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E-BANKERさん
平均点: 6.01点 書評数: 1794件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.1794 6点 殺人七不思議- ポール・アルテ 2024/07/05 13:42
名探偵オーウェン・バーンズシリーズの二作目に当たる長編。先に四作目に当たる「あやかしの裏通り」を読んでしまっていたけど、あまり関係ないはず。
作者らしい不可能犯罪てんこ盛りのシリーズ。今回も「てんこ盛り」かどうか?気になるところ。
2006年の発表。

~「探偵のなかの探偵オーウェン・バーンズが、お力添えにまいりました」。密室で生きたまま焼かれた灯台守。衆人環視下で虚空から現れた矢で体を射抜かれた貴族・・・。「世界七不思議」になぞらえた予告殺人の捜査に乗り出したオーウェン・バーンズは、「犯人を知っている」との報せを受ける。ある令嬢を巡る恋敵であったふたりの青年が、互いに相手こそが犯人だと名指ししたのだ。令嬢は彼らにこう言ったという。「私を愛しているなら人を殺して見せて。美しい連続殺人を!」。不可能犯罪の巨匠が贈る荘厳なる殺人芸術!~

うーん。いったいこりゃなんだ?
というのが、読了後すぐの偽らざる感想。
「世界七不思議」になぞらえた七つの不可思議な殺人事件。突然に人体が燃えたり、目の前に水差しがあるにもかかわらず脱水症で死んだ男、ありえない位置から大弓で射抜かれた男、などなど、とにかく不可能趣味あふれる状況での殺人が続いていく。
これ自体は、いかにも「ポール・アルテ」らしい、ケレン味に富んだ作品といえる。

ただ、その解法がなあー。実に簡単に、実にアッサリと解決させられてしまう。
「もっと大上段に構えて、もっともったいぶって、大掛かりなトリックを見せろよ!」っていう読者の希望とは裏腹。割と地味に、割と現実的に、割と「まぁそうだよねぇー」という感じで片付けられていく・・・
そりゃ、ねぇー。仕方ないと言えば仕方ないのかもしれんが、ここまで期待のハードルを上げられた身にとっては、肩透かしというかしぼんだ風船、というような表現になってしまう。

あとはフーダニット。紹介文のとおり、序盤からほぼ特定されてしまう。ただ、そこには作者の欺瞞が隠れてはいるんだけど、テーマとしては「ミッシング・リンク」の関心もあるだろうに、そこは最初から捨ててかかっていることは残念ではある。
その代わりに作者が拘ったのが、ヒロイン役のアメリーとオーウェン・バーンズとのラブストーリー的要素ということなのかな。
(個人的にそこはそれほど響かなかったのだが・・・)

ということで、いい意味でも悪い意味でも作者らしさ全開の作品とは言えそう。
個人的に本作をひとことで表現するなら「龍頭蛇尾」。
でも、決して嫌いではないです。(ここまで辛口評価しておいて?)

No.1793 5点 四月の橋- 小島正樹 2024/07/05 13:40
「詰め込みすぎミステリー」の第一人者である作者(個人的に勝手にジャンルを作ってますが・・・)。
初期の「那珂邦彦」シリーズなのだが、探偵役は相棒で弁護士の川路が務めている本作。
なぜか未読だったため、今頃になって読了。2010年の発表。

~探偵役は鹿児島弁の抜けない弁護士・川路弘太郎。リバーカヤックが趣味のせいか、川では死体に出会い、河口で発見された死体の殺害犯として逮捕された容疑者の弁護を引き受ける。知り合いの女性弁護士の父親だったからだ。前作で見事な推理の冴えを披露したカヤック仲間、那珂邦彦の頭脳も借り、家族の秘密や昔のいじめ事件・・・と複雑な謎を解き、水上の大団円を迎える。日本版『川は静かに流れ』の傑作!~

紹介文では「鹿児島弁が抜けない」とあるが、作中では自分のことを「ワシ」というくらいで、他は普通に標準語をしゃべっている(前作もノベルズ版では鹿児島弁が強かったようだが、不評を受けて文庫版ではほぼ標準語になっていた)。「川では死体に出会い」とあるが、確かに冒頭の場面で死体と遭遇するのだが、那珂が鋭い推理力を有していることを示すのみで、後の本筋とは殆ど絡んでこない。
などなど、「こんな紹介文書くなよ!」って言いたくなってしまった。

で、話を本筋に戻すのだが、残念ながら、実に残念ながら、本作に「詰め込みすぎミステリー」の要素は皆無。
「詰め込みすぎ」を期待した読者にとっては、肩透かしのような作品になってしまう。
「日本版『川は静かに流れ』」とあるが、残念ながら私は未読のため、それが正しいのかどうかは不明。なんだけど、ひとつの家族が織り成す物語は、まるで川の流れのように、まっすぐではなく、蛇行したり急に水量が多くなったり、人智を超えた偶然にさらされながら進んでいくことになる。
商売を成功させ裕福な暮らしをしているはずの父親、頭脳も美貌にも恵まれ何不自由なく育ったふたりの姉妹。そんな、何の不満もないはずの一家が、どうしようもない不運と抗しがたい流れにさらされていく・・・のだ。

ただ、「ちょっと食い足りないなあー」というのが正直な感想かな。
作者特有のリアリティのかけらもなく、偶然の連続に支えられた大掛かりなトリックを期待している向きにとっては、あまりにも地味すぎた。
確かにたまにはこういうテイストの作品ももちろん良いのだが、作者に期待しているのはあくまでも「詰め込みすぎ」なのだ、ということを再認識した。
誰が何と言おうとも、評論家が辛辣な評価を下そうとも、いつまでも「詰め込みすぎて」欲しい! 読者とは勝手なものです。でも本音だからしようがないでしょう!
(リバーカヤックの蘊蓄は確かに多すぎ! でも面白そうだ)

No.1792 5点 誘拐の季節- 西村京太郎 2024/07/05 13:39
まだまだ未読がたくさん残ってる?と思われる、作者の短編作品。
本作は昭和40年代に雑誌に発表された短編作品をまとめ、双葉社が編んだ作品集。
2004年に新書版が発表されている。

