ジャンルが「警察小説」でもいいくらい。タイトルの「火よ、燃えろ!」がマクベスで意味深なのに、あまり機能しない。これは残念かな。

No.1079 5点 ニューゲイトの花嫁- ジョン・ディクスン・カー 2022/11/23 08:30
カーの歴史モノって評者「喉切り隊長」と「ビロードの悪魔」しか読んでいなかった...なので全体像は全然わかってない。ちょっとまとめてやろうかと思う。これが後期歴史モノシリーズの最初の作品になる。

時代はいわゆる「摂政時代」。ナポレオン没落あたりの時期で、本作にもワーテルローの勝利が背景になっている。国王ジョージ3世の発狂から遊び人の皇太子が摂政を務めた(のちに即位、ジョージ4世)ことから「摂政時代」と呼びならわされる時代。摂政皇太子(作中でも「プリニー」って愛称?で呼ばれている)の派手好きからイギリス上流階級の花が開いたのだが、風俗もまた乱れた時代でもある。「紅はこべ」の舞台もほぼ同時期。
面白いことには同時代の日本も家斉の「大御所時代」でいわゆる化政文化が花開いた時代でもある。この時期の風俗が時代劇のデフォルトになっていることもあるから、本作なんて「カー流、時代劇」のまさにど真ん中、と見たらいいんじゃないかな。

カーの歴史ミステリ、というと考証は正確、ミステリ的な謎や仕掛けもある肩の凝らない活劇調、というもので、そのスタイルは第1作の本作でも確立されている。
無実の罪による絞首刑寸前を助かった主人公ディックが、冤罪のリベンジのために犯人を追及する大筋。この主人公、獄中で「祖父の遺産を相続するために何としても結婚しなければならない(でも夫は不要!)」なクール美女キャロラインと結婚するなんて導入。このキャロラインがツンデレでねえ。身分違いでディックをナメてかかるんだけども大逆転。それでもキャロラインが正ヒロイン。

「わたし、ぜったいばらさない。だから、一緒に食事をして」
「わかるけど、毒物に対する知識がなさすぎるんだよ。それに明日の朝は三時に起きて(決闘の)準備をしなくちゃならん。おやすみ」

とハードボイルドみたいな味が出るところがある。これが面白い。

前半、モンテクリスト伯か!というくらいに面白い。でもね、ヒロインはすぐデレるは、敵方?みたいに主人公と決闘する紳士たちにも、何か受け入れられちゃうわ...と話のテンションが下がってくるんだね。ミステリ的な謎も小粒。

トータルでは失敗作の評価。イイ線いっていたのにね。

No.1078 7点 囁く影- ジョン・ディクスン・カー 2022/11/21 12:25
カーでもホラー要素は吸血鬼ネタ。中期にしてはドタバタ要素を排し、ロマンチックな女性像が印象的な作品。トリックよりもそっちの方に魅かれる。

ある意味、人間関係に「謎」を巧妙に隠すクリスティっぽい作品だと思う。中期のカーって「皇帝のかぎ煙草入れ」みたいなクリスティ趣味の作品もあることだし、そう見るのも不自然じゃないように感じるよ。まあだからカーのもう一つの軸の不可能興味が大したことないのを咎めるのは、トリック至上主義というものじゃないかな。

現代の事件が起きるまでの動きが少なくて、ややジレるところもあるけど、ロンドンへ向かう追っかけなど、「動」の要素が出てきてからは本当に一気に読ませる。ヒロインが問題を隠しすぎ、というのはあるんだけども、人の出し入れで「すれ違い」な作劇がそれを目立たせない。これはカーが読者に積極的に仕掛けていることでもあるから、「消極的なミスディレクション」とでも言ったらいいのかしら?

まあでも、ヒロインのキャラクター性が何よりの成功材料。カーのロマンスの数少ない成功例(残念なことに...)。こういうやや時代がかったヒロインへの、カーの憧れが反映しているのかな。だからか、狂言回しの歴史学者の「個人的」な決着の付けかたも何かイイ。評者好感の作品でした。

No.1077 8点 私のすべては一人の男- ボアロー&ナルスジャック 2022/11/20 14:28
人体移植というSF風の設定を利用した大技炸裂!で、実はボア&ナルって「やんちゃ」なミステリ作家だ、というのを実感する。ファンタジーだと思って小説内での奇想の辻褄があってれば、それでいいんだよ。まあだって、ボア&ナルって一貫して、固定した視点人物の主観の中で完結する話じゃないの。ファンタジーと言えばファンタジー、それがボア&ナル。らしさ満喫。

