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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1948件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.1948 7点 神の光- 北山猛邦 2025/11/29 22:08
一攫千金を夢見て忍び込んだ砂漠の街にある高レートカジノで、見事大金を得たジョージ。誰にも見咎められずにカジノを抜け出し、盗んだバイクで逃げだす。途中、バイクの調子が悪くなり、調整するために寄った小屋で休むが、翌朝外へ出ると、カジノがあった砂漠の街は一夜のうちに跡形もなく消えていた──第76回日本推理作家協会賞短編部門の候補に選ばれた表題作を始め、奇跡の如き消失劇を5編収録。稀代のトリックメーカー・北山猛邦の新たな代表作となる、傑作推理短編集。
Amazon内容紹介より。

最初の短編では驚きは左程ありませんでした。はいはい、どうせ物理トリックなんでしょ?ってその通りで、しかも分りづらいものでやや不満が残りました。しかしその次の表題作でハッと目が覚めました。やれば出来るじゃんと感激。ストーリー性、ドラマ性、ギャンブル性、意外性、時代性などどれを取っても一級品でエンターテインメントとして実に面白いです。以降の三編と共に物理トリックを封印し、意外なトリックを駆使した秀作が並びます。

敢えてメフィスト臭を排して描かれた短編はどれも色味が違い、デビュー作からは考えられない端正な文体で、非常に読み心地の良さを感じました。ここに来て作者の本気度を見せ付けられた気がして、新しい新本格とも言える作品をものにしたんだなあと実感しました。これは飽くまで個人的にですが、本格ミステリベスト10にランクインしそうな予感がします。

No.1947 5点 私の中にいる- 黒澤いづみ 2025/11/27 22:22
母子二人暮らしのアパートで発見された、女性の変死体。亡くなっていたのは母親、そして殺してしまったのは、日々虐待を受けていた小学生の娘だった。事件以降、“人”が変わったような言動をとりはじめる少女。何かが、おかしい。原因は過度の精神負荷による、解離性同一性障害……多重人格のせいなのか。では――「私の中にいる」のは、誰? 『人間に向いてない』で注目の著者が、読者に突きつける社会の底。
Amazon内容紹介より。

これぞ暗黒小説。ホラーというかイヤミスというか、兎に角真っ暗な雰囲気で、読むのに嫌悪感を覚えました。これを楽しいと感じる読者は余程の本好きなのだと思います。しかし、油断していました。こんな事になろうとは夢にも思いませんでした。これをどう着地させるのかで評価が決まるだろうと考えていましたが、そっちか!と想定外の変化球と言うべき、驚きの展開が待っていました・・・。

まあしかし、特に後半は説教臭い、そして理屈っぽいので終始うんざりした気分で読まざるを得ない感じになります。何でこうなるんだろう、と思う時点である意味作者の思惑通りに心に大きなダメージを負った形となった気がします。読まなければ良かったとは思いませんが、決して生きる希望が見えてくるような小説ではありません。

No.1946 5点 ナ・バ・テア- 森博嗣 2025/11/24 22:28
信じる神を持たず、メカニックと操縦桿を握る自分の腕だけを信じて、戦闘機乗りを職業に、戦争を日常に生きる子供たち。地上を厭い、空でしか笑えない「僕」は、飛ぶために生まれてきたんだ??大人になってしまった「彼」と、子供のまま永遠を生きる「僕」が紡ぐ物語。 森博嗣の新境地、待望のシリーズ第二作!
Amazon内容紹介より。

相変わらず森博嗣は文章が無機質だなあ。余り小説を読んだ充足感がありません。疲労感もありません。読み易いのは良いですが、余りにも情感がないので、感情移入の余地がないです。いくらか感傷的になれるのは、主人公で戦闘機のパイロットのクサナギが自問自答するシーン位ですね。命の危機と隣合わせに生きるとはどういう心境なのか、その辺りの描写が淡白でちょっと想像が付きません。

