皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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E-BANKERさん |
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| 平均点: 6.00点 | 書評数: 1868件 |
| No.1868 | 7点 | バートラム・ホテルにて- アガサ・クリスティー | 2025/11/03 11:20 |
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| ミス・マープル探偵譚の第十作目に当たる長編。
本作はいつものシリーズ作品とは少し異なるプロットで、実質の探偵役はスコットランドヤードのデイビー主任警部が務めている。 1965年の発表。 ~古きエドワード王朝時代の風格を持つロンドンのバートラム・ホテル。ミス・マープルは50数年ぶりに訪れたこのホテルが昔と何も変わっていないことに驚く。そこの宿泊人の一人にイギリスで知らない人はいないと言われる女性冒険家がいた。そして謎の少女。一見平和に見えるこのホテルで一人の牧師が失踪した。それと平行して起きる列車強奪事件。絡み合った糸はほつれて....~ そうか。他の皆さんの評価は思ったより辛いんだねえ・・・ 個人的にはすごく面白いと思った。特に前半から中盤。古き良き英国の香りを醸し出す「バートラム・ホテル」。従業員は洗練されたサービスを行い、宿泊客は昨今のうるさいインバウンド・・・ではなく、ホテルに似合う申し分のない客層。 しかし、どこか違和感がある。どこかがおかしい・・・ いったい何がおかしいのか? そして、同時進行で起こっているらしい大規模犯罪。それを匂わす警察首脳陣の会話・・・ そう、何とも「思わせぶり」に進行していくのだ。 こういうプロット。数多のミステリ作家が思いつくのだろうが、うまく料理するのは難しいプロットだと思う。 風呂敷を広げすぎてもいけない、龍頭蛇尾になってもいけない、うまい具合の落としどころが求めらそう。 で、先に「前半から中盤まで」といったのはまさにそういうことで、ここまでで個人的な期待はかなり膨らんだわけだ。相当にスケールの大きな話なんだろうなあと・・・。 で、その期待に比べると、どうしてもこの真相はスケールダウン感は否めないかな。 問題の「真犯人」についても、もうひとつの犯罪はともかく、殺人事件の方は・・・うーん。「隠された動機」については、いかにもクリスティという感じはするけど、どうもねぇ ただ、こういう結末が用意されているからこそのミス・マープルなのかなとは思った。確かに、殺人事件以外の部分(バートラムホテルの謎など)はむしろポワロの方が食い合わせがいいと思うもんな。 ただ、いつものマープルものの田園ミステリもいいんだけど、新鮮味と合わせて個人的には良作と思えた。 クリスティもかなり読了したけれど、やはりスゴイ作家だ。今回も「おっ!」と思わせられたんだから・・・これほどマンネリと程遠い作家はふたりとないと感じる。 (やっぱり、キレイな子は自分がキレイで魅力的ということを十分理解して行動するんだよなあ・・・。今さら確信) |
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| No.1867 | 5点 | 時が見下ろす町- 長岡弘樹 | 2025/11/03 11:18 |
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| 「小説NON」誌に断続的に発表された作品をまとめた連作短編集。
「短編集」といえば作者、くらい現代短編集界隈では第一人者(?)のように思える 単行本は2016年の発表。 ①「白い修道士」=“モンクス・フード”(=白い修道士)は日本風にいえば「トリカブト」。ということで、まあ「毒殺」である。プロットの中心は祖母と孫娘の会話なのだが、どうも分かりにくい。 ②「暗い融合」=本当に暗い話だ。でも、わざわざそのために、そんなことまでするかな?という疑問は当然起こる。 ③「歪んだ走姿」=これもそう。ここまで偶然が続くとご都合主義がすぎるし、ここまでやるかなあー?という感は拭えない。ここまで読むと、ああ①から③まで緩~くつながってるんだなということが分かる。 ④「苦い確率」=ギャンブルに勝つ方法。確かに、それはまあそうだろう。でも、それをこんな形で実践しなくても・・・という奴が登場。それに巻き込まれた三人の男はたまらない。 ⑤「撫子の予言」=いるんだろうね。実際。こういう「並び数字のマニア」って。マニアの心は常人には分らんけど、それを分かって罠をはる女性が妻なんて・・・ある意味コワッ! ⑥「翳った指先」=いい人に見えたんだけどなあーあの人物。それがまさか〇〇とは・・・。今どき、紙幣をカラーコピーしたら犯罪ということを知らないなんて、中学生とはいえ現実感が薄い。 ⑦「刃の行方」=最初よく分からなかった。連作中の立ち位置も不明な第七編。 ⑧「交点の香り」=空き巣に入られた女性が部屋でバッタリと遭遇。この女性は全盲で犯人の姿は見えないはず・・・だった。実は全盲は女性の嘘。で、どうなる? ただ、障害年金の申請には診断書が必要だから、医者もグルじゃないと虚偽申請できないと思うんだけど・・・ 以上8編。 ①から⑧まで、どこかの主人公がどこかに端役で登場するなど、緩く世界観を共有する連作集。 こういうプロットはたまにあるけど、本作はそこになにか仕掛けがしてあるというわけではない。(そこに期待してしまった) 他の方も書かれてますが、「そんなことでそこまでするかな?」といった、ちょっと腑に落ちない感覚は確かに分かる。 短編の場合、どうしても登場人物が限られるので、その少ない人物に役目を割り振らざるを得なくなる。そこに「仕掛け」「トリック」を咬ませると、どうしても無理が生じてしまう場合がある。きっとそういうことなんだろうと思う。 やっぱり短編は「切れ味」が一番大事。最後に「オッ!」や「エッ!」と思わせることができれば概ね成功なんだろう。 本作は・・・そこまでではないな。 |
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| No.1866 | 5点 | 双蛇密室- 早坂吝 | 2025/11/03 11:17 |
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| “援交探偵”上木らいちシリーズの長編四作目。