①「誘拐の季節」=人気女優が誘拐された! しかし、誘拐犯と思われる四人の男たちが次々に殺害されていく・・・。まあこの手の話によくあるカラクリですな・・・
②「女が消えた」=新興宗教が広まる田舎の町で忽然と消えたひとりの若い女性。町中の人に尋ねても誰も知らないという・・・古臭いプロットではある。あと、どうしようもない昭和臭
③「拾った女」=現代なら総スカンされそうなタイトルである。モテない男がなぜか美女にモテてしまう。そう、当然ウラがあるわけで・・・そういう話です。
④「女をさがせ」=モテない男がなぜか美女にモテてしまう。そう、当然ウラがあるわけで・・・そういう話です。アッ!③と被ってしまった! でもそうなんです。
⑤「失踪計画」=いくら何でも安易すぎるだろ! こんなユルユルの計画!ということで、最後にはアッサリと捕まってしまいます。アーメン。
⑥「血の挑戦」=ラストはタイトルからも想像がつくとおり、ハメット風のハードボイルド作品。ただし、いかにも生煮えで中途半端な最期を迎えてしまう展開で・・・

以上6編。
今回の作品集はライト級。凝ったプロットなんてものは殆どなし。
まあそれも仕方ない。なんせ掲載誌をみると、ひと昔もふた昔も前のグラビアメインの三流?雑誌ばかり。
さすがの若き日の西村御大とはいえ、何でもかんでも全力投球というわけにはいかんでしょう、と勝手に推測して納得した次第。
多分、御大ならこの程度の作品、一日で何作も書いていたんではないか?
(個人的ベストは、作者の嗜好の片鱗が伺える⑥かな)

No.1791 5点 ホテル1222- アンネ・ホルト 2024/06/09 13:18
女性捜査官「ハンネ・ヴィルヘルムセン」を主人公に据えたシリーズの八作目に当たる作品。
ちょっと前にシリーズ前作である「凍える街」を読了して、作者に対しても少し興味が出ていたので、次作も手に取った次第。
2007年の発表。

~雪嵐のなか、オスロ発ベルゲン行の列車が脱線、トンネルの壁に衝突した。運転士は死亡、負傷した乗客たちは近くの古いホテルに避難した。ホテルには備蓄が多くあり、救助を待つだけのはずだった。だが翌朝、牧師が他殺体で発見された。吹雪はやむ気配を見せず、救助が来る見込みもない。さらにホテル別棟の最上階には正体不明の人物が避難している様子。乗客のひとり、元警官の車椅子の女性が乞われて調査に当たるが、事件は一向に解決せず、またも死体が・・・~

紹介文のとおり、本作、場面設定でいえば、「嵐のために外界から隔絶された究極のCCで他殺体が1つ、また1つ発見される」という、古き良き本格ミステリーのフォーマットが採用されている。
巻末解説によると、作者自身も敬愛するA.クリスティの諸作(敢えていうと「そして誰もいなくなった」と「オリエント急行の殺人」)のオマージュを狙った云々と書かれている。
ただし、作品のプロットや雰囲気はかなり異なっている。

はっきり言って、本格ミステリーの風味は相当薄味だと思う。一応、最後にはハンネが避難した乗客を集めて真犯人の指摘を行うのであるが、真犯人の絞り込みというか、その辺の興趣は個人的には殆ど感じられなかった。
伏線が全くないとは言わないけれど、それ以外の雑事の描写が多すぎて、殺人事件の解明そのものに集中できないと言えばいいのか・・・。
これが北欧ミステリーの特徴? どちらかというと、極限状態に追い込まれたハンネの心象や過去、同居人等への思いを語る場面が多くて、多分に映像向きの作品のように思えた。

あとは、これも巻末解説の受け売りだけど、ノルウェーという国に対する作者なりの考察を作中に反映させているのかな? 前作でもそうだったけど、雪また雪に埋もれる街、人々は割と敬虔だけど、どこか秘密を抱えているような人が多いetc。本作でも〇〇人、〇〇人という表記が結構多いし、ハンネの感覚も人種で分かれている気がする。

ということで、結構ヘヴィーな読書になった。
単にCC設定が好きだから、という理由だけで本作を手に取ると、「なんか違う!」っていう感想になるかも。
本作はシリーズ八作目ということだけど、現状簡単に手に入るのは前作と本作のみということのようなので、うーん、しばらくは他作品は読めない(読まない?)かな・・・
ただし、「つまらない」という評価ではないので、悪しからず。

No.1790 6点 ボーンヤードは語らない- 市川憂人 2024/06/09 13:17
個人的に好評を博している「マリア&漣シリーズ」初の短編集。
魅力的な謎の提示と切れ味のあるロジックは短編でも同じなのか? 興味のあるところ。
単行本は2021年の発表。

①「ボーンヤードは語らない」=本シリーズのフォーマットどおりのタイトルを冠した一編。時系列でいうと、処女作の「ジェリーフィッシュは凍らない」の後日譚的な位置付けのよう。短編らしく、最後に構図が反転してくる。でも、やや地味かな。
②「赤鉛筆は要らない」=漣がまだ日本にいる頃(=刑事になる前)の事件。これぞ純正「雪密室」の本格ミステリー。これまでも数多のミステリー作家たちが挑んできたテーマ。作者はいったいどんな新しいアイデアを盛り込んできたのか? で、新しいのは「足跡のつけ方」なのかな? ある意味斬新ではある(雪道でそんなことをしている、という意味で)
③「レッドデビルは知らない」=タイトルの『レッドデビル』とはマリアの学生時代のあだ名。ハイスクールの寮生だったマリアと親友が巻き込まれた殺人事件。純粋無垢に見えた親友には大きな秘密があった! そして、マリアに残った苦すぎる傷・・・。
④「スケープシープは笑わない」=マリア&漣が初めてコンビを組んだ事件として描かれる。ただ、これも実に「苦い」思い出となってしまう。アリバイトリック?と思わせておいて、最後には事件の構図が反転させられる。

以上4編。
作者の器用さを再認識した本作。
ただ、短編を書くのはあまり得意ではないのかも。いつものマリア&漣シリーズの長編に比べて、どこか「窮屈」な作品になっているような感じを受けた。
当然だけど、字数制限の緩い長編の方が伸び伸び書けていて、面白さも数段増すというイメージ。

