メルカトルさん |
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平均点: 6.02点 | 書評数: 1603件 |
プロフィール | 高評価と近い人 | 書評 | おすすめ
No.1603 | 4点 | 希望荘- 宮部みゆき | 2023/03/18 23:00 |
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家族と仕事を失った杉村三郎は、東京都北区に私立探偵事務所を開業する。ある日、亡き父・武藤寛二が生前に残した「昔、人を殺した」という告白の真偽を調査してほしいという依頼が舞い込む。依頼人の相沢幸司によれば、父は母の不倫による離婚後、息子と再会するまで30年の空白があった。果たして、武藤は人殺しだったのか。35年前の殺人事件の関係者を調べていくと、昨年発生した女性殺害事件を解決するカギが隠されていた!?(表題作「希望荘」)。「聖域」「希望荘」「砂男」「二重身」…私立探偵・杉村三郎が4つの難事件に挑む!!
『BOOK』データベースより。 そこはかとなく眠気を誘う、物凄くゆる~い連作中短編集。正直こんなに詰まらないとは思いませんでした。あ、飽くまでマイノリティの意見です。優しいんですよ内容が。その辺宮部みゆきの人間性が滲み出ていると云うか、今一つ人間の深奥に踏み込めないところにこの人の限界を感じてしまうんですよね。 まず杉村の年齢が分からない、多分中年なんだろうけど。彼の人間味はとても感じられますが、手付金が五千円とか信じられません。あり得ないでしょう。そんな親切な探偵が主役なので、まあ人情ものみたいな物語になるのはやむを得ないでしょう、その分中身がヌルいと感じられて仕方ありません。 得意の社会問題を取り上げたり東日本大震災を背景に語ったりしていますが、ミステリとして伏線を回収するとか、意外性を追求するとか、そうした姿勢が全く感じられず、いささか退屈でした。 もうね、自分の感性が信じられなくなりそうです。これだけ世間的に高評価なのに、私にはその面白さが理解できない、何度こんな苦汁を味わわなければならないのでしょうか。長尺だった分余計に辛さが増しました。 |
No.1602 | 6点 | The Book―jojo’s bizarre adventure 4th another day- 乙一 | 2023/03/15 22:47 |
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この町には人殺しが住んでいる―。町の花はフクジュソウ。特産品は牛タンの味噌漬け。一九九四年の国勢調査によると人口は五八七一三人。その町の名前は杜王町。広瀬康一と漫画家・岸辺露伴は、ある日血まみれの猫と遭遇した。後をつけるうち、二人は死体を発見する。それが“本”をめぐる奇怪な事件のはじまりだった…。乙一が渾身の力で描いた『ジョジョの奇妙な冒険』、文庫で登場。
『BOOK』データベースより。 私はこれまで一度も少年向け漫画雑誌というものを買ったことがありません。子供の頃一度だけ母親に買ってもらった少年何とかを読んで、高校野球の漫画が大層面白かった記憶があるくらいですね。では何故今さら『ジョジョの奇妙な冒険』なのかと言えば、単に著者が乙一だったから。 昔友人が貸してくれた週刊少年ジャンプに多分連載され始めたばかりだったのが『ジョジョの奇妙な冒険』で、第一印象は妙にくねくねした絵だなと思ったくらいで、10ページほど読んだけれど面白くなさそうだったので、それ以来全く読む事はありませんでした。私が気に入っていたのは『ゴッドサイダー』でした。 前置きが長くなりましたが、本作は全然乙一らしさが出ていないのが誠に残念です。これなら誰が書いても良かったのではないかと思う程です 話が分散しているし、複数の視点で描かれている為、何処に焦点を置いているのか途中まで判然としません。所々面白いなと感じるシーンがあったり、終盤のバトルではなかなか熱くなれましたので、総合的に判断して6点としました。ただ描き様によってはもっと高得点が狙えた気もします。 余談ですが最後に言いたいのは、又しても煙草臭にしてやられたという事です。どうしたらこれ程の臭いが染み付くのか不思議でなりません。まあどこぞのヘビースモーカーの密閉された部屋に長年放置されたせいだろうとは思いますけどね。この臭いは100年経ってもいや、1000年経っても消えないでしょう。ちなみに読み始めてすぐに気付いて、ゴミ箱に叩き込んでやろうか、それとも即ブックオフ行きにしてやろうかとも思いましたが、我慢して読んだ自分を褒めてあげたいです。110円でしたしね、仕方ないです。購入時点で気付かなかった自分が悪かったと思うしかありません。 |
No.1601 | 7点 | なめらかな世界と、その敵- 伴名練 | 2023/03/12 22:54 |
