皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
[ 本格 ] ポアロ登場 エルキュール・ポアロ |
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アガサ・クリスティー | 出版月: 1959年01月 | 平均: 4.83点 | 書評数: 12件 |
早川書房 1959年01月 |
早川書房 1978年04月 |
早川書房 2004年07月 |
No.12 | 3点 | レッドキング | 2022/03/22 22:07 |
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アガサ・クリスティー第一短編集。 「ヘイスティングス、探偵ポアロを語る」てな・・
「"西洋の星"盗難事件」 大女優と貴婦人が持つ双子宝石の二重盗難・・これも双子ネタと言えるかな・・4点。 「マースドン荘の悲劇」 破産した初老資産家の急死と若き未亡人、直前加入の生命保険を巡る自殺疑惑が・・3点。 「安アパート事件」 ん、ワケあり物件? てほどに安い賃料のアパートの、そのワケは・・3点。 「狩人荘の怪事件」 遺産相続射殺事件の容疑者には完全なアリバイが・・そのトリックや如何に・・4点。 「百万ドル債権盗難事件」 航行船という密室からの債権消失・・そのトリックや如何に・・4点。 「エジプト墳墓の謎」 ピラミッド遺物発掘にともなう「呪い」の連続死の真相は・・2点。 「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」 真珠首飾り盗難の不可能時間トリック・・6点。 「首相誘拐事件」 国際会議の為に渡仏して誘拐された英首相の行方は・・2点。 「ミスターダヴンハイムの失踪」 別荘から失踪した銀行家の行方やいずこ・・ホームズ物やね。3点。 「イタリア貴族殺害事件」 残された料理と開いていたカーテンのロジックによる殺人偽装トリック解明。4点。 「謎の遺言書」 叔父から姪へ残された遺言書捜しゲーム。気の利いた落し噺エンド。3点。 「ヴェールをかけた女」 ん、ホームズ「C.A.ミルヴァートン」?・・からのツィスト。3点。 「消えた廃坑」 鉱山重要書類を持った中国人殺害の犯人Who 2点。 「チョコレートの箱」 ポアロ失敗譚の昔語り。2点。 第七編の見取図付き半密室トリックが見所。で、(4+3+3+4+4+2+6+2+3+4+3+3+2+2)÷14=3.214…平均3点 |
No.11 | 5点 | 斎藤警部 | 2020/07/25 20:50 |
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「すぐにこの問題を僕に任せたことによって、機転が利くということと、女性が高等教育を受けることの価値を証明したんだからね。」
国際色豊か、冒険味も目立つ、第一短篇集。 コージーな風合いも強く、時々あくびが出るが、軽い気分で試せるミステリ入門書として悪くないかも。 「素人はなんて馬鹿なことをするんだろう。」 いちばん思い入れあるのは『消えた廃坑』。 『チョコレートの箱』で締めるのと、そのエンディングがニクい。 ※弾十六さんの註釈を味わうために再読してみました。 |
No.10 | 5点 | 弾十六 | 2020/02/16 01:20 |
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英版1924年、米版1925年出版、三篇追加。(下の(12)〜(14)※付きのもの) 早川クリスティー文庫は14篇収録の米版によるもの。
もともとはSketch誌に1923年に発表したポアロシリーズ12篇×2回とSketch誌の増刊号的なMagpie1923年クリスマス号に収録の1篇で、この年にアガサさんはポアロもの25篇を発表しています。クリスティー文庫では残りの11篇中9篇を『教会で死んだ男』に、1篇ずつを『愛の探偵たち』(「ジョニー・ウェイバリーの冒険」Grey Cellシリーズ2第3話)と『マン島の黄金』(「クリスマスの冒険」Grey Cellシリーズ2第12話、中篇「クリスマス・プディングの冒険」1960の元)に収録。ポアロとヘイスティングズの会話は、同文庫の『スタイルズ荘』や『ゴルフ場』みたいにバカ丁寧であるべき、と思うので、会話の調子を訳し直して発表順に整理したポアロ・シリーズを刊行して欲しいですね。 アイディアが閃いたから書いてみました、という感じなので、続けて読むと単調に感じるでしょう。一作ずつ、合間に読むくらいがちょうど良い。まだまだ工夫不足なアガサさんなのは否めません。 順番はSketch掲載順に再構成しています。カッコつき数字は単行本収録順。英語タイトルは初出時のものを優先しました。 ⑺グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件 The Grey Cells of M. Poirot II. The Curious Disappearance of the Opalsen Pearls (初出Sketch 1923-3-14) 単行本タイトルThe Jewel Robbery at the Grand Metropolitan: 評価5点 単純な話。でも現場の見取り図があってアガサさんの張り切りぶりが伝わります。 p1819 超過利得税(E.P.D.): Excess Profit Duty 英国では戦費を賄うため1915年から企業の“超過利益”の50%に課税した。1921年廃止。 p1899 両袖のドレッシング・テーブル(the knee-hole dressingtable): 上に鏡を置いて座って化粧など出来そうな机。日本語では「化粧台、ドレッサー」か。 --- TVドラマのスーシェ版(1994, 5期8話)では色々ふくらましてるけど問題なし。Lucky LenはJDCのラジオ・ドラマ「白虎の通路」(『ヴァンパイアの塔』収録)の“頰ひげウィリー”と同じ企画なのかも。どっちもブライトンが舞台だし… 桟橋はブライトンのではなくEastbourne Pier(2014の火災で大半を焼失) 、昔の競馬場の風景が良い。 (2020-2-16記載) ⑼ミスタ・ダヴンハイムの失踪 The Grey Cells of M. Poirot IV. The Disappearance of Mr. Davenheim (初出Sketch 1923-3-28): 評価5点 上手にまとめた話。蒸発の三つのカテゴリーは後年の自分の失踪を予言してるような… p2505 賭けよう…五ポンド(Bet you a fiver): 英国消費者物価指数基準1923/2020(60.87倍)で43180円。ポアロは「イギリス人の大好きな遊び(the passion of you English)」と評しています。 p2513 背の高い浅黒い顔の男(a tall, dark man): 「黒髪の」 --- TVドラマのスーシェ版(1991, 2期5話)では奇術、自動車レース、鸚鵡を追加。昔のレース映像や古いレースカーが沢山登場します。スーシェがみせる手品の手際はなかなかのもの。 (2020-2-16記載) ⑴<西洋の星>盗難事件 The Grey Cells of M. Poirot VI. The Adventure of the Western Star (初出Sketch 1923-4-11): 評価4点 ヘイスティングズの空回り。怪しい中国人が出てくるのが如何にもな感じ。以前の話を引き合いに出すのは作者が疲れてきた証拠、と思ってます… p37 映画スター: 時代はまだサイレントの頃。当時のハリウッドの有名女優ならLillian Gish, Mary Pickford, Gloria Swanson, Marion Daviesなど。 p45 ヴァレリー・サンクレア: シリーズ第三話「クラブのキング」事件に登場。 p68 五万ポンドという巨額の保険: 4億3千万円。保険の金額で物事の価値をあらわすようになったのはいつ頃からだろう… p68 クロンショウ卿: シリーズ第一話「戦勝舞踏会」事件に登場。 p176 こう見えても私にだって探偵のセンスはかなりある: 自信を持ってこのセリフが言えるヘイスティングズが素晴らしすぎる。 p200 メアリ・キャヴァンディッシュ: 『スタイルズ荘』に登場。 p208 貴族名鑑(Peerage): Burke’s Peerageは1826年創刊の英国貴族の人名禄。1839から1940までほぼ毎年改訂された。 p463 女というやつは手紙を破り捨てたりはしない(never does a woman destroy a letter): これは真理だと思います… (2020-2-17記載) TVドラマのスーシェ版(1990, 2期9話)は上手な脚色で付加部分も納得の出来栄え。演者もみんなそれっぽくて良い。傑作です。 (2020-2-23追記) ⑵マースドン荘の悲劇 The Grey Cells of M. Poirot VII. The Tragedy at Marsdon Manor (初出Sketch 1923-4-18): 評価4点 まとまりの悪い話。ポアロの考え方が散漫な感じ。言葉の連想テストは1928年にはもう既にヴァン・ダインが陳腐と言っています。当時、アガサさんは銃に全く詳しくなかったのでしょう。扱いが雑すぎです。 p519 クリスチャン・サイエンス(a Christian Scientist): 今まで調べたことはなかったのですが、起源は結構古いのですね。米国ボストンのMary Baker Eddy(1821-1910)により1879年創設。 p558 カラス撃ちの小型ライフル(his little rook rifle)… 二発撃っていますね(Two shots fired): root rifleという銃は単発が多いらしいが、ここでは2発撃てるライフルのようだ。