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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1893件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.1893 6点 鹽津城- 飛浩隆 2025/01/24 12:12
 全6編。判り易い大文字のSFではない。一般的な意味でのストーリーテラーとは違う――そういう自己の作風(が認知された状況)にちょっと胡坐をかいてないかな~?
 しっかりオチに着地させる姿勢があまり見られないのだ。厳しく言えば “物語” になっているのは「流下の日」だけ(“嘘を書いてもアンフェアにならないトリック” と言うSFミステリ?)。「未の木」は始まりかけたところで断ち切ってしまった。
 あとは幾つかの “場面” の羅列に留まっていると思う。但し、決してつまらない場面ではなく、特に表題作は魅力的。だからこそしっかり長編に展開させて欲しかった。1960年生の作者は自分の “残り時間” を意識しているようで、短編志向なのだろうか? 尚、作中の大ヒット漫画が現実の某作を連想させる点は、物凄く安っぽく感じられて惜しい。

No.1892 8点 ねじれた家- アガサ・クリスティー 2025/01/24 12:12
 語り手は、ねじれた家へ何をしに行ったのか。公か私か曖昧なスタンスで、事件に介入、と言う程のこともせず、その場にいて会話をしていた人。邪魔、ではないけど妙に気持悪かったなぁずっと。

 それぞれキャラが立った関係者が噛み合ったり合わなかったりするが、書き方が説明的。将棋の盤面を見るようだ。一人称記述だから仕方がない?
 例えば倒産社長の人柄を妻が滔々と語る。確かにああいう説明無しで自分があそこまで深く読み取れた自信は無い。しかし作者にはもう少し直接的な説明は控えて、言動から読み取るチャンスを読者に与えて欲しかった。曲解したっていいじゃない。

 そして、犯人と語り手の遣り取りを読み返すと、八百屋お七じゃないけど、犯人は語り手に対して或る意味で “いいところを見せたい” 思いで追加の犯行を重ねたのではないか、と言う気がするのだ。
 すると最初の疑問が再び頭をよぎる。今度はメタ的な意味で。

 またはこうも考えられる。語り手にとって、ねじれた家の一族は未来の身内なわけだから、後顧の憂い無き着地が望ましい。副総監だって立場は同じだ。火の粉を避ける為に息子を送り込んで事態を収拾させた?
 全くの部外者の犯行なら言うこと無しだがそうは行かず、しかし比較的穏便な形(あの人は “義理” だしね)で決着していると思う。語り手との会話が無意識のうちにあの行動を後押ししたのかも。実は操りテーマ?

No.1891 6点 救国ゲーム- 結城真一郎 2025/01/24 12:11
 これは確かに高い、しかし細い柱で不規則に組まれたスカスカの塔だ。強い風が吹くと揺らいで怖い。
 事の真相や細かい手掛かりの示し方や事件の構図の転換や、色々と良く出来ているが。

 “彼女” は、残虐場面を公開したりドローン攻撃のデモンストレーションをしたりしたわけではない。口だけである。不動産業界の回し者にも見える。それでそんなに影響力を得られるのか。
 事件の舞台が “館” とかではなく “地域” であり相応の面積があるわけで、人や物の動きや出入りをそこまでキッチリ把握可能とは思えない。“雪の上に痕跡が無い” と言われても信頼し切れない(ミステリだからそういう探索に見落としが無いのは暗黙の諒解だけど)。
 新しいテクノロジーを題材にしているが、性能がどこまでアリなのかビミョーでは。例えば、ドローンのアレは現行の機体で可能なのだろうか。一方、動画の撮影場所を云々しているけれど、現時点で充分可能な “丸ごとAIで合成した” との可能性には触れていない。
 等々、全体として、謎を謎として成立させるのに都合の良い部分だけピック・アップしているような感じ。館モノとか、限定的な雰囲気の話ならいいが、世界を広げてしまうとそういうチマチマしたことを問題に出来るだけの緻密な視点が持てなく(持っても意味が無く)なるように思う。
 終盤、まるで知恵比べ勝負みたいな雰囲気だけど――殺人のトリックを暴いても事態が収束するわけではなく、もっと現実的な対処が重要なのに、何故謎解きに集中してるの? 逆から言えば、テロ予告をしているのだから、“コイツが犯人だ” とロックオンされたら、“トリックが解けていない” と言っても犯人を守る壁にはならないんじゃない? と疑問だった。

