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虫暮部さん
平均点: 6.23点 書評数: 1813件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.1813 6点 赤い鳥、死んだ。- 辻真先 2024/10/02 11:16
 北原白秋を引き合いに出して童謡だ童心だと語っている内容は別に目新しくも無いが、作者は承知の上でもう一度言い直しておきたかったのだろう。そういう題材で今更そこまで斬新な意見が出て来るものでもないしね。
 しかし “子供は残酷、狡猾、破壊的で自然” と言うなら、瑠々へのいじめも全否定は出来ない筈。その矛盾を止揚するヴィジョンは示されなかった。
 ミステリとしては、犯人の存在感が事前にもう少しあると良かった。前記の題材を語り過ぎて登場人物を描くスペースが足りなくなったのだろうか。

 因みに舞台はずっと現代。時代ミステリじゃないよ。

No.1812 7点 殺し屋、やってます。- 石持浅海 2024/10/02 11:16
 最初の2話が同じパターンだったので、ずっとこうだったら飽きちゃうな~と危惧したが、流石にそれはなく色々と工夫してあり以降の評価は一転。遂行業務自体は割とサラリと描かれているし実入りは良さそうなので、あら私も殺し屋、やってみようかしら、と言う気になること必至。

No.1811 4点 なつこ、孤島に囚われ。- 西澤保彦 2024/10/02 11:15
 金持ちは偽装工作するにも大金が遣えていいなぁ。“腎虚” は俗説で、人はそんな死に方はしない(筈)。作者独特のロジックの強引さを楽しむべき作品か。小説家 森奈津子のキャラクターがいかにもパターン通りの “個性的な人” と言う感じで魅力に欠ける。

No.1810 7点 もしもし、還る。- 白河三兎 2024/10/02 11:14
 1ページ目からどっちに進んでいるのかさっぱり判らない設定と展開が魅力的。ゲームの種類が不明なまま盤に駒を並べるような。そして一手指す度に盤の向きもサイズも変わるような。何処をどう詰めれば勝ちなのか、そもそも詰めると勝ちなのか負けなのかも判らずに。
 ただ、着地点は今一つで、“一番安易なところは避けるからそれで大目に見て” と言う感じ。まぁ “正解” を探す類の話じゃないしね。えっ、この表紙、写真なの?

No.1809 7点 妖怪コンビニで、バイトはじめました。- 令丈ヒロコ 2024/10/02 11:13
 こういう “いい話” を斜に構えずに楽しめるのは作者のセンスの賜物。名前のある妖怪ではなくオリジナル造形っぽいのも楽しい。どういう資本がどういう形態でコンビニを運営しているのか、Jペイの循環システムは、とか色々とミステリ(なんちて)。

No.1808 7点 ぼくは化け物きみは怪物- 白井智之 2024/09/26 12:23
 これはびっくりした。「天使と怪物」なんて皆川博子の歴史ミステリみたいだ。飛び道具無し、否、無しとは言わないが飛び道具と有機的に結び付いて織り上げられた物語性の豊かな発露!
 御見逸れしましたと頭を垂れるしかない。まぁ今までが今までだしね……。

No.1807 6点 明智恭介の奔走- 今村昌弘 2024/09/26 12:22
 シンデレラの罠?
 広辞苑で “奔走” を引くと “物事がうまく運ぶように、いろいろと世話をやくこと” 。すると寧ろ奔走しているのは葉村君の方では……。
 最後の話。あれっぽっちの示唆でピンと来て罠に引っ掛かれたとは、犯人も結構鋭い名探偵であるね。

No.1806 6点 動物城2333- 荷午/王小和 2024/09/26 12:20
 何処がどうと言うわけじゃないけど肯定的な空気が感じられて好感が持てた導入部。安っぽいのか壮大なのか判断に迷う設定。存外にダークな動物霊園。後出しでアンフェアな程に拡張される世界観。戦争とは、平和とは、深いかもしれない問いかけ。だけどこんな場で問いかけたらフェイクっぽくなるばかり。一応ロジカル(?)な謎解き……等々、読みながら評価が激しく乱高下した怪作。
 アグアのキャラには癒される。誰がどの動物なのか、一覧表が欲しかった。

No.1805 7点 偽物語- 西尾維新 2024/09/26 12:20
 私は本書で歯ブラシと千枚通しの正しい使い方を学びました。
 “電話で天気予報” はサーヴィス終了だから、百年後の読者には判らないネタになってしまいましたね。

No.1804 7点 人形島の殺人- 萩原麻里 2024/09/26 12:19
 もしやシリーズ開始時から仕組んでたか。オカルト度が前巻より更にエスカレートして人形呪術がリアライズしているのを期待したけど、それは叶わず残念。

 変な質問があった。
 「本当にずっと座敷にいたんですか? 一度も目覚めずに? それを証明する人は」
 一度も目覚めなかった本人が証明者の存在を認識することは出来ない。ネタ?