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いくつもの並行世界を行き来する少女たちの1度きりの青春を描く表題作や、ありえたかもしれないもう1つの日本SF史を活写する「ゼロ年代の臨界点」、伊藤計劃の『ハーモニー』にトリビュートを捧げた「美亜羽へ贈る拳銃」、未曾有の災害が発生した新幹線の乗客と取り残された人々のドラマ「ひかりより速く、ゆるやかに」など、人の心の隔たりと繋がりをめぐる奇跡の傑作集。
Amazon内容紹介より。 ハードSFに苦手意識のある私ですが、これは「読め」ました。難解でもないですが流し読みを許さないクセの強い文章の作品、如何にも青春していますと云ったラノベ風の作品など、一体この作者のスタイルはいずこにあるのか疑問を持たずにはいられない、バラエティに富んだ短編が並んでいます。どれが突出しているという訳でもなく、いずれも一定の水準をクリアしている佳作揃いです。 まあ個人的には気軽に読める表題作が最も親しみ易かったでしょうか。第二次世界大戦下での姉妹の絆を、妹の手紙のみで表現した異色作『ホーリーアイアンメイデン』も良かったですね。多分他の方とは随分好みが違うと言われそうですが。やや敷居が高いと思われますが、SFファンなら読んでみても損はないでしょう。 |
No.1600 | 6点 | 叔母殺人事件 偽りの館- 折原一 | 2023/03/09 22:57 |
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煉瓦造りの洋館で起きた驚くべき殺人事件。屋敷には底意地の悪い実業家の女主人とその甥が住んでいた。叔母の財産を狙う甥の殺人計画はいかに練られていったのか。その手記を入手するため、取材者の“私”は屋敷に住み込み、事件を追体験していく―そして明かされる衝撃の真相!!名手の叙述ミステリー。
『BOOK』データベースより。 叔母を亡き者にしようと計画する甥の日記と、その事件があった館に住む「私」の一人称の交互で綴られる折原一の最も得意とするミステリの形。どうですか、如何にも何かの仕掛けがありそうでしょ。匂います、プンプンと。それを承知で何とか作者の目論見を見破ろうと目を皿のようにして、どこかに綻びがないものかと邪推しながら読み進めました。結果、惨敗でした。 まさか読み始めた辺りでこの様なカタストロフィを迎えようとは思ってもみませんでした。 登場人物はそれほど多くないのに、これだけの物語を作り上げてしまうのは流石だと思います。ただ、舞台が固定しているだけに閉塞感は禁じ得ませんが、それもこの人持ち味だと考えれば問題ないでしょう。 尚類似したタイトルの『叔父殺人事件』がありますが、それとは全く趣が違います。どちらがどうとも言えませんが、個人的には『叔父』の方が好きです。 |
No.1599 | 6点 | 運命しか信じない!- 蘇部健一 | 2023/03/07 22:54 |
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六篇の短編連作で綴るドラマチックなラブストーリー。仙波莉子と京川俊は、絶対に出逢うはずのない二人だった。しかし、ある朝、太一の猫、タマがミルクをこぼしたことをきっかけに、いくつもの偶然が積み重なり、二人は恋に落ちる(「もしタマがミルクをこぼさなかったら…」)。風の強い日に、パンティが向かいのベランダに飛んでいったことが縁で、藍川奈都は入江敦広と出逢うことに(「パンティは風に乗って―」)。運命の恋を信じたくなる恋物語が満載。全ての短編を読み終えた瞬間に気がつく衝撃の結末。
『BOOK』データベースより。 もしあの時ああしていたらとか、こうしていなかったらこんな事にはならなかったかも、と云う割と誰にでも起こり得る現象が重なり合い、ハッピーな出来事に出会うある意味バタフライ効果的な男女の物語。偶然の連続の結果を運命と呼んで良いのなら、それは必然であるのかも知れません。 全体的に薄味で中身が希薄な気はしますが、まあたまにはそんな恋愛小説も悪くないでしょう。何かに付け「これは運命の出逢い」とか宣っているのが若干ウザかったりもしますが、それも恋に恋する乙女のあるあるだと思えば許容範囲ですかね。 最後にある仕掛けが施してあるのは秘密です。 |
No.1598 | 8点 | 密室は御手の中- 犬飼ねこそぎ | 2023/03/05 22:49 |
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事故によって弱体化した新興宗教『こころの宇宙』。瞑想中の修験者が密室をすりぬけ、山中で発見されたという逸話が数少ない拠り所だった。新たな密室殺人が起きるまでは――。第一期デビューの阿津川辰海のブレイクで注目を集める新人発掘プロジェクトKappa-Two、その第二期デビュー作。大胆なトリックと偽名の探偵の推理力に瞠目せよ!
