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[ パスティッシュ/パロディ/ユーモア ]
殺人事件に巻き込まれて走っている場合ではないメロス
五条紀夫 出版月: 2025年02月 平均: 6.50点 書評数: 2件

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KADOKAWA
2025年02月

No.2 6点 人並由真 2025/06/30 05:04
(ネタバレなし)
 太宰治の名作『走れメロス』の大筋と本文の一部を借款しながら謎解き要素を導入して、全5話の連作ミステリ集にしたパロディ作品。
 作者は舞台となった古代ギリシアの史実も探求したようで、ちゃんとその時代にいたはずの意外な歴史上の人物も登場する(一方で、メタギャグ的なキャラクターも用意されている)。

 原典の『走れメロス』(大昔に読んだ)を青空文庫で確認すると、1万字強、400字詰め原稿用紙にして、改行・余白込みで26~30枚と短い短編だと改めてわかる。そのため原典ではメロスが自分とセリヌンティウスの命をかけて結婚式を祝いに行く妹の固有名詞などはネーミングされていないが、パロディの本作では「(妹だから)イモートス」と命名。さらにとある事件の目撃者は「ミタンデス」(ガトランティスの監視役ミルかい)、ある事件の被害者は「キラレテシス」……などなど、総じて愉快なネーミングで登場する。この趣向だけで笑える。

 各編のトリックやミステリ的な創意は、現代ミステリとしてはまあ、中の中~上といったレベル。たぶん作者が一番の自信作でヤマ場にもってきたらしいアイデア(トリック)は、惜しいかな評者がこの10年の間に読んだ作品のなかに先例めいたものがある。
 むしろ個人的には、第3話のバカバカしいアイデアが最もオモシロかった。もしかしたら作者の一番の自信ネタは、こっちかも?
 
 著者の作品を読むのは、デビュー作に次いでまだ二冊目だけど、書き手本人が楽しみながらミステリを組み立てているような気配があり、その辺がよろしい(いや実際には、余人にはわからぬ苦労のほどが、きっと色々あるんだろうけど)。
 未読の作品もおいおい手に取っていこう。

No.1 7点 メルカトル 2025/06/21 22:48
自身の身代わりとなった親友・セリヌンティウスを救うため、3日で故郷と首都を往復しなければならないメロス。しかし妹の婚礼前夜、新郎の父が殺された。現場は自分と妹しか開けられない羊小屋。密室殺人である。早く首都へ戻りたいメロスは、急ぎこの事件を解決することに!? その後も道のりに立ちふさがる山賊の死体や、荒れ狂う川の溺死体。そして首都で待ち受ける、衝撃の真実とは? 二度読み必至の傑作ミステリ!
Amazon内容紹介より。

『吾輩は猫である』と並んで日本で最も有名な書き出しの『走れメロス』のパスティッシュです。原作は読んでいないので、どこまでが筋をなぞっているのかよく解りませんが、ミステリならではのガジェットが満載の好篇だと思います。決して色眼鏡で軽んじてはいけない本格ミステリです。勿論現代の話ではありませんので、科学捜査とかとは無縁の世界ですが、基本的には現代物と通底しており様々なトリックを楽しめます。

もじったネーミングセンスも良いので、誰が誰だかすぐに判ります。また、メロスに簡単に感情移入出来ますので、話にもすんなり入って行けます。殺人事件そのものはそれ程謎めいてはいないですが、解決編が一々面白いのでストンと腑に落ちます。文章も紀元前の物語とは思えないほど解りやすく、意外な人物も登場して、最後まで楽しめます。


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五条紀夫
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