今回は、マリアと漣の「エピソード・ゼロ」的な作品で、シリーズファンに向けた作品ということかもしれない。
ということで、評点は若干かさ上げ気味に。
(個人的ベストは、うーん、②かな・・・)

No.1789 4点 此の世の果ての殺人- 荒木あかね 2024/06/09 13:16
第68回の江戸川乱歩賞受賞作ということになる(とのこと)。一時期、乱歩賞受賞作をよく読んでいた気がするんだけど、最近めっきり読まなくなってきた。(調べてみると、佐藤究「QJKJQ」以来だった・・・)
別に嫌ってるとかいうわけでなく、たまたまなんだろうと思ってます。
単行本は2022年の発表。

~滅びゆく世界に残された、彼女の歪んだ正義と私の希望。正義の消えた街で、悪意の暴走が始まった。小惑星「テロス」が日本に衝突することが発表され、世界は大混乱に陥った。そんなパニックをよそに、小春は淡々とひとり大宰府で自動車の教習を受け続けている。小さな夢を叶えるために、年末ある教習者のトランクを開けると、滅多刺しにされた女性の死体を発見する。教官で元刑事のイサガワとともに、地球最後の謎解きが始まった~

本作に対する評価は、本当に「捉え方」によるのだと思います(「上から目線」っぽいですが)。
私は敢えて、辛口の「捉え方」をしています。
まずは、巻末の乱歩賞選考委員の選評を読んで、かなりの違和感を感じました。委員間で差はあるものの、本作に対する評価が異常に高いように思えます(選ばれてるのだから当たり前かもしれませんが)。
確かに、この「世界観」を貫きながら、本格ミステリーの謎解きを成立させたことは評価に値するのかもしれません。
終末世界なのに、教習所に通う女性と、元刑事の教官が謎解きを進めながら、同志となる仲間を加えていく展開。シュールなのに、どこかハードボイルドさえ思わせるウエット感。などなど、さすが受賞作だなと思わせるところはあります。

でもなあー。この特殊設定。これはこれでまあ良い。今のご時世、特殊設定でないと本格ミステリーを成立させるのは至難の業である。
ただねぇ・・・。物語が進むごとに、作者は熱を入れて、当然登場人物たちも熱く、言葉を放ち行動する。そんな作中世界の「熱」とは別に、どうも読者の「私」が置いてけぼりにされてるような、決して読み手とシンクロしていないような気がしてならなかった。
これはジェネレーション・ギャップなのだろうか?
作者の年齢。弱冠23歳(当時)とのことである。同世代だったなら、こんな感情は生まれなかったのだろうか?
ミステリーはミステリーである前に小説なのだから、「小説」としての魅力がないといけないと思う。
もちろんこれがデビュー作である。そんなことを求めるべくもないし、こんな「青臭い」ことを書くのもどうかと思う。

要は、「小説、読み物」としての魅力をあまり感じなかった、ということが言いたいのだろう(と自己分析)。でも、本作を好意的に捉える方も相応にいるだろうとも思っています。

No.1788 6点 厚かましいアリバイ- C・デイリー・キング 2024/05/24 18:05
「海」「空」「鉄路」の“オベリスト三部作”などに続いて発表された長編ミステリー。
NY市警のマイケル・ロード警視と心理学者であるボンズ博士のコンビが連続殺人の謎を解く生粋の本格もの。
1938年の発表。原題は“Arrogant Alibi”

~突如発生した大規模洪水により孤立した村。そのとある館で起こる密室殺人事件。集められた容疑者には全員ほぼ完ぺきなアリバイがあった。エジプト文明もモチーフに取り入れ、デイリーキングが仕掛ける本格推理小説「ABC三部作」の第二弾!~

他の方も書かれてますが、確かに私もヴァン・ダインの「カブト虫殺人事件」を想起させられた。
殺人事件が起こった「館」の中。急遽捜査を行うことになったロード警視の前に、突然現れる二人の人物。二人とも古代エジプト文明の研究者であり、殺人事件が起こったさなかにも、文明の解釈を巡って言い争いをしている・・・
何とも、場違いでのんびりした場面だなーと思わざるを得なかったのだが・・・
それがまさか伏線とはねぇ。
本筋の連続殺人事件と、一見全く無関係のエジプト文明を巡る何やら、それがどういう具合に融合するかは、ぜひ読んでみて味わってもらいたい。
個人的には「うーん・・・」という微妙な味わいなのだが、決して嫌いではない。

そして皆さんが辛い評価をしている「密室」。うーん。これもしょうがないかな。そういう評価で。
作中には「いかにも」という形で館の平面図が何種類か挿入されてるけど、あんまり役に立たなかったなあ。
ロード警視が示したトリックも相当粗いよ。
私も巻末の森英俊氏の解説を興味深く読ませてもらったのだが、まぁ作者なりに読者サービスをふんだんに取り入れたのが「この形」ということなんだろう。
で、タイトルの「厚かましい」なのだが、結局は真犯人自身が「厚かましい」人物という解釈でいいのだろうか?
アリバイが厚かましい、というのはどうにも理解しがたくて(読み落としかもしれないが)、真相解明の際にロード警視が放ったひとことがタイトルとなったということだと個人的に理解。

評価はねぇ・・・。相当好意的にとって、こんなもので。でも決してつまらない作品ではないと思う。(とフォローしておく)

No.1787 5点 早朝始発の殺風景- 青崎有吾 2024/05/24 18:04
2016年から2018年にかけて「小説すばる」誌に発表された短編作品をまとめた作品集。
作者らしいロジックの効いた作品が並んでいることを期待。
単行本は2019年の発表。

①「早朝始発の殺風景」=『殺風景』って、まさか「苗字」だったとは・・・。作者らしく、何気ない1つの物証から推理を広げていく展開。なぜ、高校生の「男」と「女」は朝5時台の始発電車に乗っているのか? 
②「メロンソーダ・ファクトリー」=テーマは「赤」と「緑」である。こう書いてしまえば、ミステリーファンにとっては真相は自明なのでは?
③「夢の国には観覧車がない」=「夢の国」の近くにあるという「ソレイユランド」が本編の舞台。で、タイトルの理由は「〇〇〇〇だから」ということ。これはまあ有名な話かも。本筋はというと、何もそんな回りくどいことをしなくても・・・
④「捨て猫と兄妹喧嘩」=とある公園のベンチ下に置き去りにされた捨て猫と、両親が離婚して別々に引き取られた兄と妹のお話。割といい話。でもそれだけ。
⑤「三月四日午後二時半の密室」=「密室」というのは言葉の「アヤ」のようなもの。謎といっても、女子高生がちょっとばかりいたずらした、という程度のもの。

