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nukkamさん
平均点: 5.45点 書評数: 2737件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.2737 6点 魔剣天翔- 森博嗣 2024/02/21 13:05
(ネタバレなしです) 山田風太郎の「魔界転生」(1967年)を意識したようなタイトルの本書は2000年発表のVシリーズ第5作の本格派推理小説で、しかも珍しい航空ミステリーです。私の読んだ講談社文庫版の裏表紙で「アクロバット飛行中の二人乗り航空機。高空に浮かぶその完全密室で起こった殺人」と粗筋紹介されていたのでフライト・ショーが始まると事件が起きるのは今か今かとわくわくしながら読めたのですが、もしも予備知識なしで読んでいたら前半の展開は少し退屈だったかと思います。探偵役の瀬在丸紅子の登場場面が非常に少なく、捜査関係者から事件概要を説明してもらうと解決まではあっという間です。紅子が「これが正しいと主張するつもりは私にはありません。(中略)この形なら辻褄が合う、というだけのことです」と述べているように、それほど論理的に構築された推理説明ではありませんが説得力は十分だと思います。

No.2736 5点 魔法の小箱- R・オースティン・フリーマン 2024/02/20 08:05
(ネタバレなしです) 1922年から1927年にかけて雑誌発表された短編9作を収めて1927年に単行本化されたソーンダイク博士シリーズ第5短編集です。国内では「ソーンダイク博士短編全集第3巻 パズル・ロック」(国書刊行会)で読むことができます。R・オースティン・フリーマン(1862-1943)は晩年の1940年代前半までシリーズの執筆を続けましたがシリーズ短編は本書で打ち止めとなり、本格派推理小説の黄金時代に短編作品に替わって長編作品が主流になった証拠の一つと評価されています。第4短編集の「パズル・ロック」(1925年)に比べると地味な作品が多く、トリック重視の作品もアイデアに新鮮味を感じません。ミスリードが光る「ポンティング氏のアリバイ」(1927年)とソーンダイクの論理的推理が光る「パンドラの箱」(1922年)がまあまあの出来栄えに感じました。

No.2735 6点 死の轆轤- 長井彬 2024/02/17 15:42
(ネタバレなしです) 「瀬戸の陶芸殺人事件」というサブタイトルを持つ1984年発表の本格派推理小説です。轆轤が重要な役割を果たすわけではないのでサブタイトルの方が内容に合っているように思います。密室内での毒死に加えて容疑者たちは揃って犯行時刻にアリバイがあるという難事件が起こります。犯人の意外性で勝負した作品ではありませんが代わりにトリックの謎解きが充実しています。特に毒殺トリックはなかなかユニークです。添え物的に思えるエピソードやアイテムが後になって伏線として活きてくるところが大変巧妙です。犯人が最後まで隠そうとした、動機に絡む秘密もインパクトがあります。

No.2734 5点 サイモン・アークの事件簿〈Ⅴ〉- エドワード・D・ホック 2024/02/16 17:29
(ネタバレなしです) ホック自身が日本読者のためにセレクトした全3巻26作、そして国内編者がセレクトした全2巻16作の最後を飾る本書でサイモン・アークシリーズの事件簿(創元推理文庫版)が終了しました。サム・ホーソーン医師シリーズや怪盗ニックシリーズは全作品が読めるのに全61作書かれたサイモン・ホークシリーズは約2/3の翻訳出版に留まり、いやこれもよく集めたと評価すべきなんでしょうけどわがままな私は心残りを否定できません。本書は「闇の塔からの叫び」(1959年)から「怖がらせの鈴」(2001年)までの8作の本格派推理小説が収めれています。100ページ近くの中編「炙り殺された男の復讐」(1960年)は焼き殺されたはずの男が次々と悪意のタブレット新聞を発行するという風変わりな謎、後半には警察監視下での消失事件という謎まで追加されて読ませます。消失トリックは小手先系ながら巧さを感じさせますが、ちゃんと探せば発見できたはずなのに見つけられない警察捜査のお粗末さは気になります。焼死事件についての推理説明も十分ではありません。エジプトを舞台にした「魔術師の日」(1963年)(「サイモン・アークの事件簿Ⅰ」で読めます)から実に9年近い空白を経て発表された「シェイクスピアの直筆原稿」(1972年)は冒頭でサイモンのエジプトからの帰還が紹介されていてちゃんと続編作品になっています。巻末解説の評価通りオカルト要素が全くない作品で、謎も魅力的でなく印象に残りません。個人的に印象に残ったのは砂漠でノアの箱船のようなものを作る男とゴルフ場の爆弾殺人という異質な組み合わせの「砂漠で洪水を待つ箱船」(1984年)、シリーズ作品らしいオカルト要素が十分にあり謎解きもしっかりしている「怖がらせの鈴」です。

