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[ 本格/新本格 ]
失踪
百谷泉一郎弁護士シリーズ
高木彬光 出版月: 1964年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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講談社
1964年01月

講談社
1965年01月

日本文華社
1968年01月

KADOKAWA
1975年01月

講談社
2021年09月

No.1 6点 人並由真 2023/10/23 18:51
(ネタバレなし)
 その年の9月。後楽園球場では、東京イーグルスと大阪ジャガースの今期のペナントレースの流れに関わる重大な試合が展開していた。その試合でイーグルスの若手投手・渡部信治は好調なピッチングを披露するが、なぜか波に乗った勢いのなかで降板。試合後にそのまま球場から人知れず、姿を消した。一方、その試合中に、青年弁護士・百谷泉一郎の自宅を訪ねる若い女性があり、泉一郎が不在ななか、妻の明子が応対する。が、訪問客の「山本あや子」は明子が席を外した客間で持参してきたトランジスタラジオを取り出し、野球中継を熱心に聞き入った。そして泉一郎が、たまたま友人で大のイーグルスファンの村尾利明を伴って帰宅すると、娘は逃げるように百谷邸から姿を消した。それぞれの奇妙な出来事は、やがて殺人事件へと連鎖してゆく。

 角川文庫版で読了。
 弁護士・百谷泉一郎&その愛妻・明子シリーズの第五長編で、もともとは昭和37年9月から「週刊読売スポーツ」誌に「殺人への退場」の題名で連載された作品。
 
 文庫解説の権田萬治によると、作者の高木はプロ野球をよく知らない、ふだんは特に興味もないと称していたらしく、なるほどそう意識して読むと野球の試合そのものの叙述は序盤のみに固まり、そこでノルマを果たしたという感じ。一方で当時のトレードシステムの裏事情などの情報はしっかり押さえてあり、その辺はきちんと高木本人か編集者、周辺スタッフが取材したのであろう。
 なお事件の中身は、プロ野球ファンの間で野球賭博が行なわれているという事態の露見にもつながり(早々に判明するので、この辺までは書かせて下さい)、スポーツ専門誌でそういう悪いイメージの文芸設定導入して良かったんかいな、という気もする。その辺は昭和らしい大らかさか。

 ミステリとしては良くも悪くも薄口だが、犯人の意外性などはちゃんと意識しているようだし、殺人状況の中でのトリックもビギナークラスのものながら用意されている。
 高い期待をしなければそれなりに面白い、昭和の空気の中での垢ぬけた、夫婦探偵もののB級の昭和パズラー。明子もところどころ、夫以上に名探偵。この事件のなかで泉一郎のライバル格となる警視庁の速水恒男警部のキャラもいい。
 ただし題名にもなった渡部選手の失踪についての謎の興味は、あまり面白くない。

 角川文庫版の180ページ目で泉一郎の最初の事件『人蟻』の回想が出てきて、本人は今でも同事件を相応に記憶に留めているようなのが興味深い。
 佳作。


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