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[ 本格/新本格 ]
検事 霧島三郎
検事 霧島三郎シリーズ
高木彬光 出版月: 1964年01月 平均: 7.00点 書評数: 3件

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光文社
1964年01月

光文社
1973年01月

光文社
1990年01月

角川書店
1997年02月

光文社
2014年07月

No.3 6点 ボナンザ 2021/09/04 20:38
破戒裁判や白昼の死角とはまた違った大衆小説家高木の名作。
仕方ないけど恭子さんはもう少し頭使って・・・。

No.2 7点 人並由真 2019/02/12 12:43
(ネタバレなし)
 評者の大昔の少年時代は、高木彬光といえば神津主人公のパズラーもののみが主軸で、他の名探偵主人公たちは、当時の趨勢が社会派に移行した際の、今で言う一種の企画もの的なキャラクターくらいにしか思っていない面もあった(でも偶々読んだ『誘拐』は面白かったな~)。
 もちろんそれは後から思えば度外れた勘違いで、後年に読んだ『破戒裁判』も素晴らしかった。ということでイイ年をしたオッサンミステリファンとなった現在、まだ読んでない手つかずの百谷、霧島、近松ものが山のようにあることに人生の幸福を感じている。(墨野は、初期の一冊だけが未読。大前田は……どうなんだろ。『狐の密室』はさすがに読んだけど。)

 というわけ少し前に古書で非・神津もののカッパ・ノベルスを十数冊まとめて入手。その中の最初の一冊がコレである。
 本作はもともと1964年の「サンデー毎日」に連載。同じ雑誌に長谷川町子先生の『エプロンおばさん』が連載され、その連載中にのちのスピンオフ主人公となるいじわる(意地悪)ばあさんが顔を出していた時期だね。
 それで初の書籍化となるカッパ・ノベルス版の表紙折り返しには「著者の言葉」として
「わたくしはこの作品で、限界状況といえるような一つの恋愛を主軸とし、スリルとサスペンスを基調とした推理ロマンを書きあげようと考えた。あくまで、リアリズムの線をつらぬこうと思ったために、組織暴力、麻薬取引、野ばなしの精神病者、政治の暗黒面など、現代日本社会の病根といえるような、いくつかの現象についても、かなりつっこんだ調査検討をつづけた。」
 とある。いやホント、この言葉に偽りのない、かなりカオスながら独特な力強さとまとまりを感じさせる作品である。さらに言うなら本作がシリーズ第一作となる主人公、二十代の青年検事・霧島三郎を主人公とした青春ミステリでもあるし、検察庁内部を一つの大きな「家族」に見立てた組織を描く職場小説でもある。特に婚約者・龍田恭子の父親が、行方不明で指名手配を受ける殺人容疑者となってしまった三郎の立場は、検察庁内でもすごく微妙になる。検察庁トップの親心で当該事件の捜査権限をもらいながらも、一方で恋人との逢瀬あれこれに制限がかかって孤軍苦悩する辺りは、一匹狼の私立探偵ものの変種的な趣もある(その一方で、検事という立場での権力は良い意味で駆使しまくり、警官を自在に動かす三郎の柔軟さも描かれるのだが)。
 さらに特記すべきは登場人物の多さで、名前が出てきてメモしたキャラだけで70人弱。カッパノベルスで二段組み本文370ページ前後は際だって厚い訳ではないが、殺人事件~麻薬事件~ヤクザと政界の結託、など犯罪の内容が拡散するに従って増えていくキャラクターの物量にはちょっと色を失った。
 そんななかで後々から出てくるサブキャラクター、たとえば恭子の親友で美人とはいえない若い娘・尾形悦子などに、かなり入れ込んだキャラクタードラマ(?)が用意されているのが印象的だった。この辺は作者が書いているうちに当初の自分の構想を越えて感情移入しちゃったんだろうなあ。ある意味じゃ、すごく美味しいポジションのサブヒロインだし。
 
 一方で物語要素を増やしすぎたため、作者が「かなりつっこんだ」というほどのこともなく、やや総花的な叙述になってしまったファクターもまったく無くはない。まあ、著者が「かなりつっこんだ」というのは「(現実の中での)調査検討」であり、作中の描写ではないのかもしれんが。
 ミステリ的には丁寧な伏線の叙述が仇となって犯人は早々に透けて見えるパターンだし、某キャラクターの相応に重要な情報が後出しっぽいのが気になるが、「恋愛を主軸とし、スリルとサスペンスを基調とした推理ロマン」としては十分に読ませる力作だろう。
(ただし第42章の最後の二行……結構、きわどい本音だね。)

 ちなみにまだ一冊しか読んでないわけだけど、このシリーズはたぶん途中から乗り入れず、本作から入った方が絶対にいいと思う。二作目以降、三郎の周辺の描写で、本作のいろんな情報がネタバレになってしまいそうだから。