No.2733 6点 心臓と左手 座間味くんの推理- 石持浅海 2024/02/14 07:50
(ネタバレなしです) 「月の扉」(2003年)で印象的な活躍をした座間味くん(本名は最後まで明かされなかったかな)を作者が気に入ったのか、2007年に彼を再登場させた短編7作を収めた短編集が出版されました。短編であっても過激派組織、テロリストグループ、新興宗教団体、環境保護団体、反戦団体などが関わる作者得意の特殊設定を背景にした本格派推理小説が多いです。一応の決着をみせた事件を大迫警部が語り、座間味くんが隠れた秘密を明かすパターンの作品が多く、その着眼点はG・K・チェスタトンのブラウン神父シリーズの逆説を時に連想させます。真犯人が別にいたというどんでん返しでなくても十分に読者を驚かせるアイデアを楽しめました。気づきにくい不自然さを見破る推理が鮮やかな「貧者の軍隊」、猟奇的な事件とドライなたくらみの対比が鮮やかな「心臓と左手」、ちょっとリドル・ストーリー風に着地する「水際で防ぐ」が個人的に印象に残ります。「月の扉」の後日談的な「再会」は推理もありますが人情談を狙った異色の作品です。強引に納得させてはいますがすっきり感ある解決とは言えないような気もしますが。

No.2732 5点 公爵さま、それは誤解です- リン・メッシーナ 2024/02/12 23:57
(ネタバレなしです) 2018年発表のベアトリス・シンクレアシリーズ第3作のコージー派ミステリーです。ケスグレイブ公爵に夢中になり過ぎないようにと自身を戒めるベアトリスが代わりに情熱をささげようとするのが未解決の殺人事件の謎解きで、好都合にも調査依頼が舞い込む展開になります。謎解きよりもケスグレイブ公爵との関係のぎくしゃくぶりの方に力が入ったような作品で、これはこれで面白いです。特に過去のシリーズ作品を読んだ読者ならなおさらでしょう(読んでいない読者へも過去の経緯が簡潔に紹介されています)。そのためか謎解きはかなり粗くなって強引に犯人にたどり着いており、最後は犯人そっちのけで2人のプライヴェート面の会話が白熱するというおかしな場面が用意されています。

No.2731 4点 吉野隠国殺人事件- 草野唯雄 2024/02/12 23:01
(ネタタレなしです) 1991年発表の尾高一幸シリーズ第10作の本格派推理小説です。「越後恋歌殺人譜」(1986年)で殺人容疑を晴らした女性の娘である渥美純子と尾高が再開します。彼女は当時の約束通り学校を卒業したので尾高の事務所で助手として働くことになります。すると純子の学生時代の親友である美紀が絡んできた酔っ払いの男を振り払って男が手すりから落ちてしまうという事件が起きます。事故死かと思われますが美紀に殺人の動機があったことが判明して純子の依頼で尾高が事件を調べる展開となります。犯人はまずこの人しかいないという状況になりますが、それにしても第3章で早々と尾高が犯人を特定した理由が説明不十分です。犯行計画の方も突っ込みどころ満載です。

