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[ 警察小説 ]
メグレと宝石泥棒
メグレ警視
ジョルジュ・シムノン 出版月: 1978年02月 平均: 5.75点 書評数: 4件

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河出書房新社
1978年02月

河出書房新社
1983年03月

グーテンベルク21
2015年04月

No.4 6点 tider-tiger 2022/09/19 12:22
1965年フランス。後期メグレの佳作の一つ『メグレたてつく』の事後が描かれた作品です。本編の発端はギャングの元締と目されていたマニュエルが自室で射殺される事件なのですが、このマニュエルは捜査対象でありながらもメグレとはある種の協力関係があった人物で『メグレたてつく』でその協力関係の一端が示唆されているのです。
メグレが思い入れをもつ犯罪者が殺害されるという点では『メグレと優雅な泥棒』にも通ずるものあります。殺害された犯罪者に感情移入するメグレがどちらの作品も印象的です。
メグレは正しいことをしますが(逮捕はしますが)、彼らのことを必ずしも憎んではいないのです。憲法でいうところの内心の自由というやつですな。
正しいか正しくないかと好きか嫌いかというのは意外と複雑なものです。
例えば『メグレと火曜の朝の訪問者』に登場するあの男女について、自分の感情もそうです。間違っているのは男だと思うのです。でも、嫌いなのは圧倒的に女の方なのですよ。

先に書評されているお三方のご意見が割れていますが、自分はどの方の御意見にも同意できます。
クリスティ再読さん『ぜひ「たてつく」と連続して読むことを、お勧めする』
自分は前作『たてつく』で登場したマニュエル氏のキャラが非常に面白いと感じておりました。他の作品にも登場しないのかなと期待しました。『たてつく』を読んで、だいぶ経ってから『宝石泥棒』を読んだのですが、すでに逝ってしまった後とはいえ、思い入れのあったキャラの行く末が描かれていたことは非常に嬉しかったのです。マニュエル氏への思い入れがあったうえで本作を読むと、その人間模様があまりにも……さすがシムノン。
雪さん『メグレ物としては標準よりやや下だと思います』
前作の流れを踏まずに作品単体としてみた場合にはこの評価が妥当のように思えます。ミステリとしては被害者が射殺された現場のアパート自体が大きな密室となっていることが本作の特徴といえば特徴ですが、大したものではありません。そして、自分が本作の最大の問題点と感じるのは↓
空さん『事件の重要な関係者の人物像の描き方が、この作家にしてはいまひとつ迫ってこないように感じました』
重要な関係者をもう少し早めに登場させることができていれば、もう少し深掘りができていれば、もしかすると『メグレと運河の殺人』のような感動も期待できたと思うのです。非常に残念なところです。

No.3 7点 クリスティ再読 2021/02/14 11:47
どうせならで「メグレたてつく」から連続して読む。話が続いているようなもので、「たてつく」で登場した引退したギャングとその愛人の話。このギャングは表向きの正業が繁盛して有名レストランのオーナーにまでなっているが、宝石泥棒の組織者の疑惑をメグレはずっと持ち続けていていた。でも一切しっぽをつかませないまま、襲撃を受けて半身不随。車椅子の生活で愛人のアリーヌの介護を受ける一見平穏な日々。しかし、今も起きる宝石泥棒を陰で操るのはこの男、とメグレは目星をつけていた....「たてつく」でこの元ギャングとアリーヌが意図しない鍵を握ることになったのだが、「たてつく」の解決後すぐに、この元ギャングが射殺された!