それにしてもAmazonのレビューを見ても、森博嗣フリークの多さは不思議な気持ちがします。森LOVEな人間はやはり理工系なのでしょうかね。私は根っからの文系なので理解出来ませんが、言えるのはもっとデビュー作の様な手の込んだ作品を書いて欲しいという事です。本気で本格ミステリを書く気が無くなってしまったのか、興味を失くしたか、想像でしかものが言えませんが、当時の熱を取り戻してもらいたいものです。

No.1945 6点 怪談狩り 黄泉からのメッセージ - 中山市朗 2025/11/22 22:39
あの世からのメッセージは、さまざまな形でこの世に出現し、私たちに語りかけてくる――。親族に不幸があるたびに夢枕に現れる生首、幼い子どもをひき逃げした犯人を探し求める刑事が見つけた金属片、夜道に佇む男の子が手にした新聞紙、「俺は16歳までに死ぬ」が口癖だった同級生の家を代々襲う数奇な運命……。日常に潜む小さな違和や怪異を丁寧にすくいあげる。「新耳袋」の著者が全国から蒐集・厳選した戦慄の怪談実話集。
Amazon内容紹介より。

実話かフィクションかは知りませんが、なかなか良く出来た怪談が多かったように思います。実際に起こった怪異に対してその因果をはっきりさせているのが心地よいです。ほとんどが掌編でありながら短いと思わせない辺りは、流石に怪談話界隈で有名な著者の仕事だと感じました。

本シリーズは多くのファンの間で評価されており、信頼度は高いものがありました。私が最も感動したのは『赤い手袋』で、怪談で涙したのはこれが二度目です。
全般的に怖い話は少なく、逆に黄泉からのメッセージに救われた体験談が多いので、霊の存在には縁のない私ですが障りのない穏やかな霊も結構いるのだという安心感を得られました。現世に未練を残しながら逝った人々の哀しみと、彼らが生前縁のあった人に対して警告を発している事を考えると、健気さとものの憐れを思い知らされます。

No.1944 6点 デビル・ボード - 狂気太郎 2025/11/21 22:26
【あらすじ】 ある財界人が主催するパーティに招かれた各界の著名人16名。
彼らが謎の老紳士から「余興に」と言われて参加したのは、『デビル・ボード』と呼ばれる悪魔のボードゲームだった。
勝者の報酬は大願成就。金を望むなら現在の日本円にして100兆円は下らない賞金が得られるという。
だが、プレイヤーたちは自分の番がくるたびにゲーム盤の世界に吸い込まれ、凶暴な猛獣、悪辣なトラップ、強大なモンスターと「生身」で対峙しなくてはならない。
ゲームでの敗北はすなわち、死を意味するのだ。
次々と、無残に、あっけなく、死んでいくプレイヤーたち。
そんな中、ホラー小説家の洞成一は、持ち前の妄想癖と病的な用心深さにより、何とか死の危機を回避していくのだが……。
Amazon内容紹介より。

ジャンルで迷いましたが、よくあるラノベのサバイバルゲームに内容が近いのでファンタジーとしました。読む前はどれ程グロいのだろうと期待していましたが、大したことはありませんでした。狂気太郎、その名に恥じぬスプラッターだと思っていたのに残念です。しかし、決して面白くない訳ではなく、抑揚を付け乍ら読者が飽きないように工夫されていると思いました。

主人公は洞(うつお)成一ですが、時にほかのプレイヤー目線で描かれていて、誰がどんな戦い方をしてアイテムをゲットしたりポイントを増やしていったしたのかが都度描かれています。一人で戦う者、共闘する者、下僕を連れて敵を倒して行く者など様々で、死者が増えていくに従ってそれぞれの個性が浮き彫りになっていく過程はなかなか楽しめました。特にお笑い芸人の山本岡田の飄々としたとぼけぶりや元傭兵の軍事評論家菅原克也の死に様など、特に印象に残りました。エンディングは予想外の展開で、これは賛否両論でしょうかね。

