皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
|
---|---|
平均点: 5.44点 | 書評数: 2813件 |
No.2813 | 6点 | ぼくの家族はみんな誰かを殺してる- ベンジャミン・スティーヴンソン | 2024/11/21 04:25 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) コメディアンとしても活躍しているオーストラリアのベンジャミン・スティーヴンソンによる2022年発表の長編ミステリー第3作です。ハーパーBOOKS版の表紙イラストが人物の表情を目を意図的に描かず少し不気味で、私はサイコサスペンス系かと思ってました。しかし冒頭にロナルド・ノックスの「探偵小説十戒」(1928年)が置かれ、作中でも主人公の語り手が何度も「嘘や隠し事はしない」と宣言して読者に対してフェアプレーの謎解きを挑戦する本格派推理小説で、終盤の36章では「謎解きに必要とした手がかり」が列挙されています。もっともこの手がかりの推理説明への結び付け方についてはやや難解に感じる部分もありましたが。また主人公が家族内で微妙な立場であることが本書の個性でもあるのですが、ハードボイルドほどではないにしろドライに描かれる心理描写が共感しにくいと感じる読者もいるかもしれません。 |
No.2812 | 5点 | 陽の翳る街- 仁木悦子 | 2024/11/06 20:32 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) kanamoriさんのご講評で紹介されているように、仁木悦子(1928-1986)は晩年まで執筆活動を続けましたが全部で12作書かれた長編ミステリーに限定すれば1982年発表の本格派推理小説である本書が最終作です。推理小説が三度の飯より好きという、ご近所関係の男女四人が集まって作った「モザイクの会」のメンバーたちが偶然遭遇した殺人事件の謎解きに挑戦するプロットです。非常に複雑でしかも雲をつかむような謎解きで、被害者の素性が曖昧なため人間関係もはっきりしないままに登場人物が増えていくので登場人物リストは作ることを勧めます。容疑者の中には直接描写されないのもいるのでますますとらえどころがないのですけど。戦時中のエピソードが語られたり19年前の三重殺人事件が絡んだりと複雑性は加速し、ついには四人の足並みが乱れるなど私の凡庸な頭には手強すぎる作品でした。 |
No.2811 | 5点 | 貧乏カレッジの困った遺産- ジル・ペイトン・ウォルシュ | 2024/11/05 08:03 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 「ケンブリッジ大学の途切れた原稿の謎」(1995年)から10年以上の間を空けて2006年に発表されたイモ-ジェン・クワイシリーズ第3作の本格派推理小説です。イモージェンは金融業界の大物であるサー・ジュリアスが崖から転落死したニュースを新聞で知りますが、以前に彼と会った時に「わたしの命は安全とは言えない」と告げられていたことから事故死ではないのではと疑います。イモージェンがかつての恋人と出会い一緒に捜査するという展開に驚かされます。イモージェンの複雑な心境が随所で描かれ、謎解きと並行して2人の仲がどのようになるのかも読ませどころです。経済ミステリー的要素があって予想外の大掛かりな問題にまで発展するのも本書の特徴です。大胆な真相が用意されていますが、犯人からどうしてわかったのかと問われたイモ-ジェンは「当面、それを話す必要はないと思います」と推理説明してくれません。犯人当て以外に解決しなければいけない問題が山積みしているからというのは理解できるのですが、後になってもちゃんと解説してくれないのでは本格派の謎解きとしては中途半端に終わってしまった印象を受けました。 |
No.2810 | 7点 | 密室は御手の中- 犬飼ねこそぎ | 2024/10/29 22:50 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 学生時代に40編以上の短編作品を書いていた犬飼ねこそぎ(1992年生まれ)が2021年に発表したデビュー作の本格派推理小説です。「すごいトリックとすごいロジックを軸に味付けすれば、すごい本格ミステリが書けるはずだ」と作者がコメントしているだけあってアイデアは確かにすごいです。特に密室内のバラバラ死体という鮎川哲也の名作短編「赤い密室」(1954年)を連想させる第1の事件のトリックには驚きました。またどんでん返しの謎解きが梶龍雄の某作品を彷彿させる推理合戦にまで発展する展開にも力が入っています。説明が空回りしたような部分があるし、人物描写は全く印象に残らないし、猟奇的殺人のグロテスク描写を抑えたのは個人的には好ましいながらも雰囲気演出はインパクトが弱いとか気になるところもありますが、作者の意欲は十分に感じられました。 |
