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[ サスペンス ]
サン・フィアクル殺人事件
メグレ警視 別題『伯爵夫人殺害事件』『サン・フィアクルの殺人』
ジョルジュ・シムノン 出版月: 1960年04月 平均: 5.25点 書評数: 4件

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東京創元社
1960年04月

東京創元社
1986年04月

No.4 5点 tider-tiger 2022/12/04 18:33
~『死人祭の最初のミサのあいだに、サン・フィアクルの教会で犯罪が起こる旨をお知らせいたします』
こんな具合に犯罪を予告する手紙がメグレの元に届く。
メグレの記憶が確かなら、サン・フィアクルというのは彼の生まれ故郷であった。~

1932年フランス。邦題は『役立たずのメグレ』でもよかったかもしれません。みなさんご指摘のとおりメグレはおたおたするばかりでほぼ何もしておりません。全体的な構図としては『メグレ激怒する』を思わせるところありますが、あっちはいろいろメグレなりに頑張っておりました。本作のメグレは茫然自失状態であります。
最後の晩餐のシーンは自分も好きで、強引に帳尻合わせはできているのかなとも思いますが、失敗作だというご意見も頷けます。瀬名さんも『ダメだこりゃ』的なことをれいの連載で書かれておりました。
本作はメグレ警視シリーズの熱心なファン以外はスルーでよろしいかと。採点は5点とします。

まともな書評はここまでとなります。
以下、かなり独りよがりな読み方となります。

シムノン後期の作『ちびの聖者』と似たところがある作品だと感じます。『ちびの聖者』と本作の間にはほとんど共通点はありません。ただ、両者はともに幼いころから胸に抱き続けているイメージを扱った作品だと思うのです。イメージを昇華させるか、崩壊させるかという大きな違いはありますが。
ある種の人々は幼い頃に胸に焼き付けたイメージ、心象風景とでもいうのでしょう。そうしたものが崩壊、溶解していくことに強い衝撃を受けます。うまく説明できないのですが、子供の頃にしょっちゅう通っていた駄菓子屋が閉店してしまったときの喪失感のようなものでしょうか。
伯父が自分の手を取って、高いところから飛び降りるのを手助けしてくれた、これが伯父のイメージであり、真実のように感じていたとします。そのイメージが崩壊したとき、ある種の人々は強い衝撃を受けるのです。
自分はシムノンはそういう人ではないかと感じています。
ただし、メグレ警視はそういう人ではないようにも思えます。
本作はメグレが生まれ故郷の宿屋で目を覚ます場面から始まります。この目覚めは過去のイメージからの目覚めのように思います。ここから現実へ、真実へと目を向けさせられるのです。
メグレが実際に見ているものと過去に見たものとの対比が頻繁に描写されます。メグレにとっての真実、イメージが次々と崩壊していくのです。茫然自失のメグレ。
サン・フィアクルの殺人事件はメグレにとって人生の転換点となった事件なのかもしれません。

No.3 5点 2018/10/06 10:02
 「死人祭の最初のミサのあいだに、サン・フィアクルの教会で犯罪が起こる旨をお知らせいたします」
 オルフェーブル河岸の事務室に届けられた犯罪予告を受けて、生まれ故郷の村に向かうメグレ警部。凍りつくほどに寒い冬の朝、幼なじみのマリイ・タタンの宿から教会に赴き、自由席の最後列からじっと参列者たちを観察する。
 まもなくミサが終わる・・・・・・あと三人・・・・・・ふたり・・・・・・
 最後の参列者であるサン・フィアクル伯爵夫人の番になった。だが彼女は身動き一つしない。警部が進み出ると彼女のからだはゆらめき、床にころげ落ちて、そのまま動かなかった!
 1932年発表のメグレ警視シリーズ第13作。初期の長編で、前作「メグレと死者の影」の重苦しいムードを引き摺っています。なかなか強烈な作品でしたね。
 伯爵夫人の死後、登場人物たちがおのおの怪しげな動きを見せるのですが、たいして話は進みません。ですが物語の半ば過ぎ、近隣の町であるムーランに舞台が移ると途端に展開が早くなります。あとは伯爵邸での晩餐会におけるカタストロフまで一直線。
 ですが殺害手段は法の下では裁けない性質のものなので、ある登場人物による罠と私的制裁という形で事件は決着します。メグレはせいぜい立会人という役どころ。短い間に二、三の事実を探り出しはするのですが、最後の急展開にはついていけてません。
 メグレの記憶と対比することで伯爵家の落魄ぶりを強調するつもりかもしれないけど、ノンシリーズ物にした方が良かったんじゃないかなあ。故郷が舞台なのがあんまり生きてないし。そこそこ雰囲気は出てるけど、メグレをおたおたさせてまで無理に登場させる必然性が感じられないので、ぶっちゃけ失敗作だと思います。

No.2 5点 クリスティ再読 2017/09/24 21:30
自分の出身地で起きた殺人予告状の一件を、メグレは自分のポケットに入れて、父の死後訪れたことのない故郷を訪ねた...
泊まる宿屋の女将だって子供時代を覚えている。そんな村の教会の早朝ミサのさなか、メグレの目の前で、予告通りにこの村の昔からの領主の家柄であるサン・フィアクル伯爵夫人が急死した....犯行手段は祈祷書に挟まれた伯爵家のスキャンダルを示す新聞記事を見たことによる心臓発作。そう、伯爵家はメグレの父がつかえていた伯爵の死後、貴婦人として尊敬されていた伯爵夫人は若い秘書をとっかえひっかえして醜聞をまきちらすわ、長男の現伯爵モーリスはあらゆる事業に失敗した放蕩者でしかないわと、名門の伯爵家が内部崩壊に瀕していたのだ。

そして、その頃少年だったメグレは、庭園のなかで看護婦が押す乳母車を、遠くからうやうやしくながめていたものだ。その赤ん坊が、このモーリス・ド・サン・フィアクルなのだ!

というメグレにとってはなはだ幻滅な帰郷であった。「失われた時を求めて」風の味わいだねこりゃ。
そんな具合で、メグレにとって実にやりにくい捜査となってしまった。結局事件は、メグレはほぼ傍観者ままで結末を迎える。小説としては実際腰砕け。前半など雰囲気いいんだけど、失敗作、だな。

No.1 6点 2010/09/12 10:32
サン・フィアクルはメグレが生まれた村。地方警察に届けられた犯罪予告状が警視庁に回ってきたのを目にとめたメグレが、故郷での事件を捜査に出かけます。冒頭はその村で冬の早朝、彼が目覚めるところから始まり、いきさつは後から説明されます。この田舎の雰囲気がいいのです。
殺人方法は松本清張の短編にも似たアイディアがあったなあと思わせるトリックです。これは早い段階で明かされますが、怪しい登場人物が何人かいて、真犯人が誰か迷わされます。最初の犯罪予告状については途中から無視されてしまっていますが、後から考えてみるとまあ筋道はとおっているかな。
そんなわけでかなり謎解き度が高い作品ですが、意外なことにメグレは最後まで傍観者という感じで、ほとんど事件を解決してしまうのは他のある登場人物なのです。様々な仮説を立てながらクライマックスに向かう夕食の場面は、かなり緊迫感がありました。


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