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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2926件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.2926 5点 セント・アガサが揺れた夜- ジル・ペイトン・ウォルシュ 2026/02/03 20:30
(ネタバレなしです) 2007年発表のイモ-ジェン・クワイシリーズ第4作でシリーズ最終作となった本格派推理小説です。第3章でドロシー・L・セイヤーズの「学寮祭の夜」(1935年)が長年、痛烈に批判されていたと紹介されていたのに驚きました(第20章でも言及されています)。それを意識したのか謎解きよりも大学生活の描写の方に力を入れたような印象を受けました。これが面白いかというと個人的には微妙で、序盤で大学のフェローが学寮の塔から転落死して事故死と判断されますが殺人ではないかと疑惑が持ち上がるまでにかなりのページを費やしており、前半はミステリーらしさが希薄に感じます。特任フェロー選任を巡るごたごたとか学生の失踪とかを挿入してモジュラー型のプロットになっていることや、真相を明確に説明して決着しないのも(ほのめかしてはいますが)読者の好き嫌いが分かれそうです。イモージェンの恋愛が(ページ数は少ないですが)描かれているのも「学寮祭の夜」の影響があるかもしれません。

No.2925 5点 大臣の殺人- 梶龍雄 2026/01/30 23:09
(ネタバレなしです) 青春三部作の第2作「海を見ないで陸を見よう」(1978年)に次いで1978年に発表されました。戦中戦後を舞台にした青春三部作よりもさらに昔の1880年(明治13年)が本書の作中時代で、登場人物リストには実在の人物である黒田清隆(1840-1900)、寺島宗則(1832-1893)、樺山資紀(1837-1922)、野村文夫(1836-1891)らが載っています。警視庁の探偵である結城真吾(元旗本士族)が殺人犯の追跡を命じられ、北海道からの汽船で東京へ逃亡したと推測して船長に面会しようとしますが間一髪で船長は殺されてしまいます。その後も謎の人物が出没しては関係者が殺されていきます。最終章でさまざまな伏線を回収しながらの推理説明で真相が明らかになるところは本格派推理小説の雄である作者ならではですが、読者に謎解きを挑戦するプロットではないので個人的には本格派の手法を取り入れたスリラー小説に分類します。おっさんさんのご講評で指摘されているように、黒田清隆のスキャンダル疑惑という史実をミステリーに上手く絡ませているところは小林久三の「暗黒告知」(1974年)を連想させます。タイトルは雑な感じのネーミングですが結構な力作だと思います。

No.2924 5点 「古き沈黙」亭のさても面妖- マーサ・グライムズ 2026/01/29 18:01
(ネタバレなしです) 1989年発表のリチャード・ジュリーシリーズ第10作の本格派推理小説で、文春文庫版で600ページを越す大作です。過労のため休暇旅行中のジュリー警視がウエスト・ヨークシャーのイン(宿)の「古き沈黙」亭で妻が夫を射殺する場面を目撃するところがレジナルド・ヒルの「骨と沈黙」(1990年)をちょっと連想させます。8年前に少年が誘拐され、一緒にいた友人も同時にいなくなる事件があり、この夫婦は少年の両親でしたが警察の勧めで資産家である妻(少年の継母)が身代金の支払いを拒否して少年は戻らず未解決となっていました。ジュリーが妻を殺人に駆り立てた動機は何なのかを探ろうとするところは東野圭吾の「悪意」(1996年)や「希望の糸」(2019年)との親和性を感じる読者もいるかもしれませんが、本書では新たな事件を起こしたり終盤に派手な場面を挿入したりしているのが個性です。人間関係が複雑で真相はひねり過ぎの感もありますが、ちゃんと説明しているところはシリーズ前作の「『五つの鐘と貝殻骨』亭の奇縁」(1987年)から改善していると思います。