No.1890 6点 スノーホワイト 名探偵三途川理と少女の鏡は千の目を持つ - 森川智喜 2025/01/24 12:10
 前半の特に2話目が面白かった。手掛かりの出し方とか。
 この世界観ならではの論理バトル、故に差別化は為されているし、そういう変則性は好きなタイプの筈、なんだけど、読者にとって設定の上限が曖昧なので、驚いて良いのか何なのか判らないところもあった。
 あと、鏡の機能の設定がブレていると思う。“質問” ではない文言(“音量をあげて!” とか)にも反応してない? このルールは厳しくしないと面白さが殺がれる。

No.1889 5点 ふたり、幸村- 山田正紀 2025/01/24 12:09
 告白するが、“真田信繁と真田雪村は別人だったと言う話” と言われてもピンと来なかった。歴史には弱いんです。
 伝奇ものとしても写実的な歴史ものとしても中途半端。別人説だけを歴史の流れの中に投げ込んで、無理無く融合させる為に敢えて深入りは避けた、と言う感じ。
 “子役と動物には勝てぬ” とか言うそうで、馬のキャラクターが良し。第三章、神鷹の視点を利用した飛躍もスリリングだった。邪推するならこれが『屍人の時代』の元ネタになったのかも。

 あ、ここにもシェイクスピアが……。

No.1888 7点 マクベス- ウィリアム・シェイクスピア 2025/01/18 14:08
 倒叙ミステリ? 操りテーマ? 意外なことに、君主殺しも隠蔽工作(護衛に血を塗り付ける&殺して口封じ)も直接は演じられず、台詞で語られるのみ。故に叙述トリックも疑われるところだ。前半は結構ドキドキ。
 しかし、後半のメインは軍隊の至って順当な進軍状況であって、魔女の預言の引っ掛けと言うネタはあるものの、閉幕の為に然るべき処理を進めただけ、な感じも否めない。

 興味深いのはマクベス夫人で、この人は預言を直接聞いたわけじゃないんだよね。伝聞情報を元にあれだけ押せ押せで行ける思い込みの強さ。SNSで陰謀論とかを拡散しそうな、非常に危ういキャラクターである。

 驚いたのは軍隊も登場する物理的スケールの大きさ、そして場面転換のめまぐるしさ。第五幕第六場なんて台詞が三つしかない。作者は映画化を想定して書いたのではないだろうか。

 第三幕第四場、バンクォーの亡霊の場面は喜劇が巧みにサスペンスを高めている。後ろ後ろ! ドリフより350年以上早い。

No.1887 3点 海浜の午後- アガサ・クリスティー 2025/01/18 14:07
 ネタバレあり。
 「患者」が面白い。妙な機械が登場してクリスティっぽくないが、その点こそ作者の茶目っ気? 戯曲だからこういうリアリティの無さもアリだ。
 戯曲では名前を省略する書き方は普通にあるので、アンフェアでも不自然でもない。戯曲であることを利用した或る種の叙述トリックである。

 しかし、心情に矛盾があると役者は演じられない。本作はどうやって上演したんだろう?
 “B” は犯人を炙り出す罠であるから、本当に犯人を意味するメッセージではなくフェイクである。それを知っている筈の警部と医師が “つまるところだれなんです?” とか言って議論するのはおかしい。
 (因みに、その議論の流れで “犯人に知られてはならない事柄” にも言及しているので、“犯人に聞かせる為の演技” との解釈は成立しない。)
 また、警部が最後の台詞で語る “証拠” によって、ロジックとしては弱いが一応犯人を推測出来ており、そこに “B” の件は不要である。
 犯人の条件が “B” で、真相が明らかになった時に、そうかこの人も “B” だった、と驚けるなら美しいが、実際には “条件” ではなく単なる偶然みたいなものだ。

 つまりこれ、罠ではなく、動けないフリではなく、あの電気装置を介したやりとりは本物で、被害者は犯人を知っているが、フェイクでないメッセージとして “B” 一文字しか伝えられなかった――とするべきではなかっただろうか。嗚呼勿体無い。

