海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ 警察小説 ]
メグレと政府高官
メグレ警視
ジョルジュ・シムノン 出版月: 1977年09月 平均: 6.25点 書評数: 4件

書評を見る | 採点するジャンル投票


河出書房新社
1977年09月

河出書房新社
1982年12月

グーテンベルク21
2015年03月

No.4 7点 クリスティ再読 2024/11/12 21:38
個人的には大変好み。キャラの深みよりもサスペンスで引っ張っていく3期初めあたりにしかないタイプの作品じゃないかな。重苦しいサスペンスが張り詰めていてそれを買う。

メグレが「救う」ことになる公共事業大臣ポアンと、メグレは自分との共通点をいろいろ感じて「嫌な」事件であるにもかかわらず積極的に介入していく。その共通点の一つがメグレ自身も「政治的な罠」にハメられて一時ヴァンデの機動隊に左遷された経歴があったりすることだ。だからメグレも政治嫌いを公言するのだが、レジスタンスから政治の世界に祭り上げられた、朴訥なポアン大臣が「意図的に証拠を隠ぺいした」とする疑獄から救おうとする。

メグレにしては珍しく敵役風キャラも登場し、正義派風の立場をうまくとって政界を操ろうとする代議士マスクラン。高級レストランでのメグレとの対決場面は腹芸の見せ場で結構。奇矯な正義感から問題の証拠書類を掘り出す変人学者ピクマールは、シムノンは描きにくいタイプだったのかな。ドロップアウトした元刑事というと、どうもシムノンは成功したキャラはいないが、今回もそれほどのキャラではない。
まあ、スカッとした解決ではないのが、シムノンらしいといえばシムノンらしいし、ちょっと松本清張風味のリアルも感じたりする。

トリビア的には、大臣の出身地に在住の友人に電話して、大臣の人となりを聞くシーンがあるが、この友人は「途中下車」に登場のシャボ―。あとこの時代では「最新」の扱いで複写機が登場するけど湿式らしい。青焼の仲間のようだ。懐かしい....

No.3 6点 2020/08/22 21:16
 その夜、家に帰ってくるとメグレ警視は、公共事業省大臣のオーギュスト・ポワンから電話があったと夫人に告げられた。至急会いたいという。メグレは指定されたパストゥール大通り二十七番地のアパルトマンに出向くが、そこで途方に暮れるポワンが語りだしたのは、一ヵ月前から前から新聞をにぎわしているクレールフォン事件に関するものだった。
 クレールフォンの大惨事――それはオートサヴォア県にある恵まれない子どもたちのためのサナトリウムが崩壊し、百二十八人の子供の生命が奪われた痛ましい事故だった。サナトリウムを建てた土建請負会社の社長アルチュール・ニクーは上流社会の人間として振舞い、文学・芸術・政治の世界で重要な人々をサモエンヌに招待していたが、ポワンもその中の一人だった。単なる招待客で、ニクーと特別な関係がある訳ではなかったが。
 昨日の午後、国立土木大学の学生監ジュール・ピクマールと名乗る男がポワンの元に現れ、彼が総理の命を受けて探していた故カラム教授の報告書を託して去っていった。通称《カラム・レポート》と言われるそれは、応用力学の権威者ジュリアン・カラム教授が事前調査にたずさわった時のデータで、その中で教授はあの大惨事が起こることを予告しているという。悲劇が起きた今それが公表されれば、政界すべてを巻き込む爆弾になりかねない。ところがそれが、わずか一日のあいだに紛失してしまったのだ。
 朴訥なポワン大臣にある種の共感を覚えたメグレは、証拠湮滅の汚名を雪ぐため非公式に事件を引き受ける。彼の不得意な政治的事件。果たしてメグレは犯人を探し出し、消えたレポートを発見できるのか?
 『メグレと若い女の死』『メグレと首無し死体』の間に挟まる、シリーズ第74作。1954年発表。シャーロック・ホームズものの「海軍条約事件」と同じく機密文書の行方を巡る謎ですが、メグレはホームズとは違うのでケレン味たっぷりの小芝居とかはありません。地道な捜査の末に、ややビターな決着を迎えます。
 傑作に囲まれた円熟期の作品ですが、出来は標準かややその上くらい。サクサク読めるとはいえそこまで魅力的な人物は登場しません。間違って政界入りした感じのオーギュスト・ポワンとの遣り取りに、ほのかな温かみを感じるくらいでしょうか。
 ヴァンデ県ラ・ロシュ・シュール・ヨンの弁護士で、イギリスのスパイや捕虜収容所からの脱走兵をかくまっていたことからドイツ軍に逮捕され、地元の信望を得て国民議会議員となった人物。出身階級や年齢、体つきもメグレと同じくらいで、作品中では何度もお互いに〈兄弟のように似た人間と向きあっているような印象〉を受けています。元々気が進まないこともあり、彼の頼みでなければおそらく初めから承諾しなかったでしょう。
 総理直属の国家警察総局も動き回る中、手元の情報を整理しつつ慣れない捜査にあたるメグレ。《カラム・レポート》の存在を掴んだとおぼしき政界フィクサーの動きから犯人にアタリを付け、一気に隠れ家に踏み込みます。
 レポートを利用して罠を仕掛けた黒幕に深みがあればもっと良かったかな。全体の図式はそこそこですが、描写はあっても面白くない類の人物なのでまあ仕方無いか。でもレストラン《フィレ・ド・ソール》での両者の対峙には、なかなか緊張感があります。

