皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
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平均点: 6.00点 | 書評数: 1859件 |
No.1859 | 5点 | 8つの完璧な殺人- ピーター・スワンソン | 2025/09/15 13:29 |
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作者の初読みである。ほかの方もそうかもしれないが、タイトルに惹かれてつい手に取ってしまった作品。
作者六作目の長編に当たる作品(当たってますか?) 2020年の発表。 ~ミステリー専門書店の店主マルコムのもとに、FBI捜査官が訪れる。マルコムは10年前、犯罪小説史上もっとも利口で、もっとも巧妙で、もっとも成功確実な“完璧な殺人”が登場する8作を選んで、店のブログにリストを掲載した。『赤い館の秘密』、『ABC殺人事件』、『見知らぬ乗客』……。捜査官によると、それら8つの作品の手口に似た殺人事件が続いているという。犯人は彼のリストに従っているのか? ミステリーへの愛がふんだんに込められた、謎と企みに満ちた傑作!~ 「赤い館の秘密」「ABC殺人事件」「殺意」「見知らぬ乗客」「アクロイド殺し」の5つは読了している。 「殺人保険」「死の罠」「シークレット・ヒストリー」の3つは未読。以上終了! ・・・って、そんな訳にはいかないか・・・ 個人的に期待していた方向ではなかったなと。まあ、それは大方予想していたことではあったのだが。 いま現在の海外本格ミステリというのは、こういう作風、こういうプロットがメインなのだろうか? ホロヴィッツなんかを読んでいると、それなりにフーダニットの興趣も大事にしているんだなあーという感想を持つのだけど、本作の場合はちょっとねぇ。 確かに、最終盤に判明する真犯人については、正直ビックリした。なんていうか、斜め45度からヤラレタというような感覚。 ただ、これは相当に唐突だし、ロジックも何もなく、無理矢理。ご都合主義と評されてもやむなし、である。 本作がロジック云々に重きを置いてないのは明らかだし、これは主人公の一人称で書かれているところに「欺瞞」が仕掛けられているタイプか?と推察したものの、最後まではっきりした表現。明確な回答は出ないまま終了。 読者としては、もやもやしたまま。消化不良、煮え切らないという結論になる。 で、結局のところ、作者のひとり遊びに付き合わされた感が強くなる。それにしては分量もそこそこ多いしな。 まあ本作だけで作者を評価するのもどうかと思うので、機会があれば他の作品も読んでみようかな・・・ あっ! あと↑上記作品のネタバレにはご注意ください。 |
No.1858 | 6点 | 鸚鵡楼の惨劇- 真梨幸子 | 2025/09/15 13:26 |
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時々なぜか無性に読みたくなる。そんな作家が真梨幸子。なぜだろう?
まっ、理由は置いといて、作者の長編は久々のような気がする・・・ 単行本は2013年の発表。 ~1962年、西新宿・十ニ社の花街にある洋館「鸚鵡楼」で殺人事件が発生する。表向きは""料亭""となっているこの店では、いかがわしい商売が行われていた。時は流れ、バブル期の1991年。鸚鵡楼の跡地に建った超高級マンション「ベルヴェデーレ・パロット」で、人気エッセイストの蜂塚沙保里は誰もが羨むセレブライフを送っていた。しかし、彼女はある恐怖にとらわれている。「私の息子は犯罪者になるに違いない」――2013年まで半世紀にわたり、西新宿で繰り返し起きる忌まわしき事件。パズルのピースがはまるように、絡まり合うすべての謎が解けた瞬間、経験したことのない驚愕と恐怖に襲われる。中毒度200%!! ~ やはり、見事なリーダビリティだった。最近ではあまり経験しなくなっていた「ページをめくる手が止まらない」という感覚を久しぶりに味わった感じだ。 物語は終始”不穏な”空気に包まれたまま進行する。1962年、1991年、2006年と時代をまたがり事件が発生。2013年になってようやく解決を見ることとなる。 いずれの事件にも見え隠れする男。流行エッセイストという華々しいキャリアを持ちながら、かつて犯罪者を愛し、自身の子を愛するどころか恐れている女。世話好きなのに単調な仕事に頭を悩ませ続ける義妹・・・etr 登場する人物は、ひとりとしてまともではなく、どこかがねじ曲がっている。こういうのを「イヤミス」と呼ぶのかもしれないけど、物語がいったいどこへ向かうのか、全く読めない展開だった。 そして最後は解決編となるのだけれど、これはいささか帳尻合わせのようなものにはなっている。 置いてけぼりにされていた1962年の事件の伏線まで回収され、作者のミステリ作家としての矜持は感じるのだけど・・・ ここはちょっとマイナスポイントかな。 ただ、ひとことで言うなら「面白かった」作品。こんなに早く読了したのはホント久しぶり(2~3時間でほぼ一気読み)。 オリジナリティという面ではどうか?と思わんでもないけれど、いつも一定水準以上の満足感を覚えさせてくれる。 やはり、これからも時々「無性に」読みたくなる・・・に違いない。 (十二社ってそんな街だったんだね・・・初めて知った) |
No.1857 | 5点 | アミュレット・ホテル- 方丈貴恵 | 2025/09/15 13:22 |
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今、現在進行形で作者の「竜泉家シリーズ三部作」を読んでいる”さなか”、なのだが、箸休め(?)として初の連作短編集となる本作を手に取ってしまった。
