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[ 本格 ]
無実はさいなむ
アガサ・クリスティー 出版月: 1960年01月 平均: 6.40点 書評数: 15件

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早川書房
1960年01月

早川書房
1978年02月

早川書房
1978年02月

早川書房
2004年07月

No.15 6点 ◇・・ 2024/10/08 21:00
ある家に殺人が起こり、不良息子が逮捕され、アリバイの主張にも拘わらず確証のないまま有罪となり、ついに獄死する。ところが真相を知っている一人の男が悲劇の館を訪れるというところから物語の幕が切って落とされる。
巧妙な状況設定は、久しぶりに貫録を示したものと言えるが、展開の部分には誤算がある。無実にさいなまれる一群を描こうとしながら、実は最後まで犯人を明かさぬため、誰が無実なのか分からない。それでもこの辺が動きに富んでいればよかったが、劇的な場面もなく、後半は飛ばしながら読む以外にはなくなるほど退屈であった。

No.14 8点 虫暮部 2023/03/24 12:41
 はっきりと伏線が示されていたのに何故気付かなかったのだろう。
 それぞれ方向性の違う子供達のキャラクター、その更に異分子である車椅子のフィリップの存在感も良い。心情描写が交錯して、こんなに書いちゃって矛盾しない真相に着地出来るのか? と心配になったが、この視点の変遷が面白く、シリーズ探偵を起用しなかったのは正解。

 以下ネタバレ。
 クリスティー文庫版解説で指摘されている、“犯人は真相を暴露して自分の罪状を軽くしようとするのではないか” と言う件について。
 これは状況が或る種のチキン・レースになっているんだね。
 暴露してしまうと、罪状は軽くなっても、家族の中の元のポジションに戻って遺産を受け取ることはまぁ出来ない。一方、アリバイ自体は本物なのだから、自分が頑張っているうちに証人が出頭すれば晴れて無罪放免でポジション復帰が出来る。何故か未だ証人は見付からないが、それは明日かもしれない……。
 なかなか難しい判断だろう。六ヶ月程度では思い切れなかったのも不自然ではない、と私は思う。獄死は結果論であって、当人にしてみれば命まで賭けていた心算はないのでは。
 但し、あくまで故人の心情なので、作者としてはこの苦悩を描く視点を確保出来なかったのかもしれない。

No.13 5点 レッドキング 2020/03/11 00:33
母として妻として絶対的な支配者である女、財力と先見力と理想に裏打ちされた信念の女・・それ故にこそ子供たちと夫は幸福になれない・・そんなスーパーマダムの殺害事件から2年。いったんは解決した事件に新たな展開が・・・
ん?この話、とりあえず収まる所に収まってた一族の安寧をぶち壊しにした男が、結果、自分の女を得て、誰よりもめでたしめでたしエンドってことだよなあ・・

No.12 5点 ことは 2019/11/04 00:09
クリスティー好みの家族の人間関係を中心にした疑心暗鬼がサスペンスたっぷりと描かれる。
視点人物が固定されないのも、個々の人物をカットバック方式で描きたいからでしょう。
中盤までは楽しかったが、後半の事件は付け足し感が大きいし、解決は少し腰砕けに感じる。謎解きの枠組みがじゃまをしている気がするんだよなぁ。もっと心理サスペンスに振ったほうが面白かったと思う。

No.11 5点 ボナンザ 2019/08/07 21:44
確かに雑に感じる箇所もあるが、真相は一見の価値あり。
野心作だと思う。

No.10 8点 斎藤警部 2016/10/12 06:01
離れ島の邸宅に住む、血の繋がらない子供達(みな養子)だらけの大家族。家長である「お母さん」が殺害されたのは一年前。子供達の中でも一番の問題児が犯人として挙げられ、やがて獄中で病死。。。 そこへ「犯人は実は●●では無かったんです。」とアリバイ証言を手土産にやって来た、一人の著名な探検家。ところが、大家族を喜ばせる筈のこの無実の証言が彼等を苛(さいな)み始める。「では、いったい家族の中の誰が真犯人だったのか」と。。。。

