皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 警察小説 ] メグレ最後の事件 メグレ警視 |
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| ジョルジュ・シムノン | 出版月: 1978年09月 | 平均: 5.67点 | 書評数: 3件 |
![]() 河出書房新社 1978年09月 |
![]() 河出書房新社 1984年01月 |
| No.3 | 6点 | クリスティ再読 | 2025/11/19 18:36 |
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| 評者の書評1500冊目の記念に何やろう?と思っていたんだが、メグレ物最終作の本作にした。評者は仕事を引退したら、河出のメグレ全冊を読んでやろうと引退数年前から目論んでいたんだ。これが本サイトに投稿する前からの夢みたいなものだった。本作でこれが叶った。自分的には大変めでたい。
本作はミステリというよりも男女関係についての小説というべきかな。ミステリというジャンル小説で本作が出てきたら「ちょっとな」という人は多いとも思うけど、読んでいる正直な感想は、孤独に放置されていてアルコールに溺れる女性ナタリーを描いた肖像として、たとえばモーリアックの「夜の終り」に近い印象。「テレーズ・デスケールー」の後日譚ね。夫の遺体が家に戻ってきて、葬儀の準備をしているさなかに、ナタリーはメグレと同行する。ナタリーは棺を見つめて、 「あの人はこのなかにいるの?」「ええ。明日埋葬します。」「わたしのほうは、今日ね...」 そしてメグレ物としてのグラン・フィナーレはこの一文。 彼女は勧められもしないのに、判事の前に坐った。とてもくつろいでいるようにみえた。 まあだからシムノンのカトリック作家としての素地が強く現れた小説だと思うんだ。ミステリとしては芳しい出来ではないけども、ほのかに宗教性を感じさせる小説というのが、やはりシムノンらしい。家庭の中で孤立するナタリーの唯一の味方である女中のクレールが、当初メグレを敵視しているのが、徐々にメグレと和解していくのが小説としての良さでもある。 本作は書評でケナされたことにシムノンが怒ってメグレシリーズを打ち切った、という話が有名だから「ダメな作品?」と思いがちだけど、そんなこともないよ。ただし、ミステリファンが求める方向性とは全然別方向。「こういう方向は歓迎されてないな」とシムノンが察知してメグレを打ち切ったんだと思うよ。 評者的メグレ物のベストテンくらいはやっておこうか。 1.第1号水門、2.メグレのバカンス、3.メグレと若い女の死、4.サン・フォリアン寺院の首吊り人、5.メグレと殺人者たち、6.メグレ罠を張る、7.モンマルトルのメグレ、8.メグレ夫人のいない夜、9.三文酒場、10.メグレと奇妙な女中の謎 それに続くのが、メグレの初捜査、メグレと幽霊、メグレと殺された容疑者、くらいかなあ。 現在メグレ物未読は「メグレと死んだセシール」「メグレと判事の家の死体」の2長編だがEQ連載だけで未単行本化。短編は「メグレと消えたミニアチュア」「メグレと消えたオーエン氏」「メグレとグラン・カフェの常連」「メグレとパリの通り魔」「死の脅迫状」と5本あるか。ギャレ氏ももうすぐ新訳が出るわけで、そうしてみればEQ連載で終わっている長編の翻訳も待っていればあるのかなあ。 |
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| No.2 | 6点 | 雪 | 2018/06/17 09:11 |
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| これを酷評された事でシムノンが全ての小説から筆を絶ったいわくつきのメグレ物。気が差したのかその批評家は断筆後のシムノンを直後にヨイショしてます。
訳者の長島良三さんもあとがきとは別の場所で「後半は駆け足でストーリーだけを追っていく感じ」とかおっしゃってます。まあそういう面もあります。 でも後期メグレの中では割と好きな作品です。前作「メグレと匿名の密告者」がパッとしなかった分(読んだ中では第77作「メグレの失態」と並んで最低クラス。)持ち直したとすら思います。これで終わりなのは残念至極。 警視総監に司法警察の局長就任を打診されたものの気乗りせず、デスクに並べたパイプを弄って黙々と遊ぶメグレ。彼の元にある上流夫人が、失踪した夫の捜査を依頼しにやってきます。彼女が精神の均衡を失いかけているのはその時点で分かります。 徐々に捜査を進めていくうちに描かれる、この夫人の肖像が本編の見所。第96作「メグレと殺人予告状」に出てくる女性像をさらに徹底した感があります。頽廃したムードとある種の哀れさが全編を覆う作品です。 |
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| No.1 | 5点 | 空 | 2013/11/20 22:27 |
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| 邦題は、結局シムノン最後の小説(その後も回想録なんかはかなり書いていますが)だからというだけであって、内容とは関係ありません。原題を直訳すれば「メグレとシャルル氏」ですが、事件の発端となる失踪した公証人の名前は全然違うし、どこでシャルル氏は出てくるんだろうと首をかしげさせられます。まあ捜査を始めてみると、すぐにそれは判明するのですが。
半分ぐらいのところで死体がセーヌ川から発見されますが、その時期に発見されるのは完全な偶然で、これだけはご都合主義的な展開かなあという感じ。メグレに調査依頼に来た公証人夫人が個性的な人物として描かれ、事件に何らかの関わりがありそうだということは最初から予想がつきます。結末の意外性を期待すべきタイプの作家ではないので、それはそれでいいですし、夫婦間の葛藤はさすがですが、真相には少々安易なところが感じられました。 |
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