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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 2055件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.2055 5点 月光とアムネジア- 牧野修 2026/08/11 22:09
レーテ性認知障害症候群。ある日突然、直径数キロメートルから数十キロの愚空間と呼ばれる場が生じる自然災害<レーテ>。愚空間に入った人間は、ほぼ三時間ごとにその記憶を失い、長時間その中に居れば永久的な記憶障害を起こす。この愚空間に逃げ込んだ謎の暗殺者「月光夜」を元殺人課の刑事である他山が追う物語。

ちょっと難解なホラー風のファンタジーです。牧野修は病を扱った作品が多いけれど、今回は「月光夜」と呼ばれる人間の頭脳に次々と憑りついていく生物なのか何だかよく分からない存在を追って、県警の刑事達がバトルを繰り広げながら、命懸けのミッションを遂行していくというストーリーです。途中、そこはもっと詳しく書いてくれないと、と感じる説明不足な点が幾度かあり、やや不親切だと思いました。ラストはいきなりテイストが変わり、ああっと叫びそうになる間もなく呆気なく終わりました。

No.2054 7点 本を読むのが超速い人の頭の中ってどうなってんの殺人事件- 白井智之 2026/08/10 22:13
殺人計画を立てる男たち、宇宙人を監視する小学生。
本好き刑事が挑む不可解な殺人の真相は?
前代未聞のA7サイズ本格ミステリ!
Amazon内容紹介より。

小さい、小さすぎる!掌にすっぽりと収まるサイズの単行本とはねえ、こんなのは初めてです。しかし、それには訳があります。タイトルの長さにも勿論。その事実を知った瞬間、この小さな本が凄く愛おしく感じられました。短い割には中身がぎゅっと詰まっており、ちゃんとした本格ミステリに仕上がっています。本好きの刑事だからこそ解けた謎の解答は宇宙人を監視する小学生の証言を聴いた後に訪れます。謎が解けた時にはささやかなカタルシスが得られました。

尚、本商品は立ち読み対策の為か、透明のビニールでキッチリと梱包されており、慎重に剥さないと本を傷める可能性があるので注意が必要です。カッターで優しく切り目を入れて下さいね。

No.2053 6点 最後の一行 black- アンソロジー(出版社編) 2026/08/09 22:22
市塔承「プカプカ島」
言語をめぐる冒険譚。
伝染病を治癒する卵を産み落とす鳥を追い、一行は島へと向かうーー。

歌野晶午「邪魔者」
仲の良い母娘を襲った悲劇。
愛憎の物語が迎える、戦慄の幕切れーー。

麻耶雄嵩「雷鳴と稲妻」
「曰く」が集まる山間のペンション。
銘探偵メルカトル鮎の犯人当てが導くのはーー。

東川篤哉「そして世界がひっくり返る」
『黒月ノ輪熊の会』を主催する蔵持金蔵の別荘で殺人が起こる。
しかし犯人の条件に合う者は一人もいない......。
Amazon内容紹介より。

内容は上述の通りです。補足すると、『プカプカ島』は船長、副船長、医師の三人が先住民の言葉に響きを見出し、その意味を次第に解明して行きます。ある程度話が通じた後に起こった意外な結末。
『邪魔者』は成程のタイトル。そう来るのかと読後唖然。歌野晶午らしい作品だと思います。
『雷鳴と稲妻』はメルカトル鮎が大活躍。既に真相を見破っているのに勿体付けてます。しかし最後は捻り過ぎてまさかの結末が。
『そして世界がひっくり返る』はこの中では一番面白かったですね。容疑者には全員共通点があり、それを逆手に取っての犯人のある行動が予想外の展開に。クローズドサークルの中での伏線回収とロジックがお見事です。

全作に言えるのは、最後の一行と云うより、最後の数行でしょう、反転を味わえるのはって事です。最も異色だったのは市塔承ですが、面白かったかというとそうでもない感じでした。正直麻耶雄嵩に期待したのですが、ちょっと無茶したなと思いますね。

No.2052 6点 水上都市の冒険- 島田荘司 2026/08/08 22:21
惜しい。6点か7点で迷いましたが、最後の書下ろしが謎がやや強引だったのが気になり、評価が落ちました。しかし、御手洗潔ファンは必読の書だと思います。御手洗くん中学生の時の事件簿で、謎の規模は小さいものの全体的にまずまずの好篇が続き、昭和30年代の横浜の雰囲気が肌で感じられます。又少年少女の個性が際立っており、特に鈴木えり子の別れ際の「さみしいよー」の台詞がジーンと来ます。

