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nukkamさん
平均点: 5.46点 書評数: 2539件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.2539 5点 呪殺島の殺人- 萩原麻里 2022/08/06 22:52
(ネタバレなしです) 時代小説や児童文学、ゲームシナリオなどを書いていた萩原真理(1976年生まれ)が2020年に発表した本書は新潮文庫版の裏表紙で「新感覚密室推理」と記載されていて私の好きな本格派推理小説のように思えますがタイトルが私の苦手なホラー小説のようでもあり、手を出すのをためらってましたが人並由真さんのご講評でコテコテの新本格派パズラーと評価されているのでほっとして読んでみました。主人公(語り手)が密室内で被害者の死体と一緒なのを発見された上に記憶喪失になっているという設定です。当然のごとく犯人扱いされますがこの主人公、記憶だけでなく危機感も喪失しているみたいでどこかのほほんとしています。そこが舞台背景とマッチしないと感じる読者もいるでしょうけど、犠牲者が増える後半はさすがに雰囲気が引き締まります。名探偵役のはずの三嶋古陶里が肝心の真相説明の場面で目立たなくなってしまうのが演出的に不満です。密室トリックが新感覚どころか古典的トリックだったのも期待外れでした(まあこれは作者よりも宣伝文句を書いた出版社の責でしょうけど)。

No.2538 5点 曲線美にご用心- A・A・フェア 2022/07/30 22:57
(ネタバレなしです) 1956年発表のバーサ・クール&ドナルド・ラムシリーズ第15作の本格派推理小説です。序盤の展開がちょっと難解ですがドナルドの大胆な推理(根拠をきちんと説明してくれませんが)で急展開し、新工場の進出検討と土地使用制限解除の妨害工作という政治社会的な話までありますけどすらすらと読めるようになります。終盤には何と法廷場面まであり、ここはもと弁護士だったドナルドが本領発揮です。といっても前面には出ないで別の弁護士のバックアップに徹しており、証人になろうともしません。そこがちょっと回りくどいですけどガードナー名義のペリイ・メイスンシリーズ作品との違いを出そうとしたんでしょうね。解決もペリイ・メイスンシリーズでは絶対にありそうにないユニークな解決ですが、これでは納得できない読者もいるでしょうね。だから最後に「蛇足」章を挿入したんでしょうけど。

No.2537 6点 希望の糸- 東野圭吾 2022/07/29 16:56
(ネタバレなしです) 2019年発表の加賀恭一郎シリーズ第10作ですが加賀は脇役で主人公は従弟の松宮脩平です。加賀(警部補)は松宮(刑事)の上司として、また年長の親族として松宮をサポートします。殺人犯の正体は中盤あたりで早々と明らかになり(ここは加賀が美味しいところを持って行きます)、後半は犯行動機に関わる秘密を松宮が調べていく展開が「悪意」(1996年)に通じるところがあります。その過程で形成される複雑な人間ドラマは実に読み応えがあり、個人的には文学的でさえあると思います。タイトルも内容をよく反映しています。一方で加賀の出番が少ないことや謎解き本格派推理小説としては物足りないところは(厳密には推理で犯人が判明したわけではない)読者の好き嫌いが分かれるかもしれません。

No.2536 6点 歌うナイチンゲールの秘密- キャロリン・キーン 2022/07/27 00:26
(ネタバレなしです) 1943年発表のナンシー・ドルーシリーズ第20作です。ハードカバー版での出版にはびっくりです。論創社版の巻末解説では「目の肥えたミステリー愛好読者層にも、このナンシー・ドルーシリーズを改めて評価してもらう機会となるのではないかと期待」と記述されていますが、本来の愛好読者である子どもたちに高額なハードカバーをねだられたら親はどういう顔をするんでしょうね(笑)。初期シリーズ数作に登場していたナンシーの友人ヘレン・コーニングと再会することも本書の特徴ですが、それより印象に残るのは困った人を助けるためのナンシーの捜査が成功したにも関わらず幸福にならない展開で、ナンシーは15章で「謎をといたことを後悔したのは生まれて初めてだ」と悩むことになるのです。最後はもちろんナンシーの推理でめでたしめでたしになりますけど、中盤の重苦しさはジュブナイルミステリーとしては評価が分かれるかもしれません。