No.1803 3点 バーニング・ダンサー- 阿津川辰海 2024/09/19 12:25
 ネタバレするけれど、特殊設定が雑だと思う。
 ①『燃える』ではなく『燃やす』、自動詞他動詞の区別(厳密だな~)、と言う話題を挙げておきながら、コトダマ百種の中には変な言い方のものが混ざっている。例えば『腐る』『化ける』がそうで、これらは『腐らせる』『化けさせる』であるべき。『腐る』だと、遣い手自身の身体が腐って自滅するだけの能力になってしまう。厳密さが一貫していない。

 ②コトダマ遣いは、どのようにして自分の能力を知るのか? 神なり悪魔なりから “汝にコトダマを授ける” と啓示があるわけではないらしい。或る日突然宿った能力を、限定条件が偶然に整うことで自覚すると考えられる。
 しかし難易度の高いものがある。それは『真似る』で、限定条件は “コトダマ遣いを殺すこと” なのだから。
 つまり “殺さないと自覚出来ないが、自覚が無いなら殺す動機が無い” と言う矛盾を孕んでいる。
 フランスと同じ偶然が日本でも再度起きたと言うのだろうか?

 以上二点から、コトダマには作中に記述されていないルールや例外事項があると考えないと辻褄が合わない。

 細かいことだが③コトダマのうち『弾く』は【はじく】とも【ひく】とも読めるが、その点について作中でフォローされていない。
 ④コトダマの意味の解釈は日本語に準拠している(『化ける』とか)のだから、世界的規模ではなく日本語圏のみの現象とした方が良かったのでは。

 これらのことがミステリ要素に多大なる影響を与えたかと言うと、実はさほどでもない。“設定が曖昧だから記述された事柄のみ受け入れる” と割り切れば無問題。
 でもまぁ何と言うか、気分を殺がれた。

No.1802 7点 百舌鳥魔先生のアトリエ- 小林泰三 2024/09/19 12:24
 着地点は結構読めるけれど否応無しに引っ張り回される不快感が快感。でも予測がついてもつかなくても、どの道でろでろになるのだから関係無いね。身体パーツの過剰はフリークス的イメージの基本だから “百舌鳥” と言う字は如何にも小林泰三っぽいじゃないか。あっ、人間ならともかく猫様にあんなことするなんて許せぬ。

No.1801 7点 虚ろな感覚- 北川歩実 2024/09/19 12:24
 読み進むにつれて登場人物間で病みが盥回しにされて怖さと可笑しみを同時に感じる。と言う意味では、どの短編も騙しの構造が割と似ている気がするけれど、味付けにヴァリエーションがあってワン・パターンではない。あやせさやかのイラストいいね(ハードカヴァー版)。
 唯一、「僕はモモイロインコ」のアリバイ・トリックは加害者被害者ともに動きが不自然で疑問が残った。

No.1800 6点 一八八八 切り裂きジャック- 服部まゆみ 2024/09/19 12:23
 本作に限らず “重厚な歴史小説” を読むとつい思ってしまうのだが、どの程度までが作者の功績なのか。これは資料を組み合わせて加工したもので、重厚さは参考文献に由来するのではないか。そういう作品って、取り上げられる時代・地域に関わらず雰囲気が似てない?

