皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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メルカトルさん |
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| 平均点: 6.04点 | 書評数: 1940件 |
| No.1940 | 6点 | ミステリ・オールスターズ- アンソロジー(国内編集者) | 2025/11/07 22:45 |
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| 本格ミステリ作家クラブ設立10周年記念の書き下ろしアンソロジーが文庫化!! 辻真先、北村薫、芦辺拓、綾辻行人、有栖川有栖などベテラン執筆陣と新鋭たち全28名が一堂に会した本格ミステリの最先端!
Amazon内容紹介より。 全23名のミステリ作家による短編と、文庫化に際して有栖川有栖、光原百合、綾辻行人、法月綸太郎、西澤保彦によるリレー・ミステリ『かえれないふたり』の計24編が収録されています。著名な作家が並んでいますのでほとんど読んだ事のある人ばかりですが、初読みが早見裕司、山沢春雄、松本寛大の三名。 一言で言えば玉石混交、ですかね。あまり記憶に残りそうにないものが多い中、面白かったのは鳥飼否宇『二毛作』、松本寛大『最後の夏』、飛鳥部勝則『羅漢崩れ』、太田忠司『騒がしい男の謎』、門前典之『神々の大罪』です。中でも飛鳥部勝則が最優秀作だと思います。ホラー風味の本格ミステリですが、起承転結が確りしており、短い中にも内容がぎっしり詰め込まれていて、伏線回収も文句なしの傑作でした。ところで柄刀一の『ある週末夫婦のレシート』は一体何なのでしょうか。余りにも問題があり過ぎて問題作とさえ言えない代物ですよ。ああ云うのアリなんですかね、やりたい事は判りますが、それにしても・・・。 リレー小説はほとんど違和感なく、それぞれが個性を消して上手くリレーされています。これもなかなかの好印象でした。 |
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| No.1939 | 8点 | 抹殺ゴスゴッズ- 飛鳥部勝則 | 2025/11/04 22:24 |
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| ゴッドが好きな高校生の詩郎が出逢った、自分が空想で創ったはずの神の正体とは……? 地元の名士が殺害され、脅迫していたという謎の怪人・蠱毒王とは何者か……? 二つの迷宮的な事件が複雑怪奇に絡み合い、恐ろしいカタストロフィが待ち受ける本格超大作!
Amazon内容紹介より。 短編を挟みながら遂に大長編を引っ提げ復活したかと思われたのですが、昨年『フィフス』という同人誌で既にこっそり復活を遂げていた飛鳥部勝則。いずれにしても有志と共に祝いたいですね。 本作は令和と平成の二部構成で交互に配置されています。勿論登場人物もそれぞれ違います。令和パートは冒険譚を挟みながらの青春小説の様相で、名画をモチーフにした辺りはらしさが出ています。平成パートは乱歩さながらの雰囲気満点で陰鬱な空気が漂っています。 流石に長かったとの印象は否めませんが、最終盤の畳み掛けるような展開は圧巻で、感動しました。又不思議な高揚感に包まれました。永きに亘って待った甲斐があったというものです。ただそれまでがやや地味で所謂鈍器本なので、今年のベスト10に入って欲しいと思っていますが、難しいかな~。 |
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| No.1938 | 5点 | 醗酵人間- 栗田信 | 2025/10/29 22:41 |
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| 「戦後最大の怪作SFの噂。酒を飲んで発酵する謎の怪人。あまりのバカバカしさは、むしろ感動を呼ぶ」と評され、「BOOKMAN」誌の〝SF珍本ベストテン〟第6位を獲得した『醗酵人間』(1958年刊)。そして、なぜか「醗酵人間」に対抗意識を燃やし、LSDで人格変換を起こす主人公の活躍を描く『改造人間』(1965年刊)を同時収録する。
Amazon内容紹介より。 まず最初に言っておきたいのは、「巻末資料」と云う名の解説を先に読んではいけないという事です。重大なネタバレをしています。 本作品集は三篇の長編と四篇の短編を収録しています。表題作こそ長編の体を成していますが他二編は連作短編集のような形式であり、全体的に語り手がコロコロ変わり纏まりに欠け、ゴチャゴチャして記憶に残りません。噂によると『醗酵人間』のみで40万円ほどで取引されていたらしいですが、その内容は値段に見合うものではありません。珍品というだけあって、荒唐無稽なSFで余程の物好きしか読まないであろう事は想像に難くありません。 むしろ私が注目したのは『台風圏の男』で、冒頭の『蜘蛛男出現』。これは超面白かったですね。全編このレベルであれば大傑作になったに違いありません。しかし、これは第一章として完結してしまっていて、その後はガラリと話が変わっていきます。結局一体誰が台風圏の男なのかすら判然としません。短編を組み合わせた作品なので仕方ありませんね。まあ何事も経験という事で甘めの採点となっております。 |
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| No.1937 | 6点 | 読むだけでグングン頭が良くなる下ネタ大全- 評論・エッセイ | 2025/10/25 22:27 |
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| コーンフレークは性欲を抑えるために開発された?