以上5編。最後に締めとなるエピローグ編あり。
緩く繋がった5つの物語。登場人物はほぼ全員高校生。
ということで、オッサンの読むものではありません。どこか甘酸っぱいような、私自身も遠い昔に経験したような、しないような雰囲気をまとった物語。
そこにちょっとした「謎」というスパイスがふりかけてある・・・とでも言えばよいか。

でもなかなか良いですよ。たまにはねぇ。作者らしいロジックも効かせてあるし。
あーあ、帰れるものなら帰りたい。あの頃に。そんな無茶を考えてしまった。
(ベストは・・・特になし)

No.1786 7点 雨の狩人- 大沢在昌 2024/05/24 18:03
不定期に発表されてる「・・・狩人」シリーズ。昔なにか読んだなあーと思って当サイトを探ってみると、「北の狩人」を読了していた。それ以来の本シリーズということになる。
単行本は2014年の発表。

~「誇りのために殺し殺され、誇りのために守り守られる。」 新宿のキャバクラで、不動産会社の社長が射殺された。捜査に当たった新宿署の刑事・佐江と警視庁捜査一課の谷神は、その事件の裏に日本最大の暴力団である高河連合の影があることを突き止める。高河連合最高幹部の延井は、全国の暴力団の存亡をも左右する一世一代の大勝負「Kプロジェクト」を立ち上げ、完全無欠の殺し屋を使い、邪魔者を排除しようとしていた。佐江、谷神と高河連合が、互いの矜持と誇りを賭けた戦争を始めようとするなか、プラムと名乗るひとりの少女が現れる。進むことも退くこともできない暗闇の中にいた佐江は、絶望を湛えたプラムの瞳に一縷の光を見出すが・・・~

単行本の最終ページを見てビックリ。本作って新聞連載だったんだね!
こんな(拳銃バンバン撃ち合うような激しい)小説・・・よく真面目な新聞社が連載してたねェ

で、本筋なのだが、うーん。これは大沢在昌エキス100%、渾身のハードボイルドだな。
「新宿鮫シリーズ」を長きに亘って読み継いでいる者としても、これをもし「新宿鮫シリーズです」と言われれば信じてしまいそうなプロット、物語だった。
主な舞台は新宿・歌舞伎町。主人公は一匹狼の新宿署刑事、相手は日本を代表する反社組織の若頭、そして現れる謎の殺し屋、そしてもうひとりのキーパーソンとなるタイ人の少女・・・
これだけ並べてみても、もはや「新宿鮫」と何ら変わるものではない。

別にこれはネガティブな評価なのではなくて、作者のエネルギーの籠った読者の心を揺さぶることのできる佳作ということである。
登場人物の一人一人にドラマがあり、背負っている過去や宿命がある。それを知る読者は、どうしても先読みしてしまう。「あーあ。これはこうなるんじゃないか?」「こういう悲しい結末を迎えるんじゃないか?」と。
そして、実際にそのとおりの展開、結末を迎えてしまう刹那・・・

いつも感じることだけど、作者の作品の登場人物は、常に「矜持」を持っている。それは刑事であれ、ヤクザであれ、殺し屋であれ・・・。みな、己の生き様を貫きとおして、作品のなかで己の命を全うしていく・・・
それがきっと、読者の心に響いていくのだろう。
本作のラスト。日比谷のビルでの壮絶な撃ち合い。そして、最後の最後に示される「親娘の絆」。ベタといえばベタかもしれないけど、所詮人の一生なんて、ベタな展開の連続なのだ。ド派手な銃撃戦を描きながら、作者が言いたかったのは、そういうベタな「親子愛」だったのかもしれない。

ということで作品世界にどっぷりのめり込んでしまった。ただ、書いているとおりベタなので、そういうのが鼻につく人は合わないかもしれません。

No.1785 6点 悪魔パズル- パトリック・クェンティン 2024/04/29 13:27
ピーター・ダルースとその妻で大女優アイリスの夫婦コンビが活躍する「パズルシリーズ」の中のひとつ。
正直、あまり記憶になかったのだけど、「迷走」「俳優」「悪女」(それぞれ・・・パズルが付く)とシリーズ最終作の「女郎ぐも」は既読。
ということで久々の同シリーズということになる(かな)。1946年の発表。

~ふと目覚めると、見知らぬ部屋のベットに寝ている。自分の名前も、ここがどこかも、目の前の美女が誰かも分からない。記憶喪失。「あなたはゴーディよ、わたしの息子よ。」という女。自分はゴーディという名前らしい。だが、何かおかしい。なぜ女たちは自分を監禁し、詩を暗唱させようとするのか・・・。幾重にも張り巡らされた陰謀。ピーター・ダルース、絶体絶命の脱出劇~

うん。想像よりは面白かった、というのが率直な感想。
何だか作者に失礼な書き方だけれど、最初に触れたように、今まで四作品読了したはずの本シリーズについて、殆ど記憶に残ってないということは・・・って考えてしまっていた。

他の方も書かれているとおり、本作は「謎解き」よりも、ダルースがいかに脱出できるかというサスペンスの方に重きが置かれている。
ただし、謎解きについてはスルーかというと、そういうわけではなく、なぜダルースがこういう目にあっているのかという「大きな謎」がプロットの軸にはなっている。
で、要は、最終的な真相が「裏」なのか「裏の裏」なのか、はたまた「裏の裏の裏」なのか、ということになる。
登場する「美女」は三人。母と妻と妹。いったい誰が味方で、誰が敵なのか?
そこは当然、最終章で明らかになるのだけど、「まぁそうなるよねぇ」という程度の捻り方。そこは、まぁ2024年現在の目線ではちょっと物足りない。
タイトルどおり誰が「悪魔」なのか、これについては作者らしい「企み」が効いていて、当時なら「ヤラレた感」が強かったのだろうな。

評価としては、どうかなあ?
魅力的な道具立てが揃った舞台が用意されていた割にはインパクトが弱い、ととるのか、よくまとまっていてそれなりにサスペンスも感じた、ととるべきなのか。
個人的には「その中間」だな。だからこの評点。
(しかし、いつも美女に囲まれて、モテる役どころなんだなぁー。それがなんか腹立つ!)

