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E-BANKERさん
平均点: 6.00点 書評数: 1878件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.1878 6点 アルカトラズ幻想- 島田荘司 2026/01/04 11:32
皆さま、新年明けましておめでとうございます。2026年となりました。
今年はそれほど出遅れずに新年一発目の書評をアップすることができました。
幸い我が国は割と平和なお正月を迎えたようですが、トチ狂ったような為政者が何人も跋扈している世界を見ていると、本年が平穏無事に過ぎることは決してないような気が・・・まあ、こうやって好きなミステリを楽しめることこそが至福のとき、ということでしょう。
で、新年一作目は久しぶりに島田御大の未読作品を手に取ることにしました。(本当は「ローズマリー・・・」を読もうかと思ってたんだけどね)。単行本は2012年の発表(もう、10年以上も前かあ・・・)

~1939年11月2日、ワシントンDCのジョージタウン大学脇にあるグローバーアーチボルド・パークの森の中で、娼婦の死体が発見された。被害者は両手をブナの木の枝から吊るされ、性器の周辺がえぐられたため股間から膣と子宮が垂れ下がっていた。時をおかず第二の殺人事件も発生し、被害者には最初の殺人と同様の暴虐が加えられていた。凄惨な猟奇殺人に世間も騒然とする中、恐竜の謎について独自の理論を展開される「重力論文」を執筆したジョージタウン大学の大学院生が逮捕され、あのアル・カポネも送られたサンフランシスコ沖に浮かぶ孤島の刑務所、アルカトラズに収監される。やがて、ある事件をきっかけに犯人は刑務所を脱獄し、島の地下にある奇妙な場所で暮らし始めるが……。先端科学の知見と作家の奔放な想像力で、現代ミステリーの最前線を走る著者の渾身の一作がついにベールを脱ぐ!~

はっきり言って期待していなかった。読む前は。また、期待を裏切ってくるんだろうなと思っていた。
だって、本作の前に読んだ「盲剣楼奇譚」なんて、もう、私が大好きだった吉敷竹史を冒涜しているとしか思えなかった。
あーあ。島田荘司のネタは尽きていたんだと・・・悟らせるに十分だった。
それを思えば、本作はいい意味で期待を裏切ってきた。
「面白かった」。特に第一章から第二章は。

第一章は「切り裂きジャック」を想起させる猟奇事件を追うふたりの刑事の捜査行に夢中になれたし、何といっても第二章の「重力論文」である。これは一流のストーリーテラー足る作者の技量が十分に投入されていた。
「へえ・・・」。門外漢である私が読んでも、「重力」「地球」「太陽系」そして「恐竜」「骨盤」の話は魅力に富んでいた。
作者の読者を作中世界に引き込む力は健在なのだと、胸をなでおろした。

「えっ?」。本作はミステリではないのかって?・・・
いえいえ、ミステリです。えーえ。多分。いや、恐らく・・・。うん、多分・・・
第三章「アルカトラズ」から第四章「パンプキン王国」まで、まさに「幻想」のようなお話が続いていきます。
いったい第一章と第二章は何だったのか? 多くの読者は疑問を持つでしょう。
その答えが明かされるのが、「エピローグ」の章。
なーるほど。本作は実はそういう裏テーマがあったわけなのね。まあ薄々気付いてはいたけれど。
それにしても壮大なお話です。
いろいろと皮肉めいたことも書いてきましたが、やはり作者の「物語を紡ぐ力」は本物だと感じます。
ただ、ただ、あの頃の古き良き「馬車道時代の御手洗潔」や「冤罪事件に孤高に立ち向かう吉敷竹史」の活躍に心躍らせていた自分にとっては、どうしても「満足」という評価にはならないなあー
「オッサンはいつでもノスタルジーを感じていたい」。我儘かもしれないけれど、仕方ないじゃない。そういうものだから。
でも、「島田荘司も悪くない」と改めて思わせてくれた、新年一発目となった(多分)。

No.1877 5点 忌名の如き贄るもの- 三津田信三 2025/12/21 12:36
刀城言耶シリーズも数えて八作目の長編。
いつもながら高水準の本格ミステリを提供し続けている本シリーズだが、回を重ねてきての変容はあるのか?
単行本は2021年の発表。

~生名鳴地方虫くびり村に伝わる「忌名の儀式」。自らに降り掛かる災厄をすべて実体のない忌名に託す儀式の最中に、村の有力者・尼耳家の跡継ぎが殺される。「決して振り向いてはいけない」儀式中に右目を刺され命を落とした被害者。時同じくして目撃された異形のもの、”角目”。村を訪れた刀城言耶が事件の謎に挑む。振り向いてはいけないーー。誰も知るはずのない”忌名”。その名を呼ぶ者は、誰か?~

ラストの破壊力はシリーズ中でも屈指。
ただし、それがなければ「ちょっと物足りない」。そんな読後感だった。
ラストの「反転」については、それまで入念に作者が仕込んできた伏線が一気に目の前にやってきた!っていう感覚で、その分ヤラレタ感も強い。
この当りは、作者がホラー作家たる所以のものだろう。

殺人のトリックはなあー。あまりにプロバビリティすぎないかな? あの道具もアリバイトリックを成立させるための重要なピースだし、「エッ!」という気にはさせられたけど、回避されるリスクも相応に高いし、そこはご都合主義と思われてもやむなし。フーダニットについても、ダミーの容疑者の全員に信憑性が乏しいし、いつもの刀城言耶お得意の「仮説を立てては壊し、立てては壊し」で展開する推理にも他作品との比較で魅力に欠ける。
今回は、田舎の風俗に関する蘊蓄の比率の大きさも気になる。まあ当然、本シリーズはそういう内容だし、という部分は分かってのうえだけど、それが事件と密接に関連するかというと、そこのところも弱いと思えた。
「尼耳家の秘密」というのも、後半までかなり引っ張ってくるほどのものではなかったなあー(もう少しエグイのを想像してた)

他の多くの方は、シリーズ他作品との比較について言及されてますが、個人的には前作(「碆霊」)の方が良かったかなと・・・。当然「首無」や「山魔」が上ですが。
でも、そんな比較がファンの間でさかんになされること自体、本シリーズのスゴいところなんでしょう。(とフォローしておく)
あっ、でも決して面白くないのでは全くありません。面白いです。単なる「重箱のスミ」のようなものです。

No.1876 6点 エイレングラフ弁護士の事件簿- ローレンス・ブロック 2025/12/21 12:34
~ミステリ史上最高で最凶。絶対負けない弁護士エレイングラフ。法外な報酬でどんな被告人も必ず無罪にして見せる。そう、たとえ真犯人でも・・・。E.クイーンが太鼓判を押した第一作から38年に亘ってじっくり書き継がれてきた12編を全収録。黒い笑いとキレキレの逆転が絶妙にブレンドされた珠玉の短編集~
2024年に刊行。

