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メルカトルさん
平均点: 6.03点 書評数: 2088件

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No.2088 8点 あいつも誰かに殺される- 下村敦史 2026/10/20 22:26
「お前の望みどおりタナトスの影が覆い、鈴木健三には無残な死が訪れるであろう」
SNSアプリ「リアリズム」に投稿された呪詛に死神からの予告が返信された。誰もがいたずらと思った矢先、実際に鈴木健三がビルから転落し、死亡。現場には投稿された呪詛画像のプリントアウトが貼られていた。この大胆な殺人事件に世間は沸騰。「リアリズム」内には殺害を依頼する投稿があふれかえった。都や県の垣根を越えて無作為に人間が殺されていく。殺害方法は様々だが、いずれも投稿画像が傍らに添えられていた。犯人は同一か、複数か。模倣犯は含まれていないのか。一課の警部補・虹ヶ谷礼太郎と女性刑事・音羽沙織は、翻弄されながらも粘り強く捜査を続けるが、事件の範囲は拡大を続けるばかりで――。
Amazon内容紹介より。

SNSを利用した大スケールの劇場型連続殺人事件。一歩間違えばカオス状態になりかねない話を良く整理して、解り易く描かれておりとても楽しめました。感動した、感銘を受けた、驚いた。他に言う事はありません。警察も容疑者も人間が描けており、かなりの臨場感を味わえます。

SNSの世界は深入りすると大変危険である事実を読者に突き付け、問題提起をしていて社会派としても読めます。事件は次々に拡散して行き広がりを見せ、被害者が続出します。果たして事件の裏に何が隠されているのか、予想も出来ない絡繰りが終盤で判明します。しかし、更に意外な真相が露呈しますが・・・。まあそれにしても最初から最後までリーダビリティの高さで引っ張り、読む者を翻弄し最後に意外性を発揮するエンターテインメント性の高い秀作だと思います。

No.2087 6点 探偵小石は戻らない- 森バジル 2026/10/17 22:10
名探偵のように事件を解決する日を夢見る、ミステリオタクの探偵・小石。
色恋案件を病的に得意とする小石は、調査員の蓮杖と様々な調査に取り組んできた。
しかしその日、蓮杖が目撃したのは探偵ではなく、犯人としての小石の姿で――。
Amazon内容紹介より。

概ね文生さんに賛同します。随分攻めた構成になっていますが、それが功を奏したとは言いかねます。策に溺れた感じです。ですので、この仕掛けがプラス材料にはなり得ません。むしろ普通に書いた方が面白くなったのではないかと思います。マイナス要素として読み難いという点が挙げられます。

トリックも小粒で、本格ミステリとしては決して高得点を与えられません。物語は新味が薄く、傑作だった前作には遠く及びません。変わらないのは本質的に恋愛ミステリだという事くらいでしょうか。Amazonの高評価に期待すると裏切られると思います。私もその一人ですが。

No.2086 6点 リヴァイアサン 終末を過ぎた獣- 大塚英志 2026/10/15 22:33
本作を読みながら、幾度となく釈然としない思いを抱きました。それは物語がどこを目指しているのかがよく理解出来なかったせいもあった気がします。私の語彙力ではこの作品の詳細を語る事は到底不可能です。
これはフランケンシュタインの怪物、胚の中の小人、クローン人間、脳を綺麗にくり抜かれた死体、スケルトン等尋常ならざる物が立ち現れる医療ミステリ、或いはホラーの如き何か、と言う他はありません。

語り手は研修医の福山さつき。なのですが、この二十代の女性どうも情緒不安定気味で、性格に一貫性が見られません。ですのでストーリーも何となく足が地に付いていない印象を受けました。医療に関連する様々な事件が起こる訳で、刑事も登場して、それなりの解決は齎されます。しかしどこかリアリティに欠けます。個人的には第四章が好みでした。私の好きな某作家のある作品に類似する内容ですが、その真相は当然ながら全く異なるものであり、この辺りはホラーの領域となってきます。
いずれにしても我々が生きる日常とはかけ離れた、異形の物語であるのは間違いないでしょう。