らいちの相棒?藍川刑事の出自、出生の秘密にまつわる謎が今回のテーマ。しかも「密室」、そして「ヘビ」である。 ノベルズ版は2017年の発表。 ~「援交探偵」上木らいちの「お客様」藍川刑事は「二匹の蛇」の夢を物心付いた時から見続けていた。一歳の頃、自宅で二匹の蛇に襲われたのが由来のようだと藍川が話したところ、らいちにそのエピソードの矛盾点を指摘される。両親が何かを隠している?意を決して実家に向かった藍川は、両親から蛇にまつわる二つの密室事件を告白された。それが「蛇の夢」へと繋がるのか。らいちも怯む(!?)驚天動地の真相とは?~ うーーん。この密室トリックって、どうなの? 蛇にまつわる密室といえば、オールドファンにとっては当然、かの「まだらの紐」が思い出されるだろう。 「まだら・・・」の場合も、「あんなところでヘビ飼ったら窒息して死ぬだろ!」など、トンデモミステリ的な側面が結構ある(時代性もあるけどね)。 本作の場合も、こりゃかなりの”トンデモミステリ”となった。 特にふたつめの密室トリック。これは・・・島荘もビックリだ。これを「奇想」と呼ばずして何を奇想と呼ぶのか? その光景を想像するだけで、怖いというより笑ってしまいそう。 で、問題はひとつめの密室トリック。 これもまあかなりの「奇想」。化学的いや医学的にこれはあり得るのだろうか? これをアノ行為の最中に思い付いたらいちって一体・・・ 今まで出会ったことのないトリックなのは確かではある。(トリックではないな。いわゆる「偶然の連続」っていうやつか) そもそも毒蛇を自由に操ることができる女性がすぐ隣に住んでいること自体、異常な環境である。 うん。アイデアは面白いんだけどね。全体的に雑だよね・・・ それも作者の狙いなのかもしれんけど、ちょっと「やっつけ感」もあると思う。 とにかくこんなトリック思いつきましたので、っていう大学のサークル的なノリっていうか・・・ だから、どうしても読み物としての高い評価はできないな。 (やっぱり、あれは奥に届くくらい長い方が良いのだろうか・・・) |
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| No.1865 | 6点 | 金時計- ポール・アルテ | 2025/10/26 12:32 |
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| 名探偵オーウェン・バーンズシリーズの長編作品。
翻訳者解説によれば、本作は本国以外の翻訳版が先に発表された珍しいケースとのこと。へぇー・・・ 2019年の発表。短編「斧」も併録。 ①「金時計」=~1911年の冬――霧深い森にそびえる山荘「レヴン・ロッジ」。貿易会社の辣腕社長ヴィクトリアが招いたのは、いずれも一癖も二癖もある男女。ヴィクトリアの弟・ダレン、アーティストから転身した副社長アンドリュー・ヨハンソン夫妻、アンドリューの秘書のシェリル。アンドリューはシェリルとの浮気に溺れ、妻のアリスはとうにそれに気づいている。ダレンは金と女にだらしない男で、山荘で出会ったシェリルにも気がある様子……そんな顔ぶれが揃った朝、森の中で死体が発見される。現場は完全な「雪の密室」だった。 1991年の初夏――劇作家アンドレは、子供の頃に観たサスペンス映画を探していた。スランプに陥っていたアンドレは妻のセリアの助言もあって、自身の創作の原点といえるほどの影響を受けながら、タイトルすら忘れてしまったその映画にもう一度向き合おうとしたのだ。隣人の勧めで、アンドレは映画マニアの哲学者モローを訪ね、彼の精神分析を通じて少年時代に立ち返っていく……~ 本作を語るうえで外せないのは、まずは「雪密室」のトリックである。 このトリックの解法が説明されるのは、本当の最終盤。これは作者の狙いとしか思えない。 で、そのトリックなのだが・・・「良い」! ただ、気になるのは、これっていわば「錯誤」を使ったトリックだと思うのだが、この「錯誤」はかなりリスキー。 普通は無理筋と一笑に付されてもやむないレベル。 オーウェン・バーンズもそこのところは理解していて、アレコレと補強はしているのだが、人間の感覚としての違和感は拭えない。 でもまあー、それを言っちゃあおしまい。 個人的には「面白い」と思った。特に、昨今の「雪密室」トリックで頻出するあのトリックの応用版とも言える今回のトリック。 確かに「足跡」についてはそう解釈できるよねー(いや、リアリティは横に置いといてだよ) そしてもう一つ、重要なプロットとなっているのが、二つの年代を行き来しながらストーリーが進んでいくところ。 当然クロスしてくる。 1911年は、先に触れた雪密室が関わり、オーウェン・バーンズが登場するパート。一方、1981年は、自分が幼いころに見たはずの「映画探し」を軸に展開。 二つのストーリーが徐々に同じような方向に向かっていき・・・というようなストーリーライン。仕掛け、結末については、まあそれほど「ビックリ!」ではないし、どうもモゾモゾしたなという感覚が強い。 全体としては、評価はそれほど高くはならないけど、アルテにしては割ときれいにまとめたなという気にはなった。(全体的にですよ) ②「斧」=本当に短い短編。でもこれがなかなか。本格ミステリに必要なエッセンスだけに絞りました!と言わんばかり。もちろん不満な部分も結構あるけれど、結局はミステリってこういうものでは?という新鮮な感覚。 |
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| No.1864 | 4点 | 絞首商會 - 夕木春央 | 2025/10/26 12:31 |
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| 第60回メフィスト賞受賞作にして、作者のデビュー長編。
「方舟」で大ブレイクを果たす「前夜」ということになるのだが、その後に続くシリーズの第一作という立ち位置でもある。 単行本は2019年の発表。 ~謎が謎を呼ぶ怪死事件。元泥棒が導く真相に瞠目せよ。和洋入り交じる大正の東京。秘密結社「絞首商會」との関わりが囁かれる血液学研究の大家・村上博士が刺殺された。不可解な点は3つ。遺体が移動させられていたこと、鞄の内側がべっとり血に濡れていたこと、そして、遺族が解決を依頼したのが以前村上邸に盗みに入った元泥棒だったこと――。 頭脳明晰にして見目麗しく、厭世家の元泥棒・蓮野が見つけた四人の容疑者の共通点は、“事件解決に熱心過ぎる”ことだった・・・~ どうしても「方舟」の余韻が残ってしまって、“あの”風味や出来栄えを期待してしまう。 そういう読者にとっては、きっと「物足りない」という感想になると思う。かく言う私もそう。 正直なところ、「比べるべくもない」というレベル。 でもまあ、デビュー作である。 ハードルを勝手に上げすぎたこっちが悪いのかもしれない。 本作のメインテーマとなるのは、フーダニットよりも「四人の容疑者がなぜこんなにも事件の解決に熱心なのか/真犯人を知りたがるのか」という謎。 で、確かにこの真相は納得する形で解決が成される。そして、それに付随するように真犯人も明らかとなる、という仕組み。 これ自体は良いし、プロットとしても面白く感じた。 ただ、それ以外の筋立てというかストーリー部分に面白みがなさすぎる。中盤の展開も、動機部分の肉付けもあるのだろうけど、関係ない脇筋が多くてダレる。「もういいや」っていう感覚になってしまう。 やっぱりミステリといったって「読み物」だからね。ストーリーそのものにも魅力がないと評価は下がってしまう。 本作はシリーズ物にもなったようだし、次作に期待というところ。 |
