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E-BANKERさん
平均点: 6.00点 書評数: 1909件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.1909 5点 完全脱獄- ジャック・フィニイ 2026/07/17 15:50
なんとなく手に取ってしまった本作。正直なところ、作者も全くの初見でございます。
「脱獄もの?」ももしかすると初めてなんじゃないかな?
1956年の発表。

~ボートの先にオレンジ色の光が見えた。奇妙な建物を照らす、巨大な投光照明。そう、厳重な警備で知られるサンクエンティン刑務所だ。ベンは考えた。四日以内に兄を脱出させなければ。なんとしても……房内でアーニーは、ただ一つのセリフを頭の中で繰り返していた。このままでは処刑される。弟の手を借りて脱獄しなければ。なんとしても……脱獄不可能の巨大刑務所からの脱獄計画を描く、異色作家の奇想天外脱出サスペンス~

中盤すぎまでは結構退屈だった。
心情描写が多いのと、主語が明示されていない部分も多いため、「これって誰の心情なんだ?」と考えさせられることが度々。
で、ついに中盤以降は脱獄計画が始動し、俄然面白さは増してくる。
そして最終盤、紆余曲折あった脱獄計画もなんとか成功したと思われた矢先、突然訪れる絶体絶命のピンチ。ラストは苦い後味を残ることになる。

あれ?これだと何か面白い作品の書評みたいに書いてるな。
うーむ。実際は「面白い」というのは語弊がある。そもそも弟が実兄の脱獄を手伝うことになった動機がよく分からん。
それにこの刑務所。「緩く」ないか?
兄弟が付け焼刃みたいに考えた脱獄計画が、割とあっさり成功するなんて、完璧無比な刑務所でも全然なくて、まあお話の構成上やむを得ないとしても、適当感が拭えなかった。
サスペンスとしても薄味だしなあー
もうひと工夫、ひと捻り、欲しかった気がしてならない。

No.1908 6点 十戒- 夕木春央 2026/07/17 15:48
「方舟」の異例のヒットで、一躍時の人となった感のある作者。
続く作品は、やはり聖書つながりで「十戒」ときたか・・・
単行本は2023年の発表。

~殺人犯を見つけてはならない。それが、わたしたちに課された戒律だった。浪人中の里英は、父と共に、伯父が所有していた枝内島を訪れた。島内にリゾート施設を開業するため集まった9人の関係者たち。島の視察を終えた翌朝、不動産会社の社員が殺され、そして、十の戒律が書かれた紙片が落ちていた。“この島にいる間、殺人犯が誰か知ろうとしてはならない。守られなかった場合、島内の爆弾の起爆装置が作動し、全員の命が失われる”。犯人が下す神罰を恐れながら、「十戒」に従う3日間が始まった!~

またしても特殊設定下のCCものである。
しかも地味ながら、本作の「特殊ぶり」も際立っている。なにせ、殺人犯を見つけてはいけない、というレギュレーションがかかっているのだ。
最初これを「帯」で見たとき、果たしてミステリとして成立するのだろうか?という疑問が浮かんだ。
そこは全く心配ご無用。見事に成立させていた。
ただ、成立はするんだけど、どうもレギュレーションがありすぎて、作品全体が変に窮屈になっている感じがしてならなかった。
もうひとつは事件の構図としてのチープ感と言えばいいのか。(ネタバレ?)背景にある爆弾騒ぎが相当デフォルメされていることや、登場人物はこの爆弾の恐ろしさに縛られるわけだけれど、この辺りがどうにも安直に処理されているのが気になった。

本作ではもうひとつ、大きな争点、いや工夫とでもいえばいいのか、携帯電話の存在がある。孤島のCCを舞台として設定するなら、携帯電話という存在をいかにしてロジカルに無効化するのかも考えどころとなる。本作のプロットでは、関係者自らがその使用を放棄せざるを得ないようにもってきた。そこは「考えたなあー」と思ったポイント。
いずれにしても、作者の企み自体は成功したのかもしれない。でも、細部などを含めるとそれほどの感心はできなかったなというのが本音。
ラストは次作への含みかな?

No.1907 6点 黒の様式- 松本清張 2026/07/17 15:47
久しぶりの「清張」となった。しかも新潮社の傑作短編集である。
最近は「特殊設定」本格ミステリばっかり手に取ってる気もするので、時々はこういう作品も読まねばと思っている。
昭和48年(1973年)刊行。

①「歯止め」=主人公の姉は嫁いだ先で服毒自殺した。自らが知人に用立ててもらった青酸カリを使って。嫁いだ夫は旧家に養子となった男だった。男の母親(義母だね)は厳しくも美しい人だった。大学教授という仕事柄夜鍋で勉学に励む夫に何もできなかった姉。それが自殺の原因と思われたのだが・・・
②「犯罪広告」=紀伊半島の田舎町。粗暴で何度も妻を変えた男。母親はある日突然いなくなった。息子は苦労して成長し、ある日、母親はあの男に殺され、家の下に埋められているに違いないと、町中にビラをまいた。そして、ついに床下を掘ることになったのだが・・・。本筋と全然関係ないけど「うみほたる」ってそんな生物だったんだね・・・
③「微笑の儀式」=法隆寺で出会ったひとりの若き彫刻家。彼は飛鳥時代の仏像にしか興味がないという。その理由は仏像が浮かべる「笑み」だった。画壇で鳴かず飛ばずだった彼が権威ある賞を受賞したというニュースが飛び込んだ矢先、厚木でひとりの女性が事故死したことを耳にする。彼女の顔はその仏像と瓜二つだったのだ・・・

以上3編。どれもなかなかの力作。
そんじょそこらのぽっと出の作家では決して真似できない「格式」と「重厚感」を備えた作品集だった。
恐らくすべてが計算ずく。
そして、すべてが読後に深い余韻を残していく。

やっぱりこれは名人芸の域だろう。
詳しくは巻末で中島河太郎氏が見事な解説を披露している。なるほど、そういう時代背景そして清張にとっての時間軸の作品だったわけか・・・
清張に触れずして本邦ミステリを語ってはいけないなと改めて思わされた。そんな読書となった。

