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[ 警察小説 ] メグレと殺人予告状 メグレ警視 |
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ジョルジュ・シムノン | 出版月: 1978年08月 | 平均: 6.25点 | 書評数: 4件 |
河出書房新社 1978年08月 |
No.4 | 7点 | クリスティ再読 | 2024/02/02 15:13 |
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う~む、これ後期の秀作じゃないかしら。
どっちかいえば評者は「猫」あたりに近い世界に感じていたなあ。 今風に言えば、オタクな夫とそのオタクな趣味を嫌ってコレクションをゴミに出す妻。妻は夫のオタクな趣味を「気持ち悪い」「頭おかしい」と決めつけるが、そんな妻の姿に子供たちは辟易する... まあシムノンだから通例に乗って、これを厳めしい法律家の家に婿入りした庶民出身の弁護士の話として描いている。でもシムノン自身のこのパランドン夫人への嫌悪感が見え隠れするあたりも興味深い。殺人予告状に導かれてメグレがこの一件に事件前から介入することになるのだが、ミステリ的には「誰が被害者になるか?」というのが主軸の「謎」になるというユニークな構成。さらに予告状の意味もしっかりこの一家の病理に根差していて、「運命の修繕人」メグレらしい事件でもある。 海事事件専門の弁護士として成功していても、オタクで気の利かない小男なのを妻にバカにされ続ける夫が、なかなか類型を離れたリアルな造形で興味深い。そして所有意識が強すぎるために自他境界が曖昧になっているかのような妻.....いやいや、この手の人間には評者も閉口しているところだったりするんだ。そんなこともあって、推したい作品。 (あ、あと法文インサートは「片道切符」で効果をあげた手法だなあ) |
No.3 | 6点 | 雪 | 2020/11/12 04:05 |
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河岸の並木がごくわずかに薄い緑をつけはじめた三月四日、オルフェーヴル河岸のメグレのもとに一通の封書が届いた。それには厚くて大きな犢皮紙に金釘流の字で、こう書かれていた。〈近く、おそらく数日以内に、殺人が起きます。たぶん私の知っているものの手で、たぶん私自身の手で。〉
差出人の署名はなかったが、使用している特別注文の便箋からすぐ製造元がわかり、用箋は海法専門の著名な弁護士エミール・パランドンのものと判明する。メグレはさっそくパランドン邸におもむくが、その家の異様な雰囲気に触れ、この手紙はいたずら半分のものなどではないと直感するのだった。 この家にいるだれかが、何かを企んでいる・・・ 1968年発表。『メグレとリラの女』『メグレの幼な友達』の間に挟まるシリーズ第96作で、作品としては後期にあたるもの。再読ですが、前回に比べるとある人物の印象が若干変わったかなあと。初読の際にはそこまで病んでるとは思わなかったんですけどね。読み返すとかなりエキセントリックというか自己演出的。以前『メグレ最後の事件』を評した際に〈本作の発展型〉と述べましたが、それとも異なる感じ。あっちの方がより煮詰まってる感は変わりませんが。パランドン弁護士の蔵書として幾人か名だたる精神科医たちの著作が挙がっていますが、今回かなりそういった実例を意識して書いてます。 〈天井が非常に高くて、エリゼ宮(大統領官邸)からほど遠からぬところにある〉いかめしい建物で起きた事件。春の目覚めとは裏腹の現場の威圧感が重なって、「想像もできないくらい居心地が悪かった未知の世界」に入ったメグレは酩酊感を覚え、かつてない反応を示します。 最高裁判所長官の入り婿である小男のパランドンは、誰と争うこともしない好人物ですが、娘や息子は大家の出の母親に反発を覚えて、もっぱら庶民の父親寄りの態度。さらに弁護士見習のルネ・トルテュ、エミールの秘書アントワネットを初めとする仕事の補佐役や召使いたちが、彼らを取り巻いて一種特異な空間を形成しています。メグレは予告状の意図を探り、予告された殺人を未然に防ごうとしますが・・・ あっさりした筆致ながらなかなかの味。癖はあってもどちらかと言うと好ましい人物が多い中、終盤になって起こる事件。好感を抱いていた被害者の死に直面し、激情からパイプの柄を折るメグレ。『男の首』と真逆のエンディングに、冒頭から繰り返される〈刑法第六十四条〉の問題が、エコーのように覆い被さる作品です。 |
No.2 | 6点 | tider-tiger | 2018/07/16 19:50 |
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メグレの元に殺人を予告する手紙が届く。これはただのイタズラではないとメグレは直感した。部下に便箋を調べさせたところ、特殊なものだったので海法専門の弁護士エミール・パランドンの家で使用されている便箋だと判明した。メグレはパランドン家を訪ない、家人たちと話をする。この手紙を書いたのは誰なのか。本当に殺人は実行されるのか。
1968年メグレシリーズ後期の作品です。以前に書評した『メグレと火曜の朝の訪問者』の焼き直し的な面が色濃い作品です。脂っこさがなくてさらりと流したような趣ある作品ですが、こういう老成した味も意外と好きです。 殺人予告状など届いても手に汗握るようなことはなく、おどろおどろしい事件が起こるわけでもありません。メグレがパランドン家の人間と話をして、徐々にこの家の人間関係、問題が浮き上がってくるばかり。話が動くのは非常に遅く、ミステリというよりは家族小説のような様相です。 奇妙な家族ではありますが、各人物にメグレと火曜の朝の訪問者ほどの作りこみはありません。そうかといって類型に流された安易なキャラ作りはしていないと思います。ちょっとした一文で類型から外れた人物に仕立て上げる技術は健在です。 殺人予告状を書いたのは誰なのか、なんのために書いたのか。 さらに本作は登場人物が多いこともあり「誰が殺されるのか」を考えながら読み進めると面白いと思います。推理する楽しみとは少し違いますが、いくつかの可能性を想像することはできます。驚きはありませんが、納得のいく展開でした。各人物の言動などは自然でありながらきちんと計算もされているので、洞察する愉しみのある作品です。 |
No.1 | 6点 | 空 | 2012/12/26 22:27 |
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原題直訳は「メグレためらう」で、殺人予告状と言っても、その文面には『ABC殺人事件』等のような警察や名探偵に対する挑戦めいたところはありません。むしろ、運命の修繕人と呼ばれることもあるメグレに対して訴えかけるような手紙です。
殺人を行おうとしているのはその予告状を書いた人物自身なのか、誰が誰を殺そうとしているのか、というのが本作の中心的な謎だと言えます。便箋から簡単に、ある弁護士一家の誰かが書いたことは突き止められるのですが、問題をはらんだその家庭の状況を、事件は起こらないままにメグレは調べていきます。 ついに殺人事件が起こるのは、全体の2/3ぐらいになってからですが、被害者が決定されてみると犯人が誰であるかは容易に想像がつきますし、犯行の証拠も死体発見から数時間後には発見されるというわけで、殺人以降は長いエピローグとさえ思えるような構成です。 |