「正常位」の名には人類史が宿っている? アリストテレス、ガンディー、フロイト、正岡子規、医学者、性科学者……先人たちの飽くなき探究と実験により得られた性科学的知見の数々。著者ならではの考察と多角的な視点から生まれた、下ネタの〈総合知〉と称すべき賢者の書。 Amazon内容紹介より。 タイトルは下ネタですが、これは最早学術書と呼んで差し支えないと思います。それは巻末の夥しい文献一覧を見ても分かります。「読むだけでグングン頭が良くなる」事はありませんが、確かに知的好奇心を擽られるのは間違いありません。キリスト教、神話、古代の哲学者や思想家、殆どのページに付帯している脚注など、これでもかと知識と博覧に溢れています。 ただ、どこまでも男目線で書かれているので、女性が読んだらどうなんだろうとは思いますね。間違っても本書を男性から女性にプレゼントしてはいけません。エロを期待すると拍子抜けしますよ、飽くまで下ネタを学究的に突き詰めようとしていますので、不真面目な読者には容赦しません。何だこんな内容だったのかと不満を抱いた方は、どんだけエロいんだと非難されそうなので注意して下さい。興味本位の軽い気持ちで読んではいけない、適度に知的なエッセイです。 |
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| No.1936 | 6点 | 光秀の定理- 垣根涼介 | 2025/10/22 22:31 |
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| 永禄3(1560)年の京。
牢人中の明智光秀は、若き兵法者の新九郎、辻博打を行う破戒僧・愚息と運命の出会いを果たす。 光秀は幕臣となった後も二人と交流を続ける。やがて織田信長に仕えた光秀は、初陣で長光寺城攻めを命じられた。 敵の戦略に焦る中、愚息が得意とした「四つの椀」の博打を思い出すが――。 何故、人は必死に生きながらも、滅びゆく者と生き延びる者に分かれるのか。 Amazon内容紹介より。 主要登場人物は少ないですが、其々強い信念を持っており、それらのぶつかり合いが本作の読みどころとなっています。又各人物像が確りと確立されていて非常に読み応えがあります。光秀が主役という訳ではありませんが、その人となりや生い立ちなどが知れて勉強になりました。 愚息の宗派を超えた仏教観の凄みと新九郎の元々人並み外れた武術の進化が上手く組み合わさって、絶妙のコンビ感が生まれます。 光秀と言えば本能寺の変ですが、これに関しては詳しく語られていません。生真面目で不器用な光秀と破天荒でありながら優れた戦略家の信長とは、水と油の様に語られる事が多いですが、ここではその確執は本質的な部分で省略されており、その分最後に何故謀反を起こしたのか、愚息と新九郎が考察します。歴史小説としてはそれなりに良く出来ていると思います。ただ、確率論については、その全容は完全には理解が及びませんでした。 |
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| No.1935 | 6点 | アスカ―麻雀餓狼伝―- 吉村夜 | 2025/10/19 22:23 |
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| 本格麻雀小説登場!!