No.1906 5点 身代わり- 西澤保彦 2026/06/22 13:45
惜しまれつつこの世を去ってしまった作者。作者というと代表的なシリーズはやはり「タック&タカチ」(ついでにボワン先輩とウサコ)シリーズ、ということで、追悼じゃないけれど、未読だったシリーズ作品を手に取ることに。
単行本は2009年の発表。

~ポルノまがいの小説『身代わり』を書いてトラブルを抱える成績優秀の美人女子高生が自宅で殺された。しかも現場には、一人の警察官の遺体が。一方、5日前の深夜、大学生が公園で女性を包丁で脅し暴行をしかけたが反撃され自分の腹部を刺して死亡。無関係に見えた二つの事件が高瀬千帆と匠千暁の名推理で交錯するとき、複雑な悪意の糸が解け出す~

本作では、いつも探偵役となるタックが終盤まで登場しない(しない理由は前作でいろいろあったから、なのだがそこら辺りは全然覚えていなかった)。そのため、珍しくボワン先輩が慣れない探偵役を務めることになる。
紹介文にもあるとおり、まったく関係ないと思われたふたつの事件がやがて交錯し、ひとつの大きな「流れ」となっていく。これが本作のプロットの軸。
この手のミステリはまあよくあると言えばよくあるタイプ。で、本作ではふたつの事件を繋ぐのが、〇〇殺人。

これもミステリ作家なら一度は挑戦したいプロットのひとつ、というほどに数多の同種ミステリが存在する。で、本作はどうなのかというと、他の方も書かれているとおり、「書かれていない部分」があまりに多いので、読者としては「意外性」というよりも強烈な「唐突感」という方が強い。
真犯人として終盤指摘される人物も、えーっ?そこ?っていうレベルの存在。警察官を含むふたりを一度に殺してしまった動機にしてもかなり疑問だ。
まあこの辺は、「敢えて」という感がしなくもないので、読者があまりとやかく言うことではないのかも。

それよりも「タカチ」である。
個人的には、本作の魅力の8割くらいは「タカチ」なので、久々に「タカチ」のお姿を拝見できて(?)うれしく思った。あーあ、もう新たな「タカチ」に会うことはないんだねえー
それが非常に残念(これって不謹慎なのかな?)

No.1905 5点 星くずの殺人- 桃野雑派 2026/06/22 13:44
南宋を舞台にした武挾小説「老虎残夢」で第67回江戸川乱歩賞を受賞して作家デビューを果たした作者。
もちろん初読みである。割と評判は良さそうだが、実際のところどうだろう?
単行本は2023年の発表。

~完全民間宇宙旅行のモニターツアーで、念願の宇宙ホテル『星くず』についた途端見つかった死体。それも無重力空間で首吊り状態だった。添乗員の土師(はせ)穂稀(ほまれ)は、会社の指示に従いツアーの続行を決めるが――。
一癖も二癖もある乗客、失われる通信設備、逃げ出すホテルスタッフ。さらには第二の殺人まで起きてしまう。帰還を試みようとすると、地上からあるメッセージが届き、それすら困難に。『星くず』は宇宙に漂う巨大密室と化したのだった~

ひとことで言うと「悪くはない」というのがトータルの印象。
まずは舞台設定の勝利かな。作者はもともと周辺知識に造詣が深いのか、或いは本作執筆のために綿密にリサーチしたのか、いずれにしても「宇宙空間」についての特徴が事件のトリックやプロット作りに大きく関わってくる。
こういう蘊蓄が好きか、興味あるかで本作の評価は結構変わりそう。
私はというと・・・うーーん、そこまでではない、というレベル。なのでイマイチ乗り切れなかった。
CC設定だと人物ひとりひとりの魅力なんかも関係してくるけど、探偵役はともかく、真犯人もヒロイン役もちょっと上っ面感はあった。

ということで、作者のアイデアや意気込みは買うけれど、個人的なストライクゾーンからは少し外れている感じ。
「星くず」の図面なんかも入れて欲しかったなあー
とにもかくにも次作に期待したい。
(3,000万円かー。実現すれば希望者殺到しそうだな)

No.1904 6点 第八の探偵- アレックス・パヴェージ 2026/06/22 13:42
~独自の理論に基づいて探偵小説黄金時代に一冊の短編集「ホワイトの殺人事件集」を刊行し、その後故郷から離れて小島に隠棲する作家グラント・マカリスター。彼のもとを訪れた編集者ジュリアは短編集の復刊を持ち掛ける。ふたりは収録作を一つ一つ読み返し、議論を交わしていくのだが・・・~
2020年の発表。

①「一九三〇年、スペイン」=登場人物は男女1人ずつと殺された男。当然、どっちが殺したのか?だよね。
②「海辺の死」=崖の上の狭い道ですれ違うふたり。そのうちの一人の老女が突き落として殺された。当然、もうひとりの若い男が逮捕されるが、著名な素人探偵が現れて・・・
③「刑事と証拠」=ふたりのハードボイルドな刑事が登場。捜査するのは少女の溺死事件。犯人らしき男を捕まえたのだが、そこから意外な展開に・・・
④「劇場地区の火災」=ロンドンの老舗レストランの向かい側のデパートが大火災に。そのさなかに起こったレストラン内の殺人事件。被害者は嫌われ者の俳優。警察が火災対応で来られないなか、ひとりの女性教師が登場し・・・
⑤「青真珠島殺人事件」=これはモロ「そして誰もいなくなった」のオマージュ的。島に集められた10人の男女が全員殺害された。ただし、全体的に不穏な空気が纏われていて・・・
⑥「呪われた村」=窒息死させられた吝嗇家の老女。彼女をめぐっては親族5人とそれ以外の5人が彼女の財産=ダイヤをねらっていた・・・
⑦「階段の亡霊」=まさに「亡霊」の話。

本作には作中作として、上記の7つの短編が登場する。で、どれについても「思わせぶりな」書き方をしているとおり、全編を通じた“大いなる仕掛け”が用意されている。(まあ、だいたい察するよねえー)
これが他の方も評されてるとおり、かなり「凝った」仕掛けだ。ここまでトリッキーな仕掛けは初めての感覚かもしれん。
まあ、正直なところ、こんな遠回りなことしなくても・・・という気はするのだけど、それを言っちゃあおしまい。
なんとも技巧的で、ある種洗練されたミステリという面はあると思う。

