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メルカトルさん
平均点: 6.00点 書評数: 1462件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.1462 5点 また殺されてしまったのですね、探偵様- てにをは 2022/06/29 23:09
殺された。やっぱりまた殺された。
伝説の名探偵を父に持つ追月朔也は、半人前の高校生探偵。
今日も依頼を受け、意気揚々と浮気調査や猫探しなど地味な仕事にいそしむが、なぜか行く先々で殺人事件に巻き込まれてしまう。
しかも"被害者"は自分自身!?
特殊体質によって毎度生き返る朔也を膝枕で出迎えるのは優秀な助手リリテア。
「また殺されてしまったのですね、探偵様」
「……らしいね」
探偵として、そして被害者として、朔也は文字通り命賭けで数々の難事件を解決していく──!
てにをは×りいちゅで贈る極上の本格ミステリー、開幕。
Amazon内容紹介より。

中編、短編、中編で構成された作品集。レーベルがレーベルだけにてにをは、ラノベに寄せてきましたね。わざわざ読者に迎合せず普通に書けば、もっと面白くなったのではないかと思うと、勿体ないなあと云うのが素直なところ。まあラノベファンはお喜びでしょうが。
シリーズ化を意識して、最初から伏線を張りまくっています。事件そのものは目を瞠る様なものではありませんが、その伏線が効いて次巻以降も読まずにはいられない気にさせてしまいます。

これはネタバレにならないと作者自身があとがきで書いているので、敢えて書きますが、半人前探偵の追月朔也は何度殺されても、どんな殺され方をしても必ず蘇ります。しかし、被害者になりながら犯人は分からないので、自身で推理するしかないって感じで、やむを得ず探偵稼業をせざるをえない、新たな探偵像の誕生なのです。
それにしてもラスト一行の恐ろしい事、これには驚きましたよ。
これまで三作刊行されていますが、まだまだ続くんだろうなあ・・・。

No.1461 4点 黒い玉- トーマス・オーウェン 2022/06/27 22:20
夕暮れどきの宿で、彼がつけた明かりに驚いたかのように椅子の下へ跳び込んだそれは、かぼそい息づかいと黄楊の匂いを感じさせる奇妙な“黒い玉”。その正体を探ろうと、そこを覗き込んだ彼を待ち受けるのは、底知れぬ恐怖とおぞましい運命だった―。ベルギーの幻想派作家トーマス・オーウェンが描く、ありふれた日常に潜む深い闇。怖い話、気味の悪い話など十四の物語を収録。
『BOOK』データベースより。

ジャンル不明の短編集。一応幻想小説という事になっている様ですが、それにしては幻想味が感じられません。ホラーテイストの作品も含まれていたりもします。全般的にオチが弱いですね。ほとんどオチてないのもあります。
こうした多分に観念的な小説の肝はどれだけ読者の心の琴線に触れるかが勝負だと思いますが、残念ながら私には行間が読めていなかったせいか、全くそれらしい感触は得られませんでした。

それでも二、三は印象の残る作品もありました。ですが、良いところまで行ってはいるのに、結局突っ込みが足りないと云った具合に物足りなさが残りました。回りくどい面もあり、もっとストレートな作風が好みの私には、何がしたいのかイマイチ分からないもどかしさを感じましたね。
Amazon登録読者の中には結構高評価の奇特な方がおられるようですが・・・。

No.1460 7点 マザー・マーダー- 矢樹純 2022/06/25 23:21
めくるめく、どんでん返し。全方位に仕掛けられた罠。あなたは何度でも騙される。息子を溺愛し、学校や近隣でトラブルを繰り返す母親。家から一歩も出ず、姿を見せない息子。最愛の息子は本当に存在しているのかーー歪んだ母性が、やがて世間を震撼させるおぞましい事件を引き起こす。企みと驚きに満ちた傑作ミステリ!
Amazon内容紹介より。

第一話を読んだ時は、これは一種のイヤミスかなと思いました。しかし、後半の衝撃の連打には正直やられました。そして第二話である人物の登場に驚き、第三話で漸く作者の狙いに気付きました。一話ごとに作風を変え乍らそれぞれ仕掛けがあり、最終話まで突っ走ります。当然こちらもそれに合わせる様に一気読みしつつ、巧妙な罠に知らず知らずのうちに嵌っていきました。

まあ連作短編集と言うより長編として見るべき作品ではないかと思います。サスペンスと見せかけて意表を突くトリックで本格ミステリの側面も見せますし、兎に角色々詰め込まれておりお腹一杯になりました。取り敢えず私的には現在の所矢樹純の最高傑作だと思います。心理描写も確り出来ていますし、特に最終話は見ものです。良くやったよと褒めてあげたくなる一作。