”犯罪者御用達のホテル”という、またまた特殊設定下の作品なのかな? 単行本は2023年の発表。 ①「アミュレット・ホテル」=まさに「そのもの」のタイトルを冠した一作目。事件もアリバイ崩しがメインとなる正統派のミステリ。ただし、容疑者となる三人の男女は当然ながら「名うての」犯罪者。やはり、一筋縄ではいかない。探偵役となるのは、ホテル専属の探偵。名付けて「ホテル探偵」(・・・そのままだね)の桐生。核となるアリバイ崩しは、複数の仕掛けが絡まるややこしいアリバイ。 ②「クライム・オブザ・イヤーの殺人」=”エピソード0”というサブタイトルのついた本編。そう、桐生がホテル探偵になる前、〇〇者だった頃のお話。”クライム・オブザ・イヤー”とは、まさにその年の一番の犯罪者に対する表彰式。なのだが、その華々しい(?)場で毒殺事件が起きてしまう。問題となるのが、毒をいかにして被害者に与えたのか、になるのだが、その解法はなかなか斬新。ただし、これを不信感なく実行するのは相当な技術が必要って、アッ!犯罪者だらけだもんな・・・ ③「一見さんお断り」=犯罪者御用達のアミュレットホテル別館は、当然ながら「一見さんお断り」で、入館できるのは専用のVIPカードを持った人(犯罪者)だけ。ここが、今回の殺人事件において問題になってくる。真犯人は意外といえば意外だけど、うーん。影が薄すぎるしな・・・ ④「タイタンの殺人」=「ザ・セブン」と呼ばれる特別な犯罪者だけが集まる5年に一度の会議が「タイタン会議」。そして、そこでも殺人事件が発生してしまう。今回のテーマは、金属探知機で徹底的に金属類も持ち込みが排除されていた会場に、どうやって金属製のナイフが持ち込まれ、凶器となったのか? ただ、まさか、お〇〇のナイフなんていうのが出てくるとは・・・。そして、5年前にも起こっていた殺人事件との関連が焦点になってくる展開のなか、ややクドさが目立つようになってしまった印象。詰め込みすぎたのが原因なのかな? 以上4編。 作者といえば、どうしても「特殊設定ミステリ」というイメージになる。本作も「犯罪者御用達ホテル」という飛びっきりの「特殊設定」が用意されているようには見えるのだが、その実、薄皮を一枚はいだら、中身はごくノーマルなミステリだと思えた。 登場人物の大多数が犯罪者なのだが、それがトリックとダイレクトに関連するかというと、そこはそれほどでもなくて、まあ本質というよりは「装飾」の部分での「特殊設定」である(この辺りは、法月綸太郎の巻末解説でも触れられている)。 で、「面白い」か「面白くない」かというと、うーん。今回は奇をてらいすぎたかという感じが強い。 気になるのは、「時空旅行者・・・」のときにも書いた「伏線の分かりやすさ」。特に④ではそれが顕著。それだけで、何となく察せられてしまうのはマイナスかなと思う。この辺は、徐々に改善したらいいなと感じる。 引き続き、期待感は当然「大」なのだから。 |
No.1856 | 7点 | 極大射程- スティーヴン・ハンター | 2025/09/06 13:34 |
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前々から「いつ読もうか」と考えていた作品。
今回、ようやく手に取ることになった(まあ、偶然ですけど・・・) 文庫版で上下分冊の長尺。 1993年の発表。 ~ボブはヴェトナム戦争で87人の命を奪った伝説のスナイパー。今はライフルだけを友に隠遁生活を送る彼のもとに、ある依頼が舞い込んだ。精密加工を施した新開発の308口径弾を試射してもらいたいというのだ。弾薬への興味からボブはそれを引き受け、1,400ヤードという長距離狙撃を成功させた。だが、すべては謎の組織が周到に企て、ボブにある汚名をきせるための陰謀だった・・・~ 男の「汗」と「ロマン」。そして、「ガン」=「銃」、またまた「銃」・・・ひとことで言えば、そんなお話である。 物語は、ヴェトナムの英雄にしてライフルの達人、ボブ・ザ・ネイラーが敵の周到な策略に陥っていくところから始まる。 罠にはまった彼は、ついに、大観衆が見守るニューオーリンズの街中での大統領射殺事件の真犯人とされてしまう・・・はずだった。しかし、実際に射殺されたのはエルサルバドルの大司教。敵の策略の思うツボになったかに思えた。 窮地に陥ったボブは、ここから長く、苦しい復讐劇に身を投じることとなる。相棒役となるのは、同じく銃に纏わるミスがもとでFBIの閑職に追われた男、ニック。ふたりが偶然にも出会うとき、運命は回り始める。 といった感じで物語は進んでいくのだが、まあ手に汗握るシーンは多い。そして当然ピンチシーンもふんだんに用意されている。ただ、そのたびにボブは豊富な経験値と天性の鋭いカンで切り抜けていく。最大の敵を負かし、ついに救われたかという矢先、最大のピンチに襲われる。 「もう残りのページがないぞ! どうやって乗り切るんだ?」などという読者のあらぬ心配をよそに、最後のサプライズが用意されていた。 いやいや、もうハラハラさせられっぱなしである。こんな感じで、あまり筋道だった書評はせず、感情の赴くままに書いてみました。他の方も書いているとおり、ラストは勧善懲悪。爽快です。安心して読んでみてください。 (ニックはどこまでボブの策略を知っていたのかな? 情けない場面が多いから、すべてを知らされてなかったのか、知ってて演じていたのか? ここはどうもしっくりこなかった) |
No.1855 | 6点 | 刀と傘 明治京洛推理帖- 伊吹亜門 | 2025/09/06 13:31 |
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2015年、「監獄舎の殺人」で第12回ミステリーズ新人賞を受賞した作者(有栖川有栖の後輩だね)。
本作は、明治維新における英雄のひとりである肥前の江藤新平と、腹心にして微妙な関係となる鹿野師光を主役に据えた連作短編集。 単行本は2018年の発表。 ①「佐賀から来た男」=まずは江藤と鹿野の出会いが描かれる第一編。尊王攘夷論が勢力を増すなか、開国論者の仲間が惨殺される。仲間の中に犯人がいる?という疑惑が浮かぶなか、ふたりが辿り着いた真相とは? ②「弾正台切腹事件」=一応「密室」である。ただし、明治時代初めの設定だからね、そこはかなり緩~い密室なわけです。決して密室トリックというほどのものではありません。 ③「監獄舎の殺人」=やはりコレが一番の佳作だろう。逆説めいた真相が実に効いている。“殺さぬために殺した”・・・「これは如何に?」という謎。要は動機の問題なのだが。 ④「桜」=最初から犯人が明白。そう、倒叙ミステリの形になっている一編。ただ、真相は江藤の頭脳の前にアッという間に見抜かれてしまう。 ⑤「そして、佐賀の乱」=征韓論(西郷隆盛が下野した事件だね)で敗れ、佐賀に帰還することになった江藤だが、途中京都に向かい、鹿野と再び相まみえることに・・・。ただし、悲しい結末が待っていた。 以上5編。 数多の才人が綺羅星の如く活躍した幕末そして明治維新。はっきり言ってあまり知らなかったなー「江藤新平」って・・・ ウィキによると、「近代日本司法制度の父」とのこと(作中でもこの辺りは触れられている)。本作がどこまで史実に基づいているのかは不明だけれど、探偵役に相応しい人物なのは間違いないだろう。 で、本筋なんだけど、前評判どおり「よくできている」。何より「端正」という表現がピッタリ。 最近、特殊設定ミステリばっかり読んでいたせいかもしれんけれど、「人間の機微」をきっちりと書いているところに好感が持てる。 ただ、個人的にはそれほど好きな分野ではないんだよなあー、時代設定が古すぎるミステリは。 指紋も気にしない。ましてやDNAも、とにかく科学捜査が全くない世界。あっ! これもよく考えればひとつの「特殊設定」なのか・・・ いろんな呪縛から逃れて自由にミステリを書けるのなら、それはいいことかもしれない。 でも、どこか物足りなさもあるんだよな。まあ、自分勝手なお話です。 |