No.2085 6点 10文字ホラー 2 - アンソロジー(国内編集者) 2026/10/13 22:37
10文字の恐怖、再び

ルールは「文字数を10文字ぴったりに収めること」だけ。

10万作の応募から選びに選び抜いた傑作中の傑作集、最高潮の第2巻!
Amazon内容紹介より。

10文字でもホラーが書けるんだと云う驚き。その連打が本書です。流石に似たテイストの作品も混じっていますが、概ね良作が並んでおり、意味の分からないものはありません。章ごとにテーマを決めて読者の目先を変えるような工夫が成されています。以下に挙げるのは私の心に残った作品の一握りです。

君の血を吸った蚊の卵

頭も四肢もない自殺体

どの卒業写真にもいる

後ろの人はお友達かい

指名手配犯と瓜ふたつ

前の家にもいた人だね

また同じ人が自殺した

同姓同名同じ顔の死体

共喰い中の鈴虫が鳴く

何をやっても死ねない

首が片方足りない遺体

    ・ 
    ・ 
    ・ 
    ・

No.2084 5点 54字の物語 参- 氏田雄介 2026/10/12 22:21
爆笑問題・太田光さん推薦! !
――あの短編の名人、星新一先生が天国でこの本を読んだら、こう言って笑うかもしれない。「私は書きすぎだったかな」
9マス×6行の原稿用紙につづられた、世界一短い(かもしれない)短編小説として、SNSで話題の『54字の物語』。
待望のシリーズ第3弾では、これまでに「54字の文学賞」に寄せられた9000作を超える投稿作の中から、特にゾクゾクする作品を厳選して収録!
さらに、爆笑問題・太田光さんをはじめとする著名人、さらに、『54字の物語』シリーズの作者である氏田雄介氏による、書き下ろし作品も収録。
Amazon内容紹介より。

皆さんよくこの文字制限で小説を書けるなと素直に感心します。そうです、超短編とは言えれっきとした小説な訳で、当然ストーリーがありオチがあります。しかし読んだらすぐ忘れてしまう弱点もあり、逆に言えば何度も楽しめるし、誰でも楽しめるのが強みだと思います。
中には一読後、意味が解らないものもありましたが、解説で納得出来、なかなかの親切設計だと思います。洒落の効いた話が好きな人は読んでみるのもアリでしょう。

何年か前に某クイズ番組で穴埋め問題として取り上げられているのを観て、成程なあ、こんなシリーズがあるんだと感心したのを覚えています。他にも地上波の各番組で話題になった様です。
巻末には、54文字でキッチリ収めるコツが書かれており、そうなのか、でも自分には無理だなと思ったりしてちょっと悲しくなりました。

No.2083 5点 ふしぎな凶器博物館- 潮谷験 2026/10/11 22:40
捜査一課の阿多は、途方に暮れていた。まさか中世の兵器、それも投石機で人が死ぬなんて。
凶器が、特殊すぎる。
捜査は行き詰まり、阿多は、上司から警察とも密接な関係にある博物館(EMWM)を紹介された。
所在地は京都・山科(やましな)。主に殺人事件で使用された凶器の中から、特に変わった物を収蔵しているという。
そして、館長は現場も見ず凶器と周辺情報から事件を解く、安楽椅子探偵だった。
Amazon内容紹介より。

短編四つの間にちょっとしたクイズ『殺人者のシチュー』が挿まれた構成になっています。クイズの方はオマケ程度で、あまり深く考えない方が良いと思います。さして気の利いた物でもないですし。短編は第一話の解決編を読み終えた段階で結構イケると感じました。が、その後失速します。全編面白味のない文章で、特に容疑者の個性が削がれているので誰が誰だか良く解らない状況に陥ってしまいます。事件も地味で、探偵役の千手には好感が持てません。

結局読後、スッキリ感が得られずどこか煙に巻かれた様な不安定な心地にさせられました。風変わりな凶器と言っても凶器にはなり得る訳ですし、そこだけ切り取って高評価するのも考えものな気がします。アイディアは認めますが、もう少し面白くて現実味のあるものが書けなかったかなと残念に思います。