まあそういうことを言わなくても、本作のサスペンスの「作り方」って「そして誰もいなくなった」なんだよね。死刑囚の遺体が7分割されて、それが事故で身体の一部を失った7人の男女に移植される。しかし一旦は回復した7人の男女が次々と...という話だから、「そして誰もいなくなった」風の次から次への連打。サスペンスのお手本みたいに展開していく。死刑囚の左脚を移植されたのは清楚な人妻、右腕を移植されたのは司祭(祝福を行う手が死刑囚のもの、という皮肉)、左腕は左利きの画家で移植で画風が変わってしまい苦悩する....などなど、ちょっとした人間ドラマも仕込んであれば、死刑囚の恋人がこの件に関心をもって関わるという波乱もあり。

最後には大技に目を奪われるけども、そういう見地以外でも上出来な佳作。ボア&ナルでも上位の出来。

No.1076 7点 綱渡りのドロテ- モーリス・ルブラン 2022/11/17 14:46
これは素敵なお話。サーカスの女座長にして侯爵家の相続人、4人の戦争孤児たちのママでもあるヴァガボンド、ドロテの大活躍! ルパンが悪だったら?と思わせる怪人デストレシェールを敵に回すスーパー・ヒロインをアザトクなく描いた爽快な話である。
ルパン世界の「カリオストロ4つの謎」の一つ「In robore fortuna」をこのドロテが解いてみせるわけだが、この謎言葉自体が「宝は魂の堅固さにあり」という格言として、危機に直面したドロテの心を支える、という趣向が素晴らしい。たしかにこれ、ルパンだったらあまり似つかわしくないや。身体的にはたびたびピンチになるが、凛として屈しない正義のヒロインだからこそ、際立つ仕掛けだと感じる。

このサイトでの皆さんのルブラン作品評を見ると、大時代的なルパンというキャラがどうも嫌われている...なんて印象を受けるのだけども、ドロテならね~そういう嫌味がなくて好評、ということなんじゃなかろうか。

2世紀を隔てて相続人が廃城に集合するあたり、ルパンじゃありえないような牧歌的な雰囲気の好ましさ(食事シーンが素敵)が出ていたり、一座のアイドル、モンフォコン隊長のコミカルなかわいらしさとか、作者がルパン世界とは別、という気持ちで解放されて楽しんで書いているのが窺われる。訳者も「楽しい仕事をさせてもらえました」と記しているのが素直に頷ける。

ルパンシリーズ・リブートからの作品系列は「八点鐘」「ドロテ」「カリオストロ伯爵夫人」となるわけで、この頃のルブランの筆って本当に、ノっている。ただただ楽しい。

(悪玉のデストレシェール、もちょっとアレンジしたら「カッコいい悪玉」になると思う....そんな片鱗があるからね。そうだったら8点とかつけたかな)

No.1075 7点 ワイルダー一家の失踪- ハーバート・ブリーン 2022/11/14 23:38
乱歩が「カー亜流で、カーに及ばない」と酷評したこともあって、どうも軽く見られがちな作品。でも評者なんか面白くて一気読みしてしまった。
もちろん「ワイルダー家の人々は、祖先以来、病気で死ぬのではなくて、ただ、どことも知れず立去ったまま、消え失せてしまうという、前例のない奇抜な着想に、先ずアッと驚かされる」と乱歩が「冒頭の不可思議性」を褒めたわけで、実はこのアイデアは中盤での探偵役フレームの目の前で起きた人間消失をピークにする「人間消失の恐怖」に繋がる、立派な仕掛けとして機能していると思うんだ。「自分の大切な人が消えてしまう」というのは人間にとって根源的な恐怖だ。それを突いた着想は、やっぱり優れたものだと感じる。

だから本作を「カー亜流の手品趣味」と捉えるのが、どちらか言えばつまらない観点だったのではないのかな。「不可解な人間消失」が7件起きるわけだけども、数が多いというのは一つ一つのウェイトは軽い、ということでもあるわけで、トリックにそうそう期待してもいけない。それよりも「人間消失の伝説」に覆い隠された人間模様を評価すべきだろう。
カーと比較するよりも、ニューイングランドのローカル色豊かなミステリ、という点でライツヴィル物と関連付けたりする方がずっと有益なのかもしれない。中盤のサスペンスや過去の事件の真相が一つ一つ明らかになっていく構成など、興味深く読めたわけで、印象は悪くない。まあとはいえ「今の事件」としての犯人とか真相はつまらないな(苦笑)

そういえば本作は改訳を免れた数少ない西田政治訳だったりする..戦前からの関西のドンで有名な人だけど、70年代でさえ骨董扱いに近かった。今回読んだのは1992年の第6版。意外に頻繁に増刷しているわけである。「青春ミステリ」みたいな味わいも感じられて、読みづらい作品じゃない。