No.1854 | 6点 | 青銅ドラゴンの密室- 安萬純一 | 2025/09/06 13:28 |
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久々に読む作者の作品である。
前回読了した「ポケットに地球儀」について、自分自身が酷評していたことを思い出してしまった。今回はどうかな? 単行本は2014年の発表。 ~雷が青銅のドラゴン像を生き返らせ、雄叫びを上げ、人をかみ砕く!! これは魔法か――ホルツマイヤー家の敷地内にある青銅のドラゴンの塔。そこに近代建築研究家と称するラグボーンが訪ねてくる。探偵でもあるという彼に当主ゲオルグ・ホルツマイヤーは塔の調査の見返りにある事件の謎を解いて欲しいと依頼する。調査の最中、ゲオルグの孫が惨殺される事件が起こる。その殺され方は百年前にドラゴンの建造後まもなく内部で二人の旅芸人が殺さた方法と同じものであった・・・~ 南雲堂が配本していた「本格ミステリー・ワールド」の一冊だけに、本格成分が非常に高かった。 まずはタイトルにもある「密室」について。 こんな奇天烈な建築物が出てくる時点で、大方の人は「建物に仕掛けがあるに違いない」という目線で読むことになる。 途中、くだんの建築物(=「大ドラゴン」のことね)の内部を捜査する場面が幾度か挿まれる。 そこは、いわば“伏線の宝庫”になっているし、鋭い読者ならば割と早い段階でピンとくるのかもしれない。 ただし、今回の「密室」。これだけ大掛かりなトリックを用意した割には、なんとも魅力が薄い気がする。 これはもう、「書き方」「盛り上げ方」の問題だろう。もう少し何とかならなかったのか。 うん。そうなのだ。なんとも「惜しい」作品のような気がする。 トリックに独創性もあると思うし、過去の事件との相似に絡めているところも興味を深めている。 何より、ラスト前に炸裂するフーダニットのサプライズ! これは「なるほど!」と唸らされた。 こうやって書いていると、もっと高評価でもよいのではと思うのだが、やっぱり「惜しい」。 他の方が人間描写の不満について書かれているけれど、それもあるかなと感じる。 でも前回よりは随分マシという評価。結構、引き込まれたところはあったし。 繰り返しになるけど、書きぶり次第ではもっともっと面白くなったような・・・「惜しい」! |
No.1853 | 6点 | あなたに似た人- ロアルド・ダール | 2025/08/03 13:19 |
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以前からアップしていた本作。ただし、文庫版は分冊となっていて、Ⅰ収録作しか読んでなかったため、今回Ⅱの読了に当たって、以前の登録分を削除して再アップすることに。(まあどうでもいいことですが)
「奇妙な味」のする短編集といえば、ということで必ず挙げるだろう作者と作品。 ①「味」=ひとこと、という実に潔いタイトルの作品だが、中身は人間のドロドロした部分がえげつなく書かれている。オチは明示されてないけど、“盗み見した”っていうことだよね? ②「おとなしい凶器」=これが“短篇ミステリーのスタンダードとしてあまりにも有名”という惹句が冠された著名作。確かに狂気の隠し場所としては実に皮肉が効いてて面白い。焼いたら臭わないしね・・・ ③「南から来た男」=これはいわゆる“最後の一撃”的プロットのやつだ。こんな無茶な賭けに乗る男も男だが・・・。 ④「兵士」=完全に理解できないけど、これもラストの一行勝負の作品だろう。途中のやり取りは正直よく分からんけど・・・ ⑤「わが愛しき妻、かわいいひとよ」=こんな風に思っていた夫も、妻の本性を知ると・・・って火を見るよりも明らか。美しいor可愛い女性ほど内面は○○○ってよくあるパターン。 ⑥「プールでひと泳ぎ」=これもよく理解できない作品なのだが、ラストの一行でニヤリとさせられるタイプのやつ。 ⑦「ギャロッピング・フォックスリー」=通勤電車で偶然向かい側の席に座った男をめぐる主人公の煩悶の話。自分の辛い過去を振り返って苦しむ主人公と、それをあざ笑うかのようなラストのオチがきれいに嵌っている。良作。 ⑧「皮膚」=刺青に関するストーリーなのだが、あまり響いてこず。 ⑨「毒」=“ヘビもの”(ってそんなジャンルあるのか?) 「だからなに?」って思った。 ⑩「願い」=なぜか続けて“ヘビもの”。「だからなに?」×2。 ⑪「首」=これは・・・。ラストは当然バジル卿が首を××するんだろう・・・って思ってたら、卿ってやさしいのね・・・。何となく作者の女性に対するスタンスが分かる一編。 ・・・ここまでがアップ済のⅠ部分。ここからがⅡ収録作。 ①「サウンドマシン」=人間以外の物や動物、植物の「声」が聞こえるという機械を発明した男。男は動物や植物の悲痛な「声」が聞こえるようになってしまった。で、ナタで切られている「木」の悲鳴を聞いた男は、たまらずに主治医の男を呼んでしまう。呼ばれたドクターは、求められ、「木」にヨードチンキを塗ることに。奇妙だ! ②「満たされた人生に最後の別れを」=実に皮肉の利いた一編。特にタイトルの意味を知ることになる、最後の場面。個人的には違うカラクリを予想していたんだけど、なるほど、そうきたか、と思わずにはいられなかった。男って悲しい生き物っすね・・・ ③「偉大なる自動文書製造機」=作家にとって垂涎の的! 「自動文書作成機」。ボタンを押すだけで、自動的によくできた作品を仕上げてくれる! まさに夢物語!って今までなら思っていたけど、今や、ねっ!あるからね、生成AIというものが。近い将来「ミステリ作家」なる商売はなくなってるかもね。 ④「クロードの犬」=うーん。こりゃよく分からん。中編ほどボリュームのある一編なんだけど、うーm。何が言いたかったのか? 「味わい」を楽しめ!ってことなのか・・・ 以上。 Ⅰのときにと同様。やはり「奇妙な味」というのが”言い得て妙”なんだなと納得。 今回も①から③までは実にシニカルな風味だった。 ④だけは??だが、まあそんなもんだろ。 短編好きなら、やはり読んでおくべきなんだろう。 |
No.1852 | 6点 | 隣人を疑うなかれ- 織守きょうや | 2025/08/03 13:13 |
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先日、作者の初読みが連作短編集だったので、長編も読んでみようということで。
