皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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クリスティ再読さん |
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| 平均点: 6.38点 | 書評数: 1679件 |
| No.1679 | 6点 | 少年エスパー戦隊- 豊田有恒 | 2026/11/01 16:08 |
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| 必要があってスタージョン「人間以上」を再読したので、思いついて本作。別々の能力を備えたエスパーたちが集団戦をする話。早い話「サイボーグ009」みたいなもので、子供向け「エスパイ」。
主人公がテレポーテーション能力者、というのがやや奇手の部類かな。早々とテレパシー女子と知り合うから、それで話の軸ができてくる。超天才・テレキネシス、と定番能力の少年少女が仲間になり、さらには透視能力はちょいと意外なキャラ。でソラリス連邦なる敵国とのエスパースパイ戦になるわけ。まあ敵方能力が空想爆発でトンデモ能力多数。どこまで「吹ける」か?の勝負で、忍法帳とあまり違いがないな(苦笑)いや、子供たちで原潜を乗っ取るとか、東海村の核ジャックに対応するとか、まあとにかく吹いてくれる。昭和ジュブナイルSFらしさを感じられて、こういうのも悪くない。 角川文庫で読んだので併録の「植民星アルテアⅣ」は「11人いる!」みたいなもの。植民宇宙船を舞台にした生存競争と、民主主義についての寓話みたいな話。ジュブナイルの枠内で本格SFを志向している。1971年の高2コースの別冊付録で発表だそうだ。なら「11人いる!」に先行するよなあ。 |
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| No.1678 | 7点 | 恐ろしき四月馬鹿- 横溝正史 | 2026/10/31 16:02 |
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| kanamori さんの書誌に少し追加。その後柏書房での横溝正史ミステリ短編コレクションの1巻目として「恐ろしき四月馬鹿」のタイトルで角川書店単行本版(計28作品)が、新たに校訂をし直して出版(2018)されました。評者の読んだのはこのバージョン。なので、角川文庫「山名耕作の不思議な生活」収録分についても併せて書評します。
本書収録は正史のアマチュア時代~編集者兼業時代の作品集。大正末に上京して博文館に就職することになる。そして「新青年」の編集~編集長になり、「モボ御用達雑誌」として「新青年」の売り上げに貢献したわけだが...実は横溝編集長時代に「探偵小説偏重はいかがなものか?」とユーモアや都会派短編重視のモダン路線に舵を切ったという経緯があり、乱歩との関係に齟齬もあった。というわけで、確かに大正期の方が「探偵小説」らしさが強く出て、その分習作っぽく、昭和期の方がモダニズム小説風になるが、小説家としての腕が飛躍的に向上している。 言い換えると、「新青年」=探偵小説というパブリック・イメージも間違っているし、この時期の横溝正史は「モダニズム小説の書き手」としてそれなりの成熟もしているのである。だから、本書収録のモダニズム小説期、「鬼火」などの戦前耽美ミステリ期、戦後金田一本格ミステリ期、とそれぞれ独立してとらえた方がいい。 もちろん初期には「探偵小説」っぽさが強い作品はいくつかあり、それがファン時代の正史の関心範囲を示している。スパイ小説風味の「深紅の秘密」、本格味の強い「画室の犯罪」、倒叙の「裏切る時計」などが特徴的だけど、一方でのちの「鬼火」などの怨念ドロドロな作風に続く「赤屋敷の犯罪」が印象的かな。のちの作品関連でいうと「蝶々殺人事件」の楽譜暗号を先取りした「悲しき郵便屋」なんて作品もある。実はこれ、暗号での「データの無視」という重要なポイントがあって興味深い。しかし逆に都市奇譚といった体裁で関西弁での語りが面白い「災難」やら、軽妙な都市小説になっている「飾り窓の中の恋人」とか、女性の断髪の流行をひっかけたコント風の「断髪流行」など、作風の幅広さ、モダン小説としての面白さが表に出てくる。 そして昭和期に入ると、モダン小説の側が開花する。やはり「山名耕作の不思議な生活」の奇妙な味わいがいいなあ。犯罪は関係なく、都市住民の奇行の原因を考現学的にうまくまとめたモダン小説としか言いようのない話なのだ。横溝が編集長として相方に起用したのが、モーニングにシルクハットをトレードマークにした渡辺温。というわけでオシャレ方面にもテーマを取った「ネクタイ綺譚」もある。編集者として乱歩の代作をせざるを得なくなった「あ・てる・てえる・ふいるむ」は、いやこれ結構モダン小説として名作だと思うよ。珍しくぬめっとした文体は乱歩の模倣かな。「乱歩作品」として評判がよかったのも頷ける。「二人の未亡人」は結構wokeな偽善を風刺したコントだが、一転「丹夫人の化粧台」はミステリ仕立てだけども事実上はホラー。と編集者として周囲のクセモノ作家たちに刺激され揉まれに揉まれたジャンル・クロスオーバー作家として、手広く書いている。「金田一耕助の横溝正史」を期待しないのならば、なかなかいい作家であることは否定できないんだ。 まあそれでも水谷準・城昌幸ほどのロマンの核は薄く、非常に器用な作家という印象が強い。戦後の金田一モノでもこういう達者さが端々に見え隠れして、「なんでも書ける器用な作家だなあ!」という賛嘆の念を評者は強く持っているのだが、まさにこの時期の修行の成果なのだ。 (アマチュア時代は舞台が神戸で、神戸の独特な雰囲気を活写していていいよ) |