No.1943 8点 ネズミとキリンの金字塔- 門前典之 2025/11/17 22:45
地方都市を支配する一族が営む総合病院に隠された深淵なる闇。続発する怪事件に立ち向かう偏屈探偵・蜘蛛手啓司は、過去から連綿と受け継がれる“負の歴史”に終止符を打つ事ができるのか……。第11回鮎川哲也賞受賞の実力派作家が放つ渾身の書下ろし長編本格ミステリ!  作家・二階堂黎人氏推薦「奇想ミステリーの詩美性のある謎と、堅牢な建築学的不可能犯罪が、火花を散らして融合した希有な作品である。」
Amazon内容紹介より。

うーむ、実に面白い。例え蜘蛛手が掴み所が無かろうが、密室トリックがバカミスだろうが、それすらも愛おしく思えます。こうした凝りに凝った本格ミステリを読むと、又してもこれが言いたくなります。日本のミステリは世界一だ、と。細部まで神経が行き届いた本作は建築に関して非常にデリケートであり、作者の得意分野として面目躍如しています。

本年の国内作品の収穫の一つであるのは間違いないですが、何せ知名度が低いせいか認知され難くランキングには縁がないかも知れません。それでも私は本作を推します。
犯人の目処が付きやすいのが難点ですが、それでも次から次へと開示される真実には目を瞠るものがあります。タイトルすら奇を衒った訳ではありません、ちゃんと意味があります。そこまでするかと、門前の読者へのサービス精神には頭が下がります。作者の新たなる代表作と言っても過言ではないと思います。

No.1942 5点 ザ・ロード- コーマック・マッカーシー 2025/11/13 22:38
空には暗雲がたれこめ、気温は下がりつづける。目前には、植物も死に絶え、降り積もる灰に覆われて廃墟と化した世界。そのなかを父と子は、南への道をたどる。掠奪や殺人をためらわない人間たちの手から逃れ、わずかに残った食物を探し、お互いのみを生きるよすがとして――。
世界は本当に終わってしまったのか? 現代文学の巨匠が、荒れ果てた大陸を漂流する父子の旅路を描きあげた渾身の長篇。ピュリッツァー賞受賞作。(解説:小池昌代)
Amazon内容紹介より。

死に瀕した世界。舞台は北米と思われます。「彼」と「少年」はそんな果てしなき旅の途中で出会い、親子として道行をする事になります。彼らは食料を積まれたショッピングカートを押しながら、少しでも暖かい場所を求め南に向かいます。本作は旅で出会った人々との僅かな触れ合いと、二人の何気ない会話で成り立っており、読点がほぼなく会話文の鍵括弧すらない異形の作品となっています。

雰囲気は殺伐としていて、只管食料を求めて彷徨う親子の、絶望の中に僅かな希望を抱きながら生きていく姿が映し出されていくばかり。ストーリー性や劇的な展開はありません。よって本作は読者に豊かな想像力を行使する事を強要します。私の様な想像力の欠如した読者は駄目なんですね。例えば荒廃する世界に、幾つかの並べられた生首、或いは両足を切断され止血処置されて横たわる男、これらから想像されるものは私でも結論付けられます。しかし、この作品はそれを遥かに超えるものを強いて来ますので、読者によって評価が割れるのは必然と言えるでしょう。これを読むにはある程度の覚悟が必要となると思います。

No.1941 5点 狂乱家族日記 拾四さつめ- 日日日 2025/11/10 22:23
生死は問わない。乱崎家を確保せよ。ラストエピソード「地下帝国編」突入!
Amazon内容紹介より。

余りにも長大になり過ぎ、キャラも次々と増えて何が何だか分からないカオス状態に陥りつつあります。物語としては既に終結していても可笑しくない訳で、やや蛇足の様に感じてしまいます。久しぶりに本格的なバトルを楽しめたのは良かったですが。