No.1074 7点 事件当夜は雨- ヒラリー・ウォー 2022/11/14 10:13
「ながい眠り」同様にハヤカワから創元に移籍した本。でも同じ訳者による同じ翻訳のまま移籍、というのはかなり珍しいと思う。オトナの事情が何かあるのだろうか。

で思うのだが、創元の解説の杉江松恋氏も話を「本格」に持っていきたがる...う~ん。確かに大胆な仕掛けがあるのだけども、これって作者が仕掛ける「メタな仕掛け」の部類なんだよね。それを「本格」と呼ぶのが正しいのか?というと評者は疑問だが、逆に「パズラー」と「本格」は全く別な概念だ、と捉える方のが正しいのか?などとも思いついた。
たとえばホームズは「本格」だけども「パズラー」じゃない。「毒チョコ」だってフェアな推理はできない。要するに「黄金期本格」というかなり曖昧なモデルがあって、そのモデルが作り出したファン層が好むタイプの作品が、漠然と「本格」と呼ばれてきた、と理解した方がいいんじゃなかろうか。だったら「本格」はジャンルというよりも、「作品の属性」といったものなのではなかろうか。
そういう「ジャンル横断的な属性」だと、たとえば「女子ミステリ」という「属性」も、確かにある。「パズラー」であっても都筑道夫モデルの「退職刑事」などが今一つ「本格ファン」にアピールしないことを考慮に入れたら、そういう風に捉え直すのもいいんじゃないのかなあ。

あ、作品自体は面白いです。誤殺かどうか延々と堂々巡りするあたり、評者は好きだったりする。あらゆる可能性をフラットに捉えるリアルな捜査の手法に満足しちゃう。「分からないこと」を「わからない」と率直に認める「無知の知」って大事なことなんだよね。

No.1073 7点 ピラミッドからのぞく目- ロバート・シェイ&ロバート・A・ウィルソン 2022/11/13 13:32
評者にしては珍しく、昔読みかけて挫折した本。70年代の伝説の奇書として悪名高いからには、ぜひとも再チャレンジ!
要するに「酔う本」。「車酔い」とか「二日酔い」とかの部類で、昔挫折したんだよね。「今誰が何している」がポンポン跳びまくるので、読書の平衡感覚みたいなものが狂ってくるわけだ。それでもこの本はOK。「読むドラッグ」といえばそんなサイケデリックでアナーキーな本だから、流れに逆らわずに身を任せれば、それなりに楽しめる。「酔う」のはセンスを平衡に保とうとするからなんだね。

この作者たちはまるっきりの能なしよ―文体も、構成もなってないわ。出だしは推理小説風なのに、SFなったかと思うと、怪奇ものになるし、気味悪いほど退屈な何十というテーマをめぐるめちゃくちゃに細かい情報がぎっしり詰まっているの。

と作中で「書評」というかたちでメタにこの本の評が入っているような本!

左翼系雑誌社が爆弾テロによって破壊された。刑事が見つけたのは、ケネディ暗殺の裏やアフリカの小国でのクーデター、ラスベガスで開発される細菌兵器などなどで暗躍する秘密結社イルミナティに関する膨大なメモだった。黄金の潜水艦の艦長でアナーキストのハグバードは、このイルミナティと戦い続けていた。雑誌社の編集長と記者、刑事たち、性的ヨガのインストラクターなどが、学生運動の挫折を引きずりながら、セックスとドラッグにまみれつつアナーキズムの旗の下に結集しつつある...

う~ん、話を要約すればそうなんだけども、まとめとしてはイマイチ伝わらないな。日本じゃアナーキズムとかリバタリアンって受け入れられ難いこともあって、原著は1970年代のベストセラーなのにようやく邦訳は2007年。海外のカルチャーには絶大な影響を及ぼした本なのに、日本じゃ時期を失したこともあって、全然話題にならない。この本の大テーマは「陰謀論」なんだけども、その「陰謀論」で隠された秘密がたとえば「陰謀論は全部ウソ!」とか、悪質なメタ(自己参照)なジョークに近いものだったりする。陰謀論で一山当てたい「ダ・ヴィンチ・コード」なんかとは対極みたいなものだよ。

宇宙はぼくたちを騙しているのさ。いい加減なことを吹きこんでね。

世界が正気と呼んでいたものが現在の惑星の危機を招いたんだ。だから正気でないことだけが実行可能な代案なんだよ。

モンティ・パイソンをさらにサイケにしたような小説? まあまださらに「黄金の林檎」「リヴァイアサン襲来」に続くから、どうなることやら....

