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[ ハードボイルド ]
公園には誰もいない
私立探偵・真木
結城昌治 出版月: 1967年01月 平均: 6.20点 書評数: 5件

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読売新聞社
1967年01月

講談社
1974年08月

講談社
1991年10月

小学館
2017年10月

No.5 5点 クリスティ再読 2020/03/30 20:24
昔は真木三部作どれもそれぞれ好きだったんだけどなあ....今回読み返して、やはり「暗い落日」が突出していい、という印象になりそうだ。本作は犯人が仕掛けたことになるトリックにあまり意味がない、というか、小説的に「効いて」いる部分がないので、「ふうん、犯人かわいそうね」という程度の感想になっちゃうのが一番まずいあたりだと思うんだ。

(カンのイイ人はバレると思います)
だからね、評判の悪い賭けの話だって、ホントは一種の対比を作るような仕掛けを考えていたんだろうけども、犯人を最後まで隠したかったから...で対比が不発になっちゃったんだろうね。被害者の行動を通じて「今」の刹那的でケーハクな若者風俗(60年代末だが..)を描く、というのもどうも成功しなくて、被害者がただ無考えでエゴイスティックなだけみたいに見えちゃうのが、やっぱりまずいと思うんだ。結城昌治って中年女性を描かせると上手な作家と思うんだけどねぇ、若い女性は難しいよ。当時のゴーゴー喫茶とか映画に出てくる限りでは、どうも70年代風のディスコとは雰囲気が違うようで、もう一つ評者もよくわからないんだけどね...まあそういう描写を期待するのはムリだなあ。

というわけで、どうも本作、ロスマク風ハードボイルドがあまりイイ方向に作用しているといえなくて、「遠い落日」の二番煎じみたいなことにしかならなかったという印象。逆に「炎の終り」は中年女性の無残さみたいなものがあるから、世評とは逆に面白い、かも?

No.4 6点 nukkam 2017/11/11 22:30
(ネタバレなしです) 松本清張監修による10冊から成る「新本格推理小説全集」の1冊として1967年に発表された真木三部作の第2作です。本格派推理小説としての謎解きもしっかりしていますが、空さんのご講評の通りハードボイルドに分類すべき作品でしょう。無駄のない簡潔でドライな文章は紛れもなくハードボイルドですが生々しい暴力、低俗に過ぎる言動、麻薬や婦女暴行のような卑しい犯罪、マフィアや暴力団のような犯罪組織といった要素はほとんどありませんのでそういうのが合わない読者にも勧められます。tider-tigerさんやkanamoriさんのご講評で評価されているように「公園には誰もいない」は作中の悲劇のヒロインであるシャンソン歌手の持ち歌のタイトルでもあるのですが、事件の虚しさと哀しさを読者に訴えるのに実に効果的に使われています。

No.3 7点 tider-tiger 2016/10/08 09:19
シャンソン歌手である若い女性が失踪した。上流家庭に育ち、特殊な世界で身を立てようとしている彼女の周辺にはどこか癖のある人物が多く、彼女自身かなり身勝手な人物のようだった。母親から捜索を依頼された真木だったが、なんということはなしに、この仕事が気に入らなかった。

犯人と被害者、自分にはないものを補い合ってうまくやっていけたんじゃないのかなあ。残念でならない。構想の死角(刑事コロンボ)みたいなことになってしまった(動機はまったく異なるが、事件の表面的な構図は似ている)。
被害者の歌う『公園には誰もいない』が非常に効果的に使われている。ラストシーンの哀感も素晴らしいし、真木の犯人への感情移入も理解できる。
ただ問題もある。ミステリとしては暗い落日よりも確実に劣る。被害者や犯人の行動が必然性に欠ける点、それからダールの『南から来た男』を引き合いに出しての賭けの話が強引。
本作においての賭けはダールを引き合いに出せるようなものではなく、子供のお遊びとしか思えない。本作の重要な鎹(かすがい)なのに弱点になってしまっている。
そして、動機が弱い、というか、根が深くなる性質の動機ではあるのだが、書き込みが足りないように感じた。犯人の人物像含めてもう少し書き込んで欲しかった。だが、この作者の美点はあえて書かないことだともいえる。
読者に想像や洞察を要求する。例えばこんな感じ。

