海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ 警察小説 ]
メグレと首無し死体
メグレ警視
ジョルジュ・シムノン 出版月: 1977年02月 平均: 6.25点 書評数: 4件

書評を見る | 採点するジャンル投票


河出書房新社
1977年02月

河出書房新社
2000年08月

グーテンベルク21
2015年04月

No.4 6点 クリスティ再読 2020/01/08 01:04
皆さんのおっしゃるように、狭義のミステリの観点だと「何だこれ」になるタイプの作品である。他のメグレ物だと「火曜の朝の訪問者」とか近いかなあ。それより意外性の方向がトンデモない方を向ている感じ。
ビストロの女将として火の消えたような生活を続けるカラ夫人の、特異なキャラクターがすべての作品である。メグレは第一印象で奇妙な違和感を感じて、まるでカラ夫人に恋するかのように、カラ夫人の元に通い詰めるのだが、妙な転調の気配が見えるのは、やはりカラ夫人がしっかり身なりを整えて別人のように参考人として連行される場面だろうか。
メグレ夫人がこのメグレの心の揺れを敏感に感じるのがさすが。

「お前がおれを面白がっているみたいだ。それほどおれが滑稽かい?」
「滑稽ではないわ、ジュール」
彼女が《ジュール》と呼ぶのはまれだった。彼に同情したときしか、こういういい方をしない。

そして本作では宿敵コメリオ判事との軋轢を、一種の「階級対立」みたいに描いているのだけど、メグレというのは「庶民の名探偵」なのは言うまでもない。本作は、若い日のメグレが「運命の修理人」になりたい、と思った、と直接書かれたという点でも重要な作品なんだけど、そうしてみるとこの「運命の修理人」に、あまり形而上的な神秘性を求めない方がいいような気がするのだ。水道のパイプを、時計を修理するかのように、「運命」を修理する職人、という味わいでメグレを見たら、それらしいように思う。

No.3 6点 tider-tiger 2018/11/21 01:57
~サン・マルタン運河を航行する船のスクリューには男の腕がひっかかっていた。運河の底を洗うと他の部位も次々と発見された。だが、首だけがみつからない。
厄介な事件になりそうだったが、早々に糸口がみつかった。メグレは捜査の途上、電話を借りるために立ち寄った居酒屋の女主人のことが気にかかり、やがて彼女は事件に関係しているのではないかと考えはじめた。

1955年フランス。
かなり特異なミステリです。そうはいっても良い意味で、ではありません。首無し死体とくれば被害者が誰なのかが肝となります。まずは被害者が誰なのかを解き明かし、続いて容疑者の特定がはじまるのが通常でしょう。なのに、本作はとんでもない偶然から早々に容疑者が浮かび上がってしまい、必然的に被害者も特定されてしまいます。物語の序盤~中盤でほぼ事件解決のメドが立ってしまうのです。なのにメグレだけがわからないわからないと悩む。
雪さんは最初に読んだ時「なんやこれ」と思われたそうですが、かくいう私も初読時にはほぼ同じ感想でした。メグレシリーズをある程度読み込んでから再読して目から鱗が落ちるように面白さがわかった作品です。
読みどころはミステリ的な事件解決を完全に度外視して、メグレにとっての事件解決に異常に拘っている点でしょう。そこに興味が湧かなければただの駄作で終わる作品でしょう。採点は6点としますが、ミステリとしては4点以下です。
メグレは容疑者の顔が浮かんでこないことに苛立ちます。メグレと容疑者のぶつ切りの会話、なにも隠そうとしていないように思える容疑者、自分の行く末すら無関心に見える容疑者、その異常性に気付き、この容疑者に興味が湧けば、かなり愉しめる作品ではないかと思います。
最終ページや以下の文章などから、メグレの容疑者に対する畏敬の念すら感じられます。
~転落する人たち、とくに好んで自分を汚し、たえず下へ下へと転落することに夢中になる人たちは、いつの場合でも理想主義者なのだと~

邦題が原題の直訳なのかどうか私にはわかりませんが、メグレと首無し死体なるタイトルはダブルミーニングのように思えてしまいます。首無し死体とは被害者と同時に容疑者をも指す言葉ではないのかと。
「首無し死体」=「顔のない死人(も同然の女)」
名作だと思いますが、メグレ警視シリーズをある程度読み込んでから読むべき作品だと思います。

