皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1820件 |
No.1820 | 5点 | これが最後の仕事になる- アンソロジー(出版社編) | 2024/10/02 22:27 |
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最初の1行は全員一緒。
1編6ページ、24種の「最後の仕事」。 早起きした朝、昼の休憩、眠れない夜ーー。 ここではないどこか、今ではないいつかへ、あなたを連れ出す7分半の物語。 Amazon内容紹介より。 これが最後の仕事になる、から始まる24の掌編。 ミステリ作家が結構多い割りにはミステリっぽいのが少ないです。人情物、最後に一捻りしてくるもの、1ミリも理解できないもの、反転物、切ない話、犯罪小説など様々な作品が楽しめます。ああ、楽しめないものも何割かは混じっていて、正に玉石混交です。 まあ流石にプロの作家が書いているだけに、作風が被っているのはほぼありません。しかし、なかなか心に刺さる作品は少ないですね。すぐに忘れてしまいそうな話が多い印象です。その中でも異色と言えるのが呉勝浩でしょう、アイディア勝ちで二度読みさせられ、その瞬間唖然となりました。物語自体は他愛ないものですが・・・ここから先はネタバレになるので割愛します。詳しくは書店で立ち読みでもして下さい。 |
No.1819 | 8点 | ぼくは化け物きみは怪物- 白井智之 | 2024/09/30 22:22 |
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クラスメイト襲撃事件を捜査する小学校の名探偵。
滅亡に瀕した人類に命運を託された〝怪物”。 郭町の連続毒殺事件に巻き込まれた遊女。 異星生物のバラバラ死体を掘り起こした三人組。 見世物小屋(フリークショー)の怪事件を予言した〝天使の子”。 凶暴な奇想に潜む、無垢な衝動があなたを突き刺す。 白井智之は容赦しない。 Amazon内容紹介より。 エログロが無くても十分面白い、最早白井智之は鬼才であり巨匠と呼んでも差し支えないのではないかと思います。それだけの風格すら漂っています。 これだけ時代や舞台が違い、SF的特異設定を含有する本格ミステリを書けるのはこの人を置いて他にいないでしょう。特に個人的に好みなのは『奈々子の中で死んだ男』で、意表を突く解決法は秀逸です。これだけでも読む価値は十分ありますし、他も秀作揃いで凡作は一つもありません。 しかし、書下ろしの最終話『天使と怪物』で全て吹っ飛ばされました。これは大傑作ですね。フリークスを用いた多重解決も見事で、単なる密室殺人では済まない凄みがあり、作者の脳みその中が想像も出来ない位、緻密に考えられています。 現在のミステリ界で唯一無二の存在に大きく成長し過ぎた白井智之、一体彼はどこまで本格ミステリの限界に挑戦しようと云うのでしょうか。今最も注目の作家であるのは間違いないと思います。今年も各ランキングの本命となるでしょう。 |
No.1818 | 6点 | 天体の回転について- 小林泰三 | 2024/09/26 22:15 |
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宇宙に恋焦がれたことのあるすべての人々に捧ぐ―― 少年の初恋と大気圏離脱を描いた表題作をはじめ、全8篇を収録する傑作本格SF短篇集。 小飼弾氏(404 Blog Not Found)推薦!
