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[ 警察小説 ]
メグレ推理を楽しむ
メグレ警視
ジョルジュ・シムノン 出版月: 1979年10月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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河出書房新社
1979年10月

No.2 6点 2019/04/12 14:28
 悪性の気管支炎をわずらい、床についたメグレ警視。治癒したものの不調は続き、パルドンをはじめとする医者たちから休暇をとるよう勧告される。夫人と共にサーブル・ドロンヌのロッシュ・ノワール・ホテルでのヴァカンスを予定したメグレだったが、あいにく受け取った返信には「全室予約済み」とあった。
 ヴァカンスに疑問を持ち始めたメグレは、夫人にパリで休暇を過ごすことを提案する。公けにはサーブル・ドロンヌに泊まっていることにし、ふたりでこっそりパリの町を散歩するのだ。乗り気になった彼は留守番電話その他必要な手を打ち、リシャール・ルノワール通りにある自宅の電話にも出ないことにした。
 それから三日目、朝刊紙をひととおり買いこんだメグレは、ある事件の見出しに目を留める。それはオースマン通りのさる有名な医師の診察室兼アパルトマンで、はめこみ戸棚の中から全裸の女性の死体が二つ折りにされて発見されたという記事だった。死体はその医師フィリップ・ジャーヴの妻エヴリーヌ。夫妻は六週間のカンヌ滞在にむかったはずで、その間は若い医者ジルベール・ネグレルが代診としてやって来ていた。
 折りしもヴァカンスの時期で、オルフェーヴル河岸の刑事たちの半数は不在。ジャンヴィエ刑事がはじめて警視の代理を勤めるわけだが、僅かな新聞報道からしても重大事件らしい。興味を惹かれたメグレは、決して役所に行かないことを条件にパルドンの承諾を得、新聞記事のみから事件に取り組もうとする。
 1957年発表のシリーズ第78作。「メグレの失態」の次に書かれた作品で、時期としては円熟期から2年ほど後になります。今回は改めて再読。
 初読の際の印象はあまり芳しくなかったんですが、刑事部屋でなく一般大衆の視点から事件を眺めるメグレの姿が読み返すとかなり新鮮。合間合間にジャンヴィエに情報や示唆を与えながら、メグレ夫人と一緒にパリのあちこちを散策します。「メグレのパイプ」「メグレと殺人者たち」など、各事件のその後の現場案内もあり。
 新聞ではその後ほどなく、夫フィリップもまたカンヌから飛行機でパリに戻っていたことが明らかになり、犯人はネグレルとジャーヴ、二人の医師のどちらかに絞られるのですが、それを決定する手掛かりは軽い思いつき程度。この物語の場合、かえってそれが効果的な気がします。
 大詰めの夜、ある関係者と一緒にセーヌ川ぞいの歩道からオルフェーヴル河岸を見つめ、ジャンヴィエによる事件の決着を見守るメグレの姿が印象的でした。

No.1 6点 2011/09/17 09:16
メグレだけでなく、読者にもなかなか楽しい思いをさせてくれる(渋い味わいとかではなく)作品です。
バカンスと言えば、現住所から離れたどこかへ出かけていくもの、という常識を覆して、地方へ行ったふりをして、誰にも知らせずパリでバカンスを過ごすメグレ夫妻という設定がまず愉快です。メグレの他、最古参刑事のリュカも休暇中のため、初めて難事件捜査の指揮をとることになったジャンヴィエ刑事。この人『男の首』等初期には新米だったのですが、いつのまにかベテランになってしまいました。
医師の診察室で発見された全裸の医師夫人の死体、犯人は容疑者二人のうちどちらか、というのが問題です。メグレは新聞記事を毎日丹念に読んで、推理を楽しみます。最後は夜、メグレの部屋の窓の中でジャンヴィエたちが容疑者を追い詰める尋問をしているのを、メグレは近くの酒場から眺めていて、あるメモを届けさせるのです。
ただ、現場や関係者が直接描かれていないため、多少不鮮明に感じられるところはありました。


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