No.2 6点 2018/07/20 13:33
 サン・マルタン運河から上がったばらばら死体を検視した後、メグレはふと目に留まった居酒屋に立ち寄るが、その店の痩せた褐色の髪の女主人が彼の注意を惹く。司法解剖の結果は「五十過ぎの男性、長時間立ったまま過ごす職業で、湿った地下室に出入りし、ぶどう酒を扱う者」だった。メグレはそのまま酒場に居付き、女主人と幾日も短い会話を交わし続けるが・・・。
 メグレ警視シリーズ第75作。「メグレと若い女の死」「メグレ罠を張る」等の秀作に挟まれた、人によってはシムノン最盛期に挙げる時期の作品です。けれど大筋でも分かる通り、しょっぱなにメグレが入った店で事件の解決が皿に乗せて差し出されるといった、かなり無茶な展開を見せます。類似の展開は部分的に他のメグレ物にもありますが、この作品はそこが極端。ストーリーも基本的に動きが無く、平板な会話が続くだけ。初読の人間は「なんやこれ」と思っても仕方ないでしょう。現に私がそうでした。
 この作品の真価はメグレと女主人のぶつ切りの会話にあります。答え辛い質問をされても殆ど躊躇わず、最小限度の回答だけを平然と口にする。
 メグレは次第に、彼女が自分とほとんど同じほどの人生経験を持つ相手だと認識し始めます。この辺のやり取りや会話の意味は、シリーズを熟読していないと分からないでしょう。ジュール・メグレという人物を知っていないと、まず表面上の平穏さの裏にある異常さが理解出来ないのです。全てが終わった後でメグレ夫人は夫に呟きます。「わたしはねたましかった」と。一連の遣り取りが女主人にも何かを残したのは、最後に飼い猫の世話を託したことで分かります。
 ラストで彼女の過去が判明するのですが、それを考慮に入れても全てを汲み取れたとは思えません。やはり名作ではあるのでしょう。初メグレがこれでいったんシリーズを投げ出してしまったせいか、今でも苦手な作品の一つです。

No.1 7点 2011/06/30 21:42
首無し死体と言っても、例の手とは関係ありません。運河から発見されたバラバラ死体の首だけが見つからなかったという事件で、ごく普通に身元確認を困難にするために首は別に処分したというだけの話です。
訳者あとがきの中で長島良三氏はメグレもののベストの一つと推奨していますが、読んでいる途中は、さすがに5点はかたいかな、という程度にしか思えませんでした。しかし最終章に至って、訳者の高評価にもなるほどと納得しました。同じようなテーマをシムノンはメグレものに限らず何度か扱っているのですが、ここまで徹底したのは今までのところ他に知りません。運河べりにある居酒屋のおかみさんの人物像が問題なのですが、この哀しみは確かに特筆すべきものです。
ただしそれまでが、メグレがいつになく自信なさ気でとまどっているせいもあってか、特におもしろいというほどではなかったので、この点数どまりといったところでしょうか。


