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[ 警察小説 ]
メグレとベンチの男
メグレ警視
ジョルジュ・シムノン 出版月: 1977年12月 平均: 5.75点 書評数: 4件

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河出書房新社
1977年12月

河出書房新社
1982年11月

グーテンベルク21
2015年04月

No.4 7点 クリスティ再読 2023/01/16 22:38
メグレ物のジャンルって本当は結構幅広いものだけども、たぶん皆「細かいことを言っても...」という判断で「警察小説」にしているんだろうな、なんて思うこともある(苦笑)。でも本作みたいにストライクな「警察小説」のこともある。

「死体が履いている靴が、家を出たときとは違うのはなぜ?」
「失業したはずなのに、家族には毎日出勤しているように見せかけているのはなぜ?」
とかね、そういえば短編の「誰も哀れな男を殺しはしない」だなぁ...だけど短編から見ればさらに話が二転三転して、予想外の方向に転がっていくのが「警察小説」らしさなんだと思うのだ。警察の捜査を通じて、市民たちの生活と秘密が覗き込まれ、人間の意外な姿がパノラマのように浮かび上がる...なら、いいじゃない?

殺された男の二重生活は、小市民的な道徳性への反抗だから、これ自体シムノンの一大テーマなのだけども、この殺された男の娘もしっかり「反抗」を準備していて父と娘の内緒の交流があったりするのもナイスな造形。さらに「しし鼻の女」とか「警官の未亡人」、それに軽業師と一癖二癖あるキャラが次から次へと繰り出される面白さがあって、それで話が転がっていく動力が得られている。そう見ると、プロットの構築的な一貫性を重視したがる方には向いていないのかもしれない。
でもそれが警察小説かも。手練れのシムノンだからか、それでも見過ごした意外なところから「真相」が漏れ出てくるような面白さを感じていた。ちょっと評価を良くしたい。

No.3 6点 2018/07/10 13:33
 路地奥で発見された男は驚いたような表情を浮かべて死んでいた。死体を引き取りに来た妻は、派手な色の靴にもネクタイにも見覚えは無いという。さらに彼は勤務先の倒産を妻にも悟らせず、普段通り通勤を繰り返していた。常にベンチに腰掛けていたという男は、いったいどこから生計を得ていたのだろうか?
 メグレ警視シリーズ68作目。50年代前半、傑作とは言わぬまでも佳作未満の作品を次々発表していた時期のもの。そこまでではないですがこの作品も結構好きです。登場人物がいずれもなかなか味わい深い。
 結局妻に徹底管理された男の二重生活ものなのですが、束縛から解放された彼が求めた品々とか、大事にしている交友関係とかの描写がいいのです。特に良かったのは被害者の元同僚の、獅子鼻の優しい女。「メグレと殺人者たち」の、常に母性の対象を求め続ける斜視の女性を思い起こさせます。決して美人では無いこういうタイプを描かせるとシムノンは上手い。
 例の派手な靴(「カカドワ」と言うそうです)も過去に流行したタイプの靴で、作中でもメグレが昔買ったまま、気恥ずかしくて一度も履けずに処分してしまった、という描写があります。ある年代の人々の共通の記憶なのでしょう。茶色となっていますが「ガチョウのうんこ色」とあったので、漠然と黄色かと思ってました。
 ミステリ部分は過去の短編と同ネタだそうですが、まあシムノンなので問題ありません。人物や生活描写の方がメイン。またそれを裏書きするような結末です。
 殺された男の相棒の、昔大立ち回りをやった陽気な小男もいい感じに調子が良くてろくでもないですね。メグレシリーズでこういうタイプの裏表の無いのはあんまり見かけません。

No.2 4点 江守森江 2010/12/15 02:33
メグレで真っ先に思い浮かぶのが本家ではなく「名探偵コナン」の目暮警部なのだから「この書評の信頼度は低い」とお断りしておく。
数年前にスカパー!のあるch(記憶が定かではない)でメグレ警視シリーズのドラマ版が放送されていたが未契約でほぼ全話見逃した。
そんな中で唯一無料開放デーの御利益にあやかり観たエピソードの原作が本作で、図書館でおさらいもしたが記憶が埋もれていた。
空さんの書評を読み粗筋に覚えがあり、突如として当時の記憶が蘇った。
おさらいで、原作の雰囲気を損なわず良くできたドラマだったなと思った反面、期待していた謎解きタイプの作品ではなく、重苦しい雰囲気の人間関係にドラマ共々面白さを感じなかった。
※世界の警察官の階級に関する下らない疑問
「ダルジール警視」の書評でも触れたが、英・仏の警察では実際に警視クラスがずけずけと現場捜査に携わるのだろうか?
それとも日本の警視ほど偉くない階級なのだろうか?
又は翻訳の問題なのか?(インスペクターが警部とも警部補とも翻訳されていたりする←ドラマ字幕で確認)
※追記(12月20日)
週刊現代のSEX特集記事の中吊り広告で「作者が3000人斬り」とあった。
独身時代(結婚後は嫁オンリー)に300人斬りな私の10倍で、平日の夜に毎日別人と消化しても10年の大偉業!凄い。

No.1 6点 2010/12/14 21:21
パリの薄暗い路地で起こった殺人事件。被害者が黄色い靴(当時は派手目なおしゃれと言えばまずこれだったらしいです)をはいていた点が注目されます。
ストーリーはごく普通の警察小説といった感じです。しかし、警察小説風ではあっても、ミステリ度はメグレものの中でも低い作品と言えるでしょう。
本作のテーマは被害者とその家族や友人の姿を描くことにあると思われます。働いていた会社が解散した後も、そのことを家族に知らせず昼間広場のベンチに座って過ごしていた被害者は、どうやって金を手に入れていたのか。どうにもやりきれないような家族の状況が明らかになってしまえば、それでもう小説としてはほとんど終わりで、犯人は誰かということなど付け足しに過ぎません。
メグレ自身第8章の最後でコニャックでも飲まないとやってられないという関係者たちの状況に対してどう感じるかで、評価も変わってきそうな作品ですが、ちゃんといやな気分にさせてくれるということで個人的にはこの点数。

[追記]↑江守さんの疑問へ:フランス語のinspecteurは英語と違い、私服刑事の意味なんです。聞き込みなんかは、ま、フィクションですからね。


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