Amazon内容紹介より。 Amazonでは賛否両論あるようですが、私は全面的に本作を支持します。まず、山奥にある新興宗教の拠点が舞台であるものの、そこまで狂信的とかではないので物語が安定しています。そして教団代表の少年がなかなか魅力的で、自ら探偵役を買って出て、女名探偵との実質的な対決の構図が見えてきます。これだけでも心躍るものがあり個人的にかなり好みの範疇に収まる事に。 そして丁度良いタイミングで起こる密室バラバラ殺人事件。更にテンポよく次の事件へと移行していき、その間に二人の探偵が活躍するという、絵に描いたような新本格ミステリのスタイルと言えそうです。 密室トリックは、これがなかなか難しくて捉え方が色々あると思います、過去にあったトリックのバリエーションと言えなくもないですが、私にとっては斬新だと感じられました。 ロジックも申し分なく伏線を回収していますし、動機の点でも評価に値するものだと思います。そして、二転三転する怒涛の展開や多重推理には心奪われました、何度も心中でアッと言わされたり思わずニヤリとさせられたりと、そりゃあもう心酔でしたよ。 |
No.1597 | 5点 | 時間島- 椙本孝思 | 2023/03/03 22:44 |
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「お前たちは島から生きて出られない」―廃墟の島『矢郷島』でのロケ中、突如送られてきた動画メール。『5年後の未来』にいるという『ミイラ男』が、ロケ参加者9名が皆殺しにされると予言する。やがてその言葉通り、出演者、スタッフが次々と殺されていく。誰が殺しているのか。なぜ殺されるのか。一体この島で何が起きているのか。息つく暇もない展開、予想だにしない衝撃の結末!異色ホラーミステリー。
『BOOK』データベースより。 冒頭これは期待できると思いました。時間島と呼ばれる所以が語られ、真面なミステリではないのかも知れない、しかしそれも仕掛けの一部だろうと受け取りました。それが裏目に出ましたね、ガチガチの孤島ミステリかと思わせておいて、実はサスペンスじゃん。しかも、最後には現実と乖離した独特の世界観を強引に見せられて、ちょっと期待を裏切られた感じでしたね。 ただミイラ男の正体には驚かされました。しかしそれだけ。私の頭が固いのか、単なる説明不足なのか、どうにも納得できないしこりの様なものが残りました。そしてご都合主義が酷くて、そんなに上手くいくものかという疑問やわだかまりを覚えました。後味スッキリとは真逆の結果に、出来れば読みたくなかったと大袈裟ですが思いました。 |
No.1596 | 5点 | 死ぬほど怖いトラウマTVマンガ大全- 事典・ガイド | 2023/03/01 22:57 |
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やたら過激だった80年代のアニメ
恐怖をあおり過ぎな覚せい剤の警告CM 殺人シーンが生放送された昔のニュース 本当は怖かった映画版ドラえもん…… 本書は、かつて見たテレビ番組やCM、マンガのなかから、 わたしたちの心に大きな傷を残した作品や放送事故、怪事件などを 年代順にまとめたものです。 Amazon内容紹介より。 1ページ或いは見開き2ページを使ってTV番組や映画、ゲームなどを紹介しています。中身はタイトル、サブタイトル、解説、作品の紹介、そして肝心の画像で構成されています。半分くらいが幾つかの画像で占められており、トラウマになりそうなものばかりを並べていますね。