①「エレイングラフの弁護」=まずは、「ほんのあいさつ程度に」という感じの第一編。本シリーズの大まかな方向性は分かる。
②「エレイングラフの推定」=実に便利な言葉。「推定」って。終盤は非常にシニカル。
③「エレイングラフの経験」=“無垢と経験”。まさに金言です。結局男は美女に弱いし、そういう女性ほど毒がある、ということ。
④「エレイングラフの選任」=まさか国選弁護士に!という本作。そして、ラストはやや意外なものに・・・”やや”というのがミソ。
⑤「エレイングラフの反撃」=こういう方向性もあるのね。最後はまあ正直いって「恐喝」だよね。それか「脅迫」?
⑥「エレイングラフの義務」=今回の依頼者は貧乏な詩人。詩をこよなす愛するエレイングラフはいつにも増して・・・でも皮肉な結果。
⑦「エレイングラフの代案」=依頼人の妙齢の女性を気に入る。でもあくまで紳士として振る舞い、「代案」という結果に至る
⑧「エレイングラフの毒薬」=この毒薬は実在してる? だんだん犯罪のスケールが大きくなっているような・・・
⑨「エレイングラフの肯定」=まるで精神科医かセラピスト。今回は弁護料でのかけひきは起こらず。
⑩「エレイングラフの反転」=依頼人はアメフトのスター選手。絶体絶命と思いきや、最後は軽々と無罪を勝ち取る。どうなってねん?
⑪「エレイングラフの決着」=ついに依頼人の美女までもがエレイングラフの手に落ちることに・・・。嫉妬深い男はダメだね。
⑫「エレイングラフと悪魔の舞踏」=最後は少しだけ今までと異なる趣向が入っている。依頼人ふたりともう一人の・・・

以上12編。作者本人のあとがき×2を含めて、解説も必読!
ブロックの短編は、これまで「殺し屋ケラー」シリーズが滅法面白くて、続編が出ないかなあーと思っていたところ、本作の登場!となったわけ。
もう、職人芸。特段付け加えて書くことないし、いらない先入観を持たないほうがいいし、以上!ということです。

ケラーもそうだし、バーニイもそうだし、本作のエレイングラフもそうだし、図形的な存在(いつも同じような思考、行動)なんだけど、作者に息を吹き込まれると、なんとも魅力的な存在になる。
そう、ブロックは「魔法の息」をもっているのだろう。そうやって、読者に至高の読書時間を与えてくれる。素晴らしい作家です。

No.1875 7点 スイッチ 悪意の実験- 潮谷験 2025/12/21 12:33
第63回メフィスト賞の受賞作品。
舞台のひとつとなる「狼谷大学」とは、作者の出身校である「龍谷大学」のことでしょう。仏教色の強い大学だけあって、宗教に関する考察も作中にたびたび挿入される。
単行本は2021年の発表。

~夏休み、スイッチをもって1ヵ月暮らすだけの簡単なお仕事。日当は1万円、勤務終了後のボーナスは、なんと100万円! スイッチは押しても押さなくても1ヵ月後には100万円が手に入る。押すメリットはない。「誰も押すわけがない」皆がそう思っていた。しかし……友人たちとアルバイトに参加した大学生の箱川小雪は思い知らされる。想像を超えた純粋な悪の存在を。第63回メフィスト賞の本格ミステリー長編~

手前味噌かもしれんが、これまで数多くのミステリに触れてきたと思ってる自分にとっても、初めての「肌触り」がする作品だった。
特に序盤から中盤にかけて。「真の悪意」を問うための実験。これがいったい、作品全体にどんな意味を持つのか?
誰も押さないはずだったスイッチが押された後、思いがけぬ展開につながっていくプロットの妙。
そう、この辺なんだよな。
次の展開が全く読めない。当然今まで触れたことのない世界観(のようなもの)。

ただし、中盤から終盤にかけて少しダレてくる。期待してたのとは違う方向に向かったので、「なあーんだ・・・」という感じになった。
このままなら尻つぼみだなと思った矢先、第八章(「犯人」)以降、再び物語は思わぬ展開を見せていく。「ああ、やっぱり本作はれっきとしたミステリだったんだあ」と。(当たり前か)
ここから何回か捻ってくる。最終的に判明する真相にはまずまず驚かされた。
なるほど、主客逆転とでも言えばいいのか、さすがに受賞作だけあると感じた。

最後までモヤモヤしたのは「安楽」のこと。あまりにもドライというか、気味悪いほど精神が均衡してるというか、ゾワゾワした感覚にさせるキャラだった。だから、もう少しそこが掘り下げられて、なにかの仕掛けがあるのかなと期待してたんだけど、そこは割とスルーされたまま終了してしまった。
でも、このプロットは面白いと思ったし、本作以降の作者の活躍ぶりをみると、最初から「兆し」はあったんだなと納得した次第。

No.1874 5点 恋と禁忌の述語論理- 井上真偽 2025/12/02 15:43
作者の実質的なデビュー作がコレ。大学生の詠彦とロリ顔美女のアラサーで叔母の硯(すずり)を主人公とする連作短編集。設定だけみてると、ラノベそのものなんだけど、そこは井上真偽ですから・・・
ノベルズ版は2015年の発表。

①「スターアニスと命題論理」=「スターアニス」とは最近料理番組なんかでよく耳にするようになった「八角」のこと。「命題論理」とは・・・説明できません!! すでに解決したはずの殺人事件(?)の真相を硯に検証を依頼するーこれが本作に共通するフォーマット。「論理学」って、へえーこういうふうに考えるんだねぇ・・・。ところで本筋は?
②「クロスノットと述語論理」=「クロスノット」とはネクタイの結び方の一つで、幅広の結び目とするもの。「述語論理」とは・・・説明できません!! でも①の命題論理よりは腑に落ちた(ような気がした)。今回も先に解決に導いた探偵の推理をひっくり返す硯さん。
③「トリプレッツと様相論理」=作者の長編シリーズ探偵である「上苙丞(うえおろじょう)」が初登場。上苙の推理を硯さんがひっくり返すという衝撃の最終譚。しかも事件は本格ミステリそのもの。「双子」や「雪密室」までも登場するなど、本作のプロットからするとかなり違和感あり。で、確かに上苙の推理は何だか物足りない。そこで登場するのが「様相論理」だ! でも説明できません!