No.2730 6点 北氷洋逃避行- ジョルジュ・シムノン 2024/02/10 23:45
(ネタバレなしです) ベルギー出身でフランスで活躍したジョルジュ・シムノン(1903-1989)といえば長編短編合わせて400作近い作品を残したと言われる多作家で、何といってもメグレ警視シリーズで世界的に有名です。純文学作品も書いており、ミステリーであっても謎解きをそれほど重視していない作品も少なくないようです。1932年発表の初期作品である本書はフランス語の原書版を読まれた空さんのご講評によるとシムノンにしては謎解きがしっかりしている作品と紹介されています。私はメグレ警視シリーズの「運河の秘密」(「メグレと運河の殺人」)(1930年)と一緒に収められている京北書房版(1952年)で読みましたがさすがに古い翻訳で、舞台となる貨客船は「ポラレステルン號」と表記されています。しかしそれでも非常に読み易い作品です。ドイツのハンブルグからノルウエーのキルケネスへ向かう船上で乗客の失踪、殺人、盗難と事件が相次ぎ、観察者役であるベーテルゼン船長の混乱ぶりがよく描けています。探偵役による推理説明は粗さを感じさせるものの、ちょっとしたトリックもあって確かに本格派推理小説だと思います。

No.2729 5点 オリンピック殺人事件- 南里征典 2024/02/10 22:58
(ネタバレなしです) 南里征典(なんりせいてん)(1939-2008)は新聞記者出身の作家で300冊近い作品を残した多作家です。官能サスペンス系が多いようですが、人並由真さんのご講評で1982年発表の本書は本格派推理小説と紹介されているので読んでみました。作中時代は1964年、東京オリンピックの開会式の日に警視庁へ殺人予告の電話がかかります。予告通りに殺人事件が起き、しかも密室殺人です。鍵のトリックぐらい何とでも考えられると警察は甘く見ますが捜査が進めにつれ不可能性は強固になり、ようやく重要容疑者を絞り込むと今度はアリバイの壁が立ちはだかります。鮎川哲也の鬼貫警部シリーズもかくやといわんばかりの丁寧なアリバイ崩し、さらには太平洋戦争末期の捕虜生活の物語へと意外な展開で読ませます。密室トリックは使われた小道具こそ違うものの本書と同年に発表された某作家の某有名作をどこか連想させますね。殺人予告にもちゃんと目的があるのですが、これはいくらなんでも幸運を当て込み過ぎではという気がします。

No.2728 6点 幕が下りて- ナイオ・マーシュ 2024/02/10 03:01
(ネタバレなしです) 1947年発表のロデリック・アレンシリーズ第14作の本格派推理小説で英語原題は「Final Curtain」、ちょっと紛らわしいタイトルですがマイケル・イネスの「アプルビイズ・エンド」(1945年)と同様シリーズ最終作ではありません。このシリーズは1980年代まで書き続けられました。風詠社版で「ナイオ・マーシュのベストとの呼び声も高い傑作」と絶賛していますが、確かに色々な要素を織り込んだ力作だと思います。前半はアレン警部の妻で画家のトロイを主人公に配して、肖像画を依頼した准男爵とその一族の間で繰り広げられるややこしい家族ドラマ、そして悪ふざけのようないたずらの数々に巻き込みます。そこはマイケル・イネスの「ストップ・プレス」(1939年)やニコラス・ブレイクの「ワンダーランドの悪意」(1940年)に触発されたのかもしれません。怪死事件が起きていよいよニュージーランド(何と3年7ヶ月も本国を離れていたようです)から帰国したアレン警部の出番です。犯人当てだけでなく犯行手段、アリバイ、動機など様々な角度で推理し、謎解き伏線も豊富です。しかし回りくどい描写表現のため盛り上がれる場面で盛り上がりを逸してしまうのが玉に瑕に感じました。推理説明ももう少し整理してほしく、わかった気にはなるのですがどこか微妙にすっきりできませんでした。

