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[ 警察小説 ]
モンマルトルのメグレ
メグレ警視
ジョルジュ・シムノン 出版月: 1977年01月 平均: 6.75点 書評数: 4件

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河出書房新社
1977年01月

河出書房新社
1982年10月

河出書房新社
2000年05月

グーテンベルク21
2013年03月

No.4 7点 クリスティ再読 2019/01/14 11:36
訳題が「モンマルトル」と付いているので、ボヘミアン画家とかムーラン・ルージュみたいなおのぼり喜ぶショーキャバレーが舞台?と思うとさにあらず。舞台はダンサーが3人しかいないストリップ小屋だというのが、シムノンらしさ全開。ミステリ色の薄い「ストリップ・ティーズ」も併せて読むといいかも。
じゃあどこがシムノンっぽい?というと、被害者になるストリップ嬢は仕事のあと、警官に犯罪計画を立ち聞きした...と密告しに行って、メグレの元まで送られるのだけど、いざ酔いが醒めてみると急に証言が曖昧になって...とグズグズなあたりかな、とも思うのである。小説って意外に目的志向が強いものだから、「勢いで何かしちゃって、腰砕ける」とか書きづらいものなんだけども、こういう「あるある的リアル」が「シムノン、書けてる!」感の原因かな。
でこの嬢、証言翻して帰宅したらその自宅で絞殺されていた....曖昧な証言は裏を取ると、全部でっちあげのようだ。しかし、予告されていた犯罪らしきものは、起こった!
というこの展開は、まさに「ミステリとして、うまい」という感じ。なぜストリップ嬢はそんな密告をしようと思ったのか?背後にどんな男がいるのか?というあたりを巡って、メグレの捜査が続く。ご贔屓ロニョン君も活躍するし、メグレが気分転換に外の捜査に出たがるワガママとか、ここらへんのニヤリとなるあたりも鉄板の面白さである。
で終盤、メグレとこの嬢をよく知るストリップ小屋の店主と、改めて嬢の性格などを検討し直すシーンが、なかなか「女が分かってる」感が強く出ててスゴイな、と思わせる。女性を描かせて最強の男性作家なんだろうな。
最後はうまく罠をかけて犯人を釣り出すし、ここらへんパズラーじゃない「警察小説」の良さが体現できている。過不足なく中期メグレの面白さを紹介するんだと、本作が一番ニュートラルにわかりやすい作品かもしれない。

No.3 7点 tider-tiger 2018/02/16 10:13
キャバレー『ピクラッツ』で働く踊り子のアルレットが酔っ払って警察署にやって来た。
アルレットはリュカ巡査部長に「伯爵夫人がオスカルに殺される」などと主張するも、急に態度を変え、自分は作り話をしたのだと言を翻す。
作り話というにはいささか具体的で真に迫ったところもある。
半信半疑のまま、リュカは彼女を家に帰した。
そして、数時間と経たぬうちにアルレットは何者かに絞殺されるのであった。

1950年発表のメグレシリーズ黄金の50年代の嚆矢となる一作であります。ハヤカワミステリマガジン1990年3月号「ジョルジュ・シムノン追悼特集」にて矢野浩三郎、野口雄司、長島良三、都筑道夫の四氏にメグレシリーズのベスト5作品をそれぞれ選んで貰ったところ、四名全員が選んだ唯一の作品が本作『モンマルトルのメグレ』だったようです。
※ソースは瀬名秀明氏のwebでの連載です。