Amazon内容紹介より。 様々な奇想が炸裂するSF短編集。例えば表題作を見るとSFに見立てた恋愛小説の様にも感じるし、ある作品は叙述トリックが仕掛けられていたり、エログロ全開もありますし、王道ファンタジーかと思いきやどんでん返しでやられたり。兎に角、バラエティに富んだ佳作揃いと言えるでしょう。 取り敢えずあとがきによると、どれも背景にはSFの骨格が確りと根付いており、単なる虚仮脅しとは事を異にする様です。 作者の言葉の中には、デビュー作のホラー作品でもSFと捉える事が出来ると書かれています。もっと言えばこの人はSF作家と自認しているきらいがあります。 本作品集は本当は難しい理論が必要な部分も比較的優しく解説されており、SFを苦手にしている人も読み易いと思います。私のベストはひときわ異彩を放つ『性交体験者』です。このレベルが並んでいれば7点は堅かったでしょう。 |
No.1817 | 7点 | 非在- 鳥飼否宇 | 2024/09/22 22:07 |
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横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞第1作。南海に、人魚や朱雀、仙人がいる島を発見した大学の未確認生物観察サークルが失踪した!ネイチャー・アドベンチャー+本格ミステリー大作。
Amazon内容紹介より。 人魚や朱雀の正体はともかくとして、事件の真相には意表を突かれました。こんな所でこの様な世界が広がっているとは予想だにしませんでした。しかしそこに至るまでが話があちこちに飛び、纏まりに欠ける感じがしました。デビュー二作目にしては上出来だとは思いますが。 やはり肝心なのは手記を甘く見ない事でしょうね。何と言っても主な伏線はここに張られているのですから。しかし残念なのは、何が起きたのか、何が起こっているのかが茫洋として掴み所がなく、どこに焦点を置いて読み進めたら良いのかがはっきりしない事です。初期の作品だから、洗練された感が薄いのと、文章があまり上手くないのが欠陥とは言えるでしょう。それらをクリアしていれば更なる傑作に仕上がったかも知れませんね。 |
No.1816 | 8点 | 新麻雀放浪記- 阿佐田哲也 | 2024/09/18 22:31 |
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かつてバクチの世界でならした私も、すっかり中年男になってしまった。が、ふとしたきっかけで年若い友人を得て、麻雀にバカラに久しぶりに燃えた。
Amazon内容紹介より。 私が読みたかったシーンが、いつまで経っても出て来ないのはどういう事なのか。確か冒頭に近い辺りだったはずだが、と思っていたら、私のとんでもない勘違いでした、多分。それはおそらく『小説・麻雀新撰組』にある記述で、本作ではなかったのでしょう。しかし、そちらは本の山に埋もれてどの辺りにあるのか、見当はついているものの、かなり厄介であります。どうしたものか。 さて前置きが長くなりましたが、この作品とても楽しめました。最低でも三回以上は読んでいる筈ですが、意外と闘牌シーンが多かったので、新鮮でした。又主要登場人物がそれぞれ個性的で生き生きと描かれているので、少しもダレルことなく緊迫感を維持しながらも、遊び心がそこここに表れている為、肩の力が入ることなく読めます。 話が進むごとに次第にスケールが大きくなっていく勝負にとことんのめり込めること間違いなしです。特に最後のカジノでのバカラのシーンでは作者の作品の中でも有数の興奮を味わえ、満足しました。このシーンだけを何度読んだか分かりませんが、読む度に感動しますね。 |
No.1815 | 9点 | 斬首の森- 澤村伊智 | 2024/09/14 22:08 |
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鬱蒼と暗い森の中に建つ合宿所。ある団体の“レクチャー”を受け洗脳されかけていたわたしは、火事により脱出する。男女五人で町へ逃げだそうとするが、不可解な森の中で迷ってしまう。翌朝、五人のうちのひとりの切断された頭部が発見される。頭部は、奇怪な装飾を施された古木の根元に、供物のように置かれていてーー