No.2727 6点 衣更月家の一族- 深木章子 2024/02/05 23:34
(ネタバレなしです) 2012年発表の榊原聡シリーズ第2作で、非常に構成に凝った本格派推理小説です。プロローグで衣更月(きさらぎ)家の末裔の男が心中事件で死んだことが紹介されますが、その後は「廣田家の殺人」、「楠原家の殺人」、「鷹尾家の殺人」と衣更月家とは関係なさそうな短編ミステリー風な物語が続きます。最も短編らしくまとまっているのは警察小説風な「廣田家の殺人」ですが、プロットが最も個性的なのは「楠原家の殺人」です。前半は犯罪小説風、後半に榊原聡が登場するとようやく本格派推理小説風になります。こちらは解決には至らず、新たな事件を予感させるような締めくくりです。「鷹尾家の殺人」もプロットはユニークで、犯罪小説と巻き込まれ型サスペンスのジャンルミックス風です。そしてタイトルに使われている「衣更月家の一族」ではいきなりのどんでん返しで読者を驚かせ、榊原の怒涛の推理の連打で次々に複雑な秘密が明らかになる、まさに本格派推理小説ならではの着地を見せます。解くべき謎は何かを堂々と読者に挑戦しているタイプでないため、自力で解決したい読者に受けるかは微妙なところですが細かいところまでよく考えられています。

No.2726 5点 灯台- P・D・ジェイムズ 2024/02/01 06:00
(ネタバレなしです) 2005年発表のアダム・ダルグリッシュシリーズ第14作(コーデリア・グレイが実質の主人公である「女には向かない職業」(1972年)もシリーズにカウント)の本格派推理小説です。ハヤカワポケットブック版の巻末解説で「殺人展示室」(2003年)あたりから構成がシンプルになってきたと評価されていますが、確かに1970年代から1990年代にかけてのシリーズ作品と比べると重苦しさや密度の濃さが緩和されていい意味で力が抜けたように思います。それでもすらすら読める作品ではなく、物語のテンポが遅くて第四部に至るまでじりじりさせられます。その第四部でダルグリッシュが捜査を離れてケイト・ミスキン警部とベントンースミス部長刑事の2人で事件を解決しなくてはならなくなる意外な展開に驚かされ(ルース・レンデルの「惨劇のヴェール」(1981年)をちょっと連想しました)、何と登山シーンまであります(捜査に必要となる登山です)。第四部の9章で推理で犯人を特定しているところは本格派ならではですが、あまり論理的に説明されておらず説得力は微妙です。明るい将来を期待させるような幕切れはこの作者としては異色です。

No.2725 5点 鬼蟻村マジック- 二階堂黎人 2024/01/25 22:13
(ネタバレなしです) 2008年発表の水乃サトルシリーズ第7作(社会人編としては第4作)の本格派推理小説です。第二章で「まるで宮野叢子の『鯉沼家の悲劇』(1949年)や横溝正史の『犬神家の一族』(1950年)みたいじゃないですか」とサトルに語らせているように、鬼神様の血が流れていると噂される上鬼頭家の険悪な人間関係とその中で繰り広げられる悲劇を描いています。どちらかと言えば二階堂蘭子シリーズ向きのテーマに思えますがあえてミスマッチを狙ったのかもしれません。もっとも本書のサトルはいつものマイペースぶりが影を潜め、謎解きに苦戦して悩む姿が目立っていて十分に個性を発揮しているとは言えないように感じました。70年前の事件の真相はアイデアは面白いものの、あの不自然なトリックは普通一目でばれてしまうのでは。衣装部屋の消失トリックはまずまず。しかし最後の事件の真相ははっきり言って脱力レベルだと思います。

