皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
|
---|---|
平均点: 5.44点 | 書評数: 2804件 |
No.2804 | 5点 | 冥王の花嫁- 奥田哲也 | 2024/10/02 21:06 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1998年発表の本格派推理小説とホラー小説のジャンルミックスタイプです。首を切断され、その首を腹部に埋め込まれるという猟奇的殺人が連続します。それほど描写が生々しくないのは個人的にはありがたいですが、ホラー好きの読者にとっては微妙な評価になるかもしれません。「死者たち」というタイトルの章が複数挿入され、被害者も含めた女性たちが描かれますが誰が誰だかわかりにくく、登場人物リストを作って読むことを勧めます。真相はかなりの衝撃があって印象に残りますが、終盤以外が謎解きもサスペンスもあまり盛り上がりません。 |
No.2803 | 5点 | 殺人は夕礼拝の前に- リチャード・コールズ | 2024/09/28 19:39 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 英国のリチャード・コールズ(1962年生まれ)は英国国教会の司祭でラジオパソナリティーでミュージシャンと多面的に活躍しています。作家としても自伝やノンフィクションを発表しているようですが、初のフィクション作品が2022年発表の本格派推理小説である本書で、主人公はやはり英国国教会の司祭であるダニエル・クレメントです。舞台は1988年の英国の村で、約500年前に建てられた教会に初めてのトイレを設置したいとダニエルが訴えますが反対する村人もいて不穏な雰囲気が漂い始めます。ミステリーの出だしとしては悪くありませんが殺人事件の被害者とトイレ問題との結びつきが弱く、また家族から「礼節がすぎて、争いを恐れて遠慮しすぎ」と評価されているダニエルが探偵役としてあまり積極的でないようにも映り、謎解きプロットが間延びしているように感じました(ダニエルより家族の方がよほど個性的です)。それなりに謎解き説明されてはいますがどうやって犯人を特定したかについては推理が弱いように感じました。ひねった動機は印象的ですが時代背景に関わるところがあるので、どれだけの読者がなるほどと得心できるか微妙な気がします。 |
No.2802 | 6点 | 奈良-紀州殺人周遊ルート- 高柳芳夫 | 2024/09/23 18:53 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1988年発表の朝見大介シリーズ第2作の本格派推理小説です。プロローグでアイドル歌手がビルから墜落死し、警察は自殺と判断します。次章では背景が変わり、朝見の書いた推理小説が映画化されることになりロケに立ち会うことになりますが彼の目前で女優が胸を刺した短剣が小道具でなく本物だったという事件が起き、その後も朝見の作品を模倣したような事件が連続します。朝見作品の粗筋は第4章で紹介されますが、作品のトリックでは説明できない謎もあって事件は紛糾します。外交官出身の作者が芸能界の闇をテーマにするという試みをどう評価するかで悩みました。当時の芸能界スキャンダルを参考にしているようですが週刊誌の憶測記事と大差ないようにも感じますし、通俗色が濃いのも読者の好き嫌いは分かれそうです。謎解きはしっかりしており、トリックは小手先レベルの積み重ねですが犯人を追い詰める逆転推理はなかなかよく考えられていると思います。 |
No.2801 | 5点 | 魔術の殺人- アガサ・クリスティー | 2024/09/19 09:05 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1952年発表のミス・マープルシリーズ第5作の本格派推理小説です。英語原題は「They Do It With Mirrors」です。ミス・マープルが何度か魔術について言及してはいますけど劇的どころか非常に地味な展開の作品です。青い車さんのご講評通り、タイトルに期待するとがっかりすると思います。登場人物がやたら多く、それでいて十分に描き分けがされていないので誰が誰だかなかなか理解できませんでした。クリスティ再読さんや了然和尚さんがご講評で某国内作家の作品を連想されていますが、私はクリスティー自身の1930年代の某作品を思い起こしました。クリスティー最盛期に書かれたその作品と比べると本書は劣化コピーみたいに感じられてしまいます。 |