No.1886 6点 満天キャンプの謎解きツアー かつてのトム・ソーヤたちへ- 高野結史 2025/01/18 14:06
 “謎” 以外の追加素材で読ませるミステリとして、わざとらしさがあまり無く好印象。物語の水面下にも相応の背景が感じられるところが良かった。
 “死体が見つかりにくい理由” は意外な盲点(笑)。一方、第三話は、ああいう書き方をしたらああいう真相なのは見当が付いてしまう。ミステリの犯人の条件は、まず “登場人物であること” だからね。

No.1885 6点 キッド・ピストルズの慢心- 山口雅也 2025/01/18 14:06
 このシリーズは、英米ミステリ黄金期に対する憧憬を、パラレル英国と言う変化球を使って成立させているわけで、直球勝負を上手く回避するそのコンセプトだけで満足しちゃったのか、物凄いトリックやロジックは出て来ない。“敢えてこういう風に書くやり方もある” と言う注釈が通用する範囲内、との条件付きで良く出来てはいるが、海外コンプレックスに縛られて発想の自由が制限されているようにも感じてしまうのだ。

No.1884 5点 サブウェイ- 山田正紀 2025/01/18 14:05
 幾つかのエピソードが並ぶが、パズルのピースのように上手く嵌まり合うことは無く、残念ながら雰囲気だけで終わってしまった。
 地下鉄駅で死者に会える云々の都市伝説を、登場人物が皆かなり本気で信じているようなのが異様。既に片足突っ込んでいる者ばかり何故か集まる世界観が怖い、とは言える。物語ではなくそういう空気の “絵” だね。

No.1883 8点 死者と言葉を交わすなかれ- 森川智喜 2025/01/10 17:15
 これは見事。すっかり騙された。あんなに露骨なヒントを示されてさえ全く気付かなかった。
 死者言葉の謎などは下手すれば日常の謎に収まってしまいかねないところを、その後の屹立する悪意が気持の収束を拒みこの本を異物に変える。後味は悪いがこの驚きを味わう為の必然として甘受しよう。哲学的問答も面白い。
 しかし、悪を比較するのもナンだが、無差別殺人の話とかよりこの真相はよっぽど肝が冷えたな~。

 ところが、作者の旧作を読んでいたら、このトリックは使い回しであることが判明。
 使い方に違いはあるし、どちらも出来が良い。そもそもオリジナルのトリックと言うわけではない。作者名さえ違っていれば、殊更にコレはアレのパクりだとか言い立てることでも無いだろうが……。

No.1882 7点 虚魚- 新名智 2025/01/10 17:14
 不可視だけど確かに存在するもの。存在しないと言う形で存在すること。存在するとはどういうことかの認識論。怪談の解体や移築に絡んで得心させられる指摘多し。魚にせよ柱にせよ伝わって来るイメージが秀逸。
 デビュー作だけど、この時点で結構しっかりした基盤(“技術” と言う意味ではなく)を持っているように感じる。

 語り手は一体何がしたいのか? が最初のフックだから、カヴァーの粗筋紹介文は野暮だな~。

No.1881 7点 予感(ある日、どこかのだれかから電話が)- 清水杜氏彦 2025/01/10 17:13
 一体何が進行しているのか判らないままに、空白の周りを撫で回しているような日々。無国籍無時代な設定(それを鑑みると携帯端末の存在は実に無粋)や軽く突き放したような筆致がアンリアルな寓話を思わせる。効果的な演出だと思う。

No.1880 7点 人形はこたつで推理する- 我孫子武丸 2025/01/10 17:13
 “人形探偵” と言うアイデアが上手いし、主要人物のキャラクター設定も好感が持てる。ミステリ的にはライト級だけど却って丁度良い。と受け入れ易いのは、この作者に緻密な論理性とか驚異の大トリックとかをあまり期待していないことの裏返し?