(不和の女神エリスを崇拝する「自己破壊的ダダ禅」ディスコルディア派みたいなハッカー流パロディ宗教のネタやら、The KLF の Justified Ancients of Mu-Mu の元ネタやら、評者は結構懐かしい...)

No.1072 5点 アップルシード- 士郎正宗 2022/11/11 21:27
サイバーパンクの話の続き。評者他人に本を借りパクされたり差し上げたりはよくするのだけども、本作は珍しく、逆。映画館で知り合った若い方に布教されて、いただいた本(2巻まで)。確かにアノ時代流行った本なんだが、評者オトコノコじゃないせいか、どうもピンと来なかった。まあだけど今回80年代サイバーパンクをテーマにしたからには、続きも読もうじゃないの。

言ってみればSF仕立てでポリスアクション。でも捜査はしなくてSWAT所属だから、突入とか荒事の専門職。最初の2巻はやや話がつながっていて「長編」という印象もあるけども、3・4巻あたりになると「アクション」はあっても事件の起承転結がはっきりしなくなって、物語の輪郭が読んでいてちゃんと取れない。未完作ではあるけども、「大きな一つの物語」になるというよりも、「そういう日常話」みたいに読むしかないのかな。「日常」とはいえ、過剰なSF考証とミリ知識の蘊蓄で物語が押しつぶされるような印象。でこの人、絵のデテールに凝りすぎる反面、結構絵づらで把握される内容がコマの間で「飛んで」いるような...だから絵で見たときの「話」の繋がりがわかりづらい。

サイバーパンク、で言えば、サイバースペースはなし。パンク要素もなし。ジャパネスクも目立たない。生体工学が発達して、人間をベースにしたバイオロイドとの共存、というのがテーマなんだけども、そうエグい話になっているわけでもない。設定過剰なSFに「サイバーパンク」が乱用された時期だから「サイバーパンク」だったのかな。美少女メカ漫画の典型なんだけども...パトレイバーと並んで、「女の子がフロントで、男がバックアップ」のパターンを作った作品でもあるわけだ。

すまぬ、評者が一番相性が悪いタイプの作品みたいな気がする。本を下さった方には申し訳ない。

No.1071 7点 虹龍異聞- 湊谷夢吉 2022/11/10 23:17
80年代和製サイバーパンクの話題の続き。
評者は面識はなかったけど、映像関係で夢吉周辺の方とはお付き合いもあった。まあ、80年代にアングラ系の漫画に関心があった人なら知ってる作家だとは思う。70年代をヒッピーで放浪して過ごし、70年代半ばから映画制作や漫画を書き出して、北冬書房の「夜行」を中心に作品発表していた人である。でも1988年に38歳で夭折。漫画家としての活躍は10年弱ほど。それでも80年代初期には戦時下の満州や上海を舞台にした活劇の「魔都の群盲」が「作り込み」の凄さでサブカル系では評判になっていた。
この本は夢吉没後に追悼の意を込めて「魔都の群盲」以降の作品を収録した作品集。ほぼ戦時下の中国に舞台を設定した活劇作品だけの「魔都の群盲」から、同じ戦時下の中国でも、宇宙から飛来した謎の生物が絡むSFネタの「虹龍異聞」や、やはり満州の活劇でも満映を仕切った甘粕正彦が登場する「無用の天地」と題材が広がってきだだけではない。「挫折した青春」にこだわった「私的」な作品から、よりエンタメ的になってきて「大人感」がでてきたところでの夭折で、大変残念がられた作家でもある。つげ義春と夢野久作とブレードランナーが共存しているような作家...

今回取り上げたのは、夢吉の新しい題材としてサイバーパンクを取り上げた「ライプニッツの罠」が収録されていることが大きい。近未来の京都、京都府警特務課、通称「新撰組」に所属の刑事宮戸は、伝説的な開発者&起業家の尾友克巳(大友克洋のモジリ)の依頼で、研究所から脱走したアンドロイドを回収するアルバイトをする。まあだから、映画の「ブレードランナー」に刺激されて書いたことが明白な作品なんだけども、それでも独自の色付けやリアライズがあって、「夢吉作品」にしっかり、なっている。描いたのが84年(雑誌発表は86年)、反射神経の鋭敏さを誉めるべきだと思っている。