No.2 6点 tider-tiger 2017/07/30 18:40
とある施設で100人以上の子供が犠牲となる大惨事が発生した。その施設の建築に大反対する専門家が過去に意見書を提出していたことが判明し、その意見書を巡って本来は無関係だったとある政府高官が窮地に陥り、メグレに救いを求めた。

実際に当時フランスで起きた惨事を下敷きに書かれた作品だそうで、メグレものとしては珍しい試みです。この手の話だったら他の作家の手にかかればもっと複雑巧緻なプロットで、本の厚さも倍以上になりそうなものですが、シムノンはすっきりとまとめています。
いつものようにさほど驚きはありませんが、展開はスピーディーで読み易く、エンタメとしてなかなか楽しめる作品ではないかと。
メグレは窮地に陥った政府高官に好意を持ち、気のせいかもしれませんが、メグレの男気を見たような気がしました。悪役にもう少し深みが欲しかったかな。
この時期の作品としては心理小説的な側面薄く、個人的には少し変わり種な作品のように思っています。
『リュカは不満だった』と題された章では珍しくリュカがメグレに不満を露にしており印象的でした。メグレへの不満というよりもメグレのことを心配していたのだと解釈しておりますが。メグレはやはり、リュカ、ジャンヴィエ、ラポワントの三名を最も信頼しているようですし、この三名はもちろんメグレに忠実です。ただ、リュカだけはメグレのようになりたいという願望があるようです。

※本作は1954年の作品ですが、この年と翌55年は大当たり。本作の他に『メグレと若い女の死』『メグレ罠を張る』『メグレと首無し死体』の三作が書かれておりますが、いずれも傑作(私見では『メグレと政府高官』はもっとも読み易いが、ちょっとランクが落ちる)。私はこの二年間がメグレシリーズの頂点ではないかと思っております。

No.1 6点 2011/05/26 21:43
メグレが自分との共通点を感じる登場人物というと、『自由酒場』の被害者や『メグレ間違う』の外科医(これはむしろ対極と言った方がいいかもしれません)がいますが、本作でメグレに個人的に相談を持ちかけてくる政府高官-公共事業大臣もそうです。大臣夫人にもメグレ夫人との共通点を見出したりしています。
本作はシムノンには珍しく政治的な事件を扱っています。メグレの政治嫌いは、やはり作者の意見でもあるのでしょうが、それにもかかわらずどういう風のふきまわしなのか…
自然災害による大事故で百人以上の子どもが死んだ児童施設の事件は、訳者あとがきによると実際の事件をモデルにしているそうです。その事故の危険性を指摘した文書の行方をめぐる本作は、政治がらみだけにいつものメグレもののような人情話的なストーリーにはなりません。しかし、そのような設定だからこそのサスペンスはあり、なかなか楽しめました。


