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まさむねさん
平均点: 5.89点 書評数: 1282件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.1282 7点 最後のあいさつ- 阿津川辰海 2025/12/28 22:58
 人気ドラマ「左右田警部補」のファイナルシーズン最終回直前、主演を務める雪宗衛の妻が密室状態の中で殺害される。密室の「中」にいた雪宗は、自供もあって逮捕され、最終回「最後のあいさつ」はお蔵入りに。しかしその後、雪宗は自ら推理を披露し、無罪を勝ち取る。30年後、新たな殺人事件が発生して…。
 現在と過去の事は勿論のこと、それらを取り囲み、つないでいく複数の謎も魅力的でグイグイ読まされました。作家・風見創のドキュメンタリー調での進行も良。精緻に組み立てられています。
 ちなみに、今年の映画と言えば「国宝」。役者の業というテーマは通底する部分があります。その描き方には個人的に思うところもあるのですが、力作であることは間違いなく、作者の新たな一面を見た気もしました。

No.1281 7点 神の光- 北山猛邦 2025/12/24 21:52
 消失モノの短編5本。各編工夫を凝らし、飽きさせません。グイグイ読まされました。③あたりから幻想性が増していく点は、作者らしいと言えるけれども、好き嫌いは分かれるかもしれません。
①一九四一年のモーゼル:第二次大戦中のレニングラード。芸術的宝飾が施された部屋が邸宅もろとも一夜にして消えた。ハウよりホワイが印象的な洒落た作品。
②神の光:カジノのある砂漠の街が一夜にして消えた。その「手法」については、人によっては想定できるかも。
③未完成月光:山小屋が一夜にして消えた。ハウはともかく、ポオをモチーフにした幻想性は個人的に好み。
④藤色の鶴:平安時代から連綿と続く物語。色々と消えます。
⑤シンクロニシティ・セレナーデ:「館が消失する夢」を複数の人間が繰り返し見る。幻想小説と捉えるか否か。

No.1280 7点 失われた貌- 櫻田智也 2025/12/20 14:32
 作者初の長編。それが警察小説というのが、個人的にはちょっと意外でしたね。
 丁寧に作り込まれていますし、警察小説としての面白さは十分と評価するものですが、この作品、何か損をしているような気がします。
 まず、「本物の『伏線回収』と『どんでん返し』をお見せしましょう!」という謳い文句が煽りすぎ。さらに、年末のミステリランキング3冠でさらにハードルが上がりすぎ。
 いずれも作者に非はなく、特に後者は(あくまでも個人的な見解ですが)今期はこれといった注目作があまりにも少なかったことによる「単なる結果」であると受け止めています。前述のとおり、一般的にはしっかりと練られた読ませる作品だと思うのですが。

No.1279 5点 クジャクを愛した容疑者- 大倉崇裕 2025/12/11 22:19
 警視庁総務部総務課「動物管理係」の活躍を描く、シリーズ第4弾。3つの中編(長めの短編?)が収録されていて、今回登場する動物は、ピラニアとクジャクとハリネズミ。
 正直、どの作品もミステリとしては平凡で、特筆すべき点はございません。でも薄巡査と元捜査一課の鬼刑事・須藤警部補の鉄板コンビに、本作から芦辺巡査部長が加わり、結構イイ感じのチームに仕上がっています。その好ましさに1点プラスしてこの採点ということで。

No.1278 6点 朝からブルマンの男- 水見はがね 2025/12/04 22:28
 大学ミステリ研究会の先輩・後輩(ともに女性)コンビが出会う謎を扱った短編集。謎の提示は魅力的なのですが、正直肩透かし感のある短編も。気軽に読める書きぶりは嫌いじゃないです。
①朝からブルマンの男:第1回創元ミステリ短編賞受賞作。週3回、喫茶店の開店に合わせて来店し、1杯2,000円のブルーマウンテンを頼む男。でもコーヒー好きには見えない…。シンプルだけど意外性もあり、本短編集のベスト。
②学生寮の幽霊:学生寮の空き部屋に幽霊の目撃情報。密室のはずだが…凡庸。
③ウミガメのごはん :単身赴任の父が帰ってくる金曜日のご飯だけなぜか不味い。謎は面白いけど、真相はまぁ…ね。
④受験の朝のドッペルゲンガー:短いながらも複数の反転や工夫に好感。でも「汚れ」とか「洗う」とか使えばよかったのに。
⑤きみはリービッヒ:ダイヤの盗難?事件。重要な証拠が後出しという点はマイナス。

