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E-BANKERさん
平均点: 6.00点 書評数: 1887件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.1887 6点 その裁きは死- アンソニー・ホロヴィッツ 2026/02/23 11:43
まさに”大人気”シリーズとなった、「ホーソーン・ホロヴィッツ」コンビのシリーズ二作目。
最近の翻訳ものではNO.1のシリーズだなあー
2018年の発表。

~実直さが評判の離婚専門の弁護士が殺害された。現場の壁にはペンキで乱暴に描かれた数字“182""。被害者が殺される直前に残した謎の言葉。脚本を手がけた『刑事フォイル』の撮影に立ち会っていたわたし、ホロヴィッツは、元刑事の探偵ホーソーンから、再び奇妙な事件の捜査に引きずりこまれて――。年末ミステリランキングを完全制覇した『メインテーマは殺人』に並ぶ、シリーズ第二弾! 驚嘆確実、完全無比の犯人当てミステリ~

何ていうか・・・。うん。穴の少ない、現代本格ミステリという評価になる。
伏線もほどよく効いてるし、何よりこの真犯人。
(ネタバレっぽいが)恐らく登場人物表で「最も意外な真犯人ならコイツ?」という存在ではないか?
後になってみれば本筋に殆ど関係のなかった脇筋にも「いかにも関係あるよ!」っという感じで読者を迷い込ませるすべ。つまりはミスリードも十分効いてる。

本作の真相解明のカギとなるのが、過去に郊外の洞窟内で発生した不幸な事故。
これが「動機」にもつながることは早い段階で読者にも知らされる。で、次に起こるのは関係者の更なる「死」。
この「死」は事故なのか自殺なのか、はたまた連続殺人事件なのか?
うーん。作者の懐の中で転がされてるのが分かるのが逆に心地よくもある。

ラスト。ホーソーンによる真相解明の場面。ホーソーンは最初から「真犯人」が怪しいと睨んでいたという。
「え!」・・・っていうことは、その後長々と読まされる捜査行や関係者への尋問、洞窟事故のアレコレって・・・
まあ一番可哀そうなのは、完全な狂言回しとなったホロヴィッツ自身ということだろうか。
まっでも、よくできてると思うし、万人ウケは言い過ぎかもしれんが、コレを超える作品、シリーズを生み出すこともなかなか困難なことだと思った次第。

No.1886 6点 ちぎれた鎖と光の切れ端- 荒木あかね 2026/02/23 11:41
乱歩賞受賞作「此の世の果ての殺人」に続く作者の第二長編。
二部構成、単行本で450頁超えの長さなど、なかなか特徴的な作品に仕上がっているような気が・・・
単行本は2023年の発表。

~「私たちが絆を断った日、島は赤く染まった。」復讐を誓う男がたどり着いた熊本県の孤島(クローズドアイランド)で目にしたのは、仇(かたき)の死体だった。さらに第二、第三の殺人が起き、「第一発見者」が決まって襲われる――。2020年8月4日。島原湾に浮かぶ孤島、徒島(あだしま)にある海上コテージに集まった8人の男女。その一人、樋藤清嗣(ひとうきよつぐ)は自分以外の客を全員殺すつもりでいた。先輩の無念を晴らすため--。しかし、計画を実行する間際になってその殺意は鈍り始める。「本当にこいつらは殺されるほどひどいやつらなのか?」樋藤が逡巡していると滞在初日の夜、参加者の一人が舌を切り取られた死体となって発見された。樋藤が衝撃を受けていると、たてつづけに第二第三の殺人が起きてしまう。しかも、殺されるのは決まって、「前の殺人の第一発見者」で「舌を切り取られ」ていた。そして、この惨劇は「もう一つの事件」の序章に過ぎなかった・・・~

他の方の書評を見てると、本作の評判の高さが窺える。
確かに「第一部」は驚かされた。まさに「作者渾身の一撃」的な作品で、入念にプロットを練ってたんだろうなと感じる。
完全なCC舞台で、本当に「手垢のつきまくった」プロットの中での勝負。その中でも読者にサプライズを与えたのだから、そこはもう称賛するしかありません。
「なぜ死体の第一発見者が次に殺されるのか?」-この観点と敢えて「孤島」舞台としたことがリンクしていること、登場人物の中でミステリ的に“明らかに”怪しい存在の処理の方法など、ここは作者のアイデア勝ちだなあーと思う。
もちろん突っ込み所は多数。リアリティなんて持ち出されたらもうどうしようもありません。
ただ、本格ミステリに真摯に向き合っていることは素直に敬意を表します。

で、「第二部」なのだが・・・
「必要か?」ということについては「必要」だと思う。もちろん「動機」の補強もあるし、第一部があまりにも尻切れだし・・・
これはまあ「探偵編」っていうことだよね。そこに現在進行形で「第一発見者が次に殺される」という共通項を加えて、更なる深みを出そうとしている。
ただそれがうまくいっているかというと・・・そこは微妙かもしれない。マリアの出自も想定内だし。

それにしても、またも「孤島もの」かあー。いま2026年ですよ。ついこの前、方丈貴恵の「孤島の殺人者」で驚かされたと思ってたら、またもや・・・しかも女性作家だ。
そこはやっぱり、見てる、感じてる角度が違うのかもしれないな。そういう意味では次作も期待大。

No.1885 5点 月下美人を待つ庭で 猫丸先輩の妄言- 倉知淳 2026/02/23 11:39
久々に大好評(?)「猫丸先輩シリーズ」を読了。
作者の短編集というと、「乙姫警部シリーズ」がなかなか面白かったので、もうひとつの代表的シリーズもついでに・・・
単行本は2020年の発表。

①「ねこちゃんパズル」=初っ端から脱力系のタイトル&内容。解決編で登場する「ねこちゃんパズル」については、八木沢君以外なら分かるよねぇ・・・。「過程段階の様子を見ても分からない」というのは本作に共通するプロット。
②「恐怖の一枚」=ぱっと見、なんてことのない「一枚の写真」。しかーし、猫丸先輩にかかると、これが背筋の凍る「恐怖の一枚」になる・・・。写真の様子を言葉で説明されても、イマイチピンとこないのはしようがないか。デジタル化と心霊写真の衰退の関係は確かに。
③「ついているきみへ」=変な性格の同級生から贈られた「変なプレゼント?」・・・の正体をめぐるお話。で、一体なにが「ついているのか?」がカギ。もっとはっきり言ってあげればいいだけなんだけど、それを言ってはおしまい。
④「海の勇者」=うーん。まあユーチューバーなら、それくらいのこともするのかな。
⑤「月下美人を待つ庭で」=「鳥居と地上げ」の話は「いつの時代の話だよ!」って思ったけど、都内だったら最近でもあるのかな?

