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[ クライム/倒叙 ] 判事への手紙 |
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ジョルジュ・シムノン | 出版月: 1955年07月 | 平均: 5.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1955年07月 |
No.1 | 5点 | クリスティ再読 | 2023/10/03 00:53 |
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シメノン選集もあと少し。奮発して古書で購入。
この「判事」、エルネスト・コメリヨー予審判事だから、メグレシリーズでお馴染みのあの人かしら。でも小説はコメリヨー判事が予審を担当した殺人犯、アラボワーヌ医師が書く宛先であり、アラボワーヌの目で断片的に僅かに描かれる程度。 このアラボワーヌ医師は、周囲も納得しないようなよくわからない理由で誰かを殺し...だけど、一人称手紙文だから、具体的な事件が小説終盤になるまでわからない。田舎町で開業した医師で、死没した前妻との間に二人の女の子・母が健在で、アルマンドという妻がいる。この医師の人生を丹念に描いていく。 シムノンだと「強い女性に支配される男」というのは本当に頻出パターン。本作のアルマンドも「アラボワーヌ医師の人生のプロデューサー」みたいな強い女性。医師はふとしたきっかけで拾った女性、マルティーヌとの情事に溺れ...殺人事件が予告されて「犯行以前」みたいな格好で手紙が進行していくのだけども、何がどうなるのか、終盤に至るまでまったく予断を許さない。 で、犯罪心理小説か、というとシムノンなので心理の不透明感が強くて、「愛の不条理」とか純文学的な本格心理小説という側面の方が強いな。グレアム・グリーンの「情事の終り」あたりと近い小説。ややサディズムのような描写もある。温厚な田舎医師なんだけどもねえ。 シムノンとしては長めの小説になると思うよ。ガチガチの心理主義だからヘヴィ。「ミステリの形式」は借りただけで、狙いは「ミステリの動機」からは大幅に逸脱している。やや晦渋になりすぎたと本作を反省し、リライトして「可愛い悪魔」になったんじゃないかな。あっちのが小説としてうまく処理されている。 (思うが、この殺人の動機って一番近いのは「彼らは廃馬を撃つ」な気がする) |