祖父の背中を追い、高校生・アスカは麻雀の世界へ飛び込んだ。そこへいまへの漠然とした不安を覆す、本当の生き方があると信じて。そして一人の美女との出会いが、彼を博打の更なる深みへ誘う…!! Amazon内容紹介より。 良く出来た麻雀劇画をそのまま小説にした様な作品(褒めてます)。登場人物は多くないもののキャラは立っていますし、主人公のアスカの心理描写が巧みなので嫌でも感情移入してしまいます。なかなか本格的な麻雀小説で、闘牌シーンもここぞと云う時には迫真の書きっぷりを示しており、メリハリが効いていて良いと思います。 博徒同士の騙し合いや凌ぎ合いは読んでいて、ハッとさせられるシーンも結構あり面白さは文句ありません。文体はラノベとは言い難く、普通に麻雀小説としての体裁を保っています。ただ最後にして最大の対決はもう少しヒリついた雰囲気が欲しかったところです。欲を言えばですが。ややあっさり終わり過ぎで、もっと頁を割いても良いから緊迫感のある闘牌を書いて貰いたかったですね。 それにしても手積みではなく全自動卓の時代に裏技を駆使するのは難しくなったのに、敢えてそれに挑戦した心意気は買えると思いました。 |
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| No.1934 | 4点 | モンテスキューノート アガタ2- 首藤瓜於 | 2025/10/17 22:35 |
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| 若い女性がサバイバルナイフで刺され、顔を激しく傷つけられたうえに片目を抉りとられるという異様な殺人事件が立て続けに発生した。捜査本部で被害者の接点を探る青木一は何か助言を得ようと鵜飼縣とともに元精神科医のレイチェルの部屋に集まって事件の概要を説明したところ、レイチェルが異常なほどに動揺し、ワイングラスを取り落としてしまう。その時に漏らした言葉が気になってしかたがない縣は、彼女がかつて行った犯罪者の精神鑑定のカルテを調べるよう桜端道に指示して、十年数前に鑑定した凶悪犯が来日していることを突き止めるも、第三の事件の発生とともにレイチェルの失踪を知らされる……。
Amazon内容紹介より。 どこかで読んだ様な既視感のあるサスペンス。縣、道のコンビは警察関係者であるにも拘らず、捜査班とは別に独立した形で事件に関わっており、違和感があり過ぎます。Amazonのレビューにある様にご都合主義というか、全てに於いて予定調和で進みサプライズ的要素が殆ど見当たりません。途中で過去の類似事件に言及されますが、そこで動機については説明したとばかりに、本事件での何故被害者が片目を抉られているのかには触れられていません。まあ理解出来ないではありませんが、殺害に至るまでの心理状態が描かれておらず不親切です。 全然面白くないという訳ではありませんが中身が薄っぺらい感は否めません。会話文が多い割りには内容がすんなり頭に入って来ない印象で、文体が私には合いませんでした。 蛇足ですが、内容がこれで306ページの本書に2255円も出費させられたら堪ったものではありませんね。最近、特に講談社の単行本に限らず文庫本も、いささか高価に過ぎる気がします。コスパ悪すぎ。 |
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| No.1933 | 6点 | 羊殺しの巫女たち- 杉井光 | 2025/10/14 22:32 |
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| 「十二年後、次の祭りの日に、ここでまた集まろうよ。みんなで」
山に囲まれた早蕨部村で12歳を迎える6人の少女たちは、未年にのみ行われる祭りの巫女に任命される。それは繁栄と災厄をもたらす「おひつじ様」を迎えるため、村の有力者たちが代々守ってきた慣習だった。祭りの日、彼女たちは慣習に隠された本当の意味を知る――。そして12年後、24歳になった彼女たちは、村の習わしを壊すというかつての約束を果たすため、村に集う。脈々と受け継がれた村の恐るべき慣習と、少女たちの運命が交錯する中、山で異様な死体が発見される。 Amazon内容紹介より。 殆どが平坦な道を進む通常運転です。一向に盛り上がりませんし、ホラーとして怖くないです。ミステリとしての方がまだしも評価出来るかも知れません。それにしても長いわ。もう少し短く出来たでしょう。 書き様によってはもっと面白い話にも仕上げられたはずなのに、余りにも殺人事件そっちのけで少女達とその12年後の姿を追い過ぎて、何がやりたかったのかよく理解出来なかったというのが個人的な感想です。しかも少女達の書き分けが上手くなくキャラが立っていない印象が強いです。こう云うのは三津田信三とかに任せて、この人は青春ミステリでも描いていた方が身の丈に合っていると思うんですけどねえ。それと、らしい雰囲気がなく密度がかなり薄い感じがしました。 |