以上3編+エピローグ編あり。
本作、確かに小難しい。さすがに最高学府出身の作者。ご自身の優秀な頭脳を隠すことなく披露されている。
他の皆さんが書かれてるように、無理やり論理学を載せているだけのように思えなくもないけど、これはこれでメフィスト賞ですから! 新味のある角度からミステリを見るのも悪くはない。

ただ、次作以降はあまり論理学の話は出てこなくなったので、さすがに出版社側も「こりゃだめだ」とでも考えたのかもしれないな。あと、硯さんのいかにも「こういう界隈」の人にウケそうなルックス、言動もなあー。まあイタイといえばイタイ。
でも、さすがにミステリとしての骨格はしっかりしてるし、それは次作以降の作品群からも明らか。
まあ”若気の至り”とでも考えておくか・・・

No.1873 4点 中国銅鑼の謎- クリストファー・ブッシュ 2025/12/02 15:41
本作の探偵役となる「ルドヴィック・トラヴァーズ」はシリーズ探偵として60作を超える作品に登場しているとのこと(スゲエ多作!)。作者って以前「完全殺人事件」を読んだような気がしてたんだけど、もしかすると初読み(かも)。
1935年の発表。

~限られた登場人物、空間における謎解きの面白さと同時に、嫌味で典型的な嫌われ型の被害者の老人、彼に翻弄される四人の甥、明晰だがどこか素っ頓狂な探偵、忠実だが度胸満点の探偵の相棒、使用人等々。どこか舞台劇を見るような興趣にあふれる・・・作品~

タイトルだけなら、E.クイーンの国名シリーズの一冊のようでもある。
「中国銅鑼(ゴングと表している)」は本作の殺人事件において象徴的な役割を果たす「モノ」として登場する。
ひとりの偏屈な老人と四人の甥、顧問弁護士、どこか陰のある執事などなど、黄金期の英国ミステリらしい道具立てが揃った殺人劇。
なのだが、探偵役となるトラヴァーズの思考、推理は事件の周りをぐるぐると回ることになる。
それも一回などではない。それこそ何回も何回も巡っていく。
読者としても、もうこれは何回目の堂々巡りなのか分からなくなるほど。そして、事件は登場人物の過去や人となりなどにも手を広げていく・・・

ひとことで言うなら「風呂敷の広げすぎ」である。
風呂敷なんてそんなに大きくないはずなのに、なぜかそれを大きく見せようとして、プロットがボヤけてしまっている。
魅力的な設定なんだけどなあー
クリスティのような料理人なら、この素材を見事に活かすんだろうなと感じたが、如何せん・・・である。
ミステリにも「メリハリ」は大事なんだと気付かされる読書となった。
いや、違うな。ミステリだからこそ「メリハリ」が大事に違いない。

No.1872 6点 倒産続きの彼女- 新川帆立 2025/12/02 15:40
処女長編「元彼の遺言状」に続いて発表された作者の長編第二弾。
前作で主役だった剣持麗子をワキに置いて、今回はその後輩弁護士である美馬玉子が主人公。
発表は2021年。

~山田川村・津々井法律事務所に勤める美馬玉子。事務所の一年先輩である剣持麗子に苦手意識をもちながらも、ボス弁護士・津々井の差配で麗子とコンビを組むことになってしまう。二人は、「会社を倒産に導く女」と内部通報されたゴーラム商会経理部・近藤まりあの身辺調査を行なうことになった。ブランド品に身を包み、身の丈にあわない生活をSNSに投稿している近藤は、会社の金を横領しているのではないか? しかしその手口とは?ところが調査を進める中、ゴーラム商会のリストラ勧告で使われてきた「首切り部屋」で、本当に死体を発見することになった彼女たちは、予想外の事件に巻き込まれて……~

実にうまくまとめている。そんな印象だ。
昨年には、かの「山本周五郎賞」も受賞した作者。物語を創作し、まとめる能力はすでにこの頃から如何なく発揮されている。

実際に弁護士でもある作者。
本作の主人公である美馬玉子は、作者自身がフィーチャーされた存在なのだろうか?
弁護士というと、門外漢の私でもすごく「多忙」な姿が想像できる。
美馬玉子もやはり、日々激烈に多忙な環境のなか仕事をしている。でもそんな中でも合コン、婚活に励み、美人で金持ちという剣持麗子にジェラシーを抱いている。
そんな女性弁護士の心のうちなんかは、やはり作者自身の姿が反映されてるんだろうなと考えてしまう。

本筋である、倒産に係る謎については、私も仕事柄興味深く読ませてもらった。かなりデフォルメされてはいるけど、そこは弁護士らしく筋のとおった中身にまとめていると感じた。
作中では大きな会社を倒産させるのは相当難しい、と書かれているけど、個人的には割と簡単なのではないかと思う。
本作のある登場人物は、かなり遠回りなやり方でやってるけど、他にも簡単な方法はあるだろう。
殺人事件の方は添え物で、ちょっと扱いが雑かな。
ただ、作中で美馬玉子が弁護士として成長していく「お仕事小説」としての良さが際立っている。

本筋とは全然関係ないけれど、玉子と親友の美法がけんかをして仲直りする場面。なんだか、昨今の日本と中国の関係を思い出してしまった。どっちも要はボタンの掛け違えのようなものであったらいいのにな、と感じた次第。
もちろん、そんな簡単なもんじゃないけどね。

No.1871 6点 ブラック・ドッグ- 葉真中顕 2025/11/23 12:53
今、個人的に”最もアツい”ミステリ作家である「葉真中顕」。
本作はシリーズ外長編、かつ、なんなんだ! この内容は・・・。かなりの問題作ではないか?
単行本は2016年の発表。

~目的のためには殺人も辞さない過激な動物愛護団体、『DOG』。遺棄動物の譲渡会が行われる会場に集まった隆平、栞、結愛と拓人たちは、『DOG』によって会場に閉じ込められ、謎の黒い獣に襲われる。獣から逃げるため、逃走を開始する人間たち。「ヒト」と「ケモノ」を隔てるのは何か~

本作の内容をひとつの単語で表すなら、ずばり「凄惨」ーである。
序盤からすでに物語は不穏な空気をまとっている。アラスカでとある食肉加工会社のオーナー一族が惨殺される事件が描かれる序章。その中身はヴェールに包まれており、真相は次章以降に明らかとなる。
舞台は変わって日本。東京の臨海地区につくられた自然公園、そしてその中の巨大ホールが、この「凄惨」な物語のメイン舞台となる。

