皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
[ 警察小説 ] メグレの打明け話 メグレ警視 |
|||
---|---|---|---|
ジョルジュ・シムノン | 出版月: 1978年04月 | 平均: 5.25点 | 書評数: 4件 |
![]() 河出書房新社 1978年04月 |
![]() グーテンベルク21 2015年03月 |
No.4 | 6点 | クリスティ再読 | 2025/09/21 20:14 |
---|---|---|---|
シムノンというと、意外なくらいに真相が曖昧な作品が多いんだよね。本作はメグレ物でそれをやっちゃった作品。メグレ非登場なら「ベルの死」という有名作もあるし、「証人たち」だってそう。1950年代にこのテーマが掘られていて、本作は1959年作。メグレは司法警察の捜査担当の警視だから、立場上は予審判事の指揮の下で捜査に当たるわけだ。
でレギュラーだけどメグレとの確執がよく話題になるコメリオ判事の事件である。この事件にはメグレは初動捜査に関わっておらず、問題の容疑者ジョセと初めて会ったも逮捕された後。メグレの尋問の機会も一度だけ。あとはコメリオ判事の下で身柄が確保されて公判になる。メグレは組織上の問題で手も足も出ない。こんな事件だから、メグレも「悔いが残る」事件になってしまった。 こういうあたり、アンチロマン主義というか、見ようによってはリアルな社会派でもあるわけだ。アンチクライマックスな作品だから、皆さまのご評価が厳しめになるのは、わかる。ヒーローであるはずのメグレが、「命が救えるわけではない患者」にも対応せざるを得ない町医者の親友パルドンに、愚痴をこぼすのが大枠。ツラいなあ、という話なのだ。 でもそういう組織の壁にメグレの良心も役立たないのが、とてもリアルなんだよね。さらにジョセ自身の浮気だとか、浮気相手の父が自殺するとか、金持ちの女性に引き立てられて出世した男、というやっかみと偏見を受けやすい成りあがりモノであることからも、ジョセにはいろいろと世論の眼が厳しい。ジョセの弁護をした弁護士も、名声はあってもメグレは実力を危ぶんでいる男。「あ~ダメ、かな?」という悪い予感が... まあそんな鬱エンド。切り裂きジャックを扱ったラストガーテンの「ここにも不幸なものがいる」にいろいろ近い作品かな。シムノンとしてはエンタメ枠であるはずのメグレ物で、こういうのやるとは思わなかったな。 |
No.3 | 4点 | ALFA | 2025/08/19 07:13 |
---|---|---|---|
十数年ぶりに再読。
警察小説としての味わいはあるが、いくらメグレでも解決のないお話ではねえ。 ミステリーを読む快感とは無縁の作品。 |
No.2 | 5点 | 雪 | 2018/06/28 16:29 |
---|---|---|---|
メグレ警視シリーズ1950年代最後期に当たる作品。リドルストーリー仕立てですがそれほど徹底してはいません。むしろ一旦裁判に軸が移れば、直接担当の捜査主任でも容疑者とは容易く面会できない状況、及び世論に押し流されて生じる捜査の歪みなどを描きたかったのだと思います。当時のフランス社会で実際に起こった事件の影響もあるかもしれません。徐々に捜査官から権限が取り上げられ、検察側の管理体制が強まってゆく様子は、この前後のメグレ物の中で繰り返し語られます。
メグレが無罪前提で証拠を精査したのはやはり、刃物でメッタ刺しという残虐な犯行が、実際に当たった容疑者の人物像とはかけ離れていたからでしょう。ただし彼の心象がどうあろうとも、変化してゆく警察制度はもはや彼に充分な捜査の余裕を与えません。そのあたりの憤懣も仄見えています。 いろいろと問題作ではありますが、それ以上の出来ではありません。これを受けたであろう次作「重罪裁判所のメグレ」の方が、物語としてはより充実しています。 |
No.1 | 6点 | 空 | 2011/11/24 21:04 |
---|---|---|---|
訳者あとがきにも書かれていますが、メグレもの長編の中でも珍しくリドル・ストーリー仕立てにした作品です。どちらかというと一方の解釈に傾いているような終り方ではありますが、結局はあいまいにしています。こういうパターンは同じシリーズで何度も繰り返すものではないでしょうが、作家としては1回ぐらいはやってみたいと思うのかもしれません。
裁判によって人を裁く場合に不可避の問題提起は、裁かれる者の視点から書かれた『青の寝室』等にも見られますが、本作はいわば裁きの中間地点にいる警視の立場から捉えられたリドル・ストーリーにすることで、そのテーマを効果的に描けていると思います。 タイトルどおり「打明け話」ということで、過去に手がけて不本意なまま終っていた事件について、メグレが友人の医師に語る構成になっているのも、異色と言えるでしょう。前作『メグレと口の固い証人たち』ではすでに引退していたコメリオ判事が在職中の時期設定です。 |