No.2535 6点 名探偵水乃サトルの大冒険- 二階堂黎人 2022/07/24 15:28
(ネタバレなしです) 1997年から1998年にかけて発表された社会人・水乃サトルが活躍する本格派推理小説の中短編4作をまとめて2000年に出版された短編集です。解決が早いのでサトルの天才ぶりが際立っており、「ビールの家の冒険」(1997年)といい、「ヘルマフロディトス」(1997年)といい、証拠品の実物を確認する前によくまあそんなことを思いつくものですね。「『本陣殺人事件』の殺人」(1997年)は横溝正史村というテーマ・パークの舞台まで用意して有名作「本陣殺人事件」(1946年)のトリックに別の真相の可能性を用意した意欲作。謎の魅力も雰囲気もいいのですが犯人当ての謎解きが雑な出来ばえなのが惜しいですね。宇宙人による殺人かもしれない謎が後年作の「宇宙神の不思議」(2002年)を連想させる「空より来たる怪物」(1998年)は発想の逆転アイデアが講談社文庫版の巻末解説で「バカミス的トリック」と評価されていますけど、長編でなくコンパクトに中編のボリュームに収めた点で成功していると思います。

No.2534 7点 ナポレオンの剃刀の冒険- エラリイ・クイーン 2022/07/22 22:50
(ネタバレなしです) エラリー・クイーンは1939年から1948年の長きに渡って放送されたラジオ番組「エラリー・クイーンの冒険」(小説の短編集(1934年)とは別物です)のシナリオ作りに関わっています。本書の巻末解説にシナリオ一覧が載っていますがその数、実に310作!1時間版シナリオを30分版に短縮改訂したものや他人(アントニー・バウチャー)によるプロット作品も混ざってますが、それにしても相当の力を入れていたことがわかります。ラジオを聴く機会などまずない読者には縁のない作品と思っていましたが、2005年にアメリカ本国で「殺された蛾の冒険」というタイトルで15の(クイーンが書いた)作品を収めたシナリオ集が出版されました。日本では2冊に分冊されて出版されましたがその1冊が本書で(もう1冊は「死せる案山子の冒険」)、1時間版シナリオが4作に30分版シナリオが3作、そして別のラジオ番組用の10分版シナリオが1作です。どのシナリオも「聴取者への挑戦」が挿入されたフェアプレーな謎解きで、手掛かりの配置と論理的な推理にこだわった作品が揃ってますがやはり1時間版の方が凝った謎解きを楽しめますね。トリックはオースティン・フリーマン作品からの借り物ながら複雑な真相に仕上げた「悪を呼ぶ少年の冒険」(1939年)、足跡トリックに挑戦した「呪われた洞窟の冒険」(1939年)、ライバル探偵役を登場させた「ブラック・シークレットの冒険」(1939年)はよくできていると思います。30分版では「殺された蛾の冒険」(1945年)の推理の鮮やかさが印象的です。

No.2533 6点 砂の城- 鮎川哲也 2022/07/17 17:48
(ネタバレなしです) 1963年発表の鬼貫警部シリーズ第6作の本格派推理小説です。このシリーズらしく鬼貫以外の警察官による地道な捜査と犯人絞り込み、そして犯人のアリバイ崩しがとん挫した後半に探偵役が鬼貫に交代してアリバイトリックを見破って解決というプロットパターンです。本書の個性は2つの事件で異なるアリバイが用意されていることでしょう。片方は鉄道アリバイですがもう片方がちょっと変わっており、鍵付き鞄の中の雑誌トリックとでも言うのでしょうか。時刻表を見るのが苦手な私としては鉄道トリックばかりではありませんよという作者の主張は褒めてあげたい気持ちもありますけど、何というか最初から小手先トリックの雰囲気がぷんぷんしていているところが微妙でした(トリックは結構コロンブスの卵的で意表を突かれましたけど)。あと鉄道トリックについては光文社文庫版の巻末解説で、作者が用意した正解以外のトリックもあることを指摘されて(慌てた?)作者が他のトリックが使えないような仕掛けを追加して改訂したというのが面白いです。測量ボーイさんのご講評での指摘の通り、現代だったら警察が時刻表検索アプリを使って一発解明して鬼貫の出番なしに終わっちゃうんでしょうけど(笑)。

