海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
ゴメスの名はゴメス
結城昌治 出版月: 1962年01月 平均: 6.29点 書評数: 7件

書評を見る | 採点するジャンル投票


早川書房
1962年01月

朝日新聞社
1973年01月

KADOKAWA
1974年03月

KADOKAWA
1974年03月

中央公論新社
1996年06月

中央公論社
1996年06月

光文社
2008年04月

No.7 6点 人並由真 2024/04/27 07:57
(ネタバレなし)
 少年時代から、読もう読もうと思っていた作品。
 まずはタイトルについて『ウルトラQ』ネタは禁止だ(笑)。

 ベトナムを舞台にした、時代色の強い外地エスピオナージ。登場人物も耳慣れない響きの名前の者が多そうで、敷居が高そうだなと長らくなんとなく思っていたが、とんでもない。昭和の和製ハードボイルドミステリ的な筋運びと文体で、サクサク頁がめくれる。

 ただし大筋そのものは存外にシンプルで、悪くいえば単調。ストーリー上のツイストやサプライズも随所にあるが、総じて叙述の良さという器の安定感に対し、そのなかに入っている具の方が弱い、感じであった。

 ただ一方で、そういう見方をしてしまうのは、お話がつづら折りになった海外の一部のスパイ小説とかを基準にしてしまうからだろう。
 失踪した友人を追う、心にある種の屈託を抱えた一人称一視点の主人公の物語としては、実はこのくらいの<最後に明かされる真実>でよかった、のかもしれない。そう考えると、そんなに悪くないかも。

 クロージングを含めて、全体のムーディな雰囲気はとても良い。登場人物もベトナム青年ナムなどを筆頭に、そんじょそこらの作家じゃ書けないレベルの造形だ。

 とはいえ7点つけると、やっぱ、今の自分の気分じゃ、どっかウソになってしまうんだよな。この点数の上の方、ということで。
 またいつか読み直してみたら、評価は変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。そんな当たり前のことを、自分ではそれほど当たり前でないつもりの心情で言っておく。

No.6 6点 2021/03/22 13:47
本編自体ももちろんよかったが、光文社文庫版の解説やあとがきなどのオマケもよかった。
著者の「ノート」は、スパイ小説を書くに至る経緯や、舞台をサイゴンとして書き始めた苦労話など、わずか4ページだが、普段あまり目にしない作家ノートを興味深く読むことができた。

肝心の本編についてだが、以下、少しネタバレ。

巻き込まれ型スパイ小説というジャンルか。
舞台を1960年代のベトナムとしたわりに、意外に現代風なのがよい。
ストーリー運びもよい。というかプロットの単純さが読みやすくしているのかも。
たしかにミステリー性はある。でも、ご都合主義的に事件の関係者となりそうな人物が次々に登場するのは、ミステリー小説としてはいただけない。
スパイ小説としては、スパイの非情な日常の中に、わずかな男の友情や恋愛が心地よく描いてあればいいが、中途半端な感があり、B級好きには物足りない。
ラストがあっさりとしすぎているところも拍子抜け。そこがいいところなのかもしれないが、この点もB級好きには物足りない。
みなさんがおっしゃるようなハードボイルドっぽさは、とてもよかった。

No.5 5点 ボナンザ 2017/11/28 19:47
和風スパイ小説のはしり。一応本格要素もあるが、どちらかというと主人公の心理描写の方がメインだろうか。

No.4 6点 斎藤警部 2016/05/31 19:30
詰めは甘いが面白い、読みやすい。往時の南北ベトナム情勢、サイゴン周辺の不穏ながら何処か緩い空気を皮膚感覚で記録に留めた(と想像される)のは立派。しかし小説としては粗や隙も目立ち、結城先生には誠に恐縮だが滲み出るB級感が否めず、そのへん何ともアンバランス。思い出した頃に唐突なユーモアが快調に炸裂してはすぐ止まる。急に友情や感傷が現れたり、惹かれた女はすぐ忘れたり、どうにもストーリーのテクスチュアが凸凹し過ぎて落ち着かない。ハードボイルド風の比喩や言い回しにも取って付けたような脆さが。。時の試練にいささか参っちゃってるかな、ナウな感覚で読めばこりゃ最早一種のパスティーシュではないかと苦笑する格好付けシーンも多々。。でも、繰り返すけど読みやすいし面白えのよ、このスペエ小説は。

No.3 6点 E-BANKER 2013/03/01 22:53
1962年に発表された日本のスパイ小説の嚆矢とも言える作品。
当時、早川書房編集長だった小泉太郎(「生島治郎」の本名)氏の推挙で本作が生まれたとのことだが・・・

~失踪した前任者・香取の行方を探すために、内戦下の南ヴェトナム・サイゴンに赴任した「わたし」こと坂本の周囲に起きる不可解な事件。自分を尾行していた男が、「ゴメスの名は・・・」という言葉を残して殺されたとき、坂本は熾烈なスパイ合戦の渦中に投げ出されていた。香取の安否は? そして、ゴメスの正体とは? 「不安な時代」を象徴するものとして、スパイの孤独と裏切りを描いた迫真のサスペンス!~