通常のライフルより軽量で小さく、全長1メートルくらいが普通か。 (2020-2-19記載) TVドラマのスーシェ版(1992, 3期6話)は、流石に銃の扱い方を変更。原作通り軽そうな単銃身のrook rifleが登場してました。脚本で追加された教会でのガスマスク訓練風景が興味深い。敵国の毒ガス爆撃に備えた訓練だと思うが、各地で行っていたのだろうか。 (2020-2-24記載) ⑻首相誘拐事件 The Grey Cells of M. Poirot VIII. The Kidnapped Prime Minister (初出Sketch 1923-4-25): 評価4点 何だか切実感のない、盛り上がらない話。状況も変テコ、解決も唐突です。 p2099 除隊になり、徴兵事務の仕事を与えられていた:『スタイルズ荘』以降のヘイスティングズの状況。 p2106 イギリス首相: 当時の現実の首相はDavid Lloyd George(在任1916-12-6〜1922-10-19) p2114 日雇いのお手伝いさん(charlady): charwomanが普通か。 p2325 船酔い(mal de mer): お馴染みの描写だが、作者が初めて書いてる感じ。本作は『ゴルフ場』(初出1922年12月号から連載)より先に書いたのかも。 (2020-2-20記載) TVドラマのスーシェ版(1991, 2期8話)はロケが素晴らしい映像。銃も沢山出て来ます。(SMLE Mk III小銃とパラベラムP08拳銃) 画面ではポアロの電話番号はTrafalgar 8317でした。 (2020-2-29記載) ⑸百万ドル債券盗難事件 The Grey Cells of M. Poirot IX. The Million Dollar Bond Robbery (初出Sketch 1923-5-2): 評価5点 中途半端な謎。捻りも少ない。 p1277 最近はなんて債券の盗難が多いんだ!(What a number of bond robberies there have been lately!): 実際にそうだったのか。 p1277 自由公債百万ドル分(the million dollars’ worth of Liberty Bonds): 米国消費者物価指数基準1923/2020(15.09倍)で16億円。Liberty bondは第一次大戦の連合国支援のために米国で販売された戦債のこと。 p1316 チェシャー・チーズ: 17世紀からの歴史あるパブYe Olde Cheshire Cheeseのことか。 (2020-2-20記載) TVドラマのスーシェ版(1991, 3期3話)はポワロの船旅を追加。なかなか上手な脚本。冒頭に多勢の英国人が傘を使うシーン。降ってればやはり使うのね。RMS Queen Mary号の記録映像は1936年5月27日処女航海の時のもののようです。 (2020-3-7記載) ⑶安アパート事件 The Grey Cells of M. Poirot X. The Adventure of the Cheap Flat (初出Sketch 1923-5-9): 評価5点 こーゆー日常の謎だと筆のノリが違います。冒頭の流れは実に良いんですが… 途中で失速し、ぎこちない話になって幕。 p759 年に80ポンド: 69万円。月額57573円。「ただみたいに安い家賃」本当の家賃は350ポンド(=302万円、月額25万円)。 p759 権利金(premium): 貸しアパートのプレミアム。英国にも礼金みたいなのがあったのか。どのような仕組みなのかよくわかりません。 p759 備え付けの家具は買い取り(buy the furniture)… 50ポンド: 43万円。家具備え付け、というのもピンと来ない外国の風習。家具も貸す場合は家賃が高くなるようだ。 p767 幽霊屋敷の話など、聞いたことがありません(Never heard of a haunted flat): 由緒あるお屋敷や城ならともかく幽霊付き「フラット」なんてあるもんか… という意味では? p822 例によって、きみは赤毛がお気に入り(Always you have had a penchant for auburn hair!): ヘイスティングズの好みを揶揄うポアロ。『スタイルズ荘』のシンシア・マードックがauburn hairの持ち主。 p829 浅黒い肌なのか、色白か?(Dark or fair?): 「黒髪か金髪か?」 p852 週に十ギニー(at ten guineas a week): 9万円、月額39万円。p759の本当の家賃と比べてもかなり高い家賃なので、ヘイスティングズが反対したのだろう。 p859 レヴォルヴァー: ヘイスティングズの銃は初登場のような気がする。 p867 石炭を引き上げる荷台(the coal-lift): 石炭用のエレベーターですね。p907では正しく「石炭用のリフト」と訳してるのに… 人力でロープを引っ張って動かすようだ。 (2020-2-20記載) TVドラマのスーシェ版(1991, 2期7話)は米国ナイトクラブも出てくる楽しい話。石炭用エレベーターは残念ながらゴミ収集用の裏口に変わってました。家賃は何故か週6ギニー(物価1935/2020で月額28万円)に値下げ。画面の物件的にその程度の感じなのか。 冒頭の米国白黒映画はキャグニー主演のG Men(1935)、ヘイスティングズの銃はWebley "WG" Army Model、悪党の銃はSmith & Wesson Safety Hammerless、FBIの銃はColtっぽい。劇中歌Sugar(That Sugar Baby o' Mine)はMaceo Pinkard, Edna Alexander, Sidney D. Mitchell作の1926年の曲、そしてIf I Had YouはTed Shapiro, Irving King(Jimmy Campbell & Reg Connelly)作の1928年の曲。 (2020-3-7記載) ⑷狩人荘の怪事件 The Grey Cells of M. Poirot XI. The Mystery of Hunter’s Lodge (初出Sketch 1923-5-16): 評価5点 ポアロによる遠隔捜査という状況設定が面白い。ドラマ版が見てみたくなるトリック。 p1024 インフルエンザ(influenza): 1918年〜1919年の「スペイン風邪」が初のインフルエンザ・パンデミック。 p1155 フル・ロードの状態(fully loaded): 弾丸が全て装填されている状態。そんな保管方法は銃器室を持っているようなガンマニアならあり得ない状況だと思う。(当時は安全機構が不十分だったので、落としたら暴発する可能性もある) p1172 同型のレヴォルヴァーから発射された(fired from a revolver identical with the one): 線条痕による銃の特定は1925年以降の鑑識技術。 p1235 そんな人物(sech person): ディケンズからの引用。Martin Chuzzlewit(1844)第49章、Mrs. PrigとMrs. Gampの会話。Mrs. Prigはsich a personと言い、Mrs. Gampはsech a personと言っています。 (2020-2-20記載) TVドラマのスーシェ版(1992, 3期11話)は狩の風景を追加。列車のシーンも良い感じ。銃の取り扱いは大幅に変更してマトモになり、M1911が登場。トリックは頑張って忠実にやってましたが、やっぱり変テコな仕上がり。 (2020-3-8記載) (14)※チョコレートの箱 The Grey Cells of M. Poirot XII. The Clue of the Chocolate Box (初出Sketch 1923-5-23): 評価6点 なんだか楽しい。いわゆるノウブリもの。ポアロの雑誌連載12回シリーズの最後を締めくくるのにふさわしい。評判が良かったようで4カ月後にさらに12篇が連載されることになります。 (2020-2-23記載) TVドラマのスーシェ版(1994, 5期6話)はジャップとベルギーに帰るポアロ、過去の事件を語る、というストーリー。1910年ごろの馬車が走ってる時代の風景が良い。残念ながら、ほろ苦い話の脈絡が上手くいっていない感じです。ベルギーの話だから名物のチョコレートというアガサさんの発想だったのかも… (2020-3-9記載) ⑹エジプト墳墓の謎 The Grey Cells of M. Poirot, Series II I. The Adventure of the Egyptian Tomb (初出Sketch 1923-9-23): 評価4点 第2シリーズの幕開けは、作者が後年大好きになる中東の発掘現場が舞台。Lord Carnarvonの死(1923-4-5)による「ツタンカーメンの呪い」騒ぎが発想のタネ。この作品発表までの関係者の死はGeorge Jay Gould(米国の富豪。風邪で1923-5-16死亡)とAli Fahmy Bey(エジプトのprince。1923-7-10に妻に撃ち殺された)の二人で、概ね物語と照応している。Aubrey Herbert(カーナヴォンの異母兄弟。歯科治療中の血液中毒で死亡)は雑誌発売後の1923年9月26日。 なおSketch誌編集長Bruce Ingram(ポアロ好きでこのシリーズの依頼主)はHoward Carterの友人で、1925年に発掘品の文鎮を贈られたが、直後に家が火事になり、再建後の家も洪水被害にあう、という因縁が… 本作自体は、他愛もない内容。ラクダのくだりはアガサさんの娘時代に母とエジプトに行った時の思い出か。 (2020-2-23記載) TVドラマのスーシェ版(1993, 5期1話)ではラクダのくだりはカット。ミス・レモンとヘイスティングズがやってたのはPlanchette。