本作も作者の属性(弁護士)を反映した作風になっているのかな? 単行本は2023年の発表。 ~「羊の群れに狼が潜んでいるなら、気づいた誰かがどうにかしなければ、狩りは終わらない――。」 自宅マンションに殺人犯が住んでいる? 隣人の失踪をきっかけに不穏な疑念を抱いた主婦の今立晶は、事件ライターの弟とともにマンションの住人たちを調べることに。死体はない、証拠もない、だけど不安が拭えない。ある夜、帰宅途中の晶のあとを尾けてきた黒パーカの男は誰なのか?平凡な日常に生じた一点の黒い染みが、じわじわと広がって心をかき乱す、傑作ミステリー長編~ 「もう一押し欲しかったな」というのが、読了後の感想。 総じていえば「面白かった」んだけど、それだけに、真犯人が確定し、さらなる仕掛けがあったとはいえ、「もう少し用意されてるんじゃないか」という期待が大きかった。 ただ、そのまま終了してしまった。 他の方も書かれてるけれど、リーダビリティは非常に高いと思う。スイスイ読まされるし、次の展開を期待させるプロットも良い。 メインの謎となる若い女性を狙った連続殺人事件の真犯人。探偵役となる姉弟が、ターゲットを絞り込んでいくものの、結果としては、推理や捜査によるものではなく、犯人サイドの自滅のような形で終結している。 まあガチガチの本格というわけではないから、それはそれで良いのだ。 事件のカギとなる人物のひとり、同じマンションに住む、美人で男という男に愛想を振りまかずにはいられない主婦。 ラストには、この主婦の独白パートまで用意されているわけだから、ここに何か捻りがあると思っちゃうよなあー それが、「あと一押し」につながってしまった。 でも、まあ読みやすいし、決して駄作ではないと思う。ちょっと手慣れすぎてるだけ。 |
No.1851 | 6点 | SOSの猿- 伊坂幸太郎 | 2025/08/03 13:10 |
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やや久し振りの伊坂作品となった。
ただ、他の方の書評を見ると、かなり辛口のようですが・・・ 単行本は2009年の発表。もともとは読売新聞夕刊に連載されていたもの(とのこと)。 ~三百億円の損害を出した株の誤発注事件を追う「猿の話」。ひきこもりを悪魔祓いで治そうとする男の「私の話」。やがて交差する二つの話を孫悟空が自在に飛び回り、「SOS」をめぐる問いかけが物語を深化する。世界最強の猿からユングまでを召還し、小説の可能性に挑戦した、著者入魂の記念碑的長篇!~ (↑この紹介文。いったい何のことやら、である) 「かなり大掛かりなファンタジー」「そして多少のミステリ風味の味付け」 ひとことで表すとしたら、こんな感じかな。以上、終わり! ってことで、本当に終了してもいいかな、という雰囲気の作品。 でも、毎回のように伊坂を高評価してきた身なので、さすがにもう少しだけ補足したい。 本作のキーワードは、「引きこもり」そして「人の善と悪」ということなのかな? 特に後者については、これまでの伊坂作品でもたびたび語られてきた題材だと思う。そういう意味では「お馴染み」。 冒頭から、摩訶不思議な話が続いていく本作。作者独特の言い回しや、とぼけたキャラたちもあり、どんどん読まされていく展開。 で、終盤に入ったところで、種明かし的な場面があるわけだが、辛口の方はここがお気に召さなかったのだろう。 私はというと・・・割と楽しめました。まあ「孫悟空」の部分なんて、馬鹿馬鹿しいといえばそのとおりではありますが・・・ 逆に言うと伊坂らしい、伊坂にしか書けないお話にはなっていると思う。(「書けない」よりは「書かない」だけど) ラスト付近の“辺見のお姉さん”のセリフ。「親が人生楽しめてないと、子はいつまでもジメジメしたまま」云々 そりゃ確かに! でも親はいつまでも子が心配なんですけどね。 そんなこんなで個人的にはそれほど低い評価にはなりません。「仕方ないでしょ」 |
No.1850 | 7点 | 孤島の来訪者- 方丈貴恵 | 2025/07/21 13:31 |
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「時空旅行者の砂時計」に続く、「竜泉家シリーズ」の二作目。
前作の衝撃(?)が冷めないうちに二作目も手に取ってしまった・・・ 単行本は2020年の発表。 ~謀殺された幼馴染の復讐を誓い、ターゲットに近付くためテレビ番組制作会社のADとなった竜泉佑樹は、標的の三名と共に無人島でのロケに参加していた。島の名は「幽世島」。秘祭の伝承が残る曰くつきの場所だ。撮影の一方で復讐計画を進めようとした佑樹だったが、あろうことか、自ら手を下す前にターゲットのひとりが殺されてしまう。いったい何者の仕業なのか? しかも、犯行には人でない何かが絡み、その何かは残る撮影メンバーに紛れ込んでしまった。疑心暗鬼のなか、またしても佑樹のターゲットが殺され・・・~ 「マレヒト」って・・・(未読の方は何のことか分からないだろうが) もう、ここまで特殊設定が「特殊」だと、「なんでもあり」なのは当然として、あまりにもゲーム性が強すぎという感覚になる。(もちろん本格ミステリそのものが虚構であり、ゲームと言われればそれまでだが) 前作では「タイムトラベル」をアリバイトリックに応用するという新機軸を出してきたのと同時に、一家惨殺ドロドロという古いタイプのミステリを並立させた作者。 本作でも、「マレヒト」(詳しくは書かない)という超変化球と、孤島の連続殺人というコテコテを並立させてきた。この「並立」は作者の狙いなんだろうな。 いかにしてこの2つを破綻なく並立させるか。これこそが本作のカギとなる。 問題となるのが、作中でも挙げられた14個もの「マレヒト」の性質。 これを如何に読み解くかが読者にとっての試練となるし、反対に作者の創作に当ってのプロットの肝だろう。 うーん。なんか、こんなにクドクド書くのがばからしくなってきた。 ロジックといえばこれほどロジックを重視したプロットもないんだろうな。作者は自身の創造した「特殊設定下」で徹底したロジック、そしてフーダニットの謎を構築する。 これを推理し、解明する喜びを読者は与えられたわけなんだけど・・・うーmm まあ、でもスゴイことだよ。こんなブッ飛んだ設定を構築できることこそが作者の凄まじい才能。 ちょっと前に読んだ今村氏の「兇人邸」のときにも感じたけど、これこそが「現代の本格ミステリ」だし、古臭いカビの生えた本格をここまで昇華することに成功した例だと思う。 いったいどんな頭の構造してんだろう? でも、昨今の特殊設定本格ミステリを次々に読んでいると、新本格に続く、つぎの波、ムーブメントが起きているんだと思ってしまう。ただ、「読み物」である以上、やはり「人間の機微」がいかに書けているか、も大事だとは思います。 (1つ疑問。あれだけ一撃必殺なら、大勢の人間がいたって、恐れずに一撃必殺で殺せばいいのでは?) |