なりそうなというのは、私自身ほとんど観ていないものばかりなので、正直本当にそんなに恐怖心を煽るのだろうかと疑問に思うからです。 それでは掲載されている作品をほんの一部紹介します。 アニメから『天才バカボン』映画版『ドラえもん』映画版『北斗の拳』『まんが日本昔話』劇場版『エヴァンゲリヲン』『妖怪人間ベム』『ちびまる子ちゃん』『ダメおやじ』などメジャーからマイナーまで。 特撮ものから『ウルトラQ』『帰ってきたウルトラマン』『ウルトラマンタロウ』『仮面ライダー』シリーズ『超人バロムワン』など。 TV番組から『笑っていいとも』『探偵!ナイトスクープ』『ねるとん紅鯨団』など。他はCMが多いですね。 たまに教育番組や『みんなのうた』なんかもチョイスされています。 内容は生首が転がる、手足がもがれるなどのスプラッター、所謂心霊現象的なもの、例えば何かしらの霊や不自然な人間の顔が映り込んでいたりするものなんかです。 一番感心したのは、というのも何か変ですが赤塚不二夫の『天才バカボン』ですね。これは何と言うか、ブラックユーモアかホラーか分かりませんが、とにかく作家らしい発想が素晴らしいと思いました。あのギャグ漫画でこれをやるのかというね。 |
No.1595 | 6点 | スメル男- 原田宗典 | 2023/02/28 22:59 |
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岡山から上京して東京の大学に通うぼく・武井武留は、母親を亡くした喪失感のためか、無嗅覚症になっていた。東大で作物の研究をしている親友・六川が、ぼくのために「臭い」の研究もしてくれるが研究所で事故死する。悲嘆にくれていると六川の恋人だったというマリノレイコが現れ、六川からぼく宛の荷物だと言ってシャーレを持ってきてくれる。マリノレイコによるとチーズの匂いがするというシャーベット状の中身に触ったときからぼくの身に異変が起こり始める。最初は犬が騒ぎ出し、次にはぼくの臭いを嗅いだ人がみんな嘔吐。住んでいるマンションに警察が調べに来たり、ついには東京都内を巻き込む異臭騒ぎにまでなってしまう。解決の糸口が見つからないまま、こんどは謎の組織に狙われることになり、なぜか味方になってくれた天才少年たちやマリノレイコといっしょの逃亡劇に!
Amazon内容紹介より。 SF、ファンタジーの要素を含みつつ、最初は些細な出来事から次第に大事に発展していく様は正にパニック小説ではないでしょうか。そしてその原因が主人公本人にあるという珍しい設定となっています。匂いを感じられないというのも結構難儀な物のようですが、事態はそれどころではなくなって、人前に出る事も叶わぬ程の臭さに苦悶します。しかも重要人物と思われた六川が早々に舞台から退場し、これからどうなるのかとやきもきさせられました。 全体的に抑揚に富み、ジェットコースター的な緩急が素晴らしくよく描かれていると思います。武井の一人称で描かれるため、彼の心理は手に取るように分かりますし、他の主要登場人物の個性も際立っており読み飽きるという事がありません。特にIQ200超えと400超えの天才少年が突如現れてから更に面白くなります。子供なのにまるで老成した大人の様な二人の振る舞いにちょっと感動してしまいました。 |
No.1594 | 6点 | ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかの殺人事件- 橋本治 | 2023/02/25 22:57 |
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長らく入手困難だった橋本治による幻の傑作が遂に復刊!!