今回は雹霞が最も目立っていて、過去最強の敵に立ち向かいます。雹霞は元々殺戮兵器として造られたもので、敵はその後続機で地力では彼を上回っています。果たしてそのバトルの行方は・・・次巻に続くってな感じで、番外編を除いていよいよ本編最終巻を迎えます。まあ色々ありましたが、それなりに楽しめて読んで損はなかったと思っています。あまり間を空けると、又してもストーリーを忘れてしまいかねないので早いうちに読みたいですね。

No.1940 6点 ミステリ・オールスターズ- アンソロジー(国内編集者) 2025/11/07 22:45
本格ミステリ作家クラブ設立10周年記念の書き下ろしアンソロジーが文庫化!! 辻真先、北村薫、芦辺拓、綾辻行人、有栖川有栖などベテラン執筆陣と新鋭たち全28名が一堂に会した本格ミステリの最先端!
Amazon内容紹介より。

全23名のミステリ作家による短編と、文庫化に際して有栖川有栖、光原百合、綾辻行人、法月綸太郎、西澤保彦によるリレー・ミステリ『かえれないふたり』の計24編が収録されています。著名な作家が並んでいますのでほとんど読んだ事のある人ばかりですが、初読みが早見裕司、山沢春雄、松本寛大の三名。

一言で言えば玉石混交、ですかね。あまり記憶に残りそうにないものが多い中、面白かったのは鳥飼否宇『二毛作』、松本寛大『最後の夏』、飛鳥部勝則『羅漢崩れ』、太田忠司『騒がしい男の謎』、門前典之『神々の大罪』です。中でも飛鳥部勝則が最優秀作だと思います。ホラー風味の本格ミステリですが、起承転結が確りしており、短い中にも内容がぎっしり詰め込まれていて、伏線回収も文句なしの傑作でした。ところで柄刀一の『ある週末夫婦のレシート』は一体何なのでしょうか。余りにも問題があり過ぎて問題作とさえ言えない代物ですよ。ああ云うのアリなんですかね、やりたい事は判りますが、それにしても・・・。
リレー小説はほとんど違和感なく、それぞれが個性を消して上手くリレーされています。これもなかなかの好印象でした。

No.1939 8点 抹殺ゴスゴッズ- 飛鳥部勝則 2025/11/04 22:24
ゴッドが好きな高校生の詩郎が出逢った、自分が空想で創ったはずの神の正体とは……? 地元の名士が殺害され、脅迫していたという謎の怪人・蠱毒王とは何者か……? 二つの迷宮的な事件が複雑怪奇に絡み合い、恐ろしいカタストロフィが待ち受ける本格超大作!
Amazon内容紹介より。

短編を挟みながら遂に大長編を引っ提げ復活したかと思われたのですが、昨年『フィフス』という同人誌で既にこっそり復活を遂げていた飛鳥部勝則。いずれにしても有志と共に祝いたいですね。
本作は令和と平成の二部構成で交互に配置されています。勿論登場人物もそれぞれ違います。令和パートは冒険譚を挟みながらの青春小説の様相で、名画をモチーフにした辺りはらしさが出ています。平成パートは乱歩さながらの雰囲気満点で陰鬱な空気が漂っています。

流石に長かったとの印象は否めませんが、最終盤の畳み掛けるような展開は圧巻で、感動しました。又不思議な高揚感に包まれました。永きに亘って待った甲斐があったというものです。ただそれまでがやや地味で所謂鈍器本なので、今年のベスト10に入って欲しいと思っていますが、難しいかな~。

No.1938 5点 醗酵人間- 栗田信 2025/10/29 22:41
「戦後最大の怪作SFの噂。酒を飲んで発酵する謎の怪人。あまりのバカバカしさは、むしろ感動を呼ぶ」と評され、「BOOKMAN」誌の〝SF珍本ベストテン〟第6位を獲得した『醗酵人間』(1958年刊)。そして、なぜか「醗酵人間」に対抗意識を燃やし、LSDで人格変換を起こす主人公の活躍を描く『改造人間』(1965年刊)を同時収録する。
Amazon内容紹介より。