以上5編。
やっぱり、「猫丸先輩」は今回も「猫丸先輩」でした(当たり前だ!)。
ゆるーいミステリがお好きな方なら、ちょうどいい塩梅の作品が並んでます。猫丸先輩自身が言ってるように、「こうも考えられる。けど保証しないよ」というお話。

まっ、でも口当たりはいいし、いわゆる「癒しキャラ」として定着した感はある。
本当に「乙姫警部」とは真逆のキャラなのが面白い。そこは作者の腕前。
(個人的ベストは、うーん。うーん。①のねこちゃんパズル部分、かな)

No.1884 6点 花束は毒- 織守きょうや 2026/01/31 12:20
現役の弁護士でもある作者のノンシリーズ長編作品。
作者の作品の中では、今のところコレが一番評価が高いように見えますが・・・本当かな?
単行本は2021年の発表。

~芳樹は憧れのかつての家庭教師・真壁が結婚を前に脅迫されていると知り探偵に調査を依頼するが――。完全に騙される傑作ミステリー。憧れの家庭教師だった真壁が結婚を前に脅されていることを知り、僕は尻込みする彼にかわり探偵事務所に調査を依頼。そこに現れたのは中学時代にいじめに遭っていた従兄をえげつない方法で救ってくれた先輩の理花だった。調査を進めるにつれ、見えてきた真実。背筋も凍るラスト。気鋭のミステリ作家による、衝撃の傑作長編!~

正直なところ、終盤までは実に退屈だった。
こんな平板なミステリ、っていうか「本当にミステリなのか?」と思ってしまうようなつまらなさ。
それが一変することとなります。終盤で。

確かに、なんとなく、そんな匂いは漂っていた。私も、これまで数多のミステリに接してきた身ではあるので、何となくそういう方向性になるんじゃないかな?というような予感はあった。
で・・・単行本の244頁にある、ある登場人物のひとことで、このミステリの構図は一変することとなる。

あーあ。そういうことなのね・・・
誰もがそう感じるんじゃないかな。その一言で。そういう意味では、この「ひとこと」は相当な破壊力を持った「ひとこと」ではあった。
これまでも、こういうタイプのミステリはそれなりに読んできたように思う。
終盤で構図がガラリと変わってしまう、作品。
ただ、本作の場合、それまでがあまりに静かな展開だったため、より衝撃度が上がったような恰好になっている。
そういう点では、作者の計算ずくというか、してやったりのプロットなんだろう。

やはり評価の高さは頷けるところはあったなあー。
ラストは「含み」を持たせたまま終了してるから、書かれなかった「その後」が気になる。

No.1883 7点 - フィリップ・マクドナルド 2026/01/31 12:19
作者のミステリ処女作品であり、当然ながらゲスリン“大佐”の初登場作品でもある。
以前から名前と評判は耳にしてたんだけど、なかなか手に取る機会がなかった作品。で、偶然見つけてしまった。
1924年の発表。

~“大蔵大臣ジョン・フード殺害さる!”の一報がいち早く「梟」誌の編集部にもたらされた。スクープ間違いない。そこで編集長はこの事件の取材に、一風変わった特派員を送ることにした。A.ゲスリン・・・第一次世界大戦の英雄で、明晰な頭脳の持ち主である。かくして、犯行現場を訪れたゲスリン大佐は、一見単純そうな事件の裏に潜む真相の解明に乗り出した!~

時代性を考えると、「かなりの面白さ」だった。
もちろん、何ていうか、時代感覚のズレは甚だしいし、他の方は「トレント最後の事件」を引き合いに出されたますが、いわゆる恋愛要素ってやつも、事件の本筋とは殆ど絡んでこないので、一方的にうるさいだけ・・・のようにも見える。
(最終章が事件そっちのけでゲスリンたちの恋愛模様を読まされたのは、さすがに「オイオイ!」っていう感じだが・・・)

ただ、本筋の論理性はミステリの原点っていうか、古典作品の良さを凝縮したような面白さを感じた。
このアリバイトリック。確かに危うい。
真犯人のアリバイを証言することになる人物たちの「誤認」(ネタバレっぽいが)も、危ない橋を渡ったなあーという感がしないでもない。
でも、それは作者も分かっていて、いろいろと補強もしていて(真犯人の日頃の行いとか・・・)、そこはかなり気を配っているし、加えて「心理的トリック」(→裏の裏をかく的なやつ)も気が利いてると思った次第。

一方、タイトルにもなってる「鑢」。これはまあ凶器なんだけど、これの扱いはちょっと雑かな。
指紋についての引っ掛けが唯一だから、もう少し工夫があってもなあーとは思った。(そもそもなぜ「鑢」なのか? この時代は「鑢」がそんなにメジャーだったのか?)

ということで、トータルでは十分満足できるという評価で良いと思う。
1920年代だから、いわば黄金期への橋渡しのような作品だったんじゃないかな? 本作を読んでスゴい刺激を得た作家も多かったことだろうと推測。
個人的にも読了できて良かったなあーと素直に思えた。

No.1882 7点 Y駅発深夜バス- 青木知己 2026/01/31 12:18
以前から評判の良さは耳にしていた短編集。それをようやく手に取ったということで・・・
へえーけっこう「書き下ろし」作品が多かったんだねぇ。
単行本は2017年の発表。