No.1784 4点 マイクロスパイ・アンサンブル- 伊坂幸太郎 2024/04/29 13:26
~付き合っていた彼女に振られた社会人一年生、どこにも居場所がないいじめられっ子、いつも謝ってばかりの頼りない上司・・・。でも、今見えていることだけが世界の全てじゃない。優しさと驚きに満ちたエンタメ小説。猪苗代湖の音楽フェス「オハラ☆ブレイク」でしか手に入らなかった連作短編がついに書籍化!~
ということで、いわゆる「タイアップ」である。単行本は2022年の発表。

①「一年目」=キーワードは”グライダー”? そう、エンジンを積んでない飛行機である。グライダーをめぐって「失恋」と「失言」、そして「逃げる」男が登場。
②「二年目」=①の三人のその後が描かれる二年目。それぞれに進展しているような、いないような・・・。そして、突然湖面に湧き上がる「スポンジマン」、じゃないっ!
③「三年目」=今度は“カゲロウ”である。
あーあ、もうこの辺で細かいことはどうでもよくなってきた! 以下、四年目から七年目まで物語は続いていく(最後にボーナストラック的な締めもあり)。

本作は、2015年より猪苗代湖を舞台とした音楽とアートを融合したイベント“オハラ・ブレイク”で、小説とのコラボを依頼され、作者が手掛けてきたもの。
そういう制約(?)のためか、いつもほどの自由な発想は見られない。
連作のなかで並行して語られる二つの物語がやがて奇跡のような邂逅を果たし、そしてそれぞれのあるべきところへ収まる・・・
伊坂の筆致で書くと、何だかうまく言いくるめられた気になるけれど、プロットとして目新しさはない。

まぁ、有り体に言えば、「童話」或いは「ファンダジー」である。こういうのが好きならばどうぞ!
私は・・・それほどは・・・
(結局、あのマグカップはどうなったのか? 若干気になる)

No.1783 5点 τになるまで待って- 森博嗣 2024/04/29 13:25
Gシリーズの三作目。記号は「τ」・・・なんて読むのか初めて知りました。
「Φ(ファイ)」「θ(シータ)」ときて、今回は「τ(タウ)」・・・。やっぱり、何か深~い意図があるんだろうね・・・
そう思わざるを得ない。2005年の発表。

~森の中に建つ洋館は、「超能力者」神居静哉の別荘で「伽羅離館(からりかん)」と呼ばれていた。この屋敷に探偵の赤柳初朗、山吹、加部谷、海月ら七人が訪れる。突然とどろく雷鳴、そして豪雨。豪華な晩餐のあと、密室で館の主が殺害された。死ぬ直前に聴いていたラジオドラマは「τになるまで待って」・・・。大きな謎を孕むGシリーズの第三作~

ここまで来ると、もう、普通の本格ミステリーではない(のではと感じる)。
もちろん表向きや体裁は本格ミステリーそのもの。鉄格子付きの窓と頑丈な棒鍵で施錠された扉、という超堅牢な密室だったり、不穏な登場人物、不穏な「館」、そして、なぜか「館」の玄関はある瞬間から施錠され出ることができない・・・
もう、物凄い道具立てで、ミステリー好きの心をくすぐる要素は満載。
ただし、その解法は今まで以上に読者を突き放してくる。なにせ、探偵役の犀川なんて、ものの数分現場を見ただけで、トリックを見破ってしまう。
そして、肝心の密室トリック。これが想像以上に「物理的」なのだ。「物理的」というのは決して「超絶トリック」という意味ではない。どこにでもあるような簡単な道具を使ってできる仕掛けを、人間の手で行った・・・という意味での「物理的」なのである。
あまりにも単純というか、あっさりしすぎていて拍子抜け感は半端ない。むしろ、神居のマジック(加賀谷をアナザーワールドへ連れて行ったやつ)の仕掛けのほうが面白いくらいだ。

さらにスゴイ(?)ことに、本作は真犯人が指摘されないまま終了となってしまう!!
名前がほのめかされてもないところがなかなかスゴイ。こんなのアリ?
もう、なんていうか、作者としてもここまで量産してくると変化球というか、「力をこめたストレートなんて投げていられるか!」とでも言わんばかりである。
ただ・・・その分、本作は実に「意味深」である。本作自体がシリーズの伏線となっていることが十分に予想できる。この「伽羅離館」の存在も、赤柳探偵も、萌絵の叔母の意味深な発言も・・・
まあそういう意味では旨い「仕掛け」ではある。
またもや作者の手のひらで転がされてしまう、哀れな読者となってしまうのだろう・・・ね。

No.1782 6点 沈黙のパレード- 東野圭吾 2024/04/17 17:38
(今のところ)「ガリレオ」シリーズの最新作となる本作。
「加賀恭一郎」と「湯川」。作者が生み出した2大名探偵。どっかで共演してくれないものか。そういう気もしてしまう。
単行本は2018年の発表。

~突然行方不明になった町の人気娘・佐織が、数年後遺体となって発見された。容疑者はかつて草薙が担当した少女殺害事件で無罪となった男。だが、今回も証拠不十分で釈放されてしまう。さらに、その男が堂々と遺族たちの前に現れたことで、町全体を「憎悪と義憤」の空気が覆う。かつて佐織が町中を熱狂させた秋祭りの季節がやってきた。パレード当日、復讐劇は如何にして遂げられたか。殺害方法は?アリバイトリックは?超難問に突き当たった草薙は、アメリカ帰りの湯川に助けを求める~

本シリーズでは、今までもフーダニットに関しては自明という場合も多かったけれど、今回のメインテーマは「仇討ち」である。ということは、元々の事件の犯人は明確で、「仇討ち」なのだから、その加害者も明確、ということになる。
ただし、そこは東野圭吾。簡単に終わらせるはずはない。
最終章に至るまで、二番底、三番底の真相が待ち構えている。この当りは、実に老練になったなあーという感想。序盤から精緻に組み上げられた仕掛けや伏線が最後になって効いてくる。
でも、ガリレオシリーズといえば、当然、「ハウダニット」の興趣も忘れてはいけない。
今回のHowもかなりのものだ。化学の知識があれば簡単なのかもしれんが、門外漢の私にとっては、「こんなトリックもできるのね!」っていう驚きがある。

