皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 警察小説 ] 可燃物 |
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米澤穂信 | 出版月: 2023年07月 | 平均: 6.80点 | 書評数: 10件 |
![]() 文藝春秋 2023年07月 |
No.10 | 7点 | ALFA | 2025/07/09 08:01 |
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自在に世界観を構築して、そこに精緻なプロットを埋め込むのが米澤穂信の得意技。
で、今回は警察署。絶妙なローカル感漂う群馬県警を舞台に気持ちのいい反転が楽しめる。 お気に入りは「命の恩」。猟奇的なバラバラ事件がただのxxに収れんしていく手口は鮮やか。 「別に、僕が頼んだわけじゃないです。」・・・長男のクズぶりが笑える。 もう一編、「本物か」は鮮やかな反転。イカスミは余計だったかも。 表題作は、逆説的な動機は面白いがいささかショボイか。 五編とも堂々たる警察小説の体だが、警察風俗小説ではない。ここには島田一男のタバコと汗の匂い、横山秀夫の軋みあう人間関係はない。 |
No.9 | 6点 | E-BANKER | 2025/07/05 13:50 |
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群馬県警捜査一課の「葛警部」を探偵役に据えた連作短編集。
長編・短編問わず、はたまたミステリのジャンルを問わず、良質なミステリを上梓続ける作者。今回もまた・・・かな。 単行本は2023年の発表。 ①「崖の下」=スノボしにやってきた五人組の男女。そのうちの2名が遭難し、ひとりが刺殺体で発見される。ただ、現場には何故か凶器が残されていなかった・・・ 物証をもとに推理をめぐらせる葛警部の頭に、最後に訪れた天啓とは? まさか、あれが凶器にねェ・・・ ②「ねむけ」=藤岡市内の夜中の交差点で発生した交通事故。関係者のひとりは、強盗事件の容疑者だった。事故の原因を捜査するなか、現場を見ていたと思われる誰もが、その容疑者が赤信号を無視したと主張するが・・・。これも「葛警部」のカンと拘りが事件を解決に導く。 ③「命の恩」=谷川岳に続く緩やかな山道で発見されたバラバラ死体。ほどなく被害者は特定され、容疑者が出頭してきた。事件解決!と思いきや、どこか納得がいかない「葛警部」がとった行動は、現場へ戻ること。そして・・・ ④「可燃物」=連続して発生した放火事件。事件は、収集日の前夜、可燃物のゴミ袋に着火するという共通点があった。ただ、折からの湿った天気のなか、大火には至らずにいたが、「葛警部」が捜査を進める中で浮かんだ容疑者は・・・。これは動機にまつわる機微が味わい深い。 ⑤「本物か」=伊勢崎市内のファミレスで発生した立てこもり事件。犯人はほどなく判明するが、拳銃らしきものを手にしているのが分かり、「葛警部」たちに緊張が走る。ただ、関係者たちに聞き込みを続ける中、不可解な点が浮かんで・・・ 以上5編。 もう、さすがのクオリティである。スゴイね。どんなジャンルの作品でも、一定以上の評価ができるものばかり。 これこそが一流のミステリ作家、ということだろう。 本作は警察小説(なのかな)。なんとなく、横山秀夫っぽい雰囲気で、「葛警部」という探偵役が実に効いている。 短編らしく、込み入ったプロットはないけれど、必ず最後にオッ!という驚きとツイストが待っている、という作品が並ぶ。 成熟したミステリ作家しか書けない作品だと思う。もう少し派手めなトリックやら捻りも欲しいなどという、不満点もあるのかもしれないけど、これはこれでいい味出しているし、作者も「この線」を狙って書いたのだろう。 だからいいのだ。この渋さと、静かさと、上品さで。十分である。 (カフェオレと菓子パンで食事をとる場面が再三出てくるのは「笑い」ポイントなのかな?)(個人的には⑤が最上位。最後の反転がよく効いてて面白い) |
No.8 | 6点 | take5 | 2024/12/08 15:37 |
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県警捜査一課の葛班が活躍する短編集
崖の下・・・雪山での滑落遭難もの ねむけ・・・みんな眠い、やや強引 命の恩・・・もっと悲惨を想像した 可燃物・・・反転力が弱いので残念 本物か・・・反転よしパスタ無意味 全て50ページほどであっという間に 2時間かからず読めますが、米澤氏は 他にも良作があるのでそちらをどうぞ 短編集なら『満願』の方でしょうか? |
No.7 | 7点 | パメル | 2024/08/02 19:26 |
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主人公は群馬県警捜査一課の葛警部。上司に疎まれ、部下にもよく思われていないが、捜査能力は卓越している敏腕刑事。その葛警部が遭遇する不可解な事件を解き明かしていく5編からなる短編集。
「崖の下」雪山で遭難し、崖下で見つかった刺殺死体の周囲に凶器が見当たらない。一体何を使って刺殺したのか。 「ねむけ」強盗事件の容疑者が起こした交通事故。目撃者が揃って男に不利な証言をする。信号は赤だったのか。 「命の恩」キスゲの花咲く行楽地に捨てられた人の腕。死体を切り刻んだ理由は何か。犯罪の手口に隠された殺意を暴く。 「可燃物」住宅街の連続放火事件。容疑者が浮かぶ前に、突如止まった犯行。放火魔の動機は何か。 「本物か」郊外のファミレスで立てこもり事件が発生。交錯する証言。噛み合わない犯人像の謎。 葛警部は、部下から集めた事件の状況や証拠品を淡々と精査していく。捜査の過程で生じる違和感、そこから大きくなっていく謎。それを葛警部が冷静沈着に資料や報告書を隅から隅まで調べ上げ、持ち前の観察力と推理力で毎回、鮮やかな論理で解決していく過程が心地よい。警察小説としても本格ミステリとしても読み応えがある。 |