僕はオカルティズムや量子力学の安易な東洋思想化には批判的だったのだが、近頃はそうでもなくなったよ

とかね、これは韜晦。「非ノイマン型ホロトロン浮遊メモリ・トレーシングバイオ・シミュレーター・フィードバック・リンケージシステム」とか吹いていてくれている。サイバースペースは特に登場しないが、曼荼羅風のイメージが印象に残る。パンク要素は「ブレードランナー」的な荒廃した「アジア的」な京都。ジャパネスクは言うまでもなし。まあだから、映画「ブレードランナー」が原作には薄いハードボイルド要素を強調したこともあって、「ライプニッツの罠」もSFハードボイルド私立探偵小説、といった格好にはなっている。

あとミステリ的には、「蒼ざめた皇女を視たり」が夢野久作「死後の恋」と同じく、ロシア革命の渦中で殺害されたとされる皇女アナスタシアをめぐる話。ラスプーチンまで登場して、呪力で浮上し飛行する空中戦艦で、アナスタシアが亡命しようとする....幻想性が前に出ていて、この人逆にファンタジックにすることで「リアルにこだわるオタク性」が薄まって一般性が出てくる、という特異な面がある。「幻想性」で成功したのが「ブリキの蚕」で、要するにロボット三等兵な話なんだけども、つげ義春タッチで祝祭性が出ていてちょっとした奇作だと思う。

いやいや、もう少し生きていたらどんな作品を描いただろう、と惜しまれる作家だった。

No.1070 6点 凱羅- 板橋しゅうほう 2022/11/09 15:17
「ブレードランナー」やら「AKIRA」で80年代にサイバーパンクが流行したわけなのだが、日本では漫画が中心だった印象もある。評者ここらへんに引っ掛かりがあるので、懐かしい、というのもあって取り上げよう。
まず本作。いや双葉社「月刊スーパーアクション」読んでたよ。「西遊妖猿伝」「2001夜物語」「護法童子」やらやら、ニューウェーブSF漫画誌だもの。「スーパーアクション」の末期で一番注目していたのが本作。だけども単行本2巻出して「スーパーアクション」が休刊すると、間を開けてアスキーの「ログアウト」に移籍して連載・完結。前半はサイバーパンクの色彩が強いけど、後半はファンタジックなマーベルコミック、と登場人物や絵柄はあまり変わらなくても作品の力点が変わっちゃったので、前半7点、後半5点。なのでこの評も前半を主眼に取り上げる。
舞台は「文化首都京都」。主人公の善鏡は坊主頭の元「機動僧兵」。善鏡は「つつあるき」というデジタルデータをそのまま聴覚を通じてリアルに体験する能力を持っていた。丸木沢製薬が秘密のうちに研究する「凱羅因子」に関わる秘密を善鏡は秘めていたのだが、丸木沢が「凱羅虫」のかたちで管理していた「凱羅因子」の暴走(凱羅虫に刺された男性は怪物化)により、京都に地獄絵図が...
という導入。サイバースペース要素は「つつあるき」で、ICE(侵入者対抗電子機器)に引っかかって善鏡が失明するシーンなど完備。ジャパネスクは言うまでもなし。パンク要素も善鏡の仲間になる「凱羅六花撰」のうち十左や敵役のマッドサイエンティスト、カーマインのキャラづけに影響がある。いやマジメにサイバーパンクしているし、善鏡が丸木沢の研究所に潜入して秘密を探るあたりのアクションホラーもよくできている。恐怖を克服して怪物化を「飼い慣らして」しまうカーマインのキャラクターも秀逸。

板橋しゅうほうというと、アメコミの影響が強い漫画家なんだが、70年代後半〜80年代初期というと、たとえば大友克洋へのメビウスの影響やら、風忍のドリュイエ、あるいはアニメなら「ファンタスティック・プラネット」の日本公開といったかたちで、手塚風でも劇画風でもない「ニューウェーブ」の波に乗った作家になる。後半なんて本当にマーベルだしね。サイバーパンクとしては尻切れトンボなのが残念。

「スーパーアクション」の連載で「どうなったのか?」が評者ずっと気になっていた。だから本サイトでサイバーパンクやろうか、で後半も改めて読んで、取り上げることができてうれしい。この作品、ジョジョの第三部とか影響していると思うんだが...

No.1069 8点 虐殺器官- 伊藤計劃 2022/11/08 22:07
さてこれは一度読んでみたかった作品。でもちょっと期待が大きすぎたかな。それでもウクライナ戦争みたいな「管理された戦争」真っ只中の「今」を描いて秀逸な作品なのだと思う。

平和なニッポンで暮らす私たちはみんな「罪」がある。これは改めて言うまでもないことなのだが、それを「ドミノ・ピザの普遍性」と形象化されてみれば、商業化された「生」以外の生きようもない「わたしたちの生」というものなのだ。商業化、はそのまま「家畜化」でもある。
「自分の見たいものだけを見る」という「(家畜の)自由」によって、わたしたちは自分の目を塞いでいる。皆それぞれの「罪」を背負っているのだが、「罪のクオリア」というものを想定したら、「他人の罪」は「クオリア」としては理解のしようもないものだ。いやだからこそ、「われわれはみんな、他人の不幸を平気で見ていられるほどに強い」のである。わたしたちは皆すでに「戦闘適応感情調整」されているわけだ。
しかし「耳にはまぶたがない」からこそ、「虐殺の文法」は忍び込むことができる...SNSのエコーチェンバーのどこかに「虐殺の文法」が仕込まれていないと、誰が断言できるのだろうか?