1853年の発明らしい。銃はCompact top-break revolver(メーカー不詳)とWebley .38 Mk IVとのこと。探偵ドラマとしては原作同様、安直な作り。 (2020-3-10記載) (12)※ヴェールをかけた女 The Grey Cells of M. Poirot, Series II II. The Case of the Veiled Lady (初出Sketch 1923-10-23) 単行本タイトルThe Veiled Lady: 評価6点 完全に作者が遊んでいますが、悪い気はしません。ドラマ映えしそうな話。 p3139 チャー(Tchah!): ポアロがよく使う感嘆詞、と書いてるが、ここだけの設定のような気がする。(2020-3-7追記: 1923年掲載のポアロものではここにしか出てきません) p3187 薄汚い下衆野郎め!(The dirty swine!)… これは失礼しました(I beg your pardon): 汚い言葉を女性の前で使って謝るヘイスティングズ。 p3194 二万ポンド… 一千ポンド: 1億7千万円と860万円。 (2020-2-23記載) TVドラマのスーシェ版(1990, 2期2話)もかなり羽目を外して遊んでる感じ。ヴェールで顔がよく見えない、というのだが、画面で見ると結構識別出来る… あんな風に顔を覆ってると逆に目立つと思う。 (2020-3-11記載) (10)イタリア貴族殺害事件 The Grey Cells of M. Poirot, Series II V. The Adventure of the Italian Nobleman (初出Sketch 1923-10-24): 評価5点 コンパクトにまとまった話。アパートの最新設備って食堂用リフトのことだったのね。地下に調理場があって電話で発注出来る仕組み。便利ですね… p2769 執事のグレイヴズ(Graves, valet-butler): バークリーの法則の実例がここにも。 p2903 ゴータ年鑑(Almanach de Gotha): 独語Gothaischer Hofkalender、ヨーロッパの貴人の人名録。初版は1763年、チューリンゲン地方ゴータのC. W. Ettingerによる。1785年以降はJustus Perthes出版が毎年発行(1944年まで)。1945年にソ連軍が文書庫を破壊した。 (2020-2-29記載) TVドラマのスーシェ版(1994, 5期5話)はヘイスティングズのスポーツ・カーAlfa Romeo 2900AとVauxhall Light Sixとのカーチェイスが見もの。他にイタリア式ウェディングが追加。ミス・レモンの活躍回。 (2020-3-14記載) (11)謎の遺言書 The Grey Cells of M. Poirot, Series II VI. The Case of the Missing Will (初出Sketch 1923-10-31): 評価5点 宝探しゲームは楽しいですね。 p2960 いわゆる“新しい女性”(New Woman): ヘイスティングズは賛成じゃない。 (2020-2-29記載) TVドラマのスーシェ版(1994, 5期4話)はかなり改変が多くて、殺人まで発生。そんなに重くしなくても良いのに… 大学の非公式の女学生卒業式のシーンが貴重。セイヤーズさんの卒業もあんな感じだったのだろうか。 (2020-3-20記載) (13)※消えた廃坑 The Grey Cells of M. Poirot, Series II IX. The Lost Mine (初出Sketch 1923-11-21): 評価4点 けっこう付き合いの良いポアロ。 p3337 四百四十四ポンド四シリング四ペンス: 384万円。ポアロの銀行残高。 p3358 きみの大好きな金褐色の髪の美女(auburn hair that so excites you always): ヘイスティングズを揶揄うポアロ。『スタイルズ荘』のシンシア・マードックがauburn hairの持ち主。auburn hair beautyで検索すると、みんな赤毛ちゃんですね… p822『安アパート』では「赤毛」と訳してる。 (2020-3-7記載) TVドラマのスーシェ版(1990, 2期3話)は上手く原作を再構成して納得のゆく物語に仕上げています。1935年8月の事件という設定。ボードゲームのモノポリーが全編にわたって出てきますが1935年2月からパーカー兄弟が販売してるので時代考証は間違いありません。ジャップ警部ご自慢の最新式警察司令室は、流石にフィクションだと思います。 (2020-3-20記載) |
No.9 | 3点 | 虫暮部 | 2019/11/14 10:41 |
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この中の一編が雑誌に混ざっていたなら、枯れ木も山の賑わいと言えないこともない(誤用ではない)。しかしこうして一冊にまとめて枯れ木だらけの山にしちゃうと……面白い部分が皆無と言うわけではないが、これがいいねとタイトルを挙げるほどのものは見当たらなかった。 |