Amazon内容紹介より。 面白かった、大満足です。最初から最後まで存分に楽しませてもらいました。 齟齬がありそうでない、破綻していそうで破綻していない、綱渡りの様な危険で繊細な妙技と力技とで圧倒されます。途中まではミステリなのかと思いながら読んでいましたが、後半はっきりとホラーの様相を呈して来て、そこからはホラーと割り切って読めましたので、不満はありません。 構成も見事で、徐々に明らかとなって来る様々な事実が、読者に推理を迫りますが、なかなかその全貌を見せないもどかしさも、焦らされている様ではらはらさせられます。 根幹を成すアイディは人によっては陳腐と思わるかも知れませんが、私には正しくピッタリと嵌った趣向であり、満足度は大変高い作品でした。 尚、参考文献は絶対先に読まないように注意して下さいね。 |
No.1814 | 5点 | ゴブリンスレイヤー- 蝸牛くも | 2024/09/12 22:05 |
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「俺は世界を救わない。ゴブリンを殺すだけだ」
その辺境のギルドには、ゴブリン討伐だけで銀等級(序列三位) にまで上り詰めた稀有な存在がいるという……。 冒険者になって、はじめて組んだパーティがピンチとなった女神官。 それを助けた者こそ、ゴブリンスレイヤーと呼ばれる男だった。 Amazon内容紹介より。 うーむ、世間では高評価を得ら得ている様ですが、まあまあとしか言いようがありません。まずキャラが立っていないのがいけません。人物造形はそれなりとしても、心理描写はほぼなし。しかも、固有名詞が一切出て来ないのが、個性を殺してしまっているのに拍車を掛けている気がします。 ギルドという言葉が出て来るだから、時代は中世から近世、舞台はヨーロッパという事になると思いますが、情景も描かれていないのであまり雰囲気は伝わってきませんね。 ストーリーはストレートで、只管勇者達がゴブリンを倒していくというもの。物語の奥行きも広がりもなく、言ってしまえば単純です。この後のシリーズはどういう方向性を持って進めて行っているのか分かりませんが、私の食指は動きません。 肝心のバトルシーンの迫力も欠けますし、描写が平板でイマイチなのも残念なところだと思います。 |
No.1813 | 6点 | 虚像淫楽(角川文庫版)- 山田風太郎 | 2024/09/08 22:12 |
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性的倒錯の極致がミステリーとして昇華された初期短編の傑作「虚像淫楽」。「眼中の悪魔」とあわせて探偵作家クラブ賞を受賞した表題作を軸に、傑作ミステリ短編を集めた決定版。
Amazon内容紹介より。 これまで書評がなかった事に驚いています。これは一体どうした訳なのでしょう。単なる偶然なのか、それとも。 さて本短編集、全体的に滑り出しは、これから何かが起こりそうな予感がしてワクワクさせてくれますが、結局真相はありきたりで、驚くようなものではありません。トリックもどんでん返しも色々用意されていますが、カタルシスは得られませんでした。相変わらず医学的な見地からのアプローチは流石だと思います。 最後の『黄色い下宿人』がホームズのパスティッシュで面白いです。ホームズとある日本人との邂逅が最後に明かされ、ああそうだったんだというささやかな衝撃に襲われました。それに既読の『蝋人』は別格です。 他は出来不出来の差こそあれ、ややこしくて解りづらいのが難点かと思われます。が、もっと読解力のある人が読めばもっと高得点が得られた可能性は否定できませんね。 |
No.1812 | 6点 | 六色の蛹- 櫻田智也 | 2024/09/03 22:16 |
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昆虫好きの心優しい青年・エリ沢泉(えりさわせん。「エリ」は「魚」偏に「入」)。行く先々で事件に遭遇する彼は、謎を解き明かすとともに、事件関係者の心の痛みに寄り添うのだった……。ハンターたちが狩りをしていた山で起きた、銃撃事件の謎を探る「白が揺れた」。花屋の店主との会話から、一年前に季節外れのポインセチアを欲しがった少女の真意を読み解く「赤の追憶」。ピアニストの遺品から、一枚だけ消えた楽譜の行方を推理する「青い音」など全六編。日本推理作家協会賞&本格ミステリ大賞を受賞した『蝉(せみ)かえる』に続く、〈エリ沢泉〉シリーズ第3作!