こんな舞台背景で、苟(いやしく)もクリスティなら、犯人の設定に一定以上の切なさと幻惑のダイアモンドダストを期待するはずだ。まして本作の様な如何にもモノありげな書きっぷりの長篇なら尚更。その上、誰が(どちらが)探偵役か直ぐには分からない状況、まして探偵役候補の片方(探検家)はひょっとすると真犯人かも知れない、とかなりの深さまで疑えそうな物語の雰囲気だ。

ある時点での恋愛感情云々、そして動機と機会云々、そいつらが絶妙のタイミングと角度でクロスし反射する。これがアガサクオリティ、と膝を叩くこと六、七回。
メアリーがポリーと呼ばれるあたりではキンクスの「ポリー」が頭を流れた。 ♪ポリーはお母さんの言うこと聞かない~(和訳)
しかし終盤もいい辺りから「お父さん」の台詞が大沢悠里の声で聴こえて来るのには参ったな。

「夢の中では、どんなふうに殺しました?」 「ときどきはピストルで撃った。」

で、犯人設定はどうだったかと言うと、、 ムフフ、言えませんよ。 流石ですね! としか言えません。

No.9 5点 nukkam 2016/07/13 14:19
(ネタバレなしです) 1958年発表のシリーズ探偵の登場しない本格派推理小説です。クリスティー文庫版の(濱中利信による)巻末解説でも指摘されている通り、登場人物の個性がないわけではないのですが主人公不在の物語のためかクリスティーにしてはだらだらしたプロットに感じられます(あくまでもクリスティーとしてはですが)。部分的には優れたところもありますけど謎解きも粗いです。

No.8 7点 了然和尚 2016/03/26 21:09
再読ですが、前に読んだ時より+2点で評価アップしました。レギュラー探偵は出てきませんが、謎の進め方や、他視点で描写されるところなど、非常に今風かと思います。
意外な犯人は、いかにもクリスティー好みだなと思います。
よくあるトリックですが、今出てきた→今入ったトリックが、さらっと使われていますが、扱いが軽すぎて違和感ありました。うまく組み立てられたのに、結論のまとめ方はちょっと雑な気がしました。

No.7 7点 クリスティ再読 2015/11/03 21:57
本作は「ねじれた家」の続編だと思う...「ねじれた家」では家族にとって都合のいい人を生贄の羊として差し出して、家族をムリに再回収しようとしていた話だったが、じゃあそれが一旦成功していたら?という疑問で描かれた作品のわけだ。

評者的には本作の一番イイところは、抑制的な渋い文体である(現行版も小笠原豊樹訳だ...名訳だと思う)。アリバイが判明したことによって、家族内での犯人探しになるわけだが、これは別に論理的な手がかりがどうこう、というものではないので、凍りついた家族のそれぞれの疑心暗鬼を丁寧に追っていけばいい。そうすれば最終的に性格的に納得のいく「意外な真相」は手にはいるが...

評者的には本作が、中期クリスティがずっと追求してきた親子関係の最終的な結論のように感じる。「わたしが憎んだのは、お母様がいつも正しいことばかりしていたからよ...いつも正しい人間なんて、こわくない?」という登場人物の言にあるように、母権による抑圧と反抗の物語を、クリスティはずっと紡いできたわけだが、その母権の「正しさ」が本作で最終的なテーマに浮上してきている。母性の権化は報いられず殺され、その他の母性に捉われた女性が何人も登場するが、皆最終的に母性の対象を喪失する....