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| No.1677 | 5点 | 真夜中の意匠- 斎藤栄 | 2026/10/29 09:06 |
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| 乱歩賞受賞後第一作。初期の斎藤栄ってかなり本格色が強いから、本作はアリバイ崩し...鮎哲さんならさまざまな容疑者がそれぞれアリバイを申し立て、いくつかは偽アリバイだったりして長編の興味を引っ張っていくわけだけど、本作では、同じ人間がいくつもいくつも偽アリバイを申して立てて、それが何度も暴かれる、という仕掛けた話になっている。
趣向はわかるし、意欲があるといえばそう。否定はできないけど、4つあるアリバイの最初の3つが、ひねりがなくてつまらないんだよね。メインのアリバイは旅客船を使った仕掛け。盲点といえば盲点なんだが弱点が多く、まあ、今の読者に歓迎されるようなものではないなあ。そして4つのアリバイの狙いは? 改めて言うけど、趣向はわかるし、意欲はある。しかし、なんか魅力的でない。困った...斎藤栄の初期のストリック理論とかちょっと取り上げたい気持ちもあるんだけどねえ。 あと文章が下手というよりも雑な印象。ここらへんが斎藤栄という作家があまり重んじられない理由なのかもしれないなあ。 (ちなみにダブルランの8ミリカメラで、船のアリバイの証拠映画を作っている。いいなあ。でも当時のフィルムだと夜間室内は感度が厳しいんだよなあ) |
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| No.1676 | 5点 | 鉄仮面- 黒岩涙香 | 2026/10/28 09:31 |
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| 江戸川乱歩なのに、乱歩全集にない作品、として「死美人」と並んで有名作。同じボアゴベ原作・黒岩涙香翻案なんだけど、「死美人」は「乱歩現代語訳」も大人向けなのに対して、「鉄仮面」は児童向け。「死美人」の方はまだ1970年代の桃源社や近年の河出書房新社からの刊行があって、入手困難ではない。さらに、似た立場の「黄金虫」も最近中公文庫から刊行されてしまった。としてみると、レアな立場にあるのが本作ということになる。それでも刊行自体は何度もあったようで、さほど入手が難しい、というほどでもないか。図書館にあった講談社「世界名作全集(5)」(昭和35年11月・柳川剛一の挿絵)にて。
ボアゴベ「鉄仮面」というと、もちろんデュマでダルタニャンが活躍する三銃士シリーズのあれとは完全な別物。涙香翻案で日本ではそれなりに有名だったのだが、「原作が見つからない!」ということで謎本となっていたけども、松村喜雄氏が「サン・マールの二羽のつぐみ」であることを発見して、長島良三氏がパリ国立図書館からコピーをもらって翻訳したのが、今講談社文芸文庫に収録されているものだ。 で...なんだけど、なぜ乱歩全集に収録されないか、といえばもちろんそれは代訳であり、実際に翻訳したのは渡辺兄弟?とも言われているからだからね。もちろん乱歩自身の前説「この物語について」がついてくる。 私は少年時代に、この「鉄仮面」の翻訳を読んだ時のおもしろさを、今でも忘れることができません。何十年というながい間、鉄の面をかぶせられたまま、くらやみの牢獄にとじこめられていた主人公の、何ともいえぬふしぎな、ものおそろしいすがたを、ゆめにまで見たほどです。 とまで乱歩は書いている。戦前で超売れっ子だった頃の乱歩ではあるけども、やはり単なる名義貸し以上にプロデューサー的な立場にあったと想像するのも、この文章の熱意からすればおかしくはないだろう。 なんだけどねえ、長島訳のボアゴベ「鉄仮面」の内容が明らかになると、かなりこの小説の「おもしろさ」がボアゴベの原作ではなくて、涙香の創作部分にあったようでもあるんだよね(すまぬまだそっちは未読だ)。 ルイ14世の長い治世の始め、反政府勢力指導者モーリス隊長は、恋人のバンダ嬢と運命によって引き裂かれる。囚われの鉄仮面をモーリス隊長として救出しようとする、バンダを中心とする陰謀グループが何度も何度もモーリス奪還を試みては挫折する。最後はスペイン継承戦争でのオーストリア軍侵攻でやっと老境に入った二人が再会する....「すれ違いメロドラマ」だなあ。まあだから、なかなか歯がゆい話。約30年間の苦闘の末に、やっと... でもね、このハッピーエンドは、どうやら涙香の創作のようだ。原作からの翻訳ではなかなか非情な結末が待っているらしい。だからか、このバンダ嬢の奮闘と精励努力にも、このハッピーエンドであってさえ、無常観みたいなものが漂っているよ。 (さらに言えば前半ラストの火刑場面から後半まで時間が飛ぶけど...表現を濁しているね。そういうことのようだ) |
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| No.1675 | 6点 | 沈黙のセールスマン- マイクル・Z・リューイン | 2026/10/25 20:23 |
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| 全然ハードじゃないネオハードボイルド。その代表選手アルバート・サムスン。いやサムスンなんだから力持ちであって欲しいんだが、殴られてばっかり。それでも一瞬仲良し刑事をぶん殴って逃走?ww