No.2800 | 7点 | 方舟- 夕木春央 | 2024/09/16 05:54 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 作者にとって第3長編作品となる2022年発表の本書を私は講談社文庫版(2024年)で読みましたが、「各方面から激賞を受ける」と評価されているのも納得の本格派推理小説です。フィナーレでこれほど劇的効果を上げた作品は某国内作家の(やはり第3長編の)1967年発表の本格派推理小説が匹敵するぐらいではないでしょうか。極限状況下という舞台と論理性豊かな謎解きを巧妙に組み合わせています。巻末解説を書いた有栖川有栖でなくとも色々と感想を語りたくなるような作品です。 |
No.2799 | 7点 | 死はすぐそばに- アンソニー・ホロヴィッツ | 2024/09/10 16:59 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 2024年発表のダニエル・ホーソーンシリーズ第5作の本格派推理小説です。これまでのシリーズ作品はホーソーンとワトソン役のホロヴィッツ(トニー)の探偵コンビによる(時に対立しながらも)捜査と推理を描いていましたが本書は大きく前提条件を変更しました。作中時代は2019年、ホーソーンとトニーが出会う前の殺人事件の謎解きです。トニーに代えてジョン・ダドリーという男がホーソーンの探偵パートナーです。明らかにトニーより優秀なのですが、名探偵の引き立て役としては物足りません(単なるワトソン役でない、ある重要な役割が与えられているのですが)。第八部「真相」でのホーソーンの推理説明が実に素晴らしく、様々な手掛かりを組み立てて事件を再構築する場面は謎解きのスリルに溢れています。しかしここからの捻り方が非常に独創的で、知的バトルが思わぬ決着になります。印象的な締め括りではありますがどこかすっきり感を欠いたようなところがあり、読者の評価が分かれるかもしれません。 |
No.2798 | 6点 | アリバイ崩し承ります- 大山誠一郎 | 2024/09/09 02:16 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 2018年発表の美谷時乃シリーズ第1短編集で、7作のアリバイ崩し本格派推理小説を収めています。「アリバイ崩し承ります」という貼り紙のある時計店の女性主人がアリバイを崩せずに困っている刑事から話を聞いて事件を解決するという安楽椅子探偵ものです。アリバイ崩しは難解で読みにくいという印象がありますが本書の作品はどれも読み易いです。トリックは大掛かりなものはなく、「時計屋探偵とダウンロードのアリバイ」の珍しいアリバイもトリックは結構アナログです。ちょっとした不自然な言動が手掛かりになる「時計屋探偵と死者のアリバイ」と犯人当て要素もある「時計屋探偵と山荘のアリバイ」が個人的には印象に残りましたが、犯罪のない「時計屋探偵とお祖父さんのアリバイ」のゲーム的な雰囲気も悪くありません。 |
No.2797 | 6点 | 真っ暗な夜明け- 氷川透 | 2024/09/08 13:46 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 覆面作家の氷川透のデビュー作である2000年発表の本格派推理小説です。作者名と同じ名前の主人公を使っていること、「読者への挑戦状」が挿入され、論理を重視した謎解きであることはエラリー・クイーンを連想させます。活躍時期は大変短く、2006年以降は作品を発表していません。エラリー・クイーンがバーナビー・ロス名義を使ったように別名義で活動しているかもしれませんが。論理を重視し過ぎて説明が回りくどかったり屁理屈に感じられる時もありますが全般的には読み易いです。人物描写や物語性はほとんど配慮されず、典型的なパスル・ミステリーですが最終章では人間ドラマを描いています。あらゆる可能性を丁寧に検証するあまり(直接描写でないとはいえ)エロネタやトイレネタにまで踏み込んでいるのは読者の好き嫌いが分かれそうです。キワモノ系が有利とされる某ミステリー賞をガチ本格派の本書が受賞していたのは意外でした。 |