No.1849 | 7点 | 転落の街- マイクル・コナリー | 2025/07/21 13:30 |
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個人的にも、長い期間をかけて読み継いできている、「ハリー・ボッシュ」シリーズ。
長い間にいろいろ紆余曲折あった本シリーズだったが、シリーズ当初のようなスタイルに戻ってきている感じはある。今回も、様々な苦難、障壁が彼を待ち受けるのだろう。 2011年の発表。 ~絞殺死体に残された血痕。DNA再調査で浮上した容疑者は、事件当時八歳の少年だった。ロス市警未解決事件班のボッシュ刑事は、有名ホテルでの要人転落事件と並行して捜査を進めていくが、事態は思った以上にタフな展開を見せる。ふたつの難事件の深まる謎と闇。許されざる者をとことん追い詰めていく緊迫のミステリ~ 原題の""The Drop"" 本作の内容はこのタイトルのダブル・ミーニングが憎いほど効いている。 他の方も触れているとおり、一つ目はボッシュ刑事の雇用延長制度に関するもの(→この制度について彼は作中で悩むことになる)。 あと二つは、今回ボッシュが追うこととなる二つの事件。①本来の職務である過去の「未解決事件」、②宿敵アーヴィング元本部長の息子の転落事件、にまつわるもの。 ②については、過去作からの因縁の相手、アーヴィングから直々の指名で捜査に当ることとなったボッシュ。現職の市議である彼の背後を調査するうちに、事件の構図が明らかとなった・・・かと思いきや、という展開。さらに、解決したはずの本件が、アーヴィングとのラストシーンでは、更なる深淵に嵌まっていくような感覚。 そして①である。過去の未成年者猥褻事件に絡んで、紹介文のとおり、ひとりの容疑者から事件の捜査を進めるボッシュ。もしかして②とクロスするのかと思いきや、そこまでは今回のプロット外。 ただし、判明した真犯人のおぞましいまでの犯罪に、ボッシュをはじめとする捜査陣も震えることとなる。 ただ、二つの事件で忙殺されるボッシュなんだけど、しっかりひとりの女性とメイクラブしてしまう・・・(ボッシュって何歳だっけ?)。そして、愛娘マデリンとの関係・・・ さまざまな要素が本作に投入されている。 普通なら、ここまでいろいろ詰め込むと消化不良になりそうなところ、さすがのコナリー。秩序だって、整理されて読者の頭の中にもスッと入ってくる。 この辺りがもう、プロ中のプロ作家たる所以なんだろう。私のようにシリーズを通して読み継ぐファンにとっては尚更。第一作から数えてもうはや三十年が経過。それでも色あせないのは、作者の力量、そして生み出したハリー・ボッシュというキャラの熱量によるものだろう。 ただ、作中でボッシュが自身の加齢による衰えを切々と語る場面がある。そう、いくらフィクションの世界でも、ゆっくりとだが時は流れているのだ。人間も生物である以上、それはどうしようもないこと。それでも、前を向いて進んでいく姿。それこそが、シリーズファンにとっては次作へのエネルギーとなっている。そんな読後感だった。 |
No.1848 | 5点 | ジグソーパズル48- 乾くるみ | 2025/07/21 13:28 |
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「小説現代」誌を中心に発表された各短編をまとめた連作短編集。
すべて「私立曙女子高等学院」という名門女子高が舞台。 単行本は2019年の発表。 ①「ラッキーセブン」=ひとりの女子高生が考案した新しいカードゲーム。「大富豪」(地域によっては「大貧民」?)のルールを取り入れたゲームなのだが、これがなかなか単純なようで、人間心理をついた奥の深いゲーム。で、なぜか敗者は頸をはねられて殺される設定に・・・。だからみんな必死!(当たり前だ!) ②「Give me five」=舞台はカラオケBOX。二組の女子高生しか入室してないうえに、二組とも曙の生徒。で、合流したとことが、とある生徒が持ち込んでいた高級イチゴが誰かに食べられていた!っていう事件。探偵役の店員は各自のアリバイまで調べだしたし・・・ ③「三つの涙」=今度は殺人事件のお話。なのだが、現場のお隣の部屋の娘は曙の生徒で、捜査に当たる刑事の娘も曙の生徒、ついでに被害者が生前最後に訪れたスーパーのレジ店員の娘も曙の生徒だった・・・。そして事件のカギとなるのが「アイスの実」(ぶどう味)です。 ④「女の子の第六感」=そりゃ鋭いよねぇ・・・。男ではかないません。 ⑤「マルキュー」=曙女子高校には、いわゆる「選抜クラス」があって、それが各学年の9組。それを「マルキュー」と呼んでいた・・・。ということで、9組に編入されたひとりの美少女をめぐるストーリー。みんなが少しずつ協力して、少しずつ分け与えて、少しずつ我慢すれば、きっと成功するっていうお話。 ⑥「偶然の十字路」=現場となった校舎の平面図も挿入され、ミステリっぽいお膳立てがされた一編。十字路となっている廊下の真ん中で誰かに殴られ失神した女子高生。容疑者は7人。ただ、途中で思いもかけぬ事実が・・・ ⑦「ハチの巣ダンス」=幼馴染のふたり。当然、曙女子高の生徒。ふたりともハーフの美少女。なのだが、最初からどうも主語や文体がおかしいと思っていたら・・・そういうことか。種明かしされてもちょっと分かりにくかったな。 以上7編。 作者・乾くるみ。1963年生まれ。2019年当時56歳。さすがである。女子高生になりきっての執筆(なのかな?) 分類するなら「日常の謎」ということになるのかもしれないけど、どれもラストに気の利いた「ひねり」が待ち構えている。この当りはまさに作者の十八番だろう。 タイトルに「数字」の入った短編集を以前から発表してきた作者だから、これもその一環だろうと考えてきたけど、これって、いわゆる「48」グループのこと? まあどうでもいいけどね。 (個人的ベストは①。今となっては女子高なんて異世界だよな) |
No.1847 | 8点 | 地下室の殺人- アントニイ・バークリー | 2025/07/05 13:53 |
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稀代の“迷”探偵ロジャー・シェリンガムが活躍する(?)作者の代表作のひとつ。