①「Y駅発深夜バス」=実に“美しい”短編作品だと思った。すべてのピースがぴたりと嵌まっている、という意味で。もちろん短編なので、主要登場人物は四人のみ。で、その四人に配役が割り振られるとすればこうだろうという形で決着する。でもそこに美しさを感じてしまう。動機のやりきれなさを味わいながらも、「しし座流星群」の美しさに救われた気分。
②「猫矢来」=中学生が主役の青春ミステリ的な味わい。ただ、隣人の藤崎さんの行動はどう考えてもおかしい。あんな不明確な表現しないだろう、普通。碓井くんも。「竹馬は屋上に上げとく方がいい」って、どんだけ暗喩なんだよ!
③「ミッシング・リング」=ミッシング・リンクではありません。“ミッシング・リング”です。つまり、指輪盗難事件がメインテーマ。途中登場するのが「分単位」のアリバイ。で、「アリバイ表」と「建物の平面図」がリンクするなんて・・・結構斬新と感じた。ただ、その他はやや陳腐かな。
④「九人病」=どこかで読んだことのあるような肌触りの作品。ただ、ラストのひと捻りは面白いと思った。「世にも奇妙な・・・」的プロット。
⑤「特急富士」=途中までは、今は亡き西村御大のトラベルミステリを彷彿させるプロット。ただし、ここからが全く異なる。なんと、ふたりの殺人者が登場。正体が分からない同士のふたりが、ああでもないこうでもないと、あらぬ予想をしながら行動し、結局ふたりとの墓穴を掘る展開に。作者のアイデア勝ちだと思うけど、ラストにもうひと捻り欲しかった。

以上5編。
出来の良い悪いはあるけれど、全体的にはほぼ評判どおり。面白い作品集だった。
基本プロットは使いつくされたものでも、作者なりのひと工夫、ふた工夫が見えて、結果として面白い短編に仕上がっていると思う。
多分器用なんだろうね、作者は。うまくまとめる能力に長けていると見た。このレベルの短編が読めれば、「短編好き」の身からすれば有難い。
(やはり①が一番かな。少し惜しいけど⑤も好きは好き)

No.1881 4点 正義の申し子- 染井為人 2026/01/20 14:07
横溝正史ミステリ大賞受賞作「悪い夏」でデビューした作者の長編二作目。
デビュー作をはじめ、複数作品が映画化されるなど、すでに人気作家となった感のある作者だが・・・
単行本は2018年の発表。

~現実では引きこもりながら正義のユーチューバー“ジョン”として活躍する青年・純。悪徳請求業者に電話をかけ、相手をおちょくったところ大好評。キャラの濃い関西弁男を懲らしめた動画は爆発的に再生数を伸ばす。味をしめたジョンは、男とリアルに会って対決し、それも配信しようと画策する。一方、請求業者の鉄平もジョンを捕まえようと動き始めた。ふたりが顔を合わせたとき、半グレや女子高生をも巻き込む大事件に発展する!~

うーーん。基本的には前作(「悪い夏」)と同じようなベクトルの作品かな。
発表年(2018年)にはすでにユーチューバーも市民権(?)を得ていたんだと思うし、こういう迷惑系もかなりいたなあーという感じがする。
本作も前作同様、複数の主要キャラが登場し、それぞれがそれぞれの「負」の事情を抱えながら、小さな成功や幸せを求め行動しようとする。
ところが・・・。こういう作品では、このようなキャラには試練が与えられるのが定番。ストーリーは悪い方に悪い方に転がっていく。本作では、ジョンにも、鉄平にも、そして彼らの周りの人々にも・・・徐々に不穏な空気が漂っていく。
そして、終盤には「ドーン!」
ということでついに沸点を迎えるわけだ。

ただ、本作の場合、この辺がちょっと中途半端、というか、うーん何ていうか、「下世話」だな。
前作はもう少し突き抜けていたように思う。本作は、漫画的というか「ちょっとした騒動」という程度の事件になっている。
ラストも、良く言えば「うまくまとめた」のかもしれんけれど、悪く言えば「レベルが低い」と評されそうだ。
(ちょっと言い過ぎかもしれんが)

ということで、前作は超えてこなかったなというのが正直な感想。
こういうプロットであれば、もう少しハラハラさせてもらわないとなあー、と感じた次第。

No.1880 5点 日本扇の謎- 有栖川有栖 2026/01/20 14:06
火村&アリスの国名シリーズもはや、えっと第何弾だ?・・・十一弾です。
ということで長~く続く本シリーズ。最近は関西圏限定のトラベルミステリーのような雰囲気も出てますが・・・
(今回は舞鶴・京都の魅力がたっぷりです)
ノベルズ版は2024年の発表。

~舞鶴の海辺の町で発見された、記憶喪失の青年。名前も、出身地も何もかも思い出せない彼の身元を辿る手がかりは、唯一持っていた一本の「扇」だった……。そして舞台は京都市内へうつり、謎の青年の周囲で不可解な密室殺人が発生する。事件とともに忽然と姿を消した彼に疑念が向けられるが……。動機も犯行方法も不明の難事件に、火村英生と有栖川有栖が捜査に乗り出す!~

作者が書きたいのは「こういう作品」なのだろうか?
本作の冒頭。作中でもミステリ作家であるアリスが、編集者から「日本扇の謎」というタイトルのみ与えられて、作品のプロットづくりに苦吟する場面が描かれている。
「へえー、作家ってこういう思考でプロットを捻りだすのか・・・」と興味深く読ませてもらったのだけど、さて、国名シリーズも重ねて11作目にもなった本作を読了してみて、個人的には「面白くない」>「面白い」という感想になった。

本作の面白さの要素って何だろう?
もちろん「密室」ではない(これでは百年前のミステリと同じだ)。記憶喪失とミステリとの連関? これも終盤、読者は置き去りにされたような角度から真相が語られてしまう。
同じく終盤、思わぬところから連続殺人であることが露見され、材料が一気に増えたことで火村のロジックが炸裂するところ? うん。そうかもしれないけど、このフーダニットは動機も含めていただけないだろう。
あまりにも意外性がなさすぎる。

ということで、先の質問に戻るんだけど、作者は「美しいミステリ」が書きたかったのだろうか?
雰囲気でいえば、80年代頃の地上波サスペンスの秀作。演技派の俳優たちが個性豊かに演じて見せた・・・というような感覚に近い。
もちろんこういうミステリもいいだろう。特殊設定という名の訳の分からんミステリばかりの現代本格ミステリ界隈。それに背を向ける孤高のミステリ作家。若手作家も有栖川有栖という存在があるからこそ、特殊設定で「遊べる」のかもしれない。
いやいや、こんな上から目線のような書評を書いても仕方ありません。ただひとこと、「美しいミステリでした」と言えばいいのだから・・・

No.1879 5点 死の10パーセント: フレドリック・ブラウン短編傑作選- フレドリック・ブラウン 2026/01/20 14:03
「短編の名手といえば?」という質問に対して、必ず名前が挙がるであろう作者。
そんな作者の短編をいろいろと集めてくれた作品集。ありがとう創元さん・・・
1984年の刊行。