No.2796 | 5点 | 白薔薇殺人事件- クリスティン・ペリン | 2024/09/07 01:51 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) アメリカ出身で英国に移住した女性作家クリスティン・ペリンが2024年に発表した本格派推理小説です。英語原題は「How To Solve Your Own Murder」で、こちらの方が創元推理文庫版の日本語タイトルよりも内容に合っているとは思いますが魅力的なタイトルとは言い難いですね。約60年前に殺されると予言された大叔母のフランシスが怪死します。主人公のアナベルがこの事件を調べていくことになる一方で、予言を信じていたフランシスが殺された場合に備えて周囲の人間の言動を記録した日記を読むことになるという展開になります。児童書の書き手として活躍していた作者の初めての大人向け作品だからでしょうか、人物描写と複雑な人間関係の構築に随分と力を入れています。巻末解説での「人間模様の丁寧な描写の中に伏線を張り巡らせる」という評価はその通りであるとは思いますが重厚な人間ドラマの中に謎解きの面白さが埋没気味で、せっかく手掛かりを説明されてもそんなのどこにあったかなと微妙にすっきりできませんでした。 |
No.2795 | 4点 | 悪魔の見習い修道士- エリス・ピーターズ | 2024/09/04 23:36 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1983年発表の修道士カドフェルシリーズ第8作の本格派推理小説です。作中時代は1140年9月、荘園主の息子メリエットをシュルーズベリ修道院で見習い修道士と預かるところから物語が始まります。このメリエットが一刻も早く修道士になりたいと焦りにも似た態度を示すこと、そして就寝中にうなされてうめき声を発して周囲から恐れられるようになることが前半の謎と言えるのですが、個人的にはどうでもいい謎にしか感じられませんでした。中盤になって死体が登場してからようやくミステリーらしくなり、終盤には劇的な展開もあって人間ドラマも盛り上がりますが前半を抑えすぎですね。カドフェルも探偵役としては物足りず、証言頼りでの解決です。 |
No.2794 | 6点 | 殺人連結のささやき- 長井彬 | 2024/08/31 20:27 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1988年発表の本格派推理小説です。離婚調停中の妻が殺され、最有力容疑者の夫にはアリバイが成立します。しかしこれでアリバイ崩しには安易に走らず、ユニークな謎解きプロットが用意されています。事件前にも事件後にも事件関係者が不思議な行動をとっていてこれが探偵役を大いに悩ませ、ややもすると殺人事件のことを忘れてしまいそうです。最終章の1つ前の第9章で13の謎がまだ残っていますが、かなりの謎がなぜそんな行動をとったのかです。最終章で事件解決後に「せつないか、こわいか」についての議論がありますけど、うかつに答えると炎上しかねない議論なので結論を曖昧にしたままにしたのは正解でしょう(笑)。 |
No.2793 | 6点 | 病院殺人事件- ナイオ・マーシュ | 2024/08/31 17:01 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1935年発表のロデリック・アレンシリーズ第3作の本格派推理小説で、国内では別冊宝石68号(1957年)に掲載されました(ロダリック・アリーンと表記されています)。江戸川乱歩による小伝でヘンリイ・ジェレット(1872-1948)との共作であることが紹介されており、英語表記の作者名は「Ngaio marsh & Henry Jellett」(mが小文字なのはご愛敬)となっているのですが日本語表記はなぜかナイオ・マーシュのみでした。ジェレットはマーシュの父親の友人の医師で、病気になったマーシュの治療を担当しマーシュから「Papa Jellett」と呼ばれるほどの交流があったそうです。本書での手術中の医者や看護師たちの動きの描写や薬品の知識に関する助言を与えたのではと思われます。議会で倒れた内務大臣が病院で手術を受けますが術後に死んでしまいます。他殺を主張する未亡人の求めで検視審問が開かれ、過量に使用すると危険な薬品が過量に投与されていることがわかります。派手な展開はありませんが、第14章でどのように殺害したのか様々な可能性を丁寧に検証されるなど謎解きは充実しており、古い翻訳ながらそれほど読みにくくありませんでした。解決の説得力はやや微妙な出来栄えで、特に動機に関する「狂人の論理」は話が唐突過ぎて唖然としました。余談になりますが本国でも再版時に作者名がマーシュのみ表記になってジェレットが不遇な扱いを受けることがあったらしいです(笑)。 |