No.1459 8点 流れ舟は帰らず 木枯し紋次郎ミステリ傑作選- 笹沢左保 2022/06/23 22:38
三度笠を被り長い楊枝をくわえた姿で、無宿渡世の旅を続ける木枯し紋次郎。己の腕だけを頼りに、人との関わりを避けて孤独に生きる紋次郎だが、否応なしに旅先で事件に巻き込まれてゆく。幼なじみの身代わりとして殺人罪を被って島送りになった紋次郎が、島抜けに参加して事件の真相を追う第1話「赦免花は散った」。瀕死の老商人の依頼により、家出した息子を探す「流れ舟は帰らず」。宿場を脱走した女郎たちとの逃避行の意外な?末を綴る「笛が流れた雁坂峠」。ミステリの巨匠が描く、凄腕の旅人にして名探偵が活躍する珠玉の10編を収録。
Amazon内容紹介より。

笹沢佐保と言えば木枯し紋次郎、木枯し紋次郎と言えば長い楊枝、左頬の古傷、「あっしには関わりのねえことでござんす」という決め台詞。と思っていましたが、十編の短編の中でその台詞は二度しか書かれていませんでした。第一話でシリーズ最初の作品『赦免花は散った』を読んだ後、そのミステリ性の高さに驚きました。他の作品も多かれ少なかれ骨格がミステリであったり、何らかの仕掛けやトリックが施してあったりと、流石はミステリ作家の書く時代小説だと感心しました。しかも全ての作品が秀作や傑作に属すると思われ、長かったけれど少しもダレルことなく読み終えました。

個人的にはやはり先述の『赦免花は散った』がベストかなと思います。あの紋次郎がまさかの島流しに遭っていた話で、この経験が後の紋次郎の言動に影響してくると思うと、かなり重要な一作ではないかと。そして私が最も好きなのは思わず涙した『旅立ちは三日後に』です。漸く訪れた平穏な日々が遂に自分にも巡って来たのかと思った矢先に・・・。とても優しくて哀しい作品です。
紋次郎は一見冷たい男だと勘違いされがちですが、決してそうではなく情に厚い一面を持っている人間なのです。ただ自分が渡世人だという自覚から、寡黙になりがちで人と関わりを持つのを恐れているのでしょう。

ドラマでは紋次郎が泥臭く戦うのに対して、原作では本物の剣豪として描かれており、敵が何人いようが華麗な身のこなしですんなりケリを付けてしまいます。しかし、ドラマも原作も紋次郎の格好良さは変わりませんね。

No.1458 6点 雷鳴の館- ディーン・クーンツ 2022/06/19 22:25
スーザンは見知らぬ病院のベッドで目覚めた。医者が言うには、彼女は休暇中に交通事故に遇い、このオレゴン州の田舎の病院に運びこまれ、三週間も意識を失っていたのだという―。しかし、彼女にはそんな記憶はなかった。と同時にこれまで自分がたずさわっていた仕事の内容、同僚の名前が思い出せない。なぜか彼女には、そこだけ記憶がないのだ。そして、彼女は病院の中で信じられないものを見た。大学時代にボーイフレンドを殺した男たちが、当時の若い姿のまま患者として入院しているのだ。その上死んだはずの男たちまでがスーザンの目の前に現れた。これは狂気か?幻覚か?その後もぞくぞくと怪異現象は起こる。そしてスーザンが最後に発見したのは信じられないような事実だった。人気沸騰の鬼才クーンツが放つ、異色の大型ロマンス&サスペンス・ホラー。
『BOOK』データベースより。

冒頭、記憶障害で「私は誰?ここはどこ?」的な主人公のスーザン、次第に記憶を取り戻してはいくものの、肝心の自分が勤めていた頃の事が思い出せません。この辺りのサスペンスフルな展開は後のストーリーに期待を持たせます。そして起こる信じられない事態、これには流石に驚きを隠せません。一体これはどういう事なのか、とても合理的な解法が思い付きません。

しかし結局は何の捻りもない真相ではありました。これはホラーだから許されますが、本格ミステリだったとしたらとても許容出来ないものです。もう少し意外性があったならとんでもない傑作になっていたと思います。意外性と言えば後半の反転は個人的にかなり意表を突かれました。ですが、そっちかあと云うようなあまり意図していない方向に進んで行った為、如何にもアメリカ作家のやりそうなことだなと少しげんなりしてしまいました。
まあしかし、全体としては楽しめましたよ。ただ第二部は本当に必要だったのかと思わざるを得ませんでした。