ただ、「遠回り」と言ったように、全般的な仕掛けとして「冗長」という感想も拭えない。特に上の七編が終わってから、もう少し「スパッ!」とした結末のつけ方でもよかったのでは。この手のミステリを喜ぶ読者なら、十分に行間を察すると思うけどね。そこがちょっと割引。

No.1903 8点 灼熱- 葉真中顕 2026/06/05 15:19
「葉真中顕」である。今、(個人的に)最もアツい作家。
またも大作である。単行本で650ページ超。今回も作者が紡ぐ大いなる物語の世界に吸い込まれるような読書になるのだろうか?
週刊新潮に連載された後、加筆し、単行本化は2021年。

~「日本は戦争に勝った!」 無二の親友を引き裂いた「もう一つの戦い」の真実。デマゴギーの流布と分断が進む現代に問う、渾身の巨篇。沖縄生まれの勇と、ブラジルで生まれ育った日本移民二世のトキオ。一九三四年、日本から最も遠い地・ブラジルの日本人入植地「弥栄村」で出会った二人は、かけがえのない友となるが……。第二次世界大戦後、異郷の地で日本移民を二分し、多数の死傷者を出した「勝ち負け抗争」。共に助け合ってきた人々を過激な抗争へと駆り立てた熱の正体とはなんだったのか。分断が加速しフェイクニュースが横行する現代にこそ問う、圧倒的巨篇~

熱い物語だった。
舞台は戦前から戦後のブラジル。タイトルのとおり「灼熱」の土地で繰り広げられた「勝ち負け抗争」に題がとられている。
主人公はふたりの少年。少年は異郷の地でさまざまな経験を経て、成長しやがて大人になっていく。
感じたのは抗うことのできない「時代」とそれがもたらす「運命」。

作者の名作「凍てつく太陽」の時代背景もほぼ同様だった。舞台は北海道。主人公はアイヌにルーツを持つ青年。
本作と同様、「日本という国家、天皇という存在」に絶対的な服従を強いられた時代。「凍てつく」では純日本人から差別の対象となりながら、己の矜持を貫く存在として主人公が語られ、本作ではブラジルという遠く離れた世界で「日本人の矜持」を貫こうとする人たちの姿が描かれる。
あまり政治的な話はしたくないけど、戦時下においては「デマゴギー」「大義名分」が為政者にとって必要となる。民衆の頭の中をマヒさせるのがこの「デマゴギー」であり「大義名分」なのだろう。一歩下がって冷静に考えれば気付くはずなのに、“作られた雰囲気”のなかでどうしても流されることになる(流されたほうが楽なのだ)。
本作ではそういう異常な雰囲気を纏った世界が描かれる。親友だったはずのふたりの少年も、ほんのちょっとした「ボタンの掛け違え」のようなきっかけで道を違えていく。
うーーん。なかなかうまく表現できないな。なんていうか、とにかくもどかしいのだ。「こんなこと普通に考えれば分かるでしょ!」って言いたくなることばかり。それでも人々は流されるように不幸の道に進んでしまう。
とにかく「人の悪意」というのが、諸悪の根源なんだというのは痛感させられた。

本作にはミステリとしての興趣はほとんどない。
ラストに少しだけ、作者らしい人物に関する仕掛けが用意されているけれど、それ以外はとにかく圧倒的な取材量に裏打ちされた物語にこの身を投げうつのみ。
いうなら「作者が投げてきたストレートの剛球」が本作。きっと、読み終わったときには、キャッチャーミットに「ズバーン」ていう大きな音が響いてるんじゃないかな・・・(分かりにくい表現だな)

No.1902 7点 ポケットにライ麦を- アガサ・クリスティー 2026/06/05 15:17
ミス・マープルの探偵譚第6弾。
作者お得意のマザー・グース見立て殺人が存分に楽しめそうな(?)本格ミステリ。
1953年の発表。

~会社社長が何者かに毒殺された。遺体のポケットにはなぜかライ麦が。それは、恐るべき連続見立て殺人の端緒だった。さらに社長宅のメイドが洗濯ばさみで鼻をつままれた絞殺死体で発見される。彼女を知るミス・マープルは義憤に駆られ、犯人探しに乗り出す! 新訳で贈る、マザー・グースに材を取った中期の傑作~

個人的にこのシリーズは読む順番がかなりバラバラとなっている。うーーん。これはダメだったなあー
ミス・マープルについても、どうも作品ごとでイメージが少しずつ異なっているし、シリーズ自体の印象や大げさにいうと、「世界観」のようなものも異なっている気がする。
もっとも、これはよく考えれば当然のことで、逆にいつも同じ調子じゃつまらんだろ!とも思う。
で、本作はどうなのかというと、シリーズとしてはプロトタイプに近い気もする。舞台こそセント・メアリ・ミード村ではないが、英国の田園風景(ロンドンに近いとはいえ)だし、皆に嫌われる“大富豪の家”というのも”いかにも”だ。
ということなので、もう安心して楽しめる作品でした! 以上!

・・・いやいや。それではあまりにも言葉足らずでしょ!ということで、もう少し書いてみる。
読後最初に感じたのは「旨い」ということば。この「旨い」というのは、いかにもクリスティという意味合いに近い。
とにかく、読者をミスリードさせる手練手管の多さ、これがクリスティ最大のすごさと考えている。
ただ、今回は真犯人候補が意外に少ない。登場人物こそ多士済々なのだけど、殆どが候補にならないような人ばかり。というわけで、クリスティの「やり方」に慣れた人には「あー、アイツだろうね」と察することはできそうだ。
マザーグーズはどうかな?
そもそも「見立て」自体に動機以外の意味を持たせることはかなりの難事である。ということで、本作のような「使い方」というのも、それそれでアリだろうと思うし、バリエーションとしては「いいとこ突いてる」とも言える。
やっぱり、レベルは高いよね。
他の佳作との比較もあるだろうけど、これはもう好みの問題かな。先に読んでしまった「バートラム・ホテルにて」も意外なほど面白かったし、自分の好みは世評とズレてるなあーと改めて感じた次第。