①「5セントのお月さま」=掌編。でも、作者の作風をよく表しているような、「小気味いい」一編。
③「女が男を殺すとき」=意味深なタイトル。コレと④は「ハンター&ハンター探偵事務所」に持ち込まれた事件を巡る探偵譚。ハードボイルド風だけど、最後に軽く捻ってくる。まさに「小粋なミステリ」。
④「消えた役者」=それこそプロット自体は「よくある手」。だって「役者」なんだから・・・
⑥「球形の食屍鬼」=まさかあんな動物がミステリに登場するなんて! 「モルグ街」もビックリ(かも)。
⑧「死の警告」=これは大昔の電話トリックを使った正当なミステリ。ただ、かなり危ういトリックとしか思えんが・・・
⑨「愛しのラム」=このラストはさすがに察しやすかった。主人公が「売れない画家」というのも「いかにも」。
⑩「殺しのプレミアショー」=なんか分かりにくいんだけど、プロット自体はいたってシンプル。
⑪「殺意のジャズソング」=長めの短編。ただ、ちょっと中盤が平板でダレてしまう。ラストも引っ張った割には「それかよ!」っていう感じ。
⑫「死の10パーセント」=なんでも10%の取り分を要求する男。主人公は男の力を借り、ハリウッドで成功するのだが、あらゆる場面で10%を要求されて、ついに・・・
⑬「最終列車」=確かに「最後の一撃」が魅力なのだが・・・。うーん。

以上13編。(一部省略)
なるほど。久しぶりに作者の作品を読んだけど、さすがに達者だ。なんていうか、短編の機微がよく分かっていらっしゃる。
ただ、良くも悪くも「アメリカンジョーク」ならぬ「アメリカン・ミステリ」という感覚で、どうもノリきれない短編も多かった。
そういう意味では「玉石混交」。でも、それって結構「上から目線」だな。
短編の名手には失礼かもしれない。
(個人的には③④の「ハンター&ハンター」ものが良かった。)

No.1878 6点 アルカトラズ幻想- 島田荘司 2026/01/04 11:32
皆さま、新年明けましておめでとうございます。2026年となりました。
今年はそれほど出遅れずに新年一発目の書評をアップすることができました。
幸い我が国は割と平和なお正月を迎えたようですが、トチ狂ったような為政者が何人も跋扈している世界を見ていると、本年が平穏無事に過ぎることは決してないような気が・・・まあ、こうやって好きなミステリを楽しめることこそが至福のとき、ということでしょう。
で、新年一作目は久しぶりに島田御大の未読作品を手に取ることにしました。(本当は「ローズマリー・・・」を読もうかと思ってたんだけどね)。単行本は2012年の発表(もう、10年以上も前かあ・・・)

~1939年11月2日、ワシントンDCのジョージタウン大学脇にあるグローバーアーチボルド・パークの森の中で、娼婦の死体が発見された。被害者は両手をブナの木の枝から吊るされ、性器の周辺がえぐられたため股間から膣と子宮が垂れ下がっていた。時をおかず第二の殺人事件も発生し、被害者には最初の殺人と同様の暴虐が加えられていた。凄惨な猟奇殺人に世間も騒然とする中、恐竜の謎について独自の理論を展開される「重力論文」を執筆したジョージタウン大学の大学院生が逮捕され、あのアル・カポネも送られたサンフランシスコ沖に浮かぶ孤島の刑務所、アルカトラズに収監される。やがて、ある事件をきっかけに犯人は刑務所を脱獄し、島の地下にある奇妙な場所で暮らし始めるが……。先端科学の知見と作家の奔放な想像力で、現代ミステリーの最前線を走る著者の渾身の一作がついにベールを脱ぐ!~

はっきり言って期待していなかった。読む前は。また、期待を裏切ってくるんだろうなと思っていた。
だって、本作の前に読んだ「盲剣楼奇譚」なんて、もう、私が大好きだった吉敷竹史を冒涜しているとしか思えなかった。
あーあ。島田荘司のネタは尽きていたんだと・・・悟らせるに十分だった。
それを思えば、本作はいい意味で期待を裏切ってきた。
「面白かった」。特に第一章から第二章は。

第一章は「切り裂きジャック」を想起させる猟奇事件を追うふたりの刑事の捜査行に夢中になれたし、何といっても第二章の「重力論文」である。これは一流のストーリーテラー足る作者の技量が十分に投入されていた。
「へえ・・・」。門外漢である私が読んでも、「重力」「地球」「太陽系」そして「恐竜」「骨盤」の話は魅力に富んでいた。
作者の読者を作中世界に引き込む力は健在なのだと、胸をなでおろした。

「えっ?」。本作はミステリではないのかって?・・・
いえいえ、ミステリです。えーえ。多分。いや、恐らく・・・。うん、多分・・・
第三章「アルカトラズ」から第四章「パンプキン王国」まで、まさに「幻想」のようなお話が続いていきます。
いったい第一章と第二章は何だったのか? 多くの読者は疑問を持つでしょう。
その答えが明かされるのが、「エピローグ」の章。
なーるほど。本作は実はそういう裏テーマがあったわけなのね。まあ薄々気付いてはいたけれど。
それにしても壮大なお話です。
いろいろと皮肉めいたことも書いてきましたが、やはり作者の「物語を紡ぐ力」は本物だと感じます。
ただ、ただ、あの頃の古き良き「馬車道時代の御手洗潔」や「冤罪事件に孤高に立ち向かう吉敷竹史」の活躍に心躍らせていた自分にとっては、どうしても「満足」という評価にはならないなあー
「オッサンはいつでもノスタルジーを感じていたい」。我儘かもしれないけれど、仕方ないじゃない。そういうものだから。
でも、「島田荘司も悪くない」と改めて思わせてくれた、新年一発目となった(多分)。

No.1877 5点 忌名の如き贄るもの- 三津田信三 2025/12/21 12:36
刀城言耶シリーズも数えて八作目の長編。
いつもながら高水準の本格ミステリを提供し続けている本シリーズだが、回を重ねてきての変容はあるのか?
単行本は2021年の発表。