まず最初に言っておきたいのは、「巻末資料」と云う名の解説を先に読んではいけないという事です。重大なネタバレをしています。
本作品集は三篇の長編と四篇の短編を収録しています。表題作こそ長編の体を成していますが他二編は連作短編集のような形式であり、全体的に語り手がコロコロ変わり纏まりに欠け、ゴチャゴチャして記憶に残りません。噂によると『醗酵人間』のみで40万円ほどで取引されていたらしいですが、その内容は値段に見合うものではありません。珍品というだけあって、荒唐無稽なSFで余程の物好きしか読まないであろう事は想像に難くありません。

むしろ私が注目したのは『台風圏の男』で、冒頭の『蜘蛛男出現』。これは超面白かったですね。全編このレベルであれば大傑作になったに違いありません。しかし、これは第一章として完結してしまっていて、その後はガラリと話が変わっていきます。結局一体誰が台風圏の男なのかすら判然としません。短編を組み合わせた作品なので仕方ありませんね。まあ何事も経験という事で甘めの採点となっております。

No.1937 6点 読むだけでグングン頭が良くなる下ネタ大全- 評論・エッセイ 2025/10/25 22:27
コーンフレークは性欲を抑えるために開発された?
「正常位」の名には人類史が宿っている?
アリストテレス、ガンディー、フロイト、正岡子規、医学者、性科学者……先人たちの飽くなき探究と実験により得られた性科学的知見の数々。著者ならではの考察と多角的な視点から生まれた、下ネタの〈総合知〉と称すべき賢者の書。
Amazon内容紹介より。

タイトルは下ネタですが、これは最早学術書と呼んで差し支えないと思います。それは巻末の夥しい文献一覧を見ても分かります。「読むだけでグングン頭が良くなる」事はありませんが、確かに知的好奇心を擽られるのは間違いありません。キリスト教、神話、古代の哲学者や思想家、殆どのページに付帯している脚注など、これでもかと知識と博覧に溢れています。

ただ、どこまでも男目線で書かれているので、女性が読んだらどうなんだろうとは思いますね。間違っても本書を男性から女性にプレゼントしてはいけません。エロを期待すると拍子抜けしますよ、飽くまで下ネタを学究的に突き詰めようとしていますので、不真面目な読者には容赦しません。何だこんな内容だったのかと不満を抱いた方は、どんだけエロいんだと非難されそうなので注意して下さい。興味本位の軽い気持ちで読んではいけない、適度に知的なエッセイです。

No.1936 6点 光秀の定理- 垣根涼介 2025/10/22 22:31
永禄3(1560)年の京。
牢人中の明智光秀は、若き兵法者の新九郎、辻博打を行う破戒僧・愚息と運命の出会いを果たす。
光秀は幕臣となった後も二人と交流を続ける。やがて織田信長に仕えた光秀は、初陣で長光寺城攻めを命じられた。
敵の戦略に焦る中、愚息が得意とした「四つの椀」の博打を思い出すが――。
何故、人は必死に生きながらも、滅びゆく者と生き延びる者に分かれるのか。
Amazon内容紹介より。

主要登場人物は少ないですが、其々強い信念を持っており、それらのぶつかり合いが本作の読みどころとなっています。又各人物像が確りと確立されていて非常に読み応えがあります。光秀が主役という訳ではありませんが、その人となりや生い立ちなどが知れて勉強になりました。
愚息の宗派を超えた仏教観の凄みと新九郎の元々人並み外れた武術の進化が上手く組み合わさって、絶妙のコンビ感が生まれます。