私の一番のお気に入りは『火事マニア』。他は江口くんの一人称で語られますが、これに限ってはえり子目線で描かれています。途中で事件の大筋は見えて来ますが、容疑者の野本君が頑なに口を閉ざす気持ちが分かり過ぎて、うーんそうだよなと同情を禁じ得ません。他は正直どれも平均的な出来で、事件の規模が小さいので、あまりドラマティックとは言えません。が、少年少女達の揺れ動く心情が切なく描かれており、本格ミステリでありながら青春ミステリの一面も見逃せません。それにしても、この頃から御手洗潔は警察を信用していなかったんですね。いや、それは幼稚園の頃からか。

No.2051 7点 幻奇島- 西村京太郎 2026/08/06 22:33
雨の夜、車に飛び込んできて重傷を負った女が、謎めいた言葉を残して病院から失踪した。飲酒運転をしていた内科医の西崎は、院長から、南海の果て、滅亡を予告された御神島の診療所行きを命じられる。そして、第一の殺人が…!? 初期代表作。
Amazon内容紹介より。

冒頭から惹き込まれました。百戦錬磨の西村京太郎、初期にはこんな作品も書いていたんですね。素直に感心しました。西崎が御神島の診療所に赴任を命じられ、その後暫くは何事も起こらず、只々怪しげな島の雰囲気が語られるばかりです。特に子供が一人もいない島の現状は一体何なのかに興味が持たれます。そう、この作品は本格ミステリの孤島物というよりも、そのストーリー性を楽しむべきなのだと思います。

殺人事件が起こるのは中盤過ぎ、しかしそれまでロマンスなどを挟んで飽きることはありませんでした。そして第一の殺人の動機には唸らされました。トリックとか推理とかに関しては、本作には期待せず只最後に明かされる真相に、成程そうだったのかと納得出来れば十分楽しめたとするのがまあ妥当でしょう。あまり難しく考えず、単純に島の雰囲気や因習、信仰、風土などを満喫するのが吉だと思います。

No.2050 5点 ネタバレ厳禁症候群~So signs can’t be missed!~- 柾木政宗 2026/08/04 22:04
これほどのトリック柾木政宗がやらずに、誰がやる。女子高生探偵と助手が挑む奇怪な連続殺人――あなたは真相を見抜けるか?「読者への挑戦状」つき。女子高生探偵のアイと助手のユウは、ひょんなことから遺産相続でモメる一族の館へ。携帯の電波が届かない森の中、空一面を覆う雨雲……外界から閉ざされた館で発見されたのは男の刺殺体だった。遺体に載った巨大な鶴の銅像と被害者の異様な体勢、それらが意味するものとは? 謎解きの最中に第二の不可解な殺人も発生。さらには二人にも魔の手が。やりたい放題ミステリ開幕!「読者への挑戦状」 本作の登場人物数名には、ある重要な秘密があります。私は読者の皆様から、それを巧妙に隠しております。 その秘密は、本作において非常に重要な意義があり、そして作中のあちこちに散りばめられた手がかりに気付けば、誰にでも見抜けることをお約束します。 そのため今ここで、僭越ながら挑戦状を掲げさせていただきます。 登場人物に隠された秘密とは何か。 ぜひ頭をフル回転させて、解き明かしてみてください。 なお、物語の途中で秘密に気付いた聡明な方へ。ネタバレは厳禁でお願いします。 秘密が明かされるには、適したタイミングがあるというものです。 物語のクライマックスだったり、登場人物のターニングポイントとなる瞬間だったり、 そして、事件の真相が明かされるときだったり……。 それでは、ご健闘をお祈りいたします。 作者 拝
Amazon内容紹介より。

これは流石に手放しで称賛する訳にはいきません。メタにメタを重ねての遊び心は良いと思いますが、肝心の事件が御座なりにされてはいないでしょうか。終盤のアレとアレの相殺とか何言ってるんだか、私の頭で十全に理解する事は出来ませんでした。確かに真面目に読んだら腹立つ作品かも知れませんね。