No.1457 6点 もののけ本所深川事件帖 オサキと江戸の歌姫- 高橋由太 2022/06/15 22:43
雨の多い本所深川。雨止めの伝え歌「十人の仔狐様」を歌う、十人組の歌組“本所深川いろは娘”が大流行している。一番人気の小桃が行方不明になり、大川で死体となって見つかった。小桃の代役として古道具屋のひとり娘・お琴が指名され、心配した安左衛門は手代でオサキモチの周吉を付き添わせることに。しかし、他のメンバーが歌詞の通りに次々と謎の死を遂げ…。妖怪時代劇、第四弾。
『BOOK』データベースより。

参考文献にあるように『そして誰もいなくなった』へのオマージュと考えられます。江戸本所深川で大人気の十人組の町娘で構成された本所深川いろは娘は、今で言う女性アイドルグループ。今から十年前の作品なのでAKB48がまだまだ人気だった頃です。そのAKBグループの営業戦略を模倣するように、押しメンの手拭いを色分けして売り込み、その売り上げの多い娘がセンターを務めるという徹底のし様。その娘たちがかぞえ唄に倣ってどんどん死んでいきます。そして仔狐人形が一人死ぬ度に一つづつ無くなっていき・・・。

ページ数が少なめな割りに死者が多いので、内容としては希薄です。一人死ぬ度にいちいち捜査されたりしません。大雨の影響でそれどころではないというのが現状の様です。しかし終盤の真相判明のシーンはなかなか読み応えがあります。まあ誰が探偵役をする訳でもありませんけれど。問題は動機、この時代ならではのものと思われますが、あまり納得出来るものではありませんでした。もう少し何とかならなかったものかと思ってしまいます。しかし、事件の裏に隠された悲しい現実が心を打ちます。こんな時代もあったんですね、それを考えると今の時代はまだまだ捨てたものでは無いと思わずにはいられません。

No.1456 6点 清掃魔- ポール・クリ-ヴ 2022/06/14 23:23
俺のコピーキャットは誰だ。許さん。天使の街クライストチャーチの警察署で掃除夫として働く「のろまのジョー」は、自分の模倣犯を放置できなかった。そう、障碍者を装うジョーの素顔は、クライストチャーチ・カーヴァーと怖れられる、無慈悲なシリアル・キラーなのだ。金魚だけが友達の暮らし、陽光降り注ぐ夢のない街、過干渉の母親、そんな日々の中で膨らむ孤独な妄想。尊大極まる身勝手な意識が生む、自己合理化された正しい完全犯罪。しかし模倣犯探しによって、完璧なシナリオにも亀裂が生じるのだった…。2007年ドイツ・アマゾンのミステリー部門で年間ベストセラー第1位を獲得。現代世界の理由なき殺人を犯人の主観でリアルに描きこむ、ぐいぐい読める傑作ノワール小説。
『BOOK』データベースより。

今ではそれ程珍しくない、連続殺人鬼自身が探偵となって殺人事件を暴いていく倒叙物、或いはサスペンス。物語はシリアルキラーと彼に近しい女性の一人称で進んでいきます。二人の心理描写が半端なく事細かになされており、そこが一つのウリですね。それにしても主人公のジョーの第一声に驚きました。何故か?それは読めば分かります。作風は緩急を付けてはいますがかなり乱暴で、その為差別用語がバンバン出てきます、これでもかとね。そういうのに嫌悪感を抱く方は読まない方が賢明です。

中盤で最大の見せ場が来ます。これは見ものですよ、残酷描写が克明に描かれており、かなり痛々しいです。まああとは特に意外性やオチがある訳でもなく、ご都合主義で多分に偶然に頼っている点は否定できません。ツッコミどころは結構あるって事です。
例えばジョーの、途中から出てくる重要人物に対する心境の変化が何だかよく理解出来なかったりとか、何故犯人が○○の中にいるのが簡単に解ってしまったのか、そんな偶然あるのかとか。その辺りは如何にも作り物っぽくて鼻白んでしまいます。

No.1455 6点 狂乱家族日記 八さつめ- 日日日 2022/06/11 23:00
予言された『来るべき災厄』とは、月香に恋する最強宇宙人の来訪だった!?強欲王と人類の戦いが膠着状態に陥る中、「ナス子さん。ご飯食べようね!」破壊神なのにすっかり懐柔?された月香の「妹」は凰火たちと夕餉の最中だった。そんな楽しい団欒の中、月香は強欲王の求婚に応えると爆弾発言をするのだった。騒然とする一同。どうするSYGNUSS!どうする凰火?ついでに地球の運命は?馬鹿馬鹿しくも温かい愛と絆と狂乱の物語最大の山場。
『BOOK』データベースより。