No.2082 5点 絶深海のソラリス- らきるち 2026/10/09 22:38
《水使い》それは22世紀の人類が生み出した〝深海踏破の異能″――。山城ミナトは水使いの訓練生を指導する教官として、母校であるアカデミーに帰ってきた。そんな彼の教え子は二人。落ちこぼれでもマイペースな幼馴染の星野ナツカと、性格に難はあるが水使いとして至宝の才能を生まれ持つクロエ=ナイトレイ。時には反発を見せながらも前に進もうとする彼女たちを見て、ミナトは教官であることに楽しみを感じ始めていた。しかし、深海に沈む都市に〝S.O.S″が鳴り響いた時――平和だったミナトの日常は終わりを告げる。【深海】×【絶望】 戦慄の本格パニックノベルが登場。――この《結末》を、僕達はまだ、知らない。
Amazon内容紹介より。

相変わらずAmazonのラノベ読者は作者に対して甘いなあ。いくら何でも評価高すぎでしょう。そもそも水使いの存在意義が判りません。作中で説明されていませんからね、ダメですよそれは。中盤あたりまで我慢しながら読んで、これは3点か4点だなと思いました。主人公のミナトもヒロインのナツカもキャラが立っていないのがもう致命的ですね。むしろサブキャラのメイファとミシェルの方が目立っています。その二人の活躍で終盤やっと盛り上がって来ます。

青龍偃月刀を駆使して化け物をぶった切るメイファやコンピュータに強いミシェル、彼女らがいなければこの小説は成り立たなかったでしょう。特にナツカやクロエはそこに居るだけみたいな存在でしかありません。
読んで後悔したとは言えませんが、読まなくても別に良かったとは言えるでしょう。パニック、パニックと言ってます(Amazonで)が、そんな大それたものではないですよ。

No.2081 7点 なんで死体がスタジオに!?- 森バジル 2026/10/07 22:28
バラエティプロデューサー・幸良涙花は、がけっぷち、である。
筋金入りのお笑いファンかつテレビっ子だが、不運体質(?)のせいか、失敗に失敗を重ね、会社からは「次がダメなら制作を外す」と告知されている。

進退をかけた「次」の番組は、その名も「ゴシップ人狼」。
出演者たちが持ち寄ったリアルゴシップについて語りながら、紛れ込んでいる嘘つきを推理する、というトーク番組で、季節ごとの改変期に放送される人気特番だ。
マンネリ化する番組のテコ入れに、これを「生」で放送しろ、と上司は言うが、コンプラ的にも、事務所対応的にも無茶な企画。奮闘する幸良が、本番前に出会ったのは……
Amazon内容紹介より。

のっけからノリノリで実に面白かった。途中ややダレる感じはありましたが、芸能界やTV業界の裏側を結構真実味を帯びさせて抉った良作だと思います。視点を変え乍ら描かれる生放送の暴露系人狼ゲーム、裏切り者は誰だ、そしてリアルな殺人者は?番組出演者とスタッフ側、そして視聴者目線で描写される意味が最後に判明します。

流石森バジル、やってくれました。最後の最後まで目が離せない、ユーモアミステリと呼称するのが勿体ない位の出来です。伏線回収云々は後出しの感はあるものの、動機などは正に真に迫るものがありました。
これが文芸春秋から出版されたと云うのもまた、成程と思わせます。他の出版社では出せなかったんじゃないかな。実名を交えた小ネタなども楽しめましたが、何より本作が本格ミステリとして評価されるべきだし、物語の締めくくりにアッと言わせるだけの力を有しているのが個人的に嬉しかったです。
この実力が後の『探偵小石は恋しない』に繋がったと考えて間違いないと思います。

No.2080 6点 呪詛遊戯- 市川憂人 2026/10/05 22:16
奇跡の御子様と呼ばれた《呪詛なし》の壮耶と、相棒のヒカルが訪れた施設。
ここには『視覚』『聴覚』『味覚』『四肢機能』などを喪失する《呪詛》を持った者たちがいた。
翌日、目覚めると、壮耶は視覚を失ってしまう。呪いを受けたのだ。
「これは何かの罰なのか?」
Amazon内容紹介より。

ややこし過ぎるし解りづらい。それに加えて壮耶とヒカル以外の登場人物が一挙に紹介されている上に、人間が描けていない為余計に混乱して来ます。呪詛の移り変わりと云う特殊設定は何故起こるのかも良く解らないのも、腑に落ちない点です。メイントリックは薄々感づいていたので驚けませんでしたが、その後の説明では成程その為の呪詛でもあったのかと、そちらの方には感じ入るものがありました。