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| No.1863 | 6点 | 密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック - 鴨崎暖炉 | 2025/10/26 12:30 |
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| 処女作「密室黄金時代の殺人~雪の館と六つのトリック」に続く第二弾長編。
またしても「密室」、密室、はたまた「密室」である。ここまで拘りを持つ作家も珍しいのではないか? 今回はいったいどんなトリックが待ち受けているのか? 期待大。2022年の発表。 ~日本有数の富豪にしてミステリーマニア・大富ケ原蒼大依が開催する、孤島での『密室トリックゲーム』に招待された高校生の葛白香澄は、変人揃いの参加者たちともに本物の密室殺人事件に巻き込まれてしまう。そこには偶然、密室黄金時代の端緒を開いた事件の被告と、元裁判官も居合わせていた。果たして彼らは、繰り返される不可能犯罪の謎を解き明かし、生きて島を出ることができるのか!?~ スゴイ! ある意味ふたつとないスゴイ作品だ。 前作はサブタイトルどおり「六つの密室」だが、今回は「七つの密室」が登場する。合わせて“13”である! ただただ、スゲエー! 第5章の「メイントリックの解明」で説明される密室トリックからいってみようか・・・ 「カードキーの密室」・・・バカミストリックである。ただ、所詮カードキーなんてこんなもんだろうなという気はする。 「十字架の塔の密室」・・・スケールでいえば、史上最大規模の密室かも。とにかく「豪快」のひとこと。リアリティなんてくそくらえだ!と言わんばかりだ。でも「音」はスゴイと思うのだが・・・ 次に「首切り密室」の強引さもかなり。物理的トリックなのだが、これは本当に「物理的」に正しいのか? で、これもかなりの「大音響」だと思うし、絶対に跡は残る。 意外に感心したのは、「蝶番の密室」。捨てトリックが否定されたところで、アレが使われるとは・・・(東野圭吾のアレと被るね)。 全部触れるのは尺的に無理なのだが、まあよくここまで考えたな、というのが素直な感想。 「密室愛」というよりは、サブタイトルどおり、「密室狂乱」または「密室偏愛」だ。 あとのギミックは、もはやこじつけというか、付け足しである。ただ、付け足しすぎて、もはや素材を大量にぶちこんだ訳のわからないカオス料理になっている。 終章で判明する「叙述系トリック」とやらもなあー。作者としては、伏線をうまく仕掛けたのかもしれんが、いまさら・・・ これはもう、密室好きの密室好きのためのコアファン向けのミステリ。それ以外の方が読むと、強度のバカミスという評価以外あり得なくなる。 私は?って・・・もちろん、好きですよ。えぇ、好きなものは仕方ないじゃないですか(と開き直る)。 ただ、最近特殊設定ミステリの割合が増えすぎて、なにか「乾いた読書」になっている。たまには「ウェットな」或いは「熱い」作品も読まないと、心がカラカラになりそうな気がする。(訳の分からん表現ですが・・・) |
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| No.1862 | 10点 | 名探偵に甘美なる死を- 方丈貴恵 | 2025/10/11 12:30 |
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| 「時空旅行者の砂時計」「孤島の来訪者」に続く、「竜泉家シリーズ」の掉尾を飾る?三作目。
私としては、異例の早さでシリーズものを読み切ることになりました(たった三作ですが)。 単行本は2022年の発表。 ~「犯人役を演じてもらいたい」と世界有数のゲーム会社・メガロドンソフトからの依頼で、VRミステリゲームのイベント監修を請け負った加茂冬馬。会場であるメガロドン荘に集ったのは『素人探偵』8名、その中には「幽世島」の事件に関わった竜泉佑樹もいた。だがイベントは、探偵と人質にされたその家族や恋人の命を賭けた殺戮ゲームへ変貌を遂げる。大切な人と自身の命を守るには、VR空間と現実の両方で起きる殺人事件を解明するしかない! 次々と繰り出されるトリックと鮮やかなロジックが圧倒の、『時空旅行者の砂時計』『孤島の来訪者』に連なる〈竜泉家の一族〉三部作~ 本作の評点は「10点」か「1点」の二択。読了後そう感じた。 「1点」の理由→とにかく複雑すぎる! 前二作では「タイムトラベルと旧家のドロドロ連続殺人」「マレヒトという異形の存在と絶海の孤島の連続殺人」といういずれも「新しさ」と「古さ」を並立させてきた作者。今回は、「VR空間・アバター」と「館もの」という「新しさ」と「古さ」のふたつを出してきた。 で、問題はVR空間とアバターを使った各種トリック。リアルとVRを行き来するところにトリックが仕掛けらているわけだけど、読み手の私はもう、頭の中がゴチャゴチャ。探偵役の加茂の説明を聞いても、「エッ?、エッ?」と何度思ったことか・・・ 特殊設定、ここに極まれりという状況の中で、あまり信憑性とかアラ探しをしても意味はないのかもしれないけれど、コレを完璧に理解しようと思うと、多大なる労力と時間を要すると思われる。 作者の作品に対しては、これまで何回も「伏線の分かりやすさ」に言及してきたけれど、本作の場合、もはや伏線なんていったいいくら仕掛けられているのか想像もつかない。果たして、破綻なく伏線は回収されているのだろうか? というように、もしミステリ初心者の方が本作を読んだら、「もう二度と読まない」なんていうアレルギーすら起こしかねないレベルだ。 「10点」の理由→これはもう、「複雑すぎる」とか「理解不能の動機」などという読者の矮小な批判を超えたレベルの作品、という判断。 こんな設定、プロット、トリック、その他モロモロ・・・よく考えたよなあー もはや神レベルである。組み上げた複雑さは史上最高レベルのミステリだろうと思う(個人的感想ですが) しかも「三部作」。エピローグには三部作のラストに相応しいラストも用意されている。 いやいや・・・もう脱帽。他のミステリ作家ならどう感じるのだろう? 羨望なのか罵倒なのか、無視なのか・・・ もしも。もしも私がミステリ作家なら、あまりのレベチに「放心」・・・のように思える。 ということで、多少迷いましたが、超久々に「10点」です。これは本作単体というよりシリーズ三作まとめてということと、作者への敬意を表してという意味で。 ミステリは方向性はともかく、やはり「驚き」は必要なのだと再認識しました。 |
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| No.1861 | 5点 | 緋色の十字章 (警察署長ブルーノ)- マーティン・ウォーカー | 2025/10/11 12:28 |
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| またまた作者の初読みである(最近割と多いな)。