No.6 | 7点 | mozart | 2024/05/13 10:47 |
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表題作はちょっとあっさりしていた感がありますがそれ以外はなかなかミステリーとして読み応えがありました。意表を突く凶器とか動機とか真犯人とかいった「王道」をしっかり踏まえているところに感心させられたし。
分類は「警察小説」となっていますが著者のインタビュー記事によると単にミステリーの舞台として警察を選んだだけであるとか。とは言っても実際の捜査現場における緊迫感がリアルに伝わってくるようで著者の筆力に改めて感服しました。 たしかに葛の内面の描写が不十分(?)なのかも知れませんがそれだけに例えば「命の恩」での葛の目を通した香苗の描写やラストの「~までは把握した(中略)警察が関与する余地はない」という淡々とした地の文に彼のキャラが滲み出ているようでなかなか秀逸な表現手法なのだと思っています。 それにしてもいくら脳の活動に糖分が必要といってもカフェオレと菓子パンだけでは不適切にもほどがあるのではないかと糖尿病予備群の自分としては心配になっています。 |
No.5 | 7点 | 虫暮部 | 2024/01/27 12:32 |
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飛び道具無しで地味。謎のポイントを親切に絞って判り易いが、その結果として小粒な印象。
葛の思考は地の文で記述されるが、口に出す言葉は少ない。テレパシーじゃ伝わらないんだからさ。意図の共有を図らないこういう指揮官は、たとえ有能でも結構危険なんじゃないだろうか。 そして巻末。法律的な手続きについて、弁護士が検め済み、とわざわざ断っているのだから、作者はそこに注目して欲しいのだ。 つまり、諸々のミステリで描かれる警察官の行動は法律上リアルではない、正しくはこう、と実作を以て指摘している。自粛警察に倣って言えば “警察警察” 小説? うわっ、嫌な奴。 |
No.4 | 8点 | まさむね | 2023/12/23 09:51 |
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作者の力量を再確認いたしました。どの短編も無駄のない流れですが、決して無機質ではなく、グイグイ読ませます。その中での転換が実にお見事。
マイベストは思わず唸った「命の恩」。次点はタイトルも秀逸「本物か」。凶器は何か「崖の下」も良作で、いずれも盲点を突く転換がポイント。その後に「ねむけ」「可燃物」と続く印象。 良質な警察小説短編集と言えるのではないかな。 |
No.3 | 7点 | HORNET | 2023/11/03 21:50 |
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太田市の住宅街で連続放火事件が発生した。県警葛班が捜査に当てられるが、容疑者を絞り込めないうちに、犯行がぴたりと止まってしまう。犯行の動機は何か?なぜ放火は止まったのか?犯人の姿が像を結ばず捜査は行き詰まるかに見えたが…(「可燃物」)。連続放火事件の“見えざる共通項”を探り出す表題作を始め、葛警部の鮮やかな推理が光る5編。(「BOOK」データベースより)
米澤氏が「警察小説」という新境地に踏み出した一作と言えよう。とはいえそこは十分な力と実績のある作家、間違いはない。組織の中で、上司にとっては扱いづらい有能な刑事という設定はまぁベタではあるが、それが間違いないからベタなのであり、結局…本作も面白い。全体的に、横山秀夫の短編のような雰囲気があった。 「ねむけ」は、主人公・葛らの不眠不休の捜査ぶりを伏線にしながら、真相と結び付けている企みが〇。ミステリ的な仕掛けでは「命の恩」が一番良かった。どんでん返し的な面白さがあったのは最後の「本物か」。 しかし、帯にある「本格ミステリ×警察」って何なんだ。警察小説ってだいたいみんなそうだと思うけど。 |
No.2 | 6点 | sophia | 2023/10/03 00:35 |
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●崖の下 7点・・・まさか×××じゃないよなってみんな思いましたよね(笑)
●ねむけ 6点・・・これはミステリーでよくある話のような ●命の恩 7点・・・これが一番出来がいいですかね ●可燃物 5点・・・これはがっかり ●本物か 6点・・・注文数を確認した意味があまりないような 多彩な作風の米澤穂信ですが、唯一苦手なのが警察小説ではないだろうかと思っています。本作はミステリーとしても期待を超えてきませんでしたが、それよりも何よりも主人公の葛警部に人間的な魅力が乏しいです。機械的に捜査をして事件を解決しているだけで、彼の経歴や生い立ち、家庭環境や思想・主義など何も描かれていません。警察官に太刀洗万智のような「エモさ」は必要ないという考えなのでしょうか。どうにも物足りない作品でした。 |
No.1 | 7点 | 文生 | 2023/07/27 20:18 |
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著者初の警察小説といいながら中身はしっかり本格。この2つの要素の絶妙な組み合わせがミステリとしての面白さを押し上げています。仕掛け自体はそれほど派手なものではありませんが、それが逆に渋い警察小説の雰囲気とマッチしているのです。警察小説と本格の融合という意味では横山秀夫の『第三の時効』あたりを彷彿とさせます。とはいえ、あちらは刑事同士の権力争いを横軸に据えた群像劇だったのに対し、本作は探偵役を葛警部が一人で担っており、他の刑事の出番はあまりありません。しかし、そうしたなかでも短い枚数でそれぞれのキャラの関係性を的確に描き、重厚さを加味していく手管が見事です。5つつの短編はどれも読み応えありですが、特に、死体をバラバラに切断した動機に迫っていく「命の恩」と、ファミレス立て篭もり事件の構図が反転する「本物か」が個人的にお気に入り。 |