~生名鳴地方虫くびり村に伝わる「忌名の儀式」。自らに降り掛かる災厄をすべて実体のない忌名に託す儀式の最中に、村の有力者・尼耳家の跡継ぎが殺される。「決して振り向いてはいけない」儀式中に右目を刺され命を落とした被害者。時同じくして目撃された異形のもの、”角目”。村を訪れた刀城言耶が事件の謎に挑む。振り向いてはいけないーー。誰も知るはずのない”忌名”。その名を呼ぶ者は、誰か?~

ラストの破壊力はシリーズ中でも屈指。
ただし、それがなければ「ちょっと物足りない」。そんな読後感だった。
ラストの「反転」については、それまで入念に作者が仕込んできた伏線が一気に目の前にやってきた!っていう感覚で、その分ヤラレタ感も強い。
この当りは、作者がホラー作家たる所以のものだろう。

殺人のトリックはなあー。あまりにプロバビリティすぎないかな? あの道具もアリバイトリックを成立させるための重要なピースだし、「エッ!」という気にはさせられたけど、回避されるリスクも相応に高いし、そこはご都合主義と思われてもやむなし。フーダニットについても、ダミーの容疑者の全員に信憑性が乏しいし、いつもの刀城言耶お得意の「仮説を立てては壊し、立てては壊し」で展開する推理にも他作品との比較で魅力に欠ける。
今回は、田舎の風俗に関する蘊蓄の比率の大きさも気になる。まあ当然、本シリーズはそういう内容だし、という部分は分かってのうえだけど、それが事件と密接に関連するかというと、そこのところも弱いと思えた。
「尼耳家の秘密」というのも、後半までかなり引っ張ってくるほどのものではなかったなあー(もう少しエグイのを想像してた)

他の多くの方は、シリーズ他作品との比較について言及されてますが、個人的には前作(「碆霊」)の方が良かったかなと・・・。当然「首無」や「山魔」が上ですが。
でも、そんな比較がファンの間でさかんになされること自体、本シリーズのスゴいところなんでしょう。(とフォローしておく)
あっ、でも決して面白くないのでは全くありません。面白いです。単なる「重箱のスミ」のようなものです。

No.1876 6点 エイレングラフ弁護士の事件簿- ローレンス・ブロック 2025/12/21 12:34
~ミステリ史上最高で最凶。絶対負けない弁護士エレイングラフ。法外な報酬でどんな被告人も必ず無罪にして見せる。そう、たとえ真犯人でも・・・。E.クイーンが太鼓判を押した第一作から38年に亘ってじっくり書き継がれてきた12編を全収録。黒い笑いとキレキレの逆転が絶妙にブレンドされた珠玉の短編集~
2024年に刊行。

①「エレイングラフの弁護」=まずは、「ほんのあいさつ程度に」という感じの第一編。本シリーズの大まかな方向性は分かる。
②「エレイングラフの推定」=実に便利な言葉。「推定」って。終盤は非常にシニカル。
③「エレイングラフの経験」=“無垢と経験”。まさに金言です。結局男は美女に弱いし、そういう女性ほど毒がある、ということ。
④「エレイングラフの選任」=まさか国選弁護士に!という本作。そして、ラストはやや意外なものに・・・”やや”というのがミソ。
⑤「エレイングラフの反撃」=こういう方向性もあるのね。最後はまあ正直いって「恐喝」だよね。それか「脅迫」?
⑥「エレイングラフの義務」=今回の依頼者は貧乏な詩人。詩をこよなす愛するエレイングラフはいつにも増して・・・でも皮肉な結果。
⑦「エレイングラフの代案」=依頼人の妙齢の女性を気に入る。でもあくまで紳士として振る舞い、「代案」という結果に至る
⑧「エレイングラフの毒薬」=この毒薬は実在してる? だんだん犯罪のスケールが大きくなっているような・・・
⑨「エレイングラフの肯定」=まるで精神科医かセラピスト。今回は弁護料でのかけひきは起こらず。
⑩「エレイングラフの反転」=依頼人はアメフトのスター選手。絶体絶命と思いきや、最後は軽々と無罪を勝ち取る。どうなってねん?
⑪「エレイングラフの決着」=ついに依頼人の美女までもがエレイングラフの手に落ちることに・・・。嫉妬深い男はダメだね。
⑫「エレイングラフと悪魔の舞踏」=最後は少しだけ今までと異なる趣向が入っている。依頼人ふたりともう一人の・・・

以上12編。作者本人のあとがき×2を含めて、解説も必読!
ブロックの短編は、これまで「殺し屋ケラー」シリーズが滅法面白くて、続編が出ないかなあーと思っていたところ、本作の登場!となったわけ。
もう、職人芸。特段付け加えて書くことないし、いらない先入観を持たないほうがいいし、以上!ということです。

ケラーもそうだし、バーニイもそうだし、本作のエレイングラフもそうだし、図形的な存在(いつも同じような思考、行動)なんだけど、作者に息を吹き込まれると、なんとも魅力的な存在になる。
そう、ブロックは「魔法の息」をもっているのだろう。そうやって、読者に至高の読書時間を与えてくれる。素晴らしい作家です。

No.1875 7点 スイッチ 悪意の実験- 潮谷験 2025/12/21 12:33
第63回メフィスト賞の受賞作品。
舞台のひとつとなる「狼谷大学」とは、作者の出身校である「龍谷大学」のことでしょう。仏教色の強い大学だけあって、宗教に関する考察も作中にたびたび挿入される。
単行本は2021年の発表。

~夏休み、スイッチをもって1ヵ月暮らすだけの簡単なお仕事。日当は1万円、勤務終了後のボーナスは、なんと100万円! スイッチは押しても押さなくても1ヵ月後には100万円が手に入る。押すメリットはない。「誰も押すわけがない」皆がそう思っていた。しかし……友人たちとアルバイトに参加した大学生の箱川小雪は思い知らされる。想像を超えた純粋な悪の存在を。第63回メフィスト賞の本格ミステリー長編~

手前味噌かもしれんが、これまで数多くのミステリに触れてきたと思ってる自分にとっても、初めての「肌触り」がする作品だった。
特に序盤から中盤にかけて。「真の悪意」を問うための実験。これがいったい、作品全体にどんな意味を持つのか?
誰も押さないはずだったスイッチが押された後、思いがけぬ展開につながっていくプロットの妙。
そう、この辺なんだよな。
次の展開が全く読めない。当然今まで触れたことのない世界観(のようなもの)。