僕、分ったんです。人を探るということは、実は、それと同じ分だけ、自分自身を探るということが必要なんだということに。 これが僕の探偵法、だったのです―― 1980年代、東京――東大出のイラストレーター・田原高太郎が、鬼頭家で起こった殺人事件の謎を解く、橋本治による青春ミステリーの傑作! Amazon内容紹介より。 これはアンチミステリの亜種でしょうかね。 同じ事を言葉を変えて二度三度繰り返し、しつこく念を押す表現方法が特徴的。くどいとも言います。加えて一章丸ごと使って私小説を書いてみたり、余分な東京の地下鉄の路線図を挿したり、色々捏ねくり回している印象が強いです。殺人事件自体は至ってシンプルで、謎めいたところもありますがそれほど魅力的な物ではありません。 後半で漸く主人公と刑事と下宿の私立の大学生による推理合戦が始まると思いきや、単なる捜査会議に終わってしまっているのは残念な限りでした。つまり、あらゆる可能性を論っているだけで、特に推理している訳ではなく、その辺りはアンチミステリとしてやはり弱いと感じました。もっと多重推理をやってくれないとダメですよ。せっかく盛り上がってきたと思ったら、脱線して興を削がれます。まあ読み易くはあったので、長尺があまり気になりませんでした。それが救いでしょう。 動機は分かったような分からない様な、ちょっとモヤモヤした読後感でした。『獄門島』+『犬神家の一族』の趣向は面白かったですけどね。 |
No.1593 | 6点 | 永遠のディーバ- 垣根涼介 | 2023/02/22 22:28 |
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リストラ面接官・村上真介の今度の相手は、航空会社の勝ち組CA、楽器メーカーでくすぶる元バンドマン、ファミレスの超優秀店長、おまけに、破綻した証券会社のOBたち。企業ブランドも価値観も揺らぐ時代、あなたは明日をどう生きる?全ての働き人たちにパワーを届ける、人気お仕事小説第4弾!
『BOOK』データベースより。 単行本『勝ち逃げの女王』を改題した文庫で読了。最初のCAを被面接者とする単行本表題作を読んだ時、流石にマンネリ化は避けられないとの思いを強くしました。どう見てもワンパターンで、しかも今回は面接官で主役の筈の村上の影が薄い。その分、各被面接者の人生模様が色濃く描かれており、人間ドラマとしては楽しめます。 本シリーズは次作で終わっているようですが、作者もこれ以上続けるのは色んな意味で難しいと考えたのだと思います。正解でしょう。好評だったシリーズですが、一つ外すと読者は離れていくものですからね。人気を保ったまま終止符を打ったのは英断だった気がします。と言ってる間にいきなり復活するとかのサプライズはあるかも知れません。しかし、最終作を読んでみて、この人がどんなピリオドを打ったのかが分からないまま、勝手な事を書いても意味がないのでこの辺りでお終いにしましょう。 |
No.1592 | 8点 | 名探偵のままでいて- 小西マサテル | 2023/02/19 22:46 |
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「認知症の老人」が「名探偵」たりうるのか?
孫娘の持ち込む様々な「謎」に挑む老人。 日々の出来事の果てにある真相とは――? 認知症の祖父が安楽椅子探偵となり、不可能犯罪に対する名推理を披露する連作ミステリー! Amazon内容紹介より。 第21回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。 基本的に私は『このミス』受賞作を信用していないので、なるべく敬遠するようにしています。しかし本作は何故か私の琴線に触れるものがある気がして購入しましたが、結果的にこれが大正解でした。面白い、いや面白過ぎる。ベースは日常の謎の範疇に収まる連作短編集だと思いますが、殺人など物騒なテーマを扱った作品も含まれており、単純に日常の謎に一括りにする訳にはいきません。 なにしろ、レビー小体型認知症を患いながら、孫娘楓の話を聴くや否や事件の全貌を視認して解決してしまう老人(おじいちゃんと呼ばれるだけで名前は不明)が凄いです。様々な毛色の異なる事件をあくまでロジカルに詰めていく本格ミステリ的趣向は、日常の謎と本格ミステリの融合を思わせます。ただ、第五章に顕著に現れていますが、どうしてそこまで見通せるのか、これだけの手掛かりしか与えられていない筈なのにというジレンマはありますね。 余談ですが、この作者は相当なミステリ愛好家の様で、随所にその愛着ぶりが見られます。そしてその幅広い知識は只者ではない事を匂わせます。それもそのはず、本作は鮎川哲也賞の最終選考まで残った作品を改稿しての受賞だから。 |
No.1591 | 6点 | 量子人間からの手紙 捕まえたもん勝ち!- 加藤元浩 | 2023/02/18 22:47 |
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元アイドルの捜査一課刑事・七夕菊乃と天才にして壊滅的な変人・アンコウこと深海安公。二人が挑むのは、密閉された倉庫や監視カメラの密林をすり抜けて殺人を犯す「量子人間」と、警察官僚の権力争い!?捜査の舞台はアメリカから日本へ。FBIもお手上げの連続不可能殺人を阻止し真犯人を追い詰めていく。ミステリ漫画界きってのストーリーテラーが放つ本格ミステリ第二弾!新感覚警察小説!