光秀と言えば本能寺の変ですが、これに関しては詳しく語られていません。生真面目で不器用な光秀と破天荒でありながら優れた戦略家の信長とは、水と油の様に語られる事が多いですが、ここではその確執は本質的な部分で省略されており、その分最後に何故謀反を起こしたのか、愚息と新九郎が考察します。歴史小説としてはそれなりに良く出来ていると思います。ただ、確率論については、その全容は完全には理解が及びませんでした。

No.1935 6点 アスカ―麻雀餓狼伝―- 吉村夜 2025/10/19 22:23
本格麻雀小説登場!!
祖父の背中を追い、高校生・アスカは麻雀の世界へ飛び込んだ。そこへいまへの漠然とした不安を覆す、本当の生き方があると信じて。そして一人の美女との出会いが、彼を博打の更なる深みへ誘う…!!
Amazon内容紹介より。

良く出来た麻雀劇画をそのまま小説にした様な作品(褒めてます)。登場人物は多くないもののキャラは立っていますし、主人公のアスカの心理描写が巧みなので嫌でも感情移入してしまいます。なかなか本格的な麻雀小説で、闘牌シーンもここぞと云う時には迫真の書きっぷりを示しており、メリハリが効いていて良いと思います。

博徒同士の騙し合いや凌ぎ合いは読んでいて、ハッとさせられるシーンも結構あり面白さは文句ありません。文体はラノベとは言い難く、普通に麻雀小説としての体裁を保っています。ただ最後にして最大の対決はもう少しヒリついた雰囲気が欲しかったところです。欲を言えばですが。ややあっさり終わり過ぎで、もっと頁を割いても良いから緊迫感のある闘牌を書いて貰いたかったですね。
それにしても手積みではなく全自動卓の時代に裏技を駆使するのは難しくなったのに、敢えてそれに挑戦した心意気は買えると思いました。

No.1934 4点 モンテスキューノート アガタ2- 首藤瓜於 2025/10/17 22:35
若い女性がサバイバルナイフで刺され、顔を激しく傷つけられたうえに片目を抉りとられるという異様な殺人事件が立て続けに発生した。捜査本部で被害者の接点を探る青木一は何か助言を得ようと鵜飼縣とともに元精神科医のレイチェルの部屋に集まって事件の概要を説明したところ、レイチェルが異常なほどに動揺し、ワイングラスを取り落としてしまう。その時に漏らした言葉が気になってしかたがない縣は、彼女がかつて行った犯罪者の精神鑑定のカルテを調べるよう桜端道に指示して、十年数前に鑑定した凶悪犯が来日していることを突き止めるも、第三の事件の発生とともにレイチェルの失踪を知らされる……。
Amazon内容紹介より。

どこかで読んだ様な既視感のあるサスペンス。縣、道のコンビは警察関係者であるにも拘らず、捜査班とは別に独立した形で事件に関わっており、違和感があり過ぎます。Amazonのレビューにある様にご都合主義というか、全てに於いて予定調和で進みサプライズ的要素が殆ど見当たりません。途中で過去の類似事件に言及されますが、そこで動機については説明したとばかりに、本事件での何故被害者が片目を抉られているのかには触れられていません。まあ理解出来ないではありませんが、殺害に至るまでの心理状態が描かれておらず不親切です。

全然面白くないという訳ではありませんが中身が薄っぺらい感は否めません。会話文が多い割りには内容がすんなり頭に入って来ない印象で、文体が私には合いませんでした。
蛇足ですが、内容がこれで306ページの本書に2255円も出費させられたら堪ったものではありませんね。最近、特に講談社の単行本に限らず文庫本も、いささか高価に過ぎる気がします。コスパ悪すぎ。

No.1933 6点 羊殺しの巫女たち- 杉井光 2025/10/14 22:32
「十二年後、次の祭りの日に、ここでまた集まろうよ。みんなで」
山に囲まれた早蕨部村で12歳を迎える6人の少女たちは、未年にのみ行われる祭りの巫女に任命される。それは繁栄と災厄をもたらす「おひつじ様」を迎えるため、村の有力者たちが代々守ってきた慣習だった。祭りの日、彼女たちは慣習に隠された本当の意味を知る――。そして12年後、24歳になった彼女たちは、村の習わしを壊すというかつての約束を果たすため、村に集う。脈々と受け継がれた村の恐るべき慣習と、少女たちの運命が交錯する中、山で異様な死体が発見される。
Amazon内容紹介より。