No.2923 5点 夕暮れ- 笹沢左保 2026/01/26 14:11
(ネタバレなしです) 1991年発表の夜明日出夫シリーズ第4作です。過去のシリーズ3作はアリバイ崩しを中心にした本格派推理小説でしたが、本書以降は作風の幅を広げました。借金を返さずに失踪した債務者を追いかける3人組のやくざが死後切断された腕を発見して殺人事件の犯人と目されてしまいます。このまま彼らを主人公にすれば典型的な巻き込まれ型サスペンス小説の展開となったかもしれませんが、夜明を絡ませることによって会話メッセージの謎解きを中心にした本格派となります。もっとも被害者の素性がわからないこと、手先を使っての依頼殺人らしいことから王道的な犯人当て本格派の楽しみはありません。犯人にたどりつく推理にはかなりの飛躍があるように感じましたし、メッセージの謎解きも夜明が「日本語は難しい」と述懐してますけど相当ひねった解釈での解決でした。

No.2922 6点 二度目の告白- レックス・スタウト 2026/01/24 21:30
(ネタバレなしです) 1949年発表のネロ・ウルフシリーズ第12作の本格派推理小説で、アーノルド・ゼック三部作の第2作でもあります。ある人物が共産主義者であることの証拠がほしいというウルフが受けた依頼は「赤狩り」が本格化しつつあった当時の米国社会ならではのもので、そこが現代読者になじめるかどうかは微妙かもしれません。また「忌まわしき悪党」(1949年)を未読のままで本書を読むとゼックに関する予備知識がないので序盤がちょっとわかりにくいと思いますが、第7章でウルフが彼との過去からの因縁を説明してくれます。殺人犯をどうやって特定したのかの推理説明が十分でないように感じますが、先の読めない展開(特にアーチー・グッドウィンがあんな目にあったりこんな目にあったりと受難が半端ない)、大胆などんでん返し、ユニークな動機となかなかの力作です。

No.2921 5点 8の殺人- 我孫子武丸 2026/01/21 02:43
(ネタバレなしです) 我孫子武丸(1962年生まれ)が1989年に発表したデビュー作のユーモア本格派推理小説です。後年にはホラー要素の濃い「殺戮にいたる病」(1992年)を発表することになるのですけど、本書の作者あとがきでは「楽しいミステリを読み続けていきたい。そして自分が読みたいものを書き続けていきたい」と書いています。トリックの謎解きにこだわっており、海外の本格派作品を引き合いに出して議論しているところは高木彬光の「能面殺人事件」(1949年)を彷彿させますが、高木作品と同じく海外作品のネタバレになってしまっているので未読の読者層にとって賛否両論でしょう。作者名や作品名を伏せるとかの工夫があればなあと思いました。解決場面の最初のはずれ推理があまりにもインパクトが大きく、そのため真相が平凡に感じられてしまうのも一長一短に感じました。余談ですが巻末には島田荘司による評論の「本格ミステリ宣言」(1989年)が付いています。本格派の冬の時代が終わったことを確信して書かれたのが伝わってきます。

No.2920 5点 死へのダイヴ- レオ・ブルース 2026/01/16 05:19
(ネタバレなしです) 1962年発表のキャロラス・ディーンシリーズ第11作の本格派推理小説です。母の昔からの友人であるゴート夫人から彼女が宿泊したゲストハウスで起きた、バルコニーからの墜落死事件のことでキャロラスは相談を受けます。そのゲストハウスでは二ヶ月前にも滞在客が死亡しており、原因は心臓病とされていましたがゴート夫人はゲストハウスに疑惑と陰謀の雰囲気を感じ取っていました。第2章から第8章まではゴート夫人の1人称で語られる日記、第9章以降はキャロラスの捜査という構成です。人物の感情描写がドライなので日記からサスペンスをあまり感じ取ることができないのが惜しいし、どちらの死亡事件も殺人なのかはっきりしない状況が長く続くため謎解きも盛り上がりを欠いていますが、その埋め合わせをするかのように終盤は大袈裟なまでに劇的な展開があります。余談ですがROM叢書版の巻末解説で本書を「ジャックは絞首台に!」(1960年)に続くシリーズ作品と紹介していますが、シリーズ第7作の「ジャックは絞首台に!」と本書の間には「怒れる老婦人」(1960年)、「骨と髭」(1960年)、「狂ったシナリオ」(1961年)があり、正しい紹介ではありません。出版順に読まなくても大丈夫なシリーズではありますが念のため。