『BOOK』データベースより。 これ程不可解で不可能趣向の高い密室殺人ミステリは滅多に出会えるものではありません。特に第三の、厳重な警備の中何もない所から弾丸が飛び出して、防弾チョッキを通過して被害者の身体にめり込むという、とんでもない現象にはかなり興味を惹かれました。全四回に及ぶ密室殺人、七人に及ぶ被害者、非常警戒態勢の警察を嘲笑うように暗躍する見えない敵量子人間。この様に書くと物々しい雰囲気の怪奇趣味に溢れた作品と思われるかもしれませんが、そうではありません。意外と軽いタッチですんなり読める小説と思って下さい。 で、肝心の密室トリックですが、結論から言えば脱力系。ややバカミス系と言っても良いでしょう。緻密なようで意外と雑、それよりも警察の杜撰な捜査ぶりが目立って、ツッコミどころ満載です。普通に捜査していれば(特に鑑識)、簡単に絡繰りがほどけるはずですよ。 まあそんな事より真犯人の正体には驚きましたけどね。最後の最後まで謎のままで、結局そんな馬鹿な、みたいな結果に。ハウダニットよりもフーダニットとして楽しめました。 |
No.1590 | 6点 | ゴスロリ幻想劇場- 大槻ケンヂ | 2023/02/15 22:35 |
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ロマンティックで残酷。せつなくて思わず号泣!!『ゴシック&ロリータバイブル』の人気連載が一冊に。怪奇、不条理、愛、狂気、恋、永遠の可愛い夢。書き下ろしの短篇5本を含む、全15篇を収録。
『BOOK』データベースより。 冒頭からゴスロリのグラビア写真が何枚か掲載され、どれも可愛く改めてゴスロリファッションの魅力を実感しました。其処には当然モデルの質の高さがあっての事ではありますが。その勢いでロリの世界に引き込んでくれるのかと期待しましたが、実際それ程ではありませんでした。各掌編が主人公を含め、多くがゴシックロリータ様式の洋装をしており、しかしながら全く違和感がありません。まあ出来不出来の差は大きいと言えるでしょう。中身はオカルト、ファンタジー、メルヘン、探偵、殺人、可憐、儚さ等々で構成されており、まさに分類不能の短編集です。 十五篇収録されていますが、ほとんどがすぐに忘れてしまいそうであまり印象に残りませんでした。逆に言えば再読に耐え得る作品集、忘れた頃にまた読んで気分を新たに出来るものだと思います。 心に残ったのは『ゴンスケ綿状生命体』『戦国バレンタインデー』『月光の道化師』『奥多摩学園心霊事件』『爆殺少女人形舞壱号』。特にミステリ要素の最も強い『奥多摩』は短い中にぎっしりオカルティック・ミステリが詰め込まれていて最もお気に入りの一編となりました。 |
No.1589 | 5点 | チェスナットマン- セーアン・スヴァイストロプ | 2023/02/14 22:24 |
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コペンハーゲンで若い母親を狙った凄惨な連続殺人事件が発生。
被害者は身体の一部を生きたまま切断され、 現場には栗で作った小さな人形“チェスナットマン"が残されていた。 人形に付着していた指紋が1年前に誘拐、殺害された少女のものと知った 重大犯罪課の刑事トゥリーンとヘスは、服役中の犯人と少女の母親である 政治家の周辺を調べ始めるが、捜査が混迷を極めるなか新たな殺人が起き――。 Amazon内容紹介より。 まず文章が回りくどすぎて、兎に角じれったいです。そして衝撃のシーンでも生々しいシーンでも同じテンションで描かれていて、終始淡々とした文体で抑揚がありません。ですから長尺という事もありますが、大事な場面で読み落としそうになり、というか実際集中力が続かなかったのは否めません。 主役の刑事トゥリーンよりも相棒のヘスの方が好感が持てました。まあどっちもどっちですけどね。それ程人間描写に重きを置いていないと思いますし。 チェスナットマン(栗人形)の謎や手足の切断の理由などにはあまり期待しない方が賢明でしょう。何となく暈かしている感じもしますし、何らかのトリックがあるかと言われると・・・です。そして、意外な犯人かな?これ。そうでもなかった人すみません。 |
