皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.01点 | 書評数: 1803件 |
No.1803 | 7点 | 絶叫- 葉真中顕 | 2024/09/14 13:03 |
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本作の後、続編が発表されることとなる「女性刑事・奥貫綾乃」シリーズの第一作に当たる。
作者らしい重厚で奥行きの深いミステリーとなっているのか? 単行本は2014年の発表。 ~「鈴木陽子」というひとりの女の壮絶な物語。貧困、ジェンダー、無縁社会、ブラック企業・・・。見えざる棄民を抉る社会派小説として、保険金殺人のからくり、孤独死の謎・・・ラストまで息もつけぬ圧巻のミステリーとして、平凡なひとりの女が、社会の暗部に足を踏み入れ生き抜く、凄まじい人生ドラマとして・・・~ やはり、この作者の作品は読者を強く惹きつける「熱量」、「パワー」を感じる。 前回は「凍てつく太陽」という超大作に心を打たれた私なのだが、本作でも作者の「作品世界」の渦に吞み込まれた気にさせられた。 何といっても「鈴木陽子」である。 本作は彼女の半生を綴った大河ドラマといってよい。ただし、彼女の姿、心の内は他者の目線で描かれる(いわゆる二人称)。 高度成長期という時代を過ごした幼年期。企業戦士の父親の姿は家になく、常に母親と接することとなる。しかし、母親は「息子=弟」にしか愛情を注がない、捻じれた性格を持つ女性だった。引き続き起こる弟の死、父親の浮気そして蒸発。 いつの間にか家庭は崩壊し、彼女は大人になり平凡な生活を営むはずだったのだが・・・ 本作のもうひとりの主役が刑事・奥貫綾乃。国分寺のマンションで一年間放置された死体として「鈴木陽子」と対面することとなる。それから、綾乃は陽子の人生を遡ることとなる。捜査を行うごとに判明する怪しく、不可解で不穏な事実、出来事の数々・・・ そしてついに明かされる、大事件の構図。 いやいや、本作のストーリーを要約しようと思ったけど、とてもじゃないが書ききれない。 まさに、どこにでもいる、平凡な小市民だったはずである。どこで狂ったのだろうか? 読者は遡りながら考える。なんとも救いのない、不幸な偶然の連鎖もあった。 でも、思う。誰にでも起こりうるのだ。ほんのちょっとした運命のいたずら、ほんのちょっとしたボタンの掛け違え、そんなささいなことで人生はどうにでも動いていく。そんなどうしようもない、人の性(さが)を作者は描き出す。それが読者の心に強く訴えてくる。 いかんいかん。すっかり独白のような書評になってしまった。 そうはいっても作者はミステリー作家である。ラストも間近になって、本作全体に仕掛けられた大きな欺瞞、策略が明かされる。なるほど、これがミステリー作家たる作者の矜持か。 そして、これがここまで「鈴木陽子」というひとりの女性にフィーチャーした大きな理由でもあるのか。いやいや、さすがである。 まあ、正直なところ、既視感はあるし、アノ作品とアノ作品をつなぎあわせたような部分も見え隠れはしているけど、それでも十分に面白いし、堪能させていただいた。もちろん続編も読むだろう。 (ラストシーン。ってことは、当然アノ人が・・・ってことだよね。名前からして・・・) |
No.1802 | 5点 | サーチライトと誘蛾灯- 櫻田智也 | 2024/09/14 13:02 |
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~昆虫オタクのとぼけた青年・魞沢泉。昆虫目当てに各地に現れる飄々とした彼はなぜか、昆虫だけでなく不可解な事件に遭遇してしまう・・・~
ということでシリーズ第一弾の連作短編集。 2017年の発表。 ①「サーチライトと誘蛾灯」=探偵が殺される、という事件がいきなり発生。そこでちょっと意表を突かれた感じ。魞沢のキャラは最初から明確。 ②「ホバリング・バタフライ」=とある田舎の環境団体をめぐる”いざこざ”が事件の背景。山中で珍しい蝶を探していた魞沢が何となく感じてしまったことが、事件解決につながる。 ③「ナナフシの夜」=連作短編の王道とも言える”バー・ミステリー”。しかし、探偵役はバーテンダーではなく、あくまで魞沢。なんかよく理解できない男女の関係がねじれた結果・・・ ④「火事と標本」=日本推理作家協会賞の短編部門の候補にもなった作。やっぱり出来は良いと思った。事件の構図は固まったと感じた矢先、魞沢の口から語られる別の推理。こういう「切れ味」が短編には大事なのだろう。 ⑤「アドペントの繭」=教会での事件が舞台となる最終話。牧師の親と子の確執が事件の背景にはなっているんだけど、事件の真相はなんか取ってつけたようで腑に落ちなかったかったが・・・ 以上5編。 文庫版あとがきで作者自身が語られているとおり、本作の探偵役となる魞沢泉(えりさわ せん)は、「亜 愛一郎」の生まれ変わりのような存在。作者と泡坂妻夫との不思議な出会いのエピソードについても語れらていたけれど、人生ってそういう不思議な「縁」があるんだなあーと感じさせられた。 ということなので、1つ1つの短編についても、亜愛一郎シリーズを彷彿させて、どこかのんびりして、どこか浮世離れしたような雰囲気がある。ただし、作中に必ず1つ大きな仕掛けが施されていて、最後に少しだけ唸らされることに・・・。そんな感じの作品が並んでいる。 でも、うーん。「読み応え」という意味ではどうしても薄味にはなるね。 それが特徴といえばそれまでだけど、”玄人受け”はするけれど、一般読者にはどうかな。もう少し刺激、サプライズ感は欲しいところ。 (個人的ベストはやはり④。①や②も良いのだが・・・) |
No.1801 | 5点 | サンセット・ブルヴァード殺人事件- グロリア・ホワイト | 2024/09/14 13:00 |
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某古書店をブラついて、なんとなく手に取った本作。当然予備知識なし。
