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みりんさん
平均点: 6.66点 書評数: 521件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.521 9点 Ank: a mirroring ape- 佐藤究 2026/01/12 19:38
なにこれ。書評数1件で埋もれていい作品ではないと俺の中で話題に。

人間だけがなぜここまで高度な言語を習得できたのか?本書では「自己鏡像認識」という人間と類人猿(チンパンジー・ボノボ・ゴリラ)にしか持ち得ない能力が鍵であると主張します。そして、なぜ古人類は死に絶えているのか?という謎にも、大胆で斬新な発想を披露します。
数多のミステリーのように、人工的に神秘性のある謎を構築しなくても、人間という神秘を探究するだけでここまで面白くできるのだと示してくれました。未曾有の読後感というのは言い過ぎか。「平成のドグラ・マグラ」と称されるべきだったのはデビュー作『QJKJQ』ではなく、この作品だったのではないでしょうか。『ドグラ・マグラ』よりも論説は幾分かわかりやすくエンタメ性も高いです。テーマとストーリーの連動具合では『幽玄F』の方が良かったが、発想力や斬新性で遥かに上回り9点。もう少しミステリー仕立てであれば満点献上でした。

私は今までにSFを3作ほどしか読んでいないのだが、本作がそこまで話題になっていないのを鑑みると、これが平均的な水準なのだろうか。だとしたら凄いジャンルだ。

No.520 6点 ウッドストック行最終バス- コリン・デクスター 2026/01/09 19:57
結構尖っていた『キドリントンから消えた娘』を先に読んでしまったせいで、幾分か丸みを帯びた本作品の面白みが薄れてしまった。そして2作目のせいで犯人がメタ読みできてしまった…それを加味しても、かなり凡庸な真相かな。逆フェルミ推定(?)みたいな絞り込みを真剣にやっているルイスとモースコンビの茶目っ気が気に入っているのでこのシリーズは今後も少しずつ読み進めていこう。
にしてもここの書評で知ったが、本国イギリスでホームズと匹敵する大人気キャラクターとは…絶対日本の本格ファンにしか読まれていない超絶マイナー作家だと思っていたのに

※おお!コリン・デクスターの書評100件目!

No.519 7点 正体- 染井為人 2026/01/06 22:02
脱獄した死刑囚の逃避行。警察とドンパチしたりというわけではなく、社会に密かに溶け込んでいく。序盤から中盤までがお仕事体験ツアーみたいな感じで特に面白かった。ただ、終盤はあまり納得いかない。強引に真犯人を登場させなかったのは素晴らしいが、裁判の過程まで丁寧に描写して、彼の悲痛な叫びが報われるまで見届けたかった。冤罪というテーマから逃げずに、鏑木慶一という人間の心の奥底まで全てを余すことなく曝け出して欲しかった。だが、あとがきで本作はあくまでエンターテイメントだと言っているので、それなら仕方ないかとも思う。
心理描写を省き、行動だけでキャラクターを浮かび上がらせる感じがどことなく『白夜行』。こちらは犯罪ではなく仕事や人助けであるが。

No.518 6点 赤い死の舞踏会- エドガー・アラン・ポー 2025/12/28 19:22
北山猛邦『神の光』で久しぶりにポオが読みたくなった。収録作は『ベレニイス』『影』『メッツェンガアシュタイン』『リジイア』『沈黙』『アッシャア家の没落』『群衆の人』「赤い死の舞踏会』『アモンティラドの樽』と評論2つ。あえてか?一般に流布されているタイトルと違うものが多い。やはり模倣した文体より原文の方が数段晦渋で、地の文は常に論考を読まされているみたいだ。
某ポオオマージュ作品で『アッシャー家の崩壊』を犯罪小説としても読めるぞという評論を読んでから、注意深く再読したけど少し無理筋では…?ポオがそこまで見越して描いているとは思えない。
『アモンティラドの樽』は地の分がほとんどを占めるポーにしては珍しく会話文が多く、比較的小説チックだ。2人の確執を描かないことに意味があるのだろうか。拘束した男の前で石材を一つ一つ設置していく過程がスリリングというかシュール。『黒猫』や『告げ口心臓』と違ってお咎めなしなのが今でも偏愛される理由か。
小品の多い全集1に載っている中でも数少ない良作の『メッツェンガアシュタイン』もあるし、病死・美女の死と埋葬、蘇生、憑依などよくあるネタも満遍なく揃っているが、何かメインディッシュに欠けるようなラインナップだなあと。評論はわけわかめ。

