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[ 警察小説 ]
メグレと優雅な泥棒
メグレ警視
ジョルジュ・シムノン 出版月: 1977年12月 平均: 5.67点 書評数: 3件

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河出書房新社
1977年12月

グーテンベルク21
2015年04月

No.3 6点 クリスティ再読 2023/11/22 23:46
困ったね。警察小説としては非常に楽しい本なんだが、ミステリとしては見るべきものがない。警察小説がミステリのサブジャンルというわけではない、ということのようだ(苦笑)

「優雅な泥棒」と本作で呼ばれているキュアンデは、時間をかけて下見をし、わざわざ家人が寝ている中に忍び込み、目を覚まさせずに枕元の貴金属宝石を盗む、という特徴的な手口の泥棒で、メグレもよく知っているが尻尾を掴ませたことはない。原題は「怠惰な泥棒」だそうだが、優雅も怠惰もしっくりいかない。静かな、とかそういう形容詞が似合う読書好きで親孝行な人柄でもある。

いやこんなキャラ設定したら、それだけで小説としては実に生彩が出るのは決まっている。このキュアンデが殺された事件に、メグレは担当外とはいえ非公式に深入りしていく。しかしメグレに割り当てられた仕事は、群集の中で現金輸送をする行員から強奪する武装強盗の捜査。確かに社会的には重大事件かもしれないが、「古いデカ気質」のメグレにはつまらない事件。そんな想いもあってメグレはキュアンデの事件にこだわっていく...

連想するのは「鬼平犯科帳」の「畜生働き」とかそういう隠語。本格の盗賊であるキュアンデにメグレは感情移入し、その死の原因となった背景を知りたいと思う。メグレも古い男なのだ。だから「警察小説」であることは、間違いない話なんだよ。
でも、キュアンデの事件と現金強奪事件がうまく交わるわけではない。もちろん小説としての対比はしっかりとあるのだが、それはミステリというよりも小説としての構成だ。いや、それ言ったらギデオン警視とか87だって、モジュラーの個々の事件が交差するというほどでもないのだから、いいんじゃない?

だから本作は、やっぱり「警察小説らしい警察小説」なんだ。ちなみに本作はメグレの部下たちがほぼオールスターで(最低名前だけは)登場する。意外に珍しいかも。常連のリュカ・ジャンヴィエ・トランス・ラポアントは名前だけで、あまり出番のない二コラやバロンが活躍し、ロニョンは名前だけで、同様な下積み刑事で妻に逃げられたフェメルが活躍する。そういうあたりもちょっと変わっているか。
あと「アルザスの宿」に登場した怪盗ル・コモドールのことをメグレが懐かしく回想するシーンがある。メグレシリーズ開始以前の脇役時代に接点があるのかな。

No.2 6点 tider-tiger 2015/02/21 13:47
ブローニュの森で早朝発見された死体はメグレがお世話をしたことのある窃盗犯、キュアンデだった。この変わり者の泥棒の死にメグレはある種の喪失感を覚える。
シムノンお得意の被害者の人間像を掘り下げていく話です。
昔は良かったーと感傷に浸っているおっさん警視が殺害された職人気質の犯罪者に必要以上に感情移入してしまい、(優先するべき強盗事件をおざなりにしてまで)泥棒殺しの犯人を探そうとする話ともいえます。
『とにかく旧知の仲の人間だったみたいに、彼(メグレ)はキュアンデを殺したやつらを個人的に憎んでいた』
この件を読んだとき、へえ珍しいなと思いました。メグレが「犯人を憎んだ」などと明記された作品はあまりないように思います。

空さんの書評にあるとおり、二つの事件が同時進行しますが、その扱いは巧みとはいえません。二つの話が同時進行するのなら、それらがいつしか絡み合って両者にさらなる深みを与えるのが鉄則ですが、この作品では二つの物語は赤の他人のまま。
それから、警察が(メグレが見つけ出した)あの人物の存在に気付いていなかったというのはちょっと無理があるのではないかと思いました。
プロットにしても大した話ではありません。
ですが、シムノンの人物描写はやはり一流です。
他の作家が類型的な人物を配置して流してしまうようなチョイ役にも魅力がある。チョイ役を丁寧に描きこんでいるのではなく、その人をその人たらしめている要素を抽出するのが抜群にうまいので、活き活きとした人物を簡潔に描くことができます。
この作品でいうとキュアンデの母親、娼婦のオルガなど実に味わい深い。
オルガがメグレに「うまくやりなよ!」と言った時に自分は思わず微笑んでしまいました。
キュアンデとあの人物に知り合えて良かったとこの作品を読んで自分は思いました。自分はこの作品は好きです。
とはいっても、これはメグレシリーズの中でもダメな部類ではないかと思うのです。作品の客観的な完成度、ミステリとしての出来など考慮して点数は辛めにしておきます。

No.1 5点 2010/03/17 21:52
パリ郊外、ブローニュの森で発見された優雅な泥棒(原題によれば怠惰な泥棒ですが)キュアンデの死体。メグレは連続強盗事件の捜査指揮を執っている最中だった、という導入部です。
こういう書き出しだと、普通その2つの事件がどうつながってくるかというところが興味の中心になりますが、そのような展開を期待していると肩すかしを食います。本作では結局2つの事件は交わることなく、それぞれの決着を見ることになるのです。
一方は殺人者が司法の手間をはぶいてくれたと言われんばかりの扱いをされる泥棒殺し、もう片方はマスコミで大きく取り上げられる強盗事件、その両極とも言える2つの事件を対比させ、泥棒殺しにおける被害者の風変わりな性格や人情味の方により興味を引かれるメグレ警視の視点を描くのが、作者の狙いです。
その狙いはわかりますし、地味(滋味)と派手の描き分けもさすがの手際ではありますが、後は好みの問題で、この点数ということで…


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