キーワードから探す
ジョルジュ・シムノン
2024年03月
ロニョン刑事とネズミ
平均:7.00 / 書評数:1
2023年10月
メグレとマジェスティック・ホテルの地階
平均:6.60 / 書評数:5
2022年04月
運河の家 人殺し
平均:8.00 / 書評数:4
2018年11月
十三の謎と十三人の被告
平均:6.00 / 書評数:1
2015年02月
紺碧海岸のメグレ
平均:6.75 / 書評数:4
2011年02月
青の寝室 激情に憑かれた愛人たち
平均:7.00 / 書評数:1
2010年12月
ブーベ氏の埋葬
平均:7.00 / 書評数:2
2009年10月
倫敦から来た男
平均:6.50 / 書評数:4
2008年07月
ちびの聖者
平均:8.00 / 書評数:1
2008年04月
証人たち
平均:7.00 / 書評数:1
2007年07月
Les rescapés du Télémaque
平均:6.00 / 書評数:1
2005年12月
Les sept minutes
平均:6.00 / 書評数:1
2000年04月
Le rapport du gendarme
平均:6.00 / 書評数:1
1999年12月
Les complices
平均:6.00 / 書評数:1
1998年12月
Le suspect
平均:7.00 / 書評数:1
1998年10月
O探偵事務所の恐喝
平均:6.00 / 書評数:1
丸裸の男
平均:5.00 / 書評数:1
1998年08月
老婦人クラブ
平均:6.00 / 書評数:1
ドーヴィルの花売り娘
平均:6.00 / 書評数:1
1997年07月
メグレ警視
平均:6.00 / 書評数:2
1992年10月
ベティー
平均:5.00 / 書評数:1
1992年05月
仕立て屋の恋
平均:6.00 / 書評数:4
1988年08月
メグレ激怒する
平均:6.00 / 書評数:3
1986年08月
メグレと死体刑事
平均:5.67 / 書評数:3
1985年08月
妻は二度死ぬ
平均:6.00 / 書評数:2
1985年01月
平均:7.67 / 書評数:3
1984年04月
メグレとワイン商
平均:5.33 / 書評数:3
1983年12月
メグレと善良な人たち
平均:5.50 / 書評数:2
1983年04月
メグレと殺された容疑者
平均:5.50 / 書評数:2
1982年12月
メグレと幽霊
平均:6.50 / 書評数:2
1981年07月
メグレの退職旅行
平均:6.00 / 書評数:2
1981年01月
メグレ警視と生死不明の男
平均:6.33 / 書評数:3
1980年03月
メグレ再出馬
平均:5.75 / 書評数:4
1980年01月
メグレと老外交官の死
平均:5.00 / 書評数:2
ゲー・ムーランの踊子/三文酒場
平均:6.50 / 書評数:2
1979年11月
メグレの失態
平均:4.00 / 書評数:1
1979年10月
メグレ推理を楽しむ
平均:6.00 / 書評数:2
1979年09月
メグレを射った男
平均:4.00 / 書評数:2
1979年08月
メグレとかわいい伯爵夫人
平均:5.67 / 書評数:3
1979年07月
メグレ保安官になる
平均:5.33 / 書評数:3
1979年06月
メグレの拳銃
平均:6.25 / 書評数:4
1979年05月
メグレとルンペン
平均:5.50 / 書評数:4
1979年04月
メグレと賭博師の死
平均:6.00 / 書評数:2
1978年11月
メグレ警視のクリスマス
平均:6.00 / 書評数:5
1978年10月
メグレの幼な友達
平均:5.00 / 書評数:1
1978年09月
メグレと匿名の密告者
平均:4.00 / 書評数:2
メグレ最後の事件
平均:5.50 / 書評数:2
1978年08月
メグレと殺人予告状
平均:6.25 / 書評数:4
1978年07月
メグレと老婦人の謎
平均:6.00 / 書評数:4
メグレとリラの女
平均:6.00 / 書評数:3
1978年06月
メグレ夫人の恋人
平均:6.50 / 書評数:2
メグレと録音マニア
平均:5.00 / 書評数:4
メグレとひとりぼっちの男
平均:5.50 / 書評数:2
1978年05月
メグレの財布を掏った男
平均:6.00 / 書評数:1
メグレと田舎教師
平均:6.00 / 書評数:3
1978年04月
メグレの打明け話
平均:5.50 / 書評数:2
メグレ夫人のいない夜
平均:6.00 / 書評数:4
1978年03月
メグレと妻を寝とられた男
平均:5.75 / 書評数:4
1978年02月
メグレと宝石泥棒
平均:5.75 / 書評数:4
1977年12月
メグレと優雅な泥棒
平均:5.67 / 書評数:3
メグレとベンチの男
平均:5.75 / 書評数:4
1977年10月
重罪裁判所のメグレ
平均:5.00 / 書評数:2