でこの話、製薬会社のセールスマン兼研究者が事故で製薬会社経営の病院に入院。でも家族が合わせてもらえなくて不満。それが依頼。地方都市インディアナポリスの金欠探偵サムスン。そんなワケワカ依頼でも交渉の席に...こんな始まり。いや犬猫探しでないだけでもマシなのか。便利屋みたいなものである。 とはいえこういう話だとちょいと非弁行為は気になるよ。日本で交渉事を業として代理することは弁護士以外ダメだから、やったら一発アウト。アメリカでも厳しいは厳しいが、逆に弁護士の業務が明確化されていてその分多少の抜け道はあるのかな。別れた妻に引き取られた、大学生の娘に押しかけられて、所属探偵として登録しちゃう(苦笑)だから基本「ゆるい」話。 この「ゆるさ」がやはり持ち味だろうなあ。まあ事件も荒事は多くないし、サムスンが赴くところに死体がゴロゴロ、という話でもない。まあそれなりに事件背景もあり、ラストは殺伐としているが、ゆるゆる話が進行するゆるい話。殺人が中心にならないから、ミステリ度の薄い感じ、というのはあるけども、「消えた女」みたいな因習的な古さはなくて、それなりに現代のリアルを扱っている。あ、だから娘が探偵として活躍するわけでもない。そういうアザトさがないのが、なんというか、らしい。 |
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| No.1674 | 7点 | 利腕- ディック・フランシス | 2026/10/22 20:43 |
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| 何度も言ってることだが、評者フランシスって思い入れがない...それが最大の問題みたいな気がするんだ。やはりシッド・ハレーの造形への思い入れが本作の高評価のポイントになっているようにも思う。さらに複数の事件が同時並行に動くことをややメタにミステリ的に活用しているあたりや、終盤のミステリとしてのツイスト感とか、加点ポイントだらけな作品なんだ。
いやそれを否定する気はない。よくできている、と思う。さらに「強さ」と「弱さ」の弁証法みたいに処理しているのが、ウケるあたりだとも思う。ただ評者はどうもノレないなあ...う〜ん、評者はフランシスのいい読者じゃない。臆面もなくヒーロー小説というあたり、それを強調する仕掛けをあざとく感じちゃいけないんだろうなあ。 とはいえラストの最終対決はなかなか、良い。そっか、フランシスのヴィランってあまり魅力的なのがいない、ということでもあるのかな? |
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| No.1673 | 8点 | フールネの市長- ジョルジュ・シムノン | 2026/10/21 18:57 |
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| この東宣出版の「ロマン・デュール選集」もヘビイな作品が紹介されて「シムノンの別な顔」が窺われて興味深いのだが、本作はやや長め、二部構成。
主人公はシムノンお得意の「下層から成り上がった男」であり、その主人公の自罰的破滅という構図はもう飽きるくらいに描かれきた「シムノン必勝パターン」でもある。その中でも「強さ」という面では最強の主人公だろうなあ。海沿いの海老漁撈夫妻の子に生まれ、煙草商の女性に取り入り葉巻工場を経営するまでに成り上がり、それを背景に地方都市の市長として君臨する男ヨーリス。家庭には病身の名家出身の妻テレサ、家政婦ながらヨーリスとの間に男子を儲けたマリアがいる。ヨーリスは「厳しい」男、合理主義者として周囲を恐れさせていたが、その家庭でも「圧の強さ」から妻も家政婦も自らの思い通りにしないと収まらない....ある夜、ヨーリスの元を葉巻工場従業員の若者イェフが、女を妊娠させた後始末のためにお金を借りたいと訪れる。自他共に厳しいヨーリスはそれを拒む。そして無理心中しようとその娘を窓の外から狙撃して自殺する。その娘はヨーリス最大の政敵の娘だった...ヨーリスはこのスキャンダルをきっかけに町への支配権を強める。 だからこの男の「強さ」と、その「強い男」が自ら求めるような破滅願望、ならば話が類型的になる。そうじゃない。ラデックじゃないんだ。シムノンの通例でわかりやすい心理描写なんてしないんだ。ある意味強い責任感というか、テリトリー意識というか、そういうものが暴走する、と評者は見ていた。そしてそれはやはり「変わらないもの・手に入ったもの」への強い執着でもある。 ヨーリスの死命を制したのは、ヨーリス自身の精薄の娘エミリアである。家の恥でもあるが、ヨーリスは獣同然の生活しかできない自分の娘のケアを不十分ながら独占して妻にも家政婦にも手を出させようとしない。まさに聖域。この歪んだ領土意識の根底にあるのは、得られなかった「家庭の幸せ」への執着にしか見えない。 そして第二部ではヨーリスは「外」の世界で意外な女性との関係を取り結ぼうとするが、それもやはり「家庭の幸せ」を破壊した責任を(筋違いながら)自分が背負い込もうとする虚しい試みに見える。 いやなんか身に染みる話でした。ロマン・デュールの中期の傑作と言われるのが納得するけど、いやシムノンだからねえ、評者の読み方が外れているかもしれないよ(苦笑)そのくらい決定的な心理描写なんてまったくしない小説だから、ヨーリスの心のうちが全然理解できない、という人が多数いても少しもおかしくない。 「犯罪事件なしで作品として書き切った」ということで記念碑的に扱われているようだ。そういう意味じゃ事件を解決してくれるメグレ警視って、親切なんだなあ(笑) (さて、この東宣出版のシリーズもあと一冊「マランパン」で終わりなのかな?そろそろ刊行予告が出てもいいかも、という時期なんだがなあ。「マランパン」やったら評者のシムノン評もフィナーレとするか) |
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| No.1672 | 6点 | 針の眼- ケン・フォレット | 2026/10/20 10:44 |
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| 実は未読だった作品。言うほど冒険小説って読んでないんだ。なのでちょっとリベンジみたいな気持ちで臨んだ。