No.2532 7点 消えた目撃者- E・S・ガードナー 2022/07/11 06:56
(ネタバレなしです) E・S・ガードナー(1889-1970)のペリー・メイスンシリーズは長編が82作も書かれた割には中短編は非常に少ないです。本書は1970年に日本独自編集でシリーズ中編を3作収めた本格派推理小説の中編集で、私は角川文庫版(1976年)を読みましたが1949年に発表されたと紹介されている「消えた目撃者」が弾十六さんのご講評でガードナー作かどうか疑わしいと指摘されているのに驚きました。慧眼の弾十六さんは英語版の原書情報が見つからないだけでなく文体がガードナーらしくないことまで見抜かれておりますが、恥ずかしながら私は全くそんな疑問を抱かず法廷での見事な逆転劇を堪能しました(偽作なら日本で誰かが創作したのでしょうけどなぜでしょう?)。「叫ぶ燕」(1948年)と「緋の接吻」(1948年)はどちらもシリーズ第34作長編の「用心深い浮気女」(1949年)に一緒に収められて本国で単行本化されており、さすがに真作でしょう。前者のメイスンは弁護士というより私立探偵みたいで、法廷場面もないですし殺人犯の正体は警察が突き止めているのが異色ですが、メイスンもしっかり裏でいい仕事しています。後者は事後従犯者による工作が読者にあらかじめ知らされる倒叙風な展開が印象的で、これでどうやって真犯人にたどり着けるのだろうと思わせますが劇的な法廷場面で鮮やかに決着します。「消えた目撃者」が偽作だとしても良作揃いの中編集だと思います。

No.2531 5点 泣けば、花嫁人形- 斎藤澪 2022/07/10 22:22
(ネタバレなしです) 1986年に雑誌掲載され1987年に単行本出版された本書はサスペンス小説か本格派推理小説か微妙な作品です。C★NOVELS版の著者のことばを読むと、(地上げによって)やがて消えるというニュースがしきりだった新宿のゴールデン街の思い出として書かれたようです。風景描写はそれほどありませんが、そこに住む人々を描いてどこか怪しく退廃的な雰囲気はそれなりに表現されているように思います。母親を探す24歳の西尾えりか、母親の行方を知るらしいが教えようとしないゲイバーのママのハリー、そして刑事の岩田の3人が主人公で、ある時は対立しある時は協力し、追い払ったかと思うと探し求めたりしています。3人がそれぞれ抱える秘密や苦い思い出が思惑ありげに示唆され、それが殺人事件の謎解きとも有機的にからみます。人間ドラマを充実させた代わりに捜査や推理がややもすると添え物的に感じられてしまうのはミステリーとしては賛否両論かもしれません。

No.2530 4点 ケンカ鶏の秘密- フランク・グルーバー 2022/07/09 09:02
(ネタバレなしです) 1948年発表のジョニー・フレッチャー&サム・クラッグシリーズ第11作のユーモア・ハードボイルドです。今回は死体発見現場にはいましたけど発見者ではないし他にも大勢の人がいたので事件への巻き込まれ度合いはこのシリーズとしては低い方だと思いますが、第6章でジョニーが「面白半分にあちこち歩いて、人に話を聞いているだけです」ととぼけている内にどんどん深みにはまっていきます。話のテンポがよくてスラスラと読めるし闘鶏までもが入り乱れての終盤のアクションシーンはなかなか盛り上がりますが、解決は度を越して強引に感じます。謎解き伏線は十分でなく推理説明の整理もできておらず、たとえ本格派推理小説を意識していないで書いたとしても真相がわかりにくくて疑問点も残るのは読者として困ります。