まあ私としてはこう云うのもアリかなと感じますが、ちょっとやり過ぎではないでしょうか。主要な登場人物以外、全然人間が描けていませんし、読み物としてどうなのかと思ってしまう自分がいます。動機に関しても期待しない方が良いです。賛成派でも反対派でもありませんが、ある意味問題作だとは思います。

No.2049 7点 アナヅラさま- 四島祐之介 2026/08/02 22:30
顔にぽっかり穴のあいたバケモノが人を攫って、穴の中に吞み込んでしまう。バケモノの名は「アナヅラさま」。
――ある地方都市で女性が相次いで行方不明になるなか、そんな噂が囁かれるようになった。行方不明者の捜索依頼を受けた探偵・小鳥遊穂香は、都市伝説の裏に連続殺人鬼がいると睨み、調査を進めるが……。一方、「アナヅラさま」と呼ばれる一連の事件の犯人は、想定外の事態に陥っていた。
Amazon内容紹介より。

いきなりアナズラさまが登場。ええっ、そんなに早く出てきて大丈夫?と思いましたが、結果的には問題ありませんでした。これが作者が書いた初めての小説らしいですが、文章は上手いしプロットも巧みで驚きました。都市伝説のアナズラさまはミステリ的にはシリアルキラーとして迫って来る感じがします。が、別に人外の何かとは全く違います。それは早い段階で明かされます、ただしホラー以外の何物でもない、ある特殊装置が被害者を襲います。

私立探偵の小鳥遊穂香は非常に個性的で、物語は彼女の魅力で支えられている部分も大きく主役を張るに十分な存在感を示しています。更には、このまま終わってしまうのかと云う不安を杞憂に終わらせる、終盤の捻りが心憎いです。ラストもまさかの展開におっ、そう来たかと思わせるに十分な破壊力を持っています。一概に色物とは言えない面白さに満ちた作品であるのは間違いないと思います。

No.2048 5点 ミステリー主義- 評論・エッセイ 2026/07/31 22:15
謎とジョークをあなたの伴侶に。
短篇の名手は生き方の達人でもあった。不安を抱えてのデビュー、持病のこと、街で拾った新作ジョーク……日常はヒントに満ち満ちている。

それに……ヘンテコな日本語を使うけれど、私は被説得力がすこぶる旺盛だ。(中略)自分の死だってきっとうまく説得するだろう。──みんな死ぬんだし。逆に200歳まで生きたら困るぞ──と考えるにちがいない。被説得力とあきらめの才能があれば、さほど悩むことではあるまい。──本文より
Amazon内容紹介より。

阿刀田高という人はユーモアのセンスがないのか、エッセイでも非常に生真面目に書かれている印象を受けます。もっと言えば説教臭いというか、教訓を垂れようとしている感じです。
ミステリー主義という割りには、ミステリ小説のエッセイは意外と少なく、松本清張や結城昌司、海外ではルルーの『黄色い部屋の謎』、ヴァン・ダインやクイーンの名前が出て来ます。その間に挟まるのが何故か、井伏鱒二や星新一、小泉八雲です。

著者がギリシャ神話が好きな事、二十歳の時に結核に罹って死ぬかと思った事、テストで白紙の解答欄に苦悶していた夢をよく見た事等は知れました。特に夢判断に関する著述は印象に残ります。又松尾芭蕉の「古池や蛙飛び込む水のおと」が何故名句なのかなどの興味深い考察も見られました。おっと、忘れてた。三木のり平の本名は田沼則子(たぬまただし)だそうです。

No.2047 6点 ゴースタイズ・ゲート 「イナイイナイの左腕」事件- 中井拓志 2026/07/29 22:41
素手で頚部を抉るという人間離れした殺人が発生。判明したのは犯人が左利きということだけ。脳科学の視点から霊能力を鑑識捜査に導入した警察庁の三島夕季は、強力な霊能力を持つ少女・芙癸と事件を追うことになる。
Amazon内容紹介より。

警察庁科学警察研究所、あきる野出張所、通称心理三室。ここでは超常現象が想定される事件を、憑依体質の少女芙癸を現場に臨場させ、ヘッドギアを装着し脳内を解析することによって解決に導いて行くのが通常業務です。肝心の解析シーンでは、前頭葉、前頭前野、偏桃体、脳梁等の医学用語が頻出し、結構小難しいです。しかし、それは前段階でそこからが事件解決の本番となります。