いずれにしても、湯川もだいぶ変わってきた。推理マシーンから人の心の機微を理解できる血の通った名探偵へとシフトチェンジした印象。
ただ、こうなると加賀恭一郎との差があまりなくなってしまう懸念もありそう。まあ求められるものを書こうとしている作者にとっては悩ましい問題なのかもしれない。
まあでも、結局、続編を期待している自分がいるわけで、ぜひよろしくお願いします!
(途中の、湯川と内海の競演シーン。これは、映像化の場面を狙いすぎでしょ・・・)

No.1781 6点 invert II 覗き窓の死角- 相沢沙呼 2024/04/17 17:37
大好評(?)の「城塚翡翠シリーズ」。今回はその第三弾ということで、翡翠の秘密の素顔も徐々に明らかになっていくという展開。自身の「美しさ」を存分に駆使しながらも正義感に燃える名探偵というキャラもだいぶ定着してきた。
単行本は2022年の発表。

①「生者の言伝」=少し変わった設定ではある。別荘に不法侵入した少年が弾みで殺人を犯してしまったところに、偶然にも(!)訪れる翡翠とパートナーの真。人智を超えた名探偵VS一介の少年では、最初から勝負あったと思いきや、意外に粘り腰を発揮することになる。そして、ラストは意外な真相が目の前に現れる(ことになる)。でもまあ、なんかあると思うよね。じゃないと、あまりにも平板すぎるから・・・。ただ、トータルでは小品。

②「覗き窓(ファインダー)の死角」=こちらが本命。中編でも十分に熱量のこもった力作に仕上がっている。途中でところどころ語られる翡翠のセリフも「想い」が詰まっていて、読者の心を揺さぶることになる。
事件は完璧なアリバイトリックを弄したカメラマンの女性(←変な表現だな)が相手。しかもアリバイの証言をするのが、何と翡翠本人というのが逆説的だ。当然、アリバイ崩しが大きなテーマとなるが、これが一筋縄ではいかず翡翠の前に大きく立ちはだかることとなる。今回、実は真の存在が事件の「裏のカギ」となっていて、これが旨い具合に効いてくる。序盤に撒いておいた伏線が一気に回収されていく刹那! これはかなりお見事。

以上2編。
たまたまだけど、ここのところ本シリーズと「福家警部補シリーズ」を立て続けに読んできた。別に「倒叙もの」が大好きというわけではないけれど、どちらも優れたシリーズになっていることは確か。ただ、探偵役が神格化されすぎると「つまらない」と思う私自身にとっては、翡翠は元々が神格化されているキャラなので、そこがあまり気にならないのが利点。
本作では、翡翠の過去や人間関係なども「いかにも曰くあり気に」仄めかされていて、次作以降の展開も気になるところ。
いずれにしても、本作は②だけで読む価値ありという評価。

No.1780 7点 牧師館の殺人- アガサ・クリスティー 2024/04/17 17:35
ミス・マープルの初登場作品として著名な作品。
舞台となる「セント・メアリ・ミード村」も当然初登場。ポワロに並んでふたりも名探偵を生み出した作者の力量は計り知れない(と思ってしまう)。
1930年の発表。

~嫌われものの老退役大佐が殺された。しかも、現場が村の牧師館の書斎だったから、普段は静かなセント・メアリ・ミード村は大騒ぎ。やがて、若き画家が自首し、誰もが事件は解決したと思った・・・だが、鋭い観察力と深い洞察力を持った老婦人ミス・マープルだけは別だった。ミス・マープルの長編初登場作!~

今さら私ごときがこんなことを言うのも非常におこがましいのですが、「さすがに一流の書き手だわ!クリスティ」。
もちろん細部での突っ込みどころは数多くある。(特に解決編で銃声とあの音を聞き間違えたと片付けていることなどは結構酷いのだが・・・)
でも、そんなこと関係ないよね。とにかく、すべての登場人物がそれぞれのキャラクターや重要度に則って過不足なく書かれていて、結構な数の登場人物なのに、殆どストレスなく頭の中に入っていく。それだけでも作者のスゴさが分かろうというものだ。
視点人物となる「牧師」と真の探偵役である「マープル」。この二人の頭の中は当然ずれていて、読者としては自然にミスリードされるように計算されている。おまけに本筋の事件とは直接関係のない脇筋の事件までもが旨い具合に織り込まれている。
この「脇筋」の放り込み方! これがクリスティの真骨頂かもしれない。(「ナイルに死す」当りでもこの脇筋の使い方を絶賛した記憶あり)

で、真相についてなのだが、他の方も書かれているように、ひとことで言えば「実に人が悪い」。
特に(ネタバレだが)共犯者。主犯だけなら、そこまで思わなかったけれど、共犯者までとは・・・(まさか銃でねェ)
まあ、この時代のミステリーでは「ありがち」なプロットではあるのだが、すべての余計なものを取り去った後に判明する真相の見事さ、これを体現していると思う。

ちょっと褒めすぎかもしれない・・・。
でも、「予告殺人」や「鏡は横にひび割れて」のマープルもの2大作品よりも、好みでいえば本作に軍配を上げたい。マープルのキャラも若干手探りだったせいか、それほどクドくないところも私にとっては良かった。
まあ、スゴイ作家です。改めて感心させられました。"

No.1779 9点 エージェント6- トム・ロブ・スミス 2024/03/10 14:32
「チャイルド44」「グラーグ57」に続いて発表された、シリーズ最終作品。
少し前の時代のロシアが舞台となる本シリーズ。現在のウクライナ問題を見てても、やはりロシアという国は理解しがたい部分がある。そんなこともどこか頭の片隅に置きながら、本作も読み進めることになった。
2011年の発表。

~運命の出会いから15年。レオの愛妻ライーサは教育界で名を成し、養女のゾーヤとエレナを含むソ連の友好使節団を率いて一路ニューヨークへと向かう。同行を許されなかったレオの懸念をよそに、国連本部で開催された米ソの少年少女によるコンサートは大成功。だが、一行が会場を出た刹那に惨劇は起きた・・・。両大国の思惑に翻弄されながら、真実を求めるレオの旅が始まる~