No.2792 | 5点 | 殺人名画- 西東登 | 2024/08/28 11:23 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1975年発表の毛呂周平シリーズ第4作です(シリーズ最終作)。この作者については私は本書以前に2作品しか読んでおらず、その2作とも私の好きな本格派推理小説ではなかったのでますます敬遠していたのですが本書の青樹社版は「書き下し本格推理」と宣伝されていたので読んでみました。失踪事件の調査に始まり殺人事件に発展するという、いかにも私立探偵ものらしいプロットです。犯人当てとしては他愛もなく(有力容疑者数も少ない)、全17章の第11章で毛呂は犯人の見当がついています。謎解きとして特別なものは感じませんでしたが、関係なさそうな事件と殺人事件を有機的に組み合わせる手法は手堅く、解決はすっきりできました。犬がちょっとだけ登場しているものの、この程度では作者のトレードマークである動物ミステリーとは言えないと思います。 |
No.2791 | 5点 | 楽園の骨- アーロン・エルキンズ | 2024/08/28 11:09 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1997年発表のギデオン・オリヴァーシリーズ第9作の本格派推理小説で、英語原題は「Twenty Blue Devils」ですが別にオカルト要素はありません。「Blue Devlis」はコーヒーのブランド名です。今回の舞台はタヒチで、ギデオンの友人であるジョン・ロウの親族の怪死事件を調べることになります。とはいえ外国なのでジョン・ロウがFBI捜査官であっても地元警察に捜査を強要するのは無理があり、ギデオンも及び腰で前半はなかなか謎解きが進みません。後半になってやっとスケルトン探偵ならではの活躍が見られて殺人事件の捜査に切り替わりますが、他にも色々な小事件や秘密が見え隠れしています。最後は全ての真相が明らかになりますが、推理説明で解決しているものと結果報告のみとが混在しているので本格派としてはどこか中途半端な印象が残りました。 |
No.2790 | 6点 | 疑惑の渦- 左右田謙 | 2024/08/25 06:07 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1978年発表の本格派推理小説で、後年には「一本の万年筆」に改題されました。県立高等学校の女性教師が殺され、現場には「M・K」という頭文字が彫られた万年筆が落ちていました。しかし所有者には鉄壁のアリバイがあり、万年筆は紛失したと主張されるというプロットです。登場人物が少なくて犯人は予想しやすいと思いますしトリックも大したものではありませんが、容疑者であることを自認してびくつく教頭、アマチュア探偵として事件を調査する生徒、刑事など登場人物の視点が次々に替わる展開が効果的ですらすらと読めました。最後の刑事の質問に対する犯人の回答がどれだけ読者の共感を得れるかは微妙ですね。 |
No.2789 | 6点 | カレンダー・ガール- E・S・ガードナー | 2024/08/25 05:52 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1958年発表のぺりー・メイスンシリーズ第57作の本格派推理小説です。殺人事件があった(と思われる)時にメイスンの依頼人が殺人現場を訪問していたというパターン自体はありきたりですが、そこにちょっとした出来事(今回は車の接触事故)を絡ませて謎を複雑化させているのが本書の工夫です。法廷での逆転劇もいつものパターンかと思わせて更にもうひとひねりしているのも効果的でした。 |