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| No.1932 | 9点 | 探偵小石は恋しない- 森バジル | 2025/10/11 22:43 |
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| 小石探偵事務所の代表でミステリオタクの小石は、名探偵のように華麗に事件を解決する日を夢見ている。だが実際は9割9分が不倫や浮気の調査依頼で、推理案件の依頼は一向にこない。小石がそれでも調査をこなすのは、実はある理由から色恋調査が「病的に得意」だから。相変わらず色恋案件ばかり、かと思いきや、相談員の蓮杖と小石が意外な真相を目の当たりにする裏で、思いもよらない事件が進行していて──。
Amazon内容紹介より。 バラバラ死体や首なし死体、密室や孤島や館が出て来なくても、こんな面白いミステリが書けるとは・・・。今から本年度のランキングが楽しみです。 内容については上記位なら大丈夫だと思いますが、何を書いてもネタバレに繋がりそうなので下手な事は言わぬが花。本作を本当に楽しみたいなら、うっかりどこかでネタバレされないうちに読みましょう。 【ネタバレ】 作中に『方舟』『GOTH』『六人の嘘つきな大学生』『魍魎の匣』『名探偵のいけにえ』『十角館の殺人』が出て来ます。別にそれらのネタバレをしている訳ではありませんが、作者のミステリに対する並々ならぬ熱情が伝わってきます。 本作をありがちな恋愛ミステリと思ったら大間違いです。又、第一章から第三章まで読んだ時点でああ、二人は普通に探偵しているじゃんと思ったとしたらそれも大間違いです。とにかく騙されます。伏線は十分張られていて最初のページを捲った瞬間から既にほとんどの読者が作者の掌の上で踊らされていると考えて間違いありません。いや、参りました。 |
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| No.1931 | 6点 | 謎好き乙女と壊れた正義- 瀬川コウ | 2025/10/08 22:36 |
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| その青春(ミステリ)は間違っています。紫風祭。藤ヶ崎高校の学園祭を早伊原樹里と回ることになった春一は、その道中で相次いで“謎”に遭遇する。開会式で用いる紙ふぶきの消失。模擬店と異なる宣伝看板を並べる実行委員。合わない収支と不正の告発。初夏の一大イベント真っただ中で起こる事件を追う中で、二人は学祭実行委員長・篠丸の暗躍を知る……。正義とは何か。犯人は誰か。切なくほろ苦い青春ミステリ、第2弾。
Amazon内容紹介より。 正直言いますと、一章の途中で何度も挫折しかけました。もう読むのを止めようか、今ならまだ引き返せる、放り投げてしまえとか色々考え乍ら読んだため、一章のストーリー等はほとんど覚ていません。しかし二章、三章、五章はかなり骨があり青春小説とは思えない密度の濃さを見せ付けています。最後まで読んで良かったと心から思った瞬間でした。 主人公の春一と早伊原の関係は微妙で、恋人同士に見えてそうではなく、お互いに好意を寄せている仲ではありません。それにしても、これほど人間の正しさとは何か、善とは何か、青春とは何かを深く掘り下げ追及したミステリは初めて読みました。それがストレートに表現されているのではなく、回りくどいのが玉に瑕ですが、ブラックな青春ミステリとして完成度は高いです。 ジャンルは日常の謎に属するものだと思いますが、ある人物の心理をこれでもかと抉り出し自身でさえ気付かなかった心情を剥き出しに開示される最終章は圧巻でした。 |