No.2809 | 5点 | 豪華客船オリンピック号の殺人- エリカ・ルース・ノイバウアー | 2024/10/24 03:59 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 2022年発表のジェーン・ヴンダリーシリーズ第3作で、舞台はイギリスからアメリカへ向かう豪華客船です。日本語タイトルで「殺人」がつけられていますが英語原題は「Danger on the Atlantic」で、メインの謎解きはドイツのスパイ探しと船客の失踪事件です。そのためかこれまでのシリーズ作品で最もスリラー色が濃い作品です。スパイ探しについてはレドヴァースから求められて捜査に協力するのですが、「なにかが進行中なのに、全体図が見えない」と戸惑いながらもジェーンの試行錯誤しながらのアマチュア探偵としての捜査が読ませどころです。一方船客失踪事件はジョン・ディクスン・カーの名作ラジオ・ドラマ「B13号船室」をどこか連想させます。どちらの事件も(そして殺人事件も)推理が弱くて説明不足気味の解決になっているところが個人的には残念ですが、もやもや感の強いプロットながらアガサ・クリスティー風な文体で退屈させないところは長所だと思います。 |
No.2808 | 5点 | 伊集院大介の新冒険- 栗本薫 | 2024/10/17 12:37 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1994年発表の伊集院大介シリーズ第3短編集で、シリーズ短編を7作収めています。タイトルから「伊集院大介の冒険」(1984年)と比較したくなりますが、推理による謎解きという点では残念な作品が増えてしまいました。「ごく平凡な殺人」の中で伊集院が自分のことを「新聞で殺人事件の記事を読んだだけで、僕にはどういうわけか、まるでテレパシーか透視能力者みたいに、たいていの殺人事件の真相(中略)がわかってしまうんだ」と語っていますがこれで解決では本格派推理小説としては問題作で、どうやって真相を見抜いたのかの説明が不十分では読者の不満が増すでしょう。その代わりではないでしょうが、本書の作品の多くは事件の背景にある秘密とそれが招いた殺人と言う悲劇性を強調し、伊集院は被害者だけでなく時に加害者への同情も示します。2000年代の長編作品でもこの手法は目立っており、さすがに長編だと謎解きの弱さが気になってしまいますが本書は短編なのでまあ個人的には許容範囲かなと思います。ちなみに「ごく平凡な殺人」は本書の中では推理にも配慮されている作品です。 |
No.2807 | 5点 | 雪山書店と嘘つきな死体- アン・クレア | 2024/10/15 22:47 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) アメリカの女性作家アン・クレアが2022年に発表したクリスティ書店の事件簿シリーズ第1作のコージー派の本格派推理小説です。創元推理文庫版では本書で小説家デビューと紹介されていますがこれはアン・クレア名義に限った話で、別名義で2015年から何作かのミステリーを出版しています。血縁関係があるかは不明ながら偉大なるアガサ・クリスティを親族同然に愛してやまないエリー・クリスティを主人公とし、クリスティ一族が経営する書店の看板猫の名前がアガサと確信犯的にアガサ・クリスティを意識した作品です。但し謎の盛り上げ方には不満があり、失踪した人物(容疑者でもありますが)の行方を追いかけたり、無実の人間(とエリーが思っている)が罪を着せられそうになっているのを助けようとしたりと脇道にそれるとまでは言わないまでも犯人当てプロットとしては少し冗長に感じます。分量が500ページもあるし人物関係も複雑で誰が誰だか何度も登場人物リストをチェックしました。終盤の解決場面はなかなか劇的で、ミスリードの手法に技巧を感じさせます。 |