物語は複数の視点人物から語られる。それぞれが「ある生き物」に襲われ、凄惨な殺戮が繰り返される現場をその人物の目線、思考を通して語られる。
どんなに鍛えられた人間でもその圧倒的な能力で凌駕してしまう「ある生き物」。十数体登場する「ある生き物」の前に、成すすべなく次々と殺害されていく視点人物たち・・・
さっきまで、その人物たちの過去や現在、未来の希望などが語られていたはずなのに・・・。その死は一瞬にして訪れてしまう。
あーあ。何という刹那。こういうストーリーが次々と展開されていく。
それでも、私は本作を読み進む手を止められない。なんていうか、圧倒的な物語である。紹介文で触れている「DOG」なる団体。そして、その主宰である博士と象徴的な「ある存在」。
彼らの主張は理解できる。理解できるのだが、それは酷すぎるだろ!という読者の願いも空しく殺戮劇は続けられるのだ。

本作を分類するなら、「アニマル・パニック」なんだろうか? 過去に読んだ西村寿行のネズミやバッタの大発生による阿鼻叫喚を描いた作品などが想起されるんだけど、本作は単なるパニックものではない。
そこに作者の思想が見え隠れしている。それをどう受け取るのかは読者次第。単なるエンタメ小説として理解することも可能だろう。
私は?って、うーmm。
けっこうキツい読書にはなった。「そうならないでくれ!」と願いながら、ページをめくる手が止まらない感覚。
そこは特殊設定ミステリなどでは決して味わえない、なんというか、「生々しい」感覚さえ味あわせてくれた。

No.1870 6点 シャドウ・ストーカー- ジェフリー・ディーヴァー 2025/11/23 12:49
キャサリン・ダンスシリーズの長編三作目。
間違えて四作目の「煽動者」を先に読んでしまったため、元に戻ることに・・・
単行本は2013年の発表。

~キャサリン・ダンスの友人で人気歌手、ケイリーはストーカーに悩まされていた。メールアドレスを変えても頻々とメールを送りつける男エドウィン。彼が数日後のコンサートに現れるという。ダンスが事態の対応に乗り出した矢先、ケイリーの側近が殺害された……。いかなる嘘も見抜く《人間嘘発見器》キャサリン・ダンス第3作!~

本作のテーマは、タイトルのとおり「ストーカー」である。発表年の2013年頃というと、ちょうどストーカーという言葉が話題になっていた時代背景だったんだろうと思う(多分)。
長い髪がチャームポイントの人気女性ボーカリストを付け狙うストーカーVSキャサリン・ダンス。
で、この「ストーカー」がかなりのクセ者。なにしろダンスのキネティクスがほぼ無効化されてしまう・・・

ただし、前半から犯人はほぼ一択で進んでいくので、「そりゃディーヴァーですから、最終的には予想外の大物の巨悪が明るみに出るんでしょー」と思うわけです。
で、やはりいました! 「いかにも」影の真犯人っぽい奴が。
「やっぱりな!」と思ったものの、いや! 「残りのページがありすぎるぞ!」と感じるわけです。
今回はここからが真骨頂。
何回か捻ってきます。で、最終的に判明する真相は、「裏の裏」か「裏の裏の裏」か、はたまた「裏の裏の、裏の裏」か? もはや何が裏なのか?っていう感じです。
こういうプロットだからこそのこの分厚さ。

でも今回はさすがに捻りすぎの印象。ダンスシリーズの「うり」であるキネティクスも不発なので、どうも締まりがないように思える。ただし、ネタのぶち込み具合はスゴイ。
いったいどれだけのネタを仕込んでいるのか? そのすべてを消化して訪れる最終結末。
なんていうか、そこは「さすが」のひとこと。エネルギッシュな作品なのは確かだ。

さらに、今回はリンカーン・ライムとアメリアまでがカメオ出演。ライムはライムらしく、アメリアはアメリアらしく登場して退場していった。
評価はシリーズ他作品との比較にどうしてもなってしまう。だから、こんなもんかな。
まあ水準は容易にクリアしてるけどね。

No.1869 6点 審議官 隠蔽捜査9.5- 今野敏 2025/11/23 12:48
「隠蔽捜査」シリーズ恒例となったスピンオフ作品。題して「隠蔽捜査9.5」。
今回も竜崎伸也という存在に大きく影響を受けた脇役たちが活躍する作品集となっています。
単行本は2023年の発表。

①「空席」=竜崎の前任地となった大森署の「狼狽」を描いた第一編。とにかく竜崎という類まれな上司に決めてもらいたい、という小市民の副署長以下の幹部たち。さんざん迷ったくせに、竜崎に相談した後はアッという間に解決。
②「内助」=本編は竜崎の細君である「竜崎冴子」が主役。普段は、まさに「内助の功」の役割を全うしている冴子が、ある放火事件に違和感を感じて、自らが推理を巡らす。普通なら「部外者は引っ込んでろ!」と言いそうなものだが、竜崎は違った・・・
③「荷物」=竜崎の長男・邦彦が主役。邦彦といえば、シリーズ第一作で竜崎が左遷されることとなるきっかけを作った張本人。ということで、二度と父親に迷惑をかけてはならないという感情が邪魔してしまう。
④「選択」=今度は長女の美紀が主役(美紀のほうが邦彦の姉。念の為)。大手広告代理店で多忙な日々をおくる美紀が、大事なプレゼンの日に通勤電車の中で痴漢を捕まえたことから事件は起こる。セクハラ上司やしつこい刑事に悩まされるなか、それでも助けてくれる人はいた。もちろんひとりは竜崎なのだが・・・
⑤「専門官」=今度は現任地である神奈川県警が舞台。キャリア上司を嫌う、たたき上げのノンキャリア・矢坂が一方の主役。今まで散々キャリア上司を嫌ってきた矢坂も、竜崎の人間性の前に陥落。
⑥「参事官」=神奈川県警にいるふたりの参事官。ひとりはキャリアでひとりはノンキャリア。ふたりは大変仲が悪いという・・・。その問題を解決しろと上司である本部長から命じられた竜崎。いろいろ策を練った結果、ふたりは「仲がよい」という結論になる? まあふたりとも大人だからね。
⑦「審議官」=本編は前作「探花」の後日談的一遍。「探花」で米軍の捜査官を警視庁管内で捜査させたことを今さら問題視する嫌ーな上司が登場。それが長瀬「審議官」。ただ、これも竜崎の前に陥落。
⑧「非違」=竜崎の後任の大森署長は、なんと「超美人」の女性キャリア。竜崎の大森署時代の天敵的存在だった野間崎管理官が足しげく大森署に来るようになった訳は当然・・・。
⑨「信号」=神奈川県警のキャリアたちの飲み会。題して「キャリア会」。そのままじゃねえか!