No.2788 | 6点 | 鏡面堂の殺人~Theory of Relativity~- 周木律 | 2024/08/22 05:03 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 本格派推理小説のシリーズとして「眼球堂の殺人」(2013年)から快調なペースで発表されてきた堂シリーズですが、シリーズ第5作にして本格派の定型から逸脱した問題作の「教会堂の殺人」(2015年)を出版して3年後の2018年にようやくシリーズ第6作の本書が出版されました。このシリーズは連作長編的な趣向があって、初めて読んだシリーズ作品が本書だったり「眼球堂の殺人」の次に読んだのが本書だったりすると作品世界の変遷になじむのに苦労するでしょう。本書はこのシリーズに登場する異様な「堂」を建築した異能の建築家・沼四郎が初めて完成させた建物である鏡面堂で26年前の1975年に起きた殺人事件を当時に書かれた手記を読んで解決するプロットです。現場で手掛かりを確認しているので安楽椅子探偵ものではありませんが。密室や消えた凶器などトリックにこだわっているのもこのシリーズならでは。人間関係の謎解きは後出し説明感が強いし、一部の人物描写には不自然感がありますがとにかくも本格派推理小説のスタイルに戻ったのが個人的には嬉しいです。でも最終章で次回作の予告があり、犯人がネタバレされているような記述があるのは気になりましたが。 |
No.2787 | 5点 | 風に散る煙- ピーター・トレメイン | 2024/08/20 21:58 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 2001年発表の修道女フィデルマシリーズ第10作で、上下巻で出版された創元推理文庫版で「歴史的背景」や「訳注」も含めると550ページほどの厚さです。船でカンタベリーへ向かうフィデルマとエイダルフが嵐のためにウェールズ南西部のダヴェド王国に寄港して2つの事件に巻き込まれます。1つは少女殺し、もう1つは修道院から修道士たちが一人残らず消えてしまうという事件です。このシリーズは本格派推理小説と冒険スリラーのジャンルミックス型が多いですが、本書の場合は修道士失踪事件の解決を最後にしていて冒険スリラー要素の方が強い印象を受けました。登場人物リストに載っていない重要人物が何人もいるのはちょっと不満ですが、複雑で劇的な真相(というかたくらみ)が用意されています。殺人の謎解きの方はやや平凡ですが悲劇的な運命が重い余韻を残します。終章の「迷信」はE・S・ガードナーの「嘲笑うゴリラ」(1952年)の最終章を連想させますね。 |
No.2786 | 6点 | 死者と栄光への挽歌- 結城昌治 | 2024/08/17 08:55 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 非ミステリーの「軍旗はためく下に」(1970年)や「虫たちの墓」(1972年)で戦争とは何だったのかを考えさせた作者は、1980年出版の本書の文春文庫版あとがきで「本篇を推理小説にしたのも、若いひとたちに読んでもらいたいという願いをひそめた結果にほかならない」とコメントしています。30年以上前に太平洋戦争で戦死したと思っていた父親が交通事故で死んだと連絡を受けた主人公が父親は戦死したのか復員したのかを調べていくプロットです。手掛かりを求めて父親の戦友たちを訪問していきますが、そこで戦中戦後の悲惨なエピソードが色々と語られます。戦争体験の風化を危惧して書かれたことがよく伝わってくる社会派推理小説であり、推理による(自供も多いですが)謎解きのある本格派推理小説でもあります。 |
No.2785 | 5点 | クイーンのフルハウス- エラリイ・クイーン | 2024/08/14 11:31 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1954年から1962年にかけて書かれたエラリー・クイーンシリーズの中編2作、短編1作、ショート・ショート2作を収めて1965年に単行本化された第5短編集です。ショート・ショートはどちらもダイイングメッセージの謎解きというこの作者ならではの内容ですがほとんど印象に残りません。中短編はさすがに手掛かりを増やしてもう少し複雑な謎解きの本格派推理小説にしていますが普通の出来栄えに思います。但し「キャロル事件」(1958年)は異彩を放っています。重苦しい人間ドラマ要素が事件の悲劇性を増すのに効果的で、これ単独なら個人的には7点評価に値します。 |