No.2529 5点 オホーツク流氷殺人事件- 葵瞬一郎 2022/07/07 07:22
(ネタバレなしです) 2018年発表の朝倉聡太シリーズ第2作の本格派推理小説です。冬の北海道を舞台にして旧家の一族が次々に殺される事件を扱っているのですが、文章が読みやすいのはいいのですけど贅沢を書かせてもらえるならもう少し寒さとか暗さとかを感じさせる雰囲気描写が欲しかったですね。内田康夫の「小樽殺人事件」(1986年)と比べるとそこは物足りなく感じました。事件関係者を一堂に集めて(よく警察が協力しましたね)朝倉が推理説明を披露する場面はさすがに盛り上がるものの、謎の魅力とトリックの創意では前作の「東海道新幹線殺人事件」(2017年)に劣っているように感じました。

No.2528 6点 ウィンストン・フラッグの幽霊- アメリア・レイノルズ・ロング 2022/07/05 01:02
(ネタバレなしです) 1941年発表の本格派推理小説です。犯罪心理学者トリローニーとミステリ作家キャサリン・パイパーのコンビ登場作としては「<羽根ペン>倶楽部の奇妙な事件」(1940年)に次ぐ作品で、前作の登場人物の何人かが再登場しています。論創社版の巻末解説で説明されているようにメインの事件が起きるのはかなり遅いのですが、遺言状を巡る謎(ちょっと複雑すぎかも)や死体の素性を巡る3人の異なる証言などで中盤までの展開も読者が退屈しないように工夫しています。そしてメインの事件は誰も手を触れていないはずの銃から弾丸が発射されての射殺という、同年に発表されたジョン・ディクスン・カーの「震えない男」を連想させる不可能犯罪です(トリックの独創性ではカーが上回ります。もっともカーのトリックが素晴らしいかというとかなり微妙な気がしますが)。十分に楽しめた作品でしたが、巻末解説でこの作者を連続殺人の波状攻撃(四重殺人に五重殺人、何と七重殺人の作品まであるようです)とカー風の怪奇演出を得意とするように紹介しており、(本書はその特徴が弱いので)微妙に欲求不満になってしまいました(笑)。

No.2527 6点 皆殺しパーティ- 天藤真 2022/07/02 23:03
(ネタバレなしです) 1972年発表の第4長編である本書の「あとがき」で「この作品は本格であり、あらゆる事件についてデータ(詳細な事実)を提供してあるつもりである。この作品に用いた2つのメイントリックは(中略)、私なりに、かなり苦心したものである」と作者は記述していますが、正統派の本格派推理小説というよりは異形のプロットの破格の本格派の印象を受けました。プロローグで半端ない人数の死者と行方不明者が予告され、主人公(語り手)の命を男女の2人組が殺そうとしていることが第1章で示唆されます。事件が起きるたびに容疑者が減っていくのですが、真犯人に殺されて容疑者リストから消去されるという通常パターンではありません。犯人が2人組らしいことを最初から明らかにしている本格派というとイェジイ・エディゲイの「顔に傷のある男」(1970年)を連想する読者がいるかもしれませんが、正統派プロットの枠から外れないエディゲイ作品とも異なります。非常に個性的な作品なので高く評価する読者も多いでしょうけど、あまりといえばあまりな人間模様にうんざりしてしまう読者も少なくないかも。