特に目新しい訳ではないと思いますが、異常な事件に対してのアプローチが通常の警察小説とは異なります。ジャンルとしてはホラーを絡めた警察小説でしょうか、まあ一括りにホラーと呼んでも良いでしょう。それ程面白いとは言い難いですが、堅実さは見て取れます。約100頁の中編と200頁超の長編の二話構成。二話目の最後に明かされる事実にはやや意外性があり、続編が気になるところではあります。しかし、斬新なトリックや意外な真相がある訳ではないので出来としてはそれなりだと感じました。

No.2046 6点 ムツゴロウ麻雀物語- 畑正憲 2026/07/27 22:21
知る人ぞ知る、雀鬼ムツゴロウ氏が綴るもうひとつの"麻雀放浪記"。夢を切り出し、絶望を和る有名、無名の男たちとの、時にほろ苦く、時に甘酸っぱい麻雀交遊記。
Amazon内容紹介より。

畑正憲は気迫と体力の人だと思っていました。それはあながち間違いではありませんが、それだけの人ではなかったのです。流石に東大出身だけあって、理論と頭脳の人でもありました。それは麻雀の世界でも生かされており、相手の打ち筋を素早く見抜き、弱点を探り出し相手を追い詰める策士なのでした。

本作では多くの麻雀仲間やライバルが登場します。阿佐田哲也、五味康佑、田村光昭、井上陽水、福地泡介、灘麻太郎、長谷川和彦、小島武夫、古川凱章他。其々の麻雀に対するスタンスを語り、どんな対決を繰り広げたのかが目に見えるようです。しかし、その誰をも上回る迫力で何日も徹夜で打ち続けた畑正憲は正に雀魔王の名に相応しい傑物だったのだと思います。
又、知られざる若き無名時代の畑の大勝負なども描かれていて、その意味でも貴重な一冊ではないかという気がします。

No.2045 7点 猿来たりなば- エリザベス・フェラーズ 2026/07/25 22:49
イギリス南部ののどかな自然に囲まれた村、イースト・リート。トビーとジョージは、このロンドンから遠く離れた片田舎に誘拐事件を解決するためにはるばるやってきたのだが、そこでふたりを待ち受けていたのは前代未聞の珍事件、なんと、チンパンジーの誘拐殺害事件だった! イギリス・ミステリ界で半世紀にわたって活躍してきた重鎮エリザベス・フェラーズの傑作本格ミステリ。
Amazon内容紹介より。

翻訳物の本格ミステリは久々に読む気がします。期待はしていなかったのですが、予想以上に面白かったです。チンパンジーが誘拐、殺害?されるとなるとやはり気になるのは動機ですね。結論、それは見事にクリアされています。十分納得出来る動機でした。

本作は探偵役のトビーの一人称で語られますが、ホームズとワトソン(ジョージ)が逆転する構図も成程と思いました。しかし、トビーも伊達に探偵役をしている訳ではありません。真相を披露するのも彼ですしね。
チンパンジーの死体が発見されるまではすんなり読めました。そこからの展開は捜査をしているのかしていないのかがハッキリとしない為、いまひとつ入り込めない部分もありましたが、解決編で少なくないカタルシスが得られました。無駄の無い推理、アッと驚く展開にも注目したいところです。

No.2044 5点 七人怪談 第二夜- アンソロジー(国内編集者) 2026/07/23 22:30
実力派ホラー作家七人が綴るのは、「自分が最も怖いと思う怪談」。ホラー界の旗手、三津田信三が声をかけた豪華執筆陣による怪談小説アンソロジーの第二弾が登場! 身の毛もよだつ最高峰の恐怖があなたを襲う。
Amazon内容紹介より。

澤村伊智『澤村伊智の小説怪談講座』メタ系怪談 ホラーと怪談の違いのせいか、実力が発揮できていない印象。原稿の方はそれなりだが、メタと聞くとどうしてもミステリをイメージしてしまうのがどうにも。
川奈まり子『憑霊奇譚』実話系怪談 初めましての作家。二話構成、怖くない、オチがない。実話系ならもっと面白いのを書かないと。
芦花公園『またみんなで集まろうねという話』子供の怪談 小学三年生の少年の日記が不穏な雰囲気を醸し出している。なかなか良く出来ている。
菊地秀行『無人化』不条理怪談 時代怪談物。人間消失を扱っているが、不条理だけに結論は曖昧。
立原透耶『中華怪異奇譚』中華系怪談 これまた初めましての作家。ショートショートがいっぱい。これぞ怪談というものが多くオチも確りあるがあまり怖くない。
白井智之『ロダエネケワルA』鬼畜系怪談 怪談やホラーではないと思う。ミステリの様な何か。確かに鬼畜系で本領発揮。
三津田信三『山神様の子は七人やから』民俗学怪談 作者はやはりミステリを書いてなんぼ。怪談は他の人に任せた方が良いのでは?