以上9編。
もう、安定してます。素直に面白いです。特に竜崎の家族を主役に据えた②から④が良かった。
ただ、これは以前から書いてますが、竜崎をあまりにも神格化しないで欲しい。たまには弱い部分とか、ピンチシーンももっと盛り込まないと、そろそろ(もう?)飽きがこないとも限りませんよ。
なーんてことは、作者なら十分承知してるんでしょうけどね。こういうスピンオフも大歓迎。

No.1868 7点 バートラム・ホテルにて- アガサ・クリスティー 2025/11/03 11:20
ミス・マープル探偵譚の第十作目に当たる長編。
本作はいつものシリーズ作品とは少し異なるプロットで、実質の探偵役はスコットランドヤードのデイビー主任警部が務めている。
1965年の発表。

~古きエドワード王朝時代の風格を持つロンドンのバートラム・ホテル。ミス・マープルは50数年ぶりに訪れたこのホテルが昔と何も変わっていないことに驚く。そこの宿泊人の一人にイギリスで知らない人はいないと言われる女性冒険家がいた。そして謎の少女。一見平和に見えるこのホテルで一人の牧師が失踪した。それと平行して起きる列車強奪事件。絡み合った糸はほつれて....~

そうか。他の皆さんの評価は思ったより辛いんだねえ・・・
個人的にはすごく面白いと思った。特に前半から中盤。古き良き英国の香りを醸し出す「バートラム・ホテル」。従業員は洗練されたサービスを行い、宿泊客は昨今のうるさいインバウンド・・・ではなく、ホテルに似合う申し分のない客層。
しかし、どこか違和感がある。どこかがおかしい・・・
いったい何がおかしいのか? そして、同時進行で起こっているらしい大規模犯罪。それを匂わす警察首脳陣の会話・・・

そう、何とも「思わせぶり」に進行していくのだ。
こういうプロット。数多のミステリ作家が思いつくのだろうが、うまく料理するのは難しいプロットだと思う。
風呂敷を広げすぎてもいけない、龍頭蛇尾になってもいけない、うまい具合の落としどころが求めらそう。

で、先に「前半から中盤まで」といったのはまさにそういうことで、ここまでで個人的な期待はかなり膨らんだわけだ。相当にスケールの大きな話なんだろうなあと・・・。
で、その期待に比べると、どうしてもこの真相はスケールダウン感は否めないかな。
問題の「真犯人」についても、もうひとつの犯罪はともかく、殺人事件の方は・・・うーん。「隠された動機」については、いかにもクリスティという感じはするけど、どうもねぇ
ただ、こういう結末が用意されているからこそのミス・マープルなのかなとは思った。確かに、殺人事件以外の部分(バートラムホテルの謎など)はむしろポワロの方が食い合わせがいいと思うもんな。

ただ、いつものマープルものの田園ミステリもいいんだけど、新鮮味と合わせて個人的には良作と思えた。
クリスティもかなり読了したけれど、やはりスゴイ作家だ。今回も「おっ!」と思わせられたんだから・・・これほどマンネリと程遠い作家はふたりとないと感じる。
(やっぱり、キレイな子は自分がキレイで魅力的ということを十分理解して行動するんだよなあ・・・。今さら確信)

No.1867 5点 時が見下ろす町- 長岡弘樹 2025/11/03 11:18
「小説NON」誌に断続的に発表された作品をまとめた連作短編集。
「短編集」といえば作者、くらい現代短編集界隈では第一人者(?)のように思える
単行本は2016年の発表。

①「白い修道士」=“モンクス・フード”(=白い修道士)は日本風にいえば「トリカブト」。ということで、まあ「毒殺」である。プロットの中心は祖母と孫娘の会話なのだが、どうも分かりにくい。
②「暗い融合」=本当に暗い話だ。でも、わざわざそのために、そんなことまでするかな?という疑問は当然起こる。
③「歪んだ走姿」=これもそう。ここまで偶然が続くとご都合主義がすぎるし、ここまでやるかなあー?という感は拭えない。ここまで読むと、ああ①から③まで緩~くつながってるんだなということが分かる。
④「苦い確率」=ギャンブルに勝つ方法。確かに、それはまあそうだろう。でも、それをこんな形で実践しなくても・・・という奴が登場。それに巻き込まれた三人の男はたまらない。
⑤「撫子の予言」=いるんだろうね。実際。こういう「並び数字のマニア」って。マニアの心は常人には分らんけど、それを分かって罠をはる女性が妻なんて・・・ある意味コワッ!
⑥「翳った指先」=いい人に見えたんだけどなあーあの人物。それがまさか〇〇とは・・・。今どき、紙幣をカラーコピーしたら犯罪ということを知らないなんて、中学生とはいえ現実感が薄い。
⑦「刃の行方」=最初よく分からなかった。連作中の立ち位置も不明な第七編。
⑧「交点の香り」=空き巣に入られた女性が部屋でバッタリと遭遇。この女性は全盲で犯人の姿は見えないはず・・・だった。実は全盲は女性の嘘。で、どうなる? ただ、障害年金の申請には診断書が必要だから、医者もグルじゃないと虚偽申請できないと思うんだけど・・・

以上8編。
①から⑧まで、どこかの主人公がどこかに端役で登場するなど、緩く世界観を共有する連作集。
こういうプロットはたまにあるけど、本作はそこになにか仕掛けがしてあるというわけではない。(そこに期待してしまった)
他の方も書かれてますが、「そんなことでそこまでするかな?」といった、ちょっと腑に落ちない感覚は確かに分かる。

短編の場合、どうしても登場人物が限られるので、その少ない人物に役目を割り振らざるを得なくなる。そこに「仕掛け」「トリック」を咬ませると、どうしても無理が生じてしまう場合がある。きっとそういうことなんだろうと思う。
やっぱり短編は「切れ味」が一番大事。最後に「オッ!」や「エッ!」と思わせることができれば概ね成功なんだろう。
本作は・・・そこまでではないな。

No.1866 5点 双蛇密室- 早坂吝 2025/11/03 11:17
“援交探偵”上木らいちシリーズの長編四作目。
らいちの相棒?藍川刑事の出自、出生の秘密にまつわる謎が今回のテーマ。しかも「密室」、そして「ヘビ」である。
ノベルズ版は2017年の発表。

~「援交探偵」上木らいちの「お客様」藍川刑事は「二匹の蛇」の夢を物心付いた時から見続けていた。一歳の頃、自宅で二匹の蛇に襲われたのが由来のようだと藍川が話したところ、らいちにそのエピソードの矛盾点を指摘される。両親が何かを隠している?意を決して実家に向かった藍川は、両親から蛇にまつわる二つの密室事件を告白された。それが「蛇の夢」へと繋がるのか。らいちも怯む(!?)驚天動地の真相とは?~