とりあえず訳者あとがきを読んでみると、女性探偵ロニー・ヴェンタナ久々の登場とある。どうやらシリーズ四作目のようです。 1997年の発表。 ~サンフランシスコの女性探偵ロニー・ヴェンタナは、二十年前に交通事故で両親を失った。命日の深夜、事故現場に詣でた彼女の前に、一台の車が現れ、男性の死体を投げ捨ててゆく。被害者の身元も不明で、なぜか警察は捜査に熱心ではない。ロニーは目撃者の少女マリーナとともに事件を追い詰めるが・・・~ 予想よりは面白かった。(まあ期待の水準が低かったせいもありますが・・・) なによりサンフランシスコである。作中でも触れているけれど、ハードボイルドの始祖ハメットが選んだ舞台である。それだけでも心踊るというもの。実際、本作でもサンフランシスコの街中を飛び回ることとなる。 主人公である女性探偵ヴェンタナのキャラもなかなか良い。四作目ということもあるのか、キャラだちにブレがなく、魅力的に描かれていると思う。 メインテーマとなる事件そのものは特段込み入ったものではなく、悪く言えば単純なもの。 真犯人も最初からみえみえのところはあるので、そこら辺りは「ご愛敬」という感じかもしれない。まあよくある展開なのだが、警察VSヴェンタナという構図のなかで、協力者たちのサポートを得ながら、徐々に事件の核心に迫っていく。 ただ、惜しむらくはそれほどのピンチシーンがなかったことか。 こういうプロットだと「お約束」のように、終盤の最初辺り窮地に陥る、なんていうシーンがあるんだけどな。 作品に緊張感を出すという意味でも、ここら辺りは改善ポイントなのかも(エラそうに書いてますが・・・) トータルでいうなら、まあよくまとまっている作品。ただ、それこそコナリーのハリー・ボッシュシリーズなとと比べると「数段落ちる」のは否めない。 逆に言えば、軽く楽しめる作品には仕上がっているとも言えるかな。そこは好みの問題だろう。 |
No.1800 | 5点 | わずか一しずくの血- 連城三紀彦 | 2024/08/31 13:26 |
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「週刊小説」1995年5月12日号~1996年1月8日号まで連載。未完のまま埋もれていた本作。作者の没後、堰を切って発表された何作かの作品のうちのひとつをようやく読了できた。
感想は後述するが、「いやいや・・・これは・・・」という作品。 ~薬指に結婚指輪をはめた左脚の白骨死体が群馬県の山中で見つかり、石室敬三とその娘は、その脚が失踪した妻・母のものだと確信する。この事件をきっかけに、日本各地で女性の身体の一部が発見される。伊万里で左腕、支笏湖で頭部、佐渡で右手・・・それぞれが別の人間のものだった。犯人は、一体何人の女性を殺し、何のために遠く離れた場所に一部を残しているのか?壮大な意図が次第に明らかになっていく。埋もれていた長編ミステリが20年ぶりの刊行!~ これまで数々の連城ミステリーを読んできたが、まさに「連城にしか書けない」、いや「連城しか書かない」ミステリー。これほど連城のエキスが注入された作品も珍しいのかもしれない。そんな気さえした。 そういう意味では(連城ファンとして)、もう、十二分に堪能することができて満足。以上!で締めくくっても良い。 ただ、どうしてもこれだけでは締めくくれないなあー ミステリーとして破綻していることは特に言うまでもないのかもしれない。そもそも連城作品に対してロジックとか、リアリティとかいう単語を持ち出すこと自体意味のないことだとは思う。 紹介文にあるように、作品の後半、女性の死体の一部が日本各地で見つかることとなる。これだけ見ると、これって「占星術」のアレか?とどうしても考えてしまう。 ただ、これは全く「似て非なるもの」だった。 「占星術」のアレは、真の犯人の意図と現実的な必要性がうまくマッチングされた形で読者の前に提示されていた。よって、解決編でそれを見せられた読者は計算された作者の手腕に賞賛を贈ることができた。 本作のこれは、もう、犯人の意図のみである。犯人の出自や時代性、〇〇という場所の特殊性などで納得するところはあるけれど、これを示された読者は、ミステリー的な驚きではなく、「なぜここまで・・・」という疑問を抱くことになる。 それに対する回答はなく(ただ、女性をアレに見立てた、というところだけはアッ!と思わされたが)、読者は納得するかどうか自身で折り合いをつけなければならなくなる。 いやいや、もうよそう。そんなことをつらつら書いても詮なきことである。久々に連城節を堪能できたのだから十分ではないか。 でも、「ナツメロ」的な感想で連城を評価したくはないというのが個人的感想。それはもう、何度も何度も「アッ!」という作品に触れてきたのだから・・・(相変わらず、よく分からん感想ですなぁー) あっ、本作でキリ番。1,800冊目の書評だったことに今さら気付いた。しまった!! |
No.1799 | 5点 | 震えない男- ジョン・ディクスン・カー | 2024/08/31 13:24 |
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"ギデオン・フェル博士探偵譚。本格とオカルトが融合したいかにも「カーらしい」作品(のようには見えますが)。
実際にはどうなのかな?東京創元社の新訳(「幽霊屋敷」)で読了。 原題は、""the man who could not shudder"" 1940年の発表。 ~かつて老執事が奇怪な死を遂げた幽霊屋敷こと「ロングウッド・ハウス」。イングランド東部のその屋敷を購入した男が、幽霊パーティーを開いた。男女六名を屋敷に滞在させ、何が起きるか楽しもうというのだ。パーティー初日の夜、早速無人の部屋で大きな物音がする怪現象が発生。そして翌日には何と殺人事件が勃発した。現場に居合わせた被害者の妻が叫ぶ、「銃が勝手に壁からジャンプして空中で止まった夫を撃った!」・・・~ 前述したとおり、「道具立て」はいかにも、結構揃っている。 過去に残酷な事件が発生した「幽霊屋敷」が舞台。そして再び起こる不可思議な殺人事件。なんと、勝手に銃が起き上がり、引き金を引き、ひとりの男を銃殺してしまう! Why? そしてHow?である。 これが本作のメインテーマ。でもって、問題なのはその解法。 フェル博士がさんざんもったいつけた結果、終盤に告げた真相が〇〇石である。 なるほど・・・。けど、本当にうまくいくのかなあ? そこは甚だ疑問。 ただまあ、それはいいとして、巻末解説でも書かれているとおり、このワンアイデアで長編を引っ張るのはなあ、かなり無理がある。 でもって、その無理を少しでも薄めるためなのか、打った手が最終盤のドンデン返し、なのだろう。 これも、特に一番最後のやつ、いるかなあ? モヤモヤ感だけが残った感じだ。 ということで、辛口な書き方になったわけだけど、仕方ないかな。 他の佳作群と比較するとどうしてもそうなる。 フェル博士もかなり曖昧な態度に終始してるし・・・ |