Amazon内容紹介より。 あまり記憶がないですが、前作はもう少し虫と事件の繋がりが強かった気がします。本作でも滑り出しは様々な虫に関する薀蓄が絡んできますが、その後の展開にはあまり関わって来ません。意外だったのは、ミヤマクワガタに関する記述で、そんな事があるのかと驚きました。これが二話目の『赤い記憶』で、全作中最も印象的であり出色の出来だと思いました。 それとエピローグに当たる『緑の再会』が爽やかな演出で、後味の良い締めくくりになっています。 本来ならもっと高評価であっても良かったのかも知れません。それは後に書評を書く方に委ねたいと思います。個人的には、色々残念な作品との印象が強く、あと一歩何かが足りなかった様な思いが拭い切れません。魞沢のキャラに関しては、あまりしつこさがなく飄々としているところが逆に良かったのではないかと思います。あとがきにも其処に触れられていますが。 |
No.1811 | 7点 | バラバラ屋敷の怪談- 大島清昭 | 2024/08/31 22:19 |
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民俗学のフィードワークの手法を用いて、取材を元に怪談を執筆してる呻木叶子が遭遇する四つの事件。八人の女性が犠牲になったバラバラ殺人の現場周辺で目撃される四体の幽霊の謎と、現場の屋敷で新たに発生した密室殺人を呻木が解き明す表題作ほか、博物館で目撃される少女の霊の来歴を探るうちに、思わぬ不可能犯罪に行き当たる「青いワンピースの怪談」など、第17回ミステリーズ!新人賞受賞作『影踏亭の怪談』の新鋭による恐怖と驚愕の連作集。
Amazon内容紹介より。 最初の表題作を読み終えた時点では8点かも、と思いました。まず、怪談と本格ミステリとの融合が素晴らしく、そのバランスも絶妙で思わず唸らされました。何しろ終盤では衝撃の連続に打ちのめされましたからね。 しかし、二作目のトリックはなかなか目の付け所が良かったものの、全体的には一作目には到底及ばないし、三作目は少し目先を変えているがトリックはショボい。私のテンションは次第に下がっていったのでした。 それを最も異色の最終話で盛り返し、何とか7点を確保した感じです。それぞれの短編にはある共通点があり、連作短編集の良さを引き出しています。勿論各作品の出来不出来の差は何ともしようがありませんが。 読むごとに作者の顔が変わって見える様な、一体この人の本当の実力はどの辺りにあるのか、どれが本物なのかとの疑問が湧き上がってくる私なのでした。 |
No.1810 | 7点 | 禁じられたジュリエット- 古野まほろ | 2024/08/27 22:41 |
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退廃文学として禁書となっている「ミステリ小説」に触れてしまった女子高生六人。
彼女ら「囚人」役と同級生二人の「看守」役は思想更生プログラムを強いられる。八人は協力して「監獄ごっこ」を乗り切るはずだったが、「囚人」と「看守」の対立は激化し、ついに悲劇が! 「書」の力を謳(うた)い上げたミステリ愛読者必読の書。 Amazon内容紹介より。 個人的に後半より前半の方が良かったです。最初は所詮ごっこだろうと高を括っていましたが、思った以上に看守の囚人に対するいじめが酷く、大変面白く読めました。 ミステリが退廃と捉えられた世界が一体どんな物なのか、ミステリを愛するがために故なく迫害されるのかと思うとやりきれないですね。 そんな中殺人が起こり、後半の多重推理が始まるのですが、どれも犯人を一人に絞るものではなく、犯人候補をふるいに掛けて、残った複数の人物の中に犯人がいるというものなので、一刀両断とはいきません。だから、其処にカタルシスは生まれません。 よって、多重推理ものとしてはやや物足りないと感じました。しかしそれを差し引いても、面白かったのは間違いなく、この作者にしては読み易さも相まって評価としては高レベルで良いと思います。 |
No.1809 | 7点 | 明智恭介の奔走- 今村昌弘 | 2024/08/22 22:30 |
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神紅大学ミステリ愛好会会長・明智恭介。小説に登場する探偵に憧れ、事件を求めて名刺を配り歩く彼は、はたしてミステリ小説のような謎に出合えるのか――大学のサークル棟で起きた不可解な盗難騒ぎ、商店街で噂される日常の謎、夏休み直前に起きた試験問題漏洩事件など、書き下ろしを含む全五編を収録。『屍人荘の殺人』以前、助手であり唯一の会員・葉村譲とともに挑んだ知られざる事件を描く、待望の〈明智恭介〉シリーズ第一短編集!