正直白井智之目当てで読んでみただけのアンソロジーです。この中では贔屓無しでも白井がダントツで面白かったです。怪談云々ではなく、エログロとミステリ的トリックが炸裂し最も印象深いです。これだけでも読む価値はありました。三津田信三や澤村伊智にはもっと頑張って欲しかったですね。

No.2043 7点 県警の番人- 天祢涼 2026/07/20 22:24
Q県警内の不祥事を容赦なく暴き出し、市民からの信頼を劇的に回復させた異能の監察官・鏡真人。
〈県警の番人〉の異名を持つ彼に狙われた者は、絶対に逃れられない……。
定年前のハコ番巡査部長、所轄の生活安全課捜査員、刑事課の女性警部補、県警本部監察官警視、鏡の直属部下──五人の警察官視点で浮上する、〈県警の番人〉の正体とは。
Amazon内容紹介より。

鏡真人警視正は県警の番人と呼ばれる監察官である。監察官とは警察署内の不正や不適切な言動がないかを監視し、取り締まるのが役目である。という訳で本作は、あまり耳慣れない監察官という役職にスポットを当てた異色の警察小説です。お世辞にも読み易いとは言えない文体ながら、第五話までそれぞれ違う形で反転が味わえます。伏線回収も素晴らしく、想像以上に楽しめました。

本格ミステリを中心に書いてきた作者ですが、これまでとは一味違う作品に仕上がっていると思います。正直警察小説としの出来は左程ではない気がしますが、ミステリ部分が秀でているのが強みと言えるでしょう。第四話だけはちょっとゴチャゴチャしていて、大変読み辛かったですが、最終話でそれを吹き飛ばす、スッキリ感を満喫出来ます。警察官の裏の顔や弱み、矜持、生き様が絡み合い、人間模様も抉る様に描かれていて、ある意味では問題作と言えそうです。

No.2042 6点 殺人勤務医- 大石圭 2026/07/17 22:25
優秀な中絶専門医・古河は、柔らかな物腰と甘いマスクで人望も厚い。
しかし彼の価値観は、幼少期のある出来事により歪みきっていた……。
彼は、死に値すると判断した人間を拉致して地下室の檻に閉じ込め、残忍な手段で次々と、淡々と殺していく。
Amazon内容紹介より。

エログロ控えめ、だと個人的には思いますが、苦手な方は控えた方が良いかも知れません。人工妊娠中絶手術専門の産婦人科医の「僕」古河は連続殺人鬼である。ある時は拷問を加え、ある時は食べ物を一切与えず餓死させ、海の底に沈めて始末します。しかし自分で言っている様な快楽殺人鬼という訳ではなく、大袈裟に言えば大義の為に殺人に手を染めます。なので、主人公の古河に対する嫌悪感は覚えません。言わば天誅を下すという意味では、被害者に同情する感情は芽生えません。

クラシック音楽を絡めたり、ポルシェに関する薀蓄を語ったり、食事の描写に凝るなどして目先を変え、読者が飽きない様な工夫が施してあり最後まで楽しめます。又、妊娠中絶に対して様々な角度からスッポットを当てて賛否を論じています。終盤でハッとする様な意外な事実が齎されますが、物語はフェードアウトする様に余韻を残しながら終わっていきます。もう少し白黒ハッキリ付けても良かった気がします。しかし、文章も上手いし、今まで読んで来た作品同様面白かったですね。