「ベル――」
 わたしはもう一度(犬の名を)呼んだ。
 しかし彼は知らんふりをして、おまえの相手なんかしていられるかというように、ながながと寝そべり、淡い日ざしを浴びて、気持よさそうに眼を閉じた。
 わたしは彼が好きになった。
「とても怠け者なんです」
 理江もベルが好きらしかった。

本作のラストで真木は犯人に「どうぞお帰りなさい」と言った。
暗い落日の書評でkanamoriさんが言及されていた「それは自分で考えることでしょう」に近いようで、両者の真木の心情はずいぶん異なるように思われる。
逃がしてやりたい、だが、逃げたところで結果は見えている。かと言って自首を薦めることもできなかった。真木は犯人の自殺も予感していただろう。どれを取っても愉快な結末にはなり得ない。そもそも被害者には殺されるほどの非はなかった。犯人が悪いのだ。だが、憐れな犯人だ。自分にだって才能があり、輝かしい未来の可能性があることに気付くべきだった。
結局真木は「じゃあそんなわけで」的な曖昧さに逃げるしかなかった。
真木がなんとなくこの仕事が気に入らなかったのは、こういう結末を予感していたからではないかと、いや、作者は読者にこうした結末を予感させようとしたのではないかと、そんな風に思います。
ミステリとしては暗い落日に劣る。が、小説としては見劣りしない(むしろ小説としてはこちらの方が好き)ので同点としておきます。
勢いに乗って『炎の終わり』も書評したいところですが、手元に本がない。記憶も定かでない。そのうち入手して書評したいと思っております。

最後に本作のミスリードを誘う仕掛けについて ややネタばれ


『暗い落日』に続いて本作でもやられました。手口はまったく違います。
なにか描写しておかないと小説として格好がつかないから描写してしまうのは当然アマチュアで、すべてのとまではいかなくともたいていの描写に意味、必然性があるのがプロでしょう。
ただの風景描写に思えても、実は風景を描写しているのではなくて、物語のその後を予感させたり、登場人物の心情を映していたりするわけです。
結城昌治は名ばかりのプロではなくて、名実ともにプロです。その彼が以下のようなことを書きました。
母と娘は顔が似ている。
母親は相当なお洒落で派手好き。
娘はお洒落だが、派手なお洒落は好まない。
娘は念入りに化粧をする。
派手嫌いと化粧念入りは矛盾してはいないか、あ、母親と似ているのがイヤなわけね。私は作者の思惑通り、親子関係になにか問題があって、それが物語の鍵なんだなと推測しました。
もちろん現実世界ではこれだけのことで母娘関係に問題ありと見做すのは早計に過ぎるわけですが、小説的にはこれらは母娘関係の象徴として描写されたと考えられるわけです。仄かに香る第一の罠。
そして、母親に動機らしきものが見えてきました。肥溜めのような二番目の罠。明らかな悪臭ですが、「キターッ!」とばかりに食いついたバカ(私)は母親が犯人と断定しました。

No.2 6点 2013/03/16 08:48
松本清張が監修した書き下ろし新本格推理小説全集の1冊として出版された作品です。後期ロス・マクを思わせる暗い叙情的な雰囲気の私立探偵真木シリーズは、伏線もちゃんと張ってあって、確かに「本格」と言ってしまってもいいような気はしますが、普通はハードボイルドの方に入れられるでしょうね。
失踪したシャンソン歌手を探す依頼を受けた真木が、とりあえず東京にいる関係者たちから聞き込みをした後、当然調査しなければならない軽井沢の別荘に翌日行ってみると、歌手は殺されていて、しかも真木は頭を殴られて気絶、というハードボイルド定石どおりの展開です。
本作は久々の再読なのですが、同じ作者の『暗い落日』や『幻の殺意』と比べると、犯人もトリックもさっぱり記憶に残っていませんでした。犯人の計画に必要性があまり感じられないという不満はあっても、真相はシンプルで覚えやすいと思うのですが…

No.1 7点 kanamori 2010/05/31 21:05
私立探偵・真木シリーズの第2作。
失踪した売出中の女性シャンソン歌手探しが発端で、殺人事件の発見者になり、関係者への聞き込み調査と続く物語はハードボイルド小説の定番のプロットで、このマンネリ感が逆に心地いい。
本家のロス・マクと同様に意外な結末を設定しているのも高評価の一因ですが、全篇にわたって「公園には誰もいない」のメロディが流れているような暗い雰囲気創りがよかったです。


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