No.8 | 6点 | mediocrity | 2019/11/14 05:51 |
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初期のポワロもの、短編11作
Part1 The Adventure of ‘The Western Star' 序盤のポワロの小さな推理はシャロークホームズで読んだ描写そっくりだ。この宝石盗難事件は謎も解決もよく出来ていると思う。 それにしてもポワロはいやなやつだ。最後10行くらい、大尉の内なる怒りが爆発しているがよく理解できる。 Part2 The Tragedy at Marsdon Manor 多額の保険金がかかっている旦那が死んだが、果たして他殺か自殺か?これはいまいち。冗談半分でも最後、旦那があんな危ない真似をするかな?子供じゃあるまいし。 Part3 The Adventure of the Cheap Flat 訳ありの安すぎる物件の謎を解く話。パターン的にはありがちな話だけど、アクロバティックで面白い。 Part4 The Mystery of Hunter's Lodge 論理的に考えればそれしかないという結論に落ち着く。ホームズの犯人も同じことをよくやっていたが、バレるだろ、というのは禁句なのかな。 Part5 The Million Dollar Bond Robbery これは犯人も見え見えだし、トリックもつまらなかった。 Part6 The Adventure of the Egyptian Tomb 自分からエジプト行きを提案したのに、砂や気候に腹を立てて、スフィンクスにまで突っ込みを入れるポワロさんの反応が楽しい。謎解きはそれほどでもないか。 Part7 The Jewel Robbery at the Grand Metropolitan わかってみればものすごくシンプル。シンプルすぎてわからなかった。 Part8 The Kidnapped Prime Minsiter 首相の監禁場所は意外というほどではなかったが、話自体は楽しい。 Part9 The Disappearance of Mr Davenheim なんだか読んだことがあるような話に感じた。たぶんホームズの何かの話に似てるのだと思う。 Part10 The Adventure of the Italian Nobleman 短いが内容が詰まっていて面白かった。季節と時間の感覚が日本人には分かりにくい。 Part11 The Case of the MIssing Will これはしょぼい。しょぼいだけに、見抜けなかったポワロさんが珍しく自虐的。3倍じゃなくて36倍馬鹿だったという36という数字には何か意味があるのだろうか? 全体としては、謎解きはそれほどでもない物も多かったが、ポワロとヘイスティングの掛け合いは長編以上にバリエーションにあふれていて楽しかった。 |
No.7 | 6点 | nukkam | 2016/09/03 02:10 |
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(ネタバレなしです) クリスティーは長編だけでなく短編もかなりの量を書いています。本書はエルキュール・ポアロシリーズ初期の短編が収められていて、完成度としては粗削りの感は否めませんがいくつかのプロットやトリックは後年の作品に流用されており、彼女のミステリーの原点を感じることができます。英版が1924年に11短編収録されて出版され(創元推理文庫版の「ポワロの事件簿1」が英版)、翌1925年に3短編を追加収録して14作収めた米版が出版されました(ハヤカワ文庫版が米版。私が読んだのはこちら)。収録作品で個人的に気に入っているのは意外性の高い「ダヴンハイム失踪事件」と神秘的な雰囲気と珍しいトリックが印象的な「エジプト王の墳墓の事件」です。 |
No.6 | 2点 | クリスティ再読 | 2016/03/22 23:05 |
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クリスティの長編ミステリは全部評を書いたけど、もうちっとだけ続くんじゃよ。それでも短編集は書きたいのが2つばかりあるし...だったら非ミステリ長編小説とか戯曲とかもやろうと思う。そうすると初読も少しあるし。
というわけで本短編集。ホームズ好きなんだね..がまずの印象。けどホームズって今の時点で読むと、今風のミステリの作法からハズレている部分の方が魅力的(フェアプレイ無視で未知の犯人を釣り上げるとか)だと評者は思うわけで、その点フェアプレイに束縛されている本作は真相の範囲が狭いのでオドロキがないなぁ。短編だとドラマのふくらみがないから、真相解明がタダの「入れておいたものを出しました」にしかなってないし。 あと本作の悪い点としては、政治がらみの事件に出てくるクリスティの政治上の立場(あまり真に受けるのはヤボだが)が、極めて好戦愛国主義的でしかもお宗旨が絡んでそうなあたり。そういえばクリスティって牧師が犯人ってなかった気がするんだけどね(悪党が牧師に変装するのはあるがね)。 |