映画はドナルド・サザーランドだったな。すまぬ映画も未見だったが、サザーランドというと猫に頭突きカマして殺す狂人(ベルトリッチの「1900年」)のイメージが強烈。 本作読んでいて、孤島に暮らす仮面夫婦の話が出てきたら、「ハーレクイン?」という予想が早々とついて、実際、そう。エッチ描写が充実、というあたりでも「ハーレクイン風冒険小説」という評価はまさに適切。 いやだから、サザーランドと不倫して、という展開がなんか脳内で絵として浮かばないんだ(苦笑)偏見ではあるんだが、そのくらい1900年の印象が強烈。まあだから後半の攻防戦は「暗くなるまで待って」みたいなもの。 ヒトラーやチャーチルに始まって、逃亡する冷酷なドイツスパイ「針」と追跡側のゴドリマン教授とブロッグズ警部補、その他関係者諸々をカットバックで見せる手際の実録小説風味とか、達者なのは確か。ここらの印象は警察小説マンハント。 だから一種のクロスオーバー小説みたいに評価するのがいいんじゃないか、と思うんだ。 (そういや早川→新潮→創元と版権が移動した小説なんだなあ) |
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| No.1671 | 7点 | 13の密室- アンソロジー(国内編集者) | 2026/10/18 14:22 |
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| 昭和の名アンソロ・シリーズの第一弾。今じゃ本書収録の国産密室短篇はさまざまなアンソロに繰り返し収録されて、そこそこのマニアで一作も読んだことのない人なんていないだろ?レベルの古典アンソロである。1975年だもんなあ。「ロマンの復権」は始まっていたから、「新青年」に代表される戦前ミステリの紹介は始まっていたけども、改めて「密室」という切り口で鳥瞰的に集めてみた、ということに意味があった。
この本で紹介された短編が「珍しくもない...」と陳腐化したのは、逆にこのアンソロの名誉みたいなものだ。アンソロの歴史的価値というのは、作品以上に「この時代にこの編集意図で」が重要なんだということを改めて確認したいなあ。 まあねえ評者なんて虫太郎「完全犯罪」なんて何度読んだかわからないくらいだ(苦笑)だから逆に、このアンソロが「密室ミステリって、なかなか難しいものだ」というのを改めて確認する。実際「密室殺人」がホントにテーマになっている作品は、過半数になっていないと思う。わかりやすい例だと甲賀三郎の「蜘蛛」を密室小説と強弁するのは難しいし、大阪圭吉「石塀幽霊」もメインの興味は密室よりも特異な自然現象だ。高木彬光「影なき女」に至っては、三連続同手口密室が一種のミスディレクションになっている。 ならば巷間でいわれるように「なぜ密室にしなければならないか必然性がない」という密室ミステリへの批判以上に、密室ミステリを書く小説的モチベーションが実は課題だという風にも思うんだ。どうだろうか? 非古典作として、このアンソロでは佐野洋「密室の裏切り」、陳舜臣「梨の花」、中井英夫「聖父子」を収録。意外にそういう「密室小説のモチベーション」が、渡辺氏のアンソロジストとしてのメッセージだったのか?とも感じるんだよ。この三作はやはり「密室小説をどう書くか?」への真摯な回答になっているように感じるんだ。特にラストを中井英夫「聖父子」で〆たのは意図的だと思う。 密室ミステリというのは、密室という幻想に基づく小説だ。 この舞台裏をあからさまに示してみたのが「聖父子」なのではないだろうか。 |
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| No.1670 | 5点 | 人形パズル- パトリック・クェンティン | 2026/10/16 10:01 |
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| うんまあ皆さんの低評価がそのままだなあ。
PQのいいところ、ってサスペンスの中に描かれるリアルな人間性みたいなあたり、なんだよね。今回は「かる~く」飛ばしたスリラーで、フレドリック・ブラウンでも出来が悪い作品みたいな印象なんだ。濃密な心理サスペンス、とか期待しちゃうのが、当て外れて??となる。被害者がパペット作家だから、ちょっとした怪奇色を期待したんだけど、それも突っ込まない。なぜだ! いや猫さんもう少ししっかりしてくれてたら、何の問題もなかったんだよなあ。 どしたの?となるくらいにプロットが適当。でも筆力だけはある。それなりにサスペンスで釣られて読めちゃうから困った。ラストの真相、誰得級でがっかりする。 これならまだ時局小説でナチのスパイが...だった方が納得する。1944年作品である。ロスマクが「暗いトンネル」とか書いてた頃だよ。 (あ、アイリスくんが銀幕デビューしたそうだ。「迷走」で入院中、「俳優」で舞台デビュー、「人形」で映画デビュー。出来すぎなくらい順調に出世) |
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| No.1669 | 6点 | 宇宙の一匹狼- フレドリック・ブラウン | 2026/10/15 12:51 |
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| ブラウンというと、戦前はなんでも書く短編作家だったわけだけど、戦後はミステリはほぼ長編のみ、SFは長編も短編も、と比較的ジャンルの使い分けが偏ったことになる。5冊あるSF長編の4作目だからブラウンでも終盤。原題も「Rogue in Space」で邦題の「一匹狼」よりもさらに「無法者」というニュアンスが強いかな。いやガチのハードボイルド悪漢小説というべきで、読んでいて連想するのはまさに悪党パーカー。