Amazon内容紹介より。 第一話から全てワトソン役の葉村の一人称で綴られるかと思いきや、全く別人の一人称であったりするのが意外でした。それがどうという訳ではありませんが。 様々な日常の謎に挑む明智恭介ですが、完璧と思われたロジックも空振りに終わったり、愛嬌のあるところを見せています。又、葉村も助手にしては鋭い考察を見せる辺りは、単なる名探偵と助手の関係とは若干異なります。 『とある日常の謎について』と『宗教学試験問題漏洩事件』が双璧でこれらは捻りと意外性があって、最も好感が持てました。伏線の回収も見事で、そう繋がるのかと思わず唸ってしまう出来です。 他はどちらかと言えば平凡。特に最後の書下ろしは要らなかったかな。まあファンにとっては嬉しい一編かも知れませんけどね。 |
No.1808 | 5点 | 死蝋の匣 - 櫛木理宇 | 2024/08/19 22:03 |
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茨城県で滅多刺しの男女の死体と死蝋のかけらが発見される。翌日、白昼のコンビニで女子中学生たちが襲撃される第二の事件が発生。現場の指紋から捜査線上に椎野千草という女性が浮かび上がる。彼女は、十三年前に起きた史上最悪の無理心中事件の生き残りだった――。千草の足取りが掴めぬまま、増えてゆく死体。止まらぬ猟奇殺人犯を元家裁調査官・白石と県警捜査第一課・和井田コンビが追う!
Amazon内容紹介より。 ジャンルはサスペンスよりもイヤミスに近いかも知れません。警察小説と呼ぶにはそちらのパートが少なすぎるので、違う気がします。 暗い話は嫌いではありませんが、これはあまり刺さりませんでした。テーマとしては家族、それも父親像の色が強く、その意味では社会派と捉える事も出来ます。 プロローグを読んだ段階では期待出来ると思いました。しかし、余りにも事件が起こり過ぎて話が広がり、どう収束させるのか不安になる程です。尚死蝋に関してはあまり期待しない方が賢明かと思います。 最後にちょっとだけサプライズがあるものの、ストーリーの抑揚はあまりなく、白石が警察でもないのに只管聞き込みに終始し、その中で少しづつ事件を解いて行こうとするのですが、なかなか解決の糸口が掴めないので、ストレスが溜まります。一向に見えて来ない事件の真相は思いの外単純で、複雑に見えた人間関係も分かってみれば、驚くようなものではありません。 こういうのが好きな人もいるのでしょうが、あまり一般読者にはお薦め出来ませんね。 |
No.1807 | 7点 | ミステリー・オーバードーズ- 白井智之 | 2024/08/15 22:14 |
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探偵たちの集まった館で殺人事件が起きた。その晩、探偵たちの口にしたワインに幻覚剤が混入していたことで、事件は思わぬ方向へ転がっていく……。(ディテクティブ・オーバ―ドーズ)ほか“食”をテーマにした全5篇を収録。異世界転生からエログロ、本格ミステリーまで、唯一無二のミステリー作家・白井智之が美味しく調理した短編集。
Amazon内容紹介より。 これにて全ての白井作品をコンプリートした事になりました。今まで温めていた甲斐があったというか、やはり白井智之は白井智之だと感じました。中でもエログロ全開の『げろはげり、げりはげろ』『ちびまんとジャンボ』は流石だと思いました。特に前者は並行世界を扱ったSFとしても秀逸で、伏線回収も細かい所まで行き届いており好印象。意外な展開とオチにも拍手。 最後の表題作は探偵たちが残した手記という名の自分なりの解決編が、それぞれ異色で特徴的なのが印象深いです。結局それだけでは事件が解決とはならず、その後に表れた真打ちの「探偵」がそれらを紐解いていく過程が真骨頂ですが、私の頭ではなかなか付いて行けないものがあり、もう少し己の頭脳をフル回転させながら読まないといけないと反省させられました。最も本格度が高い館ミステリに仕上がっています。 いずれにせよ、上記の作品と合わせて本短編集のツートップとさせていただきます。これだけ盛り沢山の内容ではお腹一杯にならざるを得ません。 |
No.1806 | 7点 | 難問の多い料理店- 結城真一郎 | 2024/08/12 22:22 |
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ビーバーイーツ配達員として日銭を稼ぐ大学生の僕は、注文を受けて向かった怪しげなレストランで、オーナーシェフと出会う。