こんな話。いきなり元ギャングの射殺から始まるので、「宝石泥棒」では生きた姿は登場しない。というわけで、皆さんの低評価っぷりを見ると、やはり「たてつく」「宝石泥棒」は連続して読まないと、この元ギャングのマニュエルの、メグレとの腐れ縁に近いキャラを理解しづらくて、面白く感じにくいようだ。マニュエルは「影のボス」と言った感じの悪党なんだけど、適当にメグレとも付き合いがあるので、チンピラの情報を教えてくれたりして、メグレとも持ちつ持たれつの関係にある。で、「たてつく」ではこういう「犯罪者との癒着」とも捉えかねられないメグレの「古いデカ体質」が、官僚的な若い警視総監には嫌われていて...という背景があったのが隠し味で効いている。
シリーズで繰り返し描かれることだけど、メグレって新聞報道を介して、社会的な有名人なんだよね。だからメグレの「古いデカ体質」を嫌う人もいれば、「伝説のメグレ!」と崇拝する向きもあるわけだ。今回事件を担当する若い予審判事アンスランは「崇拝」側で、メグレと一緒にビストロに入ってランチすると妙に感動していたりするのが苦笑。メグレは河岸の自室で部下を指揮するより、こんなビストロで事件を指揮するのが、似合ってる。この「古い」メグレにふさわしく、以前からのマニュエルとの因縁を含めて「メグレのもっとも長い捜査」なんだそうである。

そういう意味で、実は「たてつく」とうまく対比もついていて、「たてつく」で積み残した話が「宝石泥棒」で決着する。この「古いメグレ」の今風の科学的・組織的な捜査とは違う、経験的で即興的な捜査がテーマになる本作、実のところ「即興の名手のシムノン」が、「たてつく」でマニュエルとアリーヌを描いたところで、方針転換して「たてつく」の話に変わった、なんて想像もしたくなるのだ。

ぜひ「たてつく」と連続して読むことを、お勧めする。

No.2 5点 2018/08/18 09:49
 元やくざのボス、マニュエル・パルマリが所有するアパルトマンの自室で銃殺された。車椅子暮らしのマニュエルは出所後引退を表明していたが、メグレは彼を頻発する宝石強盗事件の黒幕と睨んでいた。彼の手足となっていた情婦のアリーヌに目を付けるメグレだが・・・。
 シリーズ第92作目で1965年の作品。「メグレたてつく」の続き物で、パルマリと情婦のアリーヌは前作でメグレに重大なヒントを与える役回りでしたが、今回はそれぞれ被害者と容疑者です。
 幕開けはのどかに始まるんですが、陰惨な話ですねこれ。ラスト付近もかなり棘々しいです。密室とありますが、鍵を使っただけなのでべつに何でもありません。
 パルマリのアパルトマンでの聞き込みも、シムノンにしては人物整理が悪いですね。重要な人物を含め数人に焦点を絞るのが普通でしょう。プロットはそれなりに凝ってますが、印象的なキャラクターが不在なのであまり生きてません。
 あとがきに「メグレもののうちでも5本の指に入るもの」となっています。長島良三さんは一級の訳者ですが、メグレシリーズに関しては普及を図ろうとするあまり、いささか寸評に公正を欠くきらいがあります。後に選んだ自薦メグレにもこの作品は入っていません(「ミステリマガジン」1990年3月号「ジョルジュ・シムノン追悼特集」、長島さんの選んだのは「メグレと若い女の死」「メグレと殺人者たち」「モンマルトルのメグレ」「メグレ罠を張る」「メグレと首無し死体」番外として「メグレの回想録」)。まだ筆に力はありますが、メグレ物としては標準よりやや下だと思います。

No.1 5点 2012/08/01 08:34
現在メグレもの長編は原作発表順に再読していっていますが、前作の続編ともいうべきストーリーになっているのは、本作が初めてです。その前作『メグレたてつく』の完全ネタばらしまで第1章でしてしまっているので、未読の方はご注意を。
頻発する宝石泥棒の事件は前作の時から問題になっていて、前作は、その捜査の途中でメグレが全く別の事件に巻き込まれる話でしたが、今回は宝石泥棒事件の最終決着です。メグレが長年その首謀者とにらんでいた男が殺され、それを契機にすべてのからくりが明らかになります。出来が悪いというわけではないのですが、事件の重要な関係者の人物像の描き方が、この作家にしてはいまひとつ迫ってこないように感じました。
原題の意味は「メグレの忍耐」。宝石泥棒事件を長年追ってきたメグレが、最初の方で「私は我慢強いのです」と局長に言うところがあります。


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