ただし、中盤から終盤にかけて少しダレてくる。期待してたのとは違う方向に向かったので、「なあーんだ・・・」という感じになった。
このままなら尻つぼみだなと思った矢先、第八章(「犯人」)以降、再び物語は思わぬ展開を見せていく。「ああ、やっぱり本作はれっきとしたミステリだったんだあ」と。(当たり前か)
ここから何回か捻ってくる。最終的に判明する真相にはまずまず驚かされた。
なるほど、主客逆転とでも言えばいいのか、さすがに受賞作だけあると感じた。

最後までモヤモヤしたのは「安楽」のこと。あまりにもドライというか、気味悪いほど精神が均衡してるというか、ゾワゾワした感覚にさせるキャラだった。だから、もう少しそこが掘り下げられて、なにかの仕掛けがあるのかなと期待してたんだけど、そこは割とスルーされたまま終了してしまった。
でも、このプロットは面白いと思ったし、本作以降の作者の活躍ぶりをみると、最初から「兆し」はあったんだなと納得した次第。

No.1874 5点 恋と禁忌の述語論理- 井上真偽 2025/12/02 15:43
作者の実質的なデビュー作がコレ。大学生の詠彦とロリ顔美女のアラサーで叔母の硯(すずり)を主人公とする連作短編集。設定だけみてると、ラノベそのものなんだけど、そこは井上真偽ですから・・・
ノベルズ版は2015年の発表。

①「スターアニスと命題論理」=「スターアニス」とは最近料理番組なんかでよく耳にするようになった「八角」のこと。「命題論理」とは・・・説明できません!! すでに解決したはずの殺人事件(?)の真相を硯に検証を依頼するーこれが本作に共通するフォーマット。「論理学」って、へえーこういうふうに考えるんだねぇ・・・。ところで本筋は?
②「クロスノットと述語論理」=「クロスノット」とはネクタイの結び方の一つで、幅広の結び目とするもの。「述語論理」とは・・・説明できません!! でも①の命題論理よりは腑に落ちた(ような気がした)。今回も先に解決に導いた探偵の推理をひっくり返す硯さん。
③「トリプレッツと様相論理」=作者の長編シリーズ探偵である「上苙丞(うえおろじょう)」が初登場。上苙の推理を硯さんがひっくり返すという衝撃の最終譚。しかも事件は本格ミステリそのもの。「双子」や「雪密室」までも登場するなど、本作のプロットからするとかなり違和感あり。で、確かに上苙の推理は何だか物足りない。そこで登場するのが「様相論理」だ! でも説明できません!

以上3編+エピローグ編あり。
本作、確かに小難しい。さすがに最高学府出身の作者。ご自身の優秀な頭脳を隠すことなく披露されている。
他の皆さんが書かれてるように、無理やり論理学を載せているだけのように思えなくもないけど、これはこれでメフィスト賞ですから! 新味のある角度からミステリを見るのも悪くはない。

ただ、次作以降はあまり論理学の話は出てこなくなったので、さすがに出版社側も「こりゃだめだ」とでも考えたのかもしれないな。あと、硯さんのいかにも「こういう界隈」の人にウケそうなルックス、言動もなあー。まあイタイといえばイタイ。
でも、さすがにミステリとしての骨格はしっかりしてるし、それは次作以降の作品群からも明らか。
まあ”若気の至り”とでも考えておくか・・・

No.1873 4点 中国銅鑼の謎- クリストファー・ブッシュ 2025/12/02 15:41
本作の探偵役となる「ルドヴィック・トラヴァーズ」はシリーズ探偵として60作を超える作品に登場しているとのこと(スゲエ多作!)。作者って以前「完全殺人事件」を読んだような気がしてたんだけど、もしかすると初読み(かも)。
1935年の発表。

~限られた登場人物、空間における謎解きの面白さと同時に、嫌味で典型的な嫌われ型の被害者の老人、彼に翻弄される四人の甥、明晰だがどこか素っ頓狂な探偵、忠実だが度胸満点の探偵の相棒、使用人等々。どこか舞台劇を見るような興趣にあふれる・・・作品~

タイトルだけなら、E.クイーンの国名シリーズの一冊のようでもある。
「中国銅鑼(ゴングと表している)」は本作の殺人事件において象徴的な役割を果たす「モノ」として登場する。
ひとりの偏屈な老人と四人の甥、顧問弁護士、どこか陰のある執事などなど、黄金期の英国ミステリらしい道具立てが揃った殺人劇。
なのだが、探偵役となるトラヴァーズの思考、推理は事件の周りをぐるぐると回ることになる。
それも一回などではない。それこそ何回も何回も巡っていく。
読者としても、もうこれは何回目の堂々巡りなのか分からなくなるほど。そして、事件は登場人物の過去や人となりなどにも手を広げていく・・・

ひとことで言うなら「風呂敷の広げすぎ」である。
風呂敷なんてそんなに大きくないはずなのに、なぜかそれを大きく見せようとして、プロットがボヤけてしまっている。
魅力的な設定なんだけどなあー
クリスティのような料理人なら、この素材を見事に活かすんだろうなと感じたが、如何せん・・・である。
ミステリにも「メリハリ」は大事なんだと気付かされる読書となった。
いや、違うな。ミステリだからこそ「メリハリ」が大事に違いない。

No.1872 6点 倒産続きの彼女- 新川帆立 2025/12/02 15:40
処女長編「元彼の遺言状」に続いて発表された作者の長編第二弾。
前作で主役だった剣持麗子をワキに置いて、今回はその後輩弁護士である美馬玉子が主人公。
発表は2021年。

~山田川村・津々井法律事務所に勤める美馬玉子。事務所の一年先輩である剣持麗子に苦手意識をもちながらも、ボス弁護士・津々井の差配で麗子とコンビを組むことになってしまう。二人は、「会社を倒産に導く女」と内部通報されたゴーラム商会経理部・近藤まりあの身辺調査を行なうことになった。ブランド品に身を包み、身の丈にあわない生活をSNSに投稿している近藤は、会社の金を横領しているのではないか? しかしその手口とは?ところが調査を進める中、ゴーラム商会のリストラ勧告で使われてきた「首切り部屋」で、本当に死体を発見することになった彼女たちは、予想外の事件に巻き込まれて……~