ただ、本作と並び称される「最上階の殺人」が個人的に今一つ食い足りなかっただけに・・・ 1932年の発表。 ~新居に引っ越してきた新婚夫婦が地下室で掘り出したのは、若い女性の腐乱死体だった。被害者の身元さえつかめぬ難事件は、モーズビー首席警部の「被害者探し」に幕を開け、名探偵ロジャー・シェリンガムの登場を待って新展開を見せる。バークリーが作中作の技巧を駆使してプロット上の実験を試みた円熟期の傑作~ これは作者NO.1の面白さ(だったと思う・・・)。 何より、紹介文のとおり、「プロットの妙」である。 新婚夫婦が偶然見つけた地下室の死体。身元を示す物証なし。困り果てたモーズビー警部が相談に訪れたのは、やはりあの男・・・シェリンガムだった。 そして、唐突に始まる「作中作」。舞台は田舎の小学校。「なぜ?」と思ってる読者を差し置いて、経営者親娘と教師たちを巻き込んだストーリーが進行。 で、その「作中作」も面白くなってきたところで唐突に終了。 またもやモーズビーとシェリンガムの推理対決のような形に移っていく・・・ 文庫版の巻末解説にも触れられているとおり、ふたりの対決はシリーズ中何度もあり、勝敗は拮抗している。 で、今回は(恐らく)シェリンガムの勝利。 彼の言うところの、「心理」を軸とした推理が功を奏する。確かに、個人的にも真犯人の正体には「アッ!」と思わされた。 でも、まあある意味、意外な真犯人としては分かりやすかった、のかもしれない。 今回はシェリンガムの推理も割とズバズバ的を得ていたし、伏線もまずまず効いていたと思う。少なくとも「最上階・・・」などよりは、全然上だろうと思う。 まあ、最後のシェリンガムの言動はねえ・・・。いかにも、彼らしいよね。 ここが作者の心意気というか、ミステリに対する構え方なんだろう。それはそれとして、十分に佳作と評価。 (「できる」「気の強すぎる」女性は・・・不幸をもたらすね) |
No.1846 | 6点 | 可燃物- 米澤穂信 | 2025/07/05 13:50 |
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群馬県警捜査一課の「葛警部」を探偵役に据えた連作短編集。
長編・短編問わず、はたまたミステリのジャンルを問わず、良質なミステリを上梓続ける作者。今回もまた・・・かな。 単行本は2023年の発表。 ①「崖の下」=スノボしにやってきた五人組の男女。そのうちの2名が遭難し、ひとりが刺殺体で発見される。ただ、現場には何故か凶器が残されていなかった・・・ 物証をもとに推理をめぐらせる葛警部の頭に、最後に訪れた天啓とは? まさか、あれが凶器にねェ・・・ ②「ねむけ」=藤岡市内の夜中の交差点で発生した交通事故。関係者のひとりは、強盗事件の容疑者だった。事故の原因を捜査するなか、現場を見ていたと思われる誰もが、その容疑者が赤信号を無視したと主張するが・・・。これも「葛警部」のカンと拘りが事件を解決に導く。 ③「命の恩」=谷川岳に続く緩やかな山道で発見されたバラバラ死体。ほどなく被害者は特定され、容疑者が出頭してきた。事件解決!と思いきや、どこか納得がいかない「葛警部」がとった行動は、現場へ戻ること。そして・・・ ④「可燃物」=連続して発生した放火事件。事件は、収集日の前夜、可燃物のゴミ袋に着火するという共通点があった。ただ、折からの湿った天気のなか、大火には至らずにいたが、「葛警部」が捜査を進める中で浮かんだ容疑者は・・・。これは動機にまつわる機微が味わい深い。 ⑤「本物か」=伊勢崎市内のファミレスで発生した立てこもり事件。犯人はほどなく判明するが、拳銃らしきものを手にしているのが分かり、「葛警部」たちに緊張が走る。ただ、関係者たちに聞き込みを続ける中、不可解な点が浮かんで・・・ 以上5編。 もう、さすがのクオリティである。スゴイね。どんなジャンルの作品でも、一定以上の評価ができるものばかり。 これこそが一流のミステリ作家、ということだろう。 本作は警察小説(なのかな)。なんとなく、横山秀夫っぽい雰囲気で、「葛警部」という探偵役が実に効いている。 短編らしく、込み入ったプロットはないけれど、必ず最後にオッ!という驚きとツイストが待っている、という作品が並ぶ。 成熟したミステリ作家しか書けない作品だと思う。もう少し派手めなトリックやら捻りも欲しいなどという、不満点もあるのかもしれないけど、これはこれでいい味出しているし、作者も「この線」を狙って書いたのだろう。 だからいいのだ。この渋さと、静かさと、上品さで。十分である。 (カフェオレと菓子パンで食事をとる場面が再三出てくるのは「笑い」ポイントなのかな?)(個人的には⑤が最上位。最後の反転がよく効いてて面白い) |
No.1845 | 7点 | 時空旅行者の砂時計- 方丈貴恵 | 2025/07/05 13:49 |
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京大ミステリ研出身。綾辻、法月ら数多の本格ミステリ作家を輩出した名門ミステリ研から、またまた出てきた才媛。
しかも「鮎川哲也賞」受賞作である。これはもう、期待しかないでしょう。でもあまりハードルを上げすぎないようにしておこう・・・ 単行本は2019年の発表。 ~瀕死の妻のために、謎の声に従い、2018年から1960年にタイムトラベルした主人公の加茂。妻の先祖・竜泉家の人々が殺害され、後に起こった土砂崩れで一族の殆どが亡くなった「死野の惨劇」の真相の解明が、彼女の命を救うことに繋がるという。タイムリミットは、土砂崩れがすべてを吞み込むまでの四日間。閉ざされた館のなかで起こる不可能犯罪の真犯人を暴き、加茂は2018年に戻ることができるのか?~ 「いろいろと考えるねぇ・・・」っていうのが、読後の偽らざる感想、かな。 AIとタイムトリップ、そしてバラバラ殺人と一族の惨殺を図る連続殺人事件・・・ 新しいものと古いものが詰め込まれていて、そういう意味では、ネタ切れ感の強い本格ミステリに一石を投じる作品だとは思った。 もう少し細かく見ていくなら、まず「新しい方」からで、例の「タイムトリップ」を利用したトリック。 最初は正直、よく理解できなかった。これをどんな風に使ったの?って。探偵役の加茂の推理を読んでやっと理解。 なるほど、要はアリバイトリックなんだね。時空を超えたアリバイトリックって、今までもあったような気はするけど、これは確かに新しいアプローチだろう。タイムトリップの「制約」さえもトリックにうまい具合に使われてて、この辺は作者の工夫や旨さを感じられた。 次に「古い方」だけど、「バラバラ殺人」については、これは・・・高木彬光だよね・・・。まさかあのトリックじゃないだろうなと考えていたら、まさにそのとおりだった。そして、一族惨殺の動機。これはもう・・・何ていうか、古き良き、探偵小説の世界だ。 そういう意味では、真犯人も途中から自明というか、いかにもすぎて、それはそれで、もうひと工夫あっても良かったかとは思う。 あと気になったのは「伏線の分かりやすさ」。文中でクドイくらいに語られるところがあり、「これは伏線だろうな」というのが明白な箇所が多すぎた。これは仕方ないのだろうけど、設定自体が特殊すぎるので、説明部分をどのように作中に混ぜていくか・・・。この当りは改良の余地はあるかも。 巻末には鮎川哲也賞の選評が載っていたけど、審査員が加納朋子、北村薫、辻真先かあ・・・。加納氏なんかいかにも本作を推しそうだな。 賛否はありそうだけど、個人的には作者の「本格愛」が感じられて、好ましく感じた。それとラストシーン。これはこの物語の締めくくりとしてはベストではないだろうか。それだけでも、読む価値あり、と思う。 |