いやーいけませんねえ。二ヶ月間空いただけでかなり前作の終盤辺りを忘れていて・・・ダメじゃん自分。それでも読み進むうちに徐々に思い出してきました。そう言えばかなり混沌としながら内容テンコ盛りだったなあとか。兎に角再三再四シリーズを通して語られてきた来るべき災厄の正体が判明し、しかしそれが又大した事でもなくて拍子抜けの感が否めませんでした。それに加え、凶華がある意味不在で何だか話が締まらないです。

中盤まではそんな感じであちこち飛んで、最早収拾が付かない様相を呈しています。終盤漸く凶華が復活し、鶴の一声で決着を付ける方法が決まります。やっぱり混乱を一刀両断するのは彼女以外にいないですね。ここからかなり面白くなりいつもの調子を取り戻します。
最後はやはり愛なんですね。ここでは家族愛ではなく、男女の愛ですが。作者によればここまでがミステリで言うところの問題編、伏線を張り謎を散りばめていくパートで、次巻からいよいよ解決編らしいです。

尚、前作の書評で次回は番外編を読むと書きましたが、予定変更、順次本編を読み進めることにしました。出来ればもう少し間を詰めて。

No.1454 6点 綿いっぱいの愛を!- 評論・エッセイ 2022/06/09 23:25
40歳を目前に控え、忙しくものほほんと過ごしているオーケン。まあヤングの頃はなんだかいろいろあったけど、最近は意外にいーじゃん人生って、なーんて思う毎日を送っている様子。ぶらりぬいぐるみ旅に出かけたり、女の子のいるお店に招待されたり、時にはロリコン殺人犯に怒ったり。勝ち組負け組みなんてくだらないモノサシをぶっ飛ばし、ひたすらロッカー(ぽくない)道をホテホテと突き進む、ププッと笑かすエッセイ集。
『BOOK』データベースより。

本書はSideAとSideB、Bonus Trackに分類されています。Aでは比較的普通のよくあるエッセイで、ジーン・シモンズや中島らもの人となり、手塚治虫のエロい漫画など色々紹介されています。一方Bでは作者の恐怖体験やエロ事件などややダークな内容が中心となっています。ボーナストラックはプロレスの裏話が印象的。

どの話もそれなりに面白く、たまにクスッと笑えるエッセイとなっています。特にオーケンにとって造詣の深いロック(プログレ、ヒップホップ含む)や映画の知識をある程度持っている方には楽しめると思います。
いずれ、無駄なと云うかどうでも良い豆知識が増えることは必至ですね。又オーケンの交友関係や自身の人物像、40手前に思う事などが知れて、ファンにとっては嬉しい内容となっているのではないでしょうか。

No.1453 5点 すでに宇宙人が話しかけています- 田村珠芳 2022/06/07 23:04
超能力による読取り(サイキックリーディング)に、驚異の的中率を誇るこの女性が、あなたの明日の真実を明らかにする。
『BOOK』データベースより。

本書は2009年に刊行されました。まずそれを念頭に置いてください。作者田村珠芳は結婚し三人の子供をもうけたのち、闘病生活に入り、その間に見た夢が三日後に現実のものとなったという体験をし、夢占いから心理学を学んだのがこの道に入った切っ掛け。彼女はある日木花咲耶姫から「講演会を開きなさい」と言われたといい、その後執筆活動も始めたそうです。
で、本書の内容は、宇宙人は地球に住み着いている。宇宙人の中には地球人との子供を作った者もいる。UFOは地球に飛来した大型隕石を破壊して被害を防いでいる。宇宙人は地球をパトロールし救おうとしている。
第三次世界大戦は起こる。EU大統領が決まった後世界政府大統領も横滑りして決まる。日本人とユダヤ人の祖先は同じ。ロシアのプーチンは核でアメリカを狙っている。地球の地軸が動き、北極と南極が逆転する。等々。

