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[ その他 ] ドナデュの遺書 リュカ(メグレシリーズと同じ世界) |
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ジョルジュ・シムノン | 出版月: 1970年04月 | 平均: 5.00点 | 書評数: 1件 |
集英社 1970年04月 |
集英社 1975年05月 |
集英社 1979年01月 |
No.1 | 5点 | クリスティ再読 | 2019/03/24 15:02 |
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文庫200ページ内外が普通のシムノンなんだけど、本作は文庫500ページで、たぶんシムノンの最長編だろう。メグレ物の第一期が終わったあたりに書かれた「純粋小説」の初期のものである。ある意味シムノンの「家モノ」なんだが、グリーン家でもハッター家でもなくて、チボー家とかブッデンブローク家の方に近い、大河ロマンである。
とはいえ、起点・1年後・5年後と時系列の窓を移動するような3部構成なので、1家族の歴史を3連作したみたいにも読めるかな。この中で殺人が2件あるけども、扱いはミステリのものではない。新しいことにチャレンジしたいシムノンの意欲は感じられるのだけど、シムノン独特の集中力が、大河ロマンの拡散してく方向のベクトルとうまく合致していない印象を受ける。 港町の実業家老ドナデュが失踪し、すぐに溺死体として発見された。老夫人、長男とその妻、長女と婿、次女、次男が同居する大家族で、漁業、海運、練炭販売を手がける田舎ブルジョアの一家は、ドナデュの死をきっかけとして、次第に変貌を遂げて崩壊していく...近所に住む映画館主とその息子が、このドナデュの家に深くかかわっている。息子フィリップは次女と駆け落ちの後に、ドナデュの家に婿として戻ると才能を発揮して、次第にドナデュの資産を利用して自らの野心を実現しようとする。その父フレデリクは野心満々な息子と違って、人生の傍観者風キャラで、夫の陰に隠れて我慢していた老婦人や、一家に疎外されていた長男嫁(結核感染が判明して自らの生を生きようと家を出る)との、良い相談役である。長男は弱々しく無能な放蕩者であり、秘書に手をつけたことが大きなスキャンダルのきっかけとなる。フィリップはこの後始末に才幹を発揮して、一家の実権を奪うことになる....が、他人を踏み台にしてのみ才能を発揮できるフィリップと、その妻マルチーヌとの関係は次第に破綻の色を深めていく.... この長男ミシェルのスキャンダルは、秘書に手を出して堕胎させたことを、対立する政治党派に嗅ぎつけられたことから始まり、この秘書を説得してその父に疑惑を否定させたことから、この父が娘を守ろうとして、スキャンダルを掲載した新聞の発行者を殺す殺人事件にまで発展する。裁判ではフィリップがうまく秘書に証言させて、娘を守る父を無罪にして事態を収拾したのだが、真相を知った父は絶望のあまりに娘を絶縁して、旦那衆への面当てに共産党に入党するというあたりの展開が面白い。 がまあ、シテに当たるフィリップの野心はあまりスケールがないし、最後の方は自転車操業に四苦八苦するハッタリの多い詐欺的なものなので、魅力がないな。それと比べると、ワキの父のフレデリクのキャラが独自で面白い。クリスティで言うとサタスウェイト氏みたいなキャラである。ちょっとした狂言回しになっていて、作劇上も便利だな。最後は強引に悲劇でまとめたような感じになって、ここらへん「大河ドラマにどうオチをつけるのか?」で悩んで失敗したような印象。拡散して、家族が散り散りバラバラになっただけでも、十分小説にはなるんだけどねえ。なのでやや尻すぼみの印象を受けるのが、シムノンらしくないところ。 まあ、こういう大長編ロマンはシムノンの体質に合わないんだろう。無理することないや。 |