No.1588 | 6点 | 血みどろ砂絵- 都筑道夫 | 2023/02/10 22:44 |
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とざい東西、江戸は神田の橋本町、ものもらいや大道芸人ばかりが住んでいるおかしな長屋に、センセーと呼ばれる推理の特技をもった砂絵かきがいた。当時珍しい合理精神の持ち主で、犯罪事件が起こると、わずかな礼金にあずかろうと、見事な推理で謎をとく。センセーと長屋の連中が、よってたかってとき明かした奇妙な事件の数々…。四季折々の江戸の風物を背景に、ユーモラスな本格推理を融合させた、異色の傑作捕物帖。
『BOOK』データベースより。 目茶目茶読み難かったです。 私は自分の馬鹿さ加減、読解力の無さ、集中力の無さ、記憶力の無さをよく分かっているつもりです。他人様に指摘されるまでもなく、そんな事は百も承知。なので、他の方の高評価に対して何も言う権利はありません。しかし、まあそうだろうなとは思うものの、正直個人的には期待していた程ではありませんでした。やはりここでも本作の良さを汲み取れていない己の愚かさを思い知らされた次第です。 何かこう、道中の慣れない言い回しやら、江戸時代の言葉遣い、情景が浮かんで来ないもどかしさ等を味わいながら、結局センセーの語る真相に成程と思わず頷いてしまう自分になんだかなーと妙な気分にさせられる作品でした。確かに意表を突いた仕掛けには感心するものがあり、その意味では面白かったと言えるでしょう。それでも十全に本作を堪能出来ていない事に対する腹立たしさは拭えません。 |
No.1587 | 6点 | 伝説の雀鬼・桜井章一伝- 柳史一郎 | 2023/02/08 22:12 |
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桜井章一はいかなる相手にも状況にも決して屈しなかった。右頬に日本刀、左頬にドスを当てられ、親指の骨を折られたこともあった。それでも彼は、ただひたすらに牌を打ち続けた…。裏麻雀の世界を20年間無敗で駆け抜けた男の姿を克明に描いた幻の傑作、ついに文庫化。「雀鬼流」という哲学を見出すその陰には激しすぎる戦いの日々があった。
『BOOK』データベースより。 何だか小説を読んだ気がしません。それは著者があとがきで書いている様に、あくまでノンフィクションとして著したとしており、小説の持つ情感があまりなかったり勝負の裏にある背後関係等が薄かったりする為と思われます。人間ドラマとしてはそれなりですが、生々しさという点では物足りません。 桜井章一は所謂裏プロであり、仕事師であります。ですから勝負は牌を積んで親の場合サイコロの目を自在に出した時点で既に着いていると言ってもあながち間違いではありません。つまり積み込み(裏技)です。なので、闘牌シーンは白熱している様で実はそうでもありません。それよりも、対戦相手との洗牌からどう積み込むのかの勝負に注目が集まるのは、自然の成り行きと言えるでしょう。 20年間無敗の雀鬼、桜井章一の心情はよく描かれており、その意味では一読の価値はあると思います。しかし、麻雀のルールを知らない人は読んでも意味が解らないでしょう。 |
No.1586 | 6点 | 深泥丘奇談- 綾辻行人 | 2023/02/05 22:47 |
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ミステリ作家の「私」が住まう“もうひとつの京都”の裏側に潜み、ひそかに蠢動しつづける秘密めいたものたち。古い病室の壁に、丘の向こうの鉄路に、長びく雨の日に、送り火の夜に…面妖にして魅惑的な怪異の数々が「私」の(そして読者の)日常を侵蝕し、見慣れた風景を一変させる。―『Another』の著者が贈る、無類の怪談小説集!
