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[ 短編集(分類不能) ] 私の殺した男 松下研三もの ほか |
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高木彬光 | 出版月: 1987年12月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
![]() KADOKAWA 1987年12月 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | 2025/06/18 23:13 |
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(ネタバレなし)
たぶん角川文庫オリジナル(山前譲さんの編集・選出)の短編集じゃないかと思うが。下の書誌データも、巻末の山前氏の解説が出典。 ①「私の殺した男」(「宝石」1957年2月号) ②「謎の下宿人」(「探偵倶楽部」1954年2月増刊号) ③「大食の罪」(初出不明 1960~61年ごろ) ④「青チンさん」(「読切雑誌」1957年4月増刊号) ⑤「ある轢死」(「サンデー毎日」1960年12月25日号) ⑥「はったり人生」(「読切傑作集」1956年5月号) ⑦「月は七色」(「講談倶楽部」1951年11月号) ⑧「赤い蝙蝠」(「探偵実話」1951年11月号) ……の8編を収録。 ④は、神津恭介のワトスン役・松下研三のみが登場する『刺青殺人事件』の後日譚設定の話。 ほかは全部ノンシリーズで、特にレギュラー探偵たちとの接点もないと思う。 以下、簡単に各編のメモ&感想。 ①東京郊外で白骨死体が発見され、その死体は過日の大型詐欺事件の容疑者の者と思われるが? ……ちょっとトリッキィな短編で、トリックは当時ならではこそ成立した、という種類のものだが、まあまあ。 ②夫の商事会社が経営不振な妻は、自宅に下宿人を置いて副業として収入を得ようとする。だがその下宿人には不審な点が? ……途中で急にショッキングな展開になり、起伏感の高い一編。ミステリ的には①と同質の弱点を備えるが、こちらもそれなりに楽しめた。 ③元来の大食漢ながら、健康上の理由から粗食に耐える実業家。そんな彼の前で同居を許した親戚の青年はマイペースな食事を。 ……メインのアイデアはのちに、別の高木作品に流用。というかこの時点でそのアイデアをこういう使い方をしていたのかと軽く驚いた。佳作。 ④『刺青殺人事件』を経て、刺青という分野に学究的な興味を抱いた松下研三。そんな彼の知り合いは少年時代から刺青に傾倒し、ついに自分のチ〇ポコにまで彫り物を入れた和田金吾青年だった。その和田青年は、男性のシンボルを誇示し合う会員制サークル「チンチンクラブ」の代表でもあった。 ……確かに『刺青殺人事件』の後日譚ながら、名探偵・神津の出る幕もないちょっと猟奇的な艶笑譚。のちの小林信彦のドタバタ作品(唐獅子シリーズとか)に通じる興趣もある。なお松下研三が奧さんと結婚しているので『死を開く扉』の前後の時期の話かな。ところで奥さんの名前は「滋子(しげこ)」でいいんだっけ? 最後に、本作は別題「青チン倶楽部」だそうで(笑)。 ⑤轢死された被害者と轢いた加害者の間には、何か関係があった? ……①②に通じる、日本版ヒッチコックマガジンか70年代前半のミステリマガジンに載りそうな、どこか妙にミステリとしてのギリギリ感を感じさせる作品。佳作。 ⑥大口を叩く男に夫婦はかねてから振り回されるが、今回の話は少し違っていた? ……本書のなかでは一番、普通小説に近い話。ただし一冊の短編集のなかでは、良いアクセント的な一編にもなっている。 ⑦画家のわたしは、心のなかに秘めた殺人衝動が伏在し、それが発露しかけると月が七色に変幻して見える。 ……サイコサスペンス的な趣で始まり、途中からとあるキーパーソンの登場を経て、別の方向のミステリへと話が転がっていく。佳作。 ⑧酔っ払い、死にかけた青年は自殺志願者だった? 当人の事情を聴いた刑事は、職務を超えた温情で彼を自宅の同居人とするが。 ……昭和のB級白黒青春犯罪映画を観るような趣で、映像的・ビジュアル的な名場面を散りばめながら、転がっていく話の勢いに惹かれる。作者が、これはこれでノって書いたのであろうことが感じられる佳作。最後の幕切れにしんみりとした余韻。 全8編、トータルしてどれもそれなり~なかなか面白い。突出したものはないが、作者の筆の広がりを感じさせる一冊だった。 |