No.517 7点 キドリントンから消えた娘- コリン・デクスター 2025/12/27 21:04
法月綸太郎がどっかでおすすめしてた作家なので読んだ。シリーズ2作目と気づかずに…
【ネタバレ】


多重解決がというより、真面目な探偵小説読者をおちょくるような作風がアントニイ・バークリーみたいだと思った。確かに我々読者はすぐに複雑で突飛な真相に結びつけてしまう。ここまで読者に擬態したお茶目な探偵役ははじめてだ。迷探偵ぶりもロジャー・シェリンガムといい勝負。
ロジカルでかつアクロバティックな推理を多重に披露するミステリーを読んでいるので、「現代本格の最高峰」というのは誇大広告かな。といっても、真相は作者の匙加減というのが狙いなのかもしれないが。
しょぼい失踪事件でこれだけワクワクさせるのは凄いし、真相に関わる「容姿の変貌」についての説得力は他に類を見ないもので驚いた。

No.516 5点 鼓動- 葉真中顕 2025/12/13 17:05
『ロスト・ケア』が良かったのでこちらも
心に傷を抱えた女性刑事視点の話はイマイチだったが、引きこもりの半生の方は読み応えがあった。事件自体に魅力はないのに、ここまで読ませてしまう力は流石。日本の絶頂期から失われた30年に移行するこの時代の雰囲気を仮想体験できた。調べると著者は草鹿と同い年なんですね。しばしば耳にする就職氷河期世代の恐ろしさもよく理解できた。時代に恵まれ、売り手市場の生温い就活を経験した自分が、草鹿のことを「甘え」だとは口が裂けても言えない。
ありそうでなかった(?)草鹿の動機に、ロストケア同様読者サービスのどんでん返し。この話の着地点は?自分らしく生きるにはまず自分を承認するということか?あまりメッセージを汲み取ることはできなかった。

沈みゆく日本はいつ浮上するんでしょうねえ。失われた40年にならないといいのですが。

No.515 7点 体育館の殺人- 青崎有吾 2025/12/11 21:21
「殺人を彩るにふさわしい異様も、狂気も、怪奇も、猟奇もここにはない」
上の通り。なんだか気の抜けるタイトルだな〜と思いながら読み進めていると影の薄い登場人物がわんさか出てきて『月光ゲーム』を思い出した。著者もあきらめ気味の「読者への挑戦状」を読んでも、ページを戻るようなことはせず、解決編に進んでしまった(苦笑) 解決編では著者のロジックに対する情熱がヒシヒシと伝わってきて火傷しそうだった。傘を起点にしたあまりにも鮮やかなロジックを披露した本作に対して、人間が描けていないというのは褒め言葉だろう。江戸川乱歩賞だったらおそらく選ばれない。これを受賞させた鮎川哲也賞はやはり素晴らしい賞だと再認識した。
読んでいてフーダニットの楽しさを思い出したが、何気に密室の出来もいいと思う。


人間の行動が必ずしも論理的でなく、偶然性を内包する限り、一点の曇りもない完璧なロジックを構築するなんて不可能なのではないか?その気になればいくらでもイチャモンがつけられるのでは?と本格推理の限界も感じた一作。折りたたみ傘はケアして欲しかったけどね。

No.514 6点 杉の柩- アガサ・クリスティー 2025/12/09 19:39
金持ちの遺産相続に男女の三角関係、出自の謎。お話はいつものクリスティー。
珍しく犯人にはかなり確信を持って読めた。遺産に関するとある行動があまりにも怪しすぎたのだ。いつものクリスティーならこれを囮にして私をハメてくるのだが、今回は"表"がそのまま正解だった。
話の中心に居座るラブストーリーがミステリーの核として機能していないのが惜しい。

【ネタバレのようなもの】

このトリック結構好きだ。ただ、エリノアが紅茶を飲んでいたらどうするつもりだったのだろう。

No.513 8点 神の光- 北山猛邦 2025/12/04 17:50
ランキングを楽しむために新刊を漁っていますが、本作が間に合ってよかったです(ランキング予想、今日までですよ)

『一九四一年のモーゼル』はアイデアのみで評価すれば『占星術殺人事件』に匹敵するレベルかと思います。殺人のトリックではないのが玉に瑕ですが、心理の盲点を突いたようなエレガントな消失ものです。2004年初出ということで、20年も書籍にならずに埋もれていたのが信じられません。このアイデアだけで8点献上です。
ただ、この短編だけクイズの側面が強い。後半の『藤色の鶴』や『シンクロニティー・セレナーデ』あたりは消失をメインに添えるのではなく、ドラマ性で支えていただけになんか惜しい。

表題作『神の光』はギャンブルものとして開幕し、街が一つ消失する。「インセキジャネーノ?」と思ったが、さらにとんでもない真相だった。一応ロジックなるものがあり、世界史にそこそこ詳しい人間なら推理が可能ということで本格の範疇か?