No.2806 | 5点 | 壁から死体?- ジジ・パンディアン | 2024/10/10 21:42 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) アメリカの女性作家ジジ・パンディアン(1975年生まれ)は2012年に作家デビューし(2013年と紹介している文献もあり)、既に2つのミステリーシリーズを書いていますが第3のシリーズである<秘密の階段建築社>の事件簿シリーズの第1作が2022年発表の本書です。ファンタジー小説系かと思わせるシリーズ名ですが本格派推理小説系です。何人もの先祖が怪死したり失踪したりしているマジシャン一族の末裔である元イリュージョニストのテンペスト・ラージが主人公で、壁の中に埋められた死体という風変わりな不可能犯罪の謎解きに挑みます。もっとも被害者が自分の代わりに殺されたのではと思いこんだり、幽霊らしきものに悩まされたり、ラージ家の呪いではと神経質になったりと探偵役としてなかなか推理に専念できないところが本格派のプロットとしてはまわりくどいです。それでも第3部になるとようやく謎解きが前進しますが、トリック解明はともかく犯人当てとしてこの真相は唐突過ぎる解決と思います。一族にまつわる過去の事件についても謎が中途半端に放り出されてしまっているように感じました。 |
No.2805 | 5点 | 恋の森殺人事件- 岩崎正吾 | 2024/10/07 03:02 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 田園派ミステリーとして書かれた「風よ、緑よ、故郷よ」(1988年)が好評だったのか、1989年に同じ主人公(刈谷正雄)を登場させた続編の本書が発表されました。前作でも山の描写がありましたが本書は舞台が山と言っても差し支えなく、その代わり田園派ミステリーとは言い難いように思います。野猿公園で野外観察授業中の高校生が2人銃撃されて負傷する事件が発生し、さらに第2の銃撃事件が起きます。両方の事件を目撃した正雄がアマチュア探偵として事件を捜査します。推理によって謎解きしている本格派推理小説で手掛かり伏線をしっかり用意してはいるのですが、それでもこのまさかの真相には納得できない読者が多いのではと思います。まあ怪作ですね。警察に協力しつつもかなりのマイペースを押し通して署長をいらだたせる正雄の態度も読者が共感できるかは微妙なところです。 |
No.2804 | 5点 | 冥王の花嫁- 奥田哲也 | 2024/10/02 21:06 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1998年発表の本格派推理小説とホラー小説のジャンルミックスタイプです。首を切断され、その首を腹部に埋め込まれるという猟奇的殺人が連続します。それほど描写が生々しくないのは個人的にはありがたいですが、ホラー好きの読者にとっては微妙な評価になるかもしれません。「死者たち」というタイトルの章が複数挿入され、被害者も含めた女性たちが描かれますが誰が誰だかわかりにくく、登場人物リストを作って読むことを勧めます。真相はかなりの衝撃があって印象に残りますが、終盤以外が謎解きもサスペンスもあまり盛り上がりません。 |
No.2803 | 5点 | 殺人は夕礼拝の前に- リチャード・コールズ | 2024/09/28 19:39 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 英国のリチャード・コールズ(1962年生まれ)は英国国教会の司祭でラジオパソナリティー、ミュージシャンと多方面で活躍しています。作家としても自伝やノンフィクションを発表しているようですが、初のフィクション作品が2022年発表の本格派推理小説である本書で、主人公はやはり英国国教会の司祭であるダニエル・クレメントです。舞台は1988年の英国の村で、約500年前に建てられた教会に初めてのトイレを設置したいとダニエルが訴えますが反対する村人もいて不穏な雰囲気が漂い始めます。ミステリーの出だしとしては悪くありませんが殺人事件の被害者とトイレ問題との結びつきが弱く、また家族から「礼節がすぎて、争いを恐れて遠慮しすぎ」と評価されているダニエルが探偵役としてあまり積極的でないようにも映り、謎解きプロットが間延びしているように感じました(ダニエルより家族の方がよほど個性的です)。それなりに謎解き説明されてはいますがどうやって犯人を特定したかについては推理が弱いように感じました。ひねった動機は印象的ですが時代背景に関わるところがあるので、どれだけの読者がなるほどと得心できるか微妙な気がします。 |