No.1844 | 6点 | 騙し絵- マルセル・F・ラントーム | 2025/06/14 14:30 |
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作者は僅か三作のミステリを遺しただけ、とのこと。
本作は、なんと戦時中の捕虜収容所の中で書き上げたというのだから恐れ入ります。 1946年の発表。 ~アリーヌ・ブイヤンジュが祖父から贈られた253カラットのダイヤモンド「ケープタウンの星」。彼女の結婚披露宴の日に、パリの屋敷でこのダイヤを披露することになった。世界六か国の保険会社はこの宝石のために各社一名、警備要員として警官を派遣。ところが、六名の警官の厳重な警備にもかかわらず、ダイヤは偽物にすり替えられてしまう。誰が?どうやって? 謎に立ち向かうのは、アマチュア探偵ボブ・スローマン~ いやいや、これは思わぬ掘り出し物だった。 あまり期待してなかったせいもあるけれど、まさか「読者への挑戦」までも挿入したミステリとは・・・ さらに、巻頭には、本作でメインの事件・謎となる「ダイヤ消失事件」の舞台となる屋敷の平面図までも示されている。 (これは本格好きの心をくすぐるよね) これが単なるコケ脅しかと思いきや、まさかの(平面図の中に)大掛かりなトリックのヒントが隠されていようとは・・・ ただ、このトリック。かなりの無理筋というか、悪く言えば「適当」なトリックではある。 フランス人らしく、おおらかでラフ、と表現すればいいかもしれないが、いくらなんでも、まずまずの大人数がアノ場所にいて、〇〇でそういうことを行っていたら、さすがに察するというか、少なくとも「変だな」とは感じるだろっ!って思う。 まあ、そんなこと言うのは野暮なのかもしれんが・・・ 残りの殺人事件と誘拐事件、飛行船(?)消失事件については、完全に付け足し程度。特記することは別段ない。 後は、他の方も触れているとおり、筆致の軽妙さが光る。時代性を考えれば、これは特筆ものかもしれない。 結局褒めているのか、貶しているのかはっきりしない書評となってしまいました。 でも、冒頭でも触れているとおり、「予想外の掘り出し物」という感想は変わらず。一読の価値はあると思う。 |
No.1843 | 5点 | ブラックチェンバー- 大沢在昌 | 2025/06/14 14:29 |
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ノンシリーズのハードボイルド系クライム・サスペンス(とでも分類すればよいか・・・)
文庫版で600ページ超の長尺。恐らくいつもの“大沢節”。 単行本は2012年の発表。 ~警視庁の河合はロシアマフィアの内偵中に拉致されるが、殺される寸前「ブラックチェンバー」と名乗る組織に救われた。この組織は国際的な犯罪組織に打撃を与える一方で、奪ったブラックマネーを資金源にしているという。スカウトされた河合は、ブラックチェンバーに加わることを決断。その河合たちの前に人類を崩壊に導く恐るべき犯罪計画が姿を現わす・・・。進化し続ける国際犯罪の実態を抉り出す、クライムサスペンス巨編~ 新型コロナが初めて騒がれ始めたのが、確か2019年末から2020年始にかけてだった。 本作の発表が2012年とのことだから、本作が新型コロナのパンデミックを予言したものとは言えない。 恐らくは、それ以前のSARSの流行あたりに感化されたものだと推察。 ちょっとネタバレみたいになってしまうけれど、そう、本作の重要なプロットのひとつは、新型インフルエンザ(本作中ではこう呼ばれる)によるパンデミック。 主役となる元警視庁刑事の河合が、ブラックチェンバーと名乗る非政府組織にスカウトされ、日本の広域暴力団とロシアマフィアが手を組んだ巨悪と対峙することとなる。 なかなか巨悪の実態・実像がつかめず、国内外あちこちで捜査を行い、はたまた推理・推察を繰り返していく展開。 しかし、ある事件関係者の自宅を家宅捜索した際に見つかったのが、新型インフルエンザ治療薬のパッケージで、もう、この時点で凡その展開が読めてしまうこととなる。 ただ、その後もああでもない、こうでもないという展開が続くのがやや冗長。 そう、本作は全体として冗長さが目立つ。 新宿鮫シリーズなどと比べると、どうしてもスピード感やシリアスさが足りないように思えてしまう。 もうひとつ気になったのが、謎の組織として登場するブラックチェンバーの矮小さ。 要は「練りこみ不足」なのだと思うが、当初は犯罪組織の壊滅と強欲に資金奪取することを両立させるなどとカッコいいことを表明していたが、徐々にトーンダウン。中途半端な存在でしかなくなる。 ということで、ちょっと辛口評価になってしまうけれど、さすがに作者だけあって、一定のクオリティはある、とフォローしておきます。 元刑事と広域暴力団の若頭の対決なんかは、いかにも“大沢節”。安定感はさすが。 |
No.1842 | 6点 | 黒野葉月は鳥籠で眠らない- 織守きょうや | 2025/06/14 14:23 |
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作者の初読み。1980年ロンドン生れ。弁護士として働く傍ら、小説執筆・・・