No.1879 6点 創造士・俎凄一郎 第一部 ゴースト- 山田正紀 2025/01/10 17:12
 あっちでもこっちでも殺意が芽生える不穏な街。俎凄一郎と言うのは『篠婆 骨の街の殺人』にチョロッと名前だけ挙がった “とき” みたいな存在か。多分その頓挫した “街シリーズ(?)” の雪辱戦として、同じ講談社ノベルスで立ち上げた新シリーズだが、結局また1冊きりで立ち消え。まったくもー。

 微妙に螺子の緩んだようなエピソードが続く。摑みどころのない描写は話が進むにつれますます曖昧になり、雨に打たれて迷い込む街は更に荒涼とし、足下はどんどん覚束なくなる。“何度も死ぬ犯人” は、トラウマで精神が歪んだと理屈を付ければ何でもアリじゃないかと揶揄したくもなるが、薄暗い街の空気と相俟って背筋が薄ら寒くなった。
 複数の事件が意味ありげに並ぶだけで未整理のまま終わってしまったので連作長編としての納まりは悪いが、決してつまらない作品ではない。雰囲気は『篠婆 骨の街の殺人』よりも『氷雨』に通じる?

No.1878 7点 剥製の街 近森晃平と殺人鬼- 樹島千草 2025/01/03 11:35
 猟奇的なシリアル・キラーを描くこの手の作品は既に沢山書かれていて、殺し方や動機の面白さを競い合っている。その観点では、本作の真相や “普通” なまま壊れちゃった感じは、及第点ではあるが、新しいアイデアでは全くない。ただ、書き方の達者さと、相反するようだが妙なフレッシュさとが感じられて、そこが良かった。

No.1877 6点 篠婆 骨の街の殺人- 山田正紀 2025/01/03 11:34
 列車内の事件そのものはそこまで重要ではなく、背景となった歴史と心情がメイン。スケールの大きな動機、その前で立ち竦む主人公。“著者のことば” で『神狩り』に言及しているのも納得である。
 それとの繫がりを鑑みても、謎としてより魅力的なプロローグの “窯から出て来た骨” をもっとフィーチュアしてはと思う。が、話の順番としてそうもいかないかな。惜しい。

 それとは別に、全5冊で構想したものの1冊で頓挫したシリーズ、と言うことで未処理の伏線が散らばっているのが何とも切なく。兵どもが夢の跡、って感じだ。

No.1876 6点 屍蠟の街- 我孫子武丸 2025/01/03 11:33
 続編は前編を超えないと高評価はしづらいな~、と私は思った。
 事態がエスカレートしている点は良い。犬を飼いたがるのは微笑ましい。しかし、ハッカーの話に変わると前半の脇役は何処かへ行っちゃって、読み終えてみると取り散らかった話、との印象も強い。
 そして、この設定だと “溝口 vs 菅野” の最終的な決着は付けようが無いよね(自殺は勝利ではないと思う)。作者は自身に対しての無茶振りに応え切れなかったのか。否、最後の章の一人称代名詞は伏線のようにも思えるし、リドル・ストーリー?

No.1875 4点 霧枯れの街殺人事件- 奥田哲也 2025/01/03 11:32
 短編は発表していたものの、これが長編デビュー作、しかも新本格勃興期の1990年、講談社ノベルスからの刊行なんだよね? それにしては新人のピュアさも “一発かましてやる” みたいな気合も希薄なのである。中堅作家による一世代前のメンタリティのゆる~い警察ものって感じ。
 それなりに捻ったラストが用意されてはいるが、読んでいる最中は “どーもパッとしないな~” と言う気分がどこまでも付いて回った。

No.1874 4点 悪夢街の殺人- 篠田秀幸 2025/01/03 11:32
 鬼熊事件の異様な迫力、集団水難事件の不可解さ、凄い! と思ったら、これらは現実に発生した事件、を題材にしたドキュメンタリー作品、を改変してフィクション化したもの。殆ど他人のネタじゃないか。それじゃ駄目だよ。
 それ以外の、語り手の面前で進行する出来事は、描写が全体的に硬い。心霊現象とシリアル・キラーがあまり絡み合っていないので、主題を二本立てにする意味が希薄。
 “人間消失” は、事前の準備が必要である反面、当日のポジションは犯人がコントロールしたわけではないから、かなり幸運頼み。しかも結果的に容疑者を限定する働きをしているビミョーなトリックだ。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1893件
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