うーーん。この密室トリックって、どうなの?
蛇にまつわる密室といえば、オールドファンにとっては当然、かの「まだらの紐」が思い出されるだろう。
「まだら・・・」の場合も、「あんなところでヘビ飼ったら窒息して死ぬだろ!」など、トンデモミステリ的な側面が結構ある(時代性もあるけどね)。
本作の場合も、こりゃかなりの”トンデモミステリ”となった。
特にふたつめの密室トリック。これは・・・島荘もビックリだ。これを「奇想」と呼ばずして何を奇想と呼ぶのか? その光景を想像するだけで、怖いというより笑ってしまいそう。

で、問題はひとつめの密室トリック。
これもまあかなりの「奇想」。化学的いや医学的にこれはあり得るのだろうか? これをアノ行為の最中に思い付いたらいちって一体・・・
今まで出会ったことのないトリックなのは確かではある。(トリックではないな。いわゆる「偶然の連続」っていうやつか)
そもそも毒蛇を自由に操ることができる女性がすぐ隣に住んでいること自体、異常な環境である。

うん。アイデアは面白いんだけどね。全体的に雑だよね・・・
それも作者の狙いなのかもしれんけど、ちょっと「やっつけ感」もあると思う。
とにかくこんなトリック思いつきましたので、っていう大学のサークル的なノリっていうか・・・
だから、どうしても読み物としての高い評価はできないな。
(やっぱり、あれは奥に届くくらい長い方が良いのだろうか・・・)

No.1865 6点 金時計- ポール・アルテ 2025/10/26 12:32
名探偵オーウェン・バーンズシリーズの長編作品。
翻訳者解説によれば、本作は本国以外の翻訳版が先に発表された珍しいケースとのこと。へぇー・・・
2019年の発表。短編「斧」も併録。

①「金時計」=~1911年の冬――霧深い森にそびえる山荘「レヴン・ロッジ」。貿易会社の辣腕社長ヴィクトリアが招いたのは、いずれも一癖も二癖もある男女。ヴィクトリアの弟・ダレン、アーティストから転身した副社長アンドリュー・ヨハンソン夫妻、アンドリューの秘書のシェリル。アンドリューはシェリルとの浮気に溺れ、妻のアリスはとうにそれに気づいている。ダレンは金と女にだらしない男で、山荘で出会ったシェリルにも気がある様子……そんな顔ぶれが揃った朝、森の中で死体が発見される。現場は完全な「雪の密室」だった。
1991年の初夏――劇作家アンドレは、子供の頃に観たサスペンス映画を探していた。スランプに陥っていたアンドレは妻のセリアの助言もあって、自身の創作の原点といえるほどの影響を受けながら、タイトルすら忘れてしまったその映画にもう一度向き合おうとしたのだ。隣人の勧めで、アンドレは映画マニアの哲学者モローを訪ね、彼の精神分析を通じて少年時代に立ち返っていく……~

本作を語るうえで外せないのは、まずは「雪密室」のトリックである。
このトリックの解法が説明されるのは、本当の最終盤。これは作者の狙いとしか思えない。
で、そのトリックなのだが・・・「良い」!
ただ、気になるのは、これっていわば「錯誤」を使ったトリックだと思うのだが、この「錯誤」はかなりリスキー。
普通は無理筋と一笑に付されてもやむないレベル。
オーウェン・バーンズもそこのところは理解していて、アレコレと補強はしているのだが、人間の感覚としての違和感は拭えない。
でもまあー、それを言っちゃあおしまい。
個人的には「面白い」と思った。特に、昨今の「雪密室」トリックで頻出するあのトリックの応用版とも言える今回のトリック。
確かに「足跡」についてはそう解釈できるよねー(いや、リアリティは横に置いといてだよ)
そしてもう一つ、重要なプロットとなっているのが、二つの年代を行き来しながらストーリーが進んでいくところ。
当然クロスしてくる。
1911年は、先に触れた雪密室が関わり、オーウェン・バーンズが登場するパート。一方、1981年は、自分が幼いころに見たはずの「映画探し」を軸に展開。
二つのストーリーが徐々に同じような方向に向かっていき・・・というようなストーリーライン。仕掛け、結末については、まあそれほど「ビックリ!」ではないし、どうもモゾモゾしたなという感覚が強い。
全体としては、評価はそれほど高くはならないけど、アルテにしては割ときれいにまとめたなという気にはなった。(全体的にですよ)

②「斧」=本当に短い短編。でもこれがなかなか。本格ミステリに必要なエッセンスだけに絞りました!と言わんばかり。もちろん不満な部分も結構あるけれど、結局はミステリってこういうものでは?という新鮮な感覚。

No.1864 4点 絞首商會 - 夕木春央 2025/10/26 12:31
第60回メフィスト賞受賞作にして、作者のデビュー長編。
「方舟」で大ブレイクを果たす「前夜」ということになるのだが、その後に続くシリーズの第一作という立ち位置でもある。
単行本は2019年の発表。

~謎が謎を呼ぶ怪死事件。元泥棒が導く真相に瞠目せよ。和洋入り交じる大正の東京。秘密結社「絞首商會」との関わりが囁かれる血液学研究の大家・村上博士が刺殺された。不可解な点は3つ。遺体が移動させられていたこと、鞄の内側がべっとり血に濡れていたこと、そして、遺族が解決を依頼したのが以前村上邸に盗みに入った元泥棒だったこと――。
頭脳明晰にして見目麗しく、厭世家の元泥棒・蓮野が見つけた四人の容疑者の共通点は、“事件解決に熱心過ぎる”ことだった・・・~

どうしても「方舟」の余韻が残ってしまって、“あの”風味や出来栄えを期待してしまう。
そういう読者にとっては、きっと「物足りない」という感想になると思う。かく言う私もそう。
正直なところ、「比べるべくもない」というレベル。
でもまあ、デビュー作である。
ハードルを勝手に上げすぎたこっちが悪いのかもしれない。

本作のメインテーマとなるのは、フーダニットよりも「四人の容疑者がなぜこんなにも事件の解決に熱心なのか/真犯人を知りたがるのか」という謎。
で、確かにこの真相は納得する形で解決が成される。そして、それに付随するように真犯人も明らかとなる、という仕組み。
これ自体は良いし、プロットとしても面白く感じた。

ただ、それ以外の筋立てというかストーリー部分に面白みがなさすぎる。中盤の展開も、動機部分の肉付けもあるのだろうけど、関係ない脇筋が多くてダレる。「もういいや」っていう感覚になってしまう。
やっぱりミステリといったって「読み物」だからね。ストーリーそのものにも魅力がないと評価は下がってしまう。
本作はシリーズ物にもなったようだし、次作に期待というところ。