No.2526 5点 節約は災いのもと- エミリー・ブライトウェル 2022/07/01 08:06
(ネタバレなしです) 1994年発表のジェフリーズ夫人シリーズ第4作です。創元推理文庫版の巻末解説でこれまでのシリーズ作品中最も本格派推理小説の謎解き要素が充実しているように評価していますが手掛かりが後出し気味で、推理よりも幸運での解決に感じられてしまうのが残念です。使用人メンバーたちの捜査がなかなか思うような成果を挙げられずジェフリーズ夫人も焦りの色を隠せず、一方で相変わらず自信なさげながらもウィザースプーン警部補が意外とまともに捜査を進めているなどこれまでのシリーズ作品とは異なる雰囲気です。ウィギンズの脳天気ぶりは変わってませんけど(笑)。

No.2525 4点 蒼い鳩殺人事件- 馬場信浩 2022/06/29 09:26
(ネタバレなしです) カッパノベルス版の「著者のことば」で「私の精魂を傾けた一編です」とアピールしている1994年発表の本格派推理小説です。鳩の寺として知られる鎌倉の禅寺で密室状態の庵(いおり)で般若の面をかぶった女性の全裸死体と一羽の鳩(こちらは生きてます)が発見されます。庵がラブホテル代わりに使われていたり、幻のブルーフィルムが脚光を浴びたりと通俗的な要素が強いです。どちらかといえばハードボイルドか官能サスペンス向きの題材に思えますが、警察の捜査が暗礁に乗り上げてラグビーライターの浅川の捜査が中心となる後半からは複雑な人間模様の描写に力が入ります。弱者が虐げられる過去の悲劇も容赦なく描かれており、これはこれでありだと思いますが謎解きの面白さは犠牲になっていて、読者を選びそうな作品です。密室の謎解きも長らく放置された挙句に駆け込み式に解明されますが、そもそも密室にする必要性があったんでしょうか?

No.2524 6点 閉ざされぬ墓場- フレデリック・デーヴィス 2022/06/24 00:24
(ネタバレなしです) 人並由真さんのご講評を読んで自分も読んでみたくなった米国のフレデリック・デーヴィス(Frederick C. Davis)(1902-1977)(英国にFrederick H. Davies(1916-1990)という作家もいるらしく紛らわしい)。ネットで調べると複数のペンネームで40作以上の作品を書いています。1920年代からパルプ作家として雑誌に投稿していたようですが、1938年に発表した大学教授(助教授?)で犯罪学の専門家のサイラス・ハッチシリーズ第1作が出世作です。本書は1940年発表のハッチシリーズ第4作で、亡くなった伯父が社主だった新聞社の新たな社主となるべくハッチが田舎町ペンズウイックを訪れます。町の有力者一族から新聞社が名誉棄損で訴えられる事件にハッチが代表として巻き込まれる前半はミステリーらしくありませんがハッチが第三者的立場でないことが丁寧に説明されており、殺人事件が起きてからも犯人探しよりは親しい関係者を窮地から救うことを優先させている個性的な本格派推理小説です。そこが回りくどいと思う読者もいるでしょうが、終盤は畳みかけるような展開で謎解きのスリルをたっぷり味わうことができます。

No.2523 5点 トラブル・ハニムーン- 海渡英祐 2022/06/19 02:53
(ネタバレなしです) 7作を収めて1985年に発表されたユーモア本格派推理小説の短編集で、恋人同士の男女(第2話では早くも結婚していますけど)がどこにも相談を持ち込みにくい悩みごとを解決するトラブル・コンサルトの事務所を立ち上げて事件に巻き込まれるというものです。主人公(男)が熱烈なヒッチコック映画ファンで事件解決後に映画にちなんだタイトルを付けるのが特徴ですが第1話の「引き裂かれた写真」こそ映画シーンを意識してのパロディー要素が強いものの、映画を読者が知らなくても大きな問題になりません。推理が正しいのか証明されないままに終わって(犯人も罰せられず)微妙にすっきりしない作品もありますが、明るくて軽くて読みやすい作品ばかりなのでまあいいかという読後感になります。伝奇本格派を意識した(でもあまり怖くない)「赤い恐怖」はヒッチコックよりもコナン・ドイルの某作品を連想しますね。