どうですか、無茶苦茶ですね、言いたい放題で。ここまで来ると笑ってしまいます。
私はUFOや宇宙人の存在に関してはどちらかと言えば肯定派です。壮大な宇宙の中で唯一地球という星だけが高度の文明を持った、知能の高い生物が生存しているというのがどうにも納得がいかないんですよ。それとこれだけUFOが目撃されたり映像画像が広まっているのを全面的に否定する事は出来ないのではないか、即ち宇宙人も存在するという結論になります。まあでも、掲載されている宇宙人の顔のアップ写真を見て不謹慎乍ら大笑いしてしまった私の戯言など信用するには足りませんけどね。
本当は4点にしようと思っていましたが、110円で大いに笑わせてもらったのとその馬鹿馬鹿しさで楽しませてもらったので5点にしました。

No.1452 7点 アーモンド- ソン・ウォンピョン 2022/06/06 23:12
扁桃体が人より小さく、怒りや恐怖を感じることができない十六歳の高校生、ユンジェ。そんな彼は、十五歳の誕生日に、目の前で祖母と母が通り魔に襲われたときも、ただ黙ってその光景を見つめているだけだった。母は、感情がわからない息子に「喜」「怒」「哀」「楽」「愛」「悪」「欲」を丸暗記されることで、なんとか“普通の子”に見えるようにと訓練してきた。だが、母は事件によって植物状態になり、ユンジェはひとりぼっちになってしまう。そんなとき現れたのが、もう一人の“怪物”、ゴニだった。激しい感情を持つその少年との出会いは、ユンジェの人生を大きく変えていく―。怪物と呼ばれた少年が愛によって変わるまで。
『BOOK』データベースより。

本書はミステリではありません。まあ脳内ミステリーと呼んでも良いとは思いますが。脳内の偏桃体(アーモンド)が通常より小さい為、感情がほぼ変化しない主人公のユンジェ。それに伴い彼は一般的には生後3日で人は笑うと言われているのに、少年になっても笑ったことがありません。そんな彼の一人称で描かれる日常は様々な出来事や事件で埋め尽くされています。しかし、それはどれもドラマティックではありません、飽くまで淡々とした文章で進んでいきます。何故なら彼には感情がないから・・・。読後にあんな事もあったこんな事もあったと思い返してみると、如何にユンジェが波乱万丈な人生を送ってきたかが漸く理解出来て来ます。
感情がないとは、これ程人生を味気ないものにするのかという同情の様なものが其処で湧いてきました。果たして彼は人としてどう生きるのか、そして感情を取り戻し明るい未来を手に入れる事が出来るのか。

本当に翻訳された小説なのかと錯覚する程、日本人が書いたとしか思えない作品でした。訳者が素晴らしいのと原文が読み易いのとが相まってこうした秀作が生まれたのは非常に喜ばしい事であります。世界十三の国で翻訳出版されたのも頷けますね。尚作者に関しては訳者あとがきに詳しい。

No.1451 6点 夜の写本師- 乾石智子 2022/06/04 23:15
右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠。三つの品をもって生まれてきたカリュドウ。呪われた大魔道師アンジストに目の前で育ての親を殺されたことで、彼の人生は一変する。宿敵を滅ぼすべく、カリュドウは魔法ならざる魔法を操る“夜の写本師”の修業をつむが…。日本ファンタジーの歴史を塗り替え、読書界にセンセーションをまき起こした著者のデビュー作、待望の文庫化。
『BOOK』データベースより。

魔術、魔法ものとは言えよくあるラノベとは一味違います。中身が重いです。物語は面白いんですが、描写力というか表現力に問題がある為、もっと盛り上がっても良い場面でイマイチテンションが上がりません。
写本師とは聖書等の精緻を極める書物をそっくりそのまま書体まで書き写す職業で、それをマスターすることで魔導師にも劣らない力を得る主人公のカリュドウ。ストーリーはその魔術の業を駆使して最強の魔導師アンジストに、千年の時空を超えて復讐を誓うというもの。

総勢30人近い主要登場人物に混乱しながら読んでしまったのもあって、すんなり頭に入って来る様なやわな話ではなかったのは間違いありません。飽くまで硬質でエンターテインメント性が足りない分、文学として優れていると言えるのかも知れません。私にとっては読み難いとも言いますが。一般受けするとは思いませんでしたが、Amazonの評価は結構高いのでやはり私の読解力が足りなかったとしか考えられませんね。

No.1450 7点 魔術師- 佐々木俊介 2022/06/02 22:55
神秘学に傾倒する伝説的実業家の住む洋館には、
独自の英才教育を受けて育った4人の子どもが暮らしていた。
当主の龍斎とその血族、奉公人たちの集う館に招待された聖は、
徐々にその異様な雰囲気に飲み込まれていき……。
読むほどに謎が深まる、再読必至の館ミステリ「魔術師」。
Amazon内容紹介より。