今時これくらいの特異さでは然して驚きませんが、イマイチその世界観が深掘りされておらず、背景にある筈の様々な事柄の説明不足が浮き彫りになっている様に感じられてなりませんでした。
アイディアに見合ったカタルシスが得られたとはお世辞にも言えませんね。

No.2079 7点 犯人は現場に首だけ戻る- 倉知淳 2026/10/03 22:38
フリーライターの折本光一は、浮世離れした友人の久世敬太郎とともに、一日の捜査体験でレポートを提出する「非正規雇用捜査官」に採用された。今回の事件現場は凶悪な強盗殺人事件が起きた民家。事件の十日後には犯人と思われる“生首”がなぜか家の門柱に置かれていた。〈正義の執行人〉の仕業か、愉快犯か、謎は深まるばかりだが、体験を終えた相棒の久世は、あっさりと「真相がわかった」と告げるのだった――“派遣さん”捜査コンビが、猟奇事件の謎を“のほほん”と鮮やかに解くユーモア本格ミステリ!
Amazon内容紹介より。

全四作、全て身体のどこかが切断された死体が登場。第一話は被害者の頭部が強盗事件のあった家の門柱に乗せられ、第二話は若い女性の切断された右腕が死体の上に乗せられていた。第三話はカリスマ男性の左脚が根元から切断され、ズボンを何事もなかったように履かされていて、第四話は頭部、四肢、手首、足首の九ヵ所を切断されたバラバラ死体。
全体的にくどい面もあります、特に刑事や探偵役の久世敬太郎の長広舌が鼻に付いたりしますが、それなりに楽しめました。

個人的には第三話が特に印象に残りました。数々の伏線が張られているにも拘らず、何故脚が切断されたのかさっぱり想像も付きませんでした。全話切断の理由にとことん拘って書かれた作品集で、其々の真相には納得感があり理路整然と解明されていきます。かなり焦らされますが、最終的にはロジックに押されて成程となります。ただ、第一話など早い段階で真犯人が明らかになっても良さそうなのに、とは思いましたが、それ以外は目立った瑕疵はなく好編揃いではないでしょうか。まあ私が切断物が好きなのもあり、評価は甘めになっていますけれど。

No.2078 5点 トップラン&ランド完- 清涼院流水 2026/09/30 22:22
音羽恋子は生後間もなく連れ去られ、別の赤ん坊とすり替えられていた!?謎めいた力で人類崩壊を予言する「悪王」の誕生が、半世紀に亘る物語を最終決戦へと導く。シリーズ最終巻!
Amazon内容紹介より。

『トップラン』シリーズは全巻読みましたが、本作を読んでみても全く内容が思い出せませんでした。やはり読むのが遅過ぎたのか、ちょっとだけ後悔しています。
第一部はトップ屋の藤兵侍が洞窟に監禁される話ですが、漠然とし過ぎていて何が何だかよく分からないうちに終わってしまいました。藤見子様は結局何がしたかったのか、結末もあやふやで消化不良でした。

一方兵侍の息子の笙造が活躍する第二部は、小品なのに清涼院流水らしく無駄にスケールが大きすぎてつい笑ってしまいそうになります。昭和から平成に起こった主な事件をピックアップして暗号と絡めるという、何だか知らないけど興味を惹かれるテーマとなっています。三億円事件に始まり、ノストラダムスの大予言に辿り着く道程はなかなか楽しめました。こんな事あんな事、覚えの無い事色々あった時代の変遷には、私はこんな時代を生きて来たのだと云う感慨を覚えました。特にグリコ・森永事件は他人事ではなかっただけに懐かしい思い出というか、とんでもない事件だったのだと感じました。

No.2077 6点 京都魔王殿の謎- 吉村達也 2026/09/28 22:47
錦の紅葉に彩られた秋の京都、「美しすぎる超能力者」鹿堂妃楚香は、自ら主宰する魔界めぐりのツアーで「猿の手首」に遭遇すると不気味な予言。だが出てきたのは人間の手首。
しかも、彼女の母親の手だった! 
バラバラ殺人の謎の解明に京都府警、天才聖橋博士、氷室想介が推理合戦を展開。
心理トリックと物理トリックの両面から、ついに真相が解き明かされたと誰もが思ったとき、氷室は恐るべき逆転の落とし穴に気がついた!
Amazon内容紹介より。