舞台はフランスの田舎町。主役はそこの田舎警察の署長。つまり、普段は平和に慣れ切ってる街で起こる事件・・・である。 2008年の発表。 ~名物はフォアグラ、トリュフ、胡桃。風光明媚なフランスの小村で、のどかな村を揺るがす大事件が発生する。戦功十字章を授与された英雄である老人が、腹部を裂かれ、胸にナチスの鉤十字を刻まれて殺害されたのだ。村でただひとりの警官にして警察署長のブルーノは、平穏な村を取り戻すべく初めての殺人事件の捜査に挑む。英国のベテランジャーナリストが描く清新な警察ミステリ~ "緋色の”っていうと、どうしても「緋色の研究」を思い出してしまう。ただ、まったく関係なかったな・・・ 本作は、実に「生真面目な」警察小説だった。警察小説といっても、舞台はフランス南部の超田舎町。警察署長といっても、他に部下署員はひとりもいない! まさに”ワンオペ”! なので、捜査の過程で刑事たちが互いの主張をぶつけ合う・・・なんてことも起きない。 パリからやってきた、いけ好かない「エリート検事」との軋轢なんてのはありますが。 ストーリーの軸は、「被害者がなぜナチスドイツを想起させる鉤十字の印を付けて殺害されたのか?」という点。 そこに現代フランスが抱えている社会問題が関係してくる。 社会問題とは、「移民問題」である。日本でも最近外国人問題が急浮上している気がするけれど、ヨーロッパではとっくの昔からこの問題が大きく横たわっている。 元新聞記者の作者ということらしく、社会派的なプロットということなんだろうけど、そこまで暗くジメジメしてないので、そこはご安心を。 それよりも、フランス南部の美しい自然や、旨そうな料理の数々、といった描写が多く、そこに警察署長=ブルーノのラブロマンスも関わってくる・・・ 事件の真相は・・・読者が推理できるようなものではないし、解決の方法(解決してるのか?)も含めて拍子抜けの感はあるけれど、まあこれはこれでクドクド不満を述べないことにする。 ミステリ、警察小説などと肩肘張らず、半分旅行案内書的に気楽に読むほうがよい。(じゃあ、トラベル・ミステリ?) シリーズは他に2作あるとのことだけど、うーん。読むかな? そこは微妙。 |
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| No.1860 | 6点 | 午後のチャイムが鳴るまでは- 阿津川辰海 | 2025/10/11 12:26 |
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| 「学園ミステリ」である。へえー、作者ってこんな軽~いミステリも書くんだね・・・
ってな具合に手に取った本作。架空の高校(当たり前だが)「九十九ケ丘高校」を舞台とする連作短編集。 単行本は2023年の発表。 ①「RUN!ラーメンRUN」=どうしても昼休みに豚骨ラーメン、いや醤油とんこつラーメンを食べたいふたりの高校生の物語。そう、連作の最初はこんなお話で始まる・・・ ②「いつになったら入稿完了?」=お次は文化祭前の文芸部のお話。意外にも、チェスタトンのあの有名作品、有名トリックが引用されます。うーーん。 ③「賭博士は恋に舞う」=これは力作だ! すごい! でも正直言って頭が付いていかなかった。何の話かって? 「消しゴムポーカー」ですよ! まさかこんなに頭を使い、神経戦が展開されるとは・・・。麻雀も顔負け。正式なゲームにならないのか? ④「占いの館へおいで」=教室の前で何気なく聞いたある不思議な言葉(フレーズ)。それがどういう意味なのかを三人の女子高生が推理していく。名作「九マイルは遠すぎる」のオマージュ的作品。結局答えは何でもアリなのだが・・・ ⑤「過去からの挑戦状」=本編のみ書き下ろし。で、連作の最終話だから、当然にこれまでの伏線が回収される仕組み。とともに、アノ人物の「若気の至り」までもが明らかにされる。人間消失のトリックは付け足しのようなものだな。 以上5編。 阿津川辰海。1994年生まれ。現在(恐らく)29歳。まだまだお若い。 40や50歳を超えるオッサンが学園ミステリなんて書くと「よく書けるよなあー」などと感じてしまうのだが、まあ許せる範囲。 で、本筋の評価は? --よくできているんじゃないですかね。 最終話の仕掛けなんて、最初から考えていたんだろうか? 成り行き? まっ、でも戻れるものなら戻りたい。あの日々に・・・ と思わずにはいられませんね。 |
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| No.1859 | 5点 | 8つの完璧な殺人- ピーター・スワンソン | 2025/09/15 13:29 |
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| 作者の初読みである。ほかの方もそうかもしれないが、タイトルに惹かれてつい手に取ってしまった作品。
作者六作目の長編に当たる作品(当たってますか?) 2020年の発表。 ~ミステリー専門書店の店主マルコムのもとに、FBI捜査官が訪れる。マルコムは10年前、犯罪小説史上もっとも利口で、もっとも巧妙で、もっとも成功確実な“完璧な殺人”が登場する8作を選んで、店のブログにリストを掲載した。『赤い館の秘密』、『ABC殺人事件』、『見知らぬ乗客』……。捜査官によると、それら8つの作品の手口に似た殺人事件が続いているという。犯人は彼のリストに従っているのか? ミステリーへの愛がふんだんに込められた、謎と企みに満ちた傑作!~ 「赤い館の秘密」「ABC殺人事件」「殺意」「見知らぬ乗客」「アクロイド殺し」の5つは読了している。 「殺人保険」「死の罠」「シークレット・ヒストリー」の3つは未読。以上終了! ・・・って、そんな訳にはいかないか・・・ 個人的に期待していた方向ではなかったなと。まあ、それは大方予想していたことではあったのだが。 いま現在の海外本格ミステリというのは、こういう作風、こういうプロットがメインなのだろうか? ホロヴィッツなんかを読んでいると、それなりにフーダニットの興趣も大事にしているんだなあーという感想を持つのだけど、本作の場合はちょっとねぇ。 確かに、最終盤に判明する真犯人については、正直ビックリした。なんていうか、斜め45度からヤラレタというような感覚。 ただ、これは相当に唐突だし、ロジックも何もなく、無理矢理。ご都合主義と評されてもやむなし、である。 本作がロジック云々に重きを置いてないのは明らかだし、これは主人公の一人称で書かれているところに「欺瞞」が仕掛けられているタイプか?と推察したものの、最後まではっきりした表現。明確な回答は出ないまま終了。 読者としては、もやもやしたまま。消化不良、煮え切らないという結論になる。 で、結局のところ、作者のひとり遊びに付き合わされた感が強くなる。それにしては分量もそこそこ多いしな。 まあ本作だけで作者を評価するのもどうかと思うので、機会があれば他の作品も読んでみようかな・・・ あっ! あと↑上記作品のネタバレにはご注意ください。 |
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| No.1858 | 6点 | 鸚鵡楼の惨劇- 真梨幸子 | 2025/09/15 13:26 |
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| 時々なぜか無性に読みたくなる。そんな作家が真梨幸子。なぜだろう?