だからこそ、この小説は「今」の小説だし、「ニッポン」の小説でもあるわけである。力作。

No.1068 7点 ルーフォック・オルメスの冒険- カミ 2022/11/08 18:23
評者のユーモア・シリーズもそろそろ終わりに近づいてきているけど、これやらなきゃ、ダメでしょ!で図書館で探したんだけど....あれ?あるはずだけど、見当たらない。

理由は評者がこれが「戯曲」扱いだと気がつかなかったんだ(苦笑)。図書館で探すときにはちょっと落とし穴。まあでもさ、「戯曲」って言ってもコントの台本の形式で、ト書は最小限。それぞれ翻訳文庫本で8ページくらいのものが全34本。スピード感に乗せて一気に読めちゃう本である。

要するに「考えさせちゃ、ダメ」ということ。奇抜なシチュエーションの上に、さらに「んなアホな!」というオチをオッ被せて読者の度肝を抜く。まさに「速攻」で読者はたまらず土俵を割る、好きな話は「聖ニャンコラン通りの悲劇」(キャッと空中...)「シカゴの怪事件」(復活祭のために鐘がローマと往復する!)「《とんがり塔》の謎」(シーツの出現の謎)
いやいや実はロジックがあるんだよ。ただしそのロジックが奇抜なシチュエーションを前提にした「ありえない」ロジックだから、力技で一気に押し切られることになる。だからこれはこれで「本格」なんだと思うんだ.....「あなたがカミか!」

No.1067 7点 マイクロチップの魔術師- ヴァーナー・ヴィンジ 2022/11/07 17:46
GNUの総帥でハッカーの生き神、R.S.Stallman がこの小説を「ハッキング精神をもっともよく表現している」と評したことで有名な、サイバーパンクの先駆と評される中編小説。

サイバーパンクSFを「ジャンル」として見たとき、特徴的な要素として
・サイバースペース(意識拡張・変性意識)
・技術の過剰な発達と頽廃、それに対する反抗(パンク要素)
・ジャパネスク(西洋文明との葛藤)
が「ニューロマンサー」を整理したら抜き出せるのだけども、意外なくらいにこの3つが揃った作品って少ないんじゃないかと思う。本作はサイバースペースに特化した作品で、「脳波によるプログラミング」というアイデアでサイバースペースを実現している。サイバースペースをRPGみたいな中世風の衣装を被せて表現することのオリジネーターになるわけだ。
でもそれを「ファンタジーとの融合」というようなありきたりのアイデアにしないあたりで「サイバーパンクの先駆」という評価に繋がっている。「心の社会」のマーヴィン・ミンスキーがこの本の解説で明らかにしているのだが、「ファンタジーの衣装」を「インターフェイスの問題」として捉える視点がある、というのがキモなんだよね。
インターフェイスは「使う人」の都合によってどんなものであっても構わない。同じサイバースペースに居たとしても、それぞれが使うインターフェイスには共通性がないこともある....いや実はこれは、現実社会での「人間同士のコミュニケーション」でも同じことなんだ、というのが一回り回ったサイバーパンクな結論でもあるのだ。

いやでも、この作品結構ミステリ風味がある。サイバースペース経由で世界を征服する陰謀の背後にいる「郵便屋」の正体もさることながら、主人公と一緒に「郵便屋」と戦ったエリスリナの正体もなかなか泣かせる、というかちょいと評者憧れるものがあるなぁ。

(今時だと<真の名前>は「接続元IPアドレスから開示されるプロバイダ契約者情報」ってことになるんだったら興ざめなんだがなあ...多段串の時代じゃないし)

No.1066 4点 ボートの三人男- ジェローム・K・ジェローム 2022/11/07 12:29
「三人男」ユーモア小説つながりで本作。だけどちょいと失敗。

ヴィクトリア朝ユーモア小説の代表格。1889年だからホームズのデビューと同じ時期にあたる。ウッドハウスみたいなものを期待したんだが、「クスッ」とは笑えるけども、ストーリー性が薄い。