というわけで、本作はミステリを期待して読むよりも、ディープでヘヴィな親子相克のドラマを読む覚悟で読んだ方がいい。それでも本作はある意味クリスティという作家の到達点の一つである。
(本作の評はそんなに多くないけどほぼ皆7点をつけてるのが印象的。それだけの読み応えのある力作です。)

No.6 7点 蟷螂の斧 2013/07/18 15:34
(クリスティ自薦10の一冊)犯人の設定がクリスティらしい。うまい、面白い。冤罪を晴らされた家族の疑心暗鬼の様子がうまく描かれている。ラストは、ほのぼのとする。「失敗作とは思いつつ、実は大のお気に入りでもある」というよく解らない解説つきです。

No.5 7点 あびびび 2012/03/16 15:21
冤罪がテーマの物語だが、殺された資産家に対する養子5人の複雑な心理状態。一旦収まったかに見えた事件が、2年後に冤罪証明者が現れて各人のスタンスが明らかになる。

トリックなどなくて、行き当たりばったりの犯罪だったのだが、それをうまく進行させたクリスティの手腕に興味津々だった。

No.4 7点 りゅう 2011/03/22 21:15
 読者に提供された手掛かりが不足気味で、謎解きとしては不十分に感じられますが、クリスティーらしい技巧に富んだ佳作です。犯人が巧妙なトリックを仕掛けたというのではなく、物語の進行そのものがトリックになっているところが面白いと思いました。養子5人の特異な家族関係、母親殺しの罪で逮捕された容疑者が無実を主張したまま獄中死、2年後に冤罪を証明する人物が突如出現、それによって引き起こされた関係者間の疑心暗鬼、新たな殺人と殺人未遂の発生、というストーリーも読ませます。端役で登場するある人物が、謎の成立に重要な役割を持っていたことが後でわかります。また、登場人物の性格や考え方のクセといったものが、真相を示唆する伏線となっていることにも後で気付かされました。

No.3 7点 2010/11/05 13:17
キャルガリがジャッコの無実を家族に伝える冒頭の引き込みの上手さもさることながら、そのことで家族たちが疑心暗鬼におちいっていく様は実にうまく描かれています。冤罪がテーマなだけに、全体として地味でサスペンスも少なく、謎解き自体も物足りませんが、それを感じさせない上質な作品だと思います。
初読のときは、その暗さで不覚にも居眠りしてしまった映画化作品「ドーバー海峡殺人事件」に引きずられて、凡作の印象しか残りませんでしたが、今回の再読では、予想に反して素晴らしい作品であるとの印象を受けました。再読せずに記憶だけで評していたら、たぶん4、5点だったでしょう。

巻末の濱中利信氏の解説では、複数視点のことをとやかく指摘していますが、それなら「そして誰もいなくなった」だってそうですし、これこそがクリスティーのテクニックだとも思うのですが。一部の状況しか知らない探偵役が謎解きしたことについても指摘していますが、これには納得です。

No.2 5点 江守森江 2010/09/13 05:00
クリスティ生誕120周年月間でAXNミステリー(CS放送)では、フランス・アレンジ作品が特集で組まれている。
ポワロ・マープル・ノンシリーズに拘らず作品をチョイスし独自な警察キャラでシリーズ化している。
ドラマを観て、おさらいして来たがアレンジの強烈さは、英・仏の国民性の違いが鮮明に出ていてセットで楽しめた。
もっともミステリーとしては水準レベルで冤罪テーマな重い原作よりコミカルなフランス版ドラマの方が取っつき易い(ドラマを観なければ原作はスルーした儘だっただろう)

No.1 7点 kanamori 2010/06/15 21:58
冤罪がテーマのノン・シリーズ長編ミステリ。
慈善家の老婦人殺しの罪で逮捕され獄中死した養子ジャッコの冤罪疑惑を巡る物語。
本書は著者自身が好きな作品の一つに挙げているようですが、一般的な人気はさほどないようです。テーマが重たく物語が暗いトーンに覆われていることと、シリーズ探偵が出てこない点が理由じゃないかと思います。
クリステイを読むのは約20年ぶりなので、思ったより新鮮な感じを受けました。犯人の設定方法は女史の得意のパターンなんですが、普通に面白かったですね。


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