私のお気に入りは『未完成月光 Unfinished moonshine』 幾度となく擦られた「エドガー・アラン・ポーの未発表原稿ネタ」で、恐らく唯一原稿の中身までしっかりと描かれた作品。「ポオにしてはなんか軽くね?」に対する言い訳もいい。大鴉に館の焼失、美女の死とポーネタ散りばめ、消失ものを演出。ポーならこんな種明かしはせず、『アッシャー家の崩壊』のようにぶん投げて終わりそう。語り手と小説家の2人のキャラはどことなく三津田信三作品っぽさもある。

『シンクロニティー・セレナーデ』は異質な雰囲気で、消失よりも館が消失する夢の共有という現象に惹かれて読んでしまう。夢と記憶の共有・集合的無意識を取り扱った幻想小説としても読める。荒唐無稽だが面白い。

No.512 7点 ネズミとキリンの金字塔- 門前典之 2025/11/30 19:09
本サイトで始めて知りましたが、こんなにも新本格な作家がいたのですね。ここまで建築!建築ゥ!なミステリーを読んだのは周木律以来です。
ピラミッドを模した精神病棟で起こる奇怪な密室殺人と崩落事故。ネズミとキリンの童話から始まり、精神病院に流れる黒い噂とアンデッドの目撃情報。これが詩美性のある謎?

蜘蛛手さん、容疑者の1人かと思っていたらシリーズものの探偵だったのね。正直言うとなんか嫌なやつだったなあ…
「堅牢な建築学的不可能犯罪」は確かに魅力的ですが、それ以上に動機が秀逸です。蜘蛛手探偵の言うとおり、ホワイを推理するのは難しく、登場する図に真摯に向き合わないと不可能でしょう。そんなことでここまで大掛かりで時間のかかることをするだろうかという突っ込みは野暮ですね。こんなにも精緻な金字塔を竣工した作者にあっぱれです
しかし肝心の見取り図の中の文字が不鮮明で読みにくいのは改訂しといてね

No.511 7点 同志少女よ、敵を撃て- 逢坂冬馬 2025/11/27 21:21
なんと大好きな漫画(×3)が引き合いに!私も読まねば!
そんな経緯があり、セラフィマとイリーナのビジュアルはクレアとテレサで補完(笑)

戦争小説って歴史と道徳のお勉強を強いてくるから苦手だが、本作は史実で訴えかけてくるのではなく、物語で魅せているから素晴らしい。母親を射殺され、故郷を燃やされ、「敵」に復讐を誓った少女セラフィマが一流の狙撃兵になるまで…少女達はなぜ戦うのか?敵とは一体何か?国家間のスケールの話を違和感なく個対個にも持っていける。上手い。
「自由を得るため」「射撃の瞬間、自分は自由でいられる」 仲間は足枷だと言い放ち、それに見合うだけの実力がある傲慢なアヤが好きだった…(泣)
「コサックの誇りを取り戻す」「くたばれソヴィエト・ロシア」
使命を全うする回し者のオリガも格好良かった…(泣)
アニメ化やドラマ化の話来てないのかな?

「なぜか毒にも薬にもならない作品ばかりを選出する」と俺の中で話題の本屋大賞、見直しました(非常に失礼)。今後もこういう作品選んでください。

No.510 7点 抹殺ゴスゴッズ- 飛鳥部勝則 2025/11/19 17:56
15年ぶりの電撃復活!私は去年出会った作家なのでそこまで感慨はありませんが、この日を待ち侘びた方もいらっしゃるでしょう。お祭りに便乗して最新作を先読み。

読んですぐに厨二感「嗚呼、此れぞ飛鳥部勝則也」 この作風は20年経っても消えないのか。丸みを帯びるどころか独特の尖りが更に研ぎ澄まされたように熟成された一冊。それこそ、雅号で出版してもすぐにバレただろうな(笑)