殆どが平坦な道を進む通常運転です。一向に盛り上がりませんし、ホラーとして怖くないです。ミステリとしての方がまだしも評価出来るかも知れません。それにしても長いわ。もう少し短く出来たでしょう。

書き様によってはもっと面白い話にも仕上げられたはずなのに、余りにも殺人事件そっちのけで少女達とその12年後の姿を追い過ぎて、何がやりたかったのかよく理解出来なかったというのが個人的な感想です。しかも少女達の書き分けが上手くなくキャラが立っていない印象が強いです。こう云うのは三津田信三とかに任せて、この人は青春ミステリでも描いていた方が身の丈に合っていると思うんですけどねえ。それと、らしい雰囲気がなく密度がかなり薄い感じがしました。

No.1932 9点 探偵小石は恋しない- 森バジル 2025/10/11 22:43
小石探偵事務所の代表でミステリオタクの小石は、名探偵のように華麗に事件を解決する日を夢見ている。だが実際は9割9分が不倫や浮気の調査依頼で、推理案件の依頼は一向にこない。小石がそれでも調査をこなすのは、実はある理由から色恋調査が「病的に得意」だから。相変わらず色恋案件ばかり、かと思いきや、相談員の蓮杖と小石が意外な真相を目の当たりにする裏で、思いもよらない事件が進行していて──。
Amazon内容紹介より。

バラバラ死体や首なし死体、密室や孤島や館が出て来なくても、こんな面白いミステリが書けるとは・・・。今から本年度のランキングが楽しみです。
内容については上記位なら大丈夫だと思いますが、何を書いてもネタバレに繋がりそうなので下手な事は言わぬが花。本作を本当に楽しみたいなら、うっかりどこかでネタバレされないうちに読みましょう。








【ネタバレ】









作中に『方舟』『GOTH』『六人の嘘つきな大学生』『魍魎の匣』『名探偵のいけにえ』『十角館の殺人』が出て来ます。別にそれらのネタバレをしている訳ではありませんが、作者のミステリに対する並々ならぬ熱情が伝わってきます。
本作をありがちな恋愛ミステリと思ったら大間違いです。又、第一章から第三章まで読んだ時点でああ、二人は普通に探偵しているじゃんと思ったとしたらそれも大間違いです。とにかく騙されます。伏線は十分張られていて最初のページを捲った瞬間から既にほとんどの読者が作者の掌の上で踊らされていると考えて間違いありません。いや、参りました。

No.1931 6点 謎好き乙女と壊れた正義- 瀬川コウ 2025/10/08 22:36
その青春(ミステリ)は間違っています。紫風祭。藤ヶ崎高校の学園祭を早伊原樹里と回ることになった春一は、その道中で相次いで“謎”に遭遇する。開会式で用いる紙ふぶきの消失。模擬店と異なる宣伝看板を並べる実行委員。合わない収支と不正の告発。初夏の一大イベント真っただ中で起こる事件を追う中で、二人は学祭実行委員長・篠丸の暗躍を知る……。正義とは何か。犯人は誰か。切なくほろ苦い青春ミステリ、第2弾。
Amazon内容紹介より。

正直言いますと、一章の途中で何度も挫折しかけました。もう読むのを止めようか、今ならまだ引き返せる、放り投げてしまえとか色々考え乍ら読んだため、一章のストーリー等はほとんど覚ていません。しかし二章、三章、五章はかなり骨があり青春小説とは思えない密度の濃さを見せ付けています。最後まで読んで良かったと心から思った瞬間でした。