No.1901 5点 4月1日のマイホーム- 真梨幸子 2026/06/05 15:15
時折ふいに読みたくなる作家(あくまで個人的にですが)、真梨幸子。
そんな女史お得意の連作形式のミステリ。
単行本は2023年の発表。

①「A区画三浦邸」=まずは本作の概要が分かる(はず)の第1編。登場する女性は、年下の働かない男性と結婚した中年女性。ひょんなことからブログが大当たりし大金が転がり込む。そして憧れの23区内に家を持つことに・・・そこから事件は大きく動き出す。
②「D区画戸井田邸」=三浦より更にクセの強い中年女性「戸井田」。彼女の“心の拠り所”は娘が超名門お嬢様小学校に通ってること。たまにいるよねー、少しでも他人にマウントを取りたがる女性。当然ながら、事件は起こる。他者を巻き込みながら・・・
③「B区画田上邸」=クセの強い三浦・戸井田と比べ、落ち着いていて他人の話をよく聞いて、常に頼られる存在の中年女性・田上さん。しかし、彼女の心の中にも大きな闇があったのです。本作では、引っ越しの際に持参する「ご挨拶」のものをどのくらいのものにするか、ということがひとつの「材料」として出てきますが、彼女の選んだ「ご挨拶」は後々大きな事件を引き起こすことに・・・
④「腐乱死体」=そして突然登場する「腐乱死体」! えっ!
⑤「ゾンビ」=そして突然登場する「ゾンビ」! えっ!
⑥「E区画藤倉邸&C区画米本邸」=ストーリーの進展とともに、”謎の存在”となるE区画とC区画。その謎をめぐって、三浦と戸井田と田上が大騒ぎする展開に。ここにきて、ようやく全体像が見えてきた(かな)。
⑦「エイプリルフール」=別にすべてが「嘘」・・・というわけではありません。一応、本作の仕掛け&全体像がはっきりする最終章。でも、これってかなり無理やりな結末のつけ方のような気が・・・

以上。「エピローグ」で更なるツイストあり。
うーーん。あまり手放しで褒めるような作品ではないな。ただ、いろいろ考えてるな、作者は。あの手この手で読者を「飽きさせまい」としているのはよく分かる。
本作もプロットとしては面白いと思う。出てくる人物、特に中年女性のキャラたちは、作者の手にかかると実にいきいきとしていて、「いかにも」感が満載。
まあ、ごく軽~い気持ちで読むには手頃かもしれません。
(でも、また読みたくなるんだろうな・・・作者の作品を)

No.1900 8点 ローズマリーのあまき香り- 島田荘司 2026/05/05 11:06
さあ!ついに書評も1,900冊目に到達! 一応の目安としている2,000冊までカウントダウンが始まった感じだ。
今回は久々に発表された「御手洗潔(キヨシ・ミタライ?)」シリーズの現状では最新作。
ハードカバーで約630ページ。この厚さ!重さ! さすが講談社! 出版不況のなか、よくぞ出してくれました!
と感謝せずにはいられません。発表は2023年。

~世界中で人気を博す、生きる伝説のバレリーナ・クレスパンが密室で殺された。1977年10月、ニューヨークのバレエシアターで上演された「スカボロゥの祭り」で主役を務めたクレスパン。警察の調べによると、彼女は2幕と3幕の間の休憩時間の最中に、専用の控室で撲殺されたという。しかし3幕以降も舞台は続行された。さらに観客たちは、最後までクレスパンの踊りを見ていた、と言っていてーー?名探偵・御手洗潔も活躍、島田荘司待望の長編新作~

今年(2026年)の年始一発目で作者の「アルカトラズ幻想」を書評した際、「(久々に)島田荘司も悪くないと感じた」etcなどと書いた。本当は「分厚い、超大作だから正月休みにちょうどいい」と思って年始に本作を読むはずだったのが本作。それがGWに移った次第・・・(どうでもよいことですが)
で、どうだったのかということで、個人的には「読み物としては15点」「ミステリとしては6点」という評価。(だったら、平均して10点じゃないか!などと言わないでください)

この「物語を紡ぐ」熱量、経験値、スキルはやはり無二の存在だと感じる。今回、「クレスパン」という孤高のバレリーナが主役となり、彼女を大きな軸として数々のストーリー、サイドストーリーが展開される。彼女をめぐる物語は、かの世界大戦のユダヤ人虐殺、ナチスドイツ、そして戦後のソ連・東ドイツを経由して、ロシアのウクライナ侵攻までもが反映されるという壮大さ!
個人的には、途中で語られる「日本人とユダヤ人の歴史」について(これは割と有名な話だったのね)は、非常に興味深く、とにかく作者の広げに広げた大風呂敷のなかを浮遊するような読書だった。
作者の大型作品にはお約束ともいえる「中途に挟まれる挿話」。毎回『いるかいらないか」という感想が出てくるけど、今回は「必要だった」と言い切りたい。(アノ話が最後のトリック解明にもつながるからね)
感動的なラストも含め、齢70を超えて、作者のストーリーテラーとしての力量はさらにレベルアップしているとさえ思ってしまう。

ということで「10点」進呈!・・・じゃなかった。
ミステリとしては、他の皆さんご指摘のとおりで、ある意味「禁じ手」なんだろうと思う。私がもし20年前のミステリ初心者だったら、「こりゃないわ!」と感じたかもしれない。作者が以前再三語っていた「奇想」というワード。本作のトリックは「奇想」とは呼べない。偶然の連続とはいえ、ぎりぎりのリアリティでトリックを構築すること・・・が最低線だと思うけど、今回はそれには当たらない。本作と同ベクトルの過去作「摩天楼の怪人」ではギリギリの「奇想」があったはずだけど、まさか同じようなトリックは使えず、本作で最も大きな謎となった「死後も踊っていた」という現象を如何にして成立させるか。これを現実的に考えれば、当然にこういう帰結に至る、ということなんだろう。

まあいずれにしても、現代日本でこれほどの作品を紡げるミステリ作家は数人いるかどうか。もちろん賛否はあろうけど、他作品、他作者とは「役者が違う!」と思えた。作中では「横浜に帰りたい」という台詞を御手洗が語る場面がある。是非とも帰ってきてください! この厭世観・閉塞感漂う日本に一陣の風を吹かせてください! で、最後は吉敷刑事とガッツリ共演してください! ファンとしては大きな願いだなあー