『BOOK』データベースより。 続編を先に読んでいて、最初の短編『顔』の途中であれ?もしかしてもう読んだやつかと思って即検索してみましたが、未読でした。それは例の片目だけをうぐいす色の眼帯をしている医者が出てきたからだったんですが、この深泥丘病院の主人公私の主治医、いつも出て来るのね。それで勘違いしてしまいました。まあそれにしても、その医者や推理作家の「私」、左手首に包帯を巻いている看護師など、いずれもどこかしら怪しげな人々ばかり登場しますね。そういった雰囲気は好きですが。 鉄道マニアに隠れた人気スポットらしき場所で起こる惨劇?を描いた『丘の向こう』、降り続く雨に「良くない」と妻にも言われ体調を崩す「私」が深泥丘病院を訪れ、怪しい会話からラストの衝撃に繋がる『ながびく雨』まで読んだ時は7点は堅いと思ったものです。しかも次の『悪霊憑き』は本短編集の白眉とも言える傑作。途中で何かのアンソロジーで既読だったのに気付きましたが、ほとんど忘れていて逆に凄く楽しめましたし、これはイケると感じましたが、それ以降やや下降気味で結局6点に落ち着きました。 しかし、怪談話としてはそれなりのレベルで後半残念でしたが、好感触です。 |
No.1585 | 7点 | プロジェクト・インソムニア- 結城真一郎 | 2023/02/04 22:52 |
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睡眠障害(ナルコレプシー)のせいで失業した蝶野は、極秘人体実験「プロジェクト・インソムニア」の被験者となる。極小チップを脳内に埋め込み、”夢の世界(ユメトピア)”を90日間共有するという実験だ。願望を自在に具現化できる理想郷は、ある悪意の出現によって恐怖と猜疑に満ちた悪夢へと一変する。口径の合わない銃弾の謎。次々と消えてゆく被験者たち・・・・・・はたして連続殺人鬼の正体はーー。大胆な伏線が鮮やかに回収され、超絶どんでん返しの末に現れる驚愕の真相に、涙が落ちる。一気読み必至! 最注目の新鋭作家による、大満足の長編ミステリー。
Amazon内容紹介より。 夢の中で殺されると現実でも死ぬという都市伝説を、丸ごと取り込んだ特殊設定の本格ミステリ。またまた新手の設定が出ましたよ。あまり期待してませんでしたが、読み進めるほどに面白くなります。中盤までは夢の中ならではの妙な話が続き、殺人等全く無関係な雰囲気で進んでいきます。最初の事件が起きてから、それが連続する事がほのめかされ、俄然生き生きして来ます。 ユメトピアで過ごす事に関しては様々なルールがあり、それが解決編で活かされます。解決編とは言っても概ねエピローグに集約されており、最後の最後まで目が離せません。その直前に意外過ぎる事実が明かされ、衝撃が冷めやらぬうちに更に追い打ちを掛ける様に読者を翻弄します。ちょっとややこしい感もなくはないですが、読み終われば充実、そして納得の一冊でした。 |
No.1584 | 6点 | 残酷依存症- 櫛木理宇 | 2023/02/03 22:30 |
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サークル仲間の三人が何者かに監禁される。犯人は彼らの友情を試すかのような指令を次々と下す。互いの家族構成を話せ、爪を剝がせ、目を潰せ。要求は次第にエスカレートし、リーダー格の航平、金持ちでイケメンの匠、お調子者の渉太の関係性に変化が起きる。さらに葬ったはずの罪が暴かれていき......。殺るか殺られるかのデスゲームが今始まる。
Amazon内容紹介より。 うーん・・・『殺人依存症』の続編には違いないんですが、そっちじゃんないんだよなって感じで。私の勝手な願望をよそに物語は好まない方向に進んでしまいました。前作よりもストーリーの広がりが感じられず、絡み合う人間関係みたいなものも薄く、こちらの方がワンランク落ちる感触を覚えました。 前作で主役だった浦杉がなあー。私としてはどういった形であろうとも、決着を付けて欲しかったですね。まあ更なる続編が描かれるのなら、そちらで白黒はっきり付けて頂きたいと思います。 タイトル通り残酷描写は前作といい勝負でしょうが、どちらが心に突き刺さるかとなるとやはり『殺人依存症』の方です。何だか今回は全体の構図が逆転してしまって、それが面白いという人もおられるでしょうし、こちらを先に読んだ人は多分単体で十分楽しめたのではないかとは思います。ただ個人的には『殺人依存症』の方が好みです。 |