主人公の春一と早伊原の関係は微妙で、恋人同士に見えてそうではなく、お互いに好意を寄せている仲ではありません。それにしても、これほど人間の正しさとは何か、善とは何か、青春とは何かを深く掘り下げ追及したミステリは初めて読みました。それがストレートに表現されているのではなく、回りくどいのが玉に瑕ですが、ブラックな青春ミステリとして完成度は高いです。
ジャンルは日常の謎に属するものだと思いますが、ある人物の心理をこれでもかと抉り出し自身でさえ気付かなかった心情を剥き出しに開示される最終章は圧巻でした。

No.1930 6点 図地反転- 曽根圭介 2025/10/06 22:43
河原で少女の全裸死体が発見されて、初めて捜査本部に詰めることになった一杉研志。目撃情報から浮かび上がったのは、とかく噂の絶えない小学校教師。その不敵な容疑者が取調官の説得に落ちた瞬間、事件は解決した……。しかし2年後またもや起きた少女殺害事件に、研志の過去までが甦る。『図地反転』改題。
Amazon内容紹介より。

なかなか骨太の、優れたリーダビリティで読ませる本格警察小説。
冤罪を生み出す警察の姿勢と冤罪を許さない弁護士を中心とする会の対立や、被害者遺族の心情、事件に相対する刑事達のそれぞれの想いなどがせめぎ合い、真に迫る緊迫感を溢れさせます。ただ、何故少女が殺され全裸で遺棄されねばならなかったのかがすっぽりと抜け落ちており、その意味では不満が残りました。

第二部に入った辺りから自分なりに事件の構造を推測してみましたが、やはり一筋縄では行かず、誰が犯人なのかが全く予断を許さない状況に追い込まれました。
著者の『鼻』等を読んで随分感心した私としては、こんな小説も書けるのかという思いでいっぱいです。流石に数々の賞を受賞した人だなと思いました。寡作な作家ですが今後も期待したいものだと個人的に感じました。

No.1929 4点 しずるさんと底無し密室たち- 上遠野浩平 2025/10/03 22:16
人が世界に謎を求めるとき、そこには必ず“ごまかし”があるわ――
「ねえしずるさん、密室ってなんなのかしら?」「そうね、よーちゃん、それはきっと、どんなものでもごまかせると思い込んだ人間の、つまらない錯覚なんでしょうね――」
今回、“深窓の美少女”しずるさんと好奇心旺盛な“わけありお嬢様”よーちゃんが挑むのは、複雑怪奇な密室事件。吸血植物、家族にまつわるゲームの呪い、ドッペルゲンガー、凍結した鳥人……これは、深淵から覗くふたつ目の事件簿。新装版にして完全版、星海社文庫版しずるさんシリーズ第2弾!
Amazon内容紹介より。

マジすか?!Amazonのレビュアーの評価の高さは。私の感覚が世間とズレているのでしょうか、誰か教えて~。
しずるさん&よーちゃんシリーズ第二弾。連作短編集で、第一話こそまあそれなりに納得出来ましたが、それ以外は正に竜頭蛇尾のオンパレード。凄く魅力的な謎に対して余りにもショボい真相はどうなんですか。最早ミステリと言うよりミステリの様な何かと言うべきものだと思います。

最後の話などは説明不足も良い所で、自分で伏線を辿って真相を想像するしかありませんでした。これは不親切ですね。全般的に内容が薄すぎて小説を読んだ気がしません。
大仰なタイトルに比して中身はガチガチの密室とは大違いです。状況的に密室と言える物ばかりで、かろうじて二話目が密室と呼んでも差し支えないくらいです。そしてこれが私が最も面白かった話でしたが、ゲームのくだりは要らなかったですね。
それとしずるさんとよーちゃんの関係性がほとんど描かれていないので、背景に何があるのか分からないのも不満でした。ミステリとしても小説としても物凄く薄っぺらい一冊だと思います。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 1948件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(29)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
日日日(20)
折原一(19)
中山七里(19)
森博嗣(18)