これはトリック云々よりもストーリー性に重きを置いた作品で、物語として面白いものでした。個人的には読む前から猿の手首というワードに引き摺られて、意識し過ぎたきらいがあり、開けてみればそういう事だったのかと拍子抜けしました。しかし、それと共に発見されたのが人間の手首だったというのは驚きでした。そしてかなり過激なグロ描写には作者の本気度を感じました。

今回はサイコセラピスト氷室京介よりも、聖橋博士の方が先に真相に迫っており、氷室はあまり目立ちませんが、最後にはきっちり決めてくれました。
舞台が京都という事もあり、その雰囲気は十分に味わえます。また前作に続きQAZの存在が大きく影響を与えています。あとがきではその正体は既に作品の登場人物の中にいると書かれていて、非常に興味が持たれるところの筈でしたが、ご存じの通り作者が亡くなってしまい、残念ながらそれは永遠の謎となりました。吉村達也が生きていれば、今頃はまだまだシリーズの後半辺りか、いずれにせよ道半ばだったでしょう。

No.2076 6点 生きながら火に焼かれて- スアド 2026/09/26 22:59
時は現代、所は中東ヨルダンのある村での話。ノンフィクションなので勿論実際に起こった出来事です。作者はその当事者で、タイトル通り生きながら火に焼かれて一命を取り止めた女性です。その女性スアドは自身によると十四人姉弟のうちの一人で、まずそれに驚かされました。
この村では簡単に言えば男社会で、女性は奴隷以下の扱いを受けます。肌を晒してはいけない、男と視線を合わせてもいけないし話をしてもならない。年中裸足で羊や山羊の世話をしながら妹達にも気を配らなくてはなりません。「正義の殺人」として女の子が生まれると母親自らが窒息死させる事も頻繁に起こるそうです。親の決めた花婿と結婚する事を定めとして、十四歳頃から十八歳くらいまでに結婚しないとオールドミスと呼ばれます。何てこった、十九でオールドミスとは。

そんなスアドが結婚相手と事前に男女の関係になってしまい、妊娠します。物語の悲惨さと中東ではいまだに残る古い因習に言葉を失って、うなだれていた私はこれが悲劇の始まりだと予感しました。こんな酷い話があっても良いのでしょうか。

第二部では「人間の土地」という福祉団体のジャックリーヌと出会い、火傷の手術を何度も受けていたスアドは再生します。それまで隠していたケロイド状の顎から下、腕を人々の前でさらけ出し自身の経験を語ります。日本でも講演が行われ、スアドは日本人の優しさ温かさ、心遣いに感動したと言います。私たちは恵まれています。只々普通の日常を送っているだけで幸せな事だと、自分の人生を生きなければいけないんだと思わされました。

No.2075 7点 少年ABCの完璧な選択- 結城真一郎 2026/09/23 22:21
守るべきは、今の家族か。命懸けの約束か。
2025年8月、朝。とある誘拐事件が日本全土を震撼させた。あの夏の真犯人は名乗り出よ、さもなくば諸君らの大切な"方舟ちゃん"の命を頂戴する――。
それは、かつて法の死角を突く鬼手で完全犯罪を成し遂げた三少年に対する宣戦布告だった、タイムリミットは今夜10時。3時間ごとに、少年たちの個人情報が暴かれていく。あの頃は失うものなんてなにもなかった、だけどいまは――。
Amazon内容紹介より。

第一部はやや重めの青春ミステリ。主人公は三人の男子中学生と同級生の女子。四人は自ら「本町ギャングスターズ」を名乗ります。男子ABCのうち二人は万引きの常習犯で一人は監視役。彼らの青春は自由奔放でちょいワルなものでした。そんな時紅一点の之愛の身に尋常ならざる事態が起こります。そして三人は復讐の為拷問を実行する事を決意しますが。
少年たちの家族構成やその関係性などのエピソードも描かれますが、それはオマケの様なものです。

そして第二部はそれから十五年後に起こる世間を震撼とさせるある事件を、警察対三少年の構図で描かれます。じりじりした対決は二人の刑事がなかなか過去の惨劇の核心に迫れず、読んでいる者としてはじれったい思いにイライラが募ります。心理戦や頭脳戦を核とした駆け引きが好きな方にはお薦めです。
伏線回収も良く考えられており、読み応えも十分だと思います。楽しいとか面白いというよりも、兎に角先が気になって嫌でもページを捲らされる感じです。