No.1277 7点 凜の弦音- 我孫子武丸 2025/11/26 22:33
 弓道に打ち込む女子高生・篠崎凜の成長を描く連作短編。
 殺人事件も起きるのですが、ミステリ度が高いとは言えません。でも主人公のひたむきさと素直さは、読んでいてとても気持ちがよく、心が洗われるような気さえしました。きっと立派な人間になるだろうなぁ。眩しいなぁ…。中田君もいい味出してるよね…ということでこの採点。

No.1276 6点 罪人の選択- 貴志祐介 2025/11/22 18:18
 4編が収録されたノン・シリーズの中短編集。うち3つはSFで、通底する何かを感じましたね。
①夜の記憶:本格デビューの9年も前の作品だそうで。書きたいことは分かるけど…。
②呪文:異星を舞台にしながらも、「諸悪根源神」を含めて、非常に考えさせられる内容。
③罪人の選択:唯一の非SF.。「AかBのいずれかに毒が入っている」パターンの進化系。
④赤い雨:正体不明の微生物「チミドロ」に蹂躙された地球が舞台で、まずはその設定が見事。微かではあるものの、力強さと希望を感じさせるラストも印象的。

No.1275 6点 ブラディ・ローズ- 今邑彩 2025/11/11 21:18
 脅迫状の差出人や二番目の妻の墜落死の謎に加え、誰もが何かを隠していそうな不穏な空気間に包まれながら物語は進みます。読中、しつこさを感じた面も正直あったのだけれど、終盤の展開でチャラ、というか納得。薔薇をモチーフにした点もいい。いかにも今邑さんらしい作品と言えるのではないでしょうか。

No.1274 6点 先祖探偵- 新川帆立 2025/11/03 18:28
 谷中銀座の路地裏で、先祖を専門に調査する探偵事務所を営む邑楽風子。風子自身、両親が誰か分からない…。なかなか興味深い設定です。
 少女との心の交流が心地よい作品や、オカルトテイストの作品など、短編ごとにメリハリがあって、飽きさせません。宮崎、岩手など何気に全国に足を運んでいて、トラベルミステリー的な要素もなくはない。様々な飲食紹介シーンも評価ポイント。
 社会派の面も強く、楽しく読ませていただきながら、「戸籍」とそれに基づいた制度のあり方についても考えさせました。個人的には読み読な1冊。

No.1273 6点 どうせそろそろ死ぬんだし- 香坂鮪 2025/10/30 22:44
 第23回『このミステリーがすごい!』文庫グランプリ受賞作。
 様々な趣向を入れ込んだ作品で、最終的に評価したい点も勿論あるのだけれど、読中のワクワク感につながっていたかという点では…ちょっと疑問。ユーモアもある割に、正直「読みにくさ」を感じながらの読書になってしまいました。工夫の余地はあったような気がします。

(以下、未読の方は注意?)
 読後、「読みにくさ」は一定やむを得なかったのか…と自問してみたのですが、やはり技術的な部分が大きい。視点の問題は措くとして、とにかく発言者が分かりにくい。その分かりにくさに意義があればまだいいのだけれど。

No.1272 7点 一次元の挿し木- 松下龍之介 2025/10/23 22:08
 第23回『このミステリーがすごい!』文庫グランプリ受賞作。本人は「大賞」受賞に自信があったようで、文庫グランプリはちょっと悔しかったようですが。
 標高5千メートルのヒマラヤ山中の湖で発掘された二百年前の人骨と、四年前に失踪した妹のDNAが一致した…。なかなかに魅力的な導入であります。
 視点となる人物が多く、時系列も入り繰りがありながらも、混乱させずに引っ張り、反転・ラストまでもっていく点は素直に評価したいですし、サスペンス要素も含め、熱の入った力作であると思います。ちょっと強引かなと感じる点もありましたが、個人的には良かった点の方が目についたかな。