No.2919 5点 不確定性原理殺人事件- 相村英輔 2026/01/07 22:46
(ネタバレなしです) 相村英輔(あいむらえいすけ)の1999年発表のデビュー作である本格派推理小説です。私は随分と前に入手していたのですが難解そうなタイトルにびびって読むまでには結構な年月が経ちました(笑)。作中時代は昭和40年代後半と記述されているので1970年代前半でしょうか。その名も昭和荘というアパートで起きた変死事件の謎解きで、「完璧な密室」と「完璧なアリバイ」が立ちはだかります。物語の後半になってケーヒニスベルクの七つ橋、シュレディンガーの猫、メービウスの帯などが紹介されますが事前に危惧したほど理系要素は強くありませんでした。もっともそれらが謎解きにどれほど役に立ったのかは私には理解できませんでしたけど。読者への挑戦状に相当する幕あいでは、犯人の正体も含めて5つの謎を解明せよと読者に迫ります。真相を構成する珍しい現象は1930年代の海外本格派推理小説の某作品を連想させ、そんなのは当てられないと不満を抱く読者も少なくないと思いますが。あとkanamoriさんのご講評での「もう少し華のある設定にすればいいのに、場末のアパートでは読む気が失せてしまう」には同感です。そこは早見江堂の「青薔薇荘殺人事件」(2008年)を連想しました。

No.2918 5点 恐ろしい玩具- E・S・ガードナー 2026/01/04 03:13
(ネタバレなしです) 1959年発表のペリイ・メイスンシリーズ第58作の本格派推理小説です。婚約破棄した男性から(と思われる)嫌がらせを受けた女性が男性の前妻から男性をやっつけるための証人になってほしいと協力を求められます。前妻の言動もかなり怪しい点があり、いつのまにか殺人事件に発展して女性は逮捕されます。メイスンが「市(ロサンジェルス?!)の半分は彼の持ち物」と評する財界の大物が捜査に横槍を入れ、第15章ではハミルトン・バーガー地方検事が意外な証人を用意していると自信満々ですが、いずれもメイスンにしてやられるところが面白いです。メイスンの推理が外れてしまいハミルトン・バーガーは笑いますが、何ごともなげに落ち着いているメイスンの即座の逆転推理で一気に解決です。余談ですが弾十六さんのご講評情報によると本国出版が1959年1月で、ハヤカワポケットブック版の初版もamazon情報では1959年1月となっているのであまりに超特急でびっくりしましたが、これはamazon情報が誤っていて1959年10月が正しいようです。それでもかなり早い翻訳出版ですが。

No.2917 5点 追憶の殺意- 中町信 2026/01/02 21:32
(ネタバレなしです) 「自動車教習所殺人事件」というタイトルで1980年に発表された長編第4作の本格派推理小説で、後年に「追憶の殺意」に改題されましたが個人的には旧題の方が合っていると思います。kanamoriさんのご講評で指摘されている通り、刑事たちが探偵役であることや犯人の正体が早めに見当がついてアリバイ崩しの謎解きになる展開が鮎川哲也の鬼貫警部シリーズを彷彿させているところはこの作者としては異色作だと思います。密室トリックは成立する伏線が用意されているとはいえ失敗するリスクが高そうな気もします。アリバイトリックも複雑な分結構綱渡りに感じますが、こちらはなかなかユニークなアイデアで印象的です。