レオ・デミトフ。チャイルド~グラーグ~エージェント三部作を通じての主人公。まさに「不屈の男」である。
本作は文庫版の上巻・下巻でいわば「第一部」と「第二部」にはっきりと別れる。先の紹介分は「第一部」のお話。
前作で凄まじい体験を経たすえ、ようやく安息の場所に落ち着いたはずのレオ一家。養女のふたりは、実はレオが殺害してしまった部下の子供である。その養女もようやくレオに心を許す関係となっていた。
そんな矢先のNY行き。大成功のはずだったイベントの裏側では、米ソ両大国の暗躍がうごめいていたのだ。
そして、ついに悲劇は起こってしまう。
あーあ・・・何という男なのだ。レオは。またもや不幸のどん底に落とされてしまう・・・結局、この男に安息の地は約束されてなかったのだ。

そして「第二部」。物語は大きく変わり、レオは戦火のアフガニスタン・カブールで秘密警察の教官として、アヘンに溺れる無為な日々を過ごすことになる。
しかし! しかし!! しかし!!!
ここからレオの人生は大きく動いていくこととなる。ピンチなんて一体いくつあったんだろうかと数えることもできないほど。まさに命を賭した旅がカブールの地から始まる。それもすべて愛する家族、愛する妻、愛する子供のため・・・
愛するがゆえにどうにもならない窮地に陥ることにもなる。
そして、ついに悲願の地、運命の場所であるNYの地を踏みしめることとなる・・・
すべての謎を解決したレオ。それでも更にピンチが訪れる。
ラストシーンは涙なしには読むことはできなかった。

三部作のテーマは間違いなく「家族愛」である。家族愛のため、人間はここまで身を賭けることができるのだというストーリー。
もちろん政治的な背景は若干現在とは違ってるし、古臭い部分もある。
でも、そんなことが何だというのだ! レオの不屈の姿に接するだけでも本作を読む価値はあるというもの。
あまり政治的な話はしたくないけれど、人間て本当に罪な生き物だ。未だに何人かの半ば狂ったような人間が、市井の人々の幸福をいとも簡単に壊そうとする。これは決して終わることのない人間の「さが」なんだろうか?
レオの物語を読み終えた身には、ひとときの「幸せ」がいかに大事なのか、改めて考えさせられることとなった。(青臭いですが・・・)
評点は三部作全体としての評価で。

No.1778 6点 福家警部補の考察 - 大倉崇裕 2024/03/10 14:30
「挨拶」「再訪」「報告」「追及」に続き、はやもう第五弾となった人気シリーズ。
刑事コロンボ、古畑任三郎の系譜を受け継ぐ「正統派?」倒叙シリーズとして著名になった感がある。今回もいろいろな「お約束」を踏まえながらになるのだろうか? 単行本は2018年の発表。

①「是枝哲の敗北」=最初のお相手は、いつも沈着冷静な皮膚科医の男。冷静沈着なはずが、福家警部補のトリッキーな言動を前に徐々におかしくなってしまう。「犯罪者はしゃべり過ぎる」を地でいく失敗! 当然の「敗北」でしょう。
②「上品な魔女」=次のお相手はまさに「魔女」、っていうか「毒婦」。しかも「美しい」。こういうキャラはよく登場するので、あまり新鮮味はない。で、福家警部補の前にあっけなく陥落・・・(あーあ、あっけない)
③「安息の場所」=お相手は孤高の女性バーテンダー。緻密な計算のもと、師匠の敵(かたき)を取るために殺人を犯してしまう。福家警部補がこんなにお酒の蘊蓄があるなんて初めて知ったよ。
④「東京発7:00のぞみ1号博多行き」=まったくトラベルミステリーではありません。なんと、たまたま殺人犯の隣席となった福家警部補。しかし、ここまで神業級の推理と直観力を見せられるとはなあー。もはやすごすぎて、福家警部補が神格化されすぎた感もある。これはあまり宜しくない。

以上4編。
いい意味では安定感たっぷりの倒叙シリーズでシリーズファンにとっては堪らないかもしれない。
ただし、シリーズの経過とともに、悪い意味での「慣れ」と多少の劣化を感じるようになった。どうしても形式が固まってしまうので、変化をいろいろと付けにくい部分はあるのだろう。

それに④のように、あまりに超人化させるのもネガティブである。(御手洗潔が典型例だと思うが・・・)
ただ、トータルで評価すればまだ十分に「面白い」作品ではある。
そろそろ長編も書いてみてはどうだろうか? 福家警部補の人間味をいろいろ見せていく手もあると思うけど。
(個人的ベストは③かなー。他はほぼ同等)

No.1777 5点 仕掛島- 東川篤哉 2024/03/10 14:29
ひたすらシリーズもの短編に傾注してきた作者。そんな作者が久々にはなつシリーズ外の長編ミステリー。
タイトルからして、ものすごい「仕掛け」があるんだろうなあと予測はできますが・・・(でも読者のハードルも相当上がりますけど)
単行本は2022年の発表。

~岡山の名士が亡くなり、遺言に従って瀬戸内海の離島に集められた一族の面々。球形展望室を有する風変わりな別荘・「御影荘」で遺言状が読み上げられた翌朝、相続人のひとりが死体となって発見される。折しも台風の嵐によって島は外界から孤絶する事態に陥る。幽霊の目撃、鬼面の怪人物の跋扈、そして二十年前の人間消失事件・・・続発する怪事件の果てに、読者の眼前に驚天動地の真相が現れる!~

妙に「岡山推し」が目立つのは、昨今のプチ岡山ブーム(?)に乗っかってるためなのか?
随所に岡山弁のギャグも出てきて、地元民ならばニヤリとしそうな場面も多い。

で、本題ですが、
初期作品の「館島」同様、孤島に建つ「御影荘」や孤島である「斜島」そのものがトリックの素となっているのは自明。
一つ目のやつ(通路のやつね)は最初から薄々気付けるレベル。まあ、横溝の岡山ものなんかでもよく登場するしね。
もう一つの、建物そのものの仕掛けはなかなか大胆。当然、伏線は張られていたとはいえ、想像の斜め上をいくものだった。部屋割り図は挿入されていたけど、建物の立面図かせめて全体を俯瞰できる図があれば、なお良かったとは思う。(後での「えーっ!感が強くなると思う)。

