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[ 警察小説 ] ブーベ氏の埋葬 リュカ(メグレシリーズと同じ世界) |
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ジョルジュ・シムノン | 出版月: 2010年12月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 2件 |
![]() 河出書房新社 2010年12月 |
No.2 | 7点 | クリスティ再読 | 2024/01/16 16:16 |
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さてそろそろシムノンも最近の翻訳に手を出すことにしよう。
河出の「シムノン本格小説選」なら9冊出たわけで、その昔の集英社のシムノン選集に並ぶボリュームの非メグレの出版になる。だからミステリ色の強いものもあれば、そうでないものもある。実際、シムノンの一般小説というと、ミステリ色が強いもの、自伝的な内容のもの、一種のピカレスク、「第二の人生」といったテーマのもの、性の問題を扱ったものと内容は多岐にわたっている。本作は比較的ミステリ色が強いものだけど、パリの街角で急死した老人の「さまざまな過去」が露わになってくる話。 女性関係もそうだし、若く血気盛んな頃には当時で言えば「アパッシュ」というような不良青年だった経歴も、さらにはパナマで名前を変えて結婚し、コンゴの金鉱山で一山当てて....と波瀾万丈の「過去」が、身綺麗な独居老人の背後に横たわっている。急死によってその死が新聞に載ったことで、そんな過去が芋づる式に明らかになっていく。それを淡々とした筆致で描く小説だけど、「人生的な興味」というやつで、つまらないわけが、ないでしょう? まあ評者だって、急に死んだら、ヘンテコな過去がいろいろと明らかになって....とかあるかもよ(苦笑) いや人間、実は誰しも「冒険」をしながら生きているものだ。つまらない日常さえも、その由来を探っていけば「冒険」という大仰な言葉でしか言い表せないような因果によって、織りなされているのかもしれないのだ。そういう面白みというのは、やはり「小説」の面白みであり、ミステリはそれを効率よく語るための形式なのだろう。 (ちなみにリュカ登場の作品だけど、上司の司法警察の局長はギョーム氏で、メグレじゃない、あと下積み刑事のムッシュー・ボーベールがナイスなキャラ) |
No.1 | 7点 | 空 | 2011/01/07 21:35 |
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メグレものではありませんし、冒頭でのブーベ氏の死は単なる病死です。
しかし、そのブーベ氏の隠された過去の秘密を少しずつ明らかにしていくストーリーということでは、かなりミステリ的な作品です。しかも最後には犯罪がらみになってきます。メグレの部下たちの中でも最古参のリュカ刑事は、メグレもの以外にも『汽車を見送る男』等にちょい役で出演していますが、本作ではほとんど主役の一人と言っていいくらいの活躍ぶりです。ブーベ氏の過去を探るもう一人は、地道な聞き込みに歩き回る冴えないボーペール刑事(彼はたぶん新顔)。 以前『自由酒場』評で、セレブな生活からの逃避という主題は作者の純文学系作品にも出てくることを書きましたが、その時意識していた作品の一つが本作です。 ブーベ氏の過去が明らかになった後、短い最終章で描かれる埋葬が、しみじみとした余韻を残します。 |