No.2802 | 6点 | 奈良-紀州殺人周遊ルート- 高柳芳夫 | 2024/09/23 18:53 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1988年発表の朝見大介シリーズ第2作の本格派推理小説です。プロローグでアイドル歌手がビルから墜落死し、警察は自殺と判断します。次章では背景が変わり、朝見の書いた推理小説が映画化されることになりロケに立ち会うことになりますが彼の目前で女優が胸を刺した短剣が小道具でなく本物だったという事件が起き、その後も朝見の作品を模倣したような事件が連続します。朝見作品の粗筋は第4章で紹介されますが、作品のトリックでは説明できない謎もあって事件は紛糾します。外交官出身の作者が芸能界の闇をテーマにするという試みをどう評価するかで悩みました。当時の芸能界スキャンダルを参考にしているようですが週刊誌の憶測記事と大差ないようにも感じますし、通俗色が濃いのも読者の好き嫌いは分かれそうです。謎解きはしっかりしており、トリックは小手先レベルの積み重ねですが犯人を追い詰める逆転推理はなかなかよく考えられていると思います。 |
No.2801 | 5点 | 魔術の殺人- アガサ・クリスティー | 2024/09/19 09:05 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1952年発表のミス・マープルシリーズ第5作の本格派推理小説です。英語原題は「They Do It With Mirrors」です。ミス・マープルが何度か魔術について言及してはいますけど劇的どころか非常に地味な展開の作品です。青い車さんのご講評通り、タイトルに期待するとがっかりすると思います。登場人物がやたら多く、それでいて十分に描き分けがされていないので誰が誰だかなかなか理解できませんでした。クリスティ再読さんや了然和尚さんがご講評で某国内作家の作品を連想されていますが、私はクリスティー自身の1930年代の某作品を思い起こしました。クリスティー最盛期に書かれたその作品と比べると本書は劣化コピーみたいに感じられてしまいます。 |
No.2800 | 7点 | 方舟- 夕木春央 | 2024/09/16 05:54 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 作者にとって第3長編作品となる2022年発表の本書を私は講談社文庫版(2024年)で読みましたが、「各方面から激賞を受ける」と評価されているのも納得の本格派推理小説です。フィナーレでこれほど劇的効果を上げた作品は某国内作家の(やはり第3長編の)1967年発表の本格派推理小説が匹敵するぐらいではないでしょうか。極限状況下という舞台と論理性豊かな謎解きを巧妙に組み合わせています。巻末解説を書いた有栖川有栖でなくとも色々と感想を語りたくなるような作品です。 |
No.2799 | 7点 | 死はすぐそばに- アンソニー・ホロヴィッツ | 2024/09/10 16:59 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 2024年発表のダニエル・ホーソーンシリーズ第5作の本格派推理小説です。これまでのシリーズ作品はホーソーンとワトソン役のホロヴィッツ(トニー)の探偵コンビによる(時に対立しながらも)捜査と推理を描いていましたが本書は大きく前提条件を変更しました。作中時代は2019年、ホーソーンとトニーが出会う前の殺人事件の謎解きです。トニーに代えてジョン・ダドリーという男がホーソーンの探偵パートナーです。明らかにトニーより優秀なのですが、名探偵の引き立て役としては物足りません(単なるワトソン役でない、ある重要な役割が与えられているのですが)。第八部「真相」でのホーソーンの推理説明が実に素晴らしく、様々な手掛かりを組み立てて事件を再構築する場面は謎解きのスリルに溢れています。しかしここからの捻り方が非常に独創的で、知的バトルが思わぬ決着になります。印象的な締め括りではありますがどこかすっきり感を欠いたようなところがあり、読者の評価が分かれるかもしれません。 |
No.2798 | 6点 | アリバイ崩し承ります- 大山誠一郎 | 2024/09/09 02:16 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 2018年発表の美谷時乃シリーズ第1短編集で、7作のアリバイ崩し本格派推理小説を収めています。「アリバイ崩し承ります」という貼り紙のある時計店の女性主人がアリバイを崩せずに困っている刑事から話を聞いて事件を解決するという安楽椅子探偵ものです。アリバイ崩しは難解で読みにくいという印象がありますが本書の作品はどれも読み易いです。トリックは大掛かりなものはなく、「時計屋探偵とダウンロードのアリバイ」の珍しいアリバイもトリックは結構アナログです。ちょっとした不自然な言動が手掛かりになる「時計屋探偵と死者のアリバイ」と犯人当て要素もある「時計屋探偵と山荘のアリバイ」が個人的には印象に残りましたが、犯罪のない「時計屋探偵とお祖父さんのアリバイ」のゲーム的な雰囲気も悪くありません。 |