 さて本作、切り裂きジャックはエレファント・マンと並んでおかずの一品目で、主食はヴィクトリア朝ロンドンに於ける日本人留学生の生活記録と成長物語。さりげなく語り手の差別意識を滲ませた文体はなかなか巧みで、読書体験として良い意味でのツッコミどころがチラホラと。
 しかし後半は燃料不足で惰性でノロノロ走る感じだった。引っ張った挙句、ジャックの正体が全然面白くないのは大問題だろう。
 ディケンズの話題でジョーゼフと盛り上がる場面と、ビービを保護する場面が良かった。

No.1799 6点 首挽村の殺人- 大村友貴美 2024/09/19 12:22
 横溝を00年代に再現、しても様にならないが、その様にならなさが一つの個性ではあるかもしれない。田舎小説としては、やや紋切り型ではあるがなかなか読ませる。
 と言うのが全部カムフラージュ。真相に私はかなり驚いた。疫病神が本当に疫病神だった、と言う話。
 沢下、木下、沢田……ネーミングが雑じゃない?

No.1798 7点 短物語- 西尾維新 2024/09/13 12:04
 折々に限定的な場で発表してきた掌編を集めたもの。シリーズに関する予備知識を前提とした結構クローズドな作品群。ストーリー漫画の単行本のオマケ四コマみたいなものか。それで一冊作ってしまうのは、需要の有無も含めてなかなか特異な例であって、こんな手触りの本は今まで読んだことがない。“あとがき全集” ともやはりちょっと違う。
 意味有りげでは在りつつ、物語を本気で進める程の意味が有ってはならない、と言う縛りに則った有っても無くても良いような話が、こうして単行本化されることでシリーズの正規のエピソードとして “有るもの” になってしまったのだから、この本そのものが怪異と言っても過言ではない。妹とのアレを正規エピソードにしちゃっていいのか?

No.1797 8点 バイバイ、サンタクロース 麻坂家の双子探偵- 真門浩平 2024/09/13 12:03
 計算し尽くされていて驚いた。最初の方の話の物足りなさも、一段ずつギアを上げて行く演出の為のバランスなのだと今なら判る。そこまでやるかってところまで容赦無く踏み込む心意気に呆然。私は、年齢については “こういう奴もいるよな~” と普通に納得していた。

 ところで、全く登場しなかった麻坂家のお母さんの職業は何か。
 ――父が警察官で子がケイジ。ならば有人は alto だから母は音楽家。どうかな?

No.1796 7点 復活するはわれにあり- 山田正紀 2024/09/13 12:03
 ジェフリー・ディーヴァーのリンカーン・ライムでアクションをやってみたかったのだろうか。半身不随のおじさんがハイテク車椅子で大暴れ。感動ポルノにしてたまるかと言わんばかりのキャラクター造形はドロッと爽やか。主人公の不自由さが却って火事場の馬鹿力のように全体を引っ張って、かつてのスーパーアドベンチャー・シリーズのパワーを再生させている。
 惜しむらくは、“サイボイド” と言う特殊なガジェットが、見た目にせよ動き方にせよイメージしづらい。作者の筆も健闘してはいるが、あまり詳しく説明的な描写をするとスピード感が損なわれるので止むを得ないか。

No.1795 7点 開かせていただき光栄です- 皆川博子 2024/09/13 12:01
 かの時代、かの土地に於ける価値観、制度、技術などによって犯罪捜査やら何やらが随分違った様相を見せるのは時代ミステリの醍醐味。殺人の扱いが意外に軽くて笑ってしまった。物語の背骨は大きく湾曲していて、引き拡げられた肋骨の中に色とりどりの内臓が通常の三倍くらい詰まっている。美しい畸形だと感じた。♪熱くて冷たいハート。賢きは腎臓。肥大した肝臓は美味なり。ランララ~。

No.1794 6点 冬期限定ボンボンショコラ事件- 米澤穂信 2024/09/13 12:01
 ミステリ的には強引。同じ人が三年置いて同じような事故に偶然巻き込まれるのは如何なものか。新旧二つの件を平行して考証しているので紛らわしい。
 “旧” の方は腑に落ちた。問題は “新”。衝動的犯行、そして偶然その後も関わりが続く。そのへんまではまぁ良いが、正体を隠そうとした犯人の理屈は考え過ぎ。出口戦略が無いままの一時凌ぎで、余計な事後工作である。寧ろそのせいでバレてるよね。
 小鳩君達の心情の変遷を追う教養小説的要素は、いい感じと嫌な感じの背中合わせが一人称で巧みに描かれ期待通りなのだが、前述のように不安定な土台に載せてしまったのは戴けない。
 病院小説としてはなかなかの優れものじゃないだろうか。

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虫暮部さん
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