まっ、理由は置いといて、作者の長編は久々のような気がする・・・ 単行本は2013年の発表。 ~1962年、西新宿・十ニ社の花街にある洋館「鸚鵡楼」で殺人事件が発生する。表向きは""料亭""となっているこの店では、いかがわしい商売が行われていた。時は流れ、バブル期の1991年。鸚鵡楼の跡地に建った超高級マンション「ベルヴェデーレ・パロット」で、人気エッセイストの蜂塚沙保里は誰もが羨むセレブライフを送っていた。しかし、彼女はある恐怖にとらわれている。「私の息子は犯罪者になるに違いない」――2013年まで半世紀にわたり、西新宿で繰り返し起きる忌まわしき事件。パズルのピースがはまるように、絡まり合うすべての謎が解けた瞬間、経験したことのない驚愕と恐怖に襲われる。中毒度200%!! ~ やはり、見事なリーダビリティだった。最近ではあまり経験しなくなっていた「ページをめくる手が止まらない」という感覚を久しぶりに味わった感じだ。 物語は終始”不穏な”空気に包まれたまま進行する。1962年、1991年、2006年と時代をまたがり事件が発生。2013年になってようやく解決を見ることとなる。 いずれの事件にも見え隠れする男。流行エッセイストという華々しいキャリアを持ちながら、かつて犯罪者を愛し、自身の子を愛するどころか恐れている女。世話好きなのに単調な仕事に頭を悩ませ続ける義妹・・・etr 登場する人物は、ひとりとしてまともではなく、どこかがねじ曲がっている。こういうのを「イヤミス」と呼ぶのかもしれないけど、物語がいったいどこへ向かうのか、全く読めない展開だった。 そして最後は解決編となるのだけれど、これはいささか帳尻合わせのようなものにはなっている。 置いてけぼりにされていた1962年の事件の伏線まで回収され、作者のミステリ作家としての矜持は感じるのだけど・・・ ここはちょっとマイナスポイントかな。 ただ、ひとことで言うなら「面白かった」作品。こんなに早く読了したのはホント久しぶり(2~3時間でほぼ一気読み)。 オリジナリティという面ではどうか?と思わんでもないけれど、いつも一定水準以上の満足感を覚えさせてくれる。 やはり、これからも時々「無性に」読みたくなる・・・に違いない。 (十二社ってそんな街だったんだね・・・初めて知った) |
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| No.1857 | 5点 | アミュレット・ホテル- 方丈貴恵 | 2025/09/15 13:22 |
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| 今、現在進行形で作者の「竜泉家シリーズ三部作」を読んでいる”さなか”、なのだが、箸休め(?)として初の連作短編集となる本作を手に取ってしまった。
”犯罪者御用達のホテル”という、またまた特殊設定下の作品なのかな? 単行本は2023年の発表。 ①「アミュレット・ホテル」=まさに「そのもの」のタイトルを冠した一作目。事件もアリバイ崩しがメインとなる正統派のミステリ。ただし、容疑者となる三人の男女は当然ながら「名うての」犯罪者。やはり、一筋縄ではいかない。探偵役となるのは、ホテル専属の探偵。名付けて「ホテル探偵」(・・・そのままだね)の桐生。核となるアリバイ崩しは、複数の仕掛けが絡まるややこしいアリバイ。 ②「クライム・オブザ・イヤーの殺人」=”エピソード0”というサブタイトルのついた本編。そう、桐生がホテル探偵になる前、〇〇者だった頃のお話。”クライム・オブザ・イヤー”とは、まさにその年の一番の犯罪者に対する表彰式。なのだが、その華々しい(?)場で毒殺事件が起きてしまう。問題となるのが、毒をいかにして被害者に与えたのか、になるのだが、その解法はなかなか斬新。ただし、これを不信感なく実行するのは相当な技術が必要って、アッ!犯罪者だらけだもんな・・・ ③「一見さんお断り」=犯罪者御用達のアミュレットホテル別館は、当然ながら「一見さんお断り」で、入館できるのは専用のVIPカードを持った人(犯罪者)だけ。ここが、今回の殺人事件において問題になってくる。真犯人は意外といえば意外だけど、うーん。影が薄すぎるしな・・・ ④「タイタンの殺人」=「ザ・セブン」と呼ばれる特別な犯罪者だけが集まる5年に一度の会議が「タイタン会議」。そして、そこでも殺人事件が発生してしまう。今回のテーマは、金属探知機で徹底的に金属類も持ち込みが排除されていた会場に、どうやって金属製のナイフが持ち込まれ、凶器となったのか? ただ、まさか、お〇〇のナイフなんていうのが出てくるとは・・・。そして、5年前にも起こっていた殺人事件との関連が焦点になってくる展開のなか、ややクドさが目立つようになってしまった印象。詰め込みすぎたのが原因なのかな? 以上4編。 作者といえば、どうしても「特殊設定ミステリ」というイメージになる。本作も「犯罪者御用達ホテル」という飛びっきりの「特殊設定」が用意されているようには見えるのだが、その実、薄皮を一枚はいだら、中身はごくノーマルなミステリだと思えた。 登場人物の大多数が犯罪者なのだが、それがトリックとダイレクトに関連するかというと、そこはそれほどでもなくて、まあ本質というよりは「装飾」の部分での「特殊設定」である(この辺りは、法月綸太郎の巻末解説でも触れられている)。 で、「面白い」か「面白くない」かというと、うーん。今回は奇をてらいすぎたかという感じが強い。 気になるのは、「時空旅行者・・・」のときにも書いた「伏線の分かりやすさ」。特に④ではそれが顕著。それだけで、何となく察せられてしまうのはマイナスかなと思う。この辺は、徐々に改善したらいいなと感じる。 引き続き、期待感は当然「大」なのだから。 |
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| No.1856 | 7点 | 極大射程- スティーヴン・ハンター | 2025/09/06 13:34 |
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| 前々から「いつ読もうか」と考えていた作品。