キーワードから探す
ジョルジュ・シムノン
2024年03月
ロニョン刑事とネズミ
平均:6.50 / 書評数:2
2023年10月
メグレとマジェスティック・ホテルの地階
平均:6.60 / 書評数:5
2022年04月
運河の家 人殺し
平均:8.00 / 書評数:4
2018年11月
十三の謎と十三人の被告
平均:6.00 / 書評数:1
2015年02月
紺碧海岸のメグレ
平均:6.75 / 書評数:4
2011年02月
青の寝室 激情に憑かれた愛人たち
平均:7.00 / 書評数:1
2010年12月
ブーベ氏の埋葬
平均:7.00 / 書評数:2
2009年10月
倫敦から来た男
平均:6.40 / 書評数:5
2008年11月
闇のオディッセー
平均:6.00 / 書評数:1
2008年07月
ちびの聖者
平均:8.00 / 書評数:1
2008年04月
証人たち
平均:7.00 / 書評数:1
2007年07月
Les rescapés du Télémaque
平均:6.00 / 書評数:1
2005年12月
Les sept minutes
平均:6.00 / 書評数:1
2000年04月
Le rapport du gendarme
平均:6.00 / 書評数:1
1999年12月
Les complices
平均:6.00 / 書評数:1
1998年12月
Le suspect
平均:7.00 / 書評数:1
1998年10月
O探偵事務所の恐喝
平均:6.00 / 書評数:1
丸裸の男
平均:5.00 / 書評数:1
1998年08月
老婦人クラブ
平均:6.00 / 書評数:1
ドーヴィルの花売り娘
平均:6.00 / 書評数:1
1997年07月
メグレ警視
平均:6.00 / 書評数:2
1992年10月
ベティー
平均:5.00 / 書評数:1
1992年05月
仕立て屋の恋
平均:6.00 / 書評数:4
1988年08月
メグレ激怒する
平均:6.00 / 書評数:3
1986年08月
メグレと死体刑事
平均:5.67 / 書評数:3
1985年08月
妻は二度死ぬ
平均:6.00 / 書評数:2
1985年01月
平均:7.67 / 書評数:3
1984年04月
メグレとワイン商
平均:5.33 / 書評数:3
1983年12月
メグレと善良な人たち
平均:5.50 / 書評数:2
1983年04月
メグレと殺された容疑者
平均:5.50 / 書評数:2
1982年12月
メグレと幽霊
平均:6.50 / 書評数:2
1981年07月
メグレの退職旅行
平均:6.33 / 書評数:3
1981年01月
メグレ警視と生死不明の男
平均:6.33 / 書評数:3
1980年03月
メグレ再出馬
平均:5.75 / 書評数:4
1980年01月
メグレと老外交官の死
平均:5.33 / 書評数:3
ゲー・ムーランの踊子/三文酒場
平均:6.50 / 書評数:2
1979年11月
メグレの失態
平均:4.00 / 書評数:1
1979年10月
メグレ推理を楽しむ
平均:6.00 / 書評数:2
1979年09月
メグレを射った男
平均:4.00 / 書評数:2
1979年08月
メグレとかわいい伯爵夫人
平均:5.67 / 書評数:3
1979年07月
メグレ保安官になる
平均:5.33 / 書評数:3
1979年06月
メグレの拳銃
平均:6.25 / 書評数:4
1979年05月
メグレとルンペン
平均:5.50 / 書評数:4
1979年04月
メグレと賭博師の死
平均:6.00 / 書評数:2
1978年11月
メグレ警視のクリスマス
平均:6.00 / 書評数:5
1978年10月
メグレの幼な友達
平均:5.00 / 書評数:1
1978年09月
メグレと匿名の密告者
平均:4.00 / 書評数:3
メグレ最後の事件
平均:5.50 / 書評数:2
1978年08月
メグレと殺人予告状
平均:6.25 / 書評数:4
1978年07月
メグレと老婦人の謎
平均:6.00 / 書評数:4
メグレとリラの女
平均:6.00 / 書評数:3
1978年06月
メグレ夫人の恋人
平均:6.50 / 書評数:2
メグレと録音マニア
平均:5.00 / 書評数:4
メグレとひとりぼっちの男
平均:5.50 / 書評数:2
1978年05月
メグレの財布を掏った男
平均:6.00 / 書評数:1
メグレと田舎教師
平均:6.00 / 書評数:4
1978年04月
メグレの打明け話
平均:5.50 / 書評数:2
メグレ夫人のいない夜
平均:6.00 / 書評数:4
1978年03月
メグレと妻を寝とられた男
平均:5.75 / 書評数:4
1978年02月
メグレと宝石泥棒
平均:5.75 / 書評数:4
1977年12月
メグレと優雅な泥棒
平均:5.67 / 書評数:3
メグレとベンチの男
平均:5.75 / 書評数:4
1977年10月