事件が起こるまでは、説明文がほとんどで少々退屈しました。やや長すぎますしね。しかし、一人目の犠牲者が出てからはテンポよく進み、楽しめました。所謂館ミステリです、描かれたのはそれ程前ではないのに随分古めかしい雰囲気を醸し出しています。たまに携帯電話とかのワードが出てくると、物語にそぐわない為あれっと思ったりしました。

事件の真相はミステリをある程度読んでいる読者であれば、おおよそ見当が付くと思います。私も絡繰りは推測通りでした。しかし本作はその外側に仕掛けがあり、誰もそこまでは辿り着けないのではないでしょうか。そして動機に関しても、私にとっては想像の斜め上を行くものでした。ただ、肝心な部分が説明されていないと感じたのが率直なところ。その為、どこか腑に落ちない印象が残ってしまったのはマイナスポイントではないかと思います。
それにしてもパラケルススとか錬金術、オートマタ、ホムンクルスなんかが出てくるとワクワクするのはミステリ読みのさがでしょうかねえ。

No.1449 7点 わたし、二番目の彼女でいいから。- 西条陽 2022/05/30 22:49
私も桐島くんのこと、二番目に好き」

 俺と早坂さんは互いに一番好きな人がいるのに、二番目同士で付き合っている。
 それでも、確かに俺と早坂さんは恋人だ。一緒に帰って、こっそり逢って、人には言えないことをする。
 だけど二番目はやっぱり二番目だから、もし一番好きな人と両想いになれたときは、この関係は解消する。そんな約束をしていた。
 そのはずだったのに――

「ごめんね。私、バカだから、どんどん好きになっちゃうんだ」

 お互いに一番好きな人に近づけたのに、それでも俺たちはどんどん深みにはまって、歯止めがきかなくて、どうしても、お互いを手放せなくなって……。
 もう取り返しがつかない、100%危険で、不純で、不健全な、こじれた恋の結末は。
Amazon内容紹介より。

ラノベです。高校が舞台の恋愛小説です。でもラブコメではなく、結構シリアスです。私は夢中になると周りが見えなくなるタイプなので、どうも主人公の桐島や早川さんの気持ちはイマイチ理解できません。好きな人がいながら、二人が二番目に好きな者同士で付き合うというのはどういう心境なんだろうという素朴な疑問に応えようとしているのだと思いますが、何か裏がありそうな感触を残しています。結構エロく、しかし良いところで寸止めして妄想を掻き立てられます。
一話完結だと思っていたら、既に三作目まで出ていたのね。何作まで続くのか不安になりながらも、続きが気になってモヤモヤしています。ラノベのシリーズは長いからなあ。

作者はどうやらミステリが好きなようで、桐島がミステリ研究部の部長だったり、国内外のミステリ作品のタイトルとその作者の名前が次々と出てきたりします。そして体操服盗難事件の犯人を桐島がサクッと指摘します。
文体は飽くまで簡潔でラノベ特有の、妙に捻くれたような嫌らしさはありません。私の様な文法的に微妙におかしな点が見られる、いささかくどい文章を書く人間にはこうした潔さが憧れの的であります。この人は全くもって羨ましい限りの文才の持ち主なのです。

No.1448 8点 夜行堂奇譚- 嗣人 2022/05/28 23:07
外道箱と血に狂う赤黒い犬、ないはずの右腕を掴む手、皮袋を引きずり徘徊する童殺し、化粧箱を泳ぎ回る異形の魚、ループする隧道(すいどう)…

隻腕の見鬼(けんき)・千早と、オカルト嫌いな県庁生安課・大野木は、骨董屋「夜行堂」店主によって引き合わされ、多発する怪異の解決に挑む。人の情念や想いが、人ならざるものとなり引き起こす、数々の呪いと悲劇。その様を静かに眺める、夜行堂店主の真の目的とは…。SNSで話題の怪異譚、待望の書籍化!
Amazon内容紹介より。

今現在Amazonの評点、138の内5点満点が94%、4点が4%です。これはなかなか見ないグラフですよ。因みに私が本書を購入した時は読者が100に僅かに満たない時でしたが、5点が96%でした。この評価をサクラも含めたとして全面的に信用する訳ではありませんが、やはり気になって購読に至りました。確かに面白い。それほど複雑な話はありません、しかし怪異の数々の因縁を暴きそれを解決として一件落着するパターンがほとんどで、不快さが残らない読後感が持ち味です。そして何と言っても人間が描けているのもポイントが高いですね。特に主人公の千早と大野木、そして夜行堂店主の三人の個性が際立っており、その人間模様が一つの読みどころとなっていると思います。