No.1 8点 斎藤警部 2016/07/06 17:57
宮崎の焼酎には白霧も黒霧もあるが、本作で活躍するは検霧こと検事の霧島だ。
検察/警察小説、社会派推理、ナックルボール的変化球ハードボイルド要素、複雑な恋愛メロドラマに中国大陸過去の因縁、もちろんジワジワ来るサスペンスと、謎解き!五百頁超の長さに見合って内容テンコ盛り、だがその一部分はひょっとして’幻影’ではないだろうかとの疑惑もチラリ。。これがニクいんだ。
少壮検事の霧島。その婚約者はヤメ検大物弁護士の娘。ところが、ある日を境にこの親子の周りに不穏な人物が現れ始め、大物弁護士はあろう事か殺人事件の容疑を負った状態で忽然と姿を消してしまう。そこにはヘロインの流通と総選挙(!)が絡んでいると見られたが。。

とにかく愉しい展開一杯。一郎はいい兄貴だ。他にも魅力的なバディが何人も。重要登場人物の一部に、味方どうしでありながら、体を束縛されているわけでもないながら、お互い何をして何を狙っているのかさっぱり分からない領域が高角度に有るという特殊状況。 プロットは、ハードボイルド流儀かと思うくらい複雑だ。 事件の、ではなく”サスペンスの多重解決”めいたスリリングな趣向もシビレる。 しかし、まさかとは思うが本作は「長いお別れ」への巧まざるオマージュになっていたりしないだろうか、、などと思わせる流れもあった。 港町の検事か。。。 「だいぶ話が細かくなって来たね。」この台詞最高だね。 虚を突き或る一瞬、ハード&ドライ過ぎてとてもハードボイルドの矜持空域内とは思えない凄い台詞も飛び出した、しかも放ったのは好感度高げの主人公。主人公側の、本当に味方同士なのかの不透明感、更には不信感、の先の見えない乱反射で素晴らしくバイブスの上がる中途の柔らかな残酷絵巻は味読を強いちゃって仕方無い。。。。

もう、誰も信じられない、霧島三郎さえも、、と思ってしまう読者の弱い心に被せるかの様に地の文まさかの混乱ぶり・イン・終盤もいいとこ。何ですか、その急な泣かせの、名前の言い間違いは!と思うと泣かせる特殊シーンで笑わせたり(笑)。もう、随分終わり近くに至ってまで味方どうし思惑すれ違っての隠し合い伏せ合い キキィーーッッ!! 敵が味方かまだまだ分からない不安感は、きょうだいはもとより親子どうしの間柄まで射程内だ。
「この犯罪で一番得をするのは誰か」 なんて延髄痺れるタイミングである人物に言われちゃったよ。
どこまでも本格ニュアンスの残り香を沈澱させ続けるタイプの推理小説にしては、特に終盤コース、筋の巡りが込み合い過ぎでねえかと、まるで粗筋紹介文章だけで何ページも進行してる、ってくらいの展開密度でないかと、ふと思う。

さていったい誰々がどれだけ大きな嘘を付いているのだああ~~。更には、騙しの意図が必ずしも悪意に依るものではない、かも知れない、との強烈な暗示が会話文の一瞬に適時ドロップ。何処かで’大いなる幻影’が密かに深呼吸している兆候は嗅げないか? 何処かに、凄まじい鋼鉄の意志を持った何者かがシラっとすましている影は覗けないか?

長い小説。 大作にして力作。 怪作の匂いさえ仄かに漂う快作だ。
犯罪資金源と精神○○のナニに、ほんのりご都合良しのきらいはあるが、許せましょう。

複雑な犯罪捜査物語をサラリと締める寂しさと希望のエンディングは印象的。 その最終幕の前半、主人公のあまりに野暮天丸出しの長い台詞はどうかと思うが。(故意に勘違いの振りをしたのではないと地の文に明記してある) でもいいんだ、これで。 響くなあ、余韻。


ところで冒頭触れた芋焼酎「霧島」だが、ご存知の方はとっくにご存知、他にも妙にプレミアム感を纏う「赤霧」、特別企画の「金霧」、桃色ラベルの「ピン霧」(正しくは「茜霧島」)なんてのもある。最後のは個人的にあまり美味しくない。


ザ・ローリング・ストーンズのファースト・アルバムは「ザ・ローリング・ストーンズ」。
ザ・キンクスのファーストは「ザ・キンクス」。
ザ・ビートルズの場合は事情が違うが
検事 霧島三郎の第一弾は「検事 霧島三郎」。
シリーズ探偵役としちゃあ随分と厳しい船出になったものですが、これほどまで翻弄された甲斐はあったと言える、ドラマチックキラキラで重厚至極な逸品と言えましょう。 さあ、読もう。



追記
古い角川文庫を読んだのですが、巻末の滋味深い解説は誰が書いたのかと思っていたところ、最後に故「夏樹静子」先生の名前があったのは泣けました。


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