彼は虚空のような暗い瞳で、「お願いがあるんだけど。報酬は1万円」と、噓みたいな儲け話を提案し、あろうことか僕はそれに乗ってしまった。 そうして多額の報酬を貰っているうちに、僕はあることに気づく。 どうやらこの店は「ある手法」で探偵業も担っているらしいと。 Amazon内容紹介より。 第一話がやや低空飛行で第二話で上昇し、又下降するの繰り返しで評価が難しいです。つまり奇数話はまずまずで、偶数話はかなり面白いという感じ。 それにしても探偵役、というか裏稼業で探偵をしているシェフが謎過ぎて内面が窺い知れません。外見のディテールははっきしりているのですが、何を考えているのか分からない不気味さがあり、得体の知れなさが浮き彫りになっています。名前さえ与えられていない探偵というのはどうなんでしょうねえ。 採点はやや甘めで、どうしようか迷った末最終話が結構盛り上がったので、この点数にしました。何となく期待していなかったのですが、その期待は上回ったと思います。 真相自体は何でもない様に思えても、それを解明する過程が面白いので、その意味では高評価です。最終話>第四話>第二話>>>>その他。意表を突かれる様な結末もあったりして楽しめます。 |
No.1805 | 6点 | カニバリストの告白- デヴィッド・マドセン | 2024/08/08 22:28 |
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殺人容疑で逮捕された天才シェフが挑んだ、食欲、性欲、支配欲、あらゆる欲望の泥濘を突き抜ける至高の一皿とは? 昨今のミシュラン騒動を予見し皮肉るかのような、人間最大のタブーに挑む怪作にして清々しい快作。
Amazon内容紹介より。 タイトルの通りの内容。自分自身が殺害した被害者の肉を食するだけでなく、シェフとして客に提供する。それも飛び切りのレシピで。グルメを唸らせる腕を、主人公であり記述者のオランド―は持っています。それは天才としての矜持と人間の肉を食べるという禁忌を冒す悦楽を満足させる訳で、それらの犯行と告白者オランド―の心情が克明に記されています。ただ、人肉の解体の模様や調理の詳細は描かれていません。敢えて避けたのか、作風に合わなかったせいなのか分かりませんが、そこは想像とは少し違ったものでした。 真面目に書かれた変態小説とでも言うべきなのか、誰も彼もが普通の感覚では捉え切れない変人揃いです。同性愛好者ばかりで辟易とします。それでもエログロは控えめで、飽くまで文学として読める作品に仕上がっています。 翻訳も上手いです。とにかく読んでいて飽きが来ないのは、別に私の嗜好どうこうではなく、普遍性の問題だと思います。皮肉の効いたオチも決まっていました。 |
No.1804 | 7点 | ウナギの罠- ヤーン・エクストレム | 2024/08/05 22:31 |
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1960年代のスウェーデンに、こんな不可解な密室殺人が眠っていたとは……。
ウナギのように「つかみどころ」がなく、解決不可能に見える奇怪な現場の状況。 ディクスン・カーも青ざめるほどの「つなわたり」のトリックに啞然、そして呆然。 ――折原一氏(作家) Amazon内容紹介より。 本サイト現役最強の二大巨頭と今最も勢いのある気鋭の書評家お三方が、揃って8点を付けているならば、これは読むしかありませんね。 しかし、全体的に冗長で、この内容ならば半分の量で十分書けたと思います。事件が起こるまでの約100ページ、少々退屈でした。事件に関係ありそうな事柄は少なく、関係ない事ばかり書かれている気がしましたし、ミステリ云々ではなく読み物として面白くなかったですね。 その後も事件の調査に乗り出すドゥレル警部ですが、あまり鋭いところを見せず、推理しているのかどうかも判然としません。後半、自分自身に問いかけ、真相を掴もうとする描写は良かったですが。 解決編で、犯人の決め手になった切っ掛け、理由や動機が説明されていないのは、かなり不親切だと思います。それまでに説明されているから省略、では私の様なん読解力の無い読者に対して優しくないと感じざるを得ませんでした。 しかし、密室の作り上げ方は見事なもので、このトリックだけでプラス1点を献上します。 |