No.2916 5点 アガサ・レーズンと猫泥棒- M・C・ビートン 2025/12/31 16:47
(ネタバレなしです) 1993年発表のアガサ・レーズンシリーズ第2作のコージー派の本格派推理小説です。気になる隣人ジェームズ・レイシーの気を引こうとするアガサは空回り気味で、それならと村で新たに開業した獣医に目をつけますが今度は殺人事件に巻き込まれます。押しが強い一方で相手が寄ってくるとびびって引いてしまうアガサの言動は支離滅裂で、これを楽しめるかいらっとしてしまうかで読者の評価も分かれそうです。本書でアガサと探偵コンビ役を務めることになるジェームズもまともなようでいて結構曲者でした。謎解きはビル・ウォン刑事曰く「幸運な推測」で真相が明かされ、しっかりした本格派を期待しない方がよいです。事件解決後も心の傷が癒えないアガサを村の婦人会メンバーが支えてくれたのはよかったですね。

No.2915 5点 森江春策の災難- 芦辺拓 2025/12/24 11:06
(ネタバレなしです) 冒頭の「開幕前のご挨拶」で「未収録作品のコレクション」と紹介されていますが、森江春策の登場する短編、ショート・ショート、他の名探偵との架空座談会など2003年から2020年までに新聞や雑誌に発表された13作品と書き下ろしの戯曲1作を追加して収め、「日本一地味な探偵の華麗な事件簿」というサブタイトルを付けて2022年に出版されたシリーズ第5短編集です。寄せ集め感は否めませんが、4つのPARTに分けてPARTの間には「幕間がわりのあとがき」を挿入して各作品を作者が解説紹介し、人物イラストや(戯曲には)写真も挿入するなど単行本の付加価値を付ける努力をしています。これはという傑作はないように思いますが、個人的に印象に残ったのは1990年代の某国内本格派推理小説の仕掛けを連想させる「読者よ欺かれておくれ」(2009年)と、作中時代(何十年も昔)にそんな技術的トリックが可能だったのかと驚かせる「解凍された密室」(2020年)です。横山光輝(1934-2004)のSF冒険漫画の鉄人28号が登場する「寝台特急あさかぜ殺人事件」(2012年)は「読者諸君への挑戦」を付けた本格派ですが、低温・低気圧の空を鉄人28号の手のひらに乗って飛行した人間(防護服の着用なし)が五体満足なんて設定がまかり通っている世界とはいえ、何でもあり的な真相は読者の賛否両論かも。

No.2914 7点 宙跳ぶ死体の難問- スチュアート・パーマー 2025/12/19 05:22
(ネタバレなしです) 1932年発表のミス・ウィザーズシリーズ第2作の本格派推理小説です。車で混雑するマンハッタンで1台のオープンカーがタクシーに衝突します。事故を起こした運転者は約30ヤード離れた場所に死んで横たわっていましたが、首には縄が巻かれていて首の骨が折れていました。しかも事故の瞬間には車は無人で、運転者は事故の前に座席から飛び上がり宙を舞い上がって通りに落ちたと目撃者が証言します。被害者は名家の一員で、縄がカウボーイの投げ縄のため巡業ロデオ団のメンバーも容疑者になるなど事件は複雑化します。ロデオシーンはエラリー・クイーンの「アメリカ銃の秘密」(1933年)に影響を与えたのか気になりました。トリックはよくその場でばれずにすんだものだと呆れるようなものですが、21章でミス・ウィザーズは「見た目ほど無謀でもなかった」とパイパー警部を説得しています。犯人が誰かだけでなく、ある容疑者が犯人でないところまで説明するなど充実の謎解きを楽しめました。犯人の「保険」もなかなか印象的で、某国内作家の1950年代の本格派作品を連想します。