今回、ようやく手に取ることになった(まあ、偶然ですけど・・・) 文庫版で上下分冊の長尺。 1993年の発表。 ~ボブはヴェトナム戦争で87人の命を奪った伝説のスナイパー。今はライフルだけを友に隠遁生活を送る彼のもとに、ある依頼が舞い込んだ。精密加工を施した新開発の308口径弾を試射してもらいたいというのだ。弾薬への興味からボブはそれを引き受け、1,400ヤードという長距離狙撃を成功させた。だが、すべては謎の組織が周到に企て、ボブにある汚名をきせるための陰謀だった・・・~ 男の「汗」と「ロマン」。そして、「ガン」=「銃」、またまた「銃」・・・ひとことで言えば、そんなお話である。 物語は、ヴェトナムの英雄にしてライフルの達人、ボブ・ザ・ネイラーが敵の周到な策略に陥っていくところから始まる。 罠にはまった彼は、ついに、大観衆が見守るニューオーリンズの街中での大統領射殺事件の真犯人とされてしまう・・・はずだった。しかし、実際に射殺されたのはエルサルバドルの大司教。敵の策略の思うツボになったかに思えた。 窮地に陥ったボブは、ここから長く、苦しい復讐劇に身を投じることとなる。相棒役となるのは、同じく銃に纏わるミスがもとでFBIの閑職に追われた男、ニック。ふたりが偶然にも出会うとき、運命は回り始める。 といった感じで物語は進んでいくのだが、まあ手に汗握るシーンは多い。そして当然ピンチシーンもふんだんに用意されている。ただ、そのたびにボブは豊富な経験値と天性の鋭いカンで切り抜けていく。最大の敵を負かし、ついに救われたかという矢先、最大のピンチに襲われる。 「もう残りのページがないぞ! どうやって乗り切るんだ?」などという読者のあらぬ心配をよそに、最後のサプライズが用意されていた。 いやいや、もうハラハラさせられっぱなしである。こんな感じで、あまり筋道だった書評はせず、感情の赴くままに書いてみました。他の方も書いているとおり、ラストは勧善懲悪。爽快です。安心して読んでみてください。 (ニックはどこまでボブの策略を知っていたのかな? 情けない場面が多いから、すべてを知らされてなかったのか、知ってて演じていたのか? ここはどうもしっくりこなかった) |
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| No.1855 | 6点 | 刀と傘 明治京洛推理帖- 伊吹亜門 | 2025/09/06 13:31 |
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| 2015年、「監獄舎の殺人」で第12回ミステリーズ新人賞を受賞した作者(有栖川有栖の後輩だね)。
本作は、明治維新における英雄のひとりである肥前の江藤新平と、腹心にして微妙な関係となる鹿野師光を主役に据えた連作短編集。 単行本は2018年の発表。 ①「佐賀から来た男」=まずは江藤と鹿野の出会いが描かれる第一編。尊王攘夷論が勢力を増すなか、開国論者の仲間が惨殺される。仲間の中に犯人がいる?という疑惑が浮かぶなか、ふたりが辿り着いた真相とは? ②「弾正台切腹事件」=一応「密室」である。ただし、明治時代初めの設定だからね、そこはかなり緩~い密室なわけです。決して密室トリックというほどのものではありません。 ③「監獄舎の殺人」=やはりコレが一番の佳作だろう。逆説めいた真相が実に効いている。“殺さぬために殺した”・・・「これは如何に?」という謎。要は動機の問題なのだが。 ④「桜」=最初から犯人が明白。そう、倒叙ミステリの形になっている一編。ただ、真相は江藤の頭脳の前にアッという間に見抜かれてしまう。 ⑤「そして、佐賀の乱」=征韓論(西郷隆盛が下野した事件だね)で敗れ、佐賀に帰還することになった江藤だが、途中京都に向かい、鹿野と再び相まみえることに・・・。ただし、悲しい結末が待っていた。 以上5編。 数多の才人が綺羅星の如く活躍した幕末そして明治維新。はっきり言ってあまり知らなかったなー「江藤新平」って・・・ ウィキによると、「近代日本司法制度の父」とのこと(作中でもこの辺りは触れられている)。本作がどこまで史実に基づいているのかは不明だけれど、探偵役に相応しい人物なのは間違いないだろう。 で、本筋なんだけど、前評判どおり「よくできている」。何より「端正」という表現がピッタリ。 最近、特殊設定ミステリばっかり読んでいたせいかもしれんけれど、「人間の機微」をきっちりと書いているところに好感が持てる。 ただ、個人的にはそれほど好きな分野ではないんだよなあー、時代設定が古すぎるミステリは。 指紋も気にしない。ましてやDNAも、とにかく科学捜査が全くない世界。あっ! これもよく考えればひとつの「特殊設定」なのか・・・ いろんな呪縛から逃れて自由にミステリを書けるのなら、それはいいことかもしれない。 でも、どこか物足りなさもあるんだよな。まあ、自分勝手なお話です。 |
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| No.1854 | 6点 | 青銅ドラゴンの密室- 安萬純一 | 2025/09/06 13:28 |
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| 久々に読む作者の作品である。
前回読了した「ポケットに地球儀」について、自分自身が酷評していたことを思い出してしまった。今回はどうかな? 単行本は2014年の発表。 ~雷が青銅のドラゴン像を生き返らせ、雄叫びを上げ、人をかみ砕く!! これは魔法か――ホルツマイヤー家の敷地内にある青銅のドラゴンの塔。そこに近代建築研究家と称するラグボーンが訪ねてくる。探偵でもあるという彼に当主ゲオルグ・ホルツマイヤーは塔の調査の見返りにある事件の謎を解いて欲しいと依頼する。調査の最中、ゲオルグの孫が惨殺される事件が起こる。その殺され方は百年前にドラゴンの建造後まもなく内部で二人の旅芸人が殺さた方法と同じものであった・・・~ 南雲堂が配本していた「本格ミステリー・ワールド」の一冊だけに、本格成分が非常に高かった。 まずはタイトルにもある「密室」について。 こんな奇天烈な建築物が出てくる時点で、大方の人は「建物に仕掛けがあるに違いない」という目線で読むことになる。 途中、くだんの建築物(=「大ドラゴン」のことね)の内部を捜査する場面が幾度か挿まれる。 そこは、いわば“伏線の宝庫”になっているし、鋭い読者ならば割と早い段階でピンとくるのかもしれない。 ただし、今回の「密室」。これだけ大掛かりなトリックを用意した割には、なんとも魅力が薄い気がする。 これはもう、「書き方」「盛り上げ方」の問題だろう。もう少し何とかならなかったのか。 うん。そうなのだ。なんとも「惜しい」作品のような気がする。 トリックに独創性もあると思うし、過去の事件との相似に絡めているところも興味を深めている。 何より、ラスト前に炸裂するフーダニットのサプライズ! これは「なるほど!」と唸らされた。 こうやって書いていると、もっと高評価でもよいのではと思うのだが、やっぱり「惜しい」。 他の方が人間描写の不満について書かれているけれど、それもあるかなと感じる。 でも前回よりは随分マシという評価。結構、引き込まれたところはあったし。 繰り返しになるけど、書きぶり次第ではもっともっと面白くなったような・・・「惜しい」! |
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| No.1853 | 6点 | あなたに似た人- ロアルド・ダール | 2025/08/03 13:19 |
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| 以前からアップしていた本作。ただし、文庫版は分冊となっていて、Ⅰ収録作しか読んでなかったため、今回Ⅱの読了に当たって、以前の登録分を削除して再アップすることに。(まあどうでもいいことですが)
