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[ 警察小説 ]
メグレ警視のクリスマス
メグレ警視
ジョルジュ・シムノン 出版月: 1978年11月 平均: 6.00点 書評数: 5件

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講談社
1978年11月

グーテンベルク21
2013年03月

No.5 6点 クリスティ再読 2020/03/01 21:00
「溺死人の宿」は「殺し屋スタン」とか「ホテル北極星」と同じ1938年作だから、第二期に中短編中心に書いていた頃の短編。「メグレのパイプ」は「メグレ激怒する」と合本で出たものだそうなので、第三期の開幕を告げる作品になる。「メグレのクリスマス」は短編のメグレ物としてはほぼラストで、最後から2作目、とこの短編集は日本独自編集とはいいながら、節目節目の作品を集めた、という印象がある。
「溺死人の宿」を含む1938年の短編集は「メグレ夫人の恋人」「メグレの退職旅行」に相当するから、短編としては充実していたあたりからの選択、と見ていいだろう。陰鬱な話で、ややひねった真相がある。けどしょーもない男だな。
「メグレのパイプ」は、後年の「老婦人の謎」に冒頭の設定を転用しているが、あっちの殺される老婦人の方がずっと可愛げがある。こっちは息子に抑圧的なタダの嫌な老女。息子の大冒険は....あれ、「激怒する」に似たような場面がなかったっけ。合本で出てるはずだけど、いいんだろうか。でもメグレのパイプを盗んだ理由が秀逸。こういうの、ファンは大喜び。
「メグレのクリスマス」は言うまでもなくクリスマス・ストーリーで書かれたものだが、サンタクロースの訪問を本当に受けちゃった療養中の少女の話。けど、その裏には..とこの少女の複雑な家庭環境に絡むあまり後味の良くない真相がある。おめでたくはないが、メグレ夫人の母性を感じさせるところが読みどころだろうか。
個人的には「メグレのパイプ」が好きだが、それぞれのレベルは高い。

No.4 6点 2018/11/10 03:23
 表題作の中編1本と、短編2本を独自編纂したメグレもの中短編集。うち「メグレ警視のクリスマス」は雑誌「EQ」にて既読済。
 各々の出来についてはさすが皆さん的確な評価をなさってらっしゃいます。ただ「クリスマス」は諸要素も含めて「メグレのパイプ」と並べてもいいかも。若干甘いかもしれませんけどね。シムノンにしては子供の描き方がマシな方なのも好ポイント。全体にこまっしゃくれた、かわいくないのが多いですから。
 ネタ的にはこの2編は同パターン。解説に述べられている「メグレと老婦人の謎」を含め、似たシチュエーションの作品は短編長編そこそこあります。ホームズ物からある鉄板ネタですね。クリスマスストーリーに徹したのが前者、魅力的な導入部とアクションを付け加え、淀みなく纏めたのが後者ということになるでしょうか。
 「メグレと溺死人の宿」はミスリードが光る作品。この状況でなければ当然思い付くべき真相です。タイトル含めて騙しにかかってます。冷静に考えれば答はそれしか無いんですけどね。
 「クリスマス」はアンソロジーでもそこそこ見かけます。暗く煤けたイメージのあるシムノンにしては珍しいハッピーエンド。こういうのをもっと描いても良いと思いますが、たまにだからいいのかも。

No.3 6点 tider-tiger 2015/12/25 07:36
もういくつ寝ると、お正月~あれ? 待てよ……そんなわけでお二方の後に続けさせて頂きます。
三篇が収録された独自の編集版とのことですが、私の評価は良い中編と短編(メグレ警視のクリスマス、メグレのパイプ)にまあまあが一つ(溺死人の宿)といったところでしょうか。

メグレ警視のクリスマスについて
クリスマスイブ、わけあって叔父夫婦の元に引き取られている少女コレットの部屋にサンタクロースが忍び込んで来て人形をくれます。サンタクロースは人形をくれただけではなく、なにやら怪しい動きも。コレットの養母は事を荒立てたくはないのに話を聞いた近所のおばさんが騒ぎ立てたばかりにとある事件が浮かび上がってきます。
さらに、本作には事件のせいでメグレ夫人の憧憬が掻き立てられるというサイドストーリーも用意されています。
導入部にメグレのこんな心理描写があります。読み直して、さすがだなあと思いました。
~クリスマスの日には慎重にしなければいけない、言葉に気をつけなければいけない。というのは、メグレ夫人もクリスマスにはいつもより神経過敏であったからだ。
しっ! そのことを考えてはいけない。面倒なことは何も言ってはいけない。これから子供たちが歩道に玩具を持ってあらわれるだろうから、通りをあまり見てはいけない。~
本作は素晴らしいプレゼントを貰い損なったメグレ夫妻のほろ苦いクリスマスストーリーでもあります。 

空さん、miniさんともに子供の印象が薄いと仰ってます。
確かにそうなんですよね。でも、シムノンが子供を描けないなんてことはないと思うのです。「メグレと田舎教師」で子供の心中を息苦しいほどに描いていたりしますし。ただ、シムノンの作品の中でいわゆる子供らしい子供はあまり見たことがないかもしれません。
本作のコレットはユゴーの「ああ無情」に出てくるコゼットを思わせるところがあります。主要人物なのに印象がいまいち薄く、どこか辛気臭いところや境遇など重なるものがあります。

No.2 6点 mini 2013/12/25 09:55
* 季節だからね *

講談社版による日本独自の編集で、これにそのまま対応した原著は無く、複数の原著中短編集からの抜粋再編集版である
今年は仏語翻訳者の長島良三氏が亡くなっており、長島氏の翻訳解説であるこの中編集で追悼の1つとしたい

3編の中編を収録した中編集で、表題作は意図的に安楽椅子探偵ものを狙った感じだ
クリスマスストーリーらしく子供が登場するけど、当サイトでの空さんの御書評通りで、ある種事件の中心に居るはずの子供が上手く描写されておらず中途半端な扱いなのが難
人物描写に長けたシムノンだが子供を描くのは苦手だったのだろうか
これも空さんに同感だが、やはり3編中での1番の出来は「メグレのパイプ」だろう、特にパイプが盗まれた理由が人間心理の機微を突いて秀逸だ

No.1 6点 2011/12/23 20:26
表題作の他に『メグレと溺死人の宿』『メグレのパイプ』を収録した中短編集です。
表題作は、メグレの住居の向かいにあるアパートで12月24日夜に起こった事件を扱っています。訳者あとがきでは、クイーンによるクリスマス・ストーリーに必要な条件を引用し、子ども登場要件をクリアしていると書いていますが、サンタクロースに変装した侵入者に会う女の子があまり印象に残らないのが、ちょっと不満です。
『メグレと溺死人の宿』はメグレが地方に別件で出張した際に出くわした事件。訳者あとがきで言うほど本格派寄りとは思えませんが、まあまあ楽しめました。
『メグレのパイプ』はシムノン自身が好きな作品だそうで、確かに3編の中では最もいいと思いました。メグレの一番お気に入りのパイプが自室から盗まれてしまったことが、本筋の事件に絡んできて、「もし君が私のパイプをくすねなかったら」という展開になるところが、おもしろくできています。


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