No.2913 5点 警視庁捜査一課南平班- 鳥羽亮 2025/12/18 03:13
(ネタバレなしです) 1993年の本書はいかにも警察小説といったタイトルですが講談社ノベルス版の裏表紙には「大好評本格推理」と謳っており、著者のことばには「謎解きのおもしろさと、警察というプロの集団ぶりを描きたい」と書いてあったので本格派好きの端くれとして読んでみました。警視庁捜査1課の南部平蔵警部と5人の部下の捜査を描いています。組織捜査を好まない南部、他の5人も個性的と作中で紹介されていますが、臣さんのご講評でも指摘されているようにそれほど強力な個性は感じられず普通にチーム捜査しています。被害者の顔を潰す連続猟奇殺人の謎解きで、被害者たちの過去に若気の至りではすまないような集団犯罪の影が浮かび上がる物語は暗く重苦しいです。捜査の方向性を読者に隠さない展開なので読者が推理に参加する感覚を味わえず本格派らしさはあまりありませんが、最終章で明かされる逆転発想は鮮やかです(一応の伏線もあります)。心理描写にすぐれた作品ではありませんけど、犯行の特徴から残忍なくせに寂しさに耐えられないと分析する南部のせりふも印象的です。

No.2912 3点 未亡人クラブ- ドロシー・キャネル 2025/12/13 19:02
(ネタバレなしです) 1988年発表のエリー・ハスケルシリーズ第2作の本格派推理小説です。エリーは私立探偵の姉妹から不思議な話を聞かされます。この数年、死因が殺人と特定されないものの夫の早死にが増えていて、後家暮らしを望む妻のために夫を始末する未亡人クラブという組織があるのでその黒幕の正体を暴く手伝いをしてほしいとエリーは頼まれます。そして結婚式から夫ベンのレストランオープンに向けての準備に至るまでの新婚生活をエリーが回想していく展開になります。エリーの新婚生活への不安が必要以上に回りくどく感じられ、どたばたが繰り広げられるのですが登場人物が整理できておらず、とても読みにくかったです。しかしフィクションの物語とはいえ、小さな村社会で離婚や別居より夫の死を望む妻がそんなに多いという設定はあまりにも非現実な感がします。

No.2911 6点 時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2- 大山誠一郎 2025/12/10 22:16
(ネタバレなしです) 2022年発表の美谷時乃シリーズ第2短編集で、5作のアリバイ崩し本格派推理小説を収めています。第1短編集の「アリバイ崩し承ります」(2018年)と同じく読みやすい作品が揃っており、トリックを見破ることを最初からあきらめている私のような読者でも、ちょっとした不自然な言動をとがめての推理の鮮やかさには感心します。同時に別の場所で起こった2つの殺人事件で同じ犯人(のはず)という、山村正夫の「東京ー盛岡双影殺人」(1988年)を連想させる謎解きの「時計屋探偵と二律背反のアリバイ」と、ワトソン役の刑事が悪魔的発想に茫然とする「時計屋探偵と多すぎる証人のアリバイ」が個人的には印象に残りました。時乃の最初の事件で亡き祖父が活躍する「時計屋探偵と夏休みのアリバイ」は凶悪犯罪でないので厳罰までは求めないにしろ、あれだけ大騒ぎを起こして周囲に迷惑をかけたのに犯人の処遇が甘すぎる気もしますけど。

No.2910 5点 ゴースト・タウンの謎- フランク・グルーバー 2025/12/10 12:06
(ネタバレなしです) 1945年発表のジョニー・フレッチャー&サム・クラッグシリーズ第8作のユーモア・ハードボイルドです。ジョニーとサムの乗る車が燃料切れを起こしたのをきっかけにトラブルが連続し、いつの間にか車には他殺死体が放り込まれています。車ごと死体を捨てますが、銀鉱山の権利を巡るトラブルに巻き込まれている内に殺人事件の問題も復活してきて、ついには迷路のような坑道での冒険談とスピーディーな展開に読者は振り回されます。金欠ジョニーの金策頭脳もフル回転し、アリゾナ1番の怪力男とサムの対決がどうなるかも読ませどころです。謎解きの手掛かりは十分とは言えず本格派推理小説として評価すると高得点は与えられませんが、勢いで押し切って解決しています。