No.1899 6点 ブラックボックス- マイクル・コナリー 2026/05/05 11:00
ロス市警・未解決事件班に所属する刑事ハリー・ボッシュ。彼の物語をこれまで何冊も手に取ってきた。
そして、今回も「正調」ハリー・ボッシュシリーズ作品で間違いない。
2012年の発表。

~すべての事件には解決につながる「ブラックボックス」があるという、ハリー・ボッシュの信念を象徴しているかのような記念碑的作品。因縁の未解決事件に再び迫る。1992年のロドニー・キング殴打事件にはじまったロサンジェルス暴動。ロス市警ハリウッド署殺人課のボッシュ刑事は、相棒のエドガーとともに、市内警邏の応援に駆りだされていた。そこでひとりの外国人白人女性の射殺死体が見つかったという報告を受ける。被害者はデンマーク国籍のフリーカメラマン兼ジャーナリスト、アンネケ・イエスペルセン。暴動取材にやってきて、強盗被害にあったものと思われていたが、犯人は見つからなかった。いわば、ボッシュにとって、最初の未解決事件になり、永年心に残っていた。2012年、未解決事件班で、ロス暴動20周年にあたり、当時の未解決事件を集中して再捜査することになり、ボッシュはイエスペルセンの事件を担当する~

本作はシリーズ開始20周年という節目のいわば記念碑のような作品。ということで、作者にとってもある種「集大成」のような位置づけもあったと思う。
個人的に感じたのは「先祖返り」或いは「初心に帰って」という言葉。タイトルの「ブラック・ボックス」についても、作中でボッシュがその意味を説明する場面はあるけど、シリーズ二作目「ブラック・アイス」と三作目「ブラック・ハート」も意識しているに違いない。(あの頃の「ブラック」はボッシュの深層風景の隠語だったと思うが・・・)

で、本作はというと、飛行機事故があった際に重要な物証として出てくる「ブラック・ボックス」が表すとおり、箱の中に閉じ込めたはずの「過去の」「暗い」事件がボッシュの並々ならぬ熱意のなか、炙り出されることとなる。
20年前、LAで起こった暴動事件。その最中に発生したデンマーク人女性記者銃殺事件。果たしてボッシュは20年という厚い時間の壁を跳ね返し、事件を解決することができるのか?
そうは言うものの、プロットそのものは過去作と比べて特段目新しいものはなく、捻りも少ない。ただ、そこは「敢えて」かも・・・(「集大成」だからね。本シリーズといえば!的なプロットを用意したという見方)
複雑なプロットよりも、ボッシュという孤高の存在を通じて過去の闇を浮かび上がらせること、それこそが本作の主眼だったと感じた。

いずれにしても特別なシリーズ。作者にはできる限り長く続けていただくことを切に願います。それと娘のマデリンの成長! ついつい親目線で彼女を見てしまう・・・

No.1898 6点 殺した夫が帰ってきました- 桜井美奈 2026/05/05 10:58
すでにWOWOWにてドラマ化もされた本作。作者のデビュー作かと思いきや、プロフィールを見ていると「2013年デビュー」とある・・・思ったよりベテラン(?)作家だったんだね・・・意外。
2021年の発表。

~都内のアパレルメーカーに勤務する鈴倉茉菜。茉菜は取引先に勤める穂高にしつこく言い寄られ悩んでいた。ある日、茉菜が帰宅しようとすると家の前で穂高に待ち伏せをされていた。茉菜の静止する声も聞かず、家の中に入ってこようとする穂高。その時、二人の前にある男が現れる。男は茉菜の夫を名乗り、穂高を追い返す。男は茉菜の夫・和希に間違いなかった。しかし、茉菜が安堵することはなかった。なぜなら、和希はかつて茉菜が崖から突き落とし、殺したはずだったからだ・・・~

本作って、まさに地上波(衛星でもよいが)のミステリ系ドラマにピッタリ。脚本家もこういう原作をドラマするのは手慣れているだろう。
それだけ作者が現代ミステリの機微をよく理解しているということの表れだと思う。

特に冒頭の謎は強烈。なにせ「殺したはずの夫が無事に帰ってきて目の前に現れるのだから」・・・
ただ、序盤からなんとも言えない「違和感」に包まれるのも事実。ロジックとしても破綻は確かにないのだろうが、仮にこういう現象が目の前に起こったなら・・・当然いろいろなことが「おかしい」と感じるだろうと思う。
そういう「違和感」に対して作者が用意した仕掛けが、主人公の出自の特殊性というわけだ。
これは、途中に何度か挟まれる過去の「挿話」が効いている。読者をミスリードする意味もあるのだけど、こういう材料があったから成立するんですよ、という回答になっている。

あともう一つはかの「東日本大震災」。過去の舞台が仙台~盛岡となっている理由も「そこか!」と腑に落ちた次第。現代日本では考えられないような「誤認」が唯一成立するかもしれない機会として、この「大震災」が選ばれた訳だ。
ということで、よく練られた良質のミステリという評価で良いとは思う。
ただ、もうワンパンチ欲しかったなあー。
地上波にピッタリというのは「まとまってる」というニュアンスが大きいのだけど、どうも全体が丸すぎて、トガッた部分がなかったなあーという印象が強かった。「ないものねだり」なんだけどね。

No.1897 5点 文豪たちの怪しい宴- 鯨統一郎 2026/05/05 10:56
「邪馬台国はどこですか」から続くシリーズ。これまでは「歴史」を題材に、学校で教えられてきた歴史とは異なる解釈ができることをミステリになぞらえて問答してきたが、今回は「日本文学界に燦然と輝く名作」を題材に、これまでと別の解釈を探偵役の宮田が試みる。
2019年の発表。