No.1798 | 5点 | 婚活中毒- 秋吉理香子 | 2024/08/31 13:21 |
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~運命の出会いは命懸け。「暗黒女子」の作者が贈るサプライズ満載の傑作ミステリー~
月刊ジョイ・ノベル誌に不定期に連載された作品を集めた連作短編集。 単行本は2017年の発表。 ①「理想の男」=これが一番ドンデン返しがうまく嵌っている。アラフォー女性が藁をもすがる思いで入会した結婚相談所。紹介された男は思いのほか高スペックの「上物」。でも、過去の女性たちを辿っていくうちに不穏な空気が押し寄せてくる・・・。ラストはまさに暗転。 ②「婚活マニュアル」=これもラストに軽くひっくり返される。婚活BBQで知り合ったとびっきりの美女と付き合うことになった幸運な男。しかし、その美女はどんでもなく金遣いの荒い女性だった。でもって、「ブサイク」な方の友人、でも料理がうまくて、切り盛り上手な女性に徐々に惹かれていくのだが、実はその女性は・・・。で更なる災厄が迫る。 ③「リケジョの婚活」=そういや最近見なくなったな、ナイナイがやってた「大規模お見合い番組」(コンプラ的な問題があったのかな?)。それを完全にパクったのが本編。最後の告白タイムで見事にフラレてしまうのだが、実はその後にもリケジョらしい魂胆があって・・・ ④「代理婚活」=実にイタイお話である。いわゆる親どうしが代理でお見合いをする婚活。子供にとっては「大きなお世話」である。普通は。しかも本編の父親。あろうことか先方の母親に恋してしまう。そして、何とかその母親に会うためにイタイ行動を繰り返すことに・・・。でも、最後はいい話になる。なぜ? 以上4編。 なかなか面白くはあった。でもちょっと安直かな。 全体的にネタの安易さが気にはなった。それと、ミステリー要素は極めて薄味。捻りもそれほどなし。 だから評点としてはこんなものになるんだけど、読み物としては気軽に読めて、そこは良い。 (一番シンパシーを感じるのは、②の美女に振り回される男。男は結局ルックス重視からは逃れられない、でしょ?) |
No.1797 | 4点 | アリントン邸の怪事件- マイケル・イネス | 2024/08/03 14:10 |
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(本作の設定では)引退した元スコットランドヤード警視総監、ジョン・アプルビイを探偵役とするシリーズの20作目。
如何せん作者の初読みなので、設定もなにもよく分からん状態で読んでます。 1968年の発表。 ~なごやかな夕食会のさなか、同じ敷地内で難事件発生! 不可解な連続怪死事件に隠された驚愕の真相とは? 民間人となった往年の名刑事アブルビイが再び犯罪捜査に乗り出す。退職した刑事の活躍を描く「ジョン・アブルビイ」シリーズの長編が登場~ なんとなくモヤモヤしながらの読書となった。これは、単に作者の“クセ”や筆致に慣れていないだけなのか? 序盤でタイトルにもなっている「アリントン荘」内で感電死した男が発見されるところから、事件は幕を開ける。 その後も、合計3件の連続殺人事件にまで発展する。するんだけど、何とも展開が緩いというか、私自身の頭の中が盛り上がらないままで過ぎてしまった。 このまま終わってしまうのか?と心配した矢先、オーラスも近くなってからが急展開! いやいや、唐突でしょ!というのは野暮なのだろうか? うーん。いずれにしても、それほどは面白く感じられなかったなあー これはもう、相性の問題かもしれない。 途中の登場人物間のやり取りも、よく言えば「ユーモア」(死語?)とウィットに富んだものなのかもしれんが、正直なところ「いる?」っていうのも多いように思えた。 これがイネスでも上位の作品なのだとしたら、他の作品には特に手を出さなくても良いだろう。 あくまで個人的な意見です。 |
No.1796 | 7点 | 殺人犯 対 殺人鬼- 早坂吝 | 2024/08/03 14:09 |
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嵐が吹きすさぶなか、孤島に取り残された施設に暮らす子供たち。そこに紛れ込んだ「殺人鬼」と、もうひとりの「殺人犯」。
なかなかに突飛な設定になっているようですが、本格ファンにとってはゾクゾクさせられる設定。そして一癖も二癖もある作者とくると・・・ 単行本は2019年の発表。 ~ここは孤島にある児童養護施設。嵐のせいで船が出せず、職員が戻れなくなっている。島には子供だけ。この好機に、僕・網走一人は彼女を自殺未遂に追い込んだ奴らの殺人計画を実行することにした。まずはボスの剛竜寺だ・・・。なぜもう殺されている? 抉られた片目に金柑のはまった死体。僕より先にこんなふうに殺したのは誰だ? 戦慄の連続殺人の真相を見破れるか?~ よくまあー。こんな設定、こんな仕掛け、おもいつけるよなあー、というのが読後の感想。 途中から薄々気付いてはいた。「殺人鬼」の正体は。 ただ、作品全体の「仕掛け」は気付かなかったなあー。もちろん違和感はあったんだよねぇ。 まあそれは誰でも感じる違和感なのだろうけど、作者の作風からして、ついついスルーしてしまっていた。 こんな「見立て」の使い方も初めてお目にかかった気がする。 最近あまり「見立て」が事件の本筋と有機的に関係しているパターンに触れてなかったように思うけど、それを逆手に取ったかのようなこの「使い方」・・・うーん。