No.2041 6点 そしてあなたも騙される- 志駕晃 2026/07/15 22:43
夫のDVから逃れ、7歳の娘を育てるシングルマザーの貴代に届いた、滞納家賃の督促状。仕事もなく、財布の中は小銭だけ。強制退去まで、あと10日!?
親戚にも街金にも借金を断られ、追い詰められた彼女がすがったのは、SNS上で客を集める個人間融資の「ソフト闇金」だった。
やけに親切に借金返済を猶予し、子育てなどプライベートな相談にも乗ってくれる、「未奈美」と名乗る見知らぬ貸主。その優しさとは裏腹に、貴代の借金は雪だるま式に増えていく。
いったい「未奈美」とは何者なのか? ひとたびネットの暗闇を彷徨えば、二度と元には戻れない……。
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前半の『騙される人』は何これ、滅茶苦茶面白いやんと前のめりになって楽しく読めました。しかし後半の『騙す人』に入ってから、面白味が格段に落ちて何だかなあとなりました。そしてあなたも騙されると言われても、全然騙されませんけどと白けた気分で半分ガッカリしながらの読書になりました。結局騙されたんですけどね。

これでラストの驚きが無ければ、私は騙されなかったぞと文句の一言も言いたくなるところでした。私と似たような感想を持った人も結構いるんじゃないでしょうか。余りにも解り易い騙しのテクニックには賛否両論ありそうですが、素直に騙された人は幸せです。さぞかしやられたと、唖然としたのではないでしょうか。
それにしても闇金の世界って怖いですねえ。そんな境遇に生まれなくて良かったと心から思います。

No.2040 7点 封鎖館の魔- 飛鳥部勝則 2026/07/13 22:23
封鎖館ーーそれは増改築を繰り返し無数の開かずの間を抱えた魔窟にして、妖しき殺人譚が伝わる怪奇の檻。
かつて芸術家たちが青春を謳歌した狂騒の館は、令和に至り新たな流血を求めた。
密室での顔面切断死体の発生から殺人は連続し、僻地に隔離された館は再び狂騒に満ちる。
芸術に身をやつす者たちの狂気の坩堝から、昭和、平成、令和を超えてついに示される「封鎖館の魔」の姿とはーー!?
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男女の絡みが多いせいか、ねっとりとした質感の作品になっていると思います。しかし館ミステリである事は間違いなく、隅々まで精緻に計算された出色の出来です。実質的な読者への挑戦も挟まれています。これは正に飛鳥部ファンの為に書かれた小説として屹立する質の高いミステリと言えるでしょう。

物語前半はやや間延びがして少々退屈でした。小出しにされる過去の事件は興味深いものがありますが、それ程詳しくは触れられていません。それが私にとっては残念ではありました。又登場人物は目立つ人間と没個性の人間に二分され、アンバランスな印象です。
メインとなるのは密室での顔面切断殺人事件で、そのトリックはちょっとアレですが・・・それにしてもそんなに上手く行くのかという疑問は抱かずにはいられませんでした。それに顔面切断だけで死ぬものですかねえ。
這う館、出入り可能な部屋での餓死死体、謎の蜘蛛男、車椅子の少女、美少年など魅力的なガジェット満載で、多くの伏線も回収されて、しかしミステリを取り除いてみれば最後に残ったのは男女の愛憎劇だったというね、悲劇ですよ。

No.2039 6点 1話3分で驚きの結末!大どんでん返しの物語- アンソロジー(出版社編) 2026/07/10 22:41
大どんでん返しに期待すると肩透かしを喰らいます。確かに最初の武田綾乃の『かわいそうなうさぎ』を読んだ後は、どんでん返しと言うより後味の悪さに辟易としそうなくらい、気分が落ち込みました。しかしそれだけ記憶に残ったという事で、その後も期待出来そうだと思いましたが、やはりそうはいきません。驚きの結末と言えるのは、篠原昌裕の『卒業旅行ジャック』、島津緒繰の『人気作家の憂鬱』、深津重一の『闇の世界の証言者』、堀内公太郎の『夏祭りのリンゴ飴は甘くて酸っぱい味がする』、佐藤青南の『私のカレーライス』、中山七里の『盆帰り』ですかね。

他は正直驚けませんでした。一回読んですぐにでも忘れそうな作品ばかりで残念な結果に終わりました。このタイトルでこれまでに出版された宝島社文庫から選び抜かれた作品の筈なのに、これでは納得できませんね。ジャンル的にはミステリ多目かと思いましたがそういう訳でもありませんでした。上述の佳作もありましたが、全体的にはあまり評価されていないのも納得です。

