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[ 警察小説 ]
メグレと匿名の密告者
メグレ警視
ジョルジュ・シムノン 出版月: 1978年09月 平均: 4.00点 書評数: 2件

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河出書房新社
1978年09月

河出書房新社
1984年03月

No.2 4点 2020/07/05 21:49
 霧雨のようなものが降り続く五月の深夜、メグレ警視はヴォルテール大通りのアパルトマンで、男の他殺体がジュノー大通りの舗道で発見されたとの連絡を受けた。射殺されたのはレストラン《ラ・サルディーヌ》の経営者モーリス・マルシア。やくざ上がりだが今ではパリの名士で、三十歳以上も年の離れた元ダンサー、リーヌと四年前に結婚していた。
 遺体は至近距離から胸を撃たれたのち、現場に投げ捨てられたと思われる。携帯していた自動拳銃(オートマチック)も使われた様子はなく、尻ポケットの札束にも手は付けられていなかった。
 喧噪の圏外にあるかのようなモンマルトルの邸宅(ヴィラ)地に転がっていた死体。それから間もなくオルフェーヴル河岸に、現場付近を知りつくす第九区のルイ刑事が訪ねてくる。黒装束で身をかため、控えめで休みなしに働く内気な男。その彼がここに来たのは、偶然ではない。
 果たしてその通りだった。ルイが使っている密告者の一人が、「モーリスはモリ兄弟の一人に殺られた」とタレ込んできたという。決して彼に名前を教えようとはしないその男は今まで間違えたことはなく、それでいて金も要求しないのだった。
 兄のマニュエルと弟のジョー。三十そこそこのやくざだが羽振りは良く、田舎の館(シャトー)や大邸宅ばかりを狙った押しこみ強盗の主犯と目される連中だ。表稼業の果物商売に使うトラックで、戦利品を運び去るのだろう。本当に彼らがモーリスを殺したのだろうか? メグレの頭の中に、リーヌ未亡人のサロンにあった不釣り合いな骨董家具の存在が浮かぶ。
 リーヌ・マルシアに直接揺さぶりを掛けるメグレ。そんな彼のアパルトマンに今度は直接、「匿名の密告者」からの電話のベルが鳴り響く――
 最後から二番目のメグレもので、『メグレ最後の事件』と同じく1971年発表。『メグレとひとりぼっちの男』の次作ですが、最後期にしてはまあまあの前作に比べると明らかに落ちる出来。疲れ気味なとこへ来てのメグレな事もあり、途中までかなりほんわかしてたんですが、読み終わるとやはり高い点は付けられないなと。
 途中で正体が割れる「匿名の密告者」の、通称《ちび公(ラ・ピュス)》ことジュスタン・クロトン。背が一メートル五十にもならないピエロみたいな小男で、いいキャラに見えたんですが中身はアレ。最後に自滅する犯人たちと絡んで、『メグレと宝石泥棒』を超える泥縄決着を迎えます。メグレも尋問後に胸がむかつき、ドフィーヌ広場で口直しをするくらい。犯人が〈証人はいくらでも用意できる〉やくざの親分な上に、キャラやドラマが良くないのはちょっとなあ。
 色眼鏡の再読ながらルイ刑事が結構いい感じだったし、久々のシムノンで一瞬「これは間違えてたかな」と思ったんですが、結果は平均以下でした。5点くらいは望めますがそれ以上はムリ。それでも癒やしてくれたんで、とりあえず4.5点にしときます。

No.1 4点 2013/08/30 22:28
訳者あとがきにも書かれているように、メグレ・シリーズには時々匿名の密告者が出てきます。前作『メグレとひとりぼっちの男』でもそうでしたが、その前作では密告者の正体は不明のままですし、密告は事件解決には必要なかったと感じたのでした。シムノンもその点に対する反省があったのか、今回はタイトルどおり、密告者が重要な役割を果たします。元(?)やくざであったレストラン・オーナーが殺された事件で、犯人指摘の密告者が誰であるかをつきとめ、その所在を探し出すのが、容疑者に対する調査と共にストーリーの中心になっているのです。そして最後には、密告者が殺人事件にも多少関わりがあったことが明かされることになります。
もう一人の本作の重要登場人物は、モンマルトルを知悉する初登場のルイ刑事で、なかなかいい味を出しています。ただし、小説としての面白味ということでは、前作に比べるとぱっとしません。


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