No.1863 6点 密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック - 鴨崎暖炉 2025/10/26 12:30
処女作「密室黄金時代の殺人~雪の館と六つのトリック」に続く第二弾長編。
またしても「密室」、密室、はたまた「密室」である。ここまで拘りを持つ作家も珍しいのではないか?
今回はいったいどんなトリックが待ち受けているのか? 期待大。2022年の発表。

~日本有数の富豪にしてミステリーマニア・大富ケ原蒼大依が開催する、孤島での『密室トリックゲーム』に招待された高校生の葛白香澄は、変人揃いの参加者たちともに本物の密室殺人事件に巻き込まれてしまう。そこには偶然、密室黄金時代の端緒を開いた事件の被告と、元裁判官も居合わせていた。果たして彼らは、繰り返される不可能犯罪の謎を解き明かし、生きて島を出ることができるのか!?~

スゴイ! ある意味ふたつとないスゴイ作品だ。
前作はサブタイトルどおり「六つの密室」だが、今回は「七つの密室」が登場する。合わせて“13”である!
ただただ、スゲエー!

第5章の「メイントリックの解明」で説明される密室トリックからいってみようか・・・
「カードキーの密室」・・・バカミストリックである。ただ、所詮カードキーなんてこんなもんだろうなという気はする。
「十字架の塔の密室」・・・スケールでいえば、史上最大規模の密室かも。とにかく「豪快」のひとこと。リアリティなんてくそくらえだ!と言わんばかりだ。でも「音」はスゴイと思うのだが・・・
次に「首切り密室」の強引さもかなり。物理的トリックなのだが、これは本当に「物理的」に正しいのか? で、これもかなりの「大音響」だと思うし、絶対に跡は残る。
意外に感心したのは、「蝶番の密室」。捨てトリックが否定されたところで、アレが使われるとは・・・(東野圭吾のアレと被るね)。

全部触れるのは尺的に無理なのだが、まあよくここまで考えたな、というのが素直な感想。
「密室愛」というよりは、サブタイトルどおり、「密室狂乱」または「密室偏愛」だ。
あとのギミックは、もはやこじつけというか、付け足しである。ただ、付け足しすぎて、もはや素材を大量にぶちこんだ訳のわからないカオス料理になっている。
終章で判明する「叙述系トリック」とやらもなあー。作者としては、伏線をうまく仕掛けたのかもしれんが、いまさら・・・

これはもう、密室好きの密室好きのためのコアファン向けのミステリ。それ以外の方が読むと、強度のバカミスという評価以外あり得なくなる。
私は?って・・・もちろん、好きですよ。えぇ、好きなものは仕方ないじゃないですか(と開き直る)。
ただ、最近特殊設定ミステリの割合が増えすぎて、なにか「乾いた読書」になっている。たまには「ウェットな」或いは「熱い」作品も読まないと、心がカラカラになりそうな気がする。(訳の分からん表現ですが・・・)

No.1862 10点 名探偵に甘美なる死を- 方丈貴恵 2025/10/11 12:30
「時空旅行者の砂時計」「孤島の来訪者」に続く、「竜泉家シリーズ」の掉尾を飾る?三作目。
私としては、異例の早さでシリーズものを読み切ることになりました(たった三作ですが)。
単行本は2022年の発表。

~「犯人役を演じてもらいたい」と世界有数のゲーム会社・メガロドンソフトからの依頼で、VRミステリゲームのイベント監修を請け負った加茂冬馬。会場であるメガロドン荘に集ったのは『素人探偵』8名、その中には「幽世島」の事件に関わった竜泉佑樹もいた。だがイベントは、探偵と人質にされたその家族や恋人の命を賭けた殺戮ゲームへ変貌を遂げる。大切な人と自身の命を守るには、VR空間と現実の両方で起きる殺人事件を解明するしかない! 次々と繰り出されるトリックと鮮やかなロジックが圧倒の、『時空旅行者の砂時計』『孤島の来訪者』に連なる〈竜泉家の一族〉三部作~

本作の評点は「10点」か「1点」の二択。読了後そう感じた。
「1点」の理由→とにかく複雑すぎる! 前二作では「タイムトラベルと旧家のドロドロ連続殺人」「マレヒトという異形の存在と絶海の孤島の連続殺人」といういずれも「新しさ」と「古さ」を並立させてきた作者。今回は、「VR空間・アバター」と「館もの」という「新しさ」と「古さ」のふたつを出してきた。
で、問題はVR空間とアバターを使った各種トリック。リアルとVRを行き来するところにトリックが仕掛けらているわけだけど、読み手の私はもう、頭の中がゴチャゴチャ。探偵役の加茂の説明を聞いても、「エッ?、エッ?」と何度思ったことか・・・
特殊設定、ここに極まれりという状況の中で、あまり信憑性とかアラ探しをしても意味はないのかもしれないけれど、コレを完璧に理解しようと思うと、多大なる労力と時間を要すると思われる。
作者の作品に対しては、これまで何回も「伏線の分かりやすさ」に言及してきたけれど、本作の場合、もはや伏線なんていったいいくら仕掛けられているのか想像もつかない。果たして、破綻なく伏線は回収されているのだろうか?
というように、もしミステリ初心者の方が本作を読んだら、「もう二度と読まない」なんていうアレルギーすら起こしかねないレベルだ。

「10点」の理由→これはもう、「複雑すぎる」とか「理解不能の動機」などという読者の矮小な批判を超えたレベルの作品、という判断。
こんな設定、プロット、トリック、その他モロモロ・・・よく考えたよなあー
もはや神レベルである。組み上げた複雑さは史上最高レベルのミステリだろうと思う(個人的感想ですが)
しかも「三部作」。エピローグには三部作のラストに相応しいラストも用意されている。
いやいや・・・もう脱帽。他のミステリ作家ならどう感じるのだろう? 羨望なのか罵倒なのか、無視なのか・・・
もしも。もしも私がミステリ作家なら、あまりのレベチに「放心」・・・のように思える。

ということで、多少迷いましたが、超久々に「10点」です。これは本作単体というよりシリーズ三作まとめてということと、作者への敬意を表してという意味で。
ミステリは方向性はともかく、やはり「驚き」は必要なのだと再認識しました。

No.1861 5点 緋色の十字章 (警察署長ブルーノ)- マーティン・ウォーカー 2025/10/11 12:28
またまた作者の初読みである(最近割と多いな)。
舞台はフランスの田舎町。主役はそこの田舎警察の署長。つまり、普段は平和に慣れ切ってる街で起こる事件・・・である。
2008年の発表。