「奇妙な味」のする短編集といえば、ということで必ず挙げるだろう作者と作品。 ①「味」=ひとこと、という実に潔いタイトルの作品だが、中身は人間のドロドロした部分がえげつなく書かれている。オチは明示されてないけど、“盗み見した”っていうことだよね? ②「おとなしい凶器」=これが“短篇ミステリーのスタンダードとしてあまりにも有名”という惹句が冠された著名作。確かに狂気の隠し場所としては実に皮肉が効いてて面白い。焼いたら臭わないしね・・・ ③「南から来た男」=これはいわゆる“最後の一撃”的プロットのやつだ。こんな無茶な賭けに乗る男も男だが・・・。 ④「兵士」=完全に理解できないけど、これもラストの一行勝負の作品だろう。途中のやり取りは正直よく分からんけど・・・ ⑤「わが愛しき妻、かわいいひとよ」=こんな風に思っていた夫も、妻の本性を知ると・・・って火を見るよりも明らか。美しいor可愛い女性ほど内面は○○○ってよくあるパターン。 ⑥「プールでひと泳ぎ」=これもよく理解できない作品なのだが、ラストの一行でニヤリとさせられるタイプのやつ。 ⑦「ギャロッピング・フォックスリー」=通勤電車で偶然向かい側の席に座った男をめぐる主人公の煩悶の話。自分の辛い過去を振り返って苦しむ主人公と、それをあざ笑うかのようなラストのオチがきれいに嵌っている。良作。 ⑧「皮膚」=刺青に関するストーリーなのだが、あまり響いてこず。 ⑨「毒」=“ヘビもの”(ってそんなジャンルあるのか?) 「だからなに?」って思った。 ⑩「願い」=なぜか続けて“ヘビもの”。「だからなに?」×2。 ⑪「首」=これは・・・。ラストは当然バジル卿が首を××するんだろう・・・って思ってたら、卿ってやさしいのね・・・。何となく作者の女性に対するスタンスが分かる一編。 ・・・ここまでがアップ済のⅠ部分。ここからがⅡ収録作。 ①「サウンドマシン」=人間以外の物や動物、植物の「声」が聞こえるという機械を発明した男。男は動物や植物の悲痛な「声」が聞こえるようになってしまった。で、ナタで切られている「木」の悲鳴を聞いた男は、たまらずに主治医の男を呼んでしまう。呼ばれたドクターは、求められ、「木」にヨードチンキを塗ることに。奇妙だ! ②「満たされた人生に最後の別れを」=実に皮肉の利いた一編。特にタイトルの意味を知ることになる、最後の場面。個人的には違うカラクリを予想していたんだけど、なるほど、そうきたか、と思わずにはいられなかった。男って悲しい生き物っすね・・・ ③「偉大なる自動文書製造機」=作家にとって垂涎の的! 「自動文書作成機」。ボタンを押すだけで、自動的によくできた作品を仕上げてくれる! まさに夢物語!って今までなら思っていたけど、今や、ねっ!あるからね、生成AIというものが。近い将来「ミステリ作家」なる商売はなくなってるかもね。 ④「クロードの犬」=うーん。こりゃよく分からん。中編ほどボリュームのある一編なんだけど、うーm。何が言いたかったのか? 「味わい」を楽しめ!ってことなのか・・・ 以上。 Ⅰのときにと同様。やはり「奇妙な味」というのが”言い得て妙”なんだなと納得。 今回も①から③までは実にシニカルな風味だった。 ④だけは??だが、まあそんなもんだろ。 短編好きなら、やはり読んでおくべきなんだろう。 |
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| No.1852 | 6点 | 隣人を疑うなかれ- 織守きょうや | 2025/08/03 13:13 |
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| 先日、作者の初読みが連作短編集だったので、長編も読んでみようということで。
本作も作者の属性(弁護士)を反映した作風になっているのかな? 単行本は2023年の発表。 ~「羊の群れに狼が潜んでいるなら、気づいた誰かがどうにかしなければ、狩りは終わらない――。」 自宅マンションに殺人犯が住んでいる? 隣人の失踪をきっかけに不穏な疑念を抱いた主婦の今立晶は、事件ライターの弟とともにマンションの住人たちを調べることに。死体はない、証拠もない、だけど不安が拭えない。ある夜、帰宅途中の晶のあとを尾けてきた黒パーカの男は誰なのか?平凡な日常に生じた一点の黒い染みが、じわじわと広がって心をかき乱す、傑作ミステリー長編~ 「もう一押し欲しかったな」というのが、読了後の感想。 総じていえば「面白かった」んだけど、それだけに、真犯人が確定し、さらなる仕掛けがあったとはいえ、「もう少し用意されてるんじゃないか」という期待が大きかった。 ただ、そのまま終了してしまった。 他の方も書かれてるけれど、リーダビリティは非常に高いと思う。スイスイ読まされるし、次の展開を期待させるプロットも良い。 メインの謎となる若い女性を狙った連続殺人事件の真犯人。探偵役となる姉弟が、ターゲットを絞り込んでいくものの、結果としては、推理や捜査によるものではなく、犯人サイドの自滅のような形で終結している。 まあガチガチの本格というわけではないから、それはそれで良いのだ。 事件のカギとなる人物のひとり、同じマンションに住む、美人で男という男に愛想を振りまかずにはいられない主婦。 ラストには、この主婦の独白パートまで用意されているわけだから、ここに何か捻りがあると思っちゃうよなあー それが、「あと一押し」につながってしまった。 でも、まあ読みやすいし、決して駄作ではないと思う。ちょっと手慣れすぎてるだけ。 |
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| No.1851 | 6点 | SOSの猿- 伊坂幸太郎 | 2025/08/03 13:10 |
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| やや久し振りの伊坂作品となった。
ただ、他の方の書評を見ると、かなり辛口のようですが・・・ 単行本は2009年の発表。もともとは読売新聞夕刊に連載されていたもの(とのこと)。 ~三百億円の損害を出した株の誤発注事件を追う「猿の話」。ひきこもりを悪魔祓いで治そうとする男の「私の話」。やがて交差する二つの話を孫悟空が自在に飛び回り、「SOS」をめぐる問いかけが物語を深化する。世界最強の猿からユングまでを召還し、小説の可能性に挑戦した、著者入魂の記念碑的長篇!~ (↑この紹介文。いったい何のことやら、である) 「かなり大掛かりなファンタジー」「そして多少のミステリ風味の味付け」 ひとことで表すとしたら、こんな感じかな。以上、終わり! ってことで、本当に終了してもいいかな、という雰囲気の作品。 でも、毎回のように伊坂を高評価してきた身なので、さすがにもう少しだけ補足したい。 本作のキーワードは、「引きこもり」そして「人の善と悪」ということなのかな? 特に後者については、これまでの伊坂作品でもたびたび語られてきた題材だと思う。そういう意味では「お馴染み」。 冒頭から、摩訶不思議な話が続いていく本作。作者独特の言い回しや、とぼけたキャラたちもあり、どんどん読まされていく展開。 で、終盤に入ったところで、種明かし的な場面があるわけだが、辛口の方はここがお気に召さなかったのだろう。 私はというと・・・割と楽しめました。まあ「孫悟空」の部分なんて、馬鹿馬鹿しいといえばそのとおりではありますが・・・ 逆に言うと伊坂らしい、伊坂にしか書けないお話にはなっていると思う。(「書けない」よりは「書かない」だけど) ラスト付近の“辺見のお姉さん”のセリフ。「親が人生楽しめてないと、子はいつまでもジメジメしたまま」云々 そりゃ確かに! でも親はいつまでも子が心配なんですけどね。 そんなこんなで個人的にはそれほど低い評価にはなりません。「仕方ないでしょ」 |