No.1803 | 5点 | 夜廻(よまわり)- 保坂歩 | 2024/07/31 22:07 |
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真夜中の世界には、ときどき妙なものがいる。
静かな通学路、仄暗い電柱の陰、シャッターが閉まった商店街、月明かりだけが頼りの畦道、鬱蒼とした森の中に佇む神社、山道の先にあるトンネル。 彷徨うもの、恐ろしいもの――そして、――が現れる不気味な夜の町で「大切なもの」を探し求め続ける二人の姉妹は、再び朝を迎えることができるのか Amazon内容紹介より。 これは大の大人の読む本ではありませんね。せいぜい中学生くらいが喜びそうなホラーです。全然怖くはありません。雰囲気を楽しめれば御の字で、過度な期待は禁物です。Amazonの評価は不当に高すぎると思います。 母を亡くし、父親は仕事でほとんど家を留守にしている幼い姉妹の心の拠り所は飼い犬のポロ。そのポロが散歩中に消えたという妹を残して、夜の町をポロを探しに出た姉を待ち受けていたものは何か?後を追う様に妹も勇気をもって姉と飼い犬を探しに家を出る。そして妹も様々な怪異と遭遇し・・・。 という話です。インディゲームのノベライズ作品で、迫力はないですが情緒的なムードを作り出しているのは評価できると思います。まずまずとしか言いようがありませんね。 |
No.1802 | 6点 | あなたに聞いて貰いたい七つの殺人- 信国遥 | 2024/07/28 22:16 |
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若い女性ばかりを惨い手口で殺害し、その様子をインターネットラジオで実況するラジオマーダー・ヴェノム。その正体を突きとめてほしいと、しがない探偵・鶴舞に依頼してきたジャーナリストのライラは、ヴェノムに対抗してラジオディテクティブを始めることを提案する。ささいな音やヴェノムの語り口を頼りに、少しずつ真相に近づきはじめる鶴舞とライラ。しかしあと一歩まで追い詰めたとき、最悪の事態がふたりを襲う――
これは何を書いてもネタバレになりそうで、ちょっと難しいですね。 と言いながら書きますが、あまりに伏線が安易過ぎて・・・先の展開が読めてしまうと云うか、誰がどんな役割をしているのかがミエミエなので、興を削がれてしまうんですね。 探偵対連続殺人鬼に警察が絡むプロットはなかなかよく考えられています。しかしそれは必然であり、そこに無駄は一切ありません。 特に後半楽しめました。途中、えっ?まさか、と思わず声を出しそうになりました。ところが、後になってその理由に必然性がないのが解り、残念な気持ちになりました。 評価はちょっと厳しいかと思いますが、7点付けるには何かが足りなかった感が強いです。 |
No.1801 | 5点 | アデスタを吹く冷たい風- トマス・フラナガン | 2024/07/25 22:23 |
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風が吹き荒さぶ中、闇を裂いてトラックがやってきた。運転する商人は葡萄酒を運んでいると主張する。だが職業軍人にして警察官のテナント少佐は、商人が銃の密輸人だと直感した。強制的に荷台を調べるが、銃は見つからずトラックは通過してゆく。次は必ず見つけて、武器の密輸入者は射殺する……謹厳実直の士、テナントがくだした結論は?「復刊希望アンケート」で二度No1に輝いた7篇収録の名短篇集、ついに初文庫化。
Amazon内容紹介より。 まず原文が多分下手。途中何を書いているのかよく解らず、心に響くものが一つもなかったというのが本音。そして最後の真相に、あーそうなのか(棒読み)と何の感慨もなく終了って感じで、どの短編もそんな調子でしたね。 そして訳も上手くない。難読漢字が続々、せめてルビを打って欲しかったです。長身痩躯を痩躯長身と書いてあるしなあ、内容がちっとも頭に入ってこない、この人こんな下手だったかなと思いました。『エクソシスト』を高校生位に読んだ時は普通に読めましたけどねえ。 評判の良い表題作を取り上げてみても、ショボいトリックに驚きを隠せません。現在なら絶対通用しないでしょう、こういうの。他にもパッとした意外性のあるトリックは見当たらず、ちょっとだけ読んだ事を後悔しました。というか、私には合わなかったのでしょう。年代を鑑みて5点としましたが、本来なら4点相当だと思います。 |