ただし、全体のプロットは決して褒められたものではない。構図は見えやすいし、同様作品の焼き直し感が半端ない。
名探偵キャラもどこかで見たようなやつ(水〇サ〇〇っぽい)。つまりは、長編とはいえ引き続きやっつけ感の垣間見える作品という感想は拭えなかったな。
そろそろ腰の座った「新機軸」が欲しいところだ。
(続編が用意されてるっぽいけど・・・)

No.1776 6点 グッドナイト- 折原一 2024/02/10 12:40
出ました! 折原お馴染みのプロット。一棟の集合住宅を舞台に、どこか頭や精神のねじ曲がった住人たちが互いにくんずほぐれつを繰り広げる・・・
本作の舞台は都内の私鉄駅から徒歩15分程度(?)、木造の古びたアパート『メゾン・ソレイユ』。さあ、折原ワールドの開幕! 単行本は2022年の発表。

①「永遠におやすみ」=連作の頭は、どこかねじ曲がった母子の登場。読み進むうちに当然出てくる違和感。「うん?」「この息子は・・・?」。で、物語は進み、突然の殺人劇へ。で、ラストはお決まりの新聞記事。
②「ドクロの枕」=不眠症に効くという特別装丁の豪華本。稀代のミステリー作家・梅野優作の「髑髏枕」(ドクロマクラ、ドグラ・・・ではない)。落選してばかりの作家志望の男・坂口はどうみても「倒錯のロンド」を思い出させる・・・
③「デス・トラップ」=ラストはまさか、の展開。「201号室」はどうしていつもこんな運命になるのか・・・。そして202号室からは相変わらず「チャポーン」という滴の音が聞こえてくる。
④「泣きやまない夜」=話は変わり、夫のDVから逃げ出した母娘が『メゾン・ソレイユ』にやってきた。それを追ってくる暴力夫。なのだが、やはり最後はお決まりの如く反転?させられて・・・
⑤「見ざるの部屋」=大作家「梅野優作」を監禁?することに成功した梅野の大ファンの美女。物語は「監禁された男」と「それを探ろうとするルポライター」の二者の視点が交錯し、徐々によく分からん構図に・・・
⑥「自由研究には向かない小説」=ここで、新たな主要キャストが登場(ここで?)。なんと12歳の少年。なのだが、大人なみの頭脳と鋭い洞察力を併せ持つ。彼もまた、謎の作家「梅野優作」の存在の前におかしくなっていき・・・
⑦「ラストメッセージ」=連作の最終話。ということは当然種明かしとなるべきなのに・・・なってません! いや、なってるのか? これが真相というのならばだが・・・

以上6編+1で構成される連作短編集。
すみません。私は好きです。
いや、むしろ待ってました。こんな、折原成分全開の「折原ワールド」ミステリーを!
「天井裏の散歩者」シリーズ、「グランドマンション」と連なる、「ある集合住宅に住む、おかしな住人たちが繰り広げる滅茶苦茶な折原ワールド」シリーズ(そういう呼び方をしたくなる)の続編なのか?
やはり、このシリーズ?にも一定の需要はあるっていうことだな。

もうこれは、私がどうのこうのいう作品ではありません。折原名人による「伝統芸能」とでもいうべき世界。
もちろん、「まったく楽しめない」「なんだ、こりゃ?」「つまらん」「いい加減にしろ!」などという感想を持つ方もいらっしゃるでしょう。(むしろそれが太宗かも)
そういう方は、どうぞ壁に投げつけてください。(本作にも出てくるように、芳香剤を染み込ませて枕にする手も)
しかし、もう令和ですよ、202x年ですよ!大丈夫ですか、編集者の方? 出版社の方?
もしも正気ならば、また続編を出してください。絶対読みますから。
ただ、作者の加齢が心配。やっぱり、本作にもそこは滲み出ている。仕方ないことではあるが・・・

No.1775 6点 赤い館の秘密- A・A・ミルン 2024/02/10 12:39
ミステリーファンにはもはやお馴染みのクラシック作品。
「くまのプーさん」(←中国なら消されてるかもしれんな)の作者ミルンの書いた唯一のミステリー(ただし「四日間の不思議」は本サイトで書評済だが)。
1921年の発表作品。

~田舎の名士の屋敷。「赤い館」で一発の銃声が轟いた。死んだのは十五年ぶりに館の主マークを訪ねてきた兄ロバート。発見したのはマークの従弟と館に滞在中の友人に会いに来た青年ギリンガムだった。発見時の状況からマークに殺人の疑いがかかるが、肝心のマークは行方不明。興味を惹かれたギリンガムは、友人をワトスン役に事件を調べ始める。英国の劇作家ミルンが書いた長編探偵小説~

“今さら”である。
確か小学生の頃にジュブナイル版で読んだ覚えはあるんだけど、まさかこのタイミングで手に取るとは思わなかった。ただ、これは予想外に引き込まれた。
別にたいしたトリックや緻密なプロットがあるわけではない。フーダニットも最初からほぼ自明。例の「秘密の通路」にしたって、それほどの目を見張るような仕掛けがあるわけではない。
そんな本作に惹かれてしまう自分・・・なぜか?

ひとつは探偵役となるギリンガムの魅力かな。嫌味のまったくない、まっすぐな性格の英国紳士。これが逆に新鮮。最近は何かしら妙なキャラ付けがしてあることが殆どだからねぇ
もうひとつ挙げるとしたら、作品世界の雰囲気かなあー。
他の皆さんは「あまりに牧歌的で冗長すぎる」とのご意見が多いけど、こういう典型的な田園ミステリー、何のてらいもないこの雰囲気を楽しめたのも確か。
そう、新鮮だったのだと思う。

「本作はこういう特殊な設定、環境下のお話です」・・・どんどん複雑化していくミステリー。それはそれでもちろんいいのだけれど、たまにはこういうシンプルで雑味のないミステリーも味わうべき。
そういうことにしておきたい。
(ただ、メインの大仕掛けはいくらこの時代とはいっても、警察も雑すぎだろ!)

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