No.2522 6点 おうむの復讐- アン・オースチン 2022/06/17 23:33
(ネタバレなしです) 250人もの海外本格派推理小説の書き手を紹介している森英俊編の「世界ミステリ作家事典『本格派篇』」(1998年)にも載っていない米国のアン・オースチン(1895-1975)。人並由真さんが本サイトにご講評を投稿されていなかったら私は存在に気づくことさえなかったでしょう。ミステリー作家としての活躍期間は約10年と短い上に10作にも満たない本格派推理小説が残されたのみのようです。本書は1930年発表のジミー・ダンディーシリーズ第1作です。ダンディーは第13章で「人の感情を傷つけることの決してできない性質」と紹介されているように好青年の刑事として感情豊かに描かれており、「サード・ディグリー」(厳しい尋問の意味)には頼らず、同僚との会話にはユーモアさえ滲ませます。ダンディーの考えていることを読者に対してオープンにしているところはクロフツのフレンチ警部シリーズに通じますが、中盤の第14章で「犯人の名前がわかりましたよ!」とダンディーに語らせながらなお終盤まで犯人の正体を隠すことに成功しています。世界推理小説全集版の巻末解説ではおうむの役割に失望していますが、(ダンディーは期待してたけど)ワトソン役を演じさせたらさすがに非現実的に過ぎるでしょう。

No.2521 5点 幻狼殺人事件- 梶龍雄 2022/06/13 02:17
(ネタバレなしです) 1984年発表の本格派推理小説です。kanamoriさんのご講評で指摘されているように横溝正史の名作「八つ墓村」(1949年)を意識したかのような作品ですがスリル感では「八つ墓村」が、本格派推理小説としては本書の方が充実していると思います。もっともプロローグの暴力的描写の連続は好き嫌いが大きく分かれそうですね。戦前に起きた事件の謎解きと、現代に起きた事件の謎解きが複雑に絡み合います。前者については犯人は最初からわかっていてなぜ事件が起きたのかの動機の謎解きなのですが、連続女性暴行事件の理由なんか知りたくもないという読者もいるかもしれませんけど。終盤には鍾乳洞での冒険シーンが織り込まれ、サスペンス濃厚な舞台での謎解きが圧巻です。図解入りでの大トリック説明まであります。

No.2520 4点 クロームハウスの殺人- G・D・H&M・I・コール 2022/06/11 21:06
(ネタバレなしです) 1927年発表の本格派推理小説でシリーズ探偵は登場しません。アマチュア探偵(大学講師)が謎解きに挑むプロットですが、彼1人だけでなく弁護士や犯人と疑われた容疑者の婚約者や怪しい人物を見たという証言者などが捜査に参加します(警察はほとんど登場しません)。被害者が銃を突きつけられている2種類の写真(銃を持つ人物が異なっています)など面白そうなネタもあるのですが捜査が進展しているという雰囲気もなく、かといって謎が深まるという感じでもなく、探偵役を複数揃えたわりには謎解き議論も盛り上がらずとメリハリに乏しい謎解きプロットです。解決も推理より自白に頼っている印象を受けました。コール夫妻の代表作と評価されているそうですが、個人的にはぴんときませんでした(あまりこの作者の作品を読んでいないのですけど)。突然始まり突然終わった締め括りのロマンスも何のために挿入されたのか理解できませんでした。余談ですが論創社版の巻末解説で夫婦コンビ作家について「国内では折原一と新津きよみのほかに例がない」と紹介されてますけど松木警察署長シリーズの警察小説を書いた石井竜生と井原まなみは確か夫婦のコンビ作家だったように記憶しています(折原一と新津きよみのコンビを知らなかったので私もエラそうにできませんけど)。

nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.46点   採点数: 2539件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(72)
アガサ・クリスティー(53)
ジョン・ディクスン・カー(43)
エラリイ・クイーン(39)
F・W・クロフツ(30)
A・A・フェア(24)
レックス・スタウト(24)
カーター・ディクスン(23)
横溝正史(22)
ローラ・チャイルズ(22)