皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ その他 ] 可愛い悪魔 別題「かわいい悪魔」 |
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ジョルジュ・シムノン | 出版月: 1958年10月 | 平均: 6.50点 | 書評数: 2件 |
早川書房 1958年10月 |
集英社 1970年01月 |
No.2 | 6点 | クリスティ再読 | 2021/11/25 07:14 |
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シムノンで一人称独白体、って結構珍しいと思う。限定三人称は多いんだけどね。
主人公は「有罪ならゴビヨーに相談しろ!」という評判の辣腕弁護士。でもブ男、父もハンサムな有名弁護士だが、主人公は庶子。自分の師匠に当たる大物弁護士から妻を奪って自分のものにする....なんてハナレ技を演じた過去があるが、実はその妻の自己実現が、オトコをプロデュースして出世させること! 主人公の一見「成り上がり」の順風満帆人生も、本人にすればなかなか外見どおりではない屈折の人生だったりする.... いや、たぶんシムノン、自分を重ねたと思うよ。そういうリアリティ。 友達と組んで宝石店強盗を働いた小娘イヴェットが、警察に追われてゴビヨーの元に飛び込んできた。事務所で股を開くイヴェットに、なぜかゴビヨーは執着し始める。強引な弁護でイヴェットを無罪にすると、イヴェットをアパルトマンに囲って、二重生活を始めることになる....妻はゴビヨーのキャリアを支配さえできればいい、と超母性的とでもいうような夫婦関係でもあり、ゴビヨーの浮気には寛容なのだが、イヴェットへの溺れ具合には内心ヤキモキしているようでもある.... つまり、こういう三角関係がすべて。映画に合わせて「可愛い悪魔」なんてイヴェットを呼びたくなる(バルドーだ)のかもしれないのだけど、実のところこのイヴェット、そんなに大した女でもないんだと思う。 人間は時として動物として行動したいという欲求がある というゴビヨーの「自身の成功に反逆したい!堕落したい!」という欲求がイヴェットに投影されて、こんな愛欲にのめり込んでいるのだろう...自分には別な人生もあったのでは?という自分への懐疑が、こんなドラマを引き起こす。 そういう興味の作品だから、「こういう状況から何が起こるのか?」実際、何が起きても全然不思議じゃないのだけども、何かが起きざるを得ない。それを甘んじて待ち受けるのが、この作品の醍醐味。 |
No.1 | 7点 | 空 | 2010/04/02 21:37 |
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本作もハヤカワ・ミステリのシリーズから出ていたので評価対象にしていますが、ミステリ度は非常に希薄です。それでもあえて評価対象とした以上、ミステリ度がどうであれひとつの作品そのもの(エンタテインメントあるいは芸術)として評価すれば、この点数になります。
主人公悪徳辣腕弁護士(ペリー・メイスンのような意味で)の一人称覚書スタイルで書かれた作品です。しかし裁判でのスリリングなかけひきもありませんし、最後に起こる殺人にしても、その結末に向かっての伏線を張った収束感はありません。それでも、弁護士の独白の味わいには、何とも言えないうまみがあるのです。 発表2年後の1958年に映画化され、本のタイトルも映画邦題のままです。原題は「もしもの場合」「緊急時のために」といったような意味合い。 映画版は見ていないのですが、可愛い悪魔という言葉が似合うブリジット・バルドーとは、原作から受けるイヴェットの印象はかなり違い、むしろみすぼらしい感じがします。弁護士も自分でガマガエルみたいだと言うのですから、ジャン・ギャバンのかっこよさはありません。しかし、そこが味なんですねぇ。 |