名うての悪党クラッグが仕事で呼び寄せられた。しかしそれは罠。濡れ衣で逮捕されて裁判になるが、その判事で有力者のオリヴァーに逆に仕事を持ちかけられる。火星の天才科学者からあるものを奪う計画だった。クラッグはオリヴァーの計画に乗らざるを得ない...その計画の中で裏切られたクラッグを救ったのは宇宙を漂う「考える岩」だった! という話。ストーリーラインがブチブチと断続していて、かろうじてクラッグのキャラクターで統一されているという、なかなかイビツな小説なんだよね。だから客観的な出来がいいかといえば、悪い。しかしこの悪党クラッグのハードボイルドっぷりが徹底していて、それに妙な魅力がある。SF設定にあまり意味がないのでは?と思ってしまうくらい。究極に孤独で、自分のサバイバルだけに全フリの、肉食獣のような男一匹の話。最後の方など寂滅感さえも感じる。 出来は悪いが、評者は好き。ヘンな魅力がある小説。 |
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| No.1668 | 7点 | 江戸川乱歩と横溝正史- 伝記・評伝 | 2026/10/14 21:59 |
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| 乱歩と正史のダブル伝記みたいな労作である。まあ、乱歩も正史も回想の大好きな人だったから、本人の口から来し方をいろいろと語っているのを評者も昔から読んできている。だから、目新しいことがないか...というと全然そんなことはない。この本で評者が見て「なるほど!」となったあたりというと、
・二人の若い日、ミステリに関心を持ってマニアになっていくプロセス これは意外なくらいに二人とも語っていない。「新青年」前夜がどうだったのか、という話は極めて興味深い。長谷川天渓と馬場孤蝶の存在が大きかったようだ。大正11年9月17日の神戸大倉山市立図書館での馬場孤蝶の講演会で二人がニアミスしている、という興味深い話を掘り出している。森下雨村は早稲田での孤蝶の生徒にあたり、一時孤蝶が「日本で最も探偵小説に詳しい人物」だったそうだ。乱歩は涙香と押川春浪の影響が強いようだが、正史は春浪の秘蔵っ子の三津木春影の間諜小説が好きで、忘れられた探偵小説の祖の一人のようだ。三津木俊助は春影から名前をもらっている。 ・乱歩と正史の双方がお世話になった出版社の興亡史 博文館・講談社・春陽堂・岩谷書店・新潮社・光文社・早川書房・ポプラ社・角川書店といった出版社たちの栄枯盛衰を丁寧に描いている。日本の評論家は発表形態に対する関心と「著作というビジネス」への視点をどうも欠いていることに評者は不満が大きいのだが、情報がたんまり。 ・乱歩の「少年探偵団」シリーズと大人向けのリライト版の事情 けっこう版を変え何度もいろいろな体裁で出ていて非常に複雑。最終的にポプラ社で順次出ていたあたりは評者もリアルタイムで、直接に記憶がある。 というわけで、いわゆる作家論・ミステリ論的なものを求める人向けではない。 「大衆向け小説を書く」というビジネスについて、非常に示唆的な部分が大きい。「新青年」では正史が気難しい乱歩のお守り役の編集者として相対し、「宝石」では逆に乱歩が編集者として正史の面倒を見る。そんな相互的な関係とライバルとしての関係性を軸に語られる本。正史の方が年下なのに、やや作家デビューが乱歩より早い、というのが改めて興味深い。初期の正史もやんなきゃなあ。 |
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| No.1667 | 7点 | さかしま- ジョリス=カルル・ユイスマンス | 2026/10/12 14:29 |
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| でも普通人が面白がるようなことは、わたしにはちっとも楽しくないんですよ
これがテーマの小説(苦笑)澁澤龍彦の翻訳紹介で、日本の裏文学史上の必読級有名作となった、19世紀の美的生活者(オタク)が自分の愛好する物事を語りまくり、さらにはそれに中毒して健康を害して、引き籠り生活から脱出せざるを得なくなる話。事実上主人公フロルッサス・デ・ザッセント以外には登場人物が存在しない、という困った小説でもある。 健全なものはすべてダメ。カビが生えて腐りかけたものだけが至上の珍味。自然ではなく精緻かつ気難しく、矛盾を抱え込んだ「人工」のみが口に合う。そんなザッセントが自分の趣味だけで作り上げた田舎フォントネエに作った館。そこでザッセントは一人自身が愛好する絵画と文芸に囲まれて過ごす。第3章で紹介されるラテン文学、第12章のフランスのカトリック著述家たち、第14章のフランスの詩人たち、ここらへんに力が入っているんだけど、まあ14章のフローベールとかゾラとかリラダンとかマラルメとか、ここらへんくらいしかなじみ何てあるわけない。ルカヌスだペトロニウスだファルウ伯爵だヴイヨだとなってくると、さすがに手に余る(笑)でも澁澤の訳注がこんな話になるとがぜんリキがはいって、長々と注釈をしていくことになる。この「さかしま」っぷりが凄い。 それでも間奏曲のように、宝石をちりばめた黄金の盾の甲羅をかぶせられた亀の話とか、料理もなにもかも黒づくめの喪の晩餐会、ありとあらゆるリキュールを数滴づつ味わい口の中で「演奏」する口中オルガン、香水によってランドスケープを実現するなど、総合芸術的な奇抜なアイデアが盛りだくさんに紹介される。いやいいなあ。やってみたいよ(苦笑)でもこういうネタになると澁澤は訳注を入れないんだ。関心がないんだね(笑) サディズムは何よりまず、涜聖の実行、道徳的反逆、精神的放蕩、完全に観念的でキリスト教的な錯乱の裡にこそ存するのである。 とこの観念性のなかに「彼方」のジル・ド・レと黒ミサの予告がなされているようなものだ。だからこの「さかしま」が示した顛倒が、世紀末の近代オカルトの地ならしであり、なおかつ怪奇・オカルト小説を用意したとも読めると思うんだ。 |