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| No.1930 | 6点 | 図地反転- 曽根圭介 | 2025/10/06 22:43 |
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| 河原で少女の全裸死体が発見されて、初めて捜査本部に詰めることになった一杉研志。目撃情報から浮かび上がったのは、とかく噂の絶えない小学校教師。その不敵な容疑者が取調官の説得に落ちた瞬間、事件は解決した……。しかし2年後またもや起きた少女殺害事件に、研志の過去までが甦る。『図地反転』改題。
Amazon内容紹介より。 なかなか骨太の、優れたリーダビリティで読ませる本格警察小説。 冤罪を生み出す警察の姿勢と冤罪を許さない弁護士を中心とする会の対立や、被害者遺族の心情、事件に相対する刑事達のそれぞれの想いなどがせめぎ合い、真に迫る緊迫感を溢れさせます。ただ、何故少女が殺され全裸で遺棄されねばならなかったのかがすっぽりと抜け落ちており、その意味では不満が残りました。 第二部に入った辺りから自分なりに事件の構造を推測してみましたが、やはり一筋縄では行かず、誰が犯人なのかが全く予断を許さない状況に追い込まれました。 著者の『鼻』等を読んで随分感心した私としては、こんな小説も書けるのかという思いでいっぱいです。流石に数々の賞を受賞した人だなと思いました。寡作な作家ですが今後も期待したいものだと個人的に感じました。 |
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| No.1929 | 4点 | しずるさんと底無し密室たち- 上遠野浩平 | 2025/10/03 22:16 |
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| 人が世界に謎を求めるとき、そこには必ず“ごまかし”があるわ――
「ねえしずるさん、密室ってなんなのかしら?」「そうね、よーちゃん、それはきっと、どんなものでもごまかせると思い込んだ人間の、つまらない錯覚なんでしょうね――」 今回、“深窓の美少女”しずるさんと好奇心旺盛な“わけありお嬢様”よーちゃんが挑むのは、複雑怪奇な密室事件。吸血植物、家族にまつわるゲームの呪い、ドッペルゲンガー、凍結した鳥人……これは、深淵から覗くふたつ目の事件簿。新装版にして完全版、星海社文庫版しずるさんシリーズ第2弾! Amazon内容紹介より。 マジすか?!Amazonのレビュアーの評価の高さは。私の感覚が世間とズレているのでしょうか、誰か教えて~。 しずるさん&よーちゃんシリーズ第二弾。連作短編集で、第一話こそまあそれなりに納得出来ましたが、それ以外は正に竜頭蛇尾のオンパレード。凄く魅力的な謎に対して余りにもショボい真相はどうなんですか。最早ミステリと言うよりミステリの様な何かと言うべきものだと思います。 最後の話などは説明不足も良い所で、自分で伏線を辿って真相を想像するしかありませんでした。これは不親切ですね。全般的に内容が薄すぎて小説を読んだ気がしません。 大仰なタイトルに比して中身はガチガチの密室とは大違いです。状況的に密室と言える物ばかりで、かろうじて二話目が密室と呼んでも差し支えないくらいです。そしてこれが私が最も面白かった話でしたが、ゲームのくだりは要らなかったですね。 それとしずるさんとよーちゃんの関係性がほとんど描かれていないので、背景に何があるのか分からないのも不満でした。ミステリとしても小説としても物凄く薄っぺらい一冊だと思います。 |
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| No.1928 | 7点 | 寿ぐ嫁首 怪民研に於ける記録と推理- 三津田信三 | 2025/10/01 22:18 |