なるほど。 途中何度か挟まってくる「殺人鬼の回想」シーン。これもよく効いている。自然読者をミスリードさせる役割なのだが、如何せん、この手のミステリーに慣れてしまった読者にとっては、「ミスリード」を狙っていることはよめてしまう。 ただ、それを上回ってくるラストの真相解明。 そんな「遊び心」というか、この辺りは作者の真骨頂だなぁ。処女作の「〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件」(←〇の数合ってますか?)以来、一貫してエンタメ性と本格ミステリーの融合を謀ってきた作者。 今回もそこは貫かれてます。 他の方も書かれてますが、序盤からもう伏線のオンパレード。そこかしこに真相の伏線となる材料が撒かれてます。これがラストに一度に効いてくる快感。これが本格ミステリーの主眼であるとともに、作者の矜持でもあるのでしょう。 もちろんエンタメ性を重視すればするほど、重厚感はなくなり、ある種「軽~い読み物」になってしまうのは否めないところ。 でも、そこは・・・好みの問題ですから。 今後も「作者らしい」作品を徹底して書いていただきたい。まっでもたまには、重厚感たっぷりの「重い」作品も読んでみたい気はする。 (こういう「仕掛け」って、生成AIなら簡単に思い付けるのだろうか?) |
No.1795 | 5点 | トラップ- 相場英雄 | 2024/08/03 14:07 |
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主に「知能犯」の取り締まりが「お役目」の警視庁捜査二課。二課所属の刑事である西澤をメインキャラクターとした連作短編集。
まぁ「よくある」警察小説っぽくはあるのだが・・・どうか? 単行本は2014年の発表。 ①「土管」=どこの職場でもある「同期との出世争い」。当然警視庁にもあって、同じ二課に所属する同期が大手柄を挙げて警視総監賞をもらう、なんてことを耳にすれば心穏やかではない、当然。でも結果としては・・・? 因みにタイトルは警察の隠語で情報協力者の意味らしい。 ②「手土産」=突然に国会が解散され始まった選挙戦。西澤は選挙違反取締りのための応援で所轄に派遣されることに。そこには本部嫌いの主任刑事がいて、西澤に仕事を与えてくれない・・・。まぁ会社組織なんかではあるあるです。嫌な上司というのは、だいたい過去に自分も組織内で嫌な目にあっている・・・。って、本題は公職選挙法違反です。 ③「捨て犬」=捨てられた柴の子犬と現場重視のキャリア警察官。一見して似て非なるものどうし。でも、ふたつが重なったとき・・・どうなる? 警察小説といえば、キャリアVSノン・キャリアというくらいメジャーなテーマではあるけど、キャリアだって所詮人の子だよな。で、西澤はだいぶ成長した姿を見せる。 ④「トラップ」=会心の捜査、会心の結果! だったはずだったのに・・・まさかの結末が待ち受けている。人生、好事魔多しということなのかな。 以上4編。 実に手堅い作品です。正直なところ、どこかで読んだことのあるような、まさに警察小説の「雛形」という感じ。 まあでも一定の面白さはあります。 こういう手の作品が好みの方なら、一読の価値はあるでしょう。 続編も出ているのかな? (個人的ベストは・・・どれも同水準だな) |
No.1794 | 6点 | 殺人七不思議- ポール・アルテ | 2024/07/05 13:42 |
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名探偵オーウェン・バーンズシリーズの二作目に当たる長編。先に四作目に当たる「あやかしの裏通り」を読んでしまっていたけど、あまり関係ないはず。
作者らしい不可能犯罪てんこ盛りのシリーズ。今回も「てんこ盛り」かどうか?気になるところ。 2006年の発表。 ~「探偵のなかの探偵オーウェン・バーンズが、お力添えにまいりました」。密室で生きたまま焼かれた灯台守。衆人環視下で虚空から現れた矢で体を射抜かれた貴族・・・。「世界七不思議」になぞらえた予告殺人の捜査に乗り出したオーウェン・バーンズは、「犯人を知っている」との報せを受ける。ある令嬢を巡る恋敵であったふたりの青年が、互いに相手こそが犯人だと名指ししたのだ。令嬢は彼らにこう言ったという。「私を愛しているなら人を殺して見せて。美しい連続殺人を!」。不可能犯罪の巨匠が贈る荘厳なる殺人芸術!~ うーん。いったいこりゃなんだ? というのが、読了後すぐの偽らざる感想。 「世界七不思議」になぞらえた七つの不可思議な殺人事件。突然に人体が燃えたり、目の前に水差しがあるにもかかわらず脱水症で死んだ男、ありえない位置から大弓で射抜かれた男、などなど、とにかく不可能趣味あふれる状況での殺人が続いていく。 これ自体は、いかにも「ポール・アルテ」らしい、ケレン味に富んだ作品といえる。 ただ、その解法がなあー。実に簡単に、実にアッサリと解決させられてしまう。 「もっと大上段に構えて、もっともったいぶって、大掛かりなトリックを見せろよ!」っていう読者の希望とは裏腹。割と地味に、割と現実的に、割と「まぁそうだよねぇー」という感じで片付けられていく・・・ そりゃ、ねぇー。仕方ないと言えば仕方ないのかもしれんが、ここまで期待のハードルを上げられた身にとっては、肩透かしというかしぼんだ風船、というような表現になってしまう。 あとはフーダニット。紹介文のとおり、序盤からほぼ特定されてしまう。ただ、そこには作者の欺瞞が隠れてはいるんだけど、テーマとしては「ミッシング・リンク」の関心もあるだろうに、そこは最初から捨ててかかっていることは残念ではある。 その代わりに作者が拘ったのが、ヒロイン役のアメリーとオーウェン・バーンズとのラブストーリー的要素ということなのかな。 (個人的にそこはそれほど響かなかったのだが・・・) ということで、いい意味でも悪い意味でも作者らしさ全開の作品とは言えそう。 個人的に本作をひとことで表現するなら「龍頭蛇尾」。 でも、決して嫌いではないです。(ここまで辛口評価しておいて?) |
No.1793 | 5点 | 四月の橋- 小島正樹 | 2024/07/05 13:40 |