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| No.1666 | 7点 | マリオネットの罠- 赤川次郎 | 2026/10/07 17:20 |
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| 赤川次郎の処女長編で名作の誉れが高い。
わりとベタなホラー色が強い作品だ。こういう人工世界的なところが、赤川次郎らしさ、といえばそうかもね。第一章の「館」とか「血を吸う薔薇」とかそういう世界に近いかな(苦笑)で、第一章「館」のホラー、第二章「街」のミッシングリンク、第三章「園」の精神病院潜入スリラー、第四章「宴」のサスペンスと、切り口を章ごとにいろいろと切り替えて紡がれた小説。よく考えてあると思うよ。どっちかいえば「死の接吻」とかそういうデザイナー的な編集的スタイルに近いという印象。 マリオネットについての真相は、推理可能ではないよ。でも連続殺人犠牲者が良く書き込まれていることから、理不尽に殺されるのが気の毒でならないなあ。それは筆力が余ってそういう結果ともいえる。 赤川次郎って怪物級の著作量なのは言うまでもないが、他の怪物作家と比較してけしてデビューは早くない。そのぶん長編第一作でこの達者さには驚くばかり。 |
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| No.1665 | 6点 | 交換殺人- フレドリック・ブラウン | 2026/10/06 22:26 |
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| 邦題はド直球の「交換殺人」(原題は The Murderers)。当然犯人側からの倒叙というかクライムノベル、というべきか。短めの長編で、まあこの殺人の行く末をちょいと捻って、というタイプの小説であることは、読む前から見当がつくよね、ブラウンだもん。
でまあ、あまり期待せずに読んでいったけど、そこそこ面白いよ。最初は適当なアリバイで自分で殺そうと計画していたけど、別途殺したいほど憎んでいる相手がいる男が身近に見つかる...なら、交換殺人で、両方が完璧なアリバイを作っておけばいい。動機からすれば真っ先に疑われる立場にあっても、アリバイ完璧なら十分じゃん? こんなプロセスが丁寧に進行していることが、好印象の理由だね。ちゃんと変装して下見にいくとか、そういう積み重ね。ナイスなのはこの二人の結束を高める予行演習! まあオチはなんとなく「こうか?」という気はしていたが、部分的に当たってただけ。オタクで凝りすぎるのは不安材料なんだよなあ。 あと興味深いのは、ブラウンの音楽知識がしっかりしていること。さらにビートニクたちの生態が窺われていて興味深い。傑作・名作というわけではないが、サクッと軽めに仕上げた「小品」といったもの。 |
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| No.1664 | 6点 | ブラック・マスクの世界2 ブラック・マスクの英雄たちⅡ- アンソロジー(国内編集者) | 2026/10/03 12:35 |
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| 「しらみ野郎の死」が良かったので、W.T.バラードに興味を持った。
でも名のみ聞くブラック・マスク常連作家。唯一短編の翻訳がある本書で読んでみた。 この「ブラック・マスクの世界」は小鷹信光氏がムック形式といった感じで国書刊行会から出したシリーズ。だから書籍のクセにポール・ケイン「裏切りの街」が連載形式で載っているし、コラム形式で「ヒーロー登場回数」とか人気リスト、本書だとコレクターで有名なビル・プロンジーニとブラック・マスク関連の人々のインタヴューとか載っている。 小説は短編が4作とチャンドラーのブラックマスク登場作である「ゆすり屋は撃たない」、ショートショートで3編。で「ゆすり屋は撃たない」は小鷹氏の翻訳。創元で出てた稲葉明雄訳よりも読みやすく感じるな。稲葉訳では舞台転換とかもう一つ飲み込みにくいところがあったけど、練れているように感じる。ただ、終盤の決着は蛇足っぽい印象。ロンダ・ファーと再会して終りでもいいような気がする。 でこの本で強調されるのが、「ブラック・マスク」は私立探偵小説じゃない、ということ。ヒーローたちは多種多様な仕事師なんだよね。というわけで、それぞれそういう視点で紹介。 ・ジョージ・ハーモン・コークス「ウェイドを救え」 報道カメラマンのフラッシュガン・ケイシーが活躍。ケイシーの相棒で見習いカメラマンのウェイドが、ヤバい場面を撮影してしまったことでギャングに拉致されたのを救い出すケイシー。ややコミカルな味わい。 ・シオドア・ティンズリー「リンカーンの口ひげ」 ゴシップ誌コラムニストのジェリー・トレイシー。本人は腕っぷしは弱いが、ボディガードに腕力担当のブッチを従えている。このブッチがたまたま受け取った、リンカーンに口ひげが落書きされた5ドル札をめぐって追いかけっこ。暗号といえばまあそうか。 ・フレデリック・ネベル「ボストンから来た女」 地方都市リッチモンドのマクブライド警部と新聞記者ケネディのコンビ。前2作は文体的には全然ハードボイルドではないけども、本作は客観描写主体の映画的な三人称ハードボイルド。愛する女のために夜のビジネスから足を洗おうとした男マラーキーの顛末。濡れ衣がかかったマラーキーを分かってて見逃すマクブライド警部とのやり取りにクールな哀感があっていいなあ。 ・W.T.バラード「賭博師の厄日」 映画会社のトラブルシューター、ビル・レノックス。レギュラーでレノックスの雇い主である大物プロデューサー、ソル・スパークやら映画記者ナンシー・ホッブスやらに取り巻かれ、映画業界でのレノックスの仕事や立ち位置を丁寧に描写するあたりから、評者とか「早すぎたネオ・ハードボイルド」ではないか、なんて思っている。