敢えて苦言を呈するなら、各話によって一人称の語り手が変わる為、どこか据わりの悪さを覚えました。そこは全て三人称にした方が良かったのではないかと。ただ、その分心理描写がおろそかになる可能性は否定できませんが。
そして、時系列がバラバラで頭の中で整理する必要が生じること。普通に順序を踏んで進行しても問題なかったのではないかと思いますね。
あとは個人的な感想ですが、結末が呆気なくてあまり印象に残らなかった点でしょうか。私の予感では本作の中で最も象徴的なエピソードを除いて、幻の様に儚く私の記憶から徐々に消え去っていき、その時はまた読まなければいけなくなりそうです。それはそれで幸せな事かも知れませんけどね。

No.1447 7点 三月は深き紅の淵を- 恩田陸 2022/05/25 23:02
鮫島巧一は趣味が読書という理由で、会社の会長の別宅に二泊三日の招待を受けた。彼を待ち受けていた好事家たちから聞かされたのは、その屋敷内にあるはずだが、十年以上探しても見つからない稀覯本『三月は深き紅の淵を』の話。たった一人にたった一晩だけ貸すことが許された本をめぐる珠玉のミステリー。
『BOOK』データベースより。

本書を読む切っ掛けとなったのは、先日読んだ『本格ミステリ・ディケイド300』でした。実は『黒と茶の幻想』を読もうと思ったんですが、順序としてこちらを先に読んでおいた方が賢明だと考えた訳です。恩田陸、思えば二作読んだだけで何故か見切りを付けていました。自分にはあまり合わないとのちょっとした誤解からですが、私は間違っていました。やはり読まず嫌いはいけませんね。

兎に角流れるような筆致にグイグイ惹き込まれました。第一章ではミステリのマニア心をくすぐる趣向にやられ、第二章では作者の底知れぬ才能に畏怖を覚え、更にそこはかとない旅情をとことん堪能しました。第三章では生々しい人間関係と悲惨な青春の物語に悲嘆し、第四章ではメタミステリ要素を未完のまま見せつけられました。
これは幻想小説とアンチミステリを掛け合わせたような、異形の作品だと私は思います。確かに中途半端な部分もありますし、次作に繋げるための序章に過ぎないという意見も見逃せません。しかし、プロローグだけでこれだけの作品を描いてしまう恩田陸の底力を本書に見た気がします。確かな実力を持った作家であるのは間違いないと思いました。

No.1446 6点 数字を一つ思い浮かべろ- ジョン・ヴァードン 2022/05/22 22:31
数字を一つ思い浮かべろ。その奇妙な封書にはそう記されていた。658という数字を思い浮かべた男が同封されていた封筒を開くと、そこにあった数字は「658」!数々の難事件を解決してきた退職刑事に持ち込まれた怪事は、手品めいた謎と奇怪な暗示に彩られた連続殺人に発展する。眩惑的な奇術趣味と謎解きの興趣あふれる華麗なミステリ。
『BOOK』データベースより。

第一部は静、第二部は動、そして第三部は進展と云った具合に明確に色分けされています。それにしてもこれ程の大作とは思いませんでした。勿論それに見合った内容である訳ですが、主人公で元刑事のガーニーとその妻マデリンの、心の交流が結構な分量を占めており、それは要らなかったかなと個人的には思います。数々の謎は物語の進行に従って徐々に解されていき、本格ミステリのお約束の様な最後の最後に関係者を集めて謎解きが行われるというものではありません。その中でもメインとなる658という数字の関するトリックは、納得はいくもののアッと驚く程ではありませんでした。理論的には成立しますが、若干疑問に思う部分も無きにしも非ずです。

本作を読んでいて、いかにもアメリカらしいミステリだなと感じました。映像化すれば、と云うかした方が面白くなりそうです。主にハウダニットに重きを置いている感じもしますが、ホワイもフーもおろそかにされている訳ではありません。全体として良く出来ているとは思いますが、名作傑作の部類に入るとは言い切れませんね。文体もこなれていない印象を受けましたし。

No.1445 6点 真珠郎- 横溝正史 2022/05/18 22:32
鬼気せまるような美少年「真珠郎」の持つ鋭い刃物がひらめいた!浅間山麓に謎が霧のように渦巻く。無気味な迫力で描く、怪奇ミステリーの最高傑作。他1編収録。
Amazon内容紹介より。