本作は若手弁護士・木村龍一を主人公とする連作短編集。 単行本は2015年の発表。 ①「黒野葉月は鳥籠で眠らない」=家庭教師の教え子に「不純異性行為」をしたとして父親に訴えられた男の弁護を依頼された木村。被害者との和解を目指したのだが、関係者から事情を聞いていくなかで意外な事実が浮かんでくる。で、「被害者」=黒野葉月が最後にとったある行動がうーん。こんなことまでしちゃうの!っていうもの。いずれ後悔するんじゃないかなあー ②「石田克志は暁に怯えない」=今度の依頼者は弁護士を目指していた頃の木村の友人。弁護士の道を諦め、結婚し、一男を設けた彼だったのだが、息子は重い障害を抱えてしまう。彼には資産家の父親がいるのだが絶縁状態。そんな彼もまた、衝撃的な行動に出る。子に対して親はここまでできるのか・・・ ③「三橋春人は花束を捨てない」=一子を設けたにもかかわらず親友との浮気に走った妻。彼の願いは親権を渡さずに妻と離婚すること。浮気の証拠は続々と揃い、無事協議離婚が成立。ただ、その後に裏のカラクリに木村は気付いてしまう・・・。 ④「小田切惣太は永遠を誓わない」=超有名現代画家の彼。先輩弁護士の高塚に付き添い、彼の自宅へ訪問した木村は、若く美しい妻の姿を見て・・・。しかし、彼女は「妻」ではなく「娘」だと高塚は言う・・・。「相続」が裏のカギとなるのだが、そうか、養子ってそういう規定があるのか・・・ 以上4編。 正直なところ、ミステリとしてはかなり薄味で、弁護士としての「お仕事小説」的な読み物の部分が大きい。 ただ、全編ともラストにそれまでの構図を反転させる「仕掛け」があることが分かり、「ほォー」や「へエー」という感想を抱かせるようになっている。 そういう意味では実に「旨い」作品には仕上がっている。 全体的なプロットは老練なのに、文章としてはまだまだ「若書き」というのが、なんだかアンバランスな印象は受けるけれど、弁護士という自分の属性を作品世界に取り込み、うまい具合にまとめていることは素直に称賛。 ただ、熱量としてはそれほどではないので、「熱い」ミステリが読みたい方にはお勧めはしないかな。 (①~④とも同じ程度の面白さ、クオリティはある。中では④が好み) |
No.1841 | 8点 | ヴァンプドッグは叫ばない- 市川憂人 | 2025/05/17 13:03 |
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大好評の「マリア&漣シリーズ」も重ねて五作目。作品集を挟んだ第五弾は、シリーズ正調の本格ミステリ。
ヴァンプドックと呼ばれる吸血鬼をめぐる大事件に挑むのは、マリア&漣。そして、お馴染みとなったメンバーたち。 単行本は2023年の発表。 ~U国MD州で現金輸送車襲撃事件が発生。襲撃犯一味のワゴン車が乗り捨てられていたのは、遠く離れたA州だった。応援要請を受け、マリアと漣は州都フェニックス市へ向かう。警察と軍の検問や空からの監視が行われる市内。だがその真の理由は、研究所から脱走した、二十年以上前に連続殺人を犯した男『ヴァンプドッグ』を捕らえるためだった。しかし、『ヴァンプドッグ』の過去の手口と同様の殺人が次々と起きてしまう。一方、フェニックス市内の隠れ家に潜伏していた襲撃犯五人は、厳重な警戒態勢のため身動きが取れずにいたが、仲間の一人が邸内で殺されて…!? 厳戒態勢が敷かれた都市と、密室状態の隠れ家で起こる連続殺人の謎。マリアと漣が挑む史上最大の難事件!~ これは・・・今まで以上にスゴイ作品に仕上がってる。スケールの大きさでいえば、シリーズNO.1だろう。 紹介文のとおり、同じフェニックス市内で発生するふたつの連続殺人事件。1つは市内を舞台とした広域で、もうひとつは一軒家というCCという狭い空間で発生する。いずれにも見え隠れするのが「吸血鬼」=ヴァンプドックという存在。 連続殺人はごく短い時間帯で次々と起こっていて、それこそ人知を超えた存在でないと、物理的に無理だろ!というレベル。そこまで大きく広げてしまった風呂敷を、どのように作者は回収するのか? そこに興味の焦点が当てられることになる。 で、今回の解決編がかなりのボリューム。真犯人指摘の時点で、まだかなりのページを余していたので、どんでん返しが繰り返されるのかと予想したけど、その中身の大半は、この現実性を超越した物語を、いかにして現実的なレベルの解法に着地させるのかに費やされている。 正直、ここは相当に我慢のいる読書になった。(ネタバレかもしれんが)本作の裏のキーワードとなる「狂犬病」について、本作中のフィクションでの変異株の話など、これは相当に作りこまないと、読者の納得感は得られないだろう。 では私自身納得したのか?と問われると・・・ そこは微妙・・・ではある。 「あとがき」は真犯人の動機面を補強するためにはマストだったのだろうが、確かにこれがなかったら、少なくとも襲撃犯事件の筋は納得できなかったに違いない。 で、最後の最後で語られる、もうひとつの裏のストーリー。恐らくこんなことじゃないかと想像していたけれど、次作以降どのように関わってくるか? 興味は尽きない。 いずれにしてもスゴイ作家だったんだなあと再認識させられた本作。五作目でパワーアップというのがスゴイこと。 |
No.1840 | 7点 | あと十五秒で死ぬ- 榊林銘 | 2025/05/17 13:01 |
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またまた旧帝大出身の高学歴ミステリ作家が贈る実に企みに満ちた作品集。
タイトルにもあるとおり、「十五秒」というのが全ての作品でキーワードとなっている。 単行本は2021年の発表。 ①「十五秒」=第12回ミステリーズ新人賞の佳作受賞作(佳作・・・中途半端だな)。猟銃で撃たれ、あと十五秒で死ぬ!という、かなり特異な設定。そんな限界ギリギリの場面にもかかわらず、ふたりの女性(加害者と被害者のこと)が知恵比べを行う・・・って、よくまあこんな設定考えたよな・・・ ②「この後衝撃の結末が」=なかなか面白かった。地上波の番組のテロップなんかでよく見るタイトルなのだが、舞台となっているミステリドラマの形をとりながら、まるで「作中作」のようなプロット。更には「タイムトラベル」というSF要素も加えている。読者を煙に巻きつつ、ラストもよく決まっている。①よりもレベルが高い。 ③「不眠症」=全体的によく分からん。現実と夢の中を行ったり来たりしたうえで、それが途中からどうも二人の人物と気付く。で、いったい何が真実だったのか? まあそんなの関係ねえようなお話ではあるが・・・。好きな方には刺さりそうな作品ではある。 ④「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」=これは・・・もう「あっぱれ!」である。久々にメガトン級の衝撃を受けてしまった。加えて、ミステリの読書史上、最大級のバカバカしさである。これは細かな解説など不要。とにかく「読むべし! いやいや読まないほうがよいか?」人によっては、本作をブン投げる方もいそうだ。 以上4編。 とにかく、こんなの久しぶり。すげぇわ、この作家。 特に④である。これを映像化できたらスゲェだろうな・・・滅茶苦茶シュールな絵になるのは間違いないだろうけど。 いやいや、かなり興奮しております。いやいや、いやいや・・・ あと、これを発表させた出版社にも敬意を表します。 (特殊設定にも程があるだろ!) |