No.2038 6点 痙攣的 モンド氏の逆説- 鳥飼否宇 2026/07/09 22:20
第一話はロック、その次は舞踏、次はイリュージョンと云った、現代アートをモチーフとして描かれた本格ミステリの連作短編集。二話目までは粋で意外性のある仕掛けを施されており、かなり楽しめました。人間消失やダイイングメッセージ等を扱ったなかなかトリッキーな作品です。しかし第三話でのショボいトリックは失笑を禁じ得ない様なチャチなものだし、肝心の犯人がハッキリしないのは如何なものかと思いました。

そして一変四話目ではいきなり趣向が変わります。綾鹿市イカ学研究所を舞台にイカ尽くしの変格ミステリの様相を呈して来ます。正直私には意味が解りませんでした。話に付いて行くのに精一杯で作者が何を語りたかったのかまでは頭が回りません。流石に曲者の鳥飼否宇、一筋縄では行きません。おまけに付いて来る四話の補足的な『人間解体』も訳が分かりません。
これは評かが分かれるでしょうね。好きな人はとことん好き、ある人にとっては拒絶反応を起こしそうな作品って感じですね。

No.2037 5点 深淵のテレパス- 上條一輝 2026/07/07 22:03
「変な怪談を聞きに行きませんか?」会社の部下に誘われた大学のオカルト研究会のイベントで、とある怪談を聞いた日を境に高山カレンの日常は怪現象に蝕まれることとなる。暗闇から響く湿り気のある異音、ドブ川のような異臭、足跡の形をした汚水――あの時聞いた”変な怪談”をなぞるかのような現象に追い詰められたカレンは、藁にもすがる思いで「あしや超常現象調査」の二人組に助けを求めるが……選考委員絶賛、創元ホラー長編賞受賞作。
Amazon内容紹介より。

三冠だか何だか知らないけれど、全然怖くないしミステリとしても体裁だけは整っているが伏線回収出来ていません。主要登場人物には魅力がないし、これと言った突出した部分が見当たらない、ごく普通のホラーだと思います。Amazonの評価高すぎではないかと。それとも私が間違っているのでしょうかね。

重要人物と思われた桐山楓を追う展開まではそれなりに読めましたが、その正体も拍子抜けでした。それに肝心の超常現象は一体何だったのかがはぐらかされた感じがして、エンディングを迎えた後もそれで?と云う疑問符が頭の中でチラチラして府が落ちません。ミステリで言う解決編というか「答え合わせ」が全然駄目でもっと解り易く説明してくれ、と思わずにはいられませんでした。

No.2036 5点 素晴らしいアレキサンダーと、空飛び猫たち- アーシュラ・K・ル・グィン 2026/07/06 22:24
子猫のアレキサンダーは二匹の妹達と幸せに暮らし、平和な日々を送っていました。兄妹の中でも最も大きく強いアレキサンダーはある日、家の外に出掛けます。するとトラックに遭遇した後、猟犬たちに追われ、森の中に逃げ込んで気付いた時は大きな木の上でした。しかし余りの高さに慄いて降りる事が出来ません。その時羽根の生えた黒猫のジェーンが彼の前に現れます。同じ子猫のジェーンに導かれて無事木から降りる事が出来たのですが・・・。

翻訳は村上春樹で優しい世界を包み込むように描いています。丁寧な訳注も入れてありとても親切だと思いました。我が家で飼っていた子猫も木に登ったのは良いけれど降りるに降りられず鳴いていたところを母が助けたのがきっかけで飼うことになりました。猫あるあるでしょうか。猫は高い所が好き、ある程度の高さなら楽勝で降りられますがあまり高いと怖気づいてしまいますね。

さて、黒猫ジェーンにはある秘密がありました。彼女はそれをアレキサンダーの助力により克服し、ジェーンの兄弟(全員空を飛べる猫)の仲間入りを果たすまでが描かれており、一定の支持を受けている様です。人間と猫ではなく猫同士の関係性を扱っているのが良いんでしょうね。猫が相手の猫の耳や顔を舐めるシーンがよく出てきて、ほんの少し心が温まりました。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 2055件
採点の多い作家(TOP10)
アンソロジー(出版社編)(35)
浦賀和宏(33)
島田荘司(26)
西尾維新(25)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
折原一(20)
日日日(20)
中山七里(19)
森博嗣(19)