冒頭から被害者(アルレット)に盛んに言い寄っていた若い男の存在が明らかになっております。
この若い男の正体は最初の数頁で仄めかされ、63頁(河出文庫版)であっさり判明してしまいます。
この男が犯人である可能性を仄めかしつつ正体を伏せたまま後半まで引っ張るのも一つの手というか常道でしょうが、シムノンはこの道を採りません。こんなプランは彼の脳裏を過ぎりもしなかったことでしょう。なぜならシムノンだからです。
この謎の男R氏は熱弁を振るいます。
「彼女は違うんです、ぼくのことを真剣に考えてくれていました」
「ふうん、そうなの(ニヤニヤ)」と、メグレはこういう感じ。
このへんの会話は面白い。キャバクラに嵌っていた知人のMくんを思い出します。Mくんも「彼女は違う」と言ってました。
脇役も良く、ロニョンはいつもの通りいい味を出している。ピクラッツにおける人間模様などなかなか面白くて、後半にはスリリングな展開もあったりして非常に出来が良い作品です。お薦めの一作です。
犯人がなかなか興味深く、読者に好奇心を抱かせるような書き方がされています。正体が明らかになるにつれてメグレとの絡みを少し期待しました。ところが、人物像は曖昧なままに終わってしまいました。
ラストを考えるに仕方ありませんが、残念でした。
また、アルレットについても曖昧な部分が残されておりました。
なぜアルレットはオスカルのことを密告しようとしたのか。
なぜ急に態度を変えて、オスカルなんて知らないなどと言いだしたのか。
謎の男R氏の言うように『彼女は(本当に)違うんです』そんな風に思いたいですね。

確かに本作のタイトルは『メグレとR氏』の方がよかったかも。もしくは原題に忠実に『ピクラッツのメグレ』にして欲しかったところです。

以下、参考までに前述のミステリマガジンアンケートの結果を記載しておきます。
「メグレ・シリーズ・ベスト5」
•矢野浩三郎『メグレのバカンス』『メグレと若い女の死』『メグレ罠を張る』『モンマルトルのメグレ』『メグレと幽霊』
•野口雄司『黄色い犬』『メグレと殺人者たち』『モンマルトルのメグレ』『メグレと若い女の死』『メグレ間違う』
•長島良三『メグレと若い女の死』『メグレと殺人者たち』『モンマルトルのメグレ』『メグレ罠を張る』『メグレと首無し死体』(番外)『メグレ警視の回想録』
•都筑道夫『メグレ罠を張る』『メグレと首無し死体』『モンマルトルのメグレ』『メグレと優雅な泥棒』『猫』(非メグレもの)。

私が選ぶとしたら『メグレと若い女の死』と『メグレと殺人者たち』は入れると思います。都筑さんが『メグレと優雅な泥棒』に一票投じてくれているのがとても嬉しい。人さまにお薦めはしづらいが、私も大好きな作品です。
概ね良い作品が選ばれているとは思いますが、もう少しヴァリエーションがあった方が面白いのになあとも思いました。
特に初期作品にあまり票が入っていないのが気になります。
日本ではもっとも有名な作品と言えそうな『男の首』に一票も入っていない! これは私もベスト5には入れませんが。

2018/05/11 追記
R氏としましたが、L氏とすべきでした。綴りを知らなかったもので。

No.2 6点 2010/08/08 15:15
メグレ警視シリーズというのは国内物で例えれば、一話完結連続ドラマである○○捕物帳あるいは鬼平犯科帳といったところでしょうか。ということが3作目にしてなんとなくわかってきました。事件としては庶民的というか、町民レベル、さらには底辺の人たちの間で起こったものばかりです。だからストーリーは謎解き中心というわけにはいきませんが、そのかわりメグレを中心とする生き生きとした会話や、人間関係の描写を楽しむことができます。
本書の場合はさらに、メグレの部下であるラポワント刑事がストーリーの中心に据えられ、刑事たちはもちろん他の登場人物たちも激しく動き回るダイナミックな展開となっています。メグレ一人が活躍する「静のドラマ」というよりも、「動のドラマ」を感じた作品でした。

No.1 7点 2009/09/15 20:45
原題を直訳すれば『「ピクラッツ」のメグレ』。モンマルトルにあるピクラッツというキャバレーから事件は始まり、クライマックスではメグレ警視がこの店に陣取って、刑事たちからの電話報告を受け、指示を与えていきます。
しかし、個人的には『メグレとラポワント』というタイトルにしてもいいのではないかと思ったりもします。若いラポワント刑事はこのシリーズでは常連の一人ですが、本作では最初から最後まで特に重要な役割を果たすのです。
最初の被害者アルレットやおかまのフィリップなど妙に印象的な登場人物たち、スリリングな最終章の展開、最後1ページのシムノンらしいシンプルな筆致による味わい深さ。伏線を張ったフーダニットとは全く違うタイプですが、なかなかおもしろく読ませてくれる秀作です。


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