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[ サスペンス ] 妻のための嘘 |
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ジョルジュ・シムノン | 出版月: 1970年05月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
1970年05月 |
No.1 | 6点 | クリスティ再読 | 2022/09/08 19:07 |
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さて評者の集英社版「シムノン選集」の12巻の評も最後の作品。シムノンって非ミステリ作品でもミステリ的興味が強いケースもあって、なかなか気が抜けないのだけど、本作もミステリと非ミステリの際どいあたりを攻めた作品。
地方都市で古書店を営む主人公ジョナスは、子供の頃ロシアから亡命してフランスに居着いている干からびたような小男。身にそぐわない奔放な妻ジーナを娶ったのだが、ジーナはある日姿を消した。いつもの浮気プチ家出くらいに軽くジョナスは考えて、「朝バスでブールジュへ出かけた」と体裁を慮った嘘をついた。しかしいつまで経っても妻は帰ってこない。次第にジョナスが妻をどうかした、という噂が立ったようで、周囲の人々のジョナスを見る目が変わってきた…ついにジョナスは警察からの召喚を受ける という話。妻の失踪という事件を扱うけども、妻の行方自体は主題にならなくて、それなりに地域に馴染んでいた男が、周囲の疑惑から余所者として孤立していくあたりが主眼。原題は「アルハンゲリスクから来た小男」で、亡命者に思いを託して周囲に馴染めない男の孤独を描くことになる。実際、ジョナスがついた「嘘」も妻ジーナをかばうための嘘だったのだが、ジョナスの主張の一貫性をなくす効果しかない。いや、普通のミステリと違って、この嘘も警察に追及されるのだけども、それほどには重視されているわけじゃないんだ。それよりもこの嘘によって、ジョナス本人が自分で自分を追い詰めることになっていくのが、シムノンのオリジナリティで読みどころ。 この狙いはやや分かりにくいけど、印象は「仕立て屋の恋」の地味バージョンで、「カルディノーの息子」とか「メグレと妻を寝取られた男」みたいなシムノンお得意の寝取られ男話を結びつけたような作品。 |