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| 大学生の瞳星愛は、友人の皿来唄子に誘われ、彼女の実家で行われる婚礼に参加することになる。「山神様のお告げ」で決まったというこの婚姻は、「嫁首様」なる皿来家の屋敷神の祟りを避けるため、その結婚相手から儀礼に至るまで、何もかもが風変りな趣向が施されていた。婚礼の夜、花嫁行列に加わった愛は、行列の後ろをついてくる花嫁姿のような怪しい人影を目撃する。そして披露宴を迎えようというその矢先、嫁首様を祀る巨大迷路の如き「迷宮社」の中で、奇怪な死体が発見された――。作家であり民俗学研究者、そして名探偵としても知られる刀城言耶の怪異民俗学研究室、通称「怪民研」に出入りし、言耶の助手にして素人探偵の天弓馬人と共に数々の怪異譚の謎に挑んできた愛は、皿来家分家の四郎と共に事件の謎解きに挑むことになるのだが……。
Amazon内容紹介より。 これは人間関係のややこしさや嫁首様という障りの存在、雰囲気などが名作『首無の如き祟るもの』と通じるものがありますね。比べてしまうと複雑さや衝撃の部分でそれよりかなり劣るのは仕方ありませんが、天弓馬人の登場が遅く、彼はそれまで一体何をやっていたのかの説明があっても良かったと思います。事件が全て終わってからおっとり刀で駆け付けるので、やきもきしました。 最初の広義の密室事件に対する解決は相当無理がある気がします。余りにも偶然に頼り過ぎでしょう、現実的にはまず不可能。それでも師匠の推理同様天弓の二転三転する推理に振り回されながら、結局落ち着くところに落ち着いて論理的に解決される奇怪な事件の数々に、なるほどと頷かざるを得ず、アッと驚く様な真相が開示されます。そして最後の最後まで目が離せません。シリーズ前作よりも個人的には好みです。三津田信三らしい秀作だと思います。 |
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| No.1927 | 8点 | テスカトリポカ- 佐藤究 | 2025/09/27 22:43 |
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| メキシコで麻薬密売組織の抗争があり、組織を牛耳るカサソラ四兄弟のうち三人は殺された。生き残った三男のバルミロは、追手から逃れて海を渡りインドネシアのジャカルタに潜伏、その地の裏社会で麻薬により身を持ち崩した日本人医師・末永と出会う。バルミロと末永は日本に渡り、川崎でならず者たちを集めて「心臓密売」ビジネスを立ち上げる。一方、麻薬組織から逃れて日本にやってきたメキシコ人の母と日本人の父の間に生まれた少年コシモは公的な教育をほとんど受けないまま育ち、重大事件を起こして少年院へと送られる。やがて、アステカの神々に導かれるように、バルミロとコシモは邂逅する。
Amazon内容紹介より。 血と暴力が吹き荒れる、超ド級のエンターテインメント巨編。とは言い過ぎでしょうか?言い過ぎですね。中には、意味不明のタイトル、主な舞台が日本ではない(それは思い違い)、本の分厚さに恐れを成すなどの理由から敬遠されている方もおられるでしょう。もし迷っているのなら読んだ方が良い、そう思います。直木賞受賞も頷けます。しかしこのような過激な作品が選ばれるのは結構珍しい事だと思いますので、素直に喜びたいですね。 私は第一部が断然面白かったです。スピード感が第二部以降と比較するとかなり違います。テンポが良いですし、最も吸引力がありました。全体的に言えるのは乾いた空気感が何とも言えない荒んだ雰囲気を醸し出している事。そして登場人物が誰も彼もどこか壊れている事でしょうか。悪党ばかりでありながら、どこか惹かれるものがあり、人物像もよく描かれていると思います。個人的にはコシモよりもサブキャラながら一番真面で身近に感じた矢鈴に最も感情移入出来ました。彼女が出て来るだけで殺伐とした物語に一輪の花が咲く思いがしましたね。あと末永が何となく好きです。 |
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| No.1926 | 5点 | 9人はなぜ殺される- ピーター・スワンソン | 2025/09/21 22:16 |
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| アメリカ各地の9人に、自分の名を含む9つの名前だけが記されたリストが郵送された。差出人も意図も不明。だがその後、リストにあったホテル経営者の老人が溺死。翌日、ランニング中の男性が射殺された。FBI捜査官のジェシカはリストの人々の特定を進めていた。自分も、死んだふたりと同じリストを受け取っていたのだ。次は誰が殺されるのか? 謎が横溢する極上のサスペンス!
