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[ 警察小説 ]
メグレ夫人のいない夜
メグレ警視
ジョルジュ・シムノン 出版月: 1978年04月 平均: 6.00点 書評数: 4件

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河出書房新社
1978年04月

No.4 7点 クリスティ再読 2022/03/12 10:07
好み。ミステリとしての名作じゃないけども、皆さん同様にシムノンらしさ炸裂の好編だと思う。
原題は「家具のメグレ」くらいの意味で捻りすぎなんだけど、メグレ夫人がアルザスの妹の看病で、メグレに舞い込んだ「突如の(臨時)独身生活」。それをうまく織り込んだナイス邦題だと思う。
だから、メグレは事件の起きたアパートに住み込んで、その住人や気立てのいい家主とも仲良くなる。いやこれが昔風の下宿、といったもので、「めぞん一刻」と言ったらまさにその通り。家主クレマン嬢は響子さんで、メグレは五代くん。だったらラブコメ?かもしれないけど、メグレだからまあそうはならない....はずが、ラブコメもロマンチックも、ある。「男をかばう女の話」というテーマが隠されているのを、メグレは察知する。
ジャンビエが撃たれるなんて物騒な発端だけど、最終的には大岡裁き。甘いって言えば甘いけど、捕物帖テイストといえばそうかしら。ひょっとしたら、女性人気が突出して高い作品かもしれないよ。

犯人との対決・取引とか、よく書けている作品だと思う....メグレらしさ、が存分に発揮された作品という意味だったら、名作かも。ラポワントくん、調査は役立たずで残念、お疲れさま、ジャンビエのファーストネームは、アルベールだそうだ。

No.3 7点 2018/07/13 10:19
 アルザスの妹の手術に立ち会う為にパリを離れたメグレ夫人。彼女の不在に落ち着かぬメグレは、強盗事件を張り込み中のジャンヴィエが胸に弾丸を撃ち込まれたとの急報を受ける。ジャンヴィエを見舞ったメグレはその足で、夫人の留守を機に、容疑者ポーリュが下宿していたアパートの住人となるのだった・・・。
 以前取り上げた「メグレの回想録」の次々作。間に秀作「モンマルトルのメグレ」を挟んだ作品。tider-tigerさん同様、私も「モンマルトル~」よりもこっち派です。
 物語の前半は善良そうな管理人、クレマン嬢のアパートで起こる諸々の出来事。父の残したアパートを商売抜きに経営する彼女には一見、何の問題も無さそうに見えますが、それにも関わらずメグレは逆に、一挙一動を彼女に監視されているような印象を受けます。この辺りから作品に、初期作にも通じるような異様な緊張感が溢れます(あんま続かずすぐに終わりますが)。
 後半ではクレマン嬢の秘密を知ったメグレが、もう一度改めて現場を見直す所から。ここからやっと本筋の事件が始まります。しかし二つの事件が全く無関係という訳でもなく、両者はある意味皮肉な形で繋がっていたのでした。
 ラストに展開される、メグレと犯人との切実な駆け引き。その実二人はある女性の事だけを考えているのです。外にくるみの実のような雹が叩きつける中で、電話による彼との取り引きは終わります。全ての幕が降りた後で「忘れないでくださいよ…」と、メグレに念を押す犯人。
 偶然の巡り合わせから起こったこの事件。「馬鹿なことをしてくれて!」とメグレはポーリュを恨みます。ジャンヴィエさえ撃たれていなければ、ひょっとすると見逃したかもしれません。センチメンタルで構成が甘いのは確かですが、それでも好みで7点位は付けたいところです。

No.2 5点 tider-tiger 2017/07/23 14:15
強盗事件の容疑者ポーリュのアパート前で張り込みをしていたジャンヴィエ刑事が何者かに撃たれた。ジャンヴィエを撃ったのはポーリュなのか?
メグレはジャンヴィエの任務を引き継いで、問題のアパートの一室に泊まり込むのだが……。

本作では妹の看護のためメグレ夫人はパリを離れている。でかい図体を持て余したメグレが夫人の不在で途方に暮れてしまう導入が微笑ましい。そして、ジャンヴィエが撃たれて、このへんまでは快調。
ところが、読み進めるにつれて小説全体としてはいまいち完成度が低いなと。ミステリとして弱いのは平常運転だが、二つの事件の絡め方もいまいち。一旗揚げようとパリに出て来て失敗する田舎の若者、二人の人物を対比させようとしたのかもしれないが、鮮やかに決まっていない。
そもそも話の方向が散漫でテーマや作品の色合いがくっきりと浮かび上がってこない。なにがしたかったのかよくわからない作品。5点。

以下 私情
実は同じ時期に書かれた名作の誉れ高い『モンマルトルのメグレ(7点の予定)』よりもこの作品の方が好きです。
小説全体の完成度とは無関係なところで小説家としてのシムノンのうまさが炸裂しまくっていて、そこがたまらないからです。まあ、技術の無駄遣いといおうか、非常に燃費の悪い作品だと思います。
少しだけ挙げると。
観察しているつもりがいつのまにか観察されているメグレ。強盗事件の容疑者を父親のような視点で見てしまう息子が欲しくてたまらなかったメグレ。世界には善人しかいないかのような話しぶりのアパートの管理人。ポーリュ逮捕の切っ掛けと経緯。
そして、ジャンヴィエを撃った犯人とメグレの電話での会話がいい。
犯人「こっちには、服を着替えて空港にゆき、国外にいく飛行機に乗る時間はありますよ」
メグ「そうするがいいさ」
犯人「逃げても構わないんですか?」
メグ「かまわん」
駆け引きなんですねえ。そして、妥協点を探す二人。だが、彼らにはとある共通の目的があったりする。泣ける。
なぜ部品は素晴らしいのに組み立てに失敗する?
作者が「ストーリーには興味がない」とか言ってるからだ!

メグレをわかりやすく示す場面があったので引用して終わります。
ホームズの「アフガンに行ってましたね」との違いは明白です。
メグ「植民地にいたことがあるのかね?」
犯人「どうしてわかります?」
 説明するのは難しかった。言葉では表現できないなにかが感じられるのだ。顔色にも、眼つきにも、この種の早い老けこみにも。いまではメグレには、相手が四十五歳をこしていないという確信があった。

No.1 5点 2010/10/26 20:57
奥さんが妹の看病のため留守の間、メグレ警視が家に帰ることに居心地の悪さを感じるのが、微笑ましいような冒頭です。さて、それでも帰宅したとたん呼び出し。お気に入りの部下の一人ジャンヴィエ刑事が路上で撃たれて重傷を負うという事件です。奥さんがいないのをいいことに、警視はジャンヴィエが張り込んでいた家具つきアパートに数日住み込んで、捜査を行うことになります。
二つの別個の事件が偶然重なっているところ、否定意見もありそうですし、個人的にもこういうタイプはあまり好きではないのですが、本作に限って言えば、かなりうまくまとまっていると思えます。このシリーズの中でも謎解き要素は少ない方であるのも、構成のバランスとして悪くありません。
各章に長ったらしい見出しというか内容説明がついているのが、変な作品でもあります。


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