No.2909 5点 ドッペルゲンガーの殺人- 阿井渉介 2025/12/09 23:30
(ネタバレなしです) 1988年から1993年にかけて発表された全10作の列車シリーズに続いて書かれたのが「まだらの蛇の殺人」(1994年)に始まる警視庁捜査一課事件簿シリーズですが、シリーズ第6作である本書まで全部が1994年に一気呵成に発表されており、その創作力には頭が下がります。本書は章子(あきこ)に語りかける晶子(しょうこ)というスタイルで書かれた日記及びモノローグと、連続猟奇的殺人事件の捜査が交互に描かれる構成の本格派推理小説です。日記及びモノローグを通じてこの書き手が二重人格の殺人犯ではと思わせる叙述があり、一方で捜査担当の堀刑事は婚約者の父親である菱谷刑事のスキャンダル疑惑に悩まされ、婚約破棄の危機を迎えます。犯人当てとしては読者が推理する余地がなく、解決も唐突で謎解きとしては説明不足の感があります。どちらかと言えばトリックに定評ある作者ですが本書では特筆すべきトリックもありません。本書がシリーズ最終作となりましたが特に演出面の工夫もなく、作者の創作意欲が急に失われてしまったのではと心配になりました。

No.2908 6点 事件現場をドールハウスに- ケイティ・ティージェン 2025/12/08 07:50
(ネタバレなしです) 米国の女性作家ケイティ・ティージェンのデビュー作となる2024年発表のメープル・ビショップシリーズ第1作です。コージー派の本格派推理小説ですがユーモアは控えめです。作中舞台は1946年の田舎町エルダーベリーで、戦争未亡人となったメープルの不幸な境遇が序盤から卓抜な筆で描写され、読者は物語に引き込まれるでしょう。メープルは弁護士資格を持つほどの才媛ですが女性ではそれも就職に役立たず、まっすぐな性格と率直過ぎる物言いでしばしば人と対立してしまいます。しかしメープルには写真のような記憶力とドールハウス製作技術という才能もあり、これを活かして保安官と対立しながらも怪死事件の謎解きに挑みます。いくつかの伏線を張ってはいますが読者が自力で推理するには十分とは思えず、かなり飛躍した推理と自白に頼って解決していますが長めの後日談を用意するなど物語性を重視している作品です。作者の謝辞と巻末解説でメープルには実在のモデルがいたことが語られているのも興味深いです。

No.2907 7点 水族館の殺人- 青崎有吾 2025/12/03 20:54
(ネタバレなしです) 2013年発表の裏染天馬シリーズ第2作の本格派推理小説で、私は創元推理文庫版で読みましたがEーBANKERさんのご講評によると初版にはなかった「読者への挑戦」が追加されたようです。容疑者が11人で全員にアリバイがあるということでアガサ・クリスティーの「オリエント急行の殺人」(1934年)のように事情聴取が延々と続くのかと心配しましたが、幸いにしてアリバイ確認は意外と早く終わります。それでも現場遺留品から細かく推理していく過程は重箱の隅をつつく感があってスリルに富んでいるとは言えませんが、ユーモアを交えた会話で読者を退屈させない工夫をしています。そして「読者への挑戦」の後の解決編での論理的推理の積み重ねによって11人の容疑者を1人の犯人に絞り込んでいく展開はまさに謎解きのスリルに満ち溢れています。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー、D・M・ディヴ...
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2926件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(84)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(43)
F・W・クロフツ(33)
レックス・スタウト(29)
A・A・フェア(28)
ローラ・チャイルズ(26)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)