怪人・蠱毒王が地下洞窟に棲みつく「平成」と2人の少年が怪神・コドクオを召喚する「令和」のカットバック形式で物語は進行する。好きなのは令和のコドクオよりも平成の蠱毒王。乱歩作品のような残虐趣味・変態嗜好と紳士さを持ち合わせている芸術家の鑑である。このキャラクターが本作で1番魅力的だった。殺人事件も怪奇要素も興味を唆るのは平成の方で、密室状況からの犯人消失もの。平成と令和が交錯する最終章は意外な真相がいくつも明かされ、本格ミステリーとしての威厳を保ちつつ、高校生の青春小説に着地した。
骨格はやや弱いと思うが、飛鳥部ワールドが堪能できて実に面白かった。

No.509 5点 天使のナイフ- 薬丸岳 2025/11/17 17:50
少年犯罪と更生・贖罪というテーマは最近読んだ『目には目を』と同じですね
主人公の身辺に少年犯罪が多いかつ人間関係が繋がりすぎているせいで、どんでん返しというより、いくらでもひっくり返せますよねという感じ。
少年達は捕まえられた時、なぜビデオの存在を警察に話さなかったのだろうか?そっちが発覚したとしても殺人罪自体は軽くなるはず。あと、アイツは今ものうのうと生きていますという手紙を送った程度では罪に問えないだろう。もっと具体的な指示をしたのか?
実行犯の造形にも違和感が拭えず、少し残念。

No.508 7点 俺ではない炎上- 浅倉秋成 2025/11/12 12:45
面白かった。阿部寛ピッタリじゃん。

【未読の方は読まない方がいいかも】


SNSにおける成りすましというテーマは極めて現代的なのに、ミステリー的な趣向は古き良き新本格であった(別にあの作家が先鞭をつけたわけでもなさそうだが) 。伏線はこの手のものにしては少ないし、映画化しているという前情報も目眩しになって見破れる人はかなり少数なのではないか。
わざわざ阿部寛に成りすましてまで貶めるほどの動機があったとは思えない上に、連続殺人の動機も深くまでは書かれていない。幼い頃からそういう奴だったと納得するしかない。
誰もが陥る他責思考「俺ではない」は魔法の考え方だが、ときには他者への鋭利な刃物になるということを再認識すべきなのでしょう。おお、そう考えるとタイトルはダブルミーニングなのか!
映画も見てみようかな。

No.507 8点 スカーフェイク 暗黒街の殺人- 霞流一 2025/11/08 15:10
日本の新本格作家達の多重解決に対する並々ならぬ情熱はどこからやってくるのでしょうか。今年も斬新なヤツがやってきました。
裏世界の大物「鮫肌の哲」が鍵の掛かった倉庫の中、いわゆる完全な密室状況で死んでいるという展開から始まります。多重解決といってもギャングの世界では一味違って、俺こそがあの大物を殺した犯人だと次々に名乗りをあげるのです。裏社会の名探偵である邪無吾(ジャンゴ)は偽犯人達の主張する密室トリックを論理(スジ)で否定していきます。

最近読んだ井上真偽の『その可能性は既に考えた』に近い展開ですね。私的には、決め台詞は井上真偽の方が厨二臭くて好みです。
途中からかくれんぼ大会みたいになりますが、私が好きなのは、唐獅子キッドと流れ星来斗の仮説で後者は特に実数解にして欲しかったなあと思うくらいでした。真相に採用されたのはかなり前例のあるものでしたが、無数の手がかりが一挙に繋がる点や、多重解決に意義を見出している点がウリでしょう。

7点と8点で迷ったが、情報後出しなしの"逆"多重解決×密室×アウトローという趣向がいいので8点。
今年の本格ミステリ・ベスト10に入ると思います。

※以下ネタバレ付きのイチャモン
・計画的な犯行なら写真を撮るはずだ→流石に否定の論理としては……
・p230 「普通、自分で靴を履く場合、右の靴の踵を掴むのは左手。右手で右靴を掴んで履こうとするのは凄くやりにくい。左手の方が極めて容易。」→え、そうなん?右手で右の靴掴むの自分だけ!?

No.506 7点 目には目を- 新川帆立 2025/11/08 06:42
娘を殺された女の復讐譚ではなく、殺人を犯して少年院に服役していた6人の少年達の生活と社会復帰後の姿を取材する話。
少年達の中には更生している者もいれば、犯行時から微塵も変わらない者もいる。
目には目を。殺人には殺人を。そんなありふれた話では終わらない。復讐の連鎖を終結させる主人公の選択「反省には反省を」 明言を避けて誤魔化すのではなく、贖罪に対して2つのアンサーを並列に示しているところが凄い。