重罪裁判所のメグレ
平均:5.33 / 書評数:3
1977年09月
メグレと政府高官
平均:6.25 / 書評数:4
1977年08月
メグレと消えた死体
平均:6.00 / 書評数:3
1977年07月
メグレ式捜査法
平均:5.00 / 書評数:3
1977年06月
メグレ夫人と公園の女
平均:6.50 / 書評数:2
1977年05月
メグレの初捜査
平均:6.50 / 書評数:2
1977年04月
メグレ、ニューヨークへ行く
平均:6.67 / 書評数:3
1977年03月
メグレたてつく
平均:7.00 / 書評数:2
1977年02月
メグレと首無し死体
平均:6.25 / 書評数:4
1977年01月
モンマルトルのメグレ
平均:6.75 / 書評数:4
1976年12月
メグレと口の固い証人たち
平均:5.33 / 書評数:3
1976年10月
メグレと火曜の朝の訪問者
平均:6.00 / 書評数:5
メグレの途中下車
平均:5.00 / 書評数:3
1976年09月
メグレ間違う
平均:5.67 / 書評数:3
メグレと殺人者たち
平均:7.00 / 書評数:4
1975年01月
Chez Krull
平均:5.00 / 書評数:1
1973年04月
メグレの回想録
平均:5.67 / 書評数:3
1972年11月
メグレと若い女の死
平均:7.00 / 書評数:3
1970年06月
ビセートルの環
平均:6.00 / 書評数:1
1970年05月
フェルショー家の兄
平均:5.00 / 書評数:1
妻のための嘘
平均:6.00 / 書評数:1
1970年04月
ドナデュの遺書
平均:5.00 / 書評数:1
1970年03月
日曜日
平均:6.00 / 書評数:2
1970年02月
港のマリー
平均:6.00 / 書評数:1
1969年11月
新しい人生
平均:8.00 / 書評数:1
1969年10月
片道切符
平均:6.00 / 書評数:1
1969年08月
ストリップ・ティーズ
平均:6.00 / 書評数:1
1963年08月
13の秘密
平均:6.50 / 書評数:4
1961年11月
娼婦の時
平均:6.50 / 書評数:2
1961年08月
メグレと死者の影
平均:6.00 / 書評数:3
1961年07月
死んだギャレ氏
平均:6.50 / 書評数:2
1961年04月
港の酒場で
平均:6.00 / 書評数:2
1961年01月
メグレ警部と国境の町
平均:6.00 / 書評数:2
ベベ・ドンジュの真相
平均:7.00 / 書評数:2
メグレと老婦人
平均:6.00 / 書評数:3
1960年11月
アルザスの宿
平均:6.33 / 書評数:3
1960年09月
オランダの犯罪
平均:6.50 / 書評数:4
1960年05月
怪盗レトン
平均:6.00 / 書評数:3
1960年04月
サン・フィアクル殺人事件
平均:5.25 / 書評数:4
1958年11月
上靴にほれた男
平均:5.50 / 書評数:2
1958年10月
可愛い悪魔
平均:6.50 / 書評数:2
1958年07月
死体が空から降ってくる
平均:6.50 / 書評数:2
1958年05月
メグレ罠を張る
平均:7.33 / 書評数:6
1957年10月
カルディノーの息子
平均:6.00 / 書評数:2
1957年05月
ベルの死
平均:6.50 / 書評数:2
1957年01月
メグレと無愛想な刑事
平均:6.00 / 書評数:4
1956年12月
リコ兄弟
平均:7.33 / 書評数:3
1956年06月
帽子屋の幻影
平均:6.33 / 書評数:3
1955年11月
メグレのバカンス
平均:6.67 / 書評数:3
1955年07月
判事への手紙
平均:5.00 / 書評数:1
1955年03月
家の中の見知らぬ者たち
平均:7.00 / 書評数:2
1955年02月
雪は汚れていた
平均:8.40 / 書評数:5
1955年01月
メグレとしっぽのない小豚
平均:7.00 / 書評数:2
1954年12月
霧の港のメグレ
平均:6.00 / 書評数:2
1954年03月
汽車を見送る男
平均:8.00 / 書評数:2
1953年10月
メグレと深夜の十字路
平均:6.60 / 書評数:5
1952年09月
北氷洋逃避行
平均:6.00 / 書評数:2
メグレと運河の殺人
平均:5.33 / 書評数:3
1950年08月
サン・フォリアン寺院の首吊人
平均:7.43 / 書評数:7
1950年05月
男の首
平均:6.50 / 書評数:8
黄色い犬
平均:6.12 / 書評数:8
不明
死の脅迫状
平均:3.00 / 書評数:1
メグレと奇妙な女中の謎
平均:7.00 / 書評数:2
メグレと謎のピクピュス
平均:7.50 / 書評数:2
猶太人ジリウク
平均:7.00 / 書評数:1
ダンケルクの悲劇
平均:6.00 / 書評数:1
下宿人
平均:8.00 / 書評数:1