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「詰め込みすぎミステリー」の第一人者である作者(個人的に勝手にジャンルを作ってますが・・・)。
初期の「那珂邦彦」シリーズなのだが、探偵役は相棒で弁護士の川路が務めている本作。 なぜか未読だったため、今頃になって読了。2010年の発表。 ~探偵役は鹿児島弁の抜けない弁護士・川路弘太郎。リバーカヤックが趣味のせいか、川では死体に出会い、河口で発見された死体の殺害犯として逮捕された容疑者の弁護を引き受ける。知り合いの女性弁護士の父親だったからだ。前作で見事な推理の冴えを披露したカヤック仲間、那珂邦彦の頭脳も借り、家族の秘密や昔のいじめ事件・・・と複雑な謎を解き、水上の大団円を迎える。日本版『川は静かに流れ』の傑作!~ 紹介文では「鹿児島弁が抜けない」とあるが、作中では自分のことを「ワシ」というくらいで、他は普通に標準語をしゃべっている(前作もノベルズ版では鹿児島弁が強かったようだが、不評を受けて文庫版ではほぼ標準語になっていた)。「川では死体に出会い」とあるが、確かに冒頭の場面で死体と遭遇するのだが、那珂が鋭い推理力を有していることを示すのみで、後の本筋とは殆ど絡んでこない。 などなど、「こんな紹介文書くなよ!」って言いたくなってしまった。 で、話を本筋に戻すのだが、残念ながら、実に残念ながら、本作に「詰め込みすぎミステリー」の要素は皆無。 「詰め込みすぎ」を期待した読者にとっては、肩透かしのような作品になってしまう。 「日本版『川は静かに流れ』」とあるが、残念ながら私は未読のため、それが正しいのかどうかは不明。なんだけど、ひとつの家族が織り成す物語は、まるで川の流れのように、まっすぐではなく、蛇行したり急に水量が多くなったり、人智を超えた偶然にさらされながら進んでいくことになる。 商売を成功させ裕福な暮らしをしているはずの父親、頭脳も美貌にも恵まれ何不自由なく育ったふたりの姉妹。そんな、何の不満もないはずの一家が、どうしようもない不運と抗しがたい流れにさらされていく・・・のだ。 ただ、「ちょっと食い足りないなあー」というのが正直な感想かな。 作者特有のリアリティのかけらもなく、偶然の連続に支えられた大掛かりなトリックを期待している向きにとっては、あまりにも地味すぎた。 確かにたまにはこういうテイストの作品ももちろん良いのだが、作者に期待しているのはあくまでも「詰め込みすぎ」なのだ、ということを再認識した。 誰が何と言おうとも、評論家が辛辣な評価を下そうとも、いつまでも「詰め込みすぎて」欲しい! 読者とは勝手なものです。でも本音だからしようがないでしょう! (リバーカヤックの蘊蓄は確かに多すぎ! でも面白そうだ) |
No.1792 | 5点 | 誘拐の季節- 西村京太郎 | 2024/07/05 13:39 |
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まだまだ未読がたくさん残ってる?と思われる、作者の短編作品。
本作は昭和40年代に雑誌に発表された短編作品をまとめ、双葉社が編んだ作品集。 2004年に新書版が発表されている。 ①「誘拐の季節」=人気女優が誘拐された! しかし、誘拐犯と思われる四人の男たちが次々に殺害されていく・・・。まあこの手の話によくあるカラクリですな・・・ ②「女が消えた」=新興宗教が広まる田舎の町で忽然と消えたひとりの若い女性。町中の人に尋ねても誰も知らないという・・・古臭いプロットではある。あと、どうしようもない昭和臭 ③「拾った女」=現代なら総スカンされそうなタイトルである。モテない男がなぜか美女にモテてしまう。そう、当然ウラがあるわけで・・・そういう話です。 ④「女をさがせ」=モテない男がなぜか美女にモテてしまう。そう、当然ウラがあるわけで・・・そういう話です。アッ!③と被ってしまった! でもそうなんです。 ⑤「失踪計画」=いくら何でも安易すぎるだろ! こんなユルユルの計画!ということで、最後にはアッサリと捕まってしまいます。アーメン。 ⑥「血の挑戦」=ラストはタイトルからも想像がつくとおり、ハメット風のハードボイルド作品。ただし、いかにも生煮えで中途半端な最期を迎えてしまう展開で・・・ 以上6編。 今回の作品集はライト級。凝ったプロットなんてものは殆どなし。 まあそれも仕方ない。なんせ掲載誌をみると、ひと昔もふた昔も前のグラビアメインの三流?雑誌ばかり。 さすがの若き日の西村御大とはいえ、何でもかんでも全力投球というわけにはいかんでしょう、と勝手に推測して納得した次第。 多分、御大ならこの程度の作品、一日で何作も書いていたんではないか? (個人的ベストは、作者の嗜好の片鱗が伺える⑥かな) |
No.1791 | 5点 | ホテル1222- アンネ・ホルト | 2024/06/09 13:18 |
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女性捜査官「ハンネ・ヴィルヘルムセン」を主人公に据えたシリーズの八作目に当たる作品。
ちょっと前にシリーズ前作である「凍える街」を読了して、作者に対しても少し興味が出ていたので、次作も手に取った次第。 2007年の発表。 ~雪嵐のなか、オスロ発ベルゲン行の列車が脱線、トンネルの壁に衝突した。運転士は死亡、負傷した乗客たちは近くの古いホテルに避難した。ホテルには備蓄が多くあり、救助を待つだけのはずだった。だが翌朝、牧師が他殺体で発見された。吹雪はやむ気配を見せず、救助が来る見込みもない。さらにホテル別棟の最上階には正体不明の人物が避難している様子。乗客のひとり、元警官の車椅子の女性が乞われて調査に当たるが、事件は一向に解決せず、またも死体が・・・~ 紹介文のとおり、本作、場面設定でいえば、「嵐のために外界から隔絶された究極のCCで他殺体が1つ、また1つ発見される」という、古き良き本格ミステリーのフォーマットが採用されている。 巻末解説によると、作者自身も敬愛するA.クリスティの諸作(敢えていうと「そして誰もいなくなった」と「オリエント急行の殺人」)のオマージュを狙った云々と書かれている。 