今回はスパークが手を出した競馬興行で、素人のスパークに代わってレノックスがトラブルを裁いていく。 ・チャンドラー「ゆすり屋は撃たない」 やっと私立探偵マロリー。 ・ポール・ケイン「裏切りの街」 一匹狼のギャング、ジェリー・ケルズ。賭博船ビジネスとロサンゼルスの市政全体にかかわる暗黒街との関係に、ケルズは介入することになる(ようだ)5回連続で、とりあえず初回分だけでも国立国会図書館デジタルコレクションで読んでから連載2回目を。きわめてストーリーは錯綜していて、登場人物は多すぎ。こんな連載にしないでよ!と思うくらい。 ショートショートはカナダの騎馬警官が、極北のツンドラ地帯に逃亡犯人を追跡するL.R.シャーマン「雪原の追跡」が、冒険小説とハードボイルドの合体で面白い。 そんな感じ。そういえば昭和末期の単行本で装丁も凝って、口絵にブラックマスク本誌の表紙などをガンガン収録した、豪華本的な扱いで2600円。手が出なかった記憶があるよ。できれば少しづつでもやっていきたいな。 ブラック・マスク=ハードボイルド、といっても、ハードボイルド文ではない犯罪スリラーも多い。三人称ハードボイルド作品が質的にいい、という傾向もなんとなく感じられる。しかし、一人称私立探偵小説がけして多数派ではないというのが興味深いあたりでもある。これを実証するのが小鷹氏の狙いでもあるわけだ。 |
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| No.1663 | 6点 | 小笛事件- 山本禾太郎 | 2026/10/01 21:21 |
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| 評者も東京創元社「日本探偵小説全集 名作集1」で。
戦前の探偵小説に、モダン都市のサバイバル・マニュアル的な側面があったというべきなんだけども、だからこそ現実の社会の歪みが現象する犯罪事件にも目がいくことにもなる。というわけで大正十五年に京都で起きた女性ばかり四人が「殺された」事件についてのドキュメンタリー小説である。周辺人物の名前を部分的に隠しはするが、主要人物は実名。 (実話だから、とりあえずバレていいかな?) 事件の発生から、その女性の愛人とされる青年が逮捕・起訴され、最終的に控訴審で検察側が無罪論告の形でギブアップ。異常な犯罪だが、家主の中年女性の無理心中(自殺)という結論で片方づいた事件。 だから細かい事実が列挙される。法医学の権威たちによる遺体の状況の鑑定書が乱舞し、調書がリアルに示されて詳細が掘られ、論告は堅苦しい文語文。現場の見取り図や「遺書」の写真なども収録し、臨場感は高い。文庫で300ページ程度だけど、かなりヘヴィな読書体験になることは確かだ。戦前では「支倉事件」、戦後で近いのは「復讐するは我にあり」といったタイプの作品であるが、「支倉事件」の異常な犯罪者像でエンタメしていたのとは対照的。 まあこの作品に何を見るか、はかなりミステリ観を問われると思うよ。けして「読んで楽しい」作品ではないことだけは覚悟したほうがいい。作者の山本禾太郎は裁判所書記官の経歴もあり、ミステリのリアルの極北というべきであろう。 冒頭に森下雨村と乱歩の序文付き。雨村はまあこういう形で「日本探偵小説全集」に反映するしかないんだろうなあ。北村薫は解説でさらりと雑誌「幻影城」が発掘した作品であることに触れている。 |
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| No.1662 | 8点 | 日本探偵小説全集(11)名作集 1 - アンソロジー(出版社編) | 2026/10/01 20:56 |
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| さて懸案の一冊。例の分厚い日本探偵小説全集のアンソロ巻。短編集か、というとヘヴィな長編ドキュメンタリ山本禾太郎「小笛事件」を収録。もちろん岡本綺堂の半七から始まり、谷崎潤一郎・菊池寛・芥川・佐藤春夫といった文豪ミステリに続いて、「新青年」らしさ爆発な看板作家たち、海野十三、牧逸馬、渡辺啓助、渡辺温、水谷準、城昌幸といった面々が続くオールスターズ。重量級のアンソロである。
まあだから堂々の長編「小笛事件」は別項で扱わせてください。 最近では谷崎のミステリ系アンソロもあれば、海野・渡辺啓助・水谷準・城昌幸あたりはそれぞれの個人で名作集が編まれているから評者はそっちで親しんでいたこともあって、だいたい半分はすでに書評済み。まあだけど全体像を掴むためにも再読しているよ。そしてこの全集の陰の立役者だった北村薫氏の解説があり、全集全体の中でのこのアンソロ巻の位置付けなど舞台裏を明かしている。要するに乱歩の巻で「赤い部屋」が入らなかったのは、この谷崎の「途上」を入れるためだったし、北村氏なら半七が入らないわけがない。横溝の巻の金田一ストーリーの構築も狙いである。そういう手の内を明かしている。 やはり思うのは、戦前の「乱歩以前」のミステリを担ったのが、ポオ・ボードレールを紹介した詩人たちの感性だということ。そしてその詩魂というものが、都会的な短編小説として、「新青年らしい作家」である渡辺温・水谷準・城昌幸に強く流れ込んでいることだ。だからこのアンソロに評者が2作追加するのならば、萩原朔太郎「殺人事件」などを含む萩原のミステリ詩と、村山槐多「悪魔の舌」だろうな。特に渡辺温はちゃんと読んだことがなかったが、都会的なポエジーの横溢する「父を失う話」「可哀想な姉」「兵隊の死」と「これぞ新青年!」といったポエジーと味わいのある短編が、いい。また水谷準はロマンの塊みたいな「お・それ・みお」「胡桃園の青白き番人」の味わいが素晴らしい。それに対して城昌幸はこのアンソロでは戦前の作品でなく戦後作中心なのは北村氏の好みだろうな。