Amazon内容紹介より。 まあまあですかね。全体の8割以上がリストに名前を書かれた人々の日常が淡々と描かれているだけで、どの辺りがサスペンス?と言いたくなる内容。殺害シーンも数行で終わっており、正直言って面白味がありません。そんな時私は心を無にして読み進めます。でないと先に行けないから。これを日本のミステリ作家が書いたらもっと楽しめただろうと思いました。 これだけの大事件なのに、警察の動きが全く描かれていないし、マスコミも無反応というのはやはりどこかおかしいです。劇場型犯罪でありながら、命を狙われた人物は普段と変わらぬ生活をしていて、警護も殆ど付いていないのにも疑問を覚えます。己に危機が迫っている割にはほとんどが動揺した様子もなく、如何にも不自然と言わざるを得ません。 肝となる何故リストの9人が殺されなければならないのか、という所謂ミッシングリンクの謎は、切実ではあるものの新味はありません。乱暴な言い方をすれば最初と最後だけ読めば大筋は掴めるでしょうって感じです。 |
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| No.1925 | 6点 | 妖精鬼殺人事件- 吉村達也 | 2025/09/18 22:40 |
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| 精神分析医・氷室想介の女性患者の息子が転落死した。その原因を調査する氷室だったが、その背後にはQAZの影が……悪魔の書『陰陽大観』を携え殺人者を生み出す狂気の伝道師QAZとの対決が幕を開ける!
Amazon内容紹介より。 サブタイトルに『魔界百物語』とある様に、あとがきによれば元々シリーズとして百の長編を書く予定だったらしいです。そこには込み入った事情があり、取り敢えずseason1として5作で一応完結させるつもりだった様です。これだけ壮大な構想なので、作者のライフワークとなる筈だったのですが、ご存じの通りご逝去されて早々に打ち切りとなった訳です。とは言え、一話完結としても読めますので支障はありませんが、肝心のQAZの正体などが判らず仕舞いなのは残念な限りです。 後に文庫版として角川ホラー文庫から刊行されていますが、ホラーと言うよりは本格ミステリだと思います。マンションから転落した少年の事件の背後に潜んでいた人物の正体には唖然としました。その動機にはいささか問題がある感じがします、というかどうにも腑に落ちません。事件としては地味ではあるものの、様々な角度から真相に迫る氷室想介の推理には納得でしたが。 物語全体としてやはり序章的な役割が大きく、これから本格的にストーリーが動き出すだろうという予感がして、吉村氏が生きていたらさぞ面白い物が読めただろうなと思うと、悔しくてなりません。 |
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| No.1924 | 5点 | ないもの、あります- 評論・エッセイ | 2025/09/14 22:36 |
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| よく耳にするけれど一度として見たことのないものたち、あります。
たとえば「転ばぬ先の杖」。あるいは「堪忍袋の緒」。こういうものは、どこに行ったら手に入れられるのでしょうか? このような素朴な疑問とニーズにお応えするべく、わたくしどもクラフト・エヴィング商會は、この世のさまざまなる「ないもの」たちを、古今東西より取り寄せて、読者の皆様のお手元にお届けします。文庫化にあたり、新たに3品を加えました。 Amazon内容紹介より。 上記の他にも「左うちわ」「舌鼓」「口車」「金字塔」「一筋縄」「語り草」等様々な目に見えない言葉をどう解釈し説明するかに注目が集まるエッセイ集。ユーモアを効かせたつもりでしょうが、全く笑えません。至極当然の事ばかり書かれていて、当たり前じゃんとしか言いようがありません。 中には「金字塔」や「冥途の土産」みたいな死に直結するものがあり、これらは頷ける内容ではありました。尚それぞれ図とその取扱説明書的な解説が付属していて、字が細かいのを除けばそれなりに納得出来ます。それにしても、何故このような本が世間に認知され広く受け入れられているのかが理解出来ません。コスパは悪いし短いので暇潰しにもなりません。 |
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| No.1923 | 6点 | 怪談小説という名の小説怪談- 澤村伊智 | 2025/09/13 22:37 |
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| ”小説” ならではの企みに満ちた“怪談” 全7編。深夜、疾走する車内を戦慄させた「高速怪談」、呪われた大ヒットホラー映画「苦々陀の仮面」、禁忌を犯してしまった夫婦と「こうとげい」、正体不明の殺戮犯「うらみせんせい」、作者不明の恐怖譚「涸れ井戸の声」他。謎めいた語りが恐怖と驚愕を生み、奇妙で不穏な空気と意外な結末に嫌な汗が滲みだす。著者真髄の大どんでん返し恐怖短編集!