ただし、作品のプロットや雰囲気はかなり異なっている。 はっきり言って、本格ミステリーの風味は相当薄味だと思う。一応、最後にはハンネが避難した乗客を集めて真犯人の指摘を行うのであるが、真犯人の絞り込みというか、その辺の興趣は個人的には殆ど感じられなかった。 伏線が全くないとは言わないけれど、それ以外の雑事の描写が多すぎて、殺人事件の解明そのものに集中できないと言えばいいのか・・・。 これが北欧ミステリーの特徴? どちらかというと、極限状態に追い込まれたハンネの心象や過去、同居人等への思いを語る場面が多くて、多分に映像向きの作品のように思えた。 あとは、これも巻末解説の受け売りだけど、ノルウェーという国に対する作者なりの考察を作中に反映させているのかな? 前作でもそうだったけど、雪また雪に埋もれる街、人々は割と敬虔だけど、どこか秘密を抱えているような人が多いetc。本作でも〇〇人、〇〇人という表記が結構多いし、ハンネの感覚も人種で分かれている気がする。 ということで、結構ヘヴィーな読書になった。 単にCC設定が好きだから、という理由だけで本作を手に取ると、「なんか違う!」っていう感想になるかも。 本作はシリーズ八作目ということだけど、現状簡単に手に入るのは前作と本作のみということのようなので、うーん、しばらくは他作品は読めない(読まない?)かな・・・ ただし、「つまらない」という評価ではないので、悪しからず。 |
No.1790 | 6点 | ボーンヤードは語らない- 市川憂人 | 2024/06/09 13:17 |
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個人的に好評を博している「マリア&漣シリーズ」初の短編集。
魅力的な謎の提示と切れ味のあるロジックは短編でも同じなのか? 興味のあるところ。 単行本は2021年の発表。 ①「ボーンヤードは語らない」=本シリーズのフォーマットどおりのタイトルを冠した一編。時系列でいうと、処女作の「ジェリーフィッシュは凍らない」の後日譚的な位置付けのよう。短編らしく、最後に構図が反転してくる。でも、やや地味かな。 ②「赤鉛筆は要らない」=漣がまだ日本にいる頃(=刑事になる前)の事件。これぞ純正「雪密室」の本格ミステリー。これまでも数多のミステリー作家たちが挑んできたテーマ。作者はいったいどんな新しいアイデアを盛り込んできたのか? で、新しいのは「足跡のつけ方」なのかな? ある意味斬新ではある(雪道でそんなことをしている、という意味で) ③「レッドデビルは知らない」=タイトルの『レッドデビル』とはマリアの学生時代のあだ名。ハイスクールの寮生だったマリアと親友が巻き込まれた殺人事件。純粋無垢に見えた親友には大きな秘密があった! そして、マリアに残った苦すぎる傷・・・。 ④「スケープシープは笑わない」=マリア&漣が初めてコンビを組んだ事件として描かれる。ただ、これも実に「苦い」思い出となってしまう。アリバイトリック?と思わせておいて、最後には事件の構図が反転させられる。 以上4編。 作者の器用さを再認識した本作。 ただ、短編を書くのはあまり得意ではないのかも。いつものマリア&漣シリーズの長編に比べて、どこか「窮屈」な作品になっているような感じを受けた。 当然だけど、字数制限の緩い長編の方が伸び伸び書けていて、面白さも数段増すというイメージ。 今回は、マリアと漣の「エピソード・ゼロ」的な作品で、シリーズファンに向けた作品ということかもしれない。 ということで、評点は若干かさ上げ気味に。 (個人的ベストは、うーん、②かな・・・) |
No.1789 | 4点 | 此の世の果ての殺人- 荒木あかね | 2024/06/09 13:16 |
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第68回の江戸川乱歩賞受賞作ということになる(とのこと)。一時期、乱歩賞受賞作をよく読んでいた気がするんだけど、最近めっきり読まなくなってきた。(調べてみると、佐藤究「QJKJQ」以来だった・・・)
別に嫌ってるとかいうわけでなく、たまたまなんだろうと思ってます。 単行本は2022年の発表。 ~滅びゆく世界に残された、彼女の歪んだ正義と私の希望。正義の消えた街で、悪意の暴走が始まった。小惑星「テロス」が日本に衝突することが発表され、世界は大混乱に陥った。そんなパニックをよそに、小春は淡々とひとり大宰府で自動車の教習を受け続けている。小さな夢を叶えるために、年末ある教習者のトランクを開けると、滅多刺しにされた女性の死体を発見する。教官で元刑事のイサガワとともに、地球最後の謎解きが始まった~ 本作に対する評価は、本当に「捉え方」によるのだと思います(「上から目線」っぽいですが)。 私は敢えて、辛口の「捉え方」をしています。 まずは、巻末の乱歩賞選考委員の選評を読んで、かなりの違和感を感じました。委員間で差はあるものの、本作に対する評価が異常に高いように思えます(選ばれてるのだから当たり前かもしれませんが)。 確かに、この「世界観」を貫きながら、本格ミステリーの謎解きを成立させたことは評価に値するのかもしれません。 終末世界なのに、教習所に通う女性と、元刑事の教官が謎解きを進めながら、同志となる仲間を加えていく展開。シュールなのに、どこかハードボイルドさえ思わせるウエット感。などなど、さすが受賞作だなと思わせるところはあります。 でもなあー。この特殊設定。これはこれでまあ良い。今のご時世、特殊設定でないと本格ミステリーを成立させるのは至難の業である。 ただねぇ・・・。物語が進むごとに、作者は熱を入れて、当然登場人物たちも熱く、言葉を放ち行動する。そんな作中世界の「熱」とは別に、どうも読者の「私」が置いてけぼりにされてるような、決して読み手とシンクロしていないような気がしてならなかった。 これはジェネレーション・ギャップなのだろうか? 作者の年齢。弱冠23歳(当時)とのことである。同世代だったなら、こんな感情は生まれなかったのだろうか? ミステリーはミステリーである前に小説なのだから、「小説」としての魅力がないといけないと思う。 もちろんこれがデビュー作である。そんなことを求めるべくもないし、こんな「青臭い」ことを書くのもどうかと思う。 要は、「小説、読み物」としての魅力をあまり感じなかった、ということが言いたいのだろう(と自己分析)。でも、本作を好意的に捉える方も相応にいるだろうとも思っています。 |