No.2724 4点 殺人は展示する- マーティ・ウィンゲイト 2024/01/22 22:41
(ネタバレなしです) 2020年発表の初版本図書館の事件簿シリーズ第2作です。英語原題は「Murder Is a Must」で、ドロシー・L・セイヤーズの「殺人は広告する」(「Murder Must Advertise」)(1933年)をモチーフにしています。殺人事件の謎解きもありますが、主人公のヘイリー・バークが抱える問題はそれだけではありません。展覧会の企画、セイヤーズの稀覯本探し、恋人ヴァルの双子の娘たちとの出会いなどがそれぞれ丁寧に描かれており、そういうのに興味を抱ける読者ならいいのですけどミステリーへの期待の高い読者だと無駄の多い作品と感じてしまうかもしれません。終盤はそれなりにサスペンスが盛り上がりますが、好都合な目撃者の登場で犯人がわかって解決しただけにしか感じられませんでした。第22章で「怪しい人物には全員、鉄壁のアリバイがある」とか言ってたのは一体何だったんでしょう?本当に鉄壁だったのか最初から穴だらけだったのかもよくわかりません。一応は本格派推理小説の体裁をとってはいますが推理説明が不十分です。

No.2723 5点 生存する幽霊- 笹沢左保 2024/01/16 23:56
(ネタバレなしです) 1999年から2000年にかけて雑誌連載されて2000年に単行本化された夜明日出夫シリーズ第7作となる本格派推理小説です。本書での夜明は39歳、「昼下がり」(1991年)で登場した母親と死別し実家を処分してマンションで1人暮らししています。同じマンションに住む女性といい関係に発展する可能性が示唆されていますが、笹沢左保(1930-2002)の死去で本書がシリーズ最終作となってしまいました。群馬の温泉地まで老夫婦を送ることになった夜明はタクシー道中で孫娘の志くらが買ったばかりの新車に奇妙ないたずらされたことを聞かされ、その翌日志くらが殺されたことを知ることになります。元刑事である夜明を慕う2人の若手刑事の捜査に協力することになって、捜査の前面に立たないようにしつつもタイプの異なる刑事たちに公平な立場であることを気配りながらアドバイスを与えていく場面が読ませどころです。犯人にたどりつく捜査と推理よりも、逮捕後に明かされる秘密とタイトルの意味の方が印象に残った作品です。

No.2722 5点 受験生は謎解きに向かない- ホリー・ジャクソン 2024/01/14 20:41
(ネタバレなしです) ピップ三部作の最終作である「卒業生には向かない真実」(2021年)の創元推理文庫版の巻末解説でピップの初めての事件を描いた中編作品があることが紹介されていましたが、まさかそれが単行本で読めるようになったのは驚きです。創元推理文庫版で150ページ少々の薄い作品で、三部作に続いて2021年に発表されていますが作中時代は「自由研究には向かない殺人」(2019年)の少し前の設定です。主要登場人物はピップとその友人たち7人で構成されており、三部作で激変する前の安定した人間関係が描かれています。但しページ数量が限られているので三部作のような濃厚な心理描写はなく、謎解きのみに集中したプロットです。レノルズ家にみんなで集まって犯人当てゲームをするという展開で、横溝正史の「呪いの塔」(1932年)やアガサ・クリスティーの「死者のあやまち」(1956年)のようにゲームの最中に本当の事件が起きてしまうというようなことはありません。第11章で(犯人役も含めた)全員が誰が犯人かの推理を発表するという本格派推理小説ならではのクライマックスが用意されているのですが、登場人物間で「そんなのズルいよ」「たんなるゲームなんだから」と意見が分かれていますけど、これは本書を読んだ読者の間でも同様の賛否両論になりそうな結末ですね。作者は謎解きの完成度より「自由研究に向かない殺人」へつながる物語を書くことを大事と考えていたように思います。