1977年09月
メグレと政府高官
平均:6.00 / 書評数:3
1977年08月
メグレと消えた死体
平均:6.00 / 書評数:3
1977年07月
メグレ式捜査法
平均:5.00 / 書評数:3
1977年06月
メグレ夫人と公園の女
平均:6.50 / 書評数:2
1977年05月
メグレの初捜査
平均:6.50 / 書評数:2
1977年04月
メグレ、ニューヨークへ行く
平均:6.67 / 書評数:3
1977年03月
メグレたてつく
平均:7.00 / 書評数:2
1977年02月
メグレと首無し死体
平均:6.25 / 書評数:4
1977年01月
モンマルトルのメグレ
平均:6.75 / 書評数:4
1976年12月
メグレと口の固い証人たち
平均:5.33 / 書評数:3
1976年10月
メグレと火曜の朝の訪問者
平均:6.00 / 書評数:5
メグレの途中下車
平均:5.00 / 書評数:3
1976年09月
メグレ間違う
平均:5.67 / 書評数:3
メグレと殺人者たち
平均:7.00 / 書評数:4
1975年01月
Chez Krull
平均:5.00 / 書評数:1
1973年04月
メグレの回想録
平均:5.67 / 書評数:3
1972年11月
メグレと若い女の死
平均:7.00 / 書評数:3
1970年06月
ビセートルの環
平均:6.00 / 書評数:1
1970年05月
フェルショー家の兄
平均:5.00 / 書評数:1
妻のための嘘
平均:6.00 / 書評数:1
1970年04月
ドナデュの遺書
平均:5.00 / 書評数:1
1970年03月
日曜日
平均:6.00 / 書評数:2
1970年02月
港のマリー
平均:6.00 / 書評数:1
1969年11月
新しい人生
平均:8.00 / 書評数:1
1969年10月
片道切符
平均:6.00 / 書評数:1
1969年08月
ストリップ・ティーズ
平均:6.00 / 書評数:1
1963年08月
13の秘密
平均:6.50 / 書評数:4
1961年11月
娼婦の時
平均:6.50 / 書評数:2
1961年08月
メグレと死者の影
平均:6.00 / 書評数:3
1961年07月
死んだギャレ氏
平均:6.00 / 書評数:1
1961年04月
港の酒場で
平均:6.00 / 書評数:2
1961年01月
メグレ警部と国境の町
平均:6.00 / 書評数:2
ベベ・ドンジュの真相
平均:7.00 / 書評数:2
メグレと老婦人
平均:6.00 / 書評数:3
1960年11月
アルザスの宿
平均:6.33 / 書評数:3
1960年09月
オランダの犯罪
平均:6.50 / 書評数:4
1960年05月
怪盗レトン
平均:6.00 / 書評数:3
1960年04月
サン・フィアクル殺人事件
平均:5.25 / 書評数:4
1958年11月
上靴にほれた男
平均:5.50 / 書評数:2
1958年10月
可愛い悪魔
平均:6.50 / 書評数:2
1958年07月
死体が空から降ってくる
平均:6.50 / 書評数:2
1958年05月
メグレ罠を張る
平均:7.33 / 書評数:6
1957年10月
カルディノーの息子
平均:6.00 / 書評数:2
1957年05月
ベルの死
平均:6.50 / 書評数:2
1957年01月
メグレと無愛想な刑事
平均:6.00 / 書評数:4
1956年12月
リコ兄弟
平均:7.33 / 書評数:3
1956年06月
帽子屋の幻影
平均:6.33 / 書評数:3
1955年11月
メグレのバカンス
平均:6.67 / 書評数:3
1955年07月
判事への手紙
平均:5.00 / 書評数:1
1955年03月
家の中の見知らぬ者たち
平均:7.00 / 書評数:2
1955年02月
雪は汚れていた
平均:8.40 / 書評数:5
1955年01月
メグレとしっぽのない小豚
平均:7.00 / 書評数:2
1954年12月
霧の港のメグレ
平均:6.00 / 書評数:2
1954年03月
汽車を見送る男
平均:8.00 / 書評数:2
1953年10月
メグレと深夜の十字路
平均:6.60 / 書評数:5
1952年09月
北氷洋逃避行
平均:6.00 / 書評数:2
メグレと運河の殺人
平均:5.33 / 書評数:3
1950年08月
サン・フォリアン寺院の首吊人
平均:7.20 / 書評数:5
1950年05月
男の首
平均:6.29 / 書評数:7
黄色い犬
平均:6.12 / 書評数:8
不明
死の脅迫状
平均:3.00 / 書評数:1
メグレと奇妙な女中の謎
平均:7.00 / 書評数:2
メグレと謎のピクピュス
平均:7.50 / 書評数:2
猶太人ジリウク
平均:7.00 / 書評数:1
ダンケルクの悲劇
平均:6.00 / 書評数:1
下宿人
平均:8.00 / 書評数:1