短めのページ数の中に色々詰め込み過ぎて、あまりスッキリしない読後感と置いてけぼりを喰らった様な孤独感が後に残りました。やや説明不足の感が否めないと思うのは私だけでしょうか。それでも金田一耕助シリーズには見られない幻想味には見るべきものがありそうです。所謂首なし死体ものとはちょっと違う趣向が凝らされており、その意味でも意外性を感じました。

探偵由利麟太郎が登場して初めて、あっと思いました。ノンシリーズだと疑わず読んでいましたので。しかし、折角の名探偵が一向に活躍しないのは如何にも残念です。ラストの真相判明の手法は個人的にあまり好みではありませんし、正直カタルシスも得られませんでした。勝手にハードルを上げてしまい期待外れに終わったのは悔やまれます。横溝の傑作群と比較してしまった私のせいでもありますが。
しかし、思ったよりも本格ミステリ度が高かったのは間違いありません。

No.1444 8点 三人の名探偵のための事件- レオ・ブルース 2022/05/15 23:07
サーストン家で開かれたウィークエンド・パーティーの夜、突如として起こった密室殺人事件。扉には二重の施錠がなされ、窓から犯人が逃げ出す時間はなかった。早速、村の警官ビーフ巡査部長が捜査を開始するが、翌朝、ウィムジイ卿、ポアロ、ブラウン神父を彷彿とさせる名探偵たちが次々に登場して…華麗なる名探偵どうしの推理合戦と意外な結末。練り上げられたトリックとパロディ精神、骨太なロジックに支えられた巨匠レオ・ブルースの第一作にして代表作、ついに文庫化!
『BOOK』データベースより。

読み始め、原文を直訳している感じで、文章が硬いと感じました。読み難い訳ではありませんが、もう少し平明で分かり易い翻訳を心掛けて欲しいものだと思いました。ただ、話としては悪くありません。丁度良いタイミングで事件が起こり、窓は一つ開いているものの密室殺人だと判明します。まあ、現在となってはありきたり過ぎる位で、むしろ地味と言えるとは思います。

依頼されてもいないのに三人もの名探偵が次々と現れ、警察を尻目にめいめいに捜査を開始するのを傍観している巡査部長という図式は、余りにも非現実的過ぎてなんだかなあって感じです。しかし、いよいよ探偵達の謎解きが始まると俄かに面白くなります。この趣向、この解決編、この真相、正に良く出来た新本格を読んでいる様な錯覚さえ覚えます。ウィムジイ卿、ポアロ、ブラウン神父をパロった探偵の果たして誰が真相を言い当てるのか、興味津々で読み進められました。しかも三人が三人とも遜色ない推理を披露し、伏線を回収しまくります。所謂多重解決ものの白眉と言っても過言ではないでしょう。

No.1443 7点 本格ミステリ・ディケイド300- 事典・ガイド 2022/05/12 23:09
ゼロ年代デビュー作家による書き下ろしミニエッセイ。映像からアニメ・コミック、ゲームのゼロ年代を俯瞰するコラム。作家ガイド付き索引。
『BOOK』データベースより。

大変良く出来ました。花丸をあげましょうね。2001年から2010年までの十年間の国内本格ミステリ総決算。
数えてみたら300冊中既読だったのは114冊でした。如何にも中途半端な読者の私でも、タイトルを知っているけれど中身は知らないものや、中には全く聞いたこともないものもあり参考になりました。しかし、だからと言って即これは読みたいと思うような作品はそれ程ありませんでしたね。やはり自分好みの作品にはある程度手を付けていたという事になりそうです。或いは入手困難で読みたいけれど、諦めている作品とかですね。

内容としてはあらすじ半分解説半分って感じでしょうか。これだけの数ですから、どうしても微に入り細を窺つ訳には行かないのはやむを得ないです。それでも十分言いたいことは伝わってきました。勿論ネタバレは皆無です。私は最近になって、例えば「この作品は叙述トリックを使用しています」と書いただけで既にネタバレだと思うようになりました。その意味でも細心の注意が払われています。
これは本格ミステリではないだろうとか、何故これが入っていてあれが入っていないのかとか、あの作家の作品はネームバリューに比して取り上げられすぎじゃないかとか、色々疑問に思うところもありましたが、飽くまで私見ですので仕方ないんでしょう。万人に認められる300冊にするのは至難の業でしょうから。

メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 他多数
採点傾向
平均点: 6.00点   採点数: 1462件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
島田荘司(24)
西尾維新(22)
京極夏彦(21)
綾辻行人(20)
折原一(18)
中山七里(18)
アンソロジー(出版社編)(16)
清涼院流水(16)
森博嗣(15)