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[ 社会派 ]
神曲地獄篇
高木彬光 出版月: 1973年01月 平均: 4.50点 書評数: 2件

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光文社
1973年01月

KADOKAWA
1978年12月

No.2 3点 レッドキング 2022/12/22 07:24
” 書かれている事柄の7(6だったか)割は事実・・” と著者自ら自負した「実録」小説だが、「事実でない3割」の方が問題。該当モデルの「人違い」と言うレベルの話ではなく、本来、ダークヒロイン位置の大槻節子や文学青年:向山茂徳を、単なる組織の被害者として薄っぺらく描くことの俗例から逃れていない事が問題。「連合赤軍」の本質は、派手な鉄球映像「あさま山荘事件」ではなく、「同志十二人リンチ殺人」にあり、その根は、「赤軍派」と連合する以前に「革命左派」が起こしていた「印旛沼事件」に求めるべきで、そこから出発していれば、ひょっとしたら、日本版「悪霊」が書かれていたのかもしれない。  ※「何が起きた?」のミステリとは言えるかな。

No.1 6点 クリスティ再読 2022/04/18 21:18
今年は「あさま山荘50周年」で特集とかいろいろあったこともあるから、本作やろうか。高木彬光と連合赤軍、なんかわかったようなわからないような取り合わせ。笠井潔みたいにモロ「世代」なわけでもないし、「なんで?」という疑問も大きいわけだが、まあこの人「社会派」系作品も「人蟻」とか「破戒法廷」とか「追跡」とかあるわけで、そういう興味だと思えばいいのだろう。

評者はあさま山荘はテレビの中継を見た覚えがある程度。でも学生時代には「連赤の総括くらい済ませてるぜ」とウソ吹く活動家がまだいたなあ...評者在学中に各セクトが軒並み崩壊した世代だ。やや上の世代で連赤と東アジアの二本立てでヤル気なくした方々とか、お付き合いがないわけでもなかったが。
で、この本は連赤の「総括」、リンチ殺人をコレでもか!と念入りに小説仕立てにしたもの。「あさま山荘」はちょっぴり、それよりもプロローグ的な印旛沼事件(脱落者を謀殺した事件)の方がウェイトが高いくらい。なので、永田洋子の異常性に力点がおかれていて、思想やら社会状況やらそういう話題には明白に関心がない。閉鎖空間の中で、サディスティックな人物が独裁的な権力を振り回す話としてまとめている。
だから、オウム事件とか、イジメとか、ブラック企業とかと共通するミクロな「権力」構造の問題になるから、左翼運動自体への予備知識とかあまり要らない。要するに被害者の側からして、異常な権力に迎合してしまう「スタンフォード監獄実験」みたいなことになった...ということでもある。

それはそうなんだが、もう一つ別な面もある。一連のリンチ殺人に先立って、合体以前の京浜安保共闘が真岡事件で入手した銃というものに、グループ全体が「呑まれて」しまったのではないか?という面だ。毛沢東が「政権は銃口から生まれる」なんて言ったこともあって、毛沢東主義の影響が強い連合赤軍だからこそ、「銃による戦いができるか?」というのを「真剣に」考えすぎてしまい、「銃で戦える戦士に変わらなければ!」とそれに呪縛された、と見るのはどうだろうか。
やはりあんな異常な「権力」というものは、犠牲者の側の協力がないと絶対に確立できないものである。そういう意味ではいかにも人徳のない永田洋子の「鬼婆っぷり」ではなくて、理論家肌の森恒夫のきわめて観念的な「共産主義化」の理論が果たした役割の方が重要のように評者は感じる。

いや、「総括」のベースを作るような精神主義、献身とか自己犠牲とか自己改造とか、今までの自分を投げ捨てる「自分イジリ」は端的にキモチがいいのだ。そういうキモチの良さを正当化する「共産主義化」理論と、それを悪用して権力を振るうのを楽しむ人物と、両方が揃ったことで、ああいう陰惨な事件が起きるものなのだろうな。

高木彬光自身がそういう「異様な雰囲気」に呑まれているような印象も受ける。この人も妙な精神主義に波長があうタイプだからねえ。そう捉えたら、高木彬光が一見無縁なこの事件に関心を持ったのも、なんとなく、頷ける。


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