No.1271 8点 有栖川有栖に捧げる七つの謎- アンソロジー(出版社編) 2025/10/15 23:35
 有栖川有栖デビュー35周年を記念した、「有栖川ワールドを自由に使って短編を競作するトリビュート企画」だそうです。錚々たる7名の作家が参加。様々な角度で楽しめる一冊だと思います。個人的には①と④がおススメ。②、⑥、⑦が次点グループかな。
①縄、綱、ロープ:青崎有吾 
 火村シリーズとしての再現度がスゴイ。二人の会話などの雰囲気はもとより、オチを含む全体構成もまさに「完コピ」と言っていいでしょう。ある意味で、ファン必読かも。
②クローズド・クローズ:一穂ミチ
 これも火村シリーズ。作者の作品は初読なのですが、火村、アリスが女子高を舞台に活躍、という設定はなかなかレアであるし、内容としても好感。
③火村英生に捧げる怪談:織守きょうや
 これも火村シリーズ。小ネタの集合体という感は否めないかも。最後に登場?する別シリーズキャラクターにはちょっとにんまりしたけど。
④ブラックミラー:白井智之
 モチーフは当然「マジックミラー」。でもソロで火村が出演。白井智之&アリバイ系がそもそも珍しく、マジックミラーの元ネタを活かしながらの作者らしさの演出は流石。内容的には本作中のベストか。
⑤有栖川有栖嫌いの謎:夕木春央
 有栖川作品を読み尽くしているのに、酷評する男の謎。動機が弱すぎるし、設定にも穴があるような…。
⑥山伏地蔵坊の狼狽:阿津川辰海
 連作短編集である「山伏地蔵坊の放浪」をモチーフにする渋さに好感。確かに「狼狽」していますし、締めも粋でした。
⑦型取られた死体は語る:今村昌弘
 最終話でようやく学生アリスシリーズ。でも、序盤からスマホが登場するなど時代設定は現在に移行されています。ダイイング・メッセージ風からの展開は面白かったけれど、アレでソコまでするかなぁ、という違和感も正直あったかな。

No.1270 7点 禁忌の子- 山口未桜 2025/10/11 23:12
 第34回鮎川哲也賞受賞作。救急医・武田の元に搬送されてきた溺死体は、武田と瓜二つであった…。導入から惹きつけられます。
 その真相は、おそらくは多くの方が想定するとおりだと思うのですが、それは物語の一端に過ぎません。読中深く考えさせられる部分が多々あり、中盤以降は、驚きとともにグイグイ引っ張られました。探偵役・城崎の描き方にも好感。何より、タイトルの浮かび上がらせ方が素晴らしい。デビュー作としては出色の出来栄えです。

No.1269 7点 アミュレット・ワンダーランド- 方丈貴恵 2025/10/05 22:36
 犯罪者御用達のホテルを舞台にしたシリーズ第2弾。
 前作に比べ、ホテル探偵も含めた登場人物の魅力が強く出ている感じ。切迫感もありつつ、絶妙なコミカルさも兼ね備えていて、エンタメ性も増しています。短編ごとにパターンを変えている点にも好感。マイベストは「落とし物合戦」かな。

No.1268 8点 サーカスから来た執達吏- 夕木春央 2025/09/28 21:29
 借金に苦しむ華族の令嬢・鞠子と、サーカス団出身の借金取り・ユリ子という、少女コンビによる宝探し冒険譚。鞠子の成長譚でもあります。
 二人(と馬一頭)の冒険も勿論楽しいのだけれど、終盤の連続転回も素晴らしい。大正という時代設定もマッチしていて、純粋にワクワクしながら楽しく読ませていただきました。何といってもユリ子がスゴイ。鞠子&ユリ子(&かつよさん)の活躍を、また読みたいものです。