実にうまくまとめている。そんな印象だ。
昨年には、かの「山本周五郎賞」も受賞した作者。物語を創作し、まとめる能力はすでにこの頃から如何なく発揮されている。

実際に弁護士でもある作者。
本作の主人公である美馬玉子は、作者自身がフィーチャーされた存在なのだろうか?
弁護士というと、門外漢の私でもすごく「多忙」な姿が想像できる。
美馬玉子もやはり、日々激烈に多忙な環境のなか仕事をしている。でもそんな中でも合コン、婚活に励み、美人で金持ちという剣持麗子にジェラシーを抱いている。
そんな女性弁護士の心のうちなんかは、やはり作者自身の姿が反映されてるんだろうなと考えてしまう。

本筋である、倒産に係る謎については、私も仕事柄興味深く読ませてもらった。かなりデフォルメされてはいるけど、そこは弁護士らしく筋のとおった中身にまとめていると感じた。
作中では大きな会社を倒産させるのは相当難しい、と書かれているけど、個人的には割と簡単なのではないかと思う。
本作のある登場人物は、かなり遠回りなやり方でやってるけど、他にも簡単な方法はあるだろう。
殺人事件の方は添え物で、ちょっと扱いが雑かな。
ただ、作中で美馬玉子が弁護士として成長していく「お仕事小説」としての良さが際立っている。

本筋とは全然関係ないけれど、玉子と親友の美法がけんかをして仲直りする場面。なんだか、昨今の日本と中国の関係を思い出してしまった。どっちも要はボタンの掛け違えのようなものであったらいいのにな、と感じた次第。
もちろん、そんな簡単なもんじゃないけどね。

No.1871 6点 ブラック・ドッグ- 葉真中顕 2025/11/23 12:53
今、個人的に”最もアツい”ミステリ作家である「葉真中顕」。
本作はシリーズ外長編、かつ、なんなんだ! この内容は・・・。かなりの問題作ではないか?
単行本は2016年の発表。

~目的のためには殺人も辞さない過激な動物愛護団体、『DOG』。遺棄動物の譲渡会が行われる会場に集まった隆平、栞、結愛と拓人たちは、『DOG』によって会場に閉じ込められ、謎の黒い獣に襲われる。獣から逃げるため、逃走を開始する人間たち。「ヒト」と「ケモノ」を隔てるのは何か~

本作の内容をひとつの単語で表すなら、ずばり「凄惨」ーである。
序盤からすでに物語は不穏な空気をまとっている。アラスカでとある食肉加工会社のオーナー一族が惨殺される事件が描かれる序章。その中身はヴェールに包まれており、真相は次章以降に明らかとなる。
舞台は変わって日本。東京の臨海地区につくられた自然公園、そしてその中の巨大ホールが、この「凄惨」な物語のメイン舞台となる。

物語は複数の視点人物から語られる。それぞれが「ある生き物」に襲われ、凄惨な殺戮が繰り返される現場をその人物の目線、思考を通して語られる。
どんなに鍛えられた人間でもその圧倒的な能力で凌駕してしまう「ある生き物」。十数体登場する「ある生き物」の前に、成すすべなく次々と殺害されていく視点人物たち・・・
さっきまで、その人物たちの過去や現在、未来の希望などが語られていたはずなのに・・・。その死は一瞬にして訪れてしまう。
あーあ。何という刹那。こういうストーリーが次々と展開されていく。
それでも、私は本作を読み進む手を止められない。なんていうか、圧倒的な物語である。紹介文で触れている「DOG」なる団体。そして、その主宰である博士と象徴的な「ある存在」。
彼らの主張は理解できる。理解できるのだが、それは酷すぎるだろ!という読者の願いも空しく殺戮劇は続けられるのだ。

本作を分類するなら、「アニマル・パニック」なんだろうか? 過去に読んだ西村寿行のネズミやバッタの大発生による阿鼻叫喚を描いた作品などが想起されるんだけど、本作は単なるパニックものではない。
そこに作者の思想が見え隠れしている。それをどう受け取るのかは読者次第。単なるエンタメ小説として理解することも可能だろう。
私は?って、うーmm。
けっこうキツい読書にはなった。「そうならないでくれ!」と願いながら、ページをめくる手が止まらない感覚。
そこは特殊設定ミステリなどでは決して味わえない、なんというか、「生々しい」感覚さえ味あわせてくれた。

No.1870 6点 シャドウ・ストーカー- ジェフリー・ディーヴァー 2025/11/23 12:49
キャサリン・ダンスシリーズの長編三作目。
間違えて四作目の「煽動者」を先に読んでしまったため、元に戻ることに・・・
単行本は2013年の発表。

~キャサリン・ダンスの友人で人気歌手、ケイリーはストーカーに悩まされていた。メールアドレスを変えても頻々とメールを送りつける男エドウィン。彼が数日後のコンサートに現れるという。ダンスが事態の対応に乗り出した矢先、ケイリーの側近が殺害された……。いかなる嘘も見抜く《人間嘘発見器》キャサリン・ダンス第3作!~

本作のテーマは、タイトルのとおり「ストーカー」である。発表年の2013年頃というと、ちょうどストーカーという言葉が話題になっていた時代背景だったんだろうと思う(多分)。
長い髪がチャームポイントの人気女性ボーカリストを付け狙うストーカーVSキャサリン・ダンス。
で、この「ストーカー」がかなりのクセ者。なにしろダンスのキネティクスがほぼ無効化されてしまう・・・

ただし、前半から犯人はほぼ一択で進んでいくので、「そりゃディーヴァーですから、最終的には予想外の大物の巨悪が明るみに出るんでしょー」と思うわけです。
で、やはりいました! 「いかにも」影の真犯人っぽい奴が。
「やっぱりな!」と思ったものの、いや! 「残りのページがありすぎるぞ!」と感じるわけです。
今回はここからが真骨頂。
何回か捻ってきます。で、最終的に判明する真相は、「裏の裏」か「裏の裏の裏」か、はたまた「裏の裏の、裏の裏」か? もはや何が裏なのか?っていう感じです。
こういうプロットだからこそのこの分厚さ。

でも今回はさすがに捻りすぎの印象。ダンスシリーズの「うり」であるキネティクスも不発なので、どうも締まりがないように思える。ただし、ネタのぶち込み具合はスゴイ。
いったいどれだけのネタを仕込んでいるのか? そのすべてを消化して訪れる最終結末。
なんていうか、そこは「さすが」のひとこと。エネルギッシュな作品なのは確かだ。