No.1788 | 6点 | 厚かましいアリバイ- C・デイリー・キング | 2024/05/24 18:05 |
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「海」「空」「鉄路」の“オベリスト三部作”などに続いて発表された長編ミステリー。
NY市警のマイケル・ロード警視と心理学者であるボンズ博士のコンビが連続殺人の謎を解く生粋の本格もの。 1938年の発表。原題は“Arrogant Alibi” ~突如発生した大規模洪水により孤立した村。そのとある館で起こる密室殺人事件。集められた容疑者には全員ほぼ完ぺきなアリバイがあった。エジプト文明もモチーフに取り入れ、デイリーキングが仕掛ける本格推理小説「ABC三部作」の第二弾!~ 他の方も書かれてますが、確かに私もヴァン・ダインの「カブト虫殺人事件」を想起させられた。 殺人事件が起こった「館」の中。急遽捜査を行うことになったロード警視の前に、突然現れる二人の人物。二人とも古代エジプト文明の研究者であり、殺人事件が起こったさなかにも、文明の解釈を巡って言い争いをしている・・・ 何とも、場違いでのんびりした場面だなーと思わざるを得なかったのだが・・・ それがまさか伏線とはねぇ。 本筋の連続殺人事件と、一見全く無関係のエジプト文明を巡る何やら、それがどういう具合に融合するかは、ぜひ読んでみて味わってもらいたい。 個人的には「うーん・・・」という微妙な味わいなのだが、決して嫌いではない。 そして皆さんが辛い評価をしている「密室」。うーん。これもしょうがないかな。そういう評価で。 作中には「いかにも」という形で館の平面図が何種類か挿入されてるけど、あんまり役に立たなかったなあ。 ロード警視が示したトリックも相当粗いよ。 私も巻末の森英俊氏の解説を興味深く読ませてもらったのだが、まぁ作者なりに読者サービスをふんだんに取り入れたのが「この形」ということなんだろう。 で、タイトルの「厚かましい」なのだが、結局は真犯人自身が「厚かましい」人物という解釈でいいのだろうか? アリバイが厚かましい、というのはどうにも理解しがたくて(読み落としかもしれないが)、真相解明の際にロード警視が放ったひとことがタイトルとなったということだと個人的に理解。 評価はねぇ・・・。相当好意的にとって、こんなもので。でも決してつまらない作品ではないと思う。(とフォローしておく) |
No.1787 | 5点 | 早朝始発の殺風景- 青崎有吾 | 2024/05/24 18:04 |
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2016年から2018年にかけて「小説すばる」誌に発表された短編作品をまとめた作品集。
作者らしいロジックの効いた作品が並んでいることを期待。 単行本は2019年の発表。 ①「早朝始発の殺風景」=『殺風景』って、まさか「苗字」だったとは・・・。作者らしく、何気ない1つの物証から推理を広げていく展開。なぜ、高校生の「男」と「女」は朝5時台の始発電車に乗っているのか? ②「メロンソーダ・ファクトリー」=テーマは「赤」と「緑」である。こう書いてしまえば、ミステリーファンにとっては真相は自明なのでは? ③「夢の国には観覧車がない」=「夢の国」の近くにあるという「ソレイユランド」が本編の舞台。で、タイトルの理由は「〇〇〇〇だから」ということ。これはまあ有名な話かも。本筋はというと、何もそんな回りくどいことをしなくても・・・ ④「捨て猫と兄妹喧嘩」=とある公園のベンチ下に置き去りにされた捨て猫と、両親が離婚して別々に引き取られた兄と妹のお話。割といい話。でもそれだけ。 ⑤「三月四日午後二時半の密室」=「密室」というのは言葉の「アヤ」のようなもの。謎といっても、女子高生がちょっとばかりいたずらした、という程度のもの。 以上5編。最後に締めとなるエピローグ編あり。 緩く繋がった5つの物語。登場人物はほぼ全員高校生。 ということで、オッサンの読むものではありません。どこか甘酸っぱいような、私自身も遠い昔に経験したような、しないような雰囲気をまとった物語。 そこにちょっとした「謎」というスパイスがふりかけてある・・・とでも言えばよいか。 でもなかなか良いですよ。たまにはねぇ。作者らしいロジックも効かせてあるし。 あーあ、帰れるものなら帰りたい。あの頃に。そんな無茶を考えてしまった。 (ベストは・・・特になし) |
No.1786 | 7点 | 雨の狩人- 大沢在昌 | 2024/05/24 18:03 |
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不定期に発表されてる「・・・狩人」シリーズ。昔なにか読んだなあーと思って当サイトを探ってみると、「北の狩人」を読了していた。それ以来の本シリーズということになる。
単行本は2014年の発表。 ~「誇りのために殺し殺され、誇りのために守り守られる。」 新宿のキャバクラで、不動産会社の社長が射殺された。捜査に当たった新宿署の刑事・佐江と警視庁捜査一課の谷神は、その事件の裏に日本最大の暴力団である高河連合の影があることを突き止める。高河連合最高幹部の延井は、全国の暴力団の存亡をも左右する一世一代の大勝負「Kプロジェクト」を立ち上げ、完全無欠の殺し屋を使い、邪魔者を排除しようとしていた。佐江、谷神と高河連合が、互いの矜持と誇りを賭けた戦争を始めようとするなか、プラムと名乗るひとりの少女が現れる。進むことも退くこともできない暗闇の中にいた佐江は、絶望を湛えたプラムの瞳に一縷の光を見出すが・・・~ 単行本の最終ページを見てビックリ。本作って新聞連載だったんだね! こんな(拳銃バンバン撃ち合うような激しい)小説・・・よく真面目な新聞社が連載してたねェ で、本筋なのだが、うーん。