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[ 警察小説 ] メグレと田舎教師 メグレ警視 |
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ジョルジュ・シムノン | 出版月: 1978年05月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 4件 |
河出書房新社 1978年05月 |
河出書房新社 1983年06月 |
No.4 | 6点 | クリスティ再読 | 2024/11/01 17:39 |
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メグレの事務室の前「煉獄(水族館)」に居座り、自分が無実の罪で逮捕されかけているとメグレに訴えた男。メグレはその男(田舎教師)に同道し、護送を名目にボルドー地方の海岸沿いの田舎町を訪れた。カキを白ワインに浸して食べるために(苦笑)
というわけで、メグレは「田舎は嫌いだ..」と言いながらも、それが田舎出身者のコンプレックスの裏返しであることが暗示される。田舎町の人々 vs 不倫事件を起こした妻をかばって田舎落ちした学校教師、のありがちな対立の中で、孤立したインテリは、地元民ながら「村の嫌われ者」として爪はじきされる老嬢の死の責任を押し付けられようとしていた。 「メグレあるある」なビジター試合話で、「途中下車」とか「死体刑事」とか連想する作品は多いけど、本作がいちばんまとまりがいいと思う。少し力が抜けているというか、田舎教師の冤罪もどこまで村人がホンキか知れたものじゃないし、3人の子供たちの微妙な関係性がクローズアップされて、シリアスな味わいを意図的に弱めたようなあたりが、変化球になって成功しているのかな。 まあとはいえ、フランス人の「寝取られ亭主」に対する風当たりの強さというのは、外国人にはうかがい知ることが難しい感情みたいだ。挫折したインテリが抱えた不名誉が、この冗談みたいな事件をこじらせたようなものだ。ファンタジーにしては後味が悪すぎるが、それが作品の苦みになっている。 一人の女がこれほどまでに女らしさを放棄してしまっているのはめったに見たことがない。ぼんやりした色のドレスの下の体はやせて疲れていた。二つの乳房はおそらく空っぽのポケットのように垂れ下がっていることだろう。 田舎教師の不倫妻の描写だが、気の毒なくらいに辛辣。でもメグレ全盛期ならではの人間観察。 |
No.3 | 6点 | tider-tiger | 2020/11/26 16:44 |
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~サン・タンドレという田舎村から小学校の教師ジョゼフ・ガスタンがメグレに助けを求めてやって来た。村の意地悪婆さんが殺害された件で嫌疑をかけられているが、自分は無実だという。村社会の複雑さと自分が村では異物であることをどうにか説明しようとするガスタン。話を聞き終えると、メグレは被疑者がパリに来ていることを伝えるためにサン・タンドレの憲兵中尉に電話をかけた。メグレは深い考えもなく自分がガスタンをそちらに連れていくと告げていた。メグレはそのとき白ワインとカキのことを考えていたのかもしれない。~
1953年フランス。地味だがなかなかいい作品ではないかと思う。雪さんが『カッチリした造り』と評されているが、自分もシムノンにしてはしっかり作りこまれていると感じる。無駄が少なく多くの人物や細かな事物が有機的に物語に絡んでいる。 口が堅く、外圧に対しては結束の固い村社会に起きた事件、そこで村社会の外側で生きている人間に嫌疑が掛けられる。「犯人は誰なのか」は問題視されず「犯人は誰であるべきか」が重要な社会。まあよくある話ではある。こういう話では「××の無実を勝ち取るぞ」と主人公が入れ込んで熱い展開になりがちだし、その方が盛り上がるのだが、メグレは淡々としている。自分が首を突っ込んだのは間違いだったのではないかと自問自答したり、天候が悪くてカキが食べられないなどと嘆くメグレ。こんな村くんだりなにしに来たんだよ。 それなりにミステリらしさがあり、村の子供たちとの心理戦というか、聞き込みの場面はなかなか愉しめる。大人が想像する以上に周囲で起きていることを理解している子供たち。彼らの心情が息苦しくなるような筆致で描かれている。シムノンは自分が子供だった頃にどんなことを考えていたのか、ちゃんと記憶している人間だと思う。 邦題は『メグレと田舎教師の息子』でもよかったのではないかと思ってしまう。6点か7点かで迷ったが、6点で。 訳者がメグレは明らかに田舎嫌いだと断じていたが、空さんがそれは微妙だと仰っているように自分も疑問に感じている。メグレは引退後は田舎に引っ込んで、近所の人と仲良くカード遊びや釣りに興じていたような。 |
No.2 | 6点 | 雪 | 2018/08/04 02:36 |
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パリから遠く離れたシャラント県からオルフェーヴル河岸を訪れた教師。嫌われ者の老婆射殺事件の容疑者である彼は、メグレ警視に海辺の寒村ラ・ロシェルでの再捜査を依頼するのだった。村の名産である白ワインと牡蠣目当てに、現地に赴くメグレだが・・・。
シリーズ72作目。秀作「メグレと若い女の死」の前作に当たります。シムノン円熟期と言っていいでしょう。 村を舞台にしたメグレ作品には「メグレとグラン・カフェの常連」「メグレと死体刑事」等がありますが、比較すると非常にカッチリした造りですね。舞台劇的。殺害時刻のアリバイは勿論、容疑者の教師や子供達、村人や被害者、各人のその時の位置関係が謎解きに関わってきます。こういうのは珍しい。今までの村物は正直イマイチ感が強かったので、根本から変えてみたのだと思います。 教師一家は周囲からハブられ気味で、実質村を仕切っている助役のテオがメグレの相手です。そして村人のほとんどは幼馴染。ここでのメグレはテオの誘導で「はよ帰れや」という扱いなので、聞き込み捜査も碌に進展しません。それでも老婆の葬式の際に、心を閉ざす教師の息子を掴まえたことから光明が見えてきます。 メグレは大人がアテにならないんで子供たちに当たるんですが、どの子も老けてますねえ。大体シムノンの描く子供はかわいくないです。話的には凶器のカービン銃の口径が小さすぎて普通人間なんか殺せねえよ、ってのもミソですね。被害者の眼球に当たってるんですが。 色々テコ入れしたせいか出来はなかなかです。小作りというか全般に地味ですけど。 |
No.1 | 6点 | 空 | 2011/04/11 22:53 |
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冒頭でメグレに助けを求めて来る田舎教師は、村で起こった意地悪ばあさん殺人事件の容疑者として逮捕されてしまいますが、その地方の憲兵隊長も、実際には教師の有罪を信じているわけではありません。よそ者であって、しかも町でなら普通な厳格さを持ち込もうとする教師は、村人たちからは白い目で見られています。そういったフランス田舎の排他性が捉えられた作品です。あとがきではメグレは明らかに田舎嫌いだと書かれていますが、メグレ自身が田舎育ちなので、微妙なところです。
メグレは名物の牡蠣が食べたいこともあって、数日休暇をとって出かけていくというのが笑えますが、小学校あたりをうろついて子どもたちに尋ねて回り、真相をつかみます。最後には、大したものではないにせよとりあえずどんでん返しも用意されていて、全体的にきれいにまとまった佳作という感じです。 |