[ クライム/倒叙 ] 帽子屋の幻影 |
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ジョルジュ・シムノン | 出版月: 1956年06月 | 平均: 6.33点 | 書評数: 3件 |
![]() 早川書房 1956年06月 |
No.3 | 6点 | クリスティ再読 | 2022/06/22 16:15 |
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タイトルがいいので昔から気になっていた作品。このサイトで内容を見たら、シムノンには珍しいシリアルキラーの話だから、ぜひ読みたいな...と思っていた作品だった。シムノンの1作品での最多の殺人数かしら。ようやくゲット。
シリアルキラーの主人公の内面描写がずっと続く作品だけど、リアルタイムでの描写が軸なので、背景とか動機とか、徐々にしか割れてこない。いろいろと考えながら読んでいく必要があるタイプの作品で、ミステリ色は強いといえば、強めの作品である。 シムノンの名犯人といえば、たとえば「男の首」のラデックが典型だけども、「絶対に捕まらない!」で頑張ったりしないんだよね。どこかしら「捕まりたがる」要素があるし、その行動も合理的というよりも、個人的なちょっとした「ひっかかり」に押されて、たまたま「してしまう」ような色合いが強い。評者のようなシムノン・ファンにとっては、そこらへんに強いリアリティを感じるわけだ。理屈で割り切れない行動をするからこそ、人間の行動として妙に腑に落ちる、とでも言えばいいのかな。 同世代の老女ばかりをチェロの弦で絞殺するシリアルキラーの帽子屋ラベ氏の隣人で、貧しい移民の仕立て屋カシウダスが、ラベ氏の犯行に気がついてラベ氏に付きまとうのだが、ラベ氏はそんなカシウダスの口を封じようとするわけでもないし、犯人告発の賞金が欲しいだろうとラベ氏は考えて、それをわざわざ病床のカシウダスに与えようとか、考えたりする...新聞社に挑戦状をラベ氏は送り付けるのだけども、その中では殺人が完全にプラン通りのものだ、と宣言したりする。でもその動機はというと...いやこれはお楽しみ。とんでもない動機で、この挑戦状にも窺われるけども、「首尾一貫し過ぎて、かえっておかしい」というような、そういう「リアルな病み方」を体感できるような面白さがある。 このラベ氏の「闇」が理解不能で、それでもそこに人間性のリアルが感じられるというキャラ設定がこの本の中心課題になる。だから、話のオチはつけようもない、といえばそうで、あまり筋道立った結末にはならない。7点をつけにくいのは、そういうところかな。「ベルの死」あたりに近い印象がある。 |
No.2 | 6点 | 人並由真 | 2020/11/07 05:11 |
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(ネタバレなし)
フランスはシャラント地方の中心都市ラ・ロシェル。そこでその年の11月13日からほぼひと月の間に、6人の女性が相次いでヴィオロンセロの糸(チェロの弦)で絞殺される事件が起きる。正体不明の殺人鬼「絞め殺し屋」の標的にされたのは、そろって60歳前後の老女だった。そして殺人鬼の正体は、病気の妻マチルドと同居する60歳の帽子屋の主人レオン・ラベ。だがそのラベ氏は、自分に疑惑の目を向けるような隣人の仕立屋カシウダスが気になり始めた。 1949年のフランス作品。1948年12月にシムノンがアメリカのアリゾナで書き上げたノンシリーズのクライム・ノワール長編。 ちなみに評者は原型の短編『しがない仕立屋と帽子商』は、まだ未読(所収の短編集『メグレとしっぽのない小豚』は持っているが~汗~)。 当初から謎の殺人鬼=主人公と読者に明かしており、もちろんフーダニットではないし、かといっていわゆる倒叙ミステリ的なパズラーの要素もない。ラベ氏に標的にされた女たちの関係性も早めに明かされるので、ミッシングリンクの謎も成立しない。 とはいえ人間の内面の闇とある種の情念を探る意味でのミステリとしては、それでは何故、ラベ氏が<そのグループの女性たち>に次々と凶行を働いたのか、という広義のホワイダニットの謎が最後まで残される。 そしてもちろん、その決着については、ここでは書かないし書けないが、ラストまで読んで言いようのない思いが評者の胸に去来する。そういうことなんだろうね。そういうことなんだろうか。 秘田余四郎の翻訳は個人的にはそんなに負担ではなかったが、本文中の登場人物の名前に一部表記のミスがあるようなことは気になった。それと巻頭の登場人物一覧はおそろしく丁寧だが、その分、中盤と終盤の展開(とサプライズ)を一部ネタバレしてしまっている。これからシメノン選集版で読む人(といっても邦訳は現状、これしかないが)は注意されたし。 全体的に、どこかグレアム・グリーンあたりの諸作に近しい、宗教的な匂いも感じさせる作品。それがシムノンの意図かどうかはわからないが、言葉にしにくい余韻を与えるのは間違いない。 評点は本一冊のズッシリ感から言えば7点でもよいのだが、あともうひとつ、こちらに響くものが何か欲しかったということで、この点数で。 |
No.1 | 7点 | 空 | 2009/07/18 17:57 |
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短編『しがない仕立て屋と帽子商』を長編化した作品です。
メグレものはどうか知りませんが、純文学系の作品については、あらかじめ決めておくのは登場人物や舞台等の設定と最初に起こるできごとのみで、後の展開は筆まかせということが多いらしいシムノンにしては、このように最初から構成がある程度決まっているのは珍しいことです。 とは言っても、元の短編が仕立て屋の視点から書かれたミッシング・リンクの謎解きミステリであったのに対して、本作は犯人である帽子屋の視点からの話になっています。冷静な連続殺人犯であった彼が、仕立て屋に疑惑をいだかれたあたりから、しだいに精神的なバランスを失っていく様子がじっくり描きこまれていて、緊迫感充分です。 ただし秘田氏の翻訳は、古いというだけでなく妙な癖があって、閉口しました。たとえば、絞殺凶器のチェロの弦をフランス語風に「ヴィオロンセロの糸」と訳すとは! |
ジョルジュ・シムノン
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