これは大沢在昌エキス100%、渾身のハードボイルドだな。 「新宿鮫シリーズ」を長きに亘って読み継いでいる者としても、これをもし「新宿鮫シリーズです」と言われれば信じてしまいそうなプロット、物語だった。 主な舞台は新宿・歌舞伎町。主人公は一匹狼の新宿署刑事、相手は日本を代表する反社組織の若頭、そして現れる謎の殺し屋、そしてもうひとりのキーパーソンとなるタイ人の少女・・・ これだけ並べてみても、もはや「新宿鮫」と何ら変わるものではない。 別にこれはネガティブな評価なのではなくて、作者のエネルギーの籠った読者の心を揺さぶることのできる佳作ということである。 登場人物の一人一人にドラマがあり、背負っている過去や宿命がある。それを知る読者は、どうしても先読みしてしまう。「あーあ。これはこうなるんじゃないか?」「こういう悲しい結末を迎えるんじゃないか?」と。 そして、実際にそのとおりの展開、結末を迎えてしまう刹那・・・ いつも感じることだけど、作者の作品の登場人物は、常に「矜持」を持っている。それは刑事であれ、ヤクザであれ、殺し屋であれ・・・。みな、己の生き様を貫きとおして、作品のなかで己の命を全うしていく・・・ それがきっと、読者の心に響いていくのだろう。 本作のラスト。日比谷のビルでの壮絶な撃ち合い。そして、最後の最後に示される「親娘の絆」。ベタといえばベタかもしれないけど、所詮人の一生なんて、ベタな展開の連続なのだ。ド派手な銃撃戦を描きながら、作者が言いたかったのは、そういうベタな「親子愛」だったのかもしれない。 ということで作品世界にどっぷりのめり込んでしまった。ただ、書いているとおりベタなので、そういうのが鼻につく人は合わないかもしれません。 |
No.1785 | 6点 | 悪魔パズル- パトリック・クェンティン | 2024/04/29 13:27 |
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ピーター・ダルースとその妻で大女優アイリスの夫婦コンビが活躍する「パズルシリーズ」の中のひとつ。
正直、あまり記憶になかったのだけど、「迷走」「俳優」「悪女」(それぞれ・・・パズルが付く)とシリーズ最終作の「女郎ぐも」は既読。 ということで久々の同シリーズということになる(かな)。1946年の発表。 ~ふと目覚めると、見知らぬ部屋のベットに寝ている。自分の名前も、ここがどこかも、目の前の美女が誰かも分からない。記憶喪失。「あなたはゴーディよ、わたしの息子よ。」という女。自分はゴーディという名前らしい。だが、何かおかしい。なぜ女たちは自分を監禁し、詩を暗唱させようとするのか・・・。幾重にも張り巡らされた陰謀。ピーター・ダルース、絶体絶命の脱出劇~ うん。想像よりは面白かった、というのが率直な感想。 何だか作者に失礼な書き方だけれど、最初に触れたように、今まで四作品読了したはずの本シリーズについて、殆ど記憶に残ってないということは・・・って考えてしまっていた。 他の方も書かれているとおり、本作は「謎解き」よりも、ダルースがいかに脱出できるかというサスペンスの方に重きが置かれている。 ただし、謎解きについてはスルーかというと、そういうわけではなく、なぜダルースがこういう目にあっているのかという「大きな謎」がプロットの軸にはなっている。 で、要は、最終的な真相が「裏」なのか「裏の裏」なのか、はたまた「裏の裏の裏」なのか、ということになる。 登場する「美女」は三人。母と妻と妹。いったい誰が味方で、誰が敵なのか? そこは当然、最終章で明らかになるのだけど、「まぁそうなるよねぇ」という程度の捻り方。そこは、まぁ2024年現在の目線ではちょっと物足りない。 タイトルどおり誰が「悪魔」なのか、これについては作者らしい「企み」が効いていて、当時なら「ヤラレた感」が強かったのだろうな。 評価としては、どうかなあ? 魅力的な道具立てが揃った舞台が用意されていた割にはインパクトが弱い、ととるのか、よくまとまっていてそれなりにサスペンスも感じた、ととるべきなのか。 個人的には「その中間」だな。だからこの評点。 (しかし、いつも美女に囲まれて、モテる役どころなんだなぁー。それがなんか腹立つ!) |
No.1784 | 4点 | マイクロスパイ・アンサンブル- 伊坂幸太郎 | 2024/04/29 13:26 |
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~付き合っていた彼女に振られた社会人一年生、どこにも居場所がないいじめられっ子、いつも謝ってばかりの頼りない上司・・・。でも、今見えていることだけが世界の全てじゃない。優しさと驚きに満ちたエンタメ小説。猪苗代湖の音楽フェス「オハラ☆ブレイク」でしか手に入らなかった連作短編がついに書籍化!~
ということで、いわゆる「タイアップ」である。単行本は2022年の発表。 ①「一年目」=キーワードは”グライダー”? そう、エンジンを積んでない飛行機である。グライダーをめぐって「失恋」と「失言」、そして「逃げる」男が登場。 ②「二年目」=①の三人のその後が描かれる二年目。それぞれに進展しているような、いないような・・・。そして、突然湖面に湧き上がる「スポンジマン」、じゃないっ! ③「三年目」=今度は“カゲロウ”である。 あーあ、もうこの辺で細かいことはどうでもよくなってきた! 以下、四年目から七年目まで物語は続いていく(最後にボーナストラック的な締めもあり)。 本作は、2015年より猪苗代湖を舞台とした音楽とアートを融合したイベント“オハラ・ブレイク”で、小説とのコラボを依頼され、作者が手掛けてきたもの。 そういう制約(?)のためか、いつもほどの自由な発想は見られない。 連作のなかで並行して語られる二つの物語がやがて奇跡のような邂逅を果たし、そしてそれぞれのあるべきところへ収まる・・・ 伊坂の筆致で書くと、何だかうまく言いくるめられた気になるけれど、プロットとして目新しさはない。 まぁ、有り体に言えば、「童話」或いは「ファンダジー」である。こういうのが好きならばどうぞ! 私は・・・それほどは・・・ (結局、あのマグカップはどうなったのか? 若干気になる) |