No.505 7点 月の扉- 石持浅海 2025/11/07 12:23
いいね。序盤からハイジャック事件が起こり、月の向こう側へ行こうとする怪しげな儀式が匂わされ、グッと惹き込まれる。
キーとなる石嶺のカリスマ性については、直接的な表現を避けて周りの評価に押し留めているので説得力は薄いが、どう表現しても胡散臭くなるので仕方がないのだろう。
立て篭もり犯も予想外の殺人事件が密室状況で起こる。こちらはオマケのようなものか。
物語は唐突に予想外の結末を迎えるが、すべての事件は石嶺の危うい思想がトリガーとなっているという構成が上手い。偶然も偶然で終わらせない。幻想的なラストもギリギリあり得そうな範囲を攻めている。

No.504 8点 童夢- 大友克洋 2025/11/05 19:05
誰が言ったか漫画史は大友以前・大友以後で分けられるとかなんとか。ほんとかな?当時を全く知らない者からすると、『デビルマン』を描いた永井豪ならまだしも、そこまで後世に影響を与えているのかなあと懐疑的です。何はともあれこの機会に便乗登録です。

マンモス団地で起こる連続不審死事件。事件を捜査していた巡査が転落死し、拳銃が紛失する。
ここまで書くと誰もがミステリーを期待しますが、一応はモダンホラーというジャンルに分類されるらしい。私の中では超能力バトル・アクションを如何に絵で表現するか?その地平を切り開いた漫画という印象です。バトル漫画界のアガサ・クリスティーって感じですね。童夢(1983)が発売された翌年にあの『ドラゴンボール』が連載開始し、このエッセンスはしっかりと継承されていますね。
画力は圧倒的で、特に建造物に対しては狂気じみたこだわりがあるのか、もはや写真の模写ではないかと疑うレベルです。
閉鎖的な団地を舞台にしており、その地域の人達の頭のネジが外れているというところは、よくある因習村系ホラーミステリーのようです。どこか現実と地続きのような世界観で、非現実的な超能力バトルが繰り広げられていくという展開は今でも斬新なのかもしれませんね。
全1巻で完成度の高い漫画です。

No.503 7点 ロスト・ケア- 葉真中顕 2025/11/05 18:54
本サイトではたまに「時の作家」が現れるが、この人もそんな予感がするので、古参ぶっておこう(もうおそい?)

社会派な内容とどんでん返しのバランスが中山七里みたいだと思った。後者は邪魔者のようにも思えるが、ミステリー好きへのサービスでしょうね。
1番の衝撃は「相模原障害者施設殺傷事件」よりも前に発表された作品だということだ。現実の事件をモチーフにしたのだと思っていたが、フィクションが現実を先取りするなんて…

 私は性善説を信仰する大友検事があまり好きになれなかったのだが、そこすらも著者の狙いだったのだろう。
「殺すことは間違っている!救いも尊厳も、生きていてこそのものだ。死を望んだんじゃなく命を諦めたんだ!」 
だが、介護の世界は決して理想論では片付けられない。家が裕福でVIP待遇の老人ホームに父親を入居させた大友が言ってもただの綺麗事にしか映らない。
「あなたがそう言えるのは、絶対穴に落ちない安全地帯にいると思っているからですよ」 
ストンと腑に落ちた。まさにこれが日本がいつまで経っても変わらない原因の一つなのだろう。
この作品を読んで平然としていられるのも、どこか自分とは違う世界だと逃避しているのかもしれない。だが、いつか親を介護する日はやってくる。子の顔を忘れ、糞尿を撒き散らし、暴言を吐く親を私は献身的に介護できるだろうか?少子高齢化が加速するこの国で、介護の現場は崩壊を起こさないのだろうか?本書を読んで、将来に対するあらゆる懸念が浮かび上がったが、明るい見通しは立たないまま、ただ絶望の淵に沈んで物語は終了した。

No.502 6点 終りなき夜に生れつく- アガサ・クリスティー 2025/11/02 21:01
映画『タイタニック』のようなベタなロマンスの中に、『レベッカ』とか『ずっとお城で暮らしてる』みたいな危うさがずっと同居していた。あの存在はずっと異質なものとして描かれていたので、悪い予感はしていた。終盤まで読むとああやっぱり…本サイトの了然和尚さんの書評にある「アレよりは物語として面白いが、ソレの方が本作より面白い」に完全同意です(タダノリしてスミマセン)
ソレとは方向性は完全に違うし、もはや謎解きなどの領域を超えた純文学のような読み心地で、○欲に支配された者が甘やかな喜びを捨て去り、終りなき夜へと向かうラストは確かに強い余韻を残しました。いいタイトルですね。

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