Amazon内容紹介より。 流石と云うか、これまで私が読んで来た怪談話とは一味も二味も違う出来の短編が多いです。ミステリ的仕掛けが施されているものもあり、その意味でも好感が持てます。全体的に怖いと思われる作品は少ないけれど、生理的にジワジワ染み込んでくる、嫌らしい感じがします。人間の持つ原始的な恐怖を揺さぶる何かがあります。 しかし、期待していた程ではなく惜しくもこの点数に落ち着きました。個人的には『こうとげい』と『笛を吹く家』が面白かったですね。ああ、他の作品も勿論一定のレベルに達した佳作と言えると思いますよ。ホラーと言っても多くの方に読まれるべき一冊ではないかと。飽くまで怪談ではなく小説として。 |
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| No.1922 | 7点 | 記憶の中の誘拐 赤い博物館- 大山誠一郎 | 2025/09/10 22:53 |
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| 赤い博物館こと犯罪資料館に勤める緋色冴子が、過去の事件の遺留品や資料を元に、未解決事件に挑むシリーズ第二弾。文庫オリジナル。
Amazon内容紹介より。 これっぽっちも無駄のないプロット、洗練された文章に非常に感心しました。連作短編いずれも遜色なく、よく練られた構成にも納得です。細かい伏線を回収して推理するというものではなく、緋色冴子の名を借りた神の視点から観た真相をズバッと突きつけるその切れ味には、得難い快感を得られました。 特に表題作と『連火』の動機に驚かされ、全ての短編で世界が反転する様を目の当たりにさせられ、おお、これは凄いと唸らされました。前作では緋色冴子は安楽椅子探偵に徹していましたが、今回は助手の聡とともに捜査に乗り出します。そして犯人に相対しても、いささかも揺るがない信念でもって推理を突き付けます。そこには隠された正義の魂が籠っている気がしてなりません。そんな素振りは微塵も見せませんがね、クールビューティーだけに。 |
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| No.1921 | 5点 | 銀河列車の悲しみ- 阿井渉介 | 2025/09/07 22:30 |
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| 奇妙な出来事の数々は、壮大なドラマの前兆だった。誘拐と間違われた少女が無事もどって、銀河鉄道の夜を体験したと語り、ゴジラに襲われたと訴える青年が現われる。そして蒸気機関車に引かれたミステリアス銀河列車が60人の乗客とともに消えて殺人事件が……。犯人の狙いはなに? 牛深警部の推理は!
Amazon内容紹介より。 島荘褒め過ぎ(笑)。確かに序盤に提示される荒唐無稽で不可思議な謎の数々は、ワクワクするものがあり又私の好みではありました。しかし、傑作となるか駄作となるかは着地次第で、どちらかと言えば期待より不安の方が大きかったです。結局説明不足の部分があったり、何故そこまでするのかに納得が行かなかったのは確か。なので、やっぱりこんなものかという諦めに似た感情が私を襲いました。残念の一言です。 まあ整合性という点では一応取られていると思います。しかし如何にもリアリティに欠けるのは誰が読んでも同一の意見となるでしょう。なぜと云う意味では誘拐事件は何だったのかがよく解りませんでした。ある種の実験だったのかとも思いますが、あまり意味がなかった気がします。ちょっとやり過ぎの感が否めませんね。 |
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