やや長めの「憂愁の人」にショートショート規模の「スタイリスト」「ママゴト」と続くと、城氏の独特なこだわりが見えてくる。 でやはり期待していたのが羽志主水「監獄部屋」と地味井平造「魔」かな。「監獄部屋」といえば、プロレタリア文学とミステリの合体作品として有名作でもある。プロレタリア文学も実はモダニズム文学の一種だというのは、このアンソロには入ってないが葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」がミステリ枠で評価されることにも表れている。確かにミステリとプロレタリア文学では、内面描写の意図的な軽視という共通点もあるわけだ。 で牧逸馬が入っているのが何気にうれしい。海員気質を語った「上海された男」はいいなあ。庶民から見た海外という、インテリ主導だけではない海外イメージを、海外雄飛を掲げる雑誌「新青年」は紹介し続けたわけである。その実弟地味井平造「魔」はサイレント喜劇のような味わい。 そういうリアルな社会への視線が遊戯文学というだけでもないミステリに当初からあったわけである。「小笛事件」は項を改めるが、浜尾四郎にもあったような司法制度への疑問を菊池寛が小説にした「ある抗議書」はなかなか考えさせられる。安易に死刑囚が宗教で救われていいのか?という宗教自体への問いでもある。まあ菊池の「恩讐の彼方に」と似たようなテーマでもあるんだが。 すまん、海野十三は今読むとSF趣向が「トンデモ・ミステリ」に近づいちゃうなあ(苦笑)解説で触れている また帆村 少々無理な 謎を解き という「宝石」誌上にあった探偵川柳がナイス(笑) |
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| No.1661 | 6点 | 消されかけた男- ブライアン・フリーマントル | 2026/09/28 17:11 |
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| なぜか一作も読んでなかったフリーマントル。自分でも不思議なんだが、これはもうタイミングとかそういう話でしかないんだがなあ。というわけでチャーリー・マフィン第一作のこれ。
早い話、軽量級ル・カレのわけで、英国秘密諜報部が生え抜きベテランで運営されていたのを、強奪するかたちで軍部が乗っ取ったのち、ベテランたちが粛清されていった状況が舞台。ル・カレでいえば「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」の状況で、「鏡の国の戦争」みたいな軍隊出身者の力任せでアマチュアな作戦がその傲慢さで危機に陥る話である。ル・カレのスマイリーなら中流上層出身で、諜報部ではギリギリの家柄だが妻が名家出身のために出世が許されている、という立場だが、本作のチャーリー・マフィンはどうやら労働者階級の出身者のようだ。だから、戦後のドサクサで実力と実績で情報部内でのベテラン諜報員としての立場を築いていても、体制が変われば上流階級の部員によって搾取されるだけの立場になる...いやそれじゃ済まない。上層部から「消されかけた男」にされてしまう。こんなイギリスの残忍な階級社会の現実を、スマイリー以上にクローズアップして表現したのがチャーリー・マフィンということだ。 まあ冷戦下のスパイの騙しあいの話だけど、なんとなく意図は推測できるんじゃないのかな。そうだよね~という感じで読み進んだ。当然ル・カレほど文章は凝ってないし、描写が陰鬱でもない。英米ソの各陣営の描写をしていて、読者が状況把握をしやすいように描かれている。ル・カレよりずっと親切だが、その分「普及版」といった印象を受けるのも仕方ないか。 まあ確かにこれがシリーズとして続くわけだから、ちょっと気にはなるな。少し続けて読むことにしようか。ひょっとしてピカレスクなんだろうか? |
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| No.1660 | 8点 | ラクロワ姉妹- ジョルジュ・シムノン | 2026/09/27 11:15 |
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| うんこれ面白い。当初は重苦しい家庭悲劇だと思って読むんだ。しかし、ある決定的な事件があって、凍り付いていた人間関係が崩れて、てんでバラバラの方向に走り出してしまう。その中で沈殿していた家族間の「憎悪」さえも相対化されて、喜劇的なものに変貌してしまう。いや、凄いよ。「ホラーに限りなく近い強烈な心理サスペンス小説」という瀬名氏の読みは、意図的なミスリードみたいな気がするな。
確かにシムノンってカトリックの信仰について真摯なところもあるんだけど、本作での信仰心篤い神秘主義に傾倒する17歳の少女ジュヌヴィエーヴだと、その信仰の根底に「歪んだ家族への抗議」があり、その結果としての殉教みたいな復讐という倒錯的な状況になるあたり、宗教さえも相対化するリアルな視線も感じつつ、その矛盾を「面白がっている」ようにも感じるんだ。だから単純な信仰でもない。この少女の死には、ゲーテの「親和力」を連想させるところがあるな。 いや、結構この小説の人間関係、「親和力」かもしれないよ。神秘主義傾向の強いヴェルヌの血統と、フランス的なプチブルなラクロワ家。この血統の掛け合わせで産まれたジャック・ジュヌヴィエーヴ・ソフィーのイトコたち。そのラクロワの血の配合の実験みたいな小説かもしれないよ。そしてあたかも芝居のバックステージをさらけだすかのような事件後の「ラクロワ姉妹」の姿は、その「ラクロワの血」を純化しパロディに仕立てたようなものでもある。晩年の「猫」に近い部分もあるなあ。 そうみると本作の完成感はハンパないのかもしれない。 |
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