主人公の「ぼく」が二人の友人と犬と一緒に、ロンドン近郊からオックスフォードへ、テムズ河をボートで遡上する二週間の旅の話。本来旅行案内として書かれたらしい。ボート旅行の奮闘記やら沿岸の名所旧跡の由来話、それに大げさな美文による自然礼賛...でも話はいつもいつも脱線し、ヘンテコなエピソードを次から次へ紹介する「小話」の連続体みたいなものである。

一言でとりとめのない小説。話を追っちゃったりせずに、テキトーに読むのがたぶん正しい。それこそ夜寝る前に5ページくらい読んで、幸せな気分になってぐっすりオヤスミ。そういう小説だろうね。

言うまでもなくミステリ味はなし。失礼しました。

No.1065 8点 雪の中の三人男- エーリヒ・ケストナー 2022/11/06 09:56
「消え失せた密画」が面白かったからね~ケストナー・ユーモア三部作は全部やろう。主人公は百万長者なんだが...

人間てものが実際どんなもんだったか、もうちっとでおれは忘れっちゃうとこだったからねえ。おれは自分のはいっているガラス室をぶち毀してみたいんだよ。

枢密顧問官でコンツェルンの主、べらんめえが素敵なトーブラーは自分の工場主催のコピーライト懸賞に偽名のシュルツェで応募した。結果は二位入賞。一位は失業中の青年ハーゲドルン。この懸賞の賞品は「アルプスの高級リゾート十日間」。百万長者は貧乏人シュルツェに身をやつすが、トーブラーの下男(というか従僕?)のヨーハンを身代わりの「金持ち」に仕立てて同行させる。失業青年ハーゲドルンは一張羅を着込んでホテルへ....トーブラーの身を案じる娘ヒルデは、滞在先のホテルに「百万長者が身をやつして滞在する」のを知らせたが、ホテルでは失業青年ハーゲドルンが百万長者だと思い込んでしまった!

という設定。本当の百万長者シュルツェはホテル側から「そぐわない客」として冷遇されるが、シュルツェの側ではそんな冷遇を「人間観察の好機!」と逆に楽しんでしまう。ハーゲドルンとはヨーハンともども親交を深めるが、ハーゲドルンに思惑から言い寄る貴婦人が、邪魔なシュルツェを排除しようと策謀する。さらに父を案じる娘ヒルデもそのホテルに泊まりに来てしまう。幾重にもこんぐらがった「偽装」の結末は?

いや~実に面白い。ユーモアと言ってもそれが設定とシチュエーションから来るものだから、この設定ですでに勝っているようなもの。さらに「三人男」それぞれのキャラが「見かけ通りじゃない」ヒネリが入っていて、これが絶妙の面白さを生んでいる。「三人男」が高級スキーリゾートを堪能する開放感もあるし、最後はみんな幸せになるイイ話。もともとハリウッドから依頼された映画脚本を自分で小説化したものだそうだから、身元偽装が定番の「スクリューボール・コメディ」の典型かつ最上の出来のものじゃないのだろうか(1934年だから「或る夜の出来事」と同じ年!)

「消え失せた密画」よりも面白いけども、ミステリ味は「密画」よりも薄い。でもね、

みんなが見かけどおりの人間じゃなかったんだねえ。ぼくって大馬鹿者はそいつを全部真に受けたんだ。ぼくは探偵にならなくってしあわせだったよ!

ひょっとして「反-探偵小説」かしら(苦笑)ミステリファンにこそオススメ。

No.1064 7点 予告された殺人の記録- ガブリエル・ガルシア=マルケス 2022/11/04 14:34
昔映画を見て、その流れで原作を読んだ記憶がある。映画は当時評者がご贔屓だったフランチェスコ・ロージの監督作。ボリビア・ロケを敢行し、ギラギラ・埃っぽい映画だった記憶がある。

改めて読んでみて、何というのかな、大変「儀式的」な事件だったようにも感じる。「宿命」の流れが街の無意識と化して、祝祭によって解き放たれた...それが演出する、一大ページェントのような事件なのだ。だから誰もがサンチャゴ・ナサールが「殺される」ことを予期し、さらにはそれを止めようとした友人たちも「無意識」に呑まれてしまって、止めることができない...いやいや「犠牲の羊」たるサンチャゴでさえ、例のセリフによってあたかもこの結末を予期していたかのようなのである。こういう事情が事件に関わったそれぞれの人物の視点で何度も何度も繰り返し語られる構成。記述は重複しつつもそれが「ゼロ時間」である殺人の現場へと次第に吸い寄せられていくような複雑な運動感を示している。

「ジュリアス・シーザー」みたいなものなのである。予言されたからには、それに呪縛されて誰もそれが止められない...