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| No.1850 | 7点 | 孤島の来訪者- 方丈貴恵 | 2025/07/21 13:31 |
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| 「時空旅行者の砂時計」に続く、「竜泉家シリーズ」の二作目。
前作の衝撃(?)が冷めないうちに二作目も手に取ってしまった・・・ 単行本は2020年の発表。 ~謀殺された幼馴染の復讐を誓い、ターゲットに近付くためテレビ番組制作会社のADとなった竜泉佑樹は、標的の三名と共に無人島でのロケに参加していた。島の名は「幽世島」。秘祭の伝承が残る曰くつきの場所だ。撮影の一方で復讐計画を進めようとした佑樹だったが、あろうことか、自ら手を下す前にターゲットのひとりが殺されてしまう。いったい何者の仕業なのか? しかも、犯行には人でない何かが絡み、その何かは残る撮影メンバーに紛れ込んでしまった。疑心暗鬼のなか、またしても佑樹のターゲットが殺され・・・~ 「マレヒト」って・・・(未読の方は何のことか分からないだろうが) もう、ここまで特殊設定が「特殊」だと、「なんでもあり」なのは当然として、あまりにもゲーム性が強すぎという感覚になる。(もちろん本格ミステリそのものが虚構であり、ゲームと言われればそれまでだが) 前作では「タイムトラベル」をアリバイトリックに応用するという新機軸を出してきたのと同時に、一家惨殺ドロドロという古いタイプのミステリを並立させた作者。 本作でも、「マレヒト」(詳しくは書かない)という超変化球と、孤島の連続殺人というコテコテを並立させてきた。この「並立」は作者の狙いなんだろうな。 いかにしてこの2つを破綻なく並立させるか。これこそが本作のカギとなる。 問題となるのが、作中でも挙げられた14個もの「マレヒト」の性質。 これを如何に読み解くかが読者にとっての試練となるし、反対に作者の創作に当ってのプロットの肝だろう。 うーん。なんか、こんなにクドクド書くのがばからしくなってきた。 ロジックといえばこれほどロジックを重視したプロットもないんだろうな。作者は自身の創造した「特殊設定下」で徹底したロジック、そしてフーダニットの謎を構築する。 これを推理し、解明する喜びを読者は与えられたわけなんだけど・・・うーmm まあ、でもスゴイことだよ。こんなブッ飛んだ設定を構築できることこそが作者の凄まじい才能。 ちょっと前に読んだ今村氏の「兇人邸」のときにも感じたけど、これこそが「現代の本格ミステリ」だし、古臭いカビの生えた本格をここまで昇華することに成功した例だと思う。 いったいどんな頭の構造してんだろう? でも、昨今の特殊設定本格ミステリを次々に読んでいると、新本格に続く、つぎの波、ムーブメントが起きているんだと思ってしまう。ただ、「読み物」である以上、やはり「人間の機微」がいかに書けているか、も大事だとは思います。 (1つ疑問。あれだけ一撃必殺なら、大勢の人間がいたって、恐れずに一撃必殺で殺せばいいのでは?) |
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| No.1849 | 7点 | 転落の街- マイクル・コナリー | 2025/07/21 13:30 |
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| 個人的にも、長い期間をかけて読み継いできている、「ハリー・ボッシュ」シリーズ。
長い間にいろいろ紆余曲折あった本シリーズだったが、シリーズ当初のようなスタイルに戻ってきている感じはある。今回も、様々な苦難、障壁が彼を待ち受けるのだろう。 2011年の発表。 ~絞殺死体に残された血痕。DNA再調査で浮上した容疑者は、事件当時八歳の少年だった。ロス市警未解決事件班のボッシュ刑事は、有名ホテルでの要人転落事件と並行して捜査を進めていくが、事態は思った以上にタフな展開を見せる。ふたつの難事件の深まる謎と闇。許されざる者をとことん追い詰めていく緊迫のミステリ~ 原題の""The Drop"" 本作の内容はこのタイトルのダブル・ミーニングが憎いほど効いている。 他の方も触れているとおり、一つ目はボッシュ刑事の雇用延長制度に関するもの(→この制度について彼は作中で悩むことになる)。 あと二つは、今回ボッシュが追うこととなる二つの事件。①本来の職務である過去の「未解決事件」、②宿敵アーヴィング元本部長の息子の転落事件、にまつわるもの。 ②については、過去作からの因縁の相手、アーヴィングから直々の指名で捜査に当ることとなったボッシュ。現職の市議である彼の背後を調査するうちに、事件の構図が明らかとなった・・・かと思いきや、という展開。さらに、解決したはずの本件が、アーヴィングとのラストシーンでは、更なる深淵に嵌まっていくような感覚。 そして①である。過去の未成年者猥褻事件に絡んで、紹介文のとおり、ひとりの容疑者から事件の捜査を進めるボッシュ。もしかして②とクロスするのかと思いきや、そこまでは今回のプロット外。 ただし、判明した真犯人のおぞましいまでの犯罪に、ボッシュをはじめとする捜査陣も震えることとなる。 ただ、二つの事件で忙殺されるボッシュなんだけど、しっかりひとりの女性とメイクラブしてしまう・・・(ボッシュって何歳だっけ?)。そして、愛娘マデリンとの関係・・・ さまざまな要素が本作に投入されている。 普通なら、ここまでいろいろ詰め込むと消化不良になりそうなところ、さすがのコナリー。秩序だって、整理されて読者の頭の中にもスッと入ってくる。 この辺りがもう、プロ中のプロ作家たる所以なんだろう。私のようにシリーズを通して読み継ぐファンにとっては尚更。第一作から数えてもうはや三十年が経過。それでも色あせないのは、作者の力量、そして生み出したハリー・ボッシュというキャラの熱量によるものだろう。 ただ、作中でボッシュが自身の加齢による衰えを切々と語る場面がある。そう、いくらフィクションの世界でも、ゆっくりとだが時は流れているのだ。人間も生物である以上、それはどうしようもないこと。それでも、前を向いて進んでいく姿。それこそが、シリーズファンにとっては次作へのエネルギーとなっている。そんな読後感だった。 |
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