No.5 | 4点 | mini | 2014/09/25 09:56 |
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本日25日発売の早川ミステリマガジン11月号の特集は、”さようなら、こんにちはポアロ”
ドラマ版ポアロシリーズのラストシーズン放映に関する連動企画が中心 小説版企画では、「死者のあやまち」の元となった中編の掲載も有るが、目玉は近々刊行予定のソフィー・ハナ作「モノグラム殺人事件」の一部掲載、これは本家クリスティーがもう書く事が出来ない今、クリスティー社公認のポアロシリーズの正統後継作なのである さらに各評論家作家によるポアロ登場作品ベスト3アンケートの実施や、クリスティーファンの第一人者である数藤康雄氏による久々のコラムなども有り、特にドラマ版ポアロのファンには見逃せない号だろう アンケート結果だが、何で「そして誰もいなくなった」が1位じゃないの?みたいなアホな突っ込みはしないようにね さてそうなると私の書評もポアロ連動企画となるわけだが、当サイトのアイスコーヒーさんと企画が被っちゃった(苦笑)申し訳ないで~す 『ポアロ登場』(1924)はポアロものの第1短編集だが、じゃぁ第2短編集がすぐ書かれたわけじゃないのだよな、短編集だけを整理すると『ポアロ登場』の後は 『おしどり探偵』 (トミー&タペンス、1929) 『謎のクィン氏』 (1930) 『火曜クラブ』 (ミス・マープル、1932) 『死の猟犬』 (ホラー短編集、1933) 『リスタデール卿の謎』 (ノンシリーズ、1934) 『パーカー・パイン登場』 (1934) 『死人の鏡』 (ポアロものだが中編集、1937) 『黄色いアイリス』 (オムニバス、1939 米版のみ) 『ヘラクレスの冒険』 (ポアロ、1947) 『死人の鏡』は完全な中編集なので本格的なポアロものの短編集は戦後まで無いのだ、意外と皆様知らなかったでしょ こう見ると、初期のクリスティーは色々な探偵役を試していた感が有るんだよね、そしてポアロの造形もまだ後の長編諸作とは違い口調が軽薄(笑) 出版エージェントからの依頼の可能性も有るが、書かれた時期がまだホームズのライバルたちが跋扈していた時代だけに完全にホームズコピーなんだよね ただ真相や展開に後のクリスティを思わせるキラりとした面も感じさせるのは流石 しかしながら軽妙さばかりが目立ち、後の作に見られる人生の陰影が全く感じられないのは、初期の限界を感じさせてしまう 収録短編だが、固定化した舞台設定が嫌いな私としては「グランドメトロポリタン」みたいなものよりも、「百万ドル債権」とか「総理大臣の失踪」みたいな舞台が移動する作の方が好み |
No.4 | 6点 | アイス・コーヒー | 2014/09/20 22:00 |
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テレビドラマのポワロシリーズがついにファイナルシーズンに入ったので記念にエルキュール・ポアロ第一短編集を読了。ヘイスティングスとポアロが出会う十四の謎が登場する。
暫く読んでいなかったために忘れていたが、ポアロは本当に鼻につく探偵であることが再確認できた。自惚れやで潔癖症というキャラクター造形は実によく出来ている。(その性格の悪さにクリスティーですら嫌気がさすほどとは…。) 一方、事件の方はあまり捻りがなく地味な内容。「グランド・メトロポリタン」は一種の密室トリックでこれが一番面白かった。伏線を回収しつつ、不可能犯罪を可能にする演出が見事。ただ、目新しい内容ではない。 「〈西洋の星〉盗難事件」や「百万ドル債権盗難事件」、「謎の遺言書」は心理トリックの典型例。 「エジプト墳墓の謎」はポアロたちがミイラの呪いを追ってエジプトまで行く、というスケールの大きい内容だが、これまたトリックは使い古されたものなので純粋にストーリーを楽しむのが賢い読み方だろう。 ポアロ、ベルギー時代の失敗が描かれる「チョコレートの箱」も発想としては面白かった。ドラマ版のように、もう少し過去を掘り下げても良かったとは思うけど…。 |
No.3 | 6点 | E-BANKER | 2012/05/27 21:50 |
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初期のポワロ登場作品をまとめた作品集。