①「こころもよう」=夏目漱石の言わずと知れた名作「こころ」。今でもファンの非常に多い作品。で、新解釈はなんと「百合小説」。まあ確かに行間を丁寧に拾っていくとそういう解釈も可能かもしれんが・・・。漱石があえてそういう小説を書こうとした意図は分らんなあ・・・
②「なぜかメロス」=当然元ネタは太宰治「走れメロス」。言われてみれば確かに不合理な部分は多々ある。だからこういう解釈も成り立つ、という趣旨は理解した。まあ「ちょっとおかしい」とは思っても、古代のギリシアが舞台だしなあ、現代の我々とは違うからなあーって、普通は考えるよね。
③「銀河鉄道の国から」=宮沢賢治「銀河鉄道の夜」。これも根強いファンの多い作品。ファンタジックだしね。ただ、私にとって賢治といえば「雨ニモ負ケズ・・・」の方だから、「銀河鉄道」はなんとなく違う感覚ではあった。宮田の言うように、確かに賢治は自身の境遇や環境を作品世界に強く投影はしていたんだろうな。
④「藪の中へ」=最後は芥川龍之介「藪の中」。芥川が書いた「ミステリ?」として著名な作品だが、本作でも語られているとおり、真犯人は明示されていない。ということで、宮田は「真」犯人を指摘するわけなのだが・・・どうだろうね? 芥川がミステリ好きだったということだけでも知ることができて良かった。

以上4編。
毎度毎度、本シリーズらしく、あくまで「解釈」の問題ですな。
日本語とは便利といえば便利なもので、国の根幹ともいえる「憲法」までもが解釈の対象となってしまう。
そうなったら、もはや文学作品なんて読者がどうにでも解釈できるわけで、宮田の説に納得できる人もできない人もいるだろう。
私はって? 実は、何を隠そう、この4作品とも今までまともに読んでいません!!
だから、そもそも「語る資格なし」。どうもスミマセン・・・

No.1896 5点 友が消えた夏- 門前典之 2026/04/12 11:25
蜘蛛手啓司シリーズの長編七作目に当たる本作。
今回は正調ともいえる「館もの」である。しかし、作者のことだから、決して普通の「館もの」ではないのだろう・・・
単行本は2023年の発表。

~断崖絶壁の館に並んだ首なし白骨死体!「まさか!」のつるべ打ちに驚愕必至三冊分のトリックが詰めこまれた奇想の本格推理!一級建築士で探偵の蜘蛛手啓司は、相棒の宮村達也からある事件の記録を渡される。名門大学演劇部の劇団員たちが、夏合宿中、一夜にして首なし白骨死体と化した衝撃的な事件。その詳細な記録が、連続窃盗犯の所持品から見つかったのだ。犯人と目された人物の死体も発見され、事件は一応の決着を見ていたのだが――~

うーーん。これはいくらなんでも、無理筋ではと思えてしまう。
「事件について遺された手記など」に仕掛けがあるタイプのミステリは今までもかなりお目にかかってきた。
当然この「手記」には読者をミスリードさせる「仕掛け」がいろいろ詰まっているわけで、本作でもかなり衝撃の仕掛けが用意されている。
ただ、この「仕掛け」は仕掛けというより「引っ掛け」だろう。まあ個人的に想像していたものの上を行く「引っ掛け」だったので「へえー」という感覚にはなったけど、でもねえー。密室トリックと同様、そんな感心できるものではない。
しかも「急ぎすぎ」。読者に考える暇を与えないほど、アッという間に終盤へなだれこんでいく。これって「尺の問題?」 
で、もっと腑に落ちないのが「動機」。
最近「動機」なんて理解不能っていう本格ミステリが増えたけれど、これはもう滅茶苦茶に近い。
本筋の事件と並行するように語られる「タクシー拉致事件」。これが動機にもつながっていくんだけど、こっちはこっちで「これほどの尺いるのか?」と感じてしまう。
他の方も触れてる「真犯人の異常さ」もなあー。サイコパスのひとことではしっくりこない。身長の件なんかはいくらなんでも・・・ではないか?

ということで、まあ「作者らしい」」作品といえばそうなんだけど、他の佳作と比べると一枚も二枚も落ちるという評価になる。
いつも以上に破天荒すぎてついていけないというか、もうちょっと冷静に、破綻のない(少ない)プロットを構築して欲しいなあーという願いをこめてこの評点。
(でもまあ好きですけどね。嫌いか好きかと問われるなら)

No.1895 6点 偽りの楽園- トム・ロブ・スミス 2026/04/12 11:23
「チャイルド44」「グラーグ57」そして「エージェント6」と続いたレオ・デミトフの長い、長い物語。その興奮も冷めやらぬうちに、本作に突入。
レオのあまりにも過酷な人生は私の心の中に熱く残ったままだ。本作はどうなんだ?
2014年の発表。

~両親はスウェーデンで幸せな老後を送っていると思っていたダニエルに、父から電話がはいる。「お母さんは病気だ。精神病院に入院したが脱走した」。その直後、今度は母からの電話。「私は狂ってなんかいない。お父さんは悪事に手を染めているの。警察に連絡しないと」。両親のどちらを信じればいいのか途方に暮れるダニエル。そんな彼の前に、やがて様々な秘密、犯罪、陰謀が明らかに・・・~

本作の舞台はスウェーデン。それもストックホルムのような都市ではなく、冬は雪深い田舎町。原題の”The firm”のとおり牧場広がる大地。それだけでも、なんだか目頭が熱くなってきそうだ。
ただし、今回は前作ほどドラマチックな展開は用意されていない。
主人公ダニエルと実母ティルデ。ふたりの変則的なやり取り(「母の目の前で母の書いた手記を読む」という形式)が終盤まで続いていく。そこでは、紹介文のとおり、平和に暮らしていたと思っていた父母に訪れた劇的な変化が綴られる。

で、キーポイントとなるのが、「この実母が正常なのか狂っているのか」ということ。
実母が綴った話は迫真に満ちていて、読者としてもグイグイ引き込まれてしまう。スウェーデンの田舎町で忌むべき犯罪が行われているに違いない。多くの読者がそう思った刹那。物語は終盤から大きく変化していく。
個人的には、まあ予想の範疇といえばそうなのだが、うーん。なんだか非常に切ない結末ではあった(巻末解説者は「ほろ苦い」と表現していたが、「切ない」の方がしっくりくる)