~名物はフォアグラ、トリュフ、胡桃。風光明媚なフランスの小村で、のどかな村を揺るがす大事件が発生する。戦功十字章を授与された英雄である老人が、腹部を裂かれ、胸にナチスの鉤十字を刻まれて殺害されたのだ。村でただひとりの警官にして警察署長のブルーノは、平穏な村を取り戻すべく初めての殺人事件の捜査に挑む。英国のベテランジャーナリストが描く清新な警察ミステリ~

"緋色の”っていうと、どうしても「緋色の研究」を思い出してしまう。ただ、まったく関係なかったな・・・
本作は、実に「生真面目な」警察小説だった。警察小説といっても、舞台はフランス南部の超田舎町。警察署長といっても、他に部下署員はひとりもいない! まさに”ワンオペ”!
なので、捜査の過程で刑事たちが互いの主張をぶつけ合う・・・なんてことも起きない。
パリからやってきた、いけ好かない「エリート検事」との軋轢なんてのはありますが。

ストーリーの軸は、「被害者がなぜナチスドイツを想起させる鉤十字の印を付けて殺害されたのか?」という点。
そこに現代フランスが抱えている社会問題が関係してくる。
社会問題とは、「移民問題」である。日本でも最近外国人問題が急浮上している気がするけれど、ヨーロッパではとっくの昔からこの問題が大きく横たわっている。
元新聞記者の作者ということらしく、社会派的なプロットということなんだろうけど、そこまで暗くジメジメしてないので、そこはご安心を。
それよりも、フランス南部の美しい自然や、旨そうな料理の数々、といった描写が多く、そこに警察署長=ブルーノのラブロマンスも関わってくる・・・

事件の真相は・・・読者が推理できるようなものではないし、解決の方法(解決してるのか?)も含めて拍子抜けの感はあるけれど、まあこれはこれでクドクド不満を述べないことにする。
ミステリ、警察小説などと肩肘張らず、半分旅行案内書的に気楽に読むほうがよい。(じゃあ、トラベル・ミステリ?)
シリーズは他に2作あるとのことだけど、うーん。読むかな? そこは微妙。

No.1860 6点 午後のチャイムが鳴るまでは- 阿津川辰海 2025/10/11 12:26
「学園ミステリ」である。へえー、作者ってこんな軽~いミステリも書くんだね・・・
ってな具合に手に取った本作。架空の高校(当たり前だが)「九十九ケ丘高校」を舞台とする連作短編集。
単行本は2023年の発表。

①「RUN!ラーメンRUN」=どうしても昼休みに豚骨ラーメン、いや醤油とんこつラーメンを食べたいふたりの高校生の物語。そう、連作の最初はこんなお話で始まる・・・
②「いつになったら入稿完了?」=お次は文化祭前の文芸部のお話。意外にも、チェスタトンのあの有名作品、有名トリックが引用されます。うーーん。
③「賭博士は恋に舞う」=これは力作だ! すごい! でも正直言って頭が付いていかなかった。何の話かって? 「消しゴムポーカー」ですよ! まさかこんなに頭を使い、神経戦が展開されるとは・・・。麻雀も顔負け。正式なゲームにならないのか?
④「占いの館へおいで」=教室の前で何気なく聞いたある不思議な言葉(フレーズ)。それがどういう意味なのかを三人の女子高生が推理していく。名作「九マイルは遠すぎる」のオマージュ的作品。結局答えは何でもアリなのだが・・・
⑤「過去からの挑戦状」=本編のみ書き下ろし。で、連作の最終話だから、当然にこれまでの伏線が回収される仕組み。とともに、アノ人物の「若気の至り」までもが明らかにされる。人間消失のトリックは付け足しのようなものだな。

以上5編。
阿津川辰海。1994年生まれ。現在(恐らく)29歳。まだまだお若い。
40や50歳を超えるオッサンが学園ミステリなんて書くと「よく書けるよなあー」などと感じてしまうのだが、まあ許せる範囲。
で、本筋の評価は?
--よくできているんじゃないですかね。
最終話の仕掛けなんて、最初から考えていたんだろうか? 成り行き?

まっ、でも戻れるものなら戻りたい。あの日々に・・・
と思わずにはいられませんね。

No.1859 5点 8つの完璧な殺人- ピーター・スワンソン 2025/09/15 13:29
作者の初読みである。ほかの方もそうかもしれないが、タイトルに惹かれてつい手に取ってしまった作品。
作者六作目の長編に当たる作品(当たってますか?)
2020年の発表。

~ミステリー専門書店の店主マルコムのもとに、FBI捜査官が訪れる。マルコムは10年前、犯罪小説史上もっとも利口で、もっとも巧妙で、もっとも成功確実な“完璧な殺人”が登場する8作を選んで、店のブログにリストを掲載した。『赤い館の秘密』、『ABC殺人事件』、『見知らぬ乗客』……。捜査官によると、それら8つの作品の手口に似た殺人事件が続いているという。犯人は彼のリストに従っているのか? ミステリーへの愛がふんだんに込められた、謎と企みに満ちた傑作!~

「赤い館の秘密」「ABC殺人事件」「殺意」「見知らぬ乗客」「アクロイド殺し」の5つは読了している。
「殺人保険」「死の罠」「シークレット・ヒストリー」の3つは未読。以上終了!
・・・って、そんな訳にはいかないか・・・

個人的に期待していた方向ではなかったなと。まあ、それは大方予想していたことではあったのだが。
いま現在の海外本格ミステリというのは、こういう作風、こういうプロットがメインなのだろうか?
ホロヴィッツなんかを読んでいると、それなりにフーダニットの興趣も大事にしているんだなあーという感想を持つのだけど、本作の場合はちょっとねぇ。
確かに、最終盤に判明する真犯人については、正直ビックリした。なんていうか、斜め45度からヤラレタというような感覚。
ただ、これは相当に唐突だし、ロジックも何もなく、無理矢理。ご都合主義と評されてもやむなし、である。

本作がロジック云々に重きを置いてないのは明らかだし、これは主人公の一人称で書かれているところに「欺瞞」が仕掛けられているタイプか?と推察したものの、最後まではっきりした表現。明確な回答は出ないまま終了。
読者としては、もやもやしたまま。消化不良、煮え切らないという結論になる。
で、結局のところ、作者のひとり遊びに付き合わされた感が強くなる。それにしては分量もそこそこ多いしな。
まあ本作だけで作者を評価するのもどうかと思うので、機会があれば他の作品も読んでみようかな・・・

あっ! あと↑上記作品のネタバレにはご注意ください。

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