全ての作品が、良き相棒であるヘイスティング氏とのコンビ。ポワロが自慢の灰色の脳細胞を使って事件を解く! ①「<西洋の星>盗難事件」=対になる2つの宝石「西洋の星」と「東洋の星」。そこにはある人物の謀略があった・・・ ②「マースドン荘の悲劇」=本作では美女にまんまと騙されるヘイスティングをポワロがからかう、というプロットが多用されているが、本編もそう。 ③「安アパート事件」=相場より大幅に格安な賃料のアパートは・・・やっぱり「ウラ」があった。 ④「狩人荘の怪事件」=これは古典的な短編作品なんかでよく使われる「仕掛け」だが・・・普通に考えればムリがある。 ⑤「百万ドル債券盗難事件」=短い作品には、こういう小粋なトリックがよく似合うという見本。 ⑥「エジプト墳墓の謎」=本編の舞台はエジプト。「海を越える」ことを極端に嫌がるポワロが微笑ましい。プロット自体は小粒。 ⑦「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」=登場人物自体にトリックが仕掛けられている・・・これも本作に多用されている。 ⑧「首相誘拐事件」=英仏間にまたがる首相の誘拐事件をポワロが請け負う。でも、この程度で誘拐されてしまう首相って・・・? ⑨「ミスタ・ダヴンハイムの失踪」=失踪そのものの謎解きはともかく、その後の隠れ家に関するポワロの推理・・・まぁ、よくある趣向ではあるが、これを実践する犯罪者っているかぁ? ⑩「イタリア貴族殺害事件」=これも登場人物そのものに「仕掛け」があるパターン。 ⑪「謎の遺言書」=おじから財産を譲渡されるはずの「遺言書」にはある仕掛けが・・・かなりしょぼい。 ⑫「ヴェールをかけた女」=本作の特徴:『美女は基本的に信用するな!』 本編もそう。 ⑬「消えた廃坑」=西洋人にとって、中国人はやっぱり謎の人々っていうことなんだろうな。 ⑭「チョコレートの箱」=ポワロがベルギーで警察官だった時代の失敗談というのが珍しい。チョコレートの入れ物とふたの色が異なっている理由が面白い。 以上14編。 何だか、ホームズ物の作品集を読んでいるような感覚だった。 ポワロ-ヘイスティングのコンビは、そのままホームズ-ワトスンの名コンビそのままの雰囲気。 でも、それだけ古臭さは感じるし、長編有名作品のような絶妙なミスリードや伏線といった技巧はなく、謎の提示から一足飛びに解決まで行ってしまうのがちょっと物足りない。 プロットも単純なものが多いので、やっぱり純粋なクリスティファンの方なら、長編を先に読む方をお勧めします。 (特にコレっていうお勧めはないなぁ・・・) |
No.2 | 6点 | 江守森江 | 2011/02/14 04:53 |
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今日はバレンタインデー、チョコレート絡みで書評してない乙一や「インディゴ」シリーズは読む気にならなかった。
そこでポアロの失敗譚が描かれた「チョコレートの箱」が思い出され、収録された本書を図書館で読んで来た。 各話短く、しかもスーシェ版ドラマやNHKで放送したアニメで観た話なので結局おさらい読書になった。 各話の分量を考えるとスーシェ版ドラマの方が楽しみは大きいと思う。 スーシェはポアロになりきるために原作を読み込んだらしいので自分もスーシェになった気分で本書を読めばより楽しいだろう。 ※以下バレンタインの余談 嫁は中国人ハーフ(トリリンガル)で、広州・シンガポールを経て来日したので、私と知り合って最初の情人節(バレンタインデー)では「アナタがプレゼントと愛の囁きを持って来ると思い家で待ちぼうけした」と後日痴話喧嘩の際に愚痴った。 それを踏まえ私は、翌年の情人節に指輪とプロポーズの言葉を携え嫁の家に向かった・・・・・・・・そして、今に至っている。 あれから十ウン年・・・・・嫁も日本人化して今年は私の好きなサンクスの「デカチョコプリン」と「チョコ餅」をセットでくれるらしい(←これって本命チョコなの?) 息子と一緒に中学受験の面倒をみている息子の彼女も今年は義理チョコをくれるらしい(将来そのまま家の嫁になってしまうのだろうか?当人同士と嫁同士には既定路線らしい) |
No.1 | 6点 | 空 | 2010/02/28 08:46 |
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第2長編「ゴルフ場殺人事件」と同じ頃書かれていた14作品を集めた短編集で、すべてヘイスティングズの一人称形式です。
あと数ページ長くした方がよかったんじゃないか、と思われるような作品が特に前半かなりあると思いました。解決の意外性はだいたいクリスティーらしくきれいに決まっているのですが、推理に至る流れがあわただしく感じられ、アイディア自体よりそのまとめ方が若干弱いのです。 『エジプト墳墓の謎』では後年の『ナイルに死す』と違い、船に弱いポアロがエジプト旅行でさんざんな目にあうところが笑えました。ただしこの作品、謎解き的にはたいしたことはありません。 最後のポアロがベルギー時代の失敗談を語る『チョコレートの箱』は、たぶんこのタイプの手がかりの初めての例ではないでしょうか。最初読んだ時には感心したものでした。他には『〈西部の星〉盗難事件』『総理大臣の失踪』あたりがよくできていると思います。 |