さらに、今回はリンカーン・ライムとアメリアまでがカメオ出演。ライムはライムらしく、アメリアはアメリアらしく登場して退場していった。
評価はシリーズ他作品との比較にどうしてもなってしまう。だから、こんなもんかな。
まあ水準は容易にクリアしてるけどね。

No.1869 6点 審議官 隠蔽捜査9.5- 今野敏 2025/11/23 12:48
「隠蔽捜査」シリーズ恒例となったスピンオフ作品。題して「隠蔽捜査9.5」。
今回も竜崎伸也という存在に大きく影響を受けた脇役たちが活躍する作品集となっています。
単行本は2023年の発表。

①「空席」=竜崎の前任地となった大森署の「狼狽」を描いた第一編。とにかく竜崎という類まれな上司に決めてもらいたい、という小市民の副署長以下の幹部たち。さんざん迷ったくせに、竜崎に相談した後はアッという間に解決。
②「内助」=本編は竜崎の細君である「竜崎冴子」が主役。普段は、まさに「内助の功」の役割を全うしている冴子が、ある放火事件に違和感を感じて、自らが推理を巡らす。普通なら「部外者は引っ込んでろ!」と言いそうなものだが、竜崎は違った・・・
③「荷物」=竜崎の長男・邦彦が主役。邦彦といえば、シリーズ第一作で竜崎が左遷されることとなるきっかけを作った張本人。ということで、二度と父親に迷惑をかけてはならないという感情が邪魔してしまう。
④「選択」=今度は長女の美紀が主役(美紀のほうが邦彦の姉。念の為)。大手広告代理店で多忙な日々をおくる美紀が、大事なプレゼンの日に通勤電車の中で痴漢を捕まえたことから事件は起こる。セクハラ上司やしつこい刑事に悩まされるなか、それでも助けてくれる人はいた。もちろんひとりは竜崎なのだが・・・
⑤「専門官」=今度は現任地である神奈川県警が舞台。キャリア上司を嫌う、たたき上げのノンキャリア・矢坂が一方の主役。今まで散々キャリア上司を嫌ってきた矢坂も、竜崎の人間性の前に陥落。
⑥「参事官」=神奈川県警にいるふたりの参事官。ひとりはキャリアでひとりはノンキャリア。ふたりは大変仲が悪いという・・・。その問題を解決しろと上司である本部長から命じられた竜崎。いろいろ策を練った結果、ふたりは「仲がよい」という結論になる? まあふたりとも大人だからね。
⑦「審議官」=本編は前作「探花」の後日談的一遍。「探花」で米軍の捜査官を警視庁管内で捜査させたことを今さら問題視する嫌ーな上司が登場。それが長瀬「審議官」。ただ、これも竜崎の前に陥落。
⑧「非違」=竜崎の後任の大森署長は、なんと「超美人」の女性キャリア。竜崎の大森署時代の天敵的存在だった野間崎管理官が足しげく大森署に来るようになった訳は当然・・・。
⑨「信号」=神奈川県警のキャリアたちの飲み会。題して「キャリア会」。そのままじゃねえか!

以上9編。
もう、安定してます。素直に面白いです。特に竜崎の家族を主役に据えた②から④が良かった。
ただ、これは以前から書いてますが、竜崎をあまりにも神格化しないで欲しい。たまには弱い部分とか、ピンチシーンももっと盛り込まないと、そろそろ(もう?)飽きがこないとも限りませんよ。
なーんてことは、作者なら十分承知してるんでしょうけどね。こういうスピンオフも大歓迎。

No.1868 7点 バートラム・ホテルにて- アガサ・クリスティー 2025/11/03 11:20
ミス・マープル探偵譚の第十作目に当たる長編。
本作はいつものシリーズ作品とは少し異なるプロットで、実質の探偵役はスコットランドヤードのデイビー主任警部が務めている。
1965年の発表。

~古きエドワード王朝時代の風格を持つロンドンのバートラム・ホテル。ミス・マープルは50数年ぶりに訪れたこのホテルが昔と何も変わっていないことに驚く。そこの宿泊人の一人にイギリスで知らない人はいないと言われる女性冒険家がいた。そして謎の少女。一見平和に見えるこのホテルで一人の牧師が失踪した。それと平行して起きる列車強奪事件。絡み合った糸はほつれて....~

そうか。他の皆さんの評価は思ったより辛いんだねえ・・・
個人的にはすごく面白いと思った。特に前半から中盤。古き良き英国の香りを醸し出す「バートラム・ホテル」。従業員は洗練されたサービスを行い、宿泊客は昨今のうるさいインバウンド・・・ではなく、ホテルに似合う申し分のない客層。
しかし、どこか違和感がある。どこかがおかしい・・・
いったい何がおかしいのか? そして、同時進行で起こっているらしい大規模犯罪。それを匂わす警察首脳陣の会話・・・

そう、何とも「思わせぶり」に進行していくのだ。
こういうプロット。数多のミステリ作家が思いつくのだろうが、うまく料理するのは難しいプロットだと思う。
風呂敷を広げすぎてもいけない、龍頭蛇尾になってもいけない、うまい具合の落としどころが求めらそう。

で、先に「前半から中盤まで」といったのはまさにそういうことで、ここまでで個人的な期待はかなり膨らんだわけだ。相当にスケールの大きな話なんだろうなあと・・・。
で、その期待に比べると、どうしてもこの真相はスケールダウン感は否めないかな。
問題の「真犯人」についても、もうひとつの犯罪はともかく、殺人事件の方は・・・うーん。「隠された動機」については、いかにもクリスティという感じはするけど、どうもねぇ
ただ、こういう結末が用意されているからこそのミス・マープルなのかなとは思った。確かに、殺人事件以外の部分(バートラムホテルの謎など)はむしろポワロの方が食い合わせがいいと思うもんな。

ただ、いつものマープルものの田園ミステリもいいんだけど、新鮮味と合わせて個人的には良作と思えた。
クリスティもかなり読了したけれど、やはりスゴイ作家だ。今回も「おっ!」と思わせられたんだから・・・これほどマンネリと程遠い作家はふたりとないと感じる。
(やっぱり、キレイな子は自分がキレイで魅力的ということを十分理解して行動するんだよなあ・・・。今さら確信)

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E-BANKERさん
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