雰囲気のいい作品、という感じ。
何より舞台設定が秀逸。
今でもサイゴン(ホーチミン)というのは、フランス占領下の影響が残り、アジアにあってヨーロッパの香りが漂う街だが、内線下のサイゴンという不穏で剣呑、かつ無国籍な雰囲気がよく出ている。

「スパイ小説」とはいえ、時代性もあり、それ程複雑なプロットがある訳ではない。
最後になってみれば、怪しい奴はやっぱり怪しかったし、謎の人物にはやはりそれなりの背景を抱えていたことが分かる。
それでも、それが不満を誘発するものではなく、何とも言えない読後感、風合いを残すところが作者の技量ということなのだろう。
「ゴメス」というダイイング・メッセージも、それ自体にそれ程の仕掛けはないが、終盤に明らかになる二人の男の背負った罪や影に混ざり合い、後を引く。

まぁさすがに名作と呼ばれるほどの雰囲気を持った作品。
ミステリー的なギミックを期待する方にはどうかと思うが、サスペンスというよりはハードボイルド好きにはウケる作品ではないかと思う。
(ヴェトナムの女性っていいよねぇ・・・。アオザイも・・・。)

No.2 7点 kanamori 2010/07/30 18:42
ベトナム戦争前夜・60年代初頭のサイゴンを時代背景とした国産スパイ小説の嚆矢といえる作品。
商社員として赴任した主人公が前任者の失踪に絡む謀略に巻き込まれる・・・スパイものといっても全編にわたって荒唐無稽さのないリアリズムに貫かれており、一人称で語られる内容は迫真性充分で、ミステリ的趣向もあります。
タイトルに繋がるダイイングメッセージ風のエピソードは、作者らしいスマートさを感じる。

No.1 8点 2010/05/17 22:18
1962年に発表された、日本製スパイ小説の嚆矢であり、また代表作ともされる作品。
舞台が1960年頃のベトナムというところからして、なるほどと納得。まあこれは現在だから特にそう思うのかもしれません。当時は身近な問題だったわけですから。
結城昌治は様々なタイプの作品を書き分けていますが、作中にも名前が挙げられるアンブラー等につながるシリアス・スパイものとして、完成度の高いものとなっています。サイゴン(ホーチミン)に赴任した「わたし」の周りで起こる不可解な出来事、謎が最後になってすべて収まるべき所に収束していくところは、パズラーも書く作者らしい手際ですし、リアリティも十分です。
会話を中心とした文章は、ハードボイルドっぽいところが感じられました。これは後に書かれる『暗い落日』に始まる真木シリーズとつながってくる感じです。


キーワードから探す
結城昌治
1996年09月
泥棒たちの昼休み
平均:5.00 / 書評数:1
1989年01月
偽名
平均:6.00 / 書評数:1
1988年01月
エリ子、十六歳の夏
平均:5.00 / 書評数:1
1987年07月
終着駅
平均:4.00 / 書評数:1
1983年04月
花ことばは沈黙
平均:5.00 / 書評数:1
1981年02月
温情判事
1980年07月
炎の終り
平均:6.00 / 書評数:4
1980年03月
死者と栄光への挽歌
平均:6.00 / 書評数:3
1979年04月
犯罪者たちの夜
平均:6.00 / 書評数:1
1975年02月
裏切りの明日
平均:6.00 / 書評数:1
1975年01月
喪中につき
平均:5.00 / 書評数:1
1974年01月
長い長い眠り
平均:5.40 / 書評数:5
1973年04月
死者たちの夜
平均:6.00 / 書評数:1
葬式神士
平均:6.00 / 書評数:1
1972年01月
仲のいい死体
平均:5.50 / 書評数:6
魚たちと眠れ
平均:4.50 / 書評数:2
1971年01月
不良少年
平均:5.00 / 書評数:1
1970年07月
軍旗はためく下に
平均:6.00 / 書評数:2
1970年01月
童話の時代
平均:6.00 / 書評数:1
1968年01月
夜の追跡者
平均:6.00 / 書評数:1
1967年01月
公園には誰もいない
平均:6.20 / 書評数:5
1966年01月
死の報酬
平均:6.00 / 書評数:1
白昼堂々
平均:6.40 / 書評数:5
1965年01月
暗い落日
平均:7.25 / 書評数:4
1964年01月
幻の殺意
平均:7.25 / 書評数:4
1963年01月
あるフィルムの背景
平均:6.67 / 書評数:3
死体置場は空の下
平均:5.50 / 書評数:2
夜の終る時
平均:6.50 / 書評数:6
1962年03月
死者におくる花束はない
平均:6.00 / 書評数:1
1962年01月
没落
平均:7.00 / 書評数:1
ゴメスの名はゴメス
平均:6.29 / 書評数:7
1961年01月
隠花植物
平均:6.00 / 書評数:1
罠の中
平均:5.50 / 書評数:2
ひげのある男たち
平均:5.91 / 書評数:11