No.2721 5点 ホメロスの殺人方程式- 小峰元 2024/01/11 23:16
(ネタバレなしです) 1987年発表の本書は小峰元(1921-1994)の最後の長編作品となったユーモア本格派推理小説です(但し本書以降も短編作品はいくつか書かれていた模様です)。マンションの自室で見知らぬ男の死体を発見する羽目になった大学生の主人公が仲間たちと事件を調べていくという青春ミステリーです。中盤に結構衝撃的な出来事が起きるのですが、飄々とした雰囲気は全く変わりません。軽妙で読みやすい作風ながら最終章で方程式を駆使しながら明かされた真相は非常に複雑で難解、そして事件の決着のつけ方という点では(家庭教師の件も含めて)不満を抱く読者もいるかもしれません。

No.2720 5点 レイヴンズ・スカー山の死- アルバート・ハーディング 2024/01/09 07:08
(ネタバレなしです) 素性が全く知られていない英国のアルバート・ハーディングが1953年に発表した唯一の作品は、グリン・カーを彷彿させる山岳本格派推理小説でした。引退した61歳の元保険会社社員が放浪の旅の途中で山での不審死事件に巻き込まれるプロットです。面白そうなトリックが使われているのですがそのトリック効果が上手く表現されていないのが惜しいところです(あまり目立つと謎解きが見え透いてしまうリスクもあるのですが)。誰が犯人かをどのようにして推理したのかの説明が省略されているのも残念です。ミスリーディングの手法は賛否両論かも。控え目ですが背景描写に優れており、当時としても古典的であろうロマンス描写も印象的です。

No.2719 5点 陰摩羅鬼の瑕- 京極夏彦 2024/01/07 04:02
(ネタバレなしです) 2003年発表の百鬼夜行シリーズ第7作です。「宴の支度編」と「宴の始末編」合わせて講談社文庫版で2000ページに達する巨大作の「塗仏の宴」(1998年)に続く作品で、多くのシリーズファン読者が待ちに待ったと思いますが果たして期待に応えた作品だったでしょうか?文庫版で1200ページ近い大作なのはこのシリーズらしいですが、これまでの作品に比べて登場人物は少なくシンプルな展開の本格派推理小説だと思います。それでいて「塗仏の宴」には及ばないもののこれだけ長大な作品になったのはワトソン役の関口の対人恐怖症と失語症が実にしつこく描写されるからでしょう。症状が悪化したのは「塗仏の宴」での体験で「壊れた」からと説明されており、あれを読んだ立場から評価するとごもっともと納得はできるのですがそれにしてもくどい、くどすぎます。舞台が洋館のためかこのシリーズの特色である妖怪要素が弱く、京極堂による憑物落としも強引に挿入されたように感じました。「鉄鼠の檻」(1996年)が宗教的なら本書は哲学的、巻末解説を哲学者が書いています。

No.2718 6点 ストリップ・ガールの馬- E・S・ガードナー 2024/01/06 16:23
(ネタバレなしです) 1947年発表のペリイ・メイスンシリーズ第29作で、英語原題は「The Case of the Fan-Dancer's Horse」です。ハヤカワポケットブック版で扇ダンサーがストリッパーであることが補足説明されているので日本語タイトルは間違っていないしストリップ場面もありますが、エログロ演出に関心の低い作者ですのでお色気に期待してはいけません。砂漠地帯をドライブしていたメイスンが交通事故を目撃します。事故車の中から一対の扇と一足のダンス靴を発見したメイスンは拾得物の広告を掲載しますが、扇ダンサーと思われる人物から私の馬ですとの意外な連絡が届くプロットです。同じ名前を使っている2人のダンサーを登場させて謎を深めたり、第10章では時間表を駆使して殺人現場に出入りした容疑者たちの動向をチェックしたりと本格派推理小説として充実した作品です。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.45点   採点数: 2737件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(78)
アガサ・クリスティー(55)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(41)
F・W・クロフツ(30)
A・A・フェア(27)
レックス・スタウト(25)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)
ローラ・チャイルズ(23)