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[ 時代・捕物帳/歴史ミステリ ]
ミイラ志願
高木彬光 出版月: 1979年01月 平均: 7.00点 書評数: 2件

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KADOKAWA
1979年01月

日本文華社
1979年01月

講談社
1996年08月

No.2 7点 斎藤警部 2021/09/30 22:00
こりゃあいい。サスペンスに滋味溢れる歴史/時代娯楽九連作です。

ミイラ志願■兇賊は死罪を免れようと仏門を叩き、即身仏となる難行を志願する。和尚はあっさりと受け入れる。痩せ細っても俗気が滅しない兇賊。怖ろしい結末。
偽首志願■影武者と信長公の唯一の違いはある食物の嗜好。トリックにトリックを重ね、トリックに溺れる武将たち!
乞食志願■蹴鞠芸人として生を全うしたい、義元の嫡男。ミステリ性はほぼ無いが人生の良い話。しかし脇役が中心に来る終結は、あまりに重い。
妖怪志願■関ケ原前夜、武将たちに家康を滅ぼすべく次々とアドバイスを送る謎の者。この大オチは異色作と言えましょう。
不義士志願■複雑な事情で、吉良邸討入りから外され、事後も不如意な目に遭う赤穂の義士。ところが。。。。 この結末は眩しい。
飲醤志願■太平の世、頑健無比の大男を抹殺するにはどうしたらよいか。 バカサスペンスに剛毛が生えた様な話。
首斬り志願■明治の首斬り役人に強力な跡取りが現れた! 和やかな導入からまさかの反転、ミステリ性の高さは随一。
女賊志願■幕末から明治、刺青に纏わる歴史の謎を解き明かしてみると。。。 或る人生に纏わる心の謎が赤々と現れた。。
渡海志願■会話のミスディレクションがニクい。。幕末、密航を企てた動機は、そこか。。。。歴史に深く軸足挿したハウダニットが最後に炸裂! 一方の主役、長崎奉行の英明が限りなく尊い。

No.1 7点 2020/06/08 08:04
 表題作のみ雑誌「小説現代」に昭和三十九(1964)年九月掲載と突出して古いが、それ以外は昭和四十五(1970)年八月から昭和四十八(1973)年二月にかけて、おおむね『帝国の死角』や墨野隴人シリーズの開始と並行して「小説宝石」「別冊小説宝石」などに発表された歴史連作。全九篇のタイトルは全て「~志願」で統一されている。
 情念の作家・高木彬光の面目躍如というべき作品集で粒が揃っており、特に「ミイラ志願」の蟻の這い出る隙もない怖さは出色。出羽三山の生き仏=即身仏に絡まる異説を扱ったものだが、短いながらも念入りに構築された、非常に完成度の高い恐怖小説である。
 江戸の後期天保三(1832)年のこと。過酷な修行に耐え即身仏(ミイラ化した死体)となる事を志願し捕縛を免れるため、出羽国湯殿山の注連寺本堂へ駆けこんで来た凶賊六助が、即身仏の誕生に奇妙な執念を燃やす住職・恵海和尚に徹底的に利用され、生き仏・英山上人として入定するまでの約十年の歳月を描いた短編。発端は似ていても、菊池寛『恩讐の彼方に』のような浄化による感動はカケラも無い。
 六助は処刑を逃れようと寺へ入った瞬間から冷酷無慚な運命にガッチリ捕捉され、骨と皮ばかりになってもなお生への執着を燃やしもがき足掻くが、活路は既に奪われており、後はただ即身仏=ミイラ化に向けて突き進んでゆくだけである。「こちらの料理しだいじゃ」という恵海の言葉通り、定められた結末から逃れる術はもはや無い。国内恐怖短編百選には、必ず入るであろう作品。
 これに続くのは乱世に自由を求め続けた男、今川氏真の流転の人生譚「乞食志願」か、世論の軽薄さに徹底的に背き続ける元赤穂藩士・高田郡兵衛の物語「不義士志願」だろうか。両篇とも強烈な皮肉が効いている。
 「歴史読本」昭和四十五(1970)年八月掲載の関ヶ原if「妖怪志願」までの四篇は史伝要素のみだが、第七話「首斬り志願」を筆頭に、後半からはミステリ的な隠し味が強くなる。織田信長の影武者を扱った「偽首志願」とSFもどきの「妖怪~」は落ちるものの、「飲醤志願」以下の収録作は今でもそこそこ読める。作者の資質とよく合致した短編集である。採点は表題作の分1点プラスして、合計7点。


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