No.1267 6点 下り特急「富士」(ラブ・トレイン)殺人事件- 西村京太郎 2025/09/23 18:48
 とある事件で刑に服していた元刑事・橋本豊は、網走刑務所を出所する際、所内で死亡した宇野晋平の遺品を東京の指定先まで届けるよう、所長から依頼される。宇野に所内で命を救われた恩もあり、依頼を引き受ける橋本。旧知の青木亜木子とともに、網走から東京、さらに寝台特急「富士」で宮崎に移動することに…。
 不可解な謎の提示や急転換もあり、グイグイ引っ張られます。ラストまでサスペンスフルな展開。青木との関係も華を添えています。結構強引な面は否定できないのですが、氏のトラベル・ミステリーの中で強く記憶に残りそうな作品。前日譚となる(らしい)、「北帰行殺人事件」も今後読んでみようかな。

No.1266 6点 私はチクワに殺されます- 五条紀夫 2025/09/18 22:43
 タイトルをうろ覚えで、「チワワ」に殺されるのかと思い込んでいたところ、某書店の本棚の前で「え?チクワ?竹輪?」と勘違いに気付き、そうなるとまぁ、手に取らざるを得なくなる私であります。
 文庫で200ページ弱。ある男の手記から始まりまして、その後の展開も想定しやすそうだな…と思いながら読み進め、あれ?こんな単純に終わるはずないよね…と逆に不安にさせられつつ、ラストはそう来たか…といった感じ。ラストの評価は色々ありそうだけど、個人的には肯定的に捉えています。そういえば、チクワ、最近食べてないな。

No.1265 5点 ペンギンを愛した容疑者- 大倉崇裕 2025/09/14 22:19
 警視庁いきもの係シリーズ第3弾。前作は長編でしたが、本作は中短編集に戻っています。
 ミステリの部分よりも、薄圭子巡査と元捜査一課の鬼刑事・須藤友三警部補のやり取りを楽しむべき作品かも。天然ボケ&ツッコミの相棒感は嫌いじゃないです。
 今夏登場する動物たちは、ケープペンギン・シバヤギ・リスザル・ヨウム(オウムとは別らしい)。作者は動物が好きなんだろうなぁ。

No.1264 8点 阪急電車- 有川浩 2025/09/08 22:26
 阪急今津線を舞台に、緩やかに繋がる16短編。あー、いいね。純粋にいいね。恋の始まりも終わりも、グッとくるねぇ。登場人物一人ひとりの人生を応援したくなるねぇ。世間は色々あるけど、こういう小さな繋がりを積み重ねられるのなら、日本の未来はまだまだ明るいんじゃないか…そんな思いを抱きました。
 ミステリか?と問われるとちょっとアレなのですが、前向きになれる、心地よい読書時間をいただいたので、この採点で。今津線には人生で2回しか乗ったことがないので、機会があれば、いくつかの駅に降り立ってみようかな。

No.1263 5点 あなたに会えて困った- 藤崎翔 2025/09/06 21:45
 「逆転泥棒」と改題された文庫版で読了。ヒットした「逆転美人」の刊行が2022年10月で、本作の改題+文庫化が2023年10月。出版社の営業戦略への評価は置いておくとして、本作は事後的な「逆転シリーズ」って位置づけでいいのかしら。
 他の逆転シリーズ(逆転美人+逆転ミワ子)とは仕掛けの根っこが異なるけれども、まぁ確かに様々「逆転」ではあるか。でもなぁ…その逆転が物語全体に及ぼす重要性が低すぎるような気も。「それで?」などと思っちゃたりして。ちなみに、1990年代の社会・芸能ネタはとても懐かしく読ませていただきました。

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まさむねさん
ひとこと
ミステリとしての特別な知識なく乱読していますので、私の書評はあまりアテにしないでくださいね。
好きな作家
道尾秀介・東野圭吾・東川篤哉
採点傾向
平均点: 5.89点   採点数: 1282件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(58)
有栖川有栖(45)
東川篤哉(44)
森博嗣(37)
島田荘司(29)
道尾秀介(28)
伊坂幸太郎(26)
西村京太郎(24)
米澤穂信(23)
歌野晶午(21)