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E-BANKERさん
平均点: 6.00点 書評数: 1921件

プロフィール | 高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.1921 6点 11文字の檻- 青崎有吾 2026/09/27 14:20
「青崎有吾短編集成」のサブタイトルが示すとおり、デビュー以来各所で発表された作者の短編について、落ち葉拾いの如く集めた作品集。
中編ほどのタイトル作品から、超短編までバラエティーに富んだ作品が並んでる。
2022年の発表。

①「加速していく」=平成17年に発生した「JR福知山線脱線事故」に題材をとった一編。「アレ?作者って関西出身だったけ?」と思ったら、神奈川県生れとのこと。だから関西弁がどうも板についてないように感じたのか・・・。でも、作中でも触れられるとおり、確かにこういう酷い事故があったことを忘れていた自分がいる。
②「噤ケ森の硝子屋敷」=本作唯一と言っていい本格風味の作品。だって、衆人環視の密室で突然銃殺されるなんて!まるでJ.Dカーの作品世界そのもの」。でも、真犯人ってなんでわざわざ大音響の出る銃なんかを凶器に選んだのか? 密室トリックは今まで読んだなかで、”いい意味で”一番雑である。
③「前髪は空を向いている」=これって個人的には結構好きです。こういうキャラの娘も好き。
④「your name」=これは超短編。字数制限があったのかな?
⑤「飽くまで」=アイデアとしては面白い。思い付きといえば思い付きのような気はするが・・・
⑥「クレープまでは終わらせない」=うーーん。
⑦「恋澤姉妹」=うーーん×2。結局何言いたかったの?
⑧「11文字の檻」=舞台設定からして挑戦的で面白い。正解のパスワードは皮肉が効いてるのもよい。

以上8編。
裏染天馬シリーズから「地雷グリコ」まで、世代を代表するミステリ作家となった感のある作者。
「さすが」というか、「さもありなん」という作品が並べられている。抜群に面白いというわけではないけれど、どこか作者のセンスを感じる作品が多い。今後も期待せずにはいられない。
(個人的ベストは⑧かな。②も捨てがたくはある。)

No.1920 6点 まぐさ桶の犬- 若竹七海 2026/09/27 14:18
数あるシリーズとして、個人的に最も気に入っているといっていいのがこの「葉村晶」シリーズ。
今のところその最新作が本作。後回しにしてるうちに少し出遅れてしまったかな。
文庫書き下ろしで2025年の発表。

~タフで不運すぎる女探偵・葉村晶。吉祥寺のミステリ専門書店〈MURDER BEAR BOOKSHOP〉でアルバイトとして働きながら、〈白熊探偵社〉のただ一人の調査員として働いている。葉村晶も五十代に突入し、老眼に悩まされるお年頃。魁皇学園の元理事長でミステリのエッセイストとしても名を馳せた乾巌、通称カンゲン先生に、<秘密厳守>で「稲本和子」という女性の行方を捜してほしいと頼まれた晶。彼女の一人娘は学園の理事だったが、本屋で万引きしたとして留置中に急死していた……。高級別荘地の<介護と学園地区構想>など、さまざまな思惑が絡み合い、やがて誰もが予想のしない結末へ!~

葉村晶も50代に突入! シリーズ一作目では確か20代だったはず。いやはや時の流れを感じずにはいられない。シリーズキャラがここまで順調に年齢を重ねることは結構レアかもしれない。特にジャンルとしてはハードボイルドである。一応。
それがもう、主役がハアハア言いながら七転八倒するのだから・・・
でも、作者の本シリーズに対する愛着、愛情は痛いほど感じるし、いいシリーズである。

で、本題ですが、
今回は(今回も?)もう、ややこしすぎ! 敢えてかもしれないけれど、とにかくいろんな筋が次から次へとやって来て、晶を翻弄し、読者を混乱させる。人間模様も実に複雑で、序盤に挿入されている家系図も、終盤にはあれやこれやとひっくり返されることになる。
普通の作品なら酷評するかもしれない錯綜ぶり。でも本シリーズは別。お約束として許せてしまう。それもこれもどんな窮地に陥ろうが己の矜持を貫こうとする晶のせいかな。(ただ、もう少し整理して欲しかった気はするが・・・)
ロスマク的「家族の不幸」もそろそろ通用しない社会に変遷しているような気もするし、逆にどういう時代になっても家族、肉親ほど憎みあい、いがみ合うのかもしれない。

しかし、次作ではもしかして60代? 大丈夫かなあー? でもそれはそれで面白いかも。また、彼女の新たな活躍についつい期待してしまう。今の世の中、年齢は関係ないですから・・・

No.1919 5点 ライルズ山荘の殺人- C・A・ラーマー 2026/09/27 14:15
”マーダー・ミステリー・ブッククラブ”シリーズの四作目に当たる。
シリーズものはなるべく一作目から読みたいものだが、得てしてこういうことも(よく)ある。
2021年の発表。

~クリスティ愛好会の読書会、山荘に滞在する。山荘での新メンバー歓迎の読書会、課題書は『そして誰もいなくなった』。ところが死体は出るし、山火事は起きるしで読書会どころではない事態に……〈マーダー・ミステリ・ブッククラブ〉に新メンバー四人が加わった。顔合わせを兼ねた読書会の課題書は『そして誰もいなくなった』、古風な山荘に泊まりこみで行なうのだ。ところが到着の翌日、支配人が死体で発見される。電話線が切断され外部とは連絡がとれず、山荘の周囲では山火事が。読書会どころではない事態にブッククラブの面々はどう立ち向かう?~

楽しめたか?楽しめなかったか?の二択で問われたなら、「かろうじて楽しめた」と答えそう。
舞台設定や道具立ては実にそそってくる。
外界から隔絶された山荘という、お馴染みのCC設定の環境にやってきた九人の老若男女。そこで早々に発生する殺人事件。
ただし、被害者は「そして誰も…」とは異なり、いきなり九人以外の意外な人物。
ただ、ここからの展開は錯綜した雰囲気になってくる。
迫りくる山火事というタイムリミットサスペンス的な要素も加わり、事件の背景・動機は過去の放火事件につながることが判明する。

まあ今までに散々コスられてきたネタ、プロットとなる。なのだが、本作の内容では読者にサプライズを与えることは難しいだろうな。
あと、気になったのは登場人物の書き分け。九人のうち何人か(特に新メンバー)は誰が誰なのか、個人的に途中で混乱してしまっていた。この辺は「書き分けの名手」であるクリスティとは比べるべくもない。
途中にちょいちょい挿入される「あからさまな伏線表示」もなあー、これが作風なのかもしれんが、頻発させすぎてうるさい。

どうもモヤモヤした書評になってしまった。これは、本作自体がモヤモヤしているためではなかろうか。見た目のよい素材はそろえたけれど、如何せん料理人腕が未熟でした・・・という印象が残った。

No.1918 10点 あなたが誰かを殺した- 東野圭吾 2026/09/13 11:45
"今のところ「加賀恭一郎シリーズ」の最新刊であり、最終話となるかもしれない本作。
「どちらかが・・・」「私が・・・」に続く、久々に発表された「・・・殺した」作品でもある。心して味わいたい。
単行本は2023年の発表。

~「覚えておいて。彼に嘘は通用しない」。驚きを絶対保証加賀シリーズ最新作。夏の避暑地でのバーベキューパーティ。集うのは、別荘を持つセレブたち。その深夜、彼らのうち五名が殺された。間もなく犯人は大胆に出頭するが、死刑になりたいと語るだけ。納得できない遺族は自ら真相を解き明かすべく「検証会」を開くが、彼らのもとに謎の手紙が届く。そこへ現れたのは、刑事・加賀だった~

「最後までワクワクした」「面白かった」 以上!である。
本来ならこれで終わってもいいのかもしれない・・・でも、さすがに、ねぇー

本作のテーマは何だろう?って考えながら読み進めていた。で、個人的には「嘘」がテーマだろうと感じた。
本シリーズにおいては、本作だけでなく、この「嘘」というのが度々テーマになってきたように思う。
人間はあらゆる場面で「嘘」をつく。特に殺人事件のような、自身の罪を問われかねないような場面では尚更だ。
そして、この「嘘」をひとつひとつ、はがしていく役目を担っているのが、本シリーズの主人公・加賀恭一郎。
彼の物語は、前作「希望の糸」で一旦ケリがついたのかもしれない。
自身の生い立ちや、歩んできた人生のなかで、様々な人と出会い、そしてその結果、少なくない事件に巻き込まれることとなった加賀。事件の解明を図るなか、その捜査においては、人間のさまざまな「嘘」に遭遇してきた。その中には、誰かを思いやるために付いた「嘘」もあった。ただ、真相を詳らかにするために、刑事である彼は、その「嘘」をひとつ、またひとつ明らかにしていかなければならなかった。

そこで出会った本事件。加賀がこの事件を解明することになった背景は謎だ。一応知人からの依頼となっているが、謎は残る。
高級別荘地で一夜に五人が殺害された事件。しかし、犯人は自供し、地元警察は捜査を打ち切る。
しかし、当然のように加賀は異を唱える。別荘地の関係者たちの証言には、やはり「嘘」が混じっている。終盤の真相解明の場面。加賀の明晰な頭脳がその「嘘」をはがして明かされた真相。これは、やはり衝撃だった。「そうきたか・・・」と思わざるを得なかった。
作者が初期に書いていたパズラー的ミステリに近いテイストだけど、当然ただのパスラーではない。
いかにも!というような二番底の仕掛けもそう。クリスティの諸作を思わせるような、登場人物ひとりひとりの作りこみと読者へのミスリードの仕掛け。うーーん。やっぱり並みの作家ではないよ。東野圭吾は。

そんな東野圭吾が永眠された。もう、ただひたすら残念である。遺作となったガリレオシリーズ最新刊も近いうちにと思うけど、この大好きだった「加賀恭一郎シリーズ」は本当にこれで終わるのだろうか? 謎めいた本作を読んでいると、絶対に今後の「含み」があったはずと思わずにはいられない。
作者が遺した100を超える作品。未読の作品もまだまだ多い。ただ、今後作者を超えるヒットメイカーは出てこないんじゃないかなー
いずれにしてもただ感謝! 今回は万感の思いをこめて「座布団10枚」!じゃなくて「10点」進呈。

No.1917 7点 テスカトリポカ- 佐藤究 2026/09/13 11:43
"第165回直木賞受賞作にして、第34回の山本周五郎賞のダブル受賞!(スゲエ)
ハードカバーの分厚さに恐れをなして敬遠してましたが、そろそろ手を付けてみるか、ということで
単行本は2021年の発表。

~鬼才・佐藤究が放つ、クライムノベルの新究極、世界文学の新次元! メキシコのカルテルに君臨した麻薬密売人のバルミロ・カサソラは、対立組織との抗争の果てにメキシコから逃走し、潜伏先のジャカルタで日本人の臓器ブローカーと出会った。二人は新たな臓器ビジネスを実現させるため日本へと向かう。川崎に生まれ育った天涯孤独の少年・土方コシモはバルミロと出会い、その才能を見出され、知らぬ間に彼らの犯罪に巻きこまれていく――。海を越えて交錯する運命の背後に、滅亡した王国〈アステカ〉の恐るべき神の影がちらつく。人間は暴力から逃れられるのか。心臓密売人の恐怖がやってくる。誰も見たことのない、圧倒的な悪夢と祝祭が、幕を開ける~

確かに。「一大スペクタクル冒険活劇」(表現古いな!)とでも称したくなるような作品。
しかもスゴイ筆力でグイグイ読ませていく。読者としてもスピーディーな展開に翻弄されながら没入感を味わえる。
登場人物のひとりひとりに、どこか得体のしれないところがあり、一体この物語はどこへ向かい、どういう形で終結するのか? 期待と不安のなか読み進めることとなった。

気になったのは、徐々に物語のスケールが小さくなっていくように思えたこと。
メキシコでの麻薬戦争を経て、アフリカ→ジャカルタで新たな犯罪ビジネスを立ち上げるまでは良かった。まさにグルーバルなスケールで、一般人の想像を遥かに超える大きな話が展開されていた。
ただ、物語の舞台が日本・川崎に移ってから、急にスケールダウンしたように見える。もうひとりのメインキャストであるコシモとの絡みもあったんだろうけど、臓器ビジネスの話にしても、もう少しスケール感のある展開を期待したんだがな・・・
ということで、「起承転結」でいうなら、「転」の部分がやや不満ということかな。

でも全体としてはやはりさすがの出来だった。アステカ文明の考察も「へえー」と思ったし、作者の豊富な取材量に裏打ちされて、物語に奥行きを与えている。
ダブル受賞というのも頷ける、一大エンターテイメントで異論なし。

No.1916 4点 孔雀屋敷 フィルポッツ傑作短編集- イーデン・フィルポッツ 2026/09/13 11:42
作者といえば、どうしても「赤毛のレドメイン家」の印象が強くなる。
ただ今回は落葉拾い的な短編集。バラエティに富んだ内容らしいが・・・どうかな?
原典は1920年代の発表が殆ど(全部?)

①「孔雀屋敷」=親族の老人が住む古い屋敷(孔雀屋敷ではない)を訪ねた主人公の女性。ある能力を持つ彼女は、ある日不思議な体験をする。それは、村に伝わる過去の殺人事件に纏わるものだった・・・。で、最後に捻りが待っている。
②「ステパン・トロフィミッチ」=帝政時代のロシア。古く悪しき風習。若き英国人は何とかしようと奮闘するのだが、如何せん・・・。ただ、最後には横暴極まりない領主に天罰が下る。
③「初めての殺人事件」=まるで、「初めてのお使い」みたいなタイトル。で、実際の中身も実はそんなテイストを感じた次第。これではミステリとは呼べんなー
④「三人の死体」=作者のことを熟知しているわけではないけど、あー作者らしい筋立て、道具立てだなあーと感じてしまった。観念的というか、宗教的っていうか。Whyに特化したことは良かった。
⑤「鉄のパイナップル」=正直なところ????・・・。単にヤバイ奴じゃないの?コイツは!
⑥「フライング・スコッツマン号の冒険」=タイトルはロンドン~グラスゴー間の特急列車の名前。「冒険」っていう明るめの話ではない。もしかして最初期のトラベル・ミステリ?的な味わい、なのだが、まあご都合主義と言われても仕方ないかな。

以上6編。
ミステリの黎明期から黄金期前という時代背景。「短編でこそ」というプロットというよりは、長編未満の習作という雰囲気が濃かった。
「レドメイン家」ほどの作りこみや面白さを期待するのは「酷」だけど、ちょっと誉めるところに困る。
「作者って、こんな作品も書いてたんだねえー」という感想を持つために読む作品、という位置づけ。
(中では①かな)

No.1915 7点 殺しへのライン- アンソニー・ホロヴィッツ 2026/08/24 14:14
大人気! 「ホーソーン&ホロヴィッツ」シリーズの三作目となる本作。
今回は舞台を英仏海峡に浮かぶリゾート地の小島に移して、お馴染みとなったコンビが活躍する探偵譚。
2021年の発表。

~『メインテーマは殺人』の刊行まであと3ヵ月。プロモーションとして、探偵ダニエル・ホーソーンとわたし、作家のアンソニー・ホロヴィッツは、初めて開催される文芸フェスに参加するため、チャンネル諸島のオルダニー島を訪れた。どことなく不穏な雰囲気が漂っていたところ、文芸フェスの関係者のひとりが死体で発見される。椅子に手足をテープで固定されていたが、なぜか右手だけは自由なままで……。年末ミステリランキング完全制覇の『メインテーマは殺人』『その裁きは死』に続く、ホーソーン&ホロヴィッツシリーズ最新刊!~

さすが、高いレベルでの安定感と面白さ。こういう表現で間違いないかと思う。
「文芸フェス」というのが目新しいけども、正体のよく分からない男女が一か所に集められ、そこで殺人事件が起こる、というプロットそのものは手に垢がつきまくっているもの。
本作でも、「正体のよく分からない」男女の正体が、ホーソーンの明晰な(?)推理&指摘でひとつひとつ、ひとりひとり明かされていく。そこは、やはり王道的面白さがあった。
で、正体が明かされるたび、逆に真犯人候補は減っていくのが当然の帰結。じゃあ誰?という流れのなか、フーダニットの捻りは確かに小さいのかもしれない。

でもまあ、個人的には十分楽しめるものだった。ある人物の正体も、他の方には自明だったかもしれないけど、私にとっては結構サプライズだったりしたし・・・
とにかく、作者のミステリに対する向き合い方というのが何となく分かる一冊。こんな王道ミステリ、国内でも書く人はごく少ない。「特殊設定」ミステリもいいけど、こういう作品をいかに続けられるかというのも、作者の力量なんだろう。
シリーズとしては、ホーソーンの過去についても少しづつ、読者に見せつつ、引っ張って・・・というのも戦略的だな。
いずれにしても、次作も期待できる(多分)。

No.1914 7点 明智恭介の奔走- 今村昌弘 2026/08/24 14:13
「屍人荘の殺人」でまさかの冒頭に命を落とした名探偵・明智恭介。
彼を「本当の」主役に据えたスピンオフ連作短編集。
単行本は2024年の発表。

①「最初でも最後でもない事件」=なんていうか、心の奥がじんわりと熱くなるような作品だった。これは、本シリーズ、明智恭介というキャラに対する作者のスタンス、或いは「想い」なんだろう。本筋としては、短編ミステリの王道のようなプロットで好感できるし、もう、最初から明智&葉村のコンビが好きになった。
②「とある日常の謎について」=商店街のオンボロビルが高値で買われたこと、これが本作最大の謎となる。「謎」の魅力というよりも、喫茶店の店主やその他商店街の方々、そしてそれに関わる明智のキャラを楽しむための作品。店主の息子の言葉も胸にキュンとくる。
③「泥酔肌着引き裂き事件」=正直なところ、どうでもいいような話ではある。最後に判明する真相が事実として、そこまでのことをして、全く覚えていない明智には、直ちに病院を受診することをお勧めしたい。
④「宗教学試験問題漏洩事件」=密室っぽい状況から、試験問題が保存されたUSBが盗まれた!という事件。真犯人の弄したトリックは、かなり危ないし、結構いいかげんなものだと思うのだが・・・
⑤「手紙ばら撒きハイツ事件」=これのみ書き下ろし。で、助手役となる葉村も登場しない。探偵事務所で見習い探偵として働く明智の奮闘が描かれる。これも「真っすぐな」明智の姿に心打たれる。

以上5編。
「明智恭介」というと、あのメガヒットとなったデビュー作で、登場した早々に死亡するという衝撃を与えた名(?)探偵である。まさか、その彼が主役となる作品が、スピンオフとはいえ出るなんて・・・
ただ、これは想像以上に瑞々しく、好ましい作品だった。
大したトリックや独創的なプロットは特段出てこない。でも、なんだか応援したくなる、そう、そんな「いい作品」だった。
是非、続編を出して欲しい。比留子&葉村のコンビもいいけど、このふたりも実にいい。
ふたりがわちゃわちゃやりながら、何とかして事件を解決していく・・・こういう「昭和臭」がいいのかもしれない・・・
(個人的には迷わず①がベスト)

No.1913 5点 雷龍楼の殺人- 新名智 2026/08/24 14:11
作者の初読みである。伝統ある「ワセダ・ミステリクラブ」出身で、横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞者、とのこと。
期待してしまうではないか!
単行本は2024年の発表。

~富山県の沖合に浮かぶ油夜島。この島にある外狩家の屋敷「雷龍楼」では2年前、密室で4人が命を落とす変死事件が起こった。事件で両親を失った中学生の外狩霞は、東京にいるいとこ・穂継の家へ身を寄せていたが、下校途中、何者かに誘拐される。霞に誘拐犯は、彼女を解放する条件となる「あるもの」を手に入れるため穂継が雷龍楼へ向かったと告げる。しかし穂継が到着した夜、殺人事件が発生。その状況は2年前と同じ密室状態で、穂継は殺人の疑いをかけられる。穂継が逮捕されると目的のものが手に入らないばかりか、警察に計画を知られてしまう。穂継の疑いを晴らしたければ協力しろ、と誘拐犯に迫られた霞は、「完全なる密室」の謎解きに挑む~

他の方の評価は思ったより高いんだねえ・・・
途中からだいたいのプロットは見えてきてしまったせいか、どうも盛り上がりを欠いたなあー、というのが素直な感想だった。

冒頭の「読者への挑戦」。心意気はよし、だけど、実質的な意味は薄いと感じた。最初から真犯人の名前を明記するという「掟破り」。これもどちかというと、読者の「興」を削いだように思う。この「掟破り」を効果的に使ったどんでん返しが狙いなんだけど、先に触れたとおり、先が見えちゃったから、威力は大幅減だ。
うーん。どうしても辛口になるなあー
何ていうのか、「はりぼて」のようなトリック、プロットがお気に召さないんだろう。
ちょっと失礼な表現かもしれないが、せっかくの「館もの」だし、もう少し正統派というか正面からの挑戦を期待したんだがな・・・

まっ、あくまで好みの問題ですから。ひとりのオッサンの戯言と思ってもらえれば幸いです。
次作に期待!

No.1912 8点 蟬かえる - 櫻田智也 2026/08/24 13:14
「サーチライトと誘蛾灯」に続く、かの亜愛一郎を彷彿させる不思議な名探偵「魞沢泉(えりさわせん)」が活躍(?)するシリーズ二作目。今回も珠玉の名短編ぞろい・・・かな?
2020年の発表。

①「蝉かえる」=これは評判どおりの佳作だ。メインの謎は「不可思議な人間(幽霊?)消失」だけど、作品全体を通じての雰囲気づくりや登場人物の好配置など、読後に唸らせられることになった。
②「コマチグモ」=コマチグモとは、子グモが母グモを食べて成長するクモ、とのこと。母と娘のほんの少しの行き違いが悲しい事件を生んでしまう。そんな偶然を生じさせ、なぜか事件に巻き込まれる「魞沢」。これもまごうことなき「好短編」だ。
③「彼方の甲虫」=景勝地の沢で、死体で発見されたのはエジプトにルーツを持つ留学生。彼は友人にもらった甲虫のペンダントを肌身離さず持っていた。そのペンダントには秘密が・・・。その秘密を察することになった「魞沢」が事件を解決することに。
④「ホタル計画」=これはシリーズにとって「貴重な」一編だ。なにしろ、「魞沢」のルーツを知ることができるのだから。いわば、エピソード・ゼロ的な話なのだが、子供の頃から「魞沢」は「魞沢」だった。あと、北斗星かあー、懐かしいなあー
⑤「サブサハラの蠅」=主役となるのは、「魞沢」の大学時代の親友と「ツェツェ蠅」。それぞれに大切な人を亡くした者どおしの心が共鳴しあうとき・・・。

以上5編。
これは、もう、文句のつけようのない、高レベルの連作短編集。
文庫版には、作者による二種類の丁寧な「あとがき」、おまけに解説の達人(?)・法月綸太郎の的確な解説まで付いている。そのおかげで、ひとつひとつの短編にここまでの意味が込められていること、などなどよく理解できた。
いやいや、こうなったら素人の私などがあれこれ批評なんてできません。、ていうか、そんな小難しいこと抜きに、十分面白く読ませてもらった。
評判どおりの作品だったなあ・・・
(やはり表題作がベストかな。④や⑤も味わい深いと思うけど)

No.1911 6点 摩天楼のクローズドサークル- エラリイ・クイーン 2026/08/24 13:13
リチャード・デミングによる代作者版”E・クイーン”作品。
登場する名(?)探偵はエラリーではなく、隻眼の警察官ティム・コリガン。ということで、ここまでくるともはやクイーンでもなんでもない、という気はしてくるが・・・
1968年の発表。

~NYの高層ビル、二十一階のバーンズ会計士事務所。会計士のブライアン・フランクが部屋にひとりなのを秘書のシビルは見ていた。部屋から銃声が響き、ドアを開けるとフランクは死んでいた。が、状況は自殺ではあり得なかった。その直後、街は大停電で闇に包まれる。隻眼の探偵ティム・コリガンのロジックが冴える本格推理~

いい意味で「正統派」の本格ミステリだったように思う。
摩天楼に聳えるビルの高層階、しかも突然の大停電で外界と完全に隔絶された準CCが舞台。
で、登場する男女がいかにも大都会NYの住人たち、なのだ。くだんの会計士事務所のほか、フロアを共有する2つの会社で働く男女は、ふだんから”くんずほぐれつ”の恋愛模様を演じている。
当然ながら、動機はそこに焦点が当てられることになる。いやー、結婚・未婚或いは、多少の年齢差なんて関係なし。女性は常に男に色目を使い、男はとっかえひっかえ女を手にする・・・っていうオフィス空間、なんてうらやましい!
いやいや、そんなことは置いといて、
で、登場する探偵コンビがこれまた濃い味でエグい。
フェロモン全開のような男性が、停電のなかナチュラルハイとなった女性とまたまたくんずほぐれつ・・・

いったい本筋はどこへ行った!
ご安心ください。最後は割と正統派です。クイーンばりにロジック全開とまではいえないものの、納得感のある真犯人、納得感のある動機、納得感のあるトリックが説明され、無事事件は解決していきます。
特に動機は、なるほど、だからこその設定なんだね、という意味でも旨いと思わされた。
ただまあ、これをE・クイーン名義で発表しなければならない理由は全くないと思うねぇ・・・
それくらい、完成度は高いと思ったから。

No.1910 6点 ルビンの壺が割れた- 宿野かほる 2026/08/24 13:11
そうか・・・もう九年も前になるんだねえ。
いわゆるどんでん返しが話題になった本作。久々に大型書店で彷徨っているなか、手に取ってしまった。
2017年の発表。

~「突然のメッセージで驚かれたことと思います。失礼をお許しください」―送信した相手は、かつての恋人。フェイスブックで偶然発見した女性は、大学の演劇部で出会い、二十八年前、結婚を約束した人だった。やがて二人の間でぎこちないやりとりがはじまるが、それは徐々に変容を見せ始め……。先の読めない展開、待ち受ける驚きのラスト。前代未聞の読書体験で話題を呼んだ、衝撃の問題作!~

もうとっくの昔にネタバレしてるだろうから、今さら私ごときがそれを気にしても仕方ないと思うのだが、一応気を付けながら・・・
うん。面白いか面白くないか、二択で問われれば迷わず「面白い」と答える。
理由は、やっぱり「構成の妙」かな。過去、結婚するはずだった男と女。そんなふたりがフェイスブックを通じてやり取りを開始する。
最初は、あの懐かしい、輝いていた頃の昔話だった。それが徐々に不穏な空気を纏ってきて・・・
巻末解説では、本作の担当編集者が、「本作はミステリではない!」と断言されている。確かに。何らかの叙述トリックが仕掛けられているわけではない。
ただ、明らかに読者にサプライズを仕掛けようとはしている。で、おおよその結末を想像しながら読んでいた読者は、その想像以上の結末を知らされることになる。
うーん。ラストインパクトだな。やっぱり、どう見てもこれが本作のプロットの肝。

他の方も書かれているとおり、ラストに告げられる事実があるなら、最初の書簡から触れないのはおかしいと思う。そこの処理は課題かな。でもミステリではないって言ってるし・・・

No.1909 5点 完全脱獄- ジャック・フィニイ 2026/07/17 15:50
なんとなく手に取ってしまった本作。正直なところ、作者も全くの初見でございます。
「脱獄もの?」ももしかすると初めてなんじゃないかな?
1956年の発表。

~ボートの先にオレンジ色の光が見えた。奇妙な建物を照らす、巨大な投光照明。そう、厳重な警備で知られるサンクエンティン刑務所だ。ベンは考えた。四日以内に兄を脱出させなければ。なんとしても……房内でアーニーは、ただ一つのセリフを頭の中で繰り返していた。このままでは処刑される。弟の手を借りて脱獄しなければ。なんとしても……脱獄不可能の巨大刑務所からの脱獄計画を描く、異色作家の奇想天外脱出サスペンス~

中盤すぎまでは結構退屈だった。
心情描写が多いのと、主語が明示されていない部分も多いため、「これって誰の心情なんだ?」と考えさせられることが度々。
で、ついに中盤以降は脱獄計画が始動し、俄然面白さは増してくる。
そして最終盤、紆余曲折あった脱獄計画もなんとか成功したと思われた矢先、突然訪れる絶体絶命のピンチ。ラストは苦い後味を残ることになる。

あれ?これだと何か面白い作品の書評みたいに書いてるな。
うーむ。実際は「面白い」というのは語弊がある。そもそも弟が実兄の脱獄を手伝うことになった動機がよく分からん。
それにこの刑務所。「緩く」ないか?
兄弟が付け焼刃みたいに考えた脱獄計画が、割とあっさり成功するなんて、完璧無比な刑務所でも全然なくて、まあお話の構成上やむを得ないとしても、適当感が拭えなかった。
サスペンスとしても薄味だしなあー
もうひと工夫、ひと捻り、欲しかった気がしてならない。

No.1908 6点 十戒- 夕木春央 2026/07/17 15:48
「方舟」の異例のヒットで、一躍時の人となった感のある作者。
続く作品は、やはり聖書つながりで「十戒」ときたか・・・
単行本は2023年の発表。

~殺人犯を見つけてはならない。それが、わたしたちに課された戒律だった。浪人中の里英は、父と共に、伯父が所有していた枝内島を訪れた。島内にリゾート施設を開業するため集まった9人の関係者たち。島の視察を終えた翌朝、不動産会社の社員が殺され、そして、十の戒律が書かれた紙片が落ちていた。“この島にいる間、殺人犯が誰か知ろうとしてはならない。守られなかった場合、島内の爆弾の起爆装置が作動し、全員の命が失われる”。犯人が下す神罰を恐れながら、「十戒」に従う3日間が始まった!~

またしても特殊設定下のCCものである。
しかも地味ながら、本作の「特殊ぶり」も際立っている。なにせ、殺人犯を見つけてはいけない、というレギュレーションがかかっているのだ。
最初これを「帯」で見たとき、果たしてミステリとして成立するのだろうか?という疑問が浮かんだ。
そこは全く心配ご無用。見事に成立させていた。
ただ、成立はするんだけど、どうもレギュレーションがありすぎて、作品全体が変に窮屈になっている感じがしてならなかった。
もうひとつは事件の構図としてのチープ感と言えばいいのか。(ネタバレ?)背景にある爆弾騒ぎが相当デフォルメされていることや、登場人物はこの爆弾の恐ろしさに縛られるわけだけれど、この辺りがどうにも安直に処理されているのが気になった。

本作ではもうひとつ、大きな争点、いや工夫とでもいえばいいのか、携帯電話の存在がある。孤島のCCを舞台として設定するなら、携帯電話という存在をいかにしてロジカルに無効化するのかも考えどころとなる。本作のプロットでは、関係者自らがその使用を放棄せざるを得ないようにもってきた。そこは「考えたなあー」と思ったポイント。
いずれにしても、作者の企み自体は成功したのかもしれない。でも、細部などを含めるとそれほどの感心はできなかったなというのが本音。
ラストは次作への含みかな?

No.1907 6点 黒の様式- 松本清張 2026/07/17 15:47
久しぶりの「清張」となった。しかも新潮社の傑作短編集である。
最近は「特殊設定」本格ミステリばっかり手に取ってる気もするので、時々はこういう作品も読まねばと思っている。
昭和48年(1973年)刊行。

①「歯止め」=主人公の姉は嫁いだ先で服毒自殺した。自らが知人に用立ててもらった青酸カリを使って。嫁いだ夫は旧家に養子となった男だった。男の母親(義母だね)は厳しくも美しい人だった。大学教授という仕事柄夜鍋で勉学に励む夫に何もできなかった姉。それが自殺の原因と思われたのだが・・・
②「犯罪広告」=紀伊半島の田舎町。粗暴で何度も妻を変えた男。母親はある日突然いなくなった。息子は苦労して成長し、ある日、母親はあの男に殺され、家の下に埋められているに違いないと、町中にビラをまいた。そして、ついに床下を掘ることになったのだが・・・。本筋と全然関係ないけど「うみほたる」ってそんな生物だったんだね・・・
③「微笑の儀式」=法隆寺で出会ったひとりの若き彫刻家。彼は飛鳥時代の仏像にしか興味がないという。その理由は仏像が浮かべる「笑み」だった。画壇で鳴かず飛ばずだった彼が権威ある賞を受賞したというニュースが飛び込んだ矢先、厚木でひとりの女性が事故死したことを耳にする。彼女の顔はその仏像と瓜二つだったのだ・・・

以上3編。どれもなかなかの力作。
そんじょそこらのぽっと出の作家では決して真似できない「格式」と「重厚感」を備えた作品集だった。
恐らくすべてが計算ずく。
そして、すべてが読後に深い余韻を残していく。

やっぱりこれは名人芸の域だろう。
詳しくは巻末で中島河太郎氏が見事な解説を披露している。なるほど、そういう時代背景そして清張にとっての時間軸の作品だったわけか・・・
清張に触れずして本邦ミステリを語ってはいけないなと改めて思わされた。そんな読書となった。

No.1906 5点 身代わり- 西澤保彦 2026/06/22 13:45
惜しまれつつこの世を去ってしまった作者。作者というと代表的なシリーズはやはり「タック&タカチ」(ついでにボワン先輩とウサコ)シリーズ、ということで、追悼じゃないけれど、未読だったシリーズ作品を手に取ることに。
単行本は2009年の発表。

~ポルノまがいの小説『身代わり』を書いてトラブルを抱える成績優秀の美人女子高生が自宅で殺された。しかも現場には、一人の警察官の遺体が。一方、5日前の深夜、大学生が公園で女性を包丁で脅し暴行をしかけたが反撃され自分の腹部を刺して死亡。無関係に見えた二つの事件が高瀬千帆と匠千暁の名推理で交錯するとき、複雑な悪意の糸が解け出す~

本作では、いつも探偵役となるタックが終盤まで登場しない(しない理由は前作でいろいろあったから、なのだがそこら辺りは全然覚えていなかった)。そのため、珍しくボワン先輩が慣れない探偵役を務めることになる。
紹介文にもあるとおり、まったく関係ないと思われたふたつの事件がやがて交錯し、ひとつの大きな「流れ」となっていく。これが本作のプロットの軸。
この手のミステリはまあよくあると言えばよくあるタイプ。で、本作ではふたつの事件を繋ぐのが、〇〇殺人。

これもミステリ作家なら一度は挑戦したいプロットのひとつ、というほどに数多の同種ミステリが存在する。で、本作はどうなのかというと、他の方も書かれているとおり、「書かれていない部分」があまりに多いので、読者としては「意外性」というよりも強烈な「唐突感」という方が強い。
真犯人として終盤指摘される人物も、えーっ?そこ?っていうレベルの存在。警察官を含むふたりを一度に殺してしまった動機にしてもかなり疑問だ。
まあこの辺は、「敢えて」という感がしなくもないので、読者があまりとやかく言うことではないのかも。

それよりも「タカチ」である。
個人的には、本作の魅力の8割くらいは「タカチ」なので、久々に「タカチ」のお姿を拝見できて(?)うれしく思った。あーあ、もう新たな「タカチ」に会うことはないんだねえー
それが非常に残念(これって不謹慎なのかな?)

No.1905 5点 星くずの殺人- 桃野雑派 2026/06/22 13:44
南宋を舞台にした武挾小説「老虎残夢」で第67回江戸川乱歩賞を受賞して作家デビューを果たした作者。
もちろん初読みである。割と評判は良さそうだが、実際のところどうだろう?
単行本は2023年の発表。

~完全民間宇宙旅行のモニターツアーで、念願の宇宙ホテル『星くず』についた途端見つかった死体。それも無重力空間で首吊り状態だった。添乗員の土師(はせ)穂稀(ほまれ)は、会社の指示に従いツアーの続行を決めるが――。
一癖も二癖もある乗客、失われる通信設備、逃げ出すホテルスタッフ。さらには第二の殺人まで起きてしまう。帰還を試みようとすると、地上からあるメッセージが届き、それすら困難に。『星くず』は宇宙に漂う巨大密室と化したのだった~

ひとことで言うと「悪くはない」というのがトータルの印象。
まずは舞台設定の勝利かな。作者はもともと周辺知識に造詣が深いのか、或いは本作執筆のために綿密にリサーチしたのか、いずれにしても「宇宙空間」についての特徴が事件のトリックやプロット作りに大きく関わってくる。
こういう蘊蓄が好きか、興味あるかで本作の評価は結構変わりそう。
私はというと・・・うーーん、そこまでではない、というレベル。なのでイマイチ乗り切れなかった。
CC設定だと人物ひとりひとりの魅力なんかも関係してくるけど、探偵役はともかく、真犯人もヒロイン役もちょっと上っ面感はあった。

ということで、作者のアイデアや意気込みは買うけれど、個人的なストライクゾーンからは少し外れている感じ。
「星くず」の図面なんかも入れて欲しかったなあー
とにもかくにも次作に期待したい。
(3,000万円かー。実現すれば希望者殺到しそうだな)

No.1904 6点 第八の探偵- アレックス・パヴェージ 2026/06/22 13:42
~独自の理論に基づいて探偵小説黄金時代に一冊の短編集「ホワイトの殺人事件集」を刊行し、その後故郷から離れて小島に隠棲する作家グラント・マカリスター。彼のもとを訪れた編集者ジュリアは短編集の復刊を持ち掛ける。ふたりは収録作を一つ一つ読み返し、議論を交わしていくのだが・・・~
2020年の発表。

①「一九三〇年、スペイン」=登場人物は男女1人ずつと殺された男。当然、どっちが殺したのか?だよね。
②「海辺の死」=崖の上の狭い道ですれ違うふたり。そのうちの一人の老女が突き落として殺された。当然、もうひとりの若い男が逮捕されるが、著名な素人探偵が現れて・・・
③「刑事と証拠」=ふたりのハードボイルドな刑事が登場。捜査するのは少女の溺死事件。犯人らしき男を捕まえたのだが、そこから意外な展開に・・・
④「劇場地区の火災」=ロンドンの老舗レストランの向かい側のデパートが大火災に。そのさなかに起こったレストラン内の殺人事件。被害者は嫌われ者の俳優。警察が火災対応で来られないなか、ひとりの女性教師が登場し・・・
⑤「青真珠島殺人事件」=これはモロ「そして誰もいなくなった」のオマージュ的。島に集められた10人の男女が全員殺害された。ただし、全体的に不穏な空気が纏われていて・・・
⑥「呪われた村」=窒息死させられた吝嗇家の老女。彼女をめぐっては親族5人とそれ以外の5人が彼女の財産=ダイヤをねらっていた・・・
⑦「階段の亡霊」=まさに「亡霊」の話。

本作には作中作として、上記の7つの短編が登場する。で、どれについても「思わせぶりな」書き方をしているとおり、全編を通じた“大いなる仕掛け”が用意されている。(まあ、だいたい察するよねえー)
これが他の方も評されてるとおり、かなり「凝った」仕掛けだ。ここまでトリッキーな仕掛けは初めての感覚かもしれん。
まあ、正直なところ、こんな遠回りなことしなくても・・・という気はするのだけど、それを言っちゃあおしまい。
なんとも技巧的で、ある種洗練されたミステリという面はあると思う。

ただ、「遠回り」と言ったように、全般的な仕掛けとして「冗長」という感想も拭えない。特に上の七編が終わってから、もう少し「スパッ!」とした結末のつけ方でもよかったのでは。この手のミステリを喜ぶ読者なら、十分に行間を察すると思うけどね。そこがちょっと割引。

No.1903 8点 灼熱- 葉真中顕 2026/06/05 15:19
「葉真中顕」である。今、(個人的に)最もアツい作家。
またも大作である。単行本で650ページ超。今回も作者が紡ぐ大いなる物語の世界に吸い込まれるような読書になるのだろうか?
週刊新潮に連載された後、加筆し、単行本化は2021年。

~「日本は戦争に勝った!」 無二の親友を引き裂いた「もう一つの戦い」の真実。デマゴギーの流布と分断が進む現代に問う、渾身の巨篇。沖縄生まれの勇と、ブラジルで生まれ育った日本移民二世のトキオ。一九三四年、日本から最も遠い地・ブラジルの日本人入植地「弥栄村」で出会った二人は、かけがえのない友となるが……。第二次世界大戦後、異郷の地で日本移民を二分し、多数の死傷者を出した「勝ち負け抗争」。共に助け合ってきた人々を過激な抗争へと駆り立てた熱の正体とはなんだったのか。分断が加速しフェイクニュースが横行する現代にこそ問う、圧倒的巨篇~

熱い物語だった。
舞台は戦前から戦後のブラジル。タイトルのとおり「灼熱」の土地で繰り広げられた「勝ち負け抗争」に題がとられている。
主人公はふたりの少年。少年は異郷の地でさまざまな経験を経て、成長しやがて大人になっていく。
感じたのは抗うことのできない「時代」とそれがもたらす「運命」。

作者の名作「凍てつく太陽」の時代背景もほぼ同様だった。舞台は北海道。主人公はアイヌにルーツを持つ青年。
本作と同様、「日本という国家、天皇という存在」に絶対的な服従を強いられた時代。「凍てつく」では純日本人から差別の対象となりながら、己の矜持を貫く存在として主人公が語られ、本作ではブラジルという遠く離れた世界で「日本人の矜持」を貫こうとする人たちの姿が描かれる。
あまり政治的な話はしたくないけど、戦時下においては「デマゴギー」「大義名分」が為政者にとって必要となる。民衆の頭の中をマヒさせるのがこの「デマゴギー」であり「大義名分」なのだろう。一歩下がって冷静に考えれば気付くはずなのに、“作られた雰囲気”のなかでどうしても流されることになる(流されたほうが楽なのだ)。
本作ではそういう異常な雰囲気を纏った世界が描かれる。親友だったはずのふたりの少年も、ほんのちょっとした「ボタンの掛け違え」のようなきっかけで道を違えていく。
うーーん。なかなかうまく表現できないな。なんていうか、とにかくもどかしいのだ。「こんなこと普通に考えれば分かるでしょ!」って言いたくなることばかり。それでも人々は流されるように不幸の道に進んでしまう。
とにかく「人の悪意」というのが、諸悪の根源なんだというのは痛感させられた。

本作にはミステリとしての興趣はほとんどない。
ラストに少しだけ、作者らしい人物に関する仕掛けが用意されているけれど、それ以外はとにかく圧倒的な取材量に裏打ちされた物語にこの身を投げうつのみ。
いうなら「作者が投げてきたストレートの剛球」が本作。きっと、読み終わったときには、キャッチャーミットに「ズバーン」ていう大きな音が響いてるんじゃないかな・・・(分かりにくい表現だな)

No.1902 7点 ポケットにライ麦を- アガサ・クリスティー 2026/06/05 15:17
ミス・マープルの探偵譚第6弾。
作者お得意のマザー・グース見立て殺人が存分に楽しめそうな(?)本格ミステリ。
1953年の発表。

~会社社長が何者かに毒殺された。遺体のポケットにはなぜかライ麦が。それは、恐るべき連続見立て殺人の端緒だった。さらに社長宅のメイドが洗濯ばさみで鼻をつままれた絞殺死体で発見される。彼女を知るミス・マープルは義憤に駆られ、犯人探しに乗り出す! 新訳で贈る、マザー・グースに材を取った中期の傑作~

個人的にこのシリーズは読む順番がかなりバラバラとなっている。うーーん。これはダメだったなあー
ミス・マープルについても、どうも作品ごとでイメージが少しずつ異なっているし、シリーズ自体の印象や大げさにいうと、「世界観」のようなものも異なっている気がする。
もっとも、これはよく考えれば当然のことで、逆にいつも同じ調子じゃつまらんだろ!とも思う。
で、本作はどうなのかというと、シリーズとしてはプロトタイプに近い気もする。舞台こそセント・メアリ・ミード村ではないが、英国の田園風景(ロンドンに近いとはいえ)だし、皆に嫌われる“大富豪の家”というのも”いかにも”だ。
ということなので、もう安心して楽しめる作品でした! 以上!

・・・いやいや。それではあまりにも言葉足らずでしょ!ということで、もう少し書いてみる。
読後最初に感じたのは「旨い」ということば。この「旨い」というのは、いかにもクリスティという意味合いに近い。
とにかく、読者をミスリードさせる手練手管の多さ、これがクリスティ最大のすごさと考えている。
ただ、今回は真犯人候補が意外に少ない。登場人物こそ多士済々なのだけど、殆どが候補にならないような人ばかり。というわけで、クリスティの「やり方」に慣れた人には「あー、アイツだろうね」と察することはできそうだ。
マザーグーズはどうかな?
そもそも「見立て」自体に動機以外の意味を持たせることはかなりの難事である。ということで、本作のような「使い方」というのも、それそれでアリだろうと思うし、バリエーションとしては「いいとこ突いてる」とも言える。
やっぱり、レベルは高いよね。
他の佳作との比較もあるだろうけど、これはもう好みの問題かな。先に読んでしまった「バートラム・ホテルにて」も意外なほど面白かったし、自分の好みは世評とズレてるなあーと改めて感じた次第。

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E-BANKERさん
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