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[ 本格/新本格 ]
神の光
北山猛邦 出版月: 2025年09月 平均: 7.25点 書評数: 4件

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東京創元社
2025年09月

No.4 7点 まさむね 2025/12/24 21:52
 消失モノの短編5本。各編工夫を凝らし、飽きさせません。グイグイ読まされました。③あたりから幻想性が増していく点は、作者らしいと言えるけれども、好き嫌いは分かれるかもしれません。
①一九四一年のモーゼル:第二次大戦中のレニングラード。芸術的宝飾が施された部屋が邸宅もろとも一夜にして消えた。ハウよりホワイが印象的な洒落た作品。
②神の光:カジノのある砂漠の街が一夜にして消えた。その「手法」については、人によっては想定できるかも。
③未完成月光:山小屋が一夜にして消えた。ハウはともかく、ポオをモチーフにした幻想性は個人的に好み。
④藤色の鶴:平安時代から連綿と続く物語。色々と消えます。
⑤シンクロニシティ・セレナーデ:「館が消失する夢」を複数の人間が繰り返し見る。幻想小説と捉えるか否か。

No.3 8点 みりん 2025/12/04 17:50
ランキングを楽しむために新刊を漁っていますが、本作が間に合ってよかったです(ランキング予想、今日までですよ)

『一九四一年のモーゼル』はアイデアのみで評価すれば『占星術殺人事件』に匹敵するレベルかと思います。殺人のトリックではないのが玉に瑕ですが、心理の盲点を突いたようなエレガントな消失ものです。2004年初出ということで、20年も書籍にならずに埋もれていたのが信じられません。このアイデアだけで8点献上です。
ただ、この短編だけクイズの側面が強い。後半の『藤色の鶴』や『シンクロニティー・セレナーデ』あたりは消失をメインに添えるのではなく、ドラマ性で支えていただけになんか惜しい。

表題作『神の光』はギャンブルものとして開幕し、街が一つ消失する。「インセキジャネーノ?」と思ったが、さらにとんでもない真相だった。一応ロジックなるものがあり、世界史にそこそこ詳しい人間なら推理が可能ということで本格の範疇か?

私のお気に入りは『未完成月光 Unfinished moonshine』 幾度となく擦られた「エドガー・アラン・ポーの未発表原稿ネタ」で、恐らく唯一原稿の中身までしっかりと描かれた作品。「ポオにしてはなんか軽くね?」に対する言い訳もいい。大鴉に館の焼失、美女の死とポーネタ散りばめ、消失ものを演出。ポーならこんな種明かしはせず、『アッシャー家の崩壊』のようにぶん投げて終わりそう。語り手と小説家の2人のキャラはどことなく三津田信三作品っぽさもある。

『シンクロニティー・セレナーデ』は異質な雰囲気で、消失よりも館が消失する夢の共有という現象に惹かれて読んでしまう。夢と記憶の共有・集合的無意識を取り扱った幻想小説としても読める。荒唐無稽だが面白い。

No.2 7点 メルカトル 2025/11/29 22:08
一攫千金を夢見て忍び込んだ砂漠の街にある高レートカジノで、見事大金を得たジョージ。誰にも見咎められずにカジノを抜け出し、盗んだバイクで逃げだす。途中、バイクの調子が悪くなり、調整するために寄った小屋で休むが、翌朝外へ出ると、カジノがあった砂漠の街は一夜のうちに跡形もなく消えていた──第76回日本推理作家協会賞短編部門の候補に選ばれた表題作を始め、奇跡の如き消失劇を5編収録。稀代のトリックメーカー・北山猛邦の新たな代表作となる、傑作推理短編集。
Amazon内容紹介より。

最初の短編では驚きは左程ありませんでした。はいはい、どうせ物理トリックなんでしょ?ってその通りで、しかも分りづらいものでやや不満が残りました。しかしその次の表題作でハッと目が覚めました。やれば出来るじゃんと感激。ストーリー性、ドラマ性、ギャンブル性、意外性、時代性などどれを取っても一級品でエンターテインメントとして実に面白いです。以降の三編と共に物理トリックを封印し、意外なトリックを駆使した秀作が並びます。

敢えてメフィスト臭を排して描かれた短編はどれも色味が違い、デビュー作からは考えられない端正な文体で、非常に読み心地の良さを感じました。ここに来て作者の本気度を見せ付けられた気がして、新しい新本格とも言える作品をものにしたんだなあと実感しました。これは飽くまで個人的にですが、本格ミステリベスト10にランクインしそうな予感がします。

No.1 7点 虫暮部 2025/11/22 12:32
 EQの原典の方でも書いた通り、私はこの謎、ハウよりホワイが重要だと思う。本書はその点なかなか悪くない。
 「一九四一年のモーゼル」、強引だが一応スジは通っているか。
 「神の光」、ハウとの絡みでもっともらしさは感じられた。
 「未完成月光 Unfinished moonshine」、ホワイを考慮しなくて良い設定を上手く作ってある。
 「藤色の鶴」、時代背景を付け加えればこのホワイも説得力を持つんだなぁ。
 「シンクロニシティ・セレナーデ」、更に強引だが個人の妄想力は無限大ってことで(?)。

 ハウについては、私は泡坂妻夫の某短編で感激したクチだが、そういう “自分の中でのスタンダード” を持ってしまうと、それ以上に驚けるトリックはそうそう成立しないのである。本書でも、アレとアレなどは泡坂トリックの改版だな、とか思ってしまう(それ自体は上手く避けているから、作者はEQのみならず泡坂も意識して書いたんだと思う)。
 強いて言えば「未完成月光 Unfinished moonshine」(辞書引くともう一つ意味があって、そっちも意味ありげ)のブツは面白く、しかもそういう実例があるってことで一転ゾクッと来た。


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