No.2797 | 6点 | 真っ暗な夜明け- 氷川透 | 2024/09/08 13:46 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 覆面作家の氷川透のデビュー作である2000年発表の本格派推理小説です。作者名と同じ名前の主人公を使っていること、「読者への挑戦状」が挿入され、論理を重視した謎解きであることはエラリー・クイーンを連想させます。活躍時期は大変短く、2006年以降は作品を発表していません。エラリー・クイーンがバーナビー・ロス名義を使ったように別名義で活動しているかもしれませんが。論理を重視し過ぎて説明が回りくどかったり屁理屈に感じられる時もありますが全般的には読み易いです。人物描写や物語性はほとんど配慮されず、典型的なパスル・ミステリーですが最終章では人間ドラマを描いています。あらゆる可能性を丁寧に検証するあまり(直接描写でないとはいえ)エロネタやトイレネタにまで踏み込んでいるのは読者の好き嫌いが分かれそうですが。キワモノ系が有利とされる某ミステリー賞をガチ本格派の本書が受賞していたのは意外でした。 |
No.2796 | 5点 | 白薔薇殺人事件- クリスティン・ペリン | 2024/09/07 01:51 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) アメリカ出身で英国に移住した女性作家クリスティン・ペリンが2024年に発表した本格派推理小説です。英語原題は「How To Solve Your Own Murder」で、こちらの方が創元推理文庫版の日本語タイトルよりも内容に合っているとは思いますが魅力的なタイトルとは言い難いですね。約60年前に殺されると予言された大叔母のフランシスが怪死します。主人公のアナベルがこの事件を調べていくことになる一方で、予言を信じていたフランシスが殺された場合に備えて周囲の人間の言動を記録した日記を読むことになるという展開になります。児童書の書き手として活躍していた作者の初めての大人向け作品だからでしょうか、人物描写と複雑な人間関係の構築に随分と力を入れています。巻末解説での「人間模様の丁寧な描写の中に伏線を張り巡らせる」という評価はその通りであるとは思いますが重厚な人間ドラマの中に謎解きの面白さが埋没気味で、せっかく手掛かりを説明されてもそんなのどこにあったかなと微妙にすっきりできませんでした。 |
No.2795 | 4点 | 悪魔の見習い修道士- エリス・ピーターズ | 2024/09/04 23:36 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1983年発表の修道士カドフェルシリーズ第8作の本格派推理小説です。作中時代は1140年9月、荘園主の息子メリエットをシュルーズベリ修道院で見習い修道士と預かるところから物語が始まります。このメリエットが一刻も早く修道士になりたいと焦りにも似た態度を示すこと、そして就寝中にうなされてうめき声を発して周囲から恐れられるようになることが前半の謎と言えるのですが、個人的にはどうでもいい謎にしか感じられませんでした。中盤になって死体が登場してからようやくミステリーらしくなり、終盤には劇的な展開もあって人間ドラマも盛り上がりますが前半を抑えすぎですね。カドフェルも探偵役としては物足りず、証言頼りでの解決です。 |
No.2794 | 6点 | 殺人連結のささやき- 長井彬 | 2024/08/31 20:27 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1988年発表の本格派推理小説です。離婚調停中の妻が殺され、最有力容疑者の夫にはアリバイが成立します。しかしこれでアリバイ崩しには安易に走らず、ユニークな謎解きプロットが用意されています。事件前にも事件後にも事件関係者が不思議な行動をとっていてこれが探偵役を大いに悩ませ、ややもすると殺人事件のことを忘れてしまいそうです。最終章の1つ前の第9章で13の謎がまだ残っていますが、かなりの謎がなぜそんな行動をとったのかです。最終章で事件解決後に「せつないか、こわいか」についての議論がありますけど、うかつに答えると炎上しかねない議論なので結論を曖昧にしたままにしたのは正解でしょう(笑)。 |