No.2074 5点 ロコ! 思うままに- 大槻ケンヂ 2026/09/20 22:24
絶対的に君臨する父親によってお化け屋敷に閉じこめられている少年・ロコ。独りぼっちの彼が美しい一人の少女と出会う……ほろ苦い衝動が初めてロコを突き動かす! 泣ける表題作他を収めた充実の短編集。
Amazon内容紹介より。

オーケンらしいと言えばらしいのかな。表題作は泣けません。酩酊小説か幻想小説でしょうか。お化け屋敷のフリークス達が出て来ます。他の作品にも言える事ですが、ストーリー性が薄いと感じました。紆余曲折とか起承転結とは無縁の世界です。
ジョン・レノンに似た外国人と遭遇し、少年兵が『同期の桜』に8ビートを刻む事を発見した話。キティちゃんに似せたキテーちゃんを殺してしまう話。乱歩の少年探偵団のオマージュ。赤ちゃんサイボーグが敵と激闘を繰り広げる話等一貫性のない短編が並びますが、どれもオチが弱いです。

その中、頭一つどころか身体一つ抜けているのが『モモの愛が綿いっぱい』。これは泣けますね、隠れた名作だと断言して良いと思います。UFOキャッチャーで獲ったクマのぬいぐるみモモ次郎は何と日本語が話せるのだった・・・元ヤクザの主人公は公園でモモ次郎を抱いて会話をしていると、周りの反応は冷ややかだった、しかしこの後とんでもない展開に発展するという物語で、意外性と言いオチと言い他作品とは比べものにならない奇想を発揮した傑作です。これだけでも読む価値はありました。

No.2073 6点 鹿の死んだ夜- トマス・H・クック 2026/09/18 21:57
セントラル・パークの動物園で二頭の鹿が殺されていた。ほどなくヴィレッジで発見された二人の女の惨殺死体、その手口がそっくり
Amazon内容紹介より。

まずプロットが上手いですね。子供動物園で殺された二頭の鹿事件を追う刑事リアダン。彼が子供の頃のエピソードがとても印象に残ります。グロイ表現もあったりしますが、重すぎず軽すぎず丁度良い塩梅で描かれており、無駄のない筆致と言い、言葉遣いの上手さと言い、クックは既にデビュー作から完成されています。ラストも忘れがたいものがあります。

ただ動機の面でどうしても納得の行かない点がありました。何故鹿を殺したのか、そして女性二人を狙った理由。普通に考えれば標的はそっちじゃないだろうと思ってしまうんですよね。そう考えると犯人の行動は支離滅裂というか、思考回路どうなっているんだろうと。なかなかの好篇だけに其処だけが残念な気がしました。

No.2072 7点 『石球城』殺人事件- 北山猛邦 2026/09/15 22:17
凍てつく世界を旅する少年・ルーサは壁で囲まれた城塞都市・石球城に迷い込む。無数の石球が散らばり、永遠に夜が明けない閉ざされた街(クローズド・サークル)は、九人の王が支配し、十三の灯台とそこに住む巫女によって保たれていた。自身の正体を知るため、ルーサは“世界の果て”を目指す少年・ロメリアと、巫女・カヮクの灯台を訪れるが、待っていたのは密室首切り死体。巫女殺しの疑いをかけられたルーサは犯人を捜索するが、今度はべつの巫女が密室首切り死体として発見されーー。
Amazon内容紹介より。

密室での首なし死体と来れば読むしかないでしょう、と意気込んで読みました。長いしややこしいと嫌だなと思いましたが、比較的解り易くて良かったー。あれこれ言いたいことはありますが、まあそれは野暮というものでしょう。しかしそれ程面白いかと問われると疑問が残ります。十三もの密室が出て来るので、次第に感覚が麻痺します。そこまでバリエーションに富んだものでもないし、どうしても又かってな感じになります。似たようなパターンが多いので。

でも力作であることには違いないです。これだけのトリックを考えるだけでも一苦労でしょう。あまり深く考えないで、様々な密室トリックを楽しめればそれで十分ですね。個人的にはシンプルですが、最初の密室に意表を突かれました。又意外な犯人という点では成程なと思いました。しかし物語がストレート過ぎるのでもう一捻りあるともっと良かったですね。

