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[ その他 ] 愛の旋律 メアリ・ウェストマコット名義 |
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アガサ・クリスティー | 出版月: 1975年01月 | 平均: 5.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1975年01月 |
早川書房 1975年10月 |
No.1 | 5点 | クリスティ再読 | 2016/07/19 22:21 |
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クリスティの登場人物というと、表層と真相のダブルミーニングからくる作品的な「仕様」によって、アクションがかなり厳格にコントロールされているあたりが大きな特徴でもあり制限でもあるわけだが、初期を中心にたまにはキャラだけ作って行き当たりばったりな活動をすることもないわけではないようだ。ミステリだと「チムニーズ館」とか「牧師館の殺人」とかそういう「ゆるさ」を感じるんだが、本作は非ミステリでウェストマコットでは評者初遭遇のそういう感じのもの。なので、めまぐるしく起きる事件に行き当たりばったりに登場人物が反応しているような小説である。伏線を敷いてるくせにあえてぶった切るような突発事件が連続するので読んでて?となることが多い。当初ヒロインかな、と思われたジョーが早々とフェイドアウトして、サブヒロイン型のネルが結局メインヒロインになり、あとで投入されたっぽいジェーンは結局ネルに少しも勝ててない....で、問題は勝者のネルがどっちかいうとクリスティがイライラした書き方をしがちな他人依存型のキャラであり、女性の嫌らしさ満開なタイプであることだね。
でしかも、ヒーローであるヴァーノンが魅力薄。あれもこれも欲しがるタイプだ、とジェーンに非難されるがその通り。天才作曲家にちょいと見えない....まあそれでもジャーナリスティックではあるが、1920年代あたりの音楽状況はわりと押さえれてはいるようだ。要するにショスタコの交響曲2番みたいなものでしょう、冒頭のアレは。けど、オペラみたいなものにしてしまうと、バレエリュスの二番煎じで、フランス6人組+バレエ・スエドくらいでモダンだけどちょっとお安い感じになるのはどうしようもないね。「かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう」の罠にかかっている。 ウェストマコットの6作でも正直言って一番期待してなかった作品なのでいいんだが、まあ駄作の部類。マイヤーホルトって誰だよ(苦笑)。あ、あといいとこはネルの赤十字見習い看護婦奉仕の描写が、クリスティ実体験に即していて面白い。けどこれがあるからネルへの矛先が鈍ったのかもね。 |