これほど十分に予告された殺人は、例がなかった。

この「予告」は「予言」やら「神託」と同等のものなのである。「予告された殺人の記録」というタイトルに、この作品の内実がすべて集約されている。

No.1063 5点 死はいった、おそらく......- ボアロー&ナルスジャック 2022/11/03 13:40
ボア&ナル本サイトに全部あるか?と思ってたら本作まだのようだ。
なので中期の作品。初期ほどには心理的な混乱がないので、読みやすいスリラー。

保険会社の社員ローブは、ニースの自殺防止協会の視察で、自殺予告の電話対応を見ていた...深夜に電話をかけてきた女への懸命の説得も甲斐なく電話を切った女。その通報を受けた警察はホテルで自殺を図った女の命を救う。ローブは自殺を図った女ズィナを見舞い、ズィナの身の振り方の相談に乗って、友人の香水工場に仕事を紹介した。ローブはズィナに恋をするのだが、ズィナは度重なる事故に追い詰められて自殺を図ったらしい。しかし、新しい環境でもズィナを巡ってさまざまな「事故」が起きていく....この「事故」の真相は?

という話。「自殺念慮の強い女性」に恋をしてしまう男、というのもまあ厄介なもので、そんな男のややこしい心理を主体にしたサスペンス、ということにはなる。ボア&ナルの通例で登場人物はごく少ない。だから、真相は...といえば何となく見当がついてしまうのが「ミステリ」としては不満だし、それを押し切れるほどの「強烈なサスペンス」というまでのものは立ち上らない。

結論としては標準的なボア&ナルのサスペンス。手の内が分かっているから、ごく普通に楽しめるけど?というくらい。
ただし、タイトルのセンスが素晴らしい。マネしたいくらい。

No.1062 5点 カリオストロの復讐- モーリス・ルブラン 2022/11/01 18:41
「カリオストロ伯爵夫人」をやったからには、その後日譚の本作。
「伯爵夫人」がルパンが「ルパンになる前」のデビュー戦を描いた作品のわけだが、この「復讐」ではもう50歳、老境に入るルパン。「伯爵夫人」では、クラリスの産褥による死と生まれた子供ジャンの誘拐という悲劇が幕切れに用意されているのだが、この誘拐されたルパンの子、ジャンの話が落着しないと、「ルパンの人生」が落着しない....そういう大きな構成で書かれた「ルパン、完結編」のわけである。
実際、ルブランは「虎の牙」で一度ルパンものを止めようと思ってたそうだが、そうもいかずリブートした「八点鐘」に続く長編が「伯爵夫人」(1924)。この時点で本作(1935)の構想が出来ていた、ということになる。とはいえ、本作の後に2作ありそれが時系列で本作より後にはなっているけども、「ルブランの名誉を傷つける」とルブランの息子が封印したという話。だからやはり、本作がルパン・サーガ最終作、と捉えるのが収まりがいい。

なんだけども、やはり71歳のルブランの筆力は衰えている。「伯爵夫人」の熱気と比較したら全然だめ。本作は過去作の登場人物をいろいろ登場させたりとか、大団円を目指した「老境のルパンの心境小説」みたいなもの。だから冒険が盛り上がらない。ルパンの息子、と思われる人物が登場するのだが、その「息子」にカリオストロ伯爵夫人がかけた呪い「息子を泥棒にせよ、できれば殺人者に。そして父親と対決させよ」が効いているのかそうでないのか?を巡って、父親ルパンが悩む話。カリオストロ伯爵夫人の死もそれに立ち会った人物の証言が作中で語られる。

バレだけども、最後まで「親子の名乗り」なんてない。そんなの粋じゃないからね。そういう節度は最後までしっかりある。面白いとまではいかないけども、がっかりまではしない。

クリスティ再読さん
ひとこと
大人になってからは、母に「あんたの買ってくる本は難しくて..」となかなか一緒に楽しめる本がなかったのですが、クリスティだけは例外でした。その母も先年亡くなりました。

母の記憶のために...

...
好きな作家
クリスティ、チャンドラー、J=P.マンシェット、ライオネル・デヴィッドスン、小栗虫...
採点傾向
平均点: 6.46点   採点数: 1081件
採点の多い作家(TOP10)
アガサ・クリスティー(97)
ジョルジュ・シムノン(73)
エラリイ・クイーン(45)
ロス・マクドナルド(26)
ジョン・ディクスン・カー(23)
エリック・アンブラー(17)
ウィリアム・P・マッギヴァーン(17)
アーサー・コナン・ドイル(16)
ダシール・ハメット(15)
イアン・フレミング(15)