No.2071 5点 池魚の殃- 椹野道流 2026/09/11 22:22
O医大法医学教室の大学院生・伊月崇と指導教官の伏野ミチルは、何者かによって拉致監禁された。現場にはミイラ化した腕が残されていたのだが……。誰が何の目的で監禁したのか。ミイラは誰の腕なのか? 魅力的なキャラクターとリアルな医学知識で描く、法医学教室のメディカルミステリー。
Amazon内容紹介より。

これまでは法医学教室に持ち込まれた遺体を解剖し、死因を特定したり凶器を探ったりしていたミチルと伊月が、本作では事件の当事者になるのが目新しいところです。そして何者かの右腕のミイラと云う謎が現場に残されます。警察の捜査はほとんど描かれませんが、その代わり今回は伊月とその親友で刑事の筧、それにミチルを加えた三人の共同生活がかなり克明に描かれています。他のキャラも相変わらずの個性が際立っていて共感が持てます。

ただ捜査側の描写がほぼない為、二人を監禁した犯人が唐突に告白を始めます。この辺りはじりじり犯人に迫っていくアプローチは手法として取っていないので、いささか淡白に感じますね。どうしても舞台が法医学教室なので限界があるのでしょう。探偵が活躍して、推理し解決する典型的な本格ミステリとは一線を画しています。だからでしょうか、読み易いのは良いですが、読み応えがやや足りないと感じてしまうのは私だけですかね。しかし物語としては面白いのは間違いないです、ただ見せ方がちょっとどうかなと思います。

No.2070 4点 “菜々子さん”の戯曲 小悪魔と盤上の12人- 高木敦史 2026/09/09 22:34
高校に入学した俺は、文芸部に強制的に入るように脅されちまった。いきなりの大ピンチに颯爽と現れたのが“菜々子先輩”だった。心奪われた俺は、いつの間にか彼女の言葉に誘導されて――この恋は屈辱の味がする。
Amazon内容紹介より。

前作でも書きましたが、どうでも良い描写が多すぎるし、肝心な所の説明不足が目立ちます。特にミステリで言えば解決編が端折り過ぎで、全然納得感がありません。日常の謎が主なテーマですが、その規模が小さすぎて小説自体が矮小化されている様にすら思います。恋愛面にしても中途半端で、何とも言い様がありません。

最大の事件である美少女盗撮が物語全体に横たわります。これもトリックと呼べるほどのものではなく、これが事件の真相かと思うとかなり腹が立ちます。密室からの脱出は半ば予想通りでしたが、これはちょっと気の利いた物だったので、この点数です。これが無かったらショボい暗号の謎も含めてもっと低評価にせざるを得なかったでしょうね。
更なるシリーズ化を断念したのも頷けます。

No.2069 5点 失踪HOLIDAY- 乙一 2026/09/07 22:23
再婚した母が死に、裕福な義父と屋敷で暮らしていた中学2年生のナオ。
迎え入れられた意地悪な継母との喧嘩のすえ、ナオは家出を決行する。
屋敷の離れに住む使用人・クニコの部屋にむりやり居座り、
家族の様子を観察してやることにしたのだ。
……けれど血の繋がらない家族には狼狽した様子もない。
ナオは狂言誘拐を画策し、家族に身代金を要求するが――(「失踪HOLIDAY」)。
Amazon内容紹介より。

『しあわせは子猫のかたち』は他の短編集で読みましたが、内容はさっぱり忘れていました。なので再読して良かったと心から思います。こんな秀作を忘れていたなんて考えられませんよ。自分の記憶力の無さに絶望です。これぞ乙一と言っても過言ではない切ないホラーとミステリの見事な融合。素晴らしいです。

一方中編の表題作は同じ人が書いたと思えない出来の悪さ。全編物語のテンポが悪く緩慢なペースで遅々として進まない展開と、びっしりとした文字の羅列にページがなかなか進みません。やっと辿り着いた結末にはまあ納得出来ましたが、驚く程のものではなくちょっと残念でした。主人公の少女にも感情移入出来ず、個人的にとても高評価は出来ません。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.03点   採点数: 2088件
採点の多い作家(TOP10)
アンソロジー(出版社編)(35)
浦賀和宏(33)
島田荘司(26)
西尾維新(25)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
日日日(20)
折原一(20)
中山七里(19)
森博嗣(19)