本作も作者のストーリーテラー振りが十分に発揮された作品に仕上がっていると思う。
途中やや冗長な部分もあるけれど、この独特な作品世界にどっぷりと浸かるのもいいだろう。
ラストも印象的ではあるし。

No.1894 4点 居酒屋「一服亭」の四季- 東川篤哉 2026/04/12 11:20
~隠れ家のような鎌倉の居酒屋「一服亭」。異常なまでに人見知りの女将は実はとんでもない名探偵だった!~
というわけで、安楽椅子探偵の「安楽椅子(あんらくヨリコ)を探偵役とする連作短編集。
単行本は2021年の発表。

①「綺麗な脚の女」=冒頭はバラバラ殺人事件。密室殺人の現場を窓から覗いたら、バラバラになった胴体だけが部屋にあった。で、通報のために離れた少しの時間になんと胴体が消失!っていう強烈な謎が提示される。これが破綻なくリアリティのある解法が示されればよかったのだが・・・ そもそもアリバイ作りだけでこんなことしないでしょ。
②「首を切られた男たち」=今度は「首無し死体」。当然死体の「入れ替わり」が俎上にあげられるわけだけれど、21世紀の現在に「入れ替わり」なんて成立しない。ではどうする?というのがプロットの肝かな。ただ、その「聞き間違い」はありえんだろ!
③「鯨岩の片足死体」=今回は右足のみ切断された死体が登場。「なぜ右足だけ?」というのが当然に疑問視される。これがかなり衝撃の理由! ただ、全体的には短編らしい切れ味のあるプロットにはなっている。納得感は高い。(ただ、ヨリ子とのやり取りなんかが余計だが・・・)
④「座っていたのは誰?」=全身を10分割されたバラバラ殺人が今回の事件。10分割した理由は意図不明で、これも結局アリバイ作りのためだけにこんな手の込みすぎたことをやるというのが無理やり感満載。もうやりたい放題である。(男性と女性の誤認の件は結局なにがしたかった?)

以上4編。
これはもう、書評は不要だろう。
「講談社」と「放談社」のくだりなんか、4回とも繰り返されるのでゲンナリする。
ただまあ、③なんかは割とマトモなミステリだったので、そこが救い(かな)。
こんな作品をPCに向かってキーボードを叩いている作者の姿を想像すると、それはそれで感慨深いものがある(なんで?)

No.1893 7点 黄土館の殺人- 阿津川辰海 2026/03/22 11:42
「紅蓮館」「蒼海館」に続く三つ目の館。その名は「黄土館」。赤、青、黄色の順である。
2026年にもなって、こんな「古き良き」館ものが読めるなんて・・・幸せ!(なんだろうか?)
2024年の発表。

~殺人を企む一人の男が、土砂崩れを前に途方にくれた。復讐相手の住む荒土館が地震で孤立して、犯行が不可能となったからだ。
そのとき土砂の向こうから女の声がした。声は、交換殺人を申し入れてきた――。同じころ、大学生になった僕は、旅行先で「名探偵」の葛城と引き離され、荒土館に滞在することになる。孤高の芸術一家を襲う連続殺人。葛城はいない。僕は惨劇を生き残れるか~

「いやいや、はあー・・・」というのが読了後すぐの感想。(なんだそりゃ?)
これは全盛期の島田御大や館もののマスター・綾辻行人を想起せざるを得ない、これぞ「the館もの」と称して良いと思う。
こんな数多くのトリック、ギミックを詰め込んで、(なんとか)破綻なくミステリを成立させる力量は「スゴイ」と賞賛されて全くおかしくない。
真犯人は、確かに、こういうミステリとしては「いかにも」なのかもしれないし、多くのミステリファンは最初から「あたりをつけていた」人物なのかもしれない。
ただ、2026年現在でこんなミステリを手に取ることができるのは、一ミステリ好きとしては「何よりの幸せ」と言うべきではと感じてしまう。

他の方の書評をを見てると割と辛辣な意見が目立つ。まあおっしゃることは「ごもっとも」。
ロー〇ウ〇イトリックのリアリティにしろ、塔の回転に関する住人の感覚のなさにしろ、はたまたいくらクレー射撃の名手だからって、ゴルゴ13じゃないんだから・・・などなど、粗探しをするなら枚挙にいとまがない。
「仮面の執事」もなあー、いるかなあ?
何より思ったのは「地震」の存在。作中でも度々触れているとおり、「地震」=予想できないという点で、不可能性&ミステリとしての難度が数段増しになっている。ただ、そこは脱出不可能という環境の設定とエレベーターの件以外にあまり有効ではなかったなと感じる。

でもまあ「詰め込みすぎ」なのは間違いないよねえー。
私の中では、「詰め込みすぎミステリといえば・・・小島正樹」だったんだけど、これなら「二代目詰め込みすぎミステリといえば」には作者を推したい。
詰め込みすぎたことで、犠牲となったところも相応にあるとは思うので、そこら辺が今後の課題なのかな。
でも、もう一度書くけど、「賞賛されるべき作品」なのは間違いなし。
(アッ!、二作目の「蒼海館」が未読だった! すぐに読まねば・・・)

No.1892 7点 死亡告示 トラブル・イン・マインドII- ジェフリー・ディーヴァー 2026/03/22 11:41
作者の第三短編集「Trouble in Mind」を分冊化した片方が今回の「死亡告知」とのこと。
リンカーン・ライムシリーズ一作も含まれていることも興味深い。
日本語版は2022年の発表。

①「プロット」=いかにも短編らしい作品。タイトルのとおりの内容だけど、この手のプロットなら作者のお手の物だろう。その分記憶に残りにくい作品かもしれない。
②「カウンセラー」=これも「いかにも」な内容で、どっかで読んだことのあるような、既視感たっぷりの内容ではある。ただし、さすがに作者で、興味を引き付けられたままラストまで一気読み可能な内容。タイトルはもう「皮肉」のひとことだろう。
③「兵器」=捕らえられ、どのような拷問にも決して口を割らない男。手を変え品を変え、口を割らせようとするが、ことごとく失敗する。そしてついには・・・
④「和解」=短めの作品だけど、個人的にはお気に入りの作品。仲の悪かった父親の思い出の詰まった故郷である寒村の自宅を訪れた主人公の男にシンクロするようにストーリーを追っていたが、最後に見事に「ヤラレた!」
⑤「死亡告知」=これがリンカーン・ライムシリーズ。ライムの死去を追悼する内容が語られる衝撃の内容! かと思いきや・・・。まあちょっと安直かな。
⑥「永遠」=中編というか、ちょっと手直しすればすぐにでも長編化できそうな秀作。最初読んでるうちは、「なんでこのタイトル?」って思ってたのが、終盤はそれが見事に結びつく。まあ分かりやすいといえばそうかもしれないけれど・・・。主人公が「数学専門」の捜査官なんて、すぐにでもシリーズ化できそうじゃないですか。

以上6編。
さすがにディーヴァー。隙のない短編集に仕上がってます。
もちろん、予定調和的なものや既視感あるものも混じってますが、それでも十分面白かったし、このレベルの短編集を書けと言われても、なかなかできるもんじゃないと思います。
もう、安心して手に取ってください!(多分)
(個人的ベストは、やはり⑥。これは抜けてる。次は④)

No.1891 5点 λに歯がない- 森博嗣 2026/03/22 11:40
Gシリーズも「λ(ラムダ)」まで突入。シリーズが進むごとに、徐々に作品の厚さ(ページ数)が少なくなってきてるのは、S&Mシリーズなんかとは真逆。
それだけ薄味になってきてることの裏返しかな?
2006年の発表。

~身元不明の被害者たちはすべての歯を抜かれていた。冴えわたるGシリーズ第5作。完全に施錠されていたT研究所で、4人の銃殺死体が発見された。いずれも近距離から撃たれており、全員のポケットに「λ(ラムダ)に歯がない」と書かれたカードが入っていた。また4人とも、死後、強制的に歯を抜かれていた。謎だらけの事件に迫る過程で、西之園萌絵は欠け落ちていた過去の大切な記憶を取り戻す~

これはもう、確かに本格ミステリなんだけど、シリーズ通した読者じゃないと理解不能だな。
不幸にも本作単独で手に取ってしまった方は、もう「訳分からん」「どこが面白いのか?」っていう感想になるのは不可避。
でも裏を返せば、シリーズ愛読者にとっては、コレがもうたまらん理由になるわけで、この辺りがニクイ限り。
「私はどうだって?」・・・そりゃもう、興味津々ですよ。
特に今回は、保呂草の姿が実態をもって現れてきて、今後どのように絡んでくるのか非常に気になる。赤柳氏の正体も徐々に明らかになってるし、「あーあ。やっぱりこれは壮大な森サーガにつながってるんだなあー」などと改めて実感する(いまさらですが・・・)。

えっ? 本筋はって?
もういいじゃないですか。ええ、出てきますよ。今回も超堅牢な密室が。なにしろ、セキュリティカードで閉ざされた完璧無比な密室ですから。いったいどうやってケリをつけるのかなと思ってたら、ありましたよ。抜け穴が・・・
なんかもう、敢えて「密室」なんて出さなくてもいいんじゃないかと思うなあー。作者の場合。
結局いつものとおり犀川が「ヒョイ」とばかりに解いてしまうんだから・・・
あと今回は「被害者の歯が抜かれていた」謎。こっちも最初は強烈な謎として提示されますが、真相はまずまず腰砕けのもの。

あーあ。最初に書いたとおり。見事な「薄味」だったなあー。(薄味のエスプレッソが言いえて妙か)

No.1890 6点 エトロフ発緊急電- 佐々木譲 2026/03/08 11:27
実に久しぶりに作者の作品を手に取ることに。
前々から「読まねば」と思ってた本作。新潮文庫版で700頁超え。大作である。心して読もう!
山本周五郎賞受賞作。1989年の発表。

~1941年12月8日、日本海軍機動部隊は真珠湾を奇襲。この攻撃の情報をF.ルーズベルトは事前に入手していたのか?海軍機動部隊が極秘裏に終結する択捉島に潜入したアメリカ合衆国の日系人スパイ、ケニー・サイトウ。義勇兵として戦ったスペイン戦争で革命に幻滅し、殺し屋となっていた彼が、激烈な謀報戦が繰り広げられる北海の小島に見たものは何だったのか・・・~

太平洋戦争、真珠湾攻撃、南京大虐殺、特高警察に代表される戦時下の日本の異常な空気・・・
これまで散々コスられてきた題材といえる。
どこを切り取るかでも変わってくるけれど、現代日本からすると耳を疑うような世界、千人に千人の人生のドラマがある世界。毎回違った感情が湧いてくる。

で、作者が舞台に選んだのが、今の北方領土。「択捉島」。北海道の方は馴染みがあるのかもしれないけど、私にとっては「未知の場所」。何となく雪と氷に閉ざされた孤島というイメージだったのだが、当然ながら戦前は日本人が住み、暮らしていた島。
その島にロシア人との混血で生まれ、美しい女性に成長したのが、主人公のひとり「岡谷ゆき」。
戦下で生きる彼女の姿も、作者により描かれることになる。
うーーん。粗筋なんてとても書ききれないな。とにかく、作者の用意した物語にまかせ、読み進めるしかない。
ラストは、それまでに登場してきた多くの人物が択捉島に集結。悲しくも、未来へとつながる結末を迎えることになる。
ラストは当然なんだけど、個人的に一番の山場は、ケニー斎藤が東京から択捉まで、スパイとしての経験と才覚をフルに使って特高の追っ手をまいていくところ。根室から漁船をチャーターしたら船員に襲われ、択捉に上陸すると強烈な寒さに苦しめられる・・・。そんな彼を救ったのが「ゆき」だったのだ。

本作は1993年にNHKでドラマ化されてるとのこと。まさに、ひと昔前、年末年始にやってたスペシャルドラマ枠で主演級の俳優が勢ぞろい、っていうのがピッタリだろう。(岡谷ゆき役が若き日の沢口靖子だったのね・・・なるほど)
BSなんかでぜひ再演してくれないかな。でも戦艦集結の場面なんか今なら絶対CGだろうけど、特撮